(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気体及び液体をそれぞれ吸引する手段と、前記気体及び前記液体を同時に加圧して搬送する手段と、該搬送された気体を含む前記液体を新たなオゾンと混合させることによって溶存酸素を富化させるための気液混合槽と、該気液混合槽において気液混合の状態にある溶存液を用いてナノバブルを発生させるために、空洞の筒、該筒の周方向に2以上の貫通小穴のそれぞれの開口部が前記筒の径方向断面と平行な同一平面上で対向するように配置された前記2以上の貫通小穴、及び前記筒の少なくとも片端部にナノバブル吐出口を有し、前記貫通小穴は該貫通小穴の断面中心部を通る延長線のすべてが前記筒の中心で交差するように配置される噴射ノズルと、を備えるナノバブル発生手段によって前記オゾンナノバブルを発生させることを特徴とする請求項4又は5に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法。
前記貫通小穴は、前記筒の径方向断面と平行な同一平面上で対向するように、前記筒の周方向等間隔に4個以上8個以内で設けられ、前記筒の空洞に通じる部分の孔径が0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法。
前記オゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体を100mlとするとき、前記オゾンナノバブルを含む水溶液の配合量が1体積%以上であることを特徴とする請求項9又は10に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液。
前記オゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体を100mlとするとき、前記オゾンナノバブルを含む水溶液を1体積%以上の含有量で、前記細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体に混合することを特徴とする請求項12又は13に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に示すように、オゾンナノバブルを含む水溶液を殺菌又は抗菌のために洗浄や医療の用途に適用することは従来から検討されており、周知の技術である。オゾンは強い酸化力を有するため優れた殺菌性を有するが、他方でオゾンに触れた生体内組織は細胞への侵襲が大きく、場合によっては細胞組織の損傷又は損害が大きくなることが避けられない。また、オゾンは空気中に揮発しやすい性状を有するため、ナノバブルの気泡径が大きい場合には、使用中にオゾンの揮発による殺菌力の低下が短期間にみられる場合がある。そのため、オゾンナノバブルに含む水溶液は、一定の殺菌又は抗菌の効果を常時得るために十分な注意を払う必要があり、使用時及び保管時の取扱い性及びメンテナンス性が劣るという課題がある。加えて、オゾンの使用は侵襲性が高くなる傾向にあり、生体組織の適用箇所によっては高侵襲性の問題を十分に考慮する必要がある。したがって、オゾンナノバブルに含む水溶液は従来からよく知られているものの、その適用範囲が限定されるため実際の適用が進んでいない。例えば、生体内組織の細胞等の殺菌又は抗菌を行う用途にはほとんど適用されていないのが実情である。
【0010】
前記特許文献1に記載されているオゾンナノバブルを含む水溶液は、気泡径が50〜500nmであるため1ヶ月程度は殺菌又は抗菌の効果を維持できるものの、それ以上の期間ではその効果を維持することが困難になる。加えて、オゾンナノバブルを含む水溶液を保管した容器を一度開封した後や長期間の保管後は、オゾンの揮発により効果の低下が顕著になるため、容器に残ったオゾンナノバブルを含む水溶液を再利用することができない場合がある。また、前記特許文献1に記載されているオゾンナノバブルを含む水溶液は、殺菌効果が温泉源水を使用して調べられているに過ぎず、生体内組織に適用したときに損傷又は損害を与えずに殺菌ができるのか否かが不明である。この本発明者らの検討によると、オゾンの気泡径が50nm以上である場合はオゾンを高濃度で含むため優れた殺菌力を期待できるが、逆に、侵襲性が高く細胞の損傷や損害が大きいため、生体内組織の細胞等の殺菌又は抗菌には適用できないことが分かった。
【0011】
前記非特許文献2に記載されている歯周治療法は、工業用や水産加工用として入手可能なオゾンナノバブルが使用されており、含まれるオゾンの気泡径が100nm以上であると考えられる。そのため、前記特許文献1に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液と同様に、殺菌又は抗菌の効果が持続しづらく、また、生体組織への高侵襲性という問題の発生が避けられない。前記非特許文献2に記載の発明は、オゾンナノバブルを含む水溶液を用いて嗽(うがい)を所定の期間続けることにより歯周ポケットの改善を行うものであり、そもそも生体内組織の細胞等への適用を視野に入れたものではないと考えられる。
【0012】
前記特許文献2に記載の医療用オゾンナノバブル水は、塩分濃度を最適化することにより消化管感染性疾患の治療や消化管殺菌等に適用されるものであるが、高い殺菌力は特異的な粘膜除去効果によって得られることが記載されており、生体組織への侵襲性が高いことが考えられる。加えて、塩分濃度を0.9%又はその近傍の値に調整するための工程を追加する必要がある。そもそも前記特許文献2には、オゾンナノバブルの気泡径が具体的に記載されておらず、サイズ50μm以下のオゾンマイクロバブルを物理的刺激により圧壊されて縮小したオゾンナノバブルが作製されることを鑑みると、前記特許文献1に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液と同程度の気泡径が形成されていると考えられる。そうすると、生体組織への高侵襲性という問題だけでなく、殺菌又は抗菌の効果が持続しづらいという課題を有することが推察される。
【0013】
さらに、前記特許文献3に開示されているように、オゾンナノバブル水は癌の治療又は予防にも効果があると期待されているものの、安定的に持続して顕著な効能が得られていないためオゾンナノバブル水の効能に対しては疑問視されており、具体的な治療への適用が進んでいないのが現状である。これは、従来から使用されているオゾンナノバブル水は気泡径が最小でも50nmであるため、温度や保管状態等の使用環境によってはナノバブルが急速に消失しやすく、且つ、生体内の細胞や血管への吸収性又は浸透性の点でも十分に機能していないためであると本発明等は考えた。前記特許文献3の発明においても、使用するナノバブル水は前記特許文献1及び4に記載の方法で作製されており、その気泡径は50nm以上である。
【0014】
以上のように、オゾンナノバブルを含む水溶液は、オゾンの殺菌又は抗菌の効果を長期間に亘って安定的に発揮することができ、且つ、生体内組織内の細胞等の殺菌又は抗菌を行うために安全かつ安心して適用できることが求められる。また、オゾンは、塩素や過酸化水素等に比べて、人体に対する有害性が低く、環境面での負荷も小さい。そのため、そのような効果を奏するオゾンナノバブルを含む水溶液は、本発明の主な用途である医療分野はもちろんのこと、殺菌及び抗菌を行う一般的な分野においてもそのニーズが極めて高い。さらに、オゾンナノバブルを癌の治療や予防のために使用することができれば副作用が少なく、利便性が高く、かつ、医療コストの低減にも寄与できることから有用と考えられるが、そのためには安定的に継続して十分な癌治療の効果を奏することができる水溶液を創生することが強く望まれている。
【0015】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、オゾンナノバブルを含む水溶液においてオゾン気泡径の平均粒径が従来技術で形成されるものより小さく、且つ、その密度が高い場合に、オゾンによる高い殺菌力又は抗菌力が安定的に持続し、生体組織内の細胞等への侵襲性を低くできるという検証に基づき、オゾンナノバブルを含む水溶液に含まれるオゾンナノバブルの平均粒径をより小さくするだけでなく、オゾンナノバブルの密度についても高くする方向で最適化することによって、従来技術よりも高い殺菌又は抗菌の効果を長期間に亘って持続的に有するだけでなく、オゾンを使用しても生体組織内の細胞等の損傷又は障害を大幅に低減できるオゾンナノバブルを含む水溶液とその製造方法及び前記オゾンナノバブルを含む水溶液の使用を提供することにある。また、このような性状と特性を有するオゾンナノバブル水を使用することにより、癌の治療や予防に対して薬剤の一種として適用が期待される水溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、オゾンナノバブルを含む水溶液においてオゾンナノバブルの平均粒径を50nm未満に小さくし、且つ、オゾンナノバブルの密度を高くする方向で規定するとともに、そのような性状と特性を有するオゾンナノバブルの形成方法を、オゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法として適用すること、さらに、そのようにして得られるオゾンナノバブルを含む水溶液を、医療用として広く使用されている細胞培養液、生理食塩水、輸液又は点眼薬に含有させて使用することによって上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
【0017】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1] 本発明は、
生体内組織の細菌感染やウイルス感染の治療、及び細菌やウイルスの発生防止又はその抑制を行うための生体投与可能な水溶液であって、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときのオゾンナノバブルの平均粒径及び密度がそれぞれ30nm以下及び1mlあたり10
16個以上であることを特徴とするオゾンナノバブルを含む水溶液を提供する。
[2]本発明は、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときの前記オゾンナノバブルの平均粒径及び密度がそれぞれ1〜10nm及び1mlあたり10
17個以上であることを特徴とする前記[1]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液を提供する。
[3]本発明は、
さらに、癌の治療若しくは予防を行うための生体投与可能な水溶液であって、前記[1]又は[2]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液と、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときに平均粒径及び密度がそれぞれ30nm以下及び1mlあたり10
16個以上である酸素ナノバブルを含む水溶液とを有するオゾンナノバブルを含む水溶液を提供する。
[4]本発明は、
生体内組織の細菌感染やウイルス感染の治療、及び細菌やウイルスの発生防止又はその抑制を行うための生体投与可能な水溶液の製造方法であって、溶存オゾンを含む水溶液を、2以上の貫通小穴を周方向に有する筒の外部から該貫通小穴を通して大気圧以上の圧力で噴射させるときに、前記筒の径方向断面と平行な同一平面上で対向するように配置された前記2以上の貫通小穴のそれぞれの開口部から噴射した溶存液を前記筒の中心に水撃が集中するように衝突させることによって発生させたオゾンナノバブルを含有し、該オゾンナノバブルは、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときの平均粒径及び密度がそれぞれ30nm以下及び1mlあたり10
16個以上であることを特徴とするオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法を提供する。
[5]本発明は、前記オゾンナノバブルにおいて、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときの平均粒径及び密度がそれぞれ1〜10nm及び1mlあたり10
17個以上であることを特徴とする前記[4]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法を提供する。
[6]本発明は、気体及び液体をそれぞれ吸引する手段と、前記気体及び前記液体を同時に加圧して搬送する手段と、該搬送された気体を含む前記液体を新たなオゾンと混合させることによって溶存酸素を富化させるための気液混合槽と、該気液混合槽において気液混合の状態にある溶存液を用いてナノバブルを発生させるために、空洞の筒、該筒の周方向に2以上の貫通小穴のそれぞれの開口部が前記筒の径方向断面と平行な同一平面上で対向するように配置された前記2以上の貫通小穴、及び前記筒の少なくとも片端部にナノバブル吐出口を有し、前記貫通小穴は該貫通小穴の断面中心部を通る延長線のすべてが前記筒の中心で交差するように配置される噴射ノズルと、を備えるナノバブル発生手段によって前記オゾンナノバブルを発生させることを特徴とする前記[4]又は[5]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法を提供する。
[7]本発明は、前記貫通小穴が、前記筒の径方向断面と平行な同一平面上で対向するように、前記筒の周方向等間隔に4個以上8個以内で設けられ、前記筒の空洞に通じる部分の孔径が0.1〜0.5mmであることを特徴とする前記[4]〜[6]のいずれかに記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法を提供する。
[8]本発明は、
さらに、癌の治療若しくは予防を行うための生体投与可能な水溶液の製造方法であって、前記[4]〜[7]のいずれかに記載の製造方法によって得られるオゾンナノバブルを含む水溶液と、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときに平均粒径及び密度がそれぞれ30nm以下及び1mlあたり10
16個以上である酸素ナノバブルを含む水溶液とを混合して得られるオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法を提供する。
[9]本発明は、前記[1]又は[2]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液
が、細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体に
含まれる態様で使用される、
オゾンナノバブルを含む水溶液を提供する。
[10]本発明は、前記[3]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液
が、生理食塩水又は輸液
に含まれる水溶液として
、又は経口摂取することにより
、生体内に投与される、
オゾンナノバブルを含む水溶液を提供する。
[11]本発明は、前記オゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体を100mlとするとき、前記オゾンナノバブルを含む水溶液の配合量が1体積%以上であることを特徴とする前記[9]又は[10]に記載の
オゾンナノバブルを含む水溶液を提供する。
[12]本発明は、前記[4]〜[7]のいずれかに記載の製造方法によって製造されるオゾンナノバブルを含む水溶液
が、細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体に
に含まれる態様で使用される、オゾンナノバブルを含む水溶液の
製造方法を提供する。
[13]本発明は、前記[8]に記載の製造方法によって製造されるオゾンナノバブルを含む水溶液
が、生理食塩水又は輸液
に含まれる水溶液として
、又は経口摂取することにより
、生体内に投与される、オゾンナノバブルを含む水溶液の
製造方法を提供する。
[14]本発明は、前記オゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体を100mlとするとき、前記オゾンナノバブルを含む水溶液を1体積%以上の含有量で、前記細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体に混合することを特徴とする前記[12]又は[13]に記載のオゾンナノバブルを含む水溶液の
製造方法を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0018】
本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、従来よりも小さな平均粒径を有するオゾンナノバブルが大量に含まれることにより、オゾンによる高い殺菌力又は抗菌力が安定的に持続できるだけでなく、オゾンを含んでも生体内組織の細胞等への侵襲性を著しく低くし、細胞等の損傷又は障害を大幅に低減できる。
【0019】
また、本発明によるオゾンナノバブルを含む水溶液の製造方法は、従来のナノバブル発生装置と比べて、30nm以下の平均粒径を有するオゾンナノバブルを大量に、且つ、安定的に発生することができるため、高い殺菌力又は抗菌力が安定して持続的に得られ、且つ、生体内組織の細胞等への低侵襲性を図ることができる、オゾンナノバブルを含む水溶液を容易に製造することができる。そのような効果を有するオゾンナノバブルを含む水溶液は、従来技術では製造することが困難であり、本発明の製造方法によって初めて得ることができる。
【0020】
さらに、本発明によるオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬は、生体内組織の細胞等のウイルスや細菌による感染の治療やその予防に適用することができる。さらに、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、癌の治療及び予防において薬剤の一つとして適用される可能性が高い。それにより、オゾンナノバブルを含む水溶液の医療分野への適用範囲を大きく広げることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
気体のマイクロナノバブル発生させる技術としては、前記非特許文献1に記載されているように、旋回液流式、スタティックミキサー式、ベンチュリー式、加圧溶解式、細孔式等の様々な方法が従来から提案されている。また、前記特許文献1及び4に記載されているように、水溶液中に含まれる酸素を含有する微小気泡に物理的刺激を加えることにより、より微細な酸素ナノバブル(気泡径50〜500nm)を発生させる方法も提案されている。しかしながら、これら従来のナノバブル発生方法で得られる気泡径は、最も小さいものでも50nm位が限度である。加えて、100nm以下の気体ナノバブルは可視光及び紫外光の波長よりも小さい直径を有する非常に微細な粒子であるため、粒径を精密に測定できる測定技術が確立されておらず、気体のナノバブルを含む水溶液として一般的に呼ばれるものは、数十nm以下の粒子径を有するナノバブルの存在を明確に証明することが困難であった。
【0023】
本発明者等は、従来のマイクロナノバブル発生方法で得られる最も小さな気泡径として50nmを有するオゾンナノバブルを含む水溶液及びオゾンナノバブルを含まない水溶液をそれぞれ有する細胞培養液を用いて、細菌やウイルスによる細胞の殺菌又は抗菌の効果を検証した。検証は、細胞を培養した細胞培養液に、オゾンナノバブルを含む水溶液を使用して培養したウイルス浮遊液を混合した後、所定の時間インキュベーション培養することにより、培養中の細胞にウイルス感染が発生するか否かを調べることによって行った。その結果、オゾンナノバブルを含まない水溶液を使用する場合ではウイルスの発生が観測されるのに対して、本発明によるオゾンナノバブルを含む水溶液を使用する場合は、細胞に損傷又は損害を与えずにウイルスの発生を防止することができることが分かった。さらに、50nm以上の気泡径を有するオゾンナノバブルを含む水溶液において、ウイルスの発生を防止できる水溶液を使用する場合は細胞が損傷又は損害を受けるが、その一方で、細胞の損傷又は損害がまったく見られない水溶液を選んで使用するときはウイルスによる感染が発生しやすいことが分かった。したがって、細菌やウイルスによる細胞等の感染治療又は感染予防においては、水溶液に含まれるオゾンナノバブルの粒径として一般的に1000nm未満、500nm未満、300nm未満又は100nm未満と規定するだけでは十分でないことが明らかとなった。
【0024】
本発明は、上記の結果から、生体組織内の細胞等に対する殺菌又は抗菌の効果が、水溶液に含まれるオゾンナノバブルの平均粒径を従来方法よりもさらに小さく、且つ、その密度を高くすることによって十分に得られるではないかとの思想に基づいて、そのような性状及び特性を有するオゾンナノバブルを含む水溶液を製造できる方法について試行錯誤で検討を行い、実現可能な方法を見出すことによってなされたものである。そして、実際にその方法によって製造される水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液又は点眼薬を使用することにより、生体内組織の細胞等にほとんど損傷又は損害与えずに、抗ウイルス、殺菌又は抗菌の効果が得られることが確認された。なお、検証結果については、後述の実施例において詳細に説明する。
【0025】
本発明において使用する水溶液に含まれるオゾンナノバブルの大きさは、平均粒径で規定することができる。平均粒径が小さいものほど、ナノレベルで含まれるバブルの量が多く、それよりも大きな粒径を有するバブルの量が少なくなる傾向にある。ナノバブルの大きさは、粒度分布(粒径の標準偏差)によっても影響を受けるが、その影響は小さく、水溶液に含まれるオゾンナノバブルは、平均粒径が50nm未満のオーダーであり、できるだけ小さい平均粒径を有することが必要である。
【0026】
本発明において、オゾンナノバブルは、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときの平均粒径が30nm以下であり、好ましくは1nm以上で10nm以下である。オゾンナノバブルの平均粒径が30nm以下であるときに、オゾンナノバブルの開裂又は開放が長期間に亘って抑えられるため、生体内組織の殺菌又は抗菌を行うときに細胞等の損傷又は障害が少なく、細胞を保護する効果を安定的に持続して得られる。さらに、10nm以下であれば、著しく大きな効果を得ることができる。他方、細胞を保護する効果は、オゾンナノバブルの平均粒径が1nm未満であっても飽和する傾向にあり、逆に、殺菌力又は抗菌力が著しく低下するようになる。さらに、オゾンナノバブル発生装置を製造するときの技術的なハードルの高さを考慮すると経済性及びメンテナンス容易性の観点からも、平均粒径は1nm以上で規定するのが好ましい。
【0027】
本発明においては、オゾンナノバブルの平均粒径だけでなく、さらに、水溶液1ml中に含まれるナノバブルの個数、すなわち、オゾンナノバブルの密度を高い値に規定することが必要である。すなわち、オゾンナノバブルの平均粒径を30nm以下と非常に小さくすることによりバブルの保存安定性及び粒径維持性の向上を図り、オゾンが生体組織の細胞等に対して大きなダメージを与えないでオゾンの殺菌力又は抗菌力を長期間に亘って安定的に維持することができる。その一方で、平均粒径が30nm以下の微細ナノバブルの1個に充填している微量のオゾン量では細菌やウイルスの殺菌又は抗菌を有効かつ効率的に行うことが困難である。そのため、水溶液1ml中に含まれるオゾンバブル数を従来以上に増やし、ナノバブルを多点及び多方向で存在させることにより、細胞に接触又は近接する細菌やウイルスなどの異物に対して局所的な攻撃ができるように、水溶液1ml中に含まれるオゾンバブル数を従来以上に増やす必要がある。
【0028】
また、マイクロ・ナノバブルの微細バブルの特徴としては、粒子表面にゼータ電位を有し、周囲がOH
−の負電荷によって囲まれていることが知られている。そのため、本発明のオゾンナノバブルの場合も、バブル中に含まれるオゾンによる局所的な酸化作用とともに、バブルの表面のOH
−の電荷によって細胞の表面に付着又は感染している細菌やウイルスの殺菌又は抗菌が促進することが考えられる。この効果は、水溶液1ml中に含まれるオゾンナノバブルの密度が高くなれば、バブル表面に存在するOH
−の濃度が高くなるため大きくなる傾向にある。加えて、オゾンナノバブルは開裂のときにバブル衝撃力を発生するが、オゾンナノバブルの平均粒径が小さく、さらに、その密度が高くなればバブル衝撃力が大きくなることが考えられる。このように、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、バブル内に含まれるオゾン量による影響の他にも、バブル表面に存在するOH
−数の増加、及びバブル衝撃力の増大等の効果により、細菌やウイルスなどの異物に対して殺菌力又は抗菌力を高くできるのはないかと考えられるが、殺菌又は抗菌の詳細なメカニズム解明については今後の検討事項である。
【0029】
したがって、本発明で使用する水溶液に含まれるオゾンナノバブルの密度は、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときの密度が水溶液1mlあたり10
16個以上であることが必要であり、好ましくは10
17個/ml以上である。本発明で利用するオゾンナノバブルは、そもそも平均粒径が非常に小さいため、その密度が10
16個未満であると、単位体積当たりの水溶液に含まれるオゾン濃度が薄くなるため、殺菌力又は抗菌力を十分に得ることができない。殺菌力又は抗菌力は、水溶系中のオゾン濃度が高いほど大きくなる。さらに、オゾンナノバブルの平均粒径が1〜10nmの場合は、水溶液に含まれるオゾンの濃度を十分に確保するため、オゾンナノバブルの密度が10
17個/ml以上であるのが好ましい。
【0030】
マイクロ・ナノバブルの粒径の測定方法としては、従来から様々な方法が知られている。それらの中で、ナノバブルの計測法は、光学的な観察が困難であるため、例えば、ミー散乱光を利用する光散乱法、レーザ回折・散乱法、液中のバブル粒子のブラウン運動を観測するナノ粒子トラッキング解析法、細孔電気抵抗法(コール・カウンター法)、動的光散乱法、MEMS(Micro Electro−Mechanical Systems)の梁を利用する共振式質量測定法等が提案されている。これらの方法以外にも、ゼータ電位測定によるナノバブルの粒子径を求める方法やスピントラップ剤を用いて電子スポン共鳴法(ESR)によるナノバブルの存在を確認する方法が提案されている。
【0031】
本発明等は、上記以外のマイクロ・ナノバブル計測法として、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定する方法を提案している(特願2014−230407号を参照)。この方法は、液体を非晶質の固相状態にし、前記非晶質の固相状態にある液体に含まれる超微細バブルを、透過型電子顕微鏡を用いて観察することによって、液中に含まれる超微細バブル及びその分布状態を直接的に画像として観測し解析できる。そのため、10nm未満の粒径を有する超微細バブルを高精度に測定することができる。また、この方法は、オゾンナノバブルの平均粒径の他にも、粒径分布及び密度を求めることができるため、本発明において規定するオゾンナノバブルの平均粒径及び密度は、この方法で測定して求めたものである。
【0032】
氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定する方法は、マイクログリッド又はマイクロメッシュに保持した液体を試料として用い、エネルギーが10〜300キロエレクトロンボルト(keV)の透過型電子顕微鏡によって、観察のときに用いる電子線の数を1〜10
5電子/Å
2に設定して測定が行われる。
【0033】
なお、本発明で使用する酸素ナノバブル水のバブル粒径は、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定する方法以外にも、例えば、動的光散乱法(光子相関法)によっても測定することが可能である。例えば、大塚電子製の粒径・分子量測定システム(型番:ELSZ−2000S)又はゼータ電位・粒径・分子量測定システム(型番:ELSZ−2000ZS)等の測定装置を用いて、特殊なデータ処理を行うことによって10nm以下のバブル径の測定が可能になる。ここで、特殊なデータ処理とは、例えば、測定の積算回数を増やし、測定時に不確定乱反射するデータだけを削除することによって安定的に存在する粒子だけを抽出し、その粒径を測定する方法である。
【0034】
本発明者等が検討を行った結果、動的光散乱法による測定方法でも、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定する方法と同じような粒径測定結果が得られることが確認できた。しかしながら、動的光散乱法においては測定粒子が内実であるのか、又は中空であるのかを明確に区別することが極めて難しい。さらに、オゾンナノバブルの密度についても高精度測定を行うことは技術的な制約を受け、困難である。それに対して、本発明のように氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定する方法は、電子顕微鏡によって測定粒子が内実か中空であるかを明確に区別して観測することができるだけでなく、オゾンナノバブルの密度も高精度で測定することが可能である。したがって、本発明においては、オゾンナノバブル径の測定方法として、氷包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定する方法を採用する。
【0035】
本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を生体内組織の殺菌又は抗菌を行うときは、少なくとも前記オゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体を使用することが好ましい。細胞を培養するために使用する細胞培養液は、細胞培養中に起きやすい細菌やウイルスによる感染を防止するために使用する。また、前記生理食塩水、輸液又は点眼薬は、生体に投与することにより、細菌やウイルスのよる生体内組織の感染を治療したり、予防するために使用する。これらの液体は、すでに細菌やウイルスに感染した状態を有する細胞の治療にも適用が可能である。
【0036】
本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液は、通常、培地及び血清の所定量を含み、必要に応じて抗生物質とサプリメントが微量で加えられる。細胞培養用培地は、一般的に無機塩類、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸・脂質、タンパク質・ペプチド及び微量元素等で構成され、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)が使用されるが、これ以外の培地を使用することもできる。また、血清としては、例えばウシ胎仔血清(FBS)が広く知られているが、それ以外にも仔ウシ血清(NCS)やウマ血清等を使用してもよい。培地と血清とを含む細胞培養液は、一般的に減菌的な環境を形成することが求められており、ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質等が配合される場合がある。本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液は、減菌的な環境を形成するだけでなく、殺菌又は抗菌の効果を持たせることができ、従来の細胞培養液に比べて優れた殺菌性又は抗菌性を得ることができる。ここで、細胞培養液の構成成分としては、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液だけでなく、用途に応じて本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液が混合された生理食塩水又は輸液を使用することができる。
【0037】
生理食塩水は、浸透圧が血液又は体液に合致するように基本的に0.9質量%の塩化ナトリウムを含み、通常は、塩化ナトリウムが生理食塩水の100質量部に対して0.85〜0.95質量%の範囲で配合される。本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、一般的に塩化ナトリウムを含まない状態で使用されるが、前記オゾンナノバブルを含む水溶液に塩化ナトリウムを0.85〜0.95質量%の含有量で配合してもよい。
【0038】
本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、次のような各種の添加剤を含む輸液として使用することができる。例えば、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を有する生理食塩水に、5%ブドウ糖液を所定の量で添加した低張複合電解質液、カリウムやカルシウムを加えたリンゲル液、ブドウ糖やアミノ酸を添加した高カロリー液、ヘパリンを添加した生食液である。本発明の輸液を製造する場合は、通常、生理食塩水を溶媒として使用される場合もあるが、必ずしも塩化ナトリウムを0.85〜0.95質量%の範囲で含む生理食塩水を使用することに限定されない。
【0039】
点眼薬は、一般的に抗生物質、抗アレルギー薬、抗炎症薬、ビタミン類等を含有し、結膜嚢に適用する無菌の外用剤である。そのため、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を点眼薬に含有させることにより、従来よりも優れた殺菌性又は抗菌性を有する点眼薬を得ることができる。また、従来のものと同じ程度の殺菌性又は抗菌性を有する点眼薬の場合は、抗生物質、抗アレルギー薬、抗炎症薬の含有量を少なくすることができるため、眼の生理に対して非常に優しい薬を調製することが可能になる。
【0040】
本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体を調整するとき、前記オゾンナノバブルを含む水溶液の配合量は、前記細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬からなる群のいずれかの液体の100mlに対して1体積%以上であることが好ましい。本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液の配合量が1体積%未満であると、細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬1ml中に含まれるオゾンナノバブルの個数が単純計算でも1×10
14未満となり、それらの液体に殺菌又は抗菌の効果を十分に付与することができない。参考までに、特開2011−88979号公報の段落[0121]及び[0136]には、直径の分布ピークが100nmである気体バブルを含む水1L当たりの気泡の個数が1.7×10
16個と算出されることが記載されており、この個数は、単純計算で水1ml当たり約2×10
13個に相当する。したがって、本発明のように、前記細胞培養液、生理食塩水、輸液又は点眼薬に含まれるナノバブルは密度が1×10
14以上あれば、100nmであるオゾンナノバブルを含む水溶液の単独と比べても高密度のバブルが含まれていることが容易に理解できる。さらに、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液の配合量は、殺菌又は抗菌の効果を十分に得るため5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が特に好ましい。
【0041】
一方、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は単独で使用しても生体組織の細胞等に損傷及び損害を与えることがないため、配合量の上限値は特に規定する必要は無い。例えば、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液の場合は、細胞培養培地として必要な固形成分(無機塩類、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸・脂質、タンパク質・ペプチド、血清及び微量元素等)を均一に添加したものを、そのまま細胞培養液として使用してもよい。
【0042】
また、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、純水と混合して使用してもよいし、他の気体を含むナノバブル、例えば、酸素ナノバブルを含む水溶液と混合して使用してもよい。酸素ナノバブルを含む水溶液としては、本発明と同じように、平均粒径が30nm以下、好ましくは1〜10nmで、水溶液1ml当たりの密度が10
16以上、好ましくは10
17以上である酸素ナノバブルを含む水溶液を使用するのが好ましい。水溶液に含まれる酸素ナノバブル及びオゾンナノバブルにおいて両者の平均粒径をほぼ同じにすることにより、殺菌又は抗菌の効果及びバブルの安定性に対してバブル径の違いに起因する悪影響を極力小さくできるためである。平均粒径が30nm以下で、水溶液1ml当たりの密度が10
16以上である酸素ナノバブルを含む水溶液は、後述の
図1に示すナノバブル発生装置によって、酸素を溶存気体として使用することにより製造することができる。
【0043】
本発明は、細胞培養液、生理食塩水、輸液及び点眼薬のいずれかの液体と混合して使用することを主な用途とする水溶液であるが、このような使用に限定されない。従来から行われているように、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液をうがい薬などとして使用したり、前記オゾンナノバブルを含む水溶液を経口摂取することができる。また、食品、飲料水、汚泥処理水、温泉、又は居室等の殺菌や抗菌を行うために使用することも可能である。そのような一般の用途においては、生体内組織の細胞などへの侵襲性の問題を気にする必要がなく、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液をそのままで、又は水に適当な濃度で希釈した状態で、それぞれ使用することができる。
【0044】
本発明において、前記オゾンナノバブルを含む水溶液と、包埋法によってクライオ透過型電子顕微鏡で測定したときに平均粒径及び密度がそれぞれ30nm以下及び1mlあたり1016個以上である酸素ナノバブルを含む水溶液とを混合して得られる水溶液は、輸液又は生理食塩水として生体内に投与するか、又は経口摂取することにより癌の治療及び予防のために使用することができる。その場合に使用する生理食塩水としては、塩化ナトリウムの含有量が0.85〜0.95質量%である必要は必ずしもなく、0.85質量%未満の含有量であってもよい。場合によっては、塩化ナトリウムを含まないオゾン及び酸素のナノバブル純水を作製し、それを経口摂取することができる。
【0045】
本発明によるオゾン及び酸素のナノバブルを含む水溶液を癌の治療及び予防に適用できると考えられる理由は次の通りである。
【0046】
従来から癌細胞は嫌気性雰囲気下で増殖しやすいことが知られており、癌細胞の周辺を酸素ナノバブル水によって酸素濃度の高い好気性にすることにより、その増殖及び肥大化が抑えられるではないかと考えられる。他方、オゾンナノバブル水は、オゾンが活性酸素として機能するため癌細胞に対して侵襲性を発現し、癌細胞を小さくする効果を有するものと考えられる。このことは、放射線によって癌の治療を行う場合、放射線が活性酸素の形成に大きく寄与しており、仮に、癌細胞周辺に酸素がない酸欠状態では放射線による癌治療の効果がほとんど得られないという報告からも推察できる(例えば、Yoshimura M,Itasaka S,Harada H,Hiraoka M. Microenvironment and radiation therapy. BioMed research international,2013;2013:685308等を参照)。
【0047】
従来のオゾンナノバブル水を使用した癌の治療及び予防においては、例えば、前記特許文献3に開示されているように、気泡径が50nm〜500nmのナノバブル水を使用していた。しかしながら、生体内の正常な細胞や血管の表面に存在する孔径は30nm以下、具体的には数nm〜十数nmの範囲であるため、酸素及びオゾンのナノバブル水内に存在する気泡径が50nm以上では、生体内の細胞又は血管の内部への吸収性又は浸透性が必ずしも十分であるとは言えなかった。さらに、生体は通常35〜37℃とやや高温に維持されているため、ナノバブルの気泡径が大きくなるほど、バブルの大径化が加速されバブル消失が促進されることから、癌細胞の増殖及び肥大化を抑制又は防止する効果が十分に得られなかった。仮に、その効果があったとしても安定的に持続するものではなかった。
【0048】
それに対して、本発明の生体投与可能な水溶液に含まれるオゾンナノバブル及び酸素ナノバブルは、気泡の平均粒径が30nm以下、好ましくは1〜10nmであり、加えてバブルの密度が非常に高いため、生体内細胞や血管内への吸収性又は浸透性が優れるとともに、その気泡径で存在するナノバブルの寿命が相対的に長くなる。酸素ナノバブルは癌細胞の周辺環境を酸素濃度の高い好気性雰囲気に長期間維持することが可能になり、癌の増殖及び肥大化を抑制又は防止する効果が高くなる。他方、オゾンナノバブルは正常細胞に対して低侵襲性であるが、菌やビールス及び癌等の異常細胞に対しては活性酸素として機能し、高い侵襲性を有することが期待される。そして、これらの効果は、従来の平均粒径がやや大きなナノバブルに比べて、相対的に長期間にわたって持続することが可能になる。以上の点から、本発明によるオゾンナノバブル及び酸素ナノバブルの両者を有する水溶液は、癌の治療及び予防のための薬剤としての機能を有しており、癌治療等の医療分野において好適な水溶液であると考えられる。
【0049】
本発明において、前記オゾンナノバブルを含む水溶液と前記酸素ナノバブルを含む水溶液との混合割合は特に限定されないが、前記オゾンナノバブルによる癌細胞への侵襲性の効果を十分に得るために、前記オゾンナノバブルを含む水溶液を1体積%以上で混合することが好ましい。本発明のオゾンナノバブル水は、配合比率が100体積%であっても正常細胞に悪影響がほとんどみられない点に大きな特徴を有するが、前記酸素ナノバブルを含む水溶液による癌細胞の増殖及び肥大化を抑える効果を活かすため、前記オゾンナノバブルを含む水溶液と前記酸素ナノバブルを含む水溶液との混合割合は体積比で1:99〜80:20の範囲にするのがより好ましい。
【0050】
次に、本発明の生理食塩水を製造するためのオゾンナノバブル発生装置について図面を用いて説明する。
【0051】
図1は本発明で使用するオゾンナノバブル発生装置の一例を示す図であり、基本的な構成は特許第5555892号公報に記載されている装置と同じである。
図1において(a)及び(b)は、それぞれオゾンナノバブル発生装置の正面図と斜視図である。
図1に示すオゾンナノバブル発生装置1において、2がベローズシリンダポンプ、3が気液混合槽、4がポンプコントローラ、5が圧力センサ、6がマイクロ・ナノバルブ発生用ノズル取付部、7が液吸引管、8が気体吸引口、9が気体吸引調整バルブである。
【0052】
これらは、
図1の(b)に示す斜視図のように配置する。接液部をフッ素樹脂で作成したベローズシリンダポンプ2で7の液吸引管、9の気体吸引調整バルブを使用して気体量を調整してポンプ内部に液と気体を混ぜた状態で吸い込んでベローズ内部で撹拌、溶存させて、圧縮液の中に酸素を溶存させる。本発明においては、ベローズシリンダポンプ2はメタルフリーであれば良く、フッ素樹脂以外のプラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレート等の汎用プラスチック、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート及び変性ポリフェニレンエーテル等のエンジニアリングプラスチック、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン及び液晶ポリマー等のスーパーエンジニアリング等の少なくとも1種を使用しても良い。その場合、ポンプだけでなく、液設部にもフッ素樹脂を始め、前記の各種プラスチックを用いることによって、信頼性の高い清浄なオゾンナノバブル発生装置とすることができる。また、本発明において、厳密なメタルフリー化による洗浄や殺菌が要求されない場合には、上記のプラスチックだけでなく、金属やセラミックスを使用しても良い。
【0053】
次に、気液混合槽3に気体(オゾン)と液をポンプ2で撹拌して圧送する。ポンプ2は、主に圧縮空気起動式ベローズシリンダポンプを使用するが、電動式のものであっても良い。気液混合槽3の気体(オゾン)と液とは、ポンプ2からの圧力を受けており、気体(オゾン)が溶存しやすくなる。つまり気体(オゾン)と液体とをポンプ2から圧送する圧力を5の圧力センサでチェックしている。この方法によって溶存気体の量を多くしてナノバブルの発生量を増やす準備を行う。本発明のオゾンナノバルブ発生システムはポンプ2としてベローズシリンダポンプを用いるのが実用的であるが、用途に応じて、従来から送液ポンプとして公知のピストンポンプ、プランジャーポンプ又はダイヤフラム等の往復動ポンプや、ギヤーポンプ、偏心ポンプ又はネジポンプ、カスケードポンプ、ベーンポンプ等の回転ポンプ等を適用することができる。
【0054】
圧送されて気液混合槽3に入った液はオゾンと混合して、オゾンを液の内部に溶存させてからナノバルブ発生用ノズル取り付け部6に送る。ナノバルブ発生用ノズル取り付け部6は、溶存したオゾンを直径が30nm以下、好ましくは1nm〜10nmの大きさのオゾンナノバルブを大量に作成するノズルと接続する部分である。
【0055】
このとき、5の圧力センサでノズル6と気液混合槽3との間の液圧力の変動をみて気液の溶存状態を監視する。こうすることで安定したナノバルブ用発生ノズルに必要な一定した圧力状態を実現する。
【0056】
図1の(a)及び(b)に示す本発明で使用するオゾンナノバルブ発生装置を用いて実施する工程は次の通りである。液吸引管7、気体(酸素)吸引口8及び気体吸引調整バブル9を用いて行うのが気体・液体吸引工程である。圧力は、圧力センサ5で調整する。次に、ベローズシリンダポンプ2を用いてオゾンを含有する気体を含む液体を加圧する工程が気体・液体加圧工程である。引き続き、加圧された前記の気体を含む液体を新たなオゾンと混合させるために、ポンプコントローラ4及び気液混合槽3を用いて行う工程が溶存気体富化工程である。その後、後述する本発明の発生ノズルをオゾンナノバルブ発生用ノズル取付部6に接続してからオゾンナノバブルを発生させる。この工程を溶存気体微細化工程と呼ぶが、オゾンナノバブルは、2以上の貫通小穴を有する筒の外部から該貫通小穴を通して大気圧以上の圧力で噴射し、前記筒の内部の一点で衝突させることによって発生させることができる。
【0057】
本発明で使用するオゾンナノバルブ発生装置においては、空気が含まれる通常の液体を真空下で脱気処理することにより液体中に含まれる空気をできるだけ除いた状態にした液体を使用してもよい。脱気処理後の液体は、気体吸入口8から吸引したオゾン及び/又は溶存気体富化工程において新たなオゾンとそれぞれ混合された後、本発明で使用するバブル発生ノズルを用いてオゾンナノバブルの発生を行うことにより、オゾンナノバブルを含む液体として使用される。この方法は、オゾンを混合する前に液体を脱気することにより、後で行うオゾンの混合及び溶存の工程で液体中のオゾン濃度を高める効果が得られることから本発明の製造方法において好適に採用される。
【0058】
図2に
図1の洗浄装置において、オゾンナノバブルを発生させるノズル形状及び処理液を噴射するノズルヘッダーの例をそれぞれ示す。
図2において、(a)及び(b)は、それぞれノズルヘッダー10の断面図及び上面図である。
図2の(a)は、(b)のD−D断面を示している。
【0059】
図2の(a)及び(b)に示すように、ノズルヘッダー10は、処理液を噴射するための噴射ノズル11及びオゾンナノバブルを吐出させるための液衝突ノズル12と台13とから構成されており、液衝突ノズル12の1個又は2個以上を13の台上に取り付け配置する。ここで、液衝突ノズル12が、オゾンナノバブルを発生させるノズル形状の例である。
【0060】
図3は、
図2の(a)に示すノズルヘッダー10の液衝突ノズル12を配置した部分の拡大図である。
図3に示すように、12の液衝突ノズルの1個の形状において、12aの小さな穴は12の中心に向かって空いている。この小さな穴12aを通り、高圧で入った液を液衝突ノズル12の中心部分で衝突させてナノバブルを発生させ、矢印Qで示す方向に噴射する。実験の結果、液の速度Vをコントロールすれば、発生したナノバブルの量が多く、かつバブルの寿命が長くなることがわかった。速度Vの目安として、25m/秒を超える速度になると安定したナノバブル発生ノズルになる。
【0061】
図2及び
図3において液衝突ノズル12から噴射した水溶液(Q)は、例えば、塩化ナトリウム等の所望の添加物を有するオゾンナノバブルを含む水溶液を製造するときに、次の2つの方法に従って調整する。第1の方法は、
図1に示す液吸引管7によって吸引する液として、塩化ナトリウム等の所望の添加物を所定の配合量で含有する水溶液を使用し、該水溶液にオゾンを溶存させた後に噴射ノズル11から噴射して得られる気液混合液をそのままオゾンナノバブルを含む水溶液とする方法である。また、第2の方法においては、
図1に示す液吸引管7によって吸引する液として塩化ナトリウム等の添加物を含まない水溶液(純水を含む)を使用し、オゾンナノバブルを含む水溶液を製造した後、前記オゾンナノバブルを含む水溶液に、塩化ナトリウム等の添加物を前記水溶液の100質量部に対して所定の含有量で配合することによりオゾンナノバブルを含む水溶液として用いる。
【0062】
液噴射ノズル11からの水流を用いてオゾンナノバルブを作成する方法について説明する。高速ジェット液噴射ノズル11から出たベローズシリンダポンプ2からなる高圧ポンプの吐出圧力(大気圧以上)状態から圧力を急激に解放するので、オゾンが溶存する液が互いに激突し、その水撃力で炸裂する力で気体を溶存した液を砕いてオゾンナノバルブを大量に含む状態にする。ただし解放する方法によっては、オゾンナノバブルの発生量が少なくなってしまう場合があるが、本発明による方法と装置によってオゾンナノバブルを大量に発生させることができる。
【0063】
本発明の水溶液に含まれるオゾンナノバブルは、例えば、
図2及び
図3に示すような構造を有する液衝突ノズル12を使用することによって、気液混合の状態にある溶存液を噴射するときの圧力が大気圧(約0.1MPa)以上であれば、オゾンナノバブルの発生量を従来と同等以上にすることができる。さらに、この圧力を0.2MPa以上に設定することによって、十分な量で発生させたオゾンナノバブルを含む水溶液を製造することができる。このように、本発明においては溶存液の噴射圧力の下限値を0.2MPaと従来よりも低くできるため、金属コンタミの影響を無くすために好適なポンプ、例えば、フッ素樹脂で作製した圧縮空気駆動式又は電動式のベローズシリンダポンプ2を使用することが可能となる。酸素溶存液の噴射圧力の上限値は特に規定されないが、噴射圧力の増大に伴うオゾンナノバブル発生装置1の負荷を低減したい場合には1.0MPa以下に設定することが好ましい。
【0064】
本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液水を製造するときに使用するオゾンナノバブル発生装置のノズルは、大気圧以上、好ましくは0.2MPa以上という従来よりも低い圧力でも溶存液のジェット流を噴射できるように設計する。気体溶存液のジェット流の噴射及び衝突によって得られる水撃力をFとする。水撃力Fは、液の密度をρ、小さい穴の大きさをS、液の速度をVとするとき、F=ρSV2の関係が成り立つ。Fを最適値にするためには、穴の大きさSと速度Vの関係を考慮した最適設計が必要になる。
【0065】
本発明で使用するオゾンナノバブル発生装置においては、
図2及び
図3の12で示す液衝突ノズルが有する貫通孔の径S、すなわち小さな穴12aの径が0.1〜0.5mmであることが好ましく、さらに0.2〜0.4mmであることがより好ましい。ここで、液衝突ノズル12の穴12aの径が0.1mm未満であると、粒径が小さな微細オゾンバブルの生成量は増える傾向にあるものの、1nm以上の粒径を有するバブルの生成量が急激に少なくなるため、オゾンナノバブルの発生量が低下して、オゾンナノバブルの密度低下が顕著になる。また、液衝突ノズル12の穴12aの径が0.5mmを超えると、1nm以上の粒径を有するバブルの総生成量は増えるものの、逆に、10nm以下の小粒径バブルの生成量が急激に減少するため、平均粒径の増大に伴ってオゾンナノバブルの安定性が急激に低下し、本発明の効果を十分に奏することができない。したがって、本発明においては、オゾンナノバブルの平均粒径を30nm以下と小さくし、オゾンナノバブルの密度を水溶液1mlあたり10
16個以上と大量にするために、液衝突ノズル16の貫通小孔径は0.1〜0.5mmの範囲で設けることがより好ましい。さらに、液衝突ノズル16の貫通小孔径を0.2〜0.4mmの範囲で設けることにより、オゾンナノバブルの平均粒径及び密度をそれぞれ1〜10nm及び水溶液1mlあたり10
17個以上にすることができる。
【0066】
同じ効果は、四方から中心に向けて発射してセンターに水撃を集中させることで速度をより高めることができ、平均粒径がより小さなオゾンナノバブルを大量に発生させることができる。そのため、四方からの水撃を行う場合には、水噴射の速さが同じある場合、貫通孔の穴の個数に応じてより大きな効果を得ることができる。例えば、F=ρSV
2なので貫通小孔が4穴があり、それらが中心に集中する場合は、中心に集まる力F=4ρSV
2になり、貫通孔の穴の個数が2の場合と比べて2倍の水撃力が得られる。このように液が衝突して中心に水撃を集中させるのにノズルの小さい穴の個数を多くすると、流量が多くなるため液の衝突するエネルギーが高くなる。オゾンナノバブルの発生量は液の衝突するエネルギーが大きくなれば、より小さな平均粒径を有するオゾンナノバブルを大量に発生させることができる。
【0067】
本発明においては、液衝突ノズル12の貫通小孔径を0.1〜0.5mmと規定することにより、オゾン溶存液の速度Vが上昇し、発生するオゾンナノバブルの平均粒径を小さくできる効果が得られる。加えてオゾンナノバブルの密度も同時に高くする必要があるため、液衝突ノズル12の貫通小孔の個数は、液衝突ノズル12の筒の周方向等間隔に4個以上8個以内で設けることが好ましい。液衝突ノズル12の貫通小孔の個数が3個以下であると、オゾンナノバブルの密度の低下が顕著になる。また、貫通小孔の個数が9個以上である場合は、オゾンナノバブルの密度向上の効果が飽和するだけでなく、液衝突ノズル12の貫通小孔の位置合せを行うときに高精度が要求されるため、液衝突ノズル12の製造が非常に困難になる。
【0068】
また、本発明で使用するオゾンナノバブル発生装置において、液衝突ノズル12の形状は、12aの小穴を4〜8個で周方向に等間隔に設けるだけでなく、例えば、液衝突ノズル12の長手方向に2段以上で並行して貫通小孔の穴をあけ、液の水撃の発生する場所を2ヵ所以上にしてもよい。それによりナノバブルを大量に発生させることが可能になるので、ノズルの小型化と効率化には有効な方法である。さらに、4個以上の小穴から液を同時に吐出させることで水撃の強度を増加させることができるため、液の速度Vを上げなくとも30nm以下の平均粒径を有するオゾンナノバブルを大量に発生できる。そのため、高圧で液を吐出させるポンプが必要でなくなり、負担が少なくて済むため、工業的には、非常に有益な技術で、エネルギー効率の良いノズルの開発ができる。
【実施例】
【0069】
以下において、本発明に基づく実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
<参考例1>
特許第5555892号公報に開示された方法に従ってナノバブル水作製装置ΣPM-5 (ベローズポンプ式) (シグマテクノロジー有限会社製)により空気ナノバブル水を作製し、純水によって100倍に希釈して測定用試料として用いた。液噴射ノズルとして、
図2に示す液衝突ノズル12を有するものを使用した。液衝突ノズル12に設ける貫通小孔の穴は、液衝突ノズル12を構成する筒の径方向断面と平行な同一平面上で対向するように、前記筒の周方向等間隔に6個で設けられており、前記筒の空洞に通じる部分の孔径が0.3mmである。また、参考用試料としてナノバブル作製前の純水を用いた。ナノバブル作製前の純水は、ナノバブルを含まない水に相当する。
【0071】
試料急速凍結装置Vitrobot Mark IV (FEI社製)により作製直後の前記空気ナノバブル水を急速凍結してナノバブルをアモルファス氷中に包埋した試料を作製し、観察用試料とした。試料厚さは200nmである。一方、ナノバブルを含まない水(純水)についても同じ試料急速凍結装置により急速凍結して参考用試料とした。試料厚さは200nmである。300keVの電子エネルギーを有するクライオ透過型電子顕微鏡Titan Krios (FEI社製)を用いて、試料温度約80Kにおいてアモルファス氷中に包埋されたナノバブルを直接観察した。観察に用いる電子線は、Low dose技術によって20 電子/Å2程度であり、撮影中の試料温度の上昇はほとんどなかった。
【0072】
図4に、空気ナノバブルを含む純水を凍結したアモルファス氷及び純水(ナノバブルを含まない水)を凍結したアモルファス氷について電子顕微鏡像の写真を示す。また、空気ナノバブル水については、電子顕微鏡写真の下にバブルの粒度分布(サイズ分散を示すヒストグラム)を示す。
【0073】
図4の左側に示す電子顕微鏡像の写真は、ΣPM−5によって作製後、ただちに観察された空気ナノバブルであり、写真中に観察される円形のコントラストがナノバブルである。画像処理の結果、平均粒径は7nmである。ヒストグラムの測定に用いたアモルファス氷の体積は3.2×10
-14 cc(400 nm×400 nm×200 nm厚さ)であり、その中にバブルは約260個含まれている。100倍に希釈したナノバブル水を観察していることから、このナノバブル水の空気ナノバブルの濃度は、8.1×10
17個/cc (ml)(81京個/cc (ml))であると評価される。それに対して、
図4の右側に示す電子顕微鏡像の写真はアモルファス氷でありコントラストの変化はなく、バブルが含まれない水であることが確認できる。このように、本発明による測定方法及び測定装置によって、水に含まれるナノバブルの存在を直接的に画像として確認することができるだけでなく、ナノバブルの粒子径、個数、粒度分布及び形態に関する情報を取得することができる。
【0074】
<実施例1>
空気に代えてオゾンを用いたことを除いては、参考例1を同様の装置を用いて、同じ方法によってオゾンナノバブルを含む水溶液を製造した。本実施例によるオゾンナノバブルを含む生理食塩水は、クライオ透過型電子顕微鏡Titan Krios (FEI社製)を用いて、上記と同じ条件と方法によって酸素ナノバブルの平均粒径及び密度を測定した結果、酸素ナノバブルの平均粒径及び密度は、それぞれ1〜10nm以下及び1×10
17個/cc(ml)以上であることが確認された。この水溶液を実施例1とする。
【0075】
<比較例1>
オゾンナノバブルを発生させる前の純水を比較例1として用いた。比較例1の水溶液は、
図4の右側に示すように、ナノバブルが含まれない水である。
【0076】
以上のようにして製造されたオゾンナノバブルを含む水溶液(実施例1)及び酸素ナノバブルを含まない水溶液(比較例1)を用いて細胞培養液を作製し、該細胞培養液中で血管平滑筋細胞の培養をおこなうときに細胞のアデノウイルス感染に対する防御効果を検証した。検証は、以下の方法で行った。
【0077】
ウシ胎仔血清(FBS)の10質量%を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)[DMEM10%FBS]を注入したガラス製の細胞培養用ウエルプレートに、血管平滑筋細胞を100000個を入れて播種を行った後、1晩インキュベーション(低温培養)を行ったものを2群準備し、それぞれ実施例1及び比較例1の検証のために使用した。他方で、ウイルス感染を起こさせるために使用するウイルスは、アデノウイルス浮遊液を作製し、二酸化炭素を含む孵卵器(インキュベータ)の中で一晩留置したものを使用した。ここで、アデノウイルス浮遊液を含むガラス製ウエルプレートを2群準備し、2つのウエルプレートにはあらかじめ実施例1のオゾンナノバブルを含む水溶液に2%FBSを含有する媒体、及び比較例1の水溶液からなるDMEM2%FBS媒体、をそれぞれ注入しておいた。
【0078】
次いで、1晩インキュベーションして細胞の培養を行った後の細胞培養用ウエルプレート中に存在する血管平滑筋細胞の培養上清の一部(細培養液の30体積%)を前記アデノウイルス浮遊液の同量で置換した後、さらに48時間培養(インキュベーション)した。細胞のウイルス感染状態は、インキュベーションの24時間後及び48時間後に前記ウエルプレートを蛍光顕微鏡によって観察し、写真撮影することにより確認した。仮に細胞がウイルスに感染される場合は、撮影した写真図において、感染した細胞の箇所に強く輝いた緑色の光を観測することができる。
【0079】
図5は、実施例1及び比較例1の水溶液を用いて作製した細胞培養液中のウイルス感染状態を示す写真図であり、(a)及び(b)にそれぞれ24時間後及び48時間後の結果を示す。
図5に示す写真撮影図において、点線で囲んだ部分がウイルス感染箇所である。
図5の(a)に示すように、24時間培養後は実施例1及び比較例1による両者の細胞培養液ともにウイルス感染が観測されなかった。その後の48時間の培養では、
図5の(b)に示すように、実施例1による細胞培養液はウイルス感染が観測されなかったのに対して、比較例1による細胞培養液においてウイルス感染箇所が3箇所観測された。このように、実施例1と比較例1との間にはウイルス感染率の違いが有意差でみられており、実施例1のオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液を使用することにより細胞のウイルス感染を抑制又は防止する効果が得られることが分かった。また、実施例1の水溶液を有する細胞培養液中には、比較例1の場合と同様に、48時間培養後でも細胞の損傷又は損害がみられず、細胞形態が保持されていることが確認できた。
【0080】
<比較例2>
前記特許文献1に開示された方法を参考にして、気泡径50〜500nmを有するオゾンナノバブルを含む水溶液(比較例2)を製造した。この水溶液にFBSを2%含有させた媒体を用いて、実施例1の場合と同じように、アデノウイルス浮遊液を、二酸化炭素を含む孵卵器(インキュベータ)の中で一晩留置した。次いで、実施例1と同様の方法に従って、1晩インキュベーションして細胞の培養を行った後の細胞培養用ウエルプレート中に存在する血管平滑筋細胞の培養上清の一部(細培養液の30体積%)を前記アデノウイルス浮遊液の同量で置換した後、さらに48時間培養(インキュベーション)した。細胞のウイルス感染状態は、インキュベーションの24時間後及び48時間後に細胞培養ウエルプレートを蛍光顕微鏡によって観察し、写真撮影することにより確認した。
【0081】
以上の方法によって検証を行った結果、比較例2の水溶液を含む細胞培養液は、48時間後でもウイルス感染に起因する強く輝いた緑色光が観測されず、実施例1と同じように殺菌又は抗菌の効果を奏することが分かった。しかしながら、比較例2の水溶液を含む細胞培養液中には、24時間後からすでに細胞が小さくなる傾向がみられ、48時間後では多くの細胞が死にかけているのを確認した。このように、比較例2(気泡径50〜500nmを有するオゾンナノバブルを含む水溶液)による細胞培養液は、殺菌性又は抗菌性を有するものの、細胞の損傷又は損害という問題の発生を避けることができないため、生体内組織の殺菌又は抗菌を行う用途には不適である。
【0082】
<比較例3>
前記比較例2で得られた水溶液を容器に入れ、栓をした状態で1ヶ月ほど室温で放置した後の水溶液(比較例3)を用いて、比較例2に示すものと同じ方法によって細胞培養液中で播種、培養した血管平滑筋細胞のウイルス感染状態を検証した。ウイルス感染状態の検証方法は、比較例2に示す方法と同じである。検証の結果、1ヶ月ほど室温で放置した後の前記水溶液を有する細胞培養液は、48時間培養後においてウイルス感染に起因する強く輝いた緑色光が観測され、前記比較例1と同じような結果が得られた。一方、細胞培養液中の細胞の損傷又は損害は観測されなかった。本比較例の水溶液を使用した場合にこのような結果が得られた理由は以下のように考えられる。
【0083】
前記比較例2で得られた水溶液を1ヶ月ほど室温に放置した本比較例の水溶液は、オゾンナノバブルの気泡径が保管中に徐々に大きくなる傾向にあるため、ナノバブルの密度(単位体積当たりの個数)の減少及びオゾンの揮発が促進される。保管期間中に揮発が促進されたオゾンは水溶液に溶解したり、容器中の空間に滞留しており、容器の栓を開けた時点で滞留していたオゾンがすぐに揮発することが考えられる。その結果、容器の栓を開けた後に取出される水溶液には、オゾン量が非常に少なくなった状態になる。それだけでなく、水溶液に含まれるナノバブルの密度の減少が顕著になるため、細胞培養液中において細胞のウイルス感染を防止する効果が失われたではないかと推定される。
【0084】
<実施例2>
特許第5555892号公報に開示された方法に従ってナノバブル水作製装置ΣPM-5 (べローズポンプ式) (シグマテクノロジー有限会社製)によりオゾンナノバブル水を作製した後、半月程度時間を経たオゾンナノバブルを純水によって100倍に希釈したものを測定試料として用いた。試料厚さは200nmである。この試料を実施例1と同じ試料急速凍結装置で急速凍結させた後、実施例1と同じクライオ透過型電子顕微によって試料温度約80Kにおいてアモルファス氷中に包埋されたナノバブルを直接観察した。観察に用いる電子線は、Low dose技術によって20電子/Å
2程度であり、撮影中の試料温度の上昇はほとんどなかった。
【0085】
この試料を用いて観察した電子顕微鏡像の写真及びその写真の下にバブルの粒度分布(サイズ分散を示すヒストグラム)を
図6に示す。
図6に示す画像は、ΣPM−5によって作製後、半月程度経たオゾンナノバブルを観察したものである。平均粒径は18nmであり、前記実施例1のオゾンナノバブルと比べてやや大きく、合体したことによりサイズの粗大化も起こっていると考えられる。ヒストグラムの測定に用いたアモルファス氷の体積は3.2×10
-14 cc(400 nm×400 nm×200 nm厚さ)であり、その中にバブルは約21個含まれている。100倍に希釈したナノバブル水を観察していることから、このナノバブル水のオゾンナノバブルの濃度は、8.6×10
16個/cc (ml)(約9京個/cc (ml))であると評価される。
【0086】
このようにして得られた実施例2の水溶液にFBSを2%で含有させた媒体を用いて、実施例1の場合と同じように、アデノウイルス浮遊液を二酸化炭素を含む孵卵器(インキュベータ)の中で一晩留置した。次いで、実施例1と同様の方法に従って、1晩インキュベーションして細胞の培養を行った後の細胞培養用ウエルプレート中に存在する血管平滑筋細胞の培養上清の一部(細培養液の30体積%)を前記アデノウイルス浮遊液の同量で置換した後、さらに48時間培養(インキュベーション)した。細胞のウイルス感染状態は、インキュベーションの24時間後及び48時間後に細胞培養用ウエルプレートを蛍光顕微鏡によって観察し、写真撮影することにより確認した。
【0087】
以上の方法によって検証を行った結果、実施例2の水溶液は、実施例1の場合と同じように、48時間において細胞培養液中にウイルス感染がみられず、さらに、細胞培養液中の細胞の損傷又は損害も観測されなかった。このように、オゾンナノバブルの平均粒径が30nm以下で、水溶液1ml当たりの密度が10
16以上であれば、オゾンナノバブルを含む水溶液を、安全で効果的な殺菌剤又は抗菌剤として体内組織の殺菌又は抗菌のために適用できることが確認できた。
【0088】
上記の実際例及び比較例は、本発明の酸素ナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液について説明したものであるが、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、細胞培養液以外にも、生理食塩水、輸液及び点眼薬のいずれかの液体の構成成分として使用することができる。その場合は、生理食塩水、輸液及び点眼薬のいずれかの液体を生体内組織(内臓器官、血管、眼等)に投与することにより、細胞培養液の場合と同様に、生体内組織の細胞等を損傷又は損害を与えないで、殺菌又は抗菌を行うことができる。
【0089】
<実施例3>
実施例1で製造されたオゾンナノバブルを含む水溶液と、実施例1で使用したナノバブル水作製装置ΣPM−5(ベローズポンンプ式)(シグマテクノロジー有限会社製)によって製造した酸素ナノバブルを含む水溶液とを有する水溶液を用いて、実施例1と同様の方法によって細胞培養液を作製し、該細胞培養液中で血管平滑筋細胞の培養を行うときに細胞のアデノウイルス感染に対する防御効果を検証した。
【0090】
本実施例で使用した酸素ナノバブル水は、クライオ透過型電子顕微鏡Titan Krios (FEI社製)を用いて、参考例1と同じ条件と方法によって平均粒径及び密度を測定した。
図7に、酸素ナノバブルを含む純水を凍結したアモルファス氷について電子顕微鏡像の写真を示す。
【0091】
図7において、写真の中央部付近に実線の円で囲った領域には平均粒径は3nm の暗いコントラストが認められる。また、写真の下部付近に点線の円で囲った領域には暗いコントラストが連続的につながって配列し、線のように観察される部分が存在しているが、これも酸素ナノバブルである。この結果から、3nmの平均粒径を有する酸素ナノバブルは、孤立して存在するのではなく、一部凝集した配列をとることが明らかになった。このアモルファス氷の体積1.8×10
−14 cc(300nm×300nm×200nm厚さ)中には酸素ナノバブルが360個含まれていることが分かり、酸素ナノバブル水を100 倍に希釈した水を用いて観察していることから、このナノバブル水の酸素ナノバブルの密度は、2×10
18個/cc(ml)(200 京個/cc(ml))であると評価される。
【0092】
本実施例において、実施例1で製造したオゾンナノバブルを含む水溶液と、前記の方法で製造した酸素ナノバブルを含む水溶液とを配合比率を体積比で10:90の割合で混合した。このようにして得られた水溶液にFBSを2%で含有させた媒体を用いて、実施例1の場合と同じように、アデノウイルス浮遊液を、二酸化炭素を含む孵卵器(インキュベータ)の中で一晩留置した。次いで、実施例1と同様の方法に従って、1晩インキュベーションして細胞の培養を行った後の細胞培養用ウエルプレート中に存在する血管平滑筋細胞の培養上清の一部(細培養液の30体積%)を前記アデノウイルス浮遊液の同量で置換した後、さらに48時間培養(インキュベーション)した。細胞のウイルス感染状態は、インキュベーションの24時間後及び48時間後に細胞培養用ウエルプレートを蛍光顕微鏡によって観察し、写真撮影することにより確認した。
【0093】
以上の方法によって検証を行った結果、本実施例の水溶液は、実施例1の場合と同じように、48時間において細胞培養液中にウイルス感染がみられず、さらに、細胞培養液中の細胞の損傷又は損害も観測されなかった。このように、平均粒径が30nm以下で、水溶液1ml当たりの密度が10
16以上であれば、オゾンナノバブル及び酸素ナノバブルの両者を含む水溶液を、安全で効果的な殺菌剤又は抗菌剤として体内組織の殺菌又は抗菌のために適用できることが確認できた。
【0094】
<実施例4>
オゾンナノバブルを含む水溶液と酸素ナノバブルを含む水溶液と混合して得られた前記実施例3の水溶液は、上記で検証したような殺菌又は抗菌の効果の他にも、癌の治療及び予防に適用が期待される。その根拠について、酸素ナノバブル使用液を用いて癌細胞の増殖及び肥大化を抑制又は防止する効果を検討した次の検証例に基づいて説明する。
【0095】
前記実施例3と同じ方法で製造された平均粒径が3nmの酸素ナノバブルを含む水溶液を用いて血清と培地とを有する細胞培養液を作製し、この細胞培養液を注入したガラス製の細胞培養用ウエルプレート中に、癌細胞として肺扁平上皮版細胞株EBC1の肺がん細胞を入れた後、低酸素状態で所定時間留置するときに前記肺がん細胞によって誘導されるタンパク(HIF1a)の発現の程度を調べた。
【0096】
図8に、癌細胞の培養を行ったときに使用した市販の低酸素培養キットを示す。
図8に示すように、この低酸素培養キットはラインA及びラインBの各線に沿ってクリップ14、15が設けられており、ガスバリア性パウチ袋16の内部を2つの空間に区分けすることにより、それぞれの空間をクリップ14、15によって密閉状態に保つことができる。ラインAの奥の方にはO
2センサ17が配置され、該O
2センサ17のすぐ横には培養液を満たした細胞培養用ウエルプレート18を載置し、ラインAとラインBとの間には、ガス濃度調整剤19を入れる。ガス濃度調整剤19は使用時にアルミ袋から開封して取り出し、ラインAより入口近くに置き、ラインBに設けたクリップ14を用いて密封する。それにより、ガスバリア性パウチ袋16の内部のO
2が短時間で吸収され、低酸素環境が創り出される。ガスバリア性パウチ袋16の内部のO
2濃度は、O
2センサ17の目盛を監視し、希望するO
2濃度に近づいた時点で細胞培養用ウエルプレート18の内部の空気をガスバリア性パウチ袋16の内部の空気と入れ替える。そして、O
2濃度が希望する値よりやや低くなった時点で、ラインAに設けるクリップ15によって封鎖してO
2の吸収を停止させる。ラインAとラインBとの間の空間内のO
2濃度は、ラインAに設けるクリップ15を用いて調整することができる。本実施例においては、ラインAとラインBとの間の空間内のO
2濃度が約1%となるように調整した。
【0097】
低酸素雰囲気で留置するときに前記肺がん細胞によって誘導されるタンパク(HIF1a)の発現の程度はウエスタンブロッティング(Western Blotting)法により測定した。ウエスタンブロッティング法とは、電気泳動の優れた分離能と抗原抗体反応の高い特異性を組み合わせて、タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出する手法であり、たんぱく質の検出や解析に利用される公知の測定方法である。本実施例では、前記肺がん細胞によって誘導されるタンパク(HIF1a)に加えて、細胞培養用ウエルプレート中の試料に確実にタンパク質が含まれていること、及びウエスタンブロッティング法で使用される総たんぱく量が一定であることを確認する目的で、タンパク発現のコントロール(基準)として前記肺扁平上皮版細胞株EBC1に含まれるb−actinのタンパク質についても測定を行った。
【0098】
本実施例で使用する酸素ナノバブルを含む水溶液に代えて、酸素ナノバブルを全く含まない水溶液を比較用試料として作製した。この比較例の試料を用いて、本実施例の酸素ナノバブル水溶液で行った方法に従って前記肺がん細胞によって誘導されるタンパク(HIF1a)の発現を検証した。前記肺がん細胞によって誘導されるタンパク(HIF1a)の発現の測定は、上記で述べたウエスタンブロッティング法で行った。
【0099】
図9に、O
2濃度が約1%である低酸素雰囲気で24時間及び48時間留置した後の酸素ナノバブル水溶液及び酸素ナノバブルを含まない水溶液について、HIF1a及びb−actinの各タンパク質の誘導結果を示す。
図9に示す「通常medium」及び「NB medium」は、それぞれ酸素ナノバブルを含まない水溶液(比較例)及び酸素ナノバブルを含む水溶液を意味する。
【0100】
図9はウエスタンブロッティング法による測定結果であり、図中に黒く写っている部分がHIF1a及びb−actinの各タンパク質の発現を示す部分である。図中の黒い部分が濃いほど、タンパク質の発現が強いことを示している。
図9に示すように、通常medium(比較例)は、低酸素雰囲気で24時間及び48時間留置すると黒い部分が濃く表れており、HIF1aの発現が顕著であった。それに対して、NB medium(酸素ナノバブルを含む水溶液)は黒い部分が薄いままであり、酸素ナノバブルが存在することにより低酸素雰囲気で誘導されるHIF1a誘導は大きく抑制されることが分かった。ここで、コントロール用のタンパク質として測定したb−actinは、測定誤差の範囲内で黒い部分がほぼ同じ濃さを示しており、酸素ナノバブルの有無に関係なく、両者のmediumの間でほとんど差異がなかった。
【0101】
このように、平均粒径が30nm以下の酸素ナノバブルを含む水溶液は、単独で使用しても癌細胞の増殖を抑える効果を十分に有することが確認できた。この水溶液に、さらに酸素ナノバブルと同じような平均粒径と密度を有するオゾンナノバブルを含む水溶液を併用することにより、オゾンナノバブル中のオゾンが活性酸素として機能するため、生体組織内に存在する癌細胞をアタックし、癌細胞を小さくする効果が生まれることが考えられる。オゾンのアタックにより小さくなった癌細胞は、酸素ナノバブルに含まれる酸素によって酸素濃度の高い好気性雰囲気が形成されるため、
図9に示した結果から推察されるように、癌細胞の増殖及び肥大化が抑えられる。これが、オゾンナノバブルを含む水溶液と酸素ナノバブルを含む水溶液とを混合して得られる本発明の水溶液が癌の治療及び予防に適用できるではないかと考える根拠である。この効果は、さらに実際の癌患者を用いて行う治療臨床例によって確認されることが期待される。
【0102】
以上のように、本発明のオゾンナノバブルを含む水溶液は、オゾンによる高い殺菌力又は抗菌力が安定的に持続できるだけでなく、オゾンを含んでも生体内組織の細胞等への侵襲性を低くし、細胞等の損傷又は障害を大幅に低減できる。また、本発明による製造方法により、30nm以下の平均粒径を有するオゾンナノバブルを大量に、且つ、安定的に製発生させることができるため、高い殺菌力又は抗菌力が安定して持続的に得られ、且つ、生体組織の細胞等への低侵襲性を図ることができる、オゾンナノバブルを含む水溶液を容易に製造することができる。そのような効果を有するオゾンナノバブルを含む水溶液は、従来技術では製造することが困難であり、本発明の製造方法によって初めて得られたものである。
【0103】
さらに、本発明によるオゾンナノバブルを含む水溶液を有する細胞培養液、生理食塩水、輸液又は点眼薬は、ウイルスや細菌による生体内組織の感染の治療やその予防に適用することができるだけでなく、癌の治療及び予防においても薬剤の一つとして適用できる可能性を有する。それにより、オゾンナノバブルを含む水溶液の医療分野への適用を大幅に広げることができる。