特許第6597992号(P6597992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6597992ポリフェノール含有培養物の製造方法およびポリフェノール含有培養物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597992
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】ポリフェノール含有培養物の製造方法およびポリフェノール含有培養物
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/22 20060101AFI20191021BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20191021BHJP
   A61K 36/07 20060101ALN20191021BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20191021BHJP
【FI】
   C12P7/22
   C12N1/14 G
   !A61K36/07
   !A61K35/74 G
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-164528(P2014-164528)
(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-57050(P2015-57050A)
(43)【公開日】2015年3月26日
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-168402(P2013-168402)
(32)【優先日】2013年8月13日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年2月14日国立大学法人山梨大学甲府キャンパスにおいて開催された、平成25年度山梨大学生命環境学部生命工学科の卒業論文発表会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】599047125
【氏名又は名称】株式会社シャローム
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】河波 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中村 和夫
(72)【発明者】
【氏名】武藤さつき
(72)【発明者】
【氏名】石川 鈴菜
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−097496(JP,A)
【文献】 特表2010−514740(JP,A)
【文献】 特開2010−124807(JP,A)
【文献】 特開2009−051803(JP,A)
【文献】 特開2007−189951(JP,A)
【文献】 特開平11−113513(JP,A)
【文献】 特産種苗,2010年,No.8,pp.32-36
【文献】 “黒米甘酒☆仕込みました”, [online], 2012.3.2, [2018.6.20 検索], インターネット<URL: https://blog.goo.ne.jp/zyouzou/e/f9c630b8dc90e2bede9c06675443caea>
【文献】 日本食品科学工学会誌,2011年,Vol.58, No.12,pp.576-582
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類と、前記穀類の1.2〜100質量倍の水とを含む培地でエノキタケ、スエヒロタケ、キクラゲ、ツクツクホウシタケ、およびオオウズラタケのいずれか1種以上に由来する担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、
前記担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体に前記穀類を資化させ、
培養液にポリフェノールを産生させることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物の製造方法。
【請求項2】
前記穀類は、未粉砕の穀類、穀類の脱皮物、および穀類またはその脱皮物の粉砕物とからなる群から選択される1種であることを特徴とする、請求項1記載のポリフェノール含有培養物の製造方法。
【請求項3】
前記未粉砕の穀類またはその穀類の脱皮物と、その20〜100質量倍の水と含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、
得られた培養物を乾燥し及び粉砕して粉砕物を得て、
得られた粉砕物その20〜100質量倍の水と含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養することを特徴とする、請求項2記載のポリフェノール含有培養物の製造方法。
【請求項4】
前記菌糸体が、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、ツクツクホウシタケNBRC 33061およびツクツクホウシタケNBRC 33259からなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリフェノール含有培養物の製造方法。
【請求項5】
前記菌糸体の接種量は、前記穀類の0.001〜0.2質量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリフェノール含有培養物の製造方法。
【請求項6】
キノア種子と、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、ツクツクホウシタケNBRC 33061およびツクツクホウシタケNBRC 33259からなる群から選択される1種以上の菌糸体との培養物であって、
ポリフェノール量が、前記培養物(乾燥重量)100g当り、没食子酸換算で400mg以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物。
【請求項7】
前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で1000μmol以上であることを特徴とする、請求項6記載のポリフェノール含有培養物。
【請求項8】
前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で400を超え1000μmol未満であることを特徴とする、請求項6記載のポリフェノール含有培養物。
【請求項9】
有色素米と、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、ツクツクホウシタケNBRC 33061およびツクツクホウシタケNBRC 33259からなる群から選択される1種以上の菌糸体との培養物であって、
ポリフェノール量が、前記培養物(乾燥重量)100g当り、没食子酸換算で300mg以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物。
【請求項10】
前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で1500μmol以上であることを特徴とする、請求項9記載のポリフェノール含有培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類を担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体で資化させ、培養液中にポリフェノールを産生させることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物の製造方法、およびポリフェノール含有培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
飽食や欧米型の食事への思考変化により、ガン、心疾患、糖尿病に代表される生活習慣病が増加し、活性酸素による障害がこれら疾病の一因と考えられている。過剰に摂取された活性酸素が生体組織や細胞を傷つけ、各種の疾病や障害を引き起こす。食事を介して酸化防止力を有する成分を摂取することは、生活習慣病の予防や抑制に効果がある。食物から摂取しうる抗酸化物質としてポリフェノールがあり、例えば、ブドウやイチゴに含まれるアントシアニン類、緑茶に含まれるカテキン、レモンの果実に含まれるエリオシトリン、ニンジンに含まれるカロテノイド色素、トマトやスイカに含まれるリコペン、ゴマに含まれるリグナン類などがある。
【0003】
植物は太陽光下でも紫外線の傷害を受けることなく生育することができ、このような環境に対する耐性は、植物がポリフェノールなどの活性酸素抑制成分を含有するためと考えられている。近年、南米原産のキノア(Chenopodium quinoa Willd.)に注目が集まっている。キノアは、アカザ科の植物で、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維に富み、アミノ酸バランスにも優れる擬穀類である。非特許文献1では、キノア種子のメタノール水抽出物から、ケンフェロールやクエルセチンなどのフラボノール配糖体を単離している。なお、クエルセチンは構造中に5つの水酸基を含み、ケンフェロールは4つの水酸基を含むポリフェノールである。クエルセチンはビタミンPの一部であり、抗酸化作用のほか、抗炎症作用もあるといわれている。また、ケンフェロールやケンフェロール配糖体は、抗酸化作用のほかに抗炎症、抗微生物、抗がん、抗糖尿病、抗骨粗鬆症、抗不安、鎮痛作用などを有するといわれている。
【0004】
ポリフェノール成分を富化する試みとして、液体培養担子菌の菌糸体、培養濾液またはそれらの処理物を加熱し、該菌糸体、培養濾液または処理物中のポリフェノール含量を増大させる方法がある(特許文献1)。担子菌類のポリフェノール含有量は少なく、充分な効果を期待できないため、加熱により、担子菌類中のポリフェノール含有量を増大するというものである。アガリクス・ブラゼイに属するハラタケや、マイタケ、シイタケ、霊芝、シメジ、ツクリタケ、メシマコブ、ヤマブシタケ、エノキなどを、酵母エキス、モルトエキスおよび蔗糖を含む液体培地に植菌して培養し、菌糸体や培養濾液を回収した後に、40〜150℃の温度で2時間から2週間加熱処理すると、前記加熱処理を行わない場合と比較して、ポリフェノール含量が2〜3倍に増加するという。
【0005】
また、加工時に廃棄される穀類や擬穀類の外皮に含まれるポリフェノールを有効利用する方法として、外皮付き穀物を加圧下または加熱下に水に浸漬することでポリフェノール成分を増加させると共に、外皮から内側に浸透移行させ、内側の可食部にポリフェノール成分を富化させるという方法もある(特許文献2)。例えば、外皮付きコムギを0.2MPaの加圧または20〜60℃の加熱下に水に浸漬すると可食部にポリフェノールが移行するため、処理後のコムギを製粉すれば、ポリフェノール含有量が多いコムギ粉を製造しうるという。擬穀類としてキノアが例示されている。
【0006】
更に、植物構成成分及び/又は植物抽出物を圧搾し、及び/又は抽出して発酵ブロスに加工し、この発酵ブロスに微生物を接種して発酵させ、発酵終了後に活性成分を取り出すことを特徴とする、医薬活性成分の製造方法もある(特許文献3)。実施例8では、キノア種子の分散液にケフィール培養物を添加して発酵させ、発酵ブロスを70〜80℃に15分間加熱後、遠心および濾過して得た溶液を凍結乾燥している。酸化ストレスの指標として、ヒト線維芽細胞にUVA照射した際の細胞光保護効果を評価した結果、前記培養物は、UV照射や環境毒素などの酸化ストレスに有用である、という。
【0007】
また、植物繊維成分を含有する培地を用いて担子菌等の菌糸体を培養し、この培養物からの抽出物を主成分とする抗酸化機能増強剤もある(特許文献4)。主成分は、植物組織中のヘミセルロース、セルロース、リグニンなどを担子菌や子嚢菌の出すパーオキシエターゼ、セルラーゼなどの酵素で酸化分解および縮合を起こして変性した水溶性リグニン水溶性成分に、ヘミセルロースの主成分であるペントースを主体とした多糖が複雑に結合した物質である。強いフリーラジカル消去活性を示し、マクロファージから誘導産生された一酸化窒素も消去しうるという。実施例では、バガスに椎茸菌を接種して4ヶ月培養したところ、培養物のフリーラジカル消去活性が確認されたという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−269189号公報
【特許文献2】特開2010−63454号公報
【特許文献3】特開2005−521649号公報
【特許文献4】特開平11−228441号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】http://www.tokusanshubyo.or.jp/jouhoushi08/j08-13.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガン、動脈硬化、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、糖尿病などの活性酸素が一因とされる疾病に対し、経口摂取によりまたは外科的投与その他により活性酸素の傷害を抑制できれば便宜である。抗酸化物質としてポリフェノールがある。前記特許文献2によれば、廃棄部分に含まれるポリフェノールを可食部に移行させて有効利用することができるという。しかしながら、廃棄物を有効利用しうる点で優れるが、ポリフェノールの含有量を増加させるものではない。
【0011】
また、前記特許文献1は、担子菌を培養し、担子菌体や培養濾液に含まれるポリフェノール含量を2〜3倍に増加させるものである。特許文献1の実施例1では、アガリクスの培養ろ液を80℃で24時間、加熱処理しているが、加熱処理しない場合のポリフェノール含有量が100ml当り18.9mgであるのに対し、加熱処理によって26.2mgに増加させうるに過ぎない。従って、ポリフェノール含有量をより増加しうる培養方法の開発が望まれる。
【0012】
また、前記特許文献3は、キノア種子の分散液にケフィール培養物を添加して発酵させ、酸化ストレスに有用な発酵ブロスを得るというものであるが、抗酸化性物質はポリフェノールではなくその効果も充分ではない。従って、より抗酸化力に優れる培養方法の開発が望まれる。また、前記特許文献4は、リグニンを含有する植物を資化させるものであり、バガス、トウモロコシの茎葉、小麦ふすま、稲藁、熊笹、竹などを原料とし、更に、米糠、乾燥酵母、イースト菌などを培地に添加し、抽出物のDPPHラジカル活性などを評価している。しかしながら、培養条件毎の活性値が記載されていないため、培養方法による活性値の相異が不明である。また、特許文献4で産生される抗酸化物質は、水溶性リグニン水溶性成分に多糖が複雑に結合した物質であり、ポリフェノールではない。ポリフェノールは種類も多く、抗酸化活性のほかに、抗炎症作用や抗癌作用その他の効果も有する。したがって、ポリフェノール含有量が多く抗酸化力に優れる培養物の製造方法、およびポリフェノール含有量が高く、抗酸化活性に優れるポリフェノール含有培養物の開発が望まれる。
【0013】
上記現状に鑑み、本発明は、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類を資化原料とし、担子菌などの菌糸体と共に培養してポリフェノール量および抗酸化力を増加させることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物を製造する方法、およびポリフェノール含有培養物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはキノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類と水とからなる培地に担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を接種し、前記穀類を前記菌糸体で資化させたところ、培養液中にポリフェノールが産生されること、培地に含まれる水の量によって、生成されるポリフェノール量やポリフェノールの種類が相異することを見出した。更に、培地に使用する穀類をそのまま粒子として使用し、または脱皮(だっぷ)して使用し、またはこれらの粉砕物を使用することでポリフェノール含有量や抗酸化活性が相違すること、菌糸体の種類、添加量、培地の種類などを選択することでポリフェノール含有量やポリフェノール量に対する抗酸化活性の異なるポリフェノール含有培養物を製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち本発明は、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類と、前記穀類の1.2〜100質量倍の水とを含む培地でエノキタケ、スエヒロタケ、キクラゲ、ツクツクホウシタケ、およびオオウズラタケのいずれか1種以上に由来する担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、
前記担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体に前記穀類を資化させ、
培養液にポリフェノールを産生させることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物の製造方法を提供するものである。
【0016】
また本発明は、前記穀類が、未粉砕の穀類、穀類の脱皮物、および穀類またはその脱皮物の粉砕物とからなる群から選択される1種であることを特徴とする、前記ポリフェノール含有培養物の製造方法を提供するものである。
【0017】
また本発明は、前記未粉砕の穀類またはその穀類の脱皮物と、その20〜100質量倍の水とを含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、
得られた培養物を乾燥し及び粉砕して粉砕物を得て、
得られた粉砕物にその20〜100質量倍の水とを含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養することを特徴とする、前記ポリフェノール含有培養物の製造方法を提供するものである。
【0019】
また本発明は、前記菌糸体が、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150オオウズラタケNBRC 30339、ツクツクホウシタケNBRC 33061およびツクツクホウシタケNBRC 33259からなる群から選択される1種以上である、前記ポリフェノール含有培養物の製造方法を提供するものである。
【0020】
また本発明は、前記菌糸体の接種量が、前記穀類の0.001〜0.2質量%である、前記ポリフェノール含有培養物の製造方法を提供するものである。
【0021】
また本発明は、キノア種子と、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、ツクツクホウシタケNBRC 33061およびツクツクホウシタケNBRC 33259からなる群から選択される1種以上の菌糸体との培養物であって
ポリフェノール量が、前記培養物(乾燥重量)100g当り、没食子酸換算で400mg以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物を提供するものである。
【0022】
また本発明は、前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で1000μmol以上であることを特徴とする、前記ポリフェノール含有培養物を提供するものである。
【0023】
また本発明は、前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で400を超え1000μmol未満であることを特徴とする、前記ポリフェノール含有培養物を提供するものである。
【0024】
また本発明は、有色素米と、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、ツクツクホウシタケNBRC 33061およびツクツクホウシタケNBRC 33259からなる群から選択される1種以上の菌糸体との培養物であって
ポリフェノール量が、前記培養物(乾燥重量)100g当り、没食子酸換算で300mg以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物を提供するものである。
【0025】
また本発明は、前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で1500μmol以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類を担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体で資化させることで、抗酸化活性に優れるポリフェノールを含む培養物を製造することができる。しかも、使用する培地の水分含有量を変化させ、および穀類の粒子径などを調整することで、ポリフェノール量を増加させ、またはポリフェノールの種類を変化させ、ポリフェノール量が高く、およびポリフェノール量に対する抗酸化活性量が異なるポリフェノール含有培養物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1の結果を示す図である。粉砕液体培地を使用して種々の菌糸体を培養して得た培養物に含まれるポリフェノール量と抗酸化活性との関係を示す。
図2】実施例2の結果を示す図である。粒子固体培地を使用して種々の菌糸体を培養して得た培養物に含まれるポリフェノール量と抗酸化活性との関係を示す。
図3】実施例1、実施例3〜実施例5の結果を示す図である。10種の菌糸体について、粉砕液体培地、粉砕固体培地、粒子液体培地および粒子固体培地を使用して培養し、それぞれの培養物に含まれるポリフェノール量と抗酸化活性との関係を示す。
図4】マンネンタケYFH 05001に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図5】エノキタケNBRC 5366に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図6】スエヒロタケNBRC 4929に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図7】キクラゲNBRC 100150に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図8】ツクツクホウシタケNBRC 33061に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図9】エノキタケNBRC 30904に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図10】エノキタケNBRC 31862に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図11】エノキタケNBRC 33210に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図12】オオウズラタケNBRC 30339に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図13】ツクツクホウシタケNBRC 33259に関し、使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値との関係を示す図である。
図14】実施例6の結果を示す図である。UV照射により検出した結果を示す。
図15】実施例6の結果を示す図である。DPPH/MeOH溶液により検出した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類と、前記穀類の1.2〜100質量倍の水とを含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、前記担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体に前記穀類を資化させ、培養液にポリフェノールを産生させることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物の製造方法である。キノア種子には、フラボノイド配糖体が含まれ、そのアグリコンは抗酸化作用を発揮しうるクエルセチンやケンフェロールなどのポリフェノールである。担子菌の菌糸体で培養するものとして特許文献4があるが、植物繊維を含む培地を菌糸体で培養して抗酸化性物質を生成しているが、ポリフェノールを産生するものではない。本発明によれば、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類を担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体と共に培養することで培養液中のポリフェノール量を増加させ、かつポリフェノール量に対応して抗酸化活性を増加させることができ、かつ、培養条件を選択することで、ポリフェノール量に対する抗酸化活性を調整することができる。これにより、ポリフェノール量が高く、所望の抗酸化活性を有するポリフェノール含有培養物を得ることができる。
【0029】
(1)担子菌および子嚢菌
キノコとは、菌類のうちで比較的大型の子実体を形成するものや子実体そのものであり、担子菌や子嚢菌がある。キノコは生態系のサイクルの「分解」部分を担当し、キノコにより植物を構成するリグニン等が分解され、複雑構造のタンパク質が簡単な構造の成分に変化され、再度植物の生長のために使用される。担子菌としては、マンネンタケ、スエヒロタケ、キクラゲ、エノキタケ、オオウズラタケ、アガリクス、ヒラタケ、マイタケ、マスタケ、マンネンタケ、シイタケ、ナメコ、ブナシメジ、フクロタケ、ヤマブシタケ、ヌメリツバタケなどがある。また、子嚢菌門に属するものとして、ツクツクホウシタケ、チャワンタケ、アミガサタケがある。本発明では、担子菌や子嚢菌の中で、キノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類を資化し、ポリフェノールを生成できるものを広く使用することができる。本発明では、マンネンタケ、エノキタケ、スエヒロタケ、キクラゲ、ツクツクホウシタケ、およびオオウズラタケを好ましく使用することができる。特に、オオウズラタケ由来の菌糸体を好適に使用することができる。菌糸体は、生育の際にポリフェノールを消費するが、オオウズラタケはポリフェノールの消費量が少なく、最終的に培養液中のポリフェノール量を増加しうるからである。なお、穀類を資化してポリフェノールを生産しうるか否かは、予備培養試験などを行うことで評価することができる。
【0030】
(2)培地
本発明では、資化材料としてキノア種子および有色素米からなる群から選択される穀類を使用し、これに水を添加したものを培地として使用する。キノアは、アカザ科・アカザ属の植物であり、1つの房に直径2〜3mmの種子を250〜500個程度付け、この種子を脱穀して食用することができる。イネ科でないためグルテンを含まず、小麦アレルギーのような対グリアジンアレルギーを持つものも摂取でき、リシンを始め多くの必須アミノ酸や、リノレン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸を含み、極めて栄養バランスに優れる食材である。キノアは、イネ科でないことから擬穀類に分類される場合もあるが、本発明では穀類に含めるものとする。また、有色素米とは、玄米の種皮または果皮の少なくとも一方にアントシアニン系色素やタンニン系色素、クロロフィル系色素を含む穀類を意味し、玄米の種皮または果皮の少なくとも一方にアントシアニン系の紫黒色素を含む黒米や、玄米の種皮または果皮の少なくとも一方にタンニン系の赤色色素を含む赤米、クロロフィル系色素を含む緑米、その他紫米、紅米などがある。
【0031】
使用するキノア種子や有色素米は、粒子状のまま、すなわち未粉砕の状態で使用することもできるし、種皮を除去したものでもよい。更に、これらの穀類を粉末状に粉砕した粉砕物を使用してもよい。なお、穀類から籾殻を除去する工程を脱皮と称し、本願発明では、キノア種子から種皮を除去することを脱皮に含めるものとする。粉砕方法や粉砕の程度は特に限定は無い。粉砕により単位重量あたりの表面積が増加するため、ポリフェノール産生量および抗酸化活性が増加する傾向があるが、使用する菌糸体の種類や培地の水分含有量によっては粒子状で使用した場合に多量のポリフェノールが産生され、抗酸化活性が高い場合がある。マンネンタケやエノキタケは、後記する液体培地で培養した場合に、粉砕によりポリフェノール量が倍増する傾向があり、オオウズラタケは未粉砕の場合にポリフェノール量が倍増する傾向がある。
【0032】
培地に添加する水の量は、穀類に対して1.2〜100質量倍である。本発明では、含水量に対応して液体培地と固体培地とに区分するものとし、穀物と穀物の1.2〜2.0質量倍、好ましくは1.5〜2.0質量倍の水を添加した培地を「固体培地」と称し、2.0質量倍を超えて100質量倍、より好ましくは30〜80質量倍の培地を「液体培地」と称する。このように分類するのは、固体培地を使用するか液体培地を使用するかにより、培養物中のポリフェノール量に対する抗酸化活性が相違することが判明したからである。固体培地を使用すると、接種する菌糸体の種類に関わらず、ポリフェノール量に対する抗酸化活性の比が近似するが、液体培地を使用すると、接種する菌糸体の種類によってポリフェノール量も、ポリフェノール量に対する抗酸化活性の比も大きく相違する。より詳細には、キノア種子液体培地にエノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862を接種する場合、およびキノア種子固体培地にエノキタケNBRC 5366、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、オオウズラタケNBRC 330339、ツクツクホウシタケNBRC 33259を接種する場合には、ポリフェノール量と抗酸化力との比が一定しないポリフェノール含有培養物となるが、キノア種子液体培地にマンネンタケYFH 05001、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 33210、オオウズラタケNBRC 330339、ツクツクホウシタケNBRC 33259を接種する場合には、ポリフェノール量に対して抗酸化活性の比が近似するポリフェノール含有培養物が製造される。
【0033】
本発明で使用する菌糸体は、穀類のみを資化してポリフェノールを産生できるため、前記培地には、蔗糖、その他の成分を添加する必要はない。ただし、蔗糖、酵母エキス、モルトエキス、pH調整剤、グルコース、ポテト抽出物、フスマ、コヌカ、その他の成分を添加してもよい。
【0034】
(3)培養方法
本発明のポリフェノール含有培養物の製造方法では、前記培地に菌糸体を接種し、温度20〜30℃で7〜20日間の培養を行う。固体培地の場合は、静置培養が好適であり、液体培地の場合には、撹拌培養が好適である。何れの培養方法の場合でも、予め培地を高温滅菌した後に菌糸体を接種する。培養時は通気培養であり、培地中に菌糸体が蔓延した状態で終了させる。
【0035】
固体培地を使用する場合、穀類の粉砕物を使用してなる固体培地(以下、単に粉砕固体培地と称する。)を使用しても、穀類を未粉砕で粒子状のまま使用してなる固体培地(以下、単に粒子固体培地と称する。)を使用してもよい。固体培地を使用する培養方法を固体培養と称する。同様に、液体培地として、穀類の粉砕物からなる液体培地(以下、単に粉砕液体培地と称する。)を使用してもよく、穀類を未粉砕で粒子状のまま使用してなる液体培地(以下、単に粒子液体培地と称する。)を使用してもよい。液体培地を使用する培養方法を液体培養と称する。本発明では、異なる2以上の培地による培養を組み合わせた培養方法をハイブリッド培養と称し、このようなハイブリッド培養であってもよい。例えば、未粉砕の穀類またはその穀類の脱皮物と、その20〜100質量倍の水とを含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、得られた培養物を乾燥し及び粉砕して粉砕物を得て、得られた粉砕物にその20〜100質量倍の水とを含む培地で担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養するハイブリッド培養がある。ハイブリッド培養によりポリフェノール量を増加させ、または抗酸化活性を増加させることができる。
【0036】
本発明では、培地を穀類と水のみで構成しうるため、菌糸体の接種量は、培養期間内に穀類を資化して生存しうる期間となる。好ましくは、前記菌糸体の接種量は、前記穀類の0.001〜0.2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.15質量%、特に好ましくは0.01〜0.12質量%である。菌糸体は、生育するためにポリフェノールを消費することが判明し、過量の菌糸体の使用は、ポリフェノール産生量を低減させる場合がある。なお、菌糸体によってポリフェノール消費量が相違するが、各菌糸体の至適使用量は、予備試験により菌糸体の特性を評価して決定することができる。
【0037】
(4)ポリフェノール含有培養物
培養終了後、培養物は、そのままポリフェノール含有培養物として使用することができる。培養物から常法によりポリフェノールを抽出してもよい。一方、培養物に含まれる穀類の残渣や菌糸体を除去し、ポリフェノール含有培養物として使用してもよい。培養物には、ポリフェノールが含まれ、ポリフェノールの種類に応じた抗酸化活性を発揮するため抗酸化剤として使用することができる。
【0038】
本発明は、培地に使用する穀類の粉砕の有無、培地に添加する水分量の相違によってポリフェノール産生量や抗酸化活性が相違する。例えば、菌糸体としてオオウズラタケやスエヒロタケを使用する場合は、培地として未粉砕の穀類を使用した粒子液体培地を使用するとポリフェノール量の多い培養物を得ることができる。特に、オオウズラタケは、生育の際にポリフェノール消費量が少ない点で有利である。マンネンタケ、エノキタケ、キクラゲ、ツクツクホウシタケを使用する場合は、培地として穀類の粉砕物を使用した粉砕液体培地を使用することで、未粉砕の穀類を使用した場合よりもポリフェノール産生量が多く、抗酸化力も高い培養物を得ることができる。なお、エノキタケは、培地として粒子液体培地を使用し、次いで、培養物を粉砕して粉砕液体培地を用いるハイブリッド培養も好適である。後記する実施例に示すように、粉砕液体培地を使用する場合よりもポリフェノール量が増加し、特に抗酸化活性に優れるからである。
【0039】
一方、同じ菌糸体、同じ穀類を使用して培養した場合でも、培地の含水量や穀類の粉砕の有無によってポリフェノール量および抗酸化活性が相違し、培養物に含まれるポリフェノール含有量と抗酸化活性との比が相違する。その詳細は明確ではないが、培地の種類によって生産物が異なるためと考えられる。例えば、粉砕の有無により穀類に含まれる澱粉質の資化速度が相違し、生産物の特性に差が生じたものと推定される。このことは、異なる培地を使用することで、ポリフェノール量に対する抗酸化活性の比が異なるポリフェノール含有培養物が得られることを意味する。
【0040】
本発明のポリフェノール含有培養物は、ポリフェノール量が、培養物(乾燥重量)100g当り、没食子酸換算で400mg以上、より好ましくは600mg以上である。キノア種子を使用する場合、液体培地によれば、マンネンタケYFH 05001、スエヒロタケNBRC 4929、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 33210、オオウズラタケNBRC 330339、ツクツクホウシタケNBRC 33259を接種し、前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で1000μmol以上となるポリフェノール含有培養物を得ることができる。また、固体培地を使用する場合は、スエヒロタケNBRC 4929を接種して、トロロックス換算値で1000μmol以上となるポリフェノール含有培養物を得ることができる。
【0041】
また、キノア種子粉砕液体培地を使用し、エノキタケNBRC 5366、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862を接種する場合、および固体培地を使用し、エノキタケNBRC 5366、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210、オオウズラタケNBRC 330339、ツクツクホウシタケNBRC 33259を接種する場合には、抗酸化力が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で、400μmol以上1000μmol未満、好ましくは400〜900μmolとなるポリフェノール含有培養物を得ることができる。なお、前記ポリフェノール量は、フォーリン・チオカルト法による測定値とし、没食子酸相当量(mg/100g)に換算した値である。また、抗酸化活性は、後記する実施例に記載する方法での測定値とし、トロロックス相当モル数である。たとえば、乾燥キノア種子100gに含まれるポリフェノール量は約200〜300mgである。ポリフェノールには、抗酸化活性以外の抗炎症作用などが存在するため、ポリフェノール量に対する抗酸化活性の異なるポリフェノール含有培養物は、含まれるポリフェノールに由来する、抗酸化活性以外の他の効果を期待することができる。
【0042】
また、赤米や黒米などの有色素米を使用すると、ポリフェノール量が、培養物(乾燥重量)100g当り、没食子酸換算で300mg以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物を得ることができ、更に、前記ポリフェノール含有培養物の抗酸化活性が、培養物(乾燥重量)100g当り、トロロックス換算値で1500μmol以上であることを特徴とする、ポリフェノール含有培養物を得ることができる。たとえば、乾燥赤米や黒米100gに含まれるポリフェノール量は約100〜250mgである。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0044】
(製造例1)
下記に基づいて、各菌糸体を調製した。
乾熱済み試験管(18mm)に、モルトエキス10g、酵母エキス4g、ショ糖10g、水1リットル、寒天15gからなるMYS寒天培地を20mlずつ分注し、オートクレーブで121℃、20min滅菌し、滅菌シャーレに前記培地を流し入れた。固化した後、種菌プレートを滅菌済みコルクボーラー(7mm)で1ディスクくり抜き、作製したMYSプレートの中央に接種した。パラフィルムでプレートの周囲を覆い、25℃のインキュベーターで培養した。プレートの8割程に菌糸体が拡がった後、10℃の冷蔵庫において保存した。調製した菌糸体の種類を表1に示す。なお、菌糸体の重量は、菌糸体によって相違するが、1ディスクあたり約0.3mgであった。
【0045】
(分析定量方法)
(1)ポリフェノール量
ポリフェノール量は、フォーリン・チオカルト法によって測定した。
(a)培養物を凍結乾燥し、乾燥物をマルチビーズショッカー(安井機械株式会社製)を用いて、2,000rpmで90秒間粉砕した。試験管に粉砕物200mg、抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))10mlを入れ、シリコ栓をして50℃に設定したアルミブロックヒーターで保温し、10分間毎にボルテックスミキサーで約5秒間混合しつつ60分間抽出した。抽出液を冷却遠心機で25℃、5,000rpm又は10,000rpmで10分間遠心分離して上澄を回収し、これを抽出液とした。
(b)没食子酸一水和物0.1106gを蒸留水に溶かして100mlとし、没食子酸として1g/lの溶液を調製し、これを希釈して没食子酸溶液の0〜100mg/lの濃度シリーズを作製した。6本の試験管に蒸留水3ml、抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))0.5ml、各濃度の没食子酸溶液0.5ml、5倍に希釈したフェノール試薬を1ml加え、軽く混合した後、10%炭酸ナトリウム水溶液を1ml加え20回振り混ぜた。40℃、60分間暗所で静置した後、760nmにおける吸光度を測定し、検量線を作成した。
(c)前記抽出溶媒を1mlとしたコントロール溶液を作製し、没食子酸の検量線作成と同様の手順で前記(a)で調製した抽出液0.5ml用いて吸光度を測定した。没食子酸の検量線より、コントロール溶液を対照とし、抽出液のポリフェノール量を没食子酸に換算し求めた。なお、結果は、培養物(乾燥重量)100gに対する没食子酸量(mg/100g)で表示した。
【0046】
(2)抗酸化活性
抗酸化活性は、DPPHラジカル消去法で測定した。
(a)96穴マイクロプレートに、400μMのDPPH液と、0.2MのMESバッファー(pH6.0)と抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))とを1:1:1で混合した混合液150μlを分注し、抽出溶媒25μl、各濃度のトロロックス溶液(0、40、80、120、160、200μM)25μlを加えて混合し、室温で試料添加後から20分間放置した。520nmにおける吸光度を測定し、トロロックスの検量線を作成した。
(b)トロロックス溶液に代えて、前記したポリフェノール量の測定方法の(a)工程で得た抽出液25μlを用いて、吸光度を測定した。測定値をトロロックス量に換算し、抗酸化活性値とした。なお、測定値は、培養物(乾燥重量)100gに対するトロロックス量(μmol/100g)で表示した。
【0047】
(3)TLC
(a)薄層プレート(メルク株式会社、5×10cm、シリカゲル60F254)を使用した。展開溶媒は、クロロホルム:メタノール=2:1溶液とした。
(b)試料は、標準物質溶液1μl、サンプル溶液3μlをスポットした。
(c)検出は、紫外線254nmの照射により行った。また、DPPH/MeOH0.02%(w/v)溶液を噴霧して、抗酸化物質を検出した。
【0048】
(実施例1)
(1)キノア種子(山梨県産)を水洗し、70℃で48hr乾燥した。前記水洗キノア種子の一部をコーヒーミル(ナショナル株式会社製、NC−S85)で16メッシュ以上に粉砕した。300ml容三角フラスコに、前記キノア粉砕物を2.5g、水道水を100mlを加え、110℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粉砕液体培地を調製した。
(2)前記粉砕液体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表1に示すものを10ディスクずつ接種し、14日間、25℃、100rpmの条件下で回転振とう培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に回転振とう培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、前記測定法により、ポリフェノール量および抗酸化能を評価した。結果を表1に示す。なお、表中「−」は未測定を示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を図1に示す。
【0049】
表1において抗酸化能が未測定の菌糸体は、キノア種子を資化できず生育しなかった菌糸体である。図1に、菌糸体が生育して得た培養物のポリフェノール当りの抗酸化能を示す。図1に示すように、菌糸体の種類に応じて培養物(乾燥重量)100g当り、ポリフェノール量が400〜900mgであり、抗酸化能が1000μmol以上の群(I)と、ポリフェノール量が200〜1000mgであり、抗酸化能が1000μmol以下の群(II)と、との2グループに大別された。群(I)に属するのは、ツクツクホウシタケNBRC 33259、スエヒロタケNBRC 4929、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 33210、キクラゲNBRC 100150、オオウズラタケNBRC 30339、およびマンネンタケYFH 05001からなる7菌株であった。群(II)では、ポリフェノール量と抗酸化活性とが比例しない傾向が観察された。
【0050】
(実施例2)
(1)100ml容三角フラスコに、実施例1で使用した水洗したキノア種子10g、水道水18.1ml(水分含量65%)を加え、121℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粒子固体培地を調製した。
(2)前記粒子固体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表1に示すものを2ディスクずつ接種し、14日間、25℃のインキュベーターで静置培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に静置培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量およびトロロックス換算値を算出した。結果を表1に示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を図2に示す。
【0051】
表1から、マイタケ、アガリクス、ナメコ、ヤマブシタケなど、粉砕液体培地で生育しない菌糸体は、粒子固体培地でも生存することができない傾向があった。一方、ヒラタケYFH 060301、ヒラタケ信州(JA長野)、ヒラタケNBRC 6515、フクロタケNBRC 30010、カワラタケMAFF 420002、ヒラタケSKB 019は、粒子固体培養では、未接種培養物よりもポリフェノール産生量が少ないが、粉砕液体培地による培養物にはポリフェノールが産生される。なお、粉砕液体培地で生育した菌糸体について、得られた培養物のポリフェノール当りのトロロックス換算値を評価したところ、図2に示すように、ポリフェノール量の増加に伴いトロロックス換算値で示される抗酸化活性が増加する傾向が示された。
【0052】
(実施例3)
(1)キノア種子(山梨県産)を水洗し、70℃で48hr乾燥した。前記水洗キノア種子の一部をコーヒーミル(ナショナル株式会社製、NC−S85)で16メッシュ以上に粉砕した。100ml容三角フラスコに、前記キノア粉砕物10g、水道水17.6ml(水分含量65%)を加え、110℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粉砕固体培地を調製した。
(2)前記粉砕固体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表2に示すものを2ディスクずつ接種し、14日間、25℃のインキュベーターで静置培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に静置培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量および抗酸化能を評価した。結果を表2に示す。なお、表2には参考のため、実施例1の数値を併記した。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を図3に示す。なお、図3には参考のため、実施例1の結果も併記した。
【0053】
(実施例4)
(1)300ml容三角フラスコに、実施例1で使用した水洗したキノア種子2.5g、水道水100mlを加え、121℃、15分間、オートクレーブ殺菌し、粒子液体培地を調製した。
(2)前記粒子液体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表2に示すものを10ディスクずつ接種し、14日間、25℃、100rpmの条件下で回転振とう培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に回転振とう培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量およびトロロックス換算値を算出した。結果を表2に示す。表2において、「P」はポリフェノール量を、「抗酸化」は、トロロックス換算値を示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を図3に併記した。
【0054】
(実施例5)
(1)実施例2と同様にして粒子固体培地を調製した。
(2)前記粒子固体培地に、製造例1で調製した菌糸体の中で表2に示すものを2ディスクずつ接種し、14日間、25℃のインキュベーターで静置培養した。なお、菌糸体を接種しなかった培地も、同様に静置培養を行った。
(3)培養後、得られた培養物について、実施例1と同様にしてポリフェノール量およびトロロックス換算値を算出した。結果を表2に示す。
(4)菌糸体を接種した各試料について、ポリフェノール値当りのトロロックス換算値を算出した。結果を図3に併記した。
【0055】
表2から、培養物(乾燥重量)100gに換算した場合、最も多くのポリフェノールを産生したのは、オオウズラタケNBRC 30339による粒子液体培地を使用した培養物であった。同菌糸体を使用して粒子固体培地を使用した場合は288mg、粉砕固体培地を使用した場合は285mgであるから、粒子液体培地を使用した1390mgはこれらの約5倍多く、粉砕液体培地を使用した場合の661mgと比較しても約2倍も多い。また、抗酸化活性も、粒子液体培地にオオウズラタケNBRC 30339を接種することで、培養物に含まれる抗酸化活性は3789μmolと高値を示した。粉砕固体培地や粒子固体培地を使用する場合と比較して約4倍、粉砕液体培地を使用する場合と比較しても約3倍も抗酸化活性が高い。
【0056】
図3は、各培養物に含まれるポリフェノール当りのトロロックス換算値で示される抗酸化活性を、培地毎に区分した図である。培養物に含まれるポリフェノール量は、使用する培地によって相違し、固体培地よりも液体培地を使用する場合に、培養物(乾燥重量)100g当りのポリフェノール産生量が多い結果となった。ポリフェノール産生量を粉砕液体培地と粒子液体培地とで比較すると、粉砕液体培地>粒子固体培地となる菌糸体は、マンネンタケYFH 05001、エノキタケNBRC 5366、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、ツクツクホウシタケNBRC 33259となった。一方、粒子固体培地>粉砕液体培地となる菌糸体は、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210、オオウズラタケNBRC 30339であった。
【0057】
各菌糸体毎に使用する培地とポリフェノール量およびトロロックス換算値を評価し、ポリフェノール量に対する抗酸化活性(トロロックス換算値)の結果を図4図13に示す。スエヒロタケNBRC 4929を除いて、粉砕固体培地や粒子固体培地を使用する場合と比較して、粉砕液体培地や粒子液体培地を使用する場合にポリフェノール産生量が増加する傾向にあった。また、マンネンタケYFH 05001、キクラゲNBRC 100150、ツクツクホウシタケNBRC 33061、オオウズラタケNBRC 30339およびツクツクホウシタケNBRC 33259に関しては、何れの培地で培養した場合も、ポリフェノール量の増加に比例して抗酸化活性が増加する傾向にあった。一方、エノキタケNBRC 5366、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 30904、エノキタケNBRC 31862、エノキタケNBRC 33210は、ポリフェノール量と抗酸化活性とが比例しない傾向にあり、使用する培地によって産生されるポリフェノール種が異なることが示唆された。
【0058】
(実施例6)
表2に示す菌糸体の中から、抗酸化活性値が高い培養物として、オオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210、および未接種の粒子液体培養による培養物を用いてTLCを行った。標準物質として、ケンフェロールとクエルセチンとを使用した。UV照射による検出後のクロマトグラムを図14に示す。また、DPPH/MeOH溶液を噴霧したクロマトグラムを図15に示す。図14図15において、Sは標準物質を、Bは未接種の培養物を、1はオオウズラタケNBRC 30339の培養物を、2はスエヒロタケNBRC 4929の培養物を、3はエノキタケNBRC 33210の培養物を示す。
【0059】
図14より、未接種の培養物には、クエルセチンが含まれるが、ケンフェロールの含有量は極めて少ない。一方、オオウズラタケNBRC 30339とスエヒロタケNBRC 4929の培養物には、ケンフェロールとクエルセチンとが存在し、エノキタケNBRC 33210の培養物にはクエルセチチンが含まれていた。
図15より、未接種の培養物にはケンフェロールとクエルセチンの何れも含まれていないが、オオウズラタケNBRC 30339とスエヒロタケNBRC 4929の培養物には、ケンフェロールが存在した。しかしながら、いずれの培養物にもクエルセチンは含まれていなかった。一方、ケンフェロールおよびクエルセチン以外の部分にスポットに抗酸化反応が検出されたことから、ケンフェロールとクエルセチン以外の抗酸化物質が産生されたと考えられる。なお、キノア種子にはケンフェロール配糖体が存在しているため、オオウズラタケNBRC 30339とスエヒロタケNBRC 4929の培養により、本来含まれていたケンフェロール配糖体が、発酵により加水分解されて糖が切り離され、ケンフェロールのアグリコンが形成されたと考えられる。
【0060】
(実施例7)
実施例4に従いキノア粒子液体培地を調製し、オオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体をそれぞれ10ディスク仕込み、温度25℃、100rpmで14日間、回転振とう培養し、実施例4と同様にしてポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表4に示す。
次いで、キノア粒子液体培養物を凍結乾燥し、コーヒーミルで粉砕した。
実施例1のキノア種子に代えてこの粉砕物を使用し、実施例1と同様にして粉砕液体培地を調製した。具体的には、コーヒーミル粉砕物2.5g、水道水100mlを乾熱滅菌済み300ml容三角フラスコに入れ、オートクレーブで110℃、15分間滅菌し、放冷した。このように調製した粉砕液体培地に、実施例1と同様にしてオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体を10ディスク接種して培養し、培養物のポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。このハイブリッド培養の結果を表3に示す。
表3に示すように、オオウズラタケ、スエヒロタケ、エノキタケの菌糸体は何れもハイブリッド培養により生育することができた。また、スエヒロタケおよびエノキタケは、ハイブリッド培養によりポリフェノール量および抗酸化活性を増加させることができた。
【0061】
(実施例8)
モルトエキス10g、酵母エキス4g、ショ糖10g、水1リットルからなるMYS液体培地100mlにオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体をそれぞれ10ディスク接種し、温度25℃、100rpmで14日間、回転振とう培養した。次いで、培養物を2日間、凍結乾燥処理を行い、粉末化した。なお、オオウズラタケおよびエノキタケの培養物は、凍結乾燥処理によって十分に乾燥しなかったため、シャーレに移して80℃で1日乾燥処理を行い、粉砕した。次いで粉砕物を抽出溶媒(メタノール:水=2:1(v/v))10mlで抽出した。抽出物について、実施例1と同様にしてポリフェノールおよび抗酸化活性を測定した。結果を表4に示す。また、菌糸体を添加しない培地についても同様に操作し、ポリフェノール量と抗酸化活性を測定した。また、MYS液体培地に代えて実施例4で調製したキノア粒子液体培養を使用し、オオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210の菌糸体をそれぞれ10ディスク接種し、温度25℃、100rpmで14日間、回転振とう培養し、実施例4と同様にしてポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表4に示す。
表4に示すように、キノア粒子液体培地で培養した場合は、菌糸体の接種によりポリフェノール量および抗酸化活性が上昇した。一方、MYS培地を使用してスエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210を培養すると、ポリフェノール量と抗酸化活性が未接種よりも低下した。このことは、菌糸体の生育に際してポリフェノールが消費されることを意味する。消費の程度は、菌糸体によって相違し、オオウズラタケNBRC 30339は生育に際しポリフェノールの消費量が少ないことが判明した。生育の際のポリフェノール消費量の相違により、培養液に含まれるポリフェノール量が相違し、オオウズラタケNBRC 30339の培養によりポリフェノール含有量が高く、抗酸化活性に優れる培養物が得られる一因と推定される。
【0062】
(実施例9)
実施例4と同様にしてキノア粒子液体培地を調製した。この培地に菌糸体としてオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210を使用し、菌糸体の接種量を、1ディスク(キノアの0.012質量%)、5ディスク(キノアの0.06質量%)、10ディスク(キノアの0.12質量%)、20ディスク(キノアの0.24質量%)に変更した以外は実施例4と同様に操作した。培養液のポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表5に示す。
表5に示すように、スエヒロタケNBRC 4929およびオオウズラタケNBRC 30339では、キノアの0.012質量%の菌糸体を添加した培地で、ポリフェノール量が高値を示し、抗酸化活性も高い傾向が観察された。一方、エノキタケNBRC 33210は、接種する菌糸量とポリフェノール産生量との間に大きな相関は観察されず、キノアの0.012〜0.24質量%の間で得られた培養物中のポリフェノール量および抗酸化活性は、略近似する値であった。なお、培養終了後の菌糸体の生育状況の概観に大きな相違は観察されなかった。菌糸体の種類によって相違するが、接種量が多いと、ポリフェノール量および抗酸化活性が培養終了前に最大値を迎える可能性があると推定された。
【0063】
(実施例10)
キノア種子の種皮を精米機で除去して脱皮キノア種子を調製し、この脱皮キノア種子を使用した以外は実施例4と同様にして脱皮キノア粒子液体培地を調製した。この脱皮キノア粒子液体培地に、実施例4と同様にしてオオウズラタケNBRC 30339、スエヒロタケNBRC 4929、エノキタケNBRC 33210を培養し、培養物に含まれるポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表6に示す。なお、脱皮処理せずに培養し、同様にポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。この結果も表6に記載する。
脱皮キノアを使用すると菌糸体を接種しない培地のみ、ポリフェノール量および抗酸化活性が低下した。一方、オオウズラタケNBRC 30339およびスエヒロタケNBRC 4929は、キノアの脱皮処理によりポリフェノール量および抗酸化活性が上昇した。なお、エノキタケNBRC 33210は、脱皮によりポリフェノール量が増加したが、抗酸化活性は低下した。なお、オオウズラタケNBRC 30339の培養物をTLC分析してケンフェロールを検出したところ、脱皮によりケンフェロール量が増加することが確認された。従って、脱皮によりケンフェロールの生成が促進され、抗酸化能が増加すると推定された。なお、キノアの種皮にはサポニンが含まれており、脱皮処理によりサポニンが除去される可能性がある。キノア種子に含まれるサポニンは苦味があるため、サポニンを除去し、かつポリフェノール量および抗酸化活性の高い培養液が得られる脱皮キノアを使用する培養は、食品や化粧品製造において有用である。
【0064】
(実施例11)
実施例10で脱皮したキノア種子を更に精白処理した。山本タテ形精米機ライスパルを用いて、キノア粒子を未精米を0とし、精白度を1から3の3段階で処理した。各キノア粒子を用いて、実施例4と同様にしてキノア粒子液体培地を調製し、オオウズラタケNBRC 30339を10ディスク接種し、25℃、100rpmで14日間回転振とう培養を行った。培養後の培養液に含まれるポリフェノール量および抗酸化活性を測定した。結果を表7に示す。表7における「増加量」とは、未接種の各精製度の結果との差分である。なお、キノア粒子表面を、デジタルマイクロスコープを用いて観察したところ、精白度1の表面は未処理物と大きな相違は観察されなかったが、精白度2では粒子表面の凹凸が殆どなくなり、精白度3では、粒子自体が小径化した。また、粒子液体培地には粒子が確認できるが、培養を開始すると、精白度にかかわらず培養終了時には粒子が存在せず白い懸濁液となっていた。
表7に示すように、キノア粒子液体培地のポリフェノール量および抗酸化活性は、キノア精白度が上昇するにつれ低下した。一方、オオウズラタケNBRC 30339の培養物は、キノアを精白度0〜2に処理するよりも精白度3とする場合に抗酸化活性が上昇した。
【0065】
(実施例12)
キノア種子に代えて、黒米、赤米を使用して粒子固体培地を調製した。赤米の最終水分含量が55%(w/w)、黒米の最終水分含量が50%(w/w)となるように水道水を添加し、赤米は115℃にて、黒米は120℃にてそれぞれ15分間オートクレーブで殺菌した後放冷した。この培地にオオウズラタケNBRC 30339を2ディスク接種し、25℃で14日間静置培養を行った。なお、培養7日目に培地の撹拌を行った。培養液のポリフェノール量と抗酸化活性を測定した。結果を表8に示す。黒米、赤米共にこれを培地に使用してオオウズラタケを培養することで、ポリフェノール量および抗酸化活性が増加した。特に、赤米の増加量が優れることが判明した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、キノア種子や有色素米などの穀類を資化させてポリフェノールを産生させることができる。しかも、使用する培地によってポリフェノール量やその抗酸化活性を変化させることができる。粉砕液体培養やハイブリッド培養によって抗酸化活性が高く、ポリフェノール含有量の高い培養物を製造することができ、有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15