【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係わる
含油軸受装置に用いる焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤は、パラフィン系ベースオイルからなる潤滑油と、該潤滑油に相溶しない
カルボン酸エステルとからなる、サブミクロンの大きさの2種類の液体の球状微粒子
が、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれか一方の材質からなる固体の粒状微粒子
の分散媒中に、前記2種類の液体の球状微粒子が分散質として分散
された懸濁液
状の潤滑剤であって、該潤滑剤の製造方法は、
熱分解で酸化第一鉄を析出するナフテン酸第一鉄をアルコールに分散してアルコール分散液を作成する第一の工程と、該アルコール分散液に、融点がパラフィン系ベースオイルからなる潤滑油の流動点より低い第一の性質と、沸点が前記酸化第一鉄をマグネタイトないしはマグヘマイトに酸化する温度より高い第二の性質と、前記潤滑油と相溶しない第三の性質と、前記アルコールに溶解ないしは混和する第四の性質と、前記アルコールより粘度が高い第五の性質とからなる、これら5つの性質を兼備する
オレイン酸エステル類、フタル酸エステル類ないしはセバシン酸エステル類のいずれかに属するいずれか1種類のカルボン酸エステルを混合して混合液を作成する第二の工程と、該混合液を大気雰囲気で熱処理し、前記ナフテン酸第一鉄を熱分解し酸化第一鉄の粒状微粒子を前記
カルボン酸エステル中に析出させ、さらに昇温し、前記酸化第一鉄の粒状微粒子を、マグネタイトないしはマグヘマイトの粒状微粒子に酸化し、該マグネタイトないしは該マグヘマイトのいずれか一方の材質からなる粒状微粒子の集まりを、前記
カルボン酸エステルに析出させる第三の工程と、前記第三の工程で熱処理した混合液に、パラフィン系ベースオイルからなる潤滑油を混合して撹拌する第四の工程とからなり、これら4つの工程を連続して実施すると、サブミクロンの大きさからなる前記
カルボン酸エステルと前記潤滑油とからなる2種類の液体の球状微粒子
が、前記マグネタイトないしは前記マグヘマイトのいずれか一方の材質からなる固体の粒状微粒子
の分散媒中に、前記2種類の液体の球状微粒子が分散質として分散
された懸濁液
状の潤滑剤が製造される、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の製造方法。
【0012】
つまり、本製造方法に依れば、簡単な4つの工程を連続して実施すると、画期的な作用効果を持つ潤滑剤が製造される。第一の工程は、汎用的な工業用薬品である熱分解で酸化第一鉄を析出するナフテン酸第一鉄を、アルコールに分散するだけの処理である。第二の工程は、汎用的な工業用薬品である5つの性質を持つ
カルボン酸エステルを、アルコール分散液に混合するだけの処理である。第三の工程は、混合液を大気雰囲気で熱処理するだけの処理である。第四の工程は、熱処理した混合液に、潤滑油を混合して撹拌するだけの処理である。従って、安価な原料を用いて安価な費用で潤滑剤が製造できる。
この潤滑剤を焼結金属からなる多孔質体に真空含浸し、潤滑剤が自己給油性で滑り面に滲み出ると、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれか一方の材質からなる粒状微粒子と、
カルボン酸エステルと潤滑油との球状微粒子とからなる、3種類の微粒子の集まりからなる皮膜が、軸部材の滑り面に磁気吸着する。この皮膜は、微粒子の自己潤滑作用に依る流体潤滑が滑り面で永続する。また、この流体潤滑は微粒子の形状効果に依るため、
カルボン酸エステルと潤滑油との粘度の変化の影響を受けずに流体潤滑を行う。また、皮膜が3種類の微粒子から構成されるため、
カルボン酸エステルと潤滑油とが蒸発したとしても、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれか一方の材質からなる粒状微粒子によって流体潤滑が続く。このように、含油軸受の原理と含浸油の性質に基づく従来の課題を根本的に解決する画期的な潤滑剤が、安価な原料を用いて安価な費用で製造できる。
つまり、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれか一方の材質からなる金属酸化物の微粒子の集まりが析出した
カルボン酸エステルに、潤滑油を混合して撹拌すると、
カルボン酸エステルはパラフィン系ベースオイルの潤滑油と相溶しないため、粒子同士が引きちぎられまたぶつかり合って、
カルボン酸エステルと潤滑油とは微粒子化を進める。この結果、サブミクロンの大きさで、最も安定した形状の球状微粒子になって微粒子化を終える。このサブミクロンの球状微粒子は、応力を受けてもさらに小さい微粒子にならないため、応力を受けると、自らが滑ることに依って応力を緩和する自己潤滑性を持つ。つまり、液体の粒子は、粒子の大きさに基づく表面自由エネルギーを持ち、微粒子になるほど粒子の表面自由エネルギーが増大する。このため、粒子の表面自由エネルギーが、撹拌時に加えられる応力に負けない大きさまで粒子の微粒子化が進む。いっぽう、固体の金属酸化物の微粒子は、数十ナノの大きさからなる硬い粒状微粒子であり、この粒状微粒子が応力を受けると、粒状形状であるため、自らが滑ることで応力を緩和させる自己潤滑性を発揮する。この結果、本潤滑剤の製造方法における焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤は、液体の
カルボン酸エステルと潤滑油との球状微粒子と、固体の金属酸化物の粒状微粒子とからなる、3種類の微粒子の集まりからなる懸濁液で構成される。従って、懸濁液を構成する微粒子の大きさが、焼結金属からなる多孔質体の気孔の大きさより1桁以上小さいため、真空含浸によって多孔質体の内部に懸濁液が容易に含浸できる。なお、含油軸受に用いる潤滑油は、パラフィン系ベースオイルから構成される。
こうして焼結金属からなる多孔質体に真空含浸した潤滑剤が自己給油性で滑り面に滲み出ると、固体の金属酸化物の粒状微粒子と、液体の
カルボン酸エステルと潤滑油との球状微粒子とからなる、3種類の微粒子の集まりからなる皮膜が、多孔質体と軸部材との滑り面に形成される。
いっぽう、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれか一方の材質からなる金属酸化物が自発磁化を持つ硬磁性体であり、軸部材が軟磁性体であるため、金属酸化物の粒状微粒子と軸部材との間で磁気吸引力が作用する。従って、金属酸化物の微粒子の数を、
カルボン酸エステルと潤滑油との双方の微粒子の数より多くすれば、
カルボン酸エステルと潤滑油との双方の微粒子が、金属酸化物の微粒子で囲まれ、非磁性体である
カルボン酸エステルと潤滑油との微粒子にも磁気吸引力が作用する。この結果、3種類の微粒子の集まりからなる皮膜が、軸部材の滑り面に磁気吸着し、重量を殆ど持たない微粒子は滑り面から脱落しない。従って、この皮膜に依る流体潤滑が滑り面で永続する。つまり、滑り面に微粒子の集まりからなる皮膜が磁気吸着するため、多孔質体と軸部材とが直接接触する固体同士の境界潤滑に至らず、微粒子が応力を受けると自己潤滑性を発揮し、微粒子が滑ることに依って潤滑する、全く新たな原理に基づく流体潤滑が滑り面で継続する。なお軸部材は、機械的強度を有する軟磁性体からなる様々な鋼で形成される。いっぽう、焼結金属からなる多孔質体は非磁性体であり、多孔質体に真空含浸した潤滑剤に、多孔質体との間で磁気吸引力は作用しない。また、金属酸化物は微粒子であるため磁気力が小さく、滑り面の温度上昇による潤滑剤の体積膨張が勝り、潤滑剤は滑り面に滲み出る自己給油性を持つ。
また、本潤滑剤の製造方法におけるナフテン酸第一鉄は、大気雰囲気の340℃で熱分解が完了して酸化第一鉄FeOになる。さらに、昇温速度を抑えて380℃まで昇温すると、酸化第一鉄FeOを構成する2価の鉄イオンFe
2+の一部が酸化されて3価の鉄イオンFe
3+になってFe
2O
3になり、組成式がFeO・Fe
2O
3のマグネタイトFe
3O
4になる。さらに、380℃に一定時間放置すると、酸化第一鉄FeOにおける2価の鉄イオンFe
2+の全てが3価の鉄イオンFe
3+に酸化され、酸化第二鉄Fe
2O
3になり酸化反応を終える。この酸化第二鉄Fe
2O
3は、マグネタイトFe
3O
4と同様の立方晶系である酸化第二鉄Fe
2O
3のガンマ相であるマグへマイトγ−Fe
2O
3である。なお酸化第二鉄Fe
2O
3のアルファ相であるヘマタイトα−Fe
2O
3の結晶構造は三方晶系であり、マグネタイトとは結晶構造が異なる。
従って、ナフテン酸第一鉄を
カルボン酸エステル中で熱分解させて、酸化第一鉄FeOの粒状微粒子を析出させ、この酸化第一鉄FeOの粒状微粒子を酸化させると、マグネタイトFe
3O
4の粒状微粒子が生成される。さらに、マグネタイトFe
3O
4の粒状微粒子を酸化させると、マグヘマイトγ−Fe
2O
3の粒状微粒子が生成される。このため、ナフテン酸第一鉄はマグネタイトの粒状微粒子とマグヘマイトの粒状微粒子とを生成する原料になる。
さらに、本製造方法による潤滑剤を構成するマグネタイトFe
3O
4ないしはマグへマイトγ−Fe
2O
3は以下に説明する4つの性質を持ち、これによって、画期的な作用効果をもたらす。
第一にマグネタイトとマグヘマイトとの双方は、硬磁性の一種のフェリ磁性の性質を持つ。このため、軸部材が軟磁性体であるため、自発磁化を持つマグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子に、軸部材との間で磁気吸引力が常時作用する。従って、マグネタイトないしはマグヘマイトの微粒子の数を、
カルボン酸エステルと潤滑油との微粒子の数より多くすれば、
カルボン酸エステルと潤滑油との双方の微粒子が、金属酸化物の微粒子で囲まれ、非磁性体である
カルボン酸エステルと潤滑油との微粒子にも磁気吸引力が作用し、3種類の微粒子の集まりからなる皮膜が、軸部材の滑り面に磁気吸着し、重量を殆ど持たない3種類の微粒子は滑り面から脱落しない。なお含油軸受装置で用いる軸部材は、機械構造用炭素鋼の炭素の含有量が0.25wt%から0.45wt%のS25CからS45Cや、炭素量が0.45wt%以上の炭素鋼ないしはニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼などの合金鋼から構成され、これらの鋼はいずれも軟磁性体である。
第二にマグネタイトの磁気キュリー点は585℃であり、マグへマイトの磁気キュリー点は675℃である。なおマグヘマイトは、大気中の450℃以上の温度で酸化第二鉄のα相であるヘマタイトα−Fe
2O
3に相転移する。この相転移は不可逆変化である。従って、潤滑油のベースオイルが蒸発するような高い温度であっても、マグネタイトとマグヘマイトとは硬磁性の性質を示す。
第三にマグネタイトのモース硬度が5.5であり、マグヘマイトのモース硬度が6.0であり、いずれも硬い粒状微粒子である。従って、軸部材が滑り面を滑る際に、マグネタイトないしはマグヘマイトの粒状微粒子は、応力を受けても破壊されない。この際、粒状微粒子が液体の球状微粒子と接する場合は、液体の球状微粒子が自己潤滑作用で優先して滑る。また、軸部材によって静荷重が加えられた際は、粒状微粒子は破壊されず、3種類の微粒子の大きさが、軸受部材の表面粗さより一桁以上小さいため、3種類の微粒子の集まりが軸部材の滑り面に磁気吸着し、自己潤滑性を発揮して加えられた静荷重を緩和し、多孔質体の滑り面が疲労しない。
第四にマグネタイトとマグヘマイトとの双方は、腐食しにくい安定した鉄の酸化物であるため、腐食することなく粒状微粒子に依る流体潤滑を続ける。
いっぽう、本潤滑剤の製造方法における
オレイン酸エステル類、フタル酸エステル類ないしはセバシン酸エステル類のいずれかに属するいずれか1種類のカルボン酸エステルが5つの性質を兼備するため、以下に説明する作用効果をもたらし、これによって、
オレイン酸エステル類、フタル酸エステル類ないしはセバシン酸エステル類のいずれかに属するいずれか1種類のカルボン酸エステルは焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の原料となり、
オレイン酸エステル類、フタル酸エステル類ないしはセバシン酸エステル類のいずれかに属するいずれか1種類のカルボン酸エステルからなる球状微粒子によって潤滑油を構成する。
つまり、オレイン酸エステル類、フタル酸エステル類ないしはセバシン酸エステル類のいずれかに属するいずれか1種類のカルボン酸エステルに、5つの性質を兼備するカルボン酸エステルが存在する。こうしたカルボン酸エステルは、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤の原料になり、カルボン酸エステルからなる球状微粒子によって潤滑油を構成する。これらのカルボン酸エステルは汎用的な工業用薬品である。
従って、ナフテン酸第一鉄をアルコールに分散したアルコール分散液に、オレイン酸エステル類、フタル酸エステル類ないしはセバシン酸エステル類のいずれかに属するいずれか1種類のカルボン酸エステルを混合すると、アルコール中にナフテン酸第一鉄とカルボン酸エステルとが均一に混ざりあった混合液になる。この混合液を大気中で熱処理する。アルコールを気化させた後に340℃まで昇温すると、ナフテン酸第一鉄が熱分解し、カルボン酸エステル中に酸化第一鉄FeOの粒状微粒子が均一に析出する。さらに、昇温速度を抑えて380℃まで昇温すると、酸化第一鉄FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+の一部が酸化されて3価の鉄イオンFe3+になってFe2O3になり、組成式がFeO・Fe2O3のマグネタイトFe3O4の粒状微粒子が生成される。さらに380℃に一定時間放置すると、酸化第一鉄FeOにおける2価の鉄イオンFe2+の全てが3価の鉄イオンFe3+に酸化され、酸化第二鉄Fe2O3のガンマ相であるマグヘマイトγ−Fe2O3の粒状微粒子が生成される。この結果、マグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子の集まりが、カルボン酸エステル中に均一に析出する。このカルボン酸エステルに潤滑油を混合して撹拌すれば、焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤となる懸濁液が作成される。
すなわち、
第一に、カルボン酸エステルがアルコールに溶解ないしは混和する性質を持つため、ナフテン酸第一鉄をアルコールに分散したアルコール分散液に
カルボン酸エステルを混合すると、ナフテン酸第一鉄と
カルボン酸エステルとが均一に混ざり合う。従って、マグネタイトないしはマグヘマイトの微粒子の数を、
カルボン酸エステルと潤滑油との双方の微粒子の数より多くし、
カルボン酸エステルと潤滑油との双方の微粒子が、金属酸化物の微粒子で囲む場合は、有機金属化合物の使用量を、
カルボン酸エステルと潤滑油との使用量より過多とする必要があるが、有機金属化合物を多量のアルコールに分散すれば、
カルボン酸エステルが容易にアルコール分散液に溶解ないしは混和する。さらに、
第二に、カルボン酸エステルはアルコールより粘度が高い性質を持つため、軸受部材と軸部材との滑り面に、粘度を有する球状微粒子を形成し、球状微粒子は応力によって潰れず、自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑作用を発揮する。
さらに、
第三に、カルボン酸エステルの沸点は、マグネタイトないしはマグヘマイトの微粒子が生成される温度より高い性質を持つ。このため、前記した混合液を大気中で熱処理すると、最初にアルコールが気化し、
カルボン酸エステル中にナフテン酸第一鉄の微細結晶が均一に析出する。さらにナフテン酸第一鉄が熱分解する温度まで昇温すると、ナフテン酸第一鉄が熱分解し、
カルボン酸エステル中に酸化第一鉄FeOの40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が均一に析出する。さらに、昇温速度を抑えて380℃まで昇温すると、酸化第一鉄FeOを構成する2価の鉄イオンFe
2+の一部が酸化されて3価の鉄イオンFe
3+になってFe
2O
3になり、組成式がFeO・Fe
2O
3のマグネタイトFe
3O
4の40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が生成される。さらに、380℃に一定時間放置すると、酸化第一鉄FeOにおける2価の鉄イオンFe
2+の全てが3価の鉄イオンFe
3+に酸化され、マグヘマイトγ−Fe
2O
3の40−60nmの大きさからなる粒状微粒子が生成される。この結果、マグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子が、
カルボン酸エステル中に均一に析出する。さらに、潤滑油を混合して撹拌すれば、多孔質体に真空含浸する潤滑剤となる懸濁液が作成される。
また、
第四に、カルボン酸エステルの融点は、潤滑油の流動点より一段と低い−30℃より低い温度であるため、含油軸受装置が潤滑油の流動点より低い温度で稼働されても、軸部材の低温始動性を悪化させることなく、
カルボン酸エステルの球状微粒子が流体潤滑を続ける。
さらに、
第五に、カルボン酸エステルは、潤滑油と相溶しない性質を持つ。これによって、
カルボン酸エステルと潤滑油との混合液を撹拌すると、粒子同士が引きちぎられまたぶつかり合って微粒子化を進め、応力を受けても粒子が潰れない球状微粒子を形成し、この球状微粒子は応力を受けた際に自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑性を持つ。
本製造方法による潤滑剤は、微粒子が滑ることに依って潤滑する、全く新たな原理に基づく流体潤滑は、含油軸受の原理と含浸油の性質に基づく従来の課題を根本的に解決する優れた作用効果をもたらす。第一に、過大な軸荷重を受けて多孔質体の滑り面の軸受面圧が増大し、滑り面の気孔から軸受面圧がリークしても、滑り面に磁気吸着した皮膜が流体潤滑を続ける。第二に、軸部材の高速回転時に、多孔質体の滑り面に潤滑剤を引き出す力が強くなるが、滑り面に磁気吸着した皮膜の存在が障害となって潤滑剤の引き出しを抑制し、潤滑剤が枯渇しない。第三に、高温動作時に潤滑剤の体積膨張で、多孔質体の滑り面に潤滑剤が過多に供給されようとするが、滑り面に磁気吸着した皮膜の存在が障害となって潤滑剤の供給を抑制し、潤滑剤が枯渇しない。第四に、軸部材の低速回転時に、多孔質体の滑り面に潤滑剤を引き出す力が弱くなるが、滑り面に磁気吸着した皮膜の存在で境界潤滑に至らない。第五に、低温動作時に多孔質体の滑り面に潤滑剤が供給されにくくなるが、滑り面に磁気吸着した皮膜の存在で境界潤滑に至らない。第六に、軸部材が滑り面を滑る際に、3種類の微粒子に応力が加わるが、3種類の微粒子が滑ることで応力が緩和され、軸部材は多孔質体の滑り面を攻撃しない。第七に、固体の粒状微粒子と液体の球状微粒子との接触に依る摩擦力は、液体の球状微粒子が優先して滑るため小さい。また、液体の球状微粒子同士の接触に依る摩擦力は、両者が滑るため小さい。この結果、流体潤滑における摩擦力は小さく、従来の含油軸受より静粛性が高い。第八に、3種類の微粒子の自己潤滑性は、微粒子の形状効果に依るため、微粒子が滑ることに依る流体潤滑は、液体の粘度の変化の影響を受けない。このため、極低温で
カルボン酸エステルと潤滑油との粘度が増大しても、微粒子が滑ることに依る流体潤滑が継続し、軸部材の低温始動時の回転力が低減しない。また、高温で
カルボン酸エステルと潤滑油との粘度が低下しても、微粒子が滑ることに依る流体潤滑が継続し、境界潤滑に至らない。さらに、潤滑油が熱劣化しても、潤滑油の球状微粒子は、滑ることに依る流体潤滑を続ける。第九に、軸部材が静荷重を多孔質体の滑り面に加えても、3種類の微粒子の大きさが、軸部材の表面粗さより一桁以上小さいため、3種類の微粒子の集まりが軸部材の滑り面に磁気吸着して皮膜を形成する。この皮膜に静荷重が加えられると、3種類の微粒子が自己潤滑性を発揮し、加えられた静荷重を緩和させ、多孔質体の滑り面は疲労しない。第十に、磁気吸着した皮膜は、厚みに対する表面積の比率が極めて大きいため、滑り面の昇温を抑える冷却作用を発揮する。第十一に、含油軸受が高温で連続稼働し、潤滑油の低揮発成分が蒸発しても、3種類の微粒子は滑ることに依る流体潤滑を続ける。含油軸受が高温でさらに連続稼働し、潤滑油の多くが蒸発しても、
カルボン酸エステルが380℃を超える沸点であるため、3種類の微粒子が滑ることに依る流体潤滑を続ける。含油軸受が高温でさらに連続稼働し、高沸点の
カルボン酸エステルが蒸発し、潤滑油の多くが蒸発しても、400℃以上でも自発磁化を失わない金属酸化物の粒状微粒子の集まりが軸部材に磁気吸着し、粒状微粒子が滑ることに依る流体潤滑を続ける。このように、滑り面に磁気吸着した3種類の微粒子は、滑り面が高温になっても流体潤滑を続ける。第十二に、含油軸受が潤滑油の流動点より低い温度で動作しても、
カルボン酸エステルの融点が、潤滑油の流動点より一段と低い−30℃より低い温度であるため、軸部材の低温始動性を悪化させることなく、
カルボン酸エステルの微粒子は流体潤滑を続ける。
以上に説明したように、本製造方法による焼結金属からなる多孔質体に真空含浸する潤滑剤は、3種類の微粒子からなる皮膜が滑り面に磁気吸着し、3種類の微粒子が滑ることに依る流体潤滑が滑り面で永続する。この結果10段落で説明した3つの性質を兼備する潤滑剤が実現され、含油軸受の原理と含浸油の性質に基づく課題が根本的に解決できた。
なお、含油軸受装置に用いられる潤滑油は、炭素数がC15−50で、分子量が200−700で、常圧換算の沸点が250−600℃の範囲に及び、流動点は−10℃から−25℃に及ぶ。また、自動車部品の含油軸受装置では、高温の連続動作が継続すると滑り面が250℃まで昇温する場合がある。しかし、含油軸受装置においては、潤滑油を構成するベースオイルの多くが蒸発する温度まで滑り面が昇温することは少ない。また、潤滑油の流動点の降下剤に依る降下点より低い温度で含油軸受装置が稼働されることはない。
また、超音波ホモジナイザーを用いて混合液を撹拌すると、
カルボン酸エステルと潤滑油との微粒子化が短時間で進む。つまり、超音波振動を液体に加えると、超音波の周波数に応じた極めて短い周期で、超音波の縦振動による加圧と減圧とが液体で繰り返され、液体に大きな圧力差が発生する。この圧力差に依って微小な泡(キャビテーション)が発生し、この泡が液体中で縦振動を受けて弾けまたは潰れた瞬間に大きな衝撃波が起こり、この大きな衝撃波によって粒子が引きちぎられまたぶつかり合い、粒子の微粒子化が短時間で進む。この粒子の微粒子化は、粒子が衝撃波で潰れない球状の微粒子まで進み、この球状の微粒子は、応力を受けると自らが滑ることで応力を緩和する自己潤滑性を持つ。
【0013】
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【0014】
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