【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0044】
(製造例1)
下記に基づいて、各菌糸体を調製した。
乾熱済み試験管(18mm)に、モルトエキス10g、酵母エキス4g、ショ糖10g、水1リットル、寒天15gからなるMYS寒天培地を20mlずつ分注し、オートクレーブで121℃、20min滅菌し、滅菌シャーレに前記培地を流し入れた。固化した後、種菌プレートを滅菌済みコルクボーラー(7mm)で1ディスクくり抜き、作製したMYSプレートの中央に接種した。パラフィルムでプレートの周囲を覆い、25℃のインキュベーターで培養した。プレートの8割程に菌糸体が拡がった後、10℃の冷蔵庫において保存した。調製した菌糸体の種類を表1に示す。なお、菌糸体の重量は、菌糸体によって相違するが、1ディスクあたり約0.3mgであった。
【0045】
(分析定量方法)
(1)ポリフェノール量
ポリフェノール量は、フォーリン・チオカルト法によって測定した。
(a)培養物を凍結乾燥し、乾燥物をマルチビーズショッカー(安井機械株式会社製)を用いて、2,000rpmで90秒間粉砕した。試験管に粉砕物200mg、抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))10mlを入れ、シリコ栓をして50℃に設定したアルミブロックヒーターで保温し、10分間毎にボルテックスミキサーで約5秒間混合しつつ60分間抽出した。抽出液を冷却遠心機で25℃、5,000rpm又は10,000rpmで10分間遠心分離して上澄を回収し、これを抽出液とした。
(b)没食子酸一水和物0.1106gを蒸留水に溶かして100mlとし、没食子酸として1g/lの溶液を調製し、これを希釈して没食子酸溶液の0〜100mg/lの濃度シリーズを作製した。6本の試験管に蒸留水3ml、抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))0.5ml、各濃度の没食子酸溶液0.5ml、5倍に希釈したフェノール試薬を1ml加え、軽く混合した後、10%炭酸ナトリウム水溶液を1ml加え20回振り混ぜた。40℃、60分間暗所で静置した後、760nmにおける吸光度を測定し、検量線を作成した。
(c)前記抽出溶媒を1mlとしたコントロール溶液を作製し、没食子酸の検量線作成と同様の手順で前記(a)で調製した抽出液0.5ml用いて吸光度を測定した。没食子酸の検量線より、コントロール溶液を対照とし、抽出液のポリフェノール量を没食子酸に換算し求めた。なお、結果は、培養物(乾燥重量)100gに対する没食子酸量(mg/100g)で表示した。
【0046】
(2)抗酸化活性
抗酸化活性は、DPPHラジカル消去法で測定した。
(a)96穴マイクロプレートに、400μMのDPPH液と、0.2MのMESバッファー(pH6.0)と抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))とを1:1:1で混合した混合液150μlを分注し、抽出溶媒25μl、各濃度のトロロックス溶液(0、40、80、120、160、200μM)25μlを加えて混合し、室温で試料添加後から20分間放置した。520nmにおける吸光度を測定し、トロロックスの検量線を作成した。
(b)トロロックス溶液に代えて、前記したポリフェノール量の測定方法の(a)工程で得た抽出液25μlを用いて、吸光度を測定した。測定値をトロロックス量に換算し、抗酸化活性値とした。なお、測定値は、培養物(乾燥重量)100gに対するトロロックス量(μmol/100g)で表示した。
【0047】
(3)TLC
(a)薄層プレート(メルク株式会社、5×10cm、シリカゲル60F254)を使用した。展開溶媒は、クロロホルム:メタノール=2:1溶液とした。
(b)試料は、標準物質溶液1μl、サンプル溶液3μlをスポットした。
(c)検出は、紫外線254nmの照射により行った。また、DPPH/MeOH0.02%(w/v)溶液を噴霧して、抗酸化物質を検出した。
【0048】
(実施例1)
(1)キノア種子(山梨県産)を水洗し、70℃で48hr乾燥した。前記水洗キノア種子の一部をコーヒーミル(ナショナル株式会社製、NC−S85)で16メッシュ以上に粉砕した。300ml容三角フラスコに、前記キノア粉砕物を2.5g、水道水を100mlを加え、110℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粉砕液体培地を調製した。
(2)前記粉砕液体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表1に示すものを10ディスクずつ接種し、14日間、25℃、100rpmの条件下で回転振とう培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に回転振とう培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、前記測定法により、ポリフェノール量および抗酸化能を評価した。結果を表1に示す。なお、表中「−」は未測定を示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を
図1に示す。
【0049】
表1において抗酸化能が未測定の菌糸体は、キノア種子を資化できず生育しなかった菌糸体である。
図1に、菌糸体が生育して得た培養物のポリフェノール当りの抗酸化能を示す。
図1に示すように、菌糸体の種類に応じて培養物(乾燥重量)100g当り、ポリフェノール量が400〜900mgであり、抗酸化能が1000μmol以上の群(I)と、ポリフェノール量が200〜1000mgであり、抗酸化能が1000μmol以下の群(II)と、との2グループに大別された。群(I)に属するのは、ツクツクホウシタケNBRC 33259、スエヒロタケNBRC 4929、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 33210、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、およびマンネンタケYFH 05001からなる7菌株であった。群(II)では、ポリフェノール量と抗酸化活性とが比例しない傾向が観察された。
【0050】
(実施例2)
(1)100ml容三角フラスコに、実施例1で使用した水洗したキノア種子10g、水道水18.1ml(水分含量65%)を加え、121℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粒子固体培地を調製した。
(2)前記粒子固体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表1に示すものを2ディスクずつ接種し、14日間、25℃のインキュベーターで静置培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に静置培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量およびトロロックス換算値を算出した。結果を表1に示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を
図2に示す。
【0051】
表1から、マイタケ、アガリクス、ナメコ、ヤマブシタケなど、粉砕液体培地で生育しない菌糸体は、粒子固体培地でも生存することができない傾向があった。一方、ヒラタケYFH 060301、ヒラタケ信州(JA長野)、ヒラタケNBRC 6515、フクロタケNBRC 30010、カワラタケMAFF 420002、ヒラタケSKB 019は、粒子固体培養では、未接種培養物よりもポリフェノール産生量が少ないが、粉砕液体培地による培養物にはポリフェノールが産生される。なお、粉砕液体培地で生育した菌糸体について、得られた培養物のポリフェノール当りのトロロックス換算値を評価したところ、
図2に示すように、ポリフェノール量の増加に伴いトロロックス換算値で示される抗酸化活性が増加する傾向が示された。
【0052】
(実施例3)
(1)キノア種子(山梨県産)を水洗し、70℃で48hr乾燥した。前記水洗キノア種子の一部をコーヒーミル(ナショナル株式会社製、NC−S85)で16メッシュ以上に粉砕した。100ml容三角フラスコに、前記キノア粉砕物10g、水道水17.6ml(水分含量65%)を加え、110℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粉砕固体培地を調製した。
(2)前記粉砕固体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表2に示すものを2ディスクずつ接種し、14日間、25℃のインキュベーターで静置培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に静置培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量および抗酸化能を評価した。結果を表2に示す。なお、表2には参考のため、実施例1の数値を併記した。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を
図3に示す。なお、
図3には参考のため、実施例1の結果も併記した。
【0053】
(実施例4)
(1)300ml容三角フラスコに、実施例1で使用した水洗したキノア種子2.5g、水道水100mlを加え、121℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粒子液体培地を調製した。
(2)前記粒子液体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表2に示すものを10ディスクずつ接種し、14日間、25℃、100rpmの条件下で回転振とう培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に回転振とう培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量およびトロロックス換算値を算出した。結果を表2に示す。表2において、「P」はポリフェノール量を、「抗酸化」は、トロロックス換算値を示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を
図3に併記した。
【0054】
(実施例5)
(1)実施例2と同様にして粒子固体培地を調製した。
(2)前記粒子固体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表2に示すものを2ディスクずつ接種し、14日間、25℃のインキュベーターで静置培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に静置培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量およびトロロックス換算値を算出した。結果を表2に示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を
図3に併記した。
【0055】
表2から、培養物(乾燥重量)100gに換算した場合、最も多くのポリフェノールを産生したのは、オオウズラタケNBRC 30339による粒子液体培地を使用した培養物であった。同菌糸体を使用して粒子固体培地を使用した場合は288mg、粉砕固体培地を使用した場合は285mgであるから、粒子液体培地を使用した1390mgはこれらの約5倍多く、粉砕液体培地を使用した場合の661mgと比較しても約2倍も多い。また、抗酸化活性も、粒子液体培地にオオウズラタケNBRC 30339を接種することで、培養物に含まれる抗酸化活性は3789μmolと高値を示した。粉砕固体培地や粒子固体培地を使用する場合と比較して約4倍、粉砕液体培地を使用する場合と比較しても約3倍も抗酸化活性が高い。
【0056】
図3は、各培養物に含まれるポリフェノール当りのトロロックス換算値で示される抗酸化活性を、培地毎に区分した図である。培養物に含まれるポリフェノール量は、使用する培地によって相違し、固体培地よりも液体培地を使用する場合に、培養物(乾燥重量)100g当りのポリフェノール産生量が多い結果となった。ポリフェノール産生量を粉砕液体培地と粒子液体培地とで比較すると、粉砕液体培地>粒子固体培地となる菌糸体は、マンネンタケYFH 05001、エノキタケNBRC 5366、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、ツクツクホウシタケNBRC 33259となった。一方、粒子固体培地>粉砕液体培地となる菌糸体は、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210、オオウズラタケNBRC 30339であった。
【0057】
各菌糸体毎に使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値を評価し、ポリフェノール量に対する抗酸化活性(トロロックス換算値)の結果を
図4〜
図13に示す。スエヒロタケNBRC 4929を除いて、粉砕固体培地や粒子固体培地を使用する場合と比較して、粉砕液体培地や粒子液体培地を使用する場合にポリフェノール産生量が増加する傾向にあった。また、マンネンタケYFH 05001、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、オオウズラタケNBRC 30339およびツクツクホウシタケNBRC 33259に関しては、何れの培地で培養した場合も、ポリフェノール量の増加に比例して抗酸化活性が増加する傾向にあった。一方、エノキタケNBRC 5366、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210は、ポリフェノール量と抗酸化活性とが比例しない傾向にあり、使用する培地によって産生されるポリフェノール種が異なることが示唆された。
【0058】
(実施例6)
表2に示す菌糸体の中から、抗酸化活性値が高い培養物として、オオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210、および未接種の粒子液体培養による培養物を用いてTLCを行った。標準物質として、ケンフェロールとクエルセチンとを使用した。UV照射による検出後のクロマトグラムを
図14に示す。また、DPPH/MeOH溶液を噴霧したクロマトグラムを
図15に示す。
図14、
図15において、Sは標準物質を、Bは未接種の培養物を、1はオオウズラタケNBRC 30339の培養物を、2はスエヒロタケNBRC 4929の培養物を、3はエノキタケNBRC 33210の培養物を示す。
【0059】
図14より、未接種の培養物には、クエルセチンが含まれるが、ケンフェロールの含有量は極めて少ない。一方、オオウズラタケNBRC 30339とスエヒロタケNBRC 4929の培養物には、ケンフェロールとクエルセチンとが存在し、エノキタケNBRC 33210の培養物にはクエルセチチンが含まれていた。
図15より、未接種の培養物にはケンフェロールとクエルセチンの何れも含まれていないが、オオウズラタケNBRC 30339とスエヒロタケNBRC 4929の培養物には、ケンフェロールが存在した。しかしながら、いずれの培養物にもクエルセチンは含まれていなかった。一方、ケンフェロールおよびクエルセチン以外の部分にスポットに抗酸化反応が検出されたことから、ケンフェロールとクエルセチン以外の抗酸化物質が産生されたと考えられる。なお、キノア種子にはケンフェロール配糖体が存在しているため、オオウズラタケNBRC 30339とスエヒロタケNBRC 4929の培養により、本来含まれていたケンフェロール配糖体が、発酵により加水分解されて糖が切り離され、ケンフェロールのアグリコンが形成されたと考えられる。
【0060】
(実施例7)
実施例4に従いキノア粒子液体培地を調製し、オオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体をそれぞれ10ディスク仕込み、温度25℃、100rpmで14日間、回転振とう培養し、実施例4と同様にしてポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表4に示す。
次いで、キノア粒子液体培養物を凍結乾燥し、コーヒーミルで粉砕した。
実施例1のキノア種子に代えてこの粉砕物を使用し、実施例1と同様にして粉砕液体培地を調製した。具体的には、コーヒーミル粉砕物2.5g、水道水100mlを乾熱滅菌済み300ml容三角フラスコに入れ、オートクレーブで110℃、15分間滅菌し、放冷した。このように調製した粉砕液体培地に、実施例1と同様にしてオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体を10ディスク接種して培養し、培養物のポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。このハイブリッド培養の結果を表3に示す。
表3に示すように、オオウズラタケ、スエヒロタケ、エノキタケの菌糸体は何れもハイブリッド培養により生育することができた。また、スエヒロタケおよびエノキタケは、ハイブリッド培養によりポリフェノール量および抗酸化活性を増加させることができた。
【0061】
(実施例8)
モルトエキス10g、酵母エキス4g、ショ糖10g、水1リットルからなるMYS液体培地100mlにオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体をそれぞれ10ディスク接種し、温度25℃、100rpmで14日間、回転振とう培養した。次いで、培養物を2日間、凍結乾燥処理を行い、粉末化した。なお、オオウズラタケおよびエノキタケの培養物は、凍結乾燥処理によって十分に乾燥しなかったため、シャーレに移して80℃で1日乾燥処理を行い、粉砕した。次いで粉砕物を抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))10mlで抽出した。抽出物について、実施例1と同様にしてポリフェノールおよび抗酸化活性を測定した。結果を表4に示す。また、菌糸体を添加しない培地についても同様に操作し、ポリフェノール量と抗酸化活性を測定した。また、MYS液体培地に代えて実施例4で調製したキノア粒子液体培養を使用し、オオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体をそれぞれ10ディスク接種し、温度25℃、100rpmで14日間、回転振とう培養し、実施例4と同様にしてポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表4に示す。
表4に示すように、キノア粒子液体培地で培養した場合は、菌糸体の接種によりポリフェノール量および抗酸化活性が上昇した。一方、MYS培地を使用してスエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210を培養すると、ポリフェノール量と抗酸化活性が未接種よりも低下した。このことは、菌糸体の生育に際してポリフェノールが消費されることを意味する。消費の程度は、菌糸体によって相違し、オオウズラタケNBRC 30339は生育に際しポリフェノールの消費量が少ないことが判明した。生育の際のポリフェノール消費量の相違により、培養液に含まれるポリフェノール量が相違し、オオウズラタケNBRC 30339の培養によりポリフェノール含有量が高く、抗酸化活性に優れる培養物が得られる一因と推定される。
【0062】
(実施例9)
実施例4と同様にしてキノア粒子液体培地を調製した。この培地に菌糸体としてオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210を使用し、菌糸体の接種量を、1ディスク(キノアの0.012質量%)、5ディスク(キノアの0.06質量%)、10ディスク(キノアの0.12質量%)、20ディスク(キノアの0.24質量%)に変更した以外は実施例4と同様に操作した。培養液のポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表5に示す。
表5に示すように、スエヒロタケNBRC 4929およびオオウズラタケNBRC 30339では、キノアの0.012質量%の菌糸体を添加した培地で、ポリフェノール量が高値を示し、抗酸化活性も高い傾向が観察された。一方、エノキタケNBRC 33210は、接種する菌糸量とポリフェノール産生量との間に大きな相関は観察されず、キノアの0.012〜0.24質量%の間で得られた培養物中のポリフェノール量および抗酸化活性は、略近似する値であった。なお、培養終了後の菌糸体の生育状況の概観に大きな相違は観察されなかった。菌糸体の種類によって相違するが、接種量が多いと、ポリフェノール量および抗酸化活性が培養終了前に最大値を迎える可能性があると推定された。
【0063】
(実施例10)
キノア種子の種皮を精米機で除去して脱皮キノア種子を調製し、この脱皮キノア種子を使用した以外は実施例4と同様にして脱皮キノア粒子液体培地を調製した。この脱皮キノア粒子液体培地に、実施例4と同様にしてオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210を培養し、培養物に含まれるポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表6に示す。なお、脱皮処理せずに培養し、同様にポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。この結果も表6に記載する。
脱皮キノアを使用すると菌糸体を接種しない培地のみ、ポリフェノール量および抗酸化活性が低下した。一方、オオウズラタケNBRC 30339およびスエヒロタケNBRC 4929は、キノアの脱皮処理によりポリフェノール量および抗酸化活性が上昇した。なお、エノキタケNBRC 33210は、脱皮によりポリフェノール量が増加したが、抗酸化活性は低下した。なお、オオウズラタケNBRC 30339の培養物をTLC分析してケンフェロールを検出したところ、脱皮によりケンフェロール量が増加することが確認された。従って、脱皮によりケンフェロールの生成が促進され、抗酸化能が増加すると推定された。なお、キノアの種皮にはサポニンが含まれており、脱皮処理によりサポニンが除去される可能性がある。キノア種子に含まれるサポニンは苦味があるため、サポニンを除去し、かつポリフェノール量および抗酸化活性の高い培養液が得られる脱皮キノアを使用する培養は、食品や化粧品製造において有用である。
【0064】
(実施例11)
実施例10で脱皮したキノア種子を更に精白処理した。山本タテ形精米機ライスパルを用いて、キノア粒子を未精米を0とし、精白度を1から3の3段階で処理した。各キノア粒子を用いて、実施例4と同様にしてキノア粒子液体培地を調製し、オオウズラタケNBRC 30339を10ディスク接種し、25℃、100rpmで14日間回転振とう培養を行った。培養後の培養液に含まれるポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表7に示す。表7における「増加量」とは、未接種の各精製度の結果との差分である。なお、キノア粒子表面を、デジタルマイクロスコープを用いて観察したところ、精白度1の表面は未処理物と大きな相違は観察されなかったが、精白度2では粒子表面の凹凸が殆どなくなり、精白度3では、粒子自体が小径化した。また、粒子液体培地には粒子が確認できるが、培養を開始すると、精白度にかかわらず培養終了時には粒子が存在せず白い懸濁液となっていた。
表7に示すように、キノア粒子液体培地のポリフェノール量および抗酸化活性は、キノア精白度が上昇するにつれ低下した。一方、オオウズラタケNBRC 30339の培養物は、キノアを精白度0〜2に処理するよりも精白度3とする場合に抗酸化活性が上昇した。
【0065】
(実施例12)
キノア種子に代えて、黒米、赤米を使用して粒子固体培地を調製した。赤米の最終水分含量が55%(w/w)、黒米の最終水分含量が50%(w/w)となるように水道水を添加し、赤米は115℃にて、黒米は120℃にてそれぞれ15分間オートクレーブで殺菌した後放冷した。この培地にオオウズラタケNBRC 30339を2ディスク接種し、25℃で14日間静置培養を行った。なお、培養7日目に培地の撹拌を行った。培養液のポリフェノール量と抗酸化活性を測定した。結果を表8に示す。黒米、赤米共にこれを培地に使用してオオウズラタケを培養することで、ポリフェノール量および抗酸化活性が増加した。特に、赤米の増加量が優れることが判明した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
【表8】