(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
光沢紙に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「光沢紙」とは、例えば、記録面に、シリカ粒子又はアルミナ粒子等を用いて形成した少なくとも一層以上の塗工層を有する記録用紙のことをいう。前記光沢紙としては、例えば、ブラザー工業(株)製の写真光沢紙BP61G、BP71G及びBP71GA4;富士フイルム(株)製のインクジェットペーパー画彩写真仕上げPro;コダック(株)製の最高級光沢紙PWRA4−20;等があげられる。
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)について説明する。本発明のインクジェット記録用水性インクは、顔料と、水と、前記樹脂aと、前記樹脂bとを含む。
【0011】
前記顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、78、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;及びこれらの顔料の固溶体等もあげられる。
【0012】
前記水性インク全量における前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%、1重量%〜15重量%、2重量%〜10重量%である。
【0013】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量おける前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0014】
前記水性インクは、前記顔料以外の着色剤を含んでもよい。前記顔料以外の着色剤としては、例えば、染料等があげられる。
【0015】
前記樹脂aは、例えば、前記顔料を水に分散させる機能を有する。前記樹脂aとしては、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方(以下、「(メタ)アクリル酸」と言うことがある。)をモノマーとして含むものであればいかなるものを用いてもよく、例えば、市販品を用いてもよい。前記樹脂aは、モノマーとして、さらに、スチレン、塩化ビニル等を含んでもよい。前記市販品としては、例えば、ジョンソンポリマー(株)製の「ジョンクリル(登録商標)611」(重量平均分子量8100、酸価53mgKOH/g)、「ジョンクリル(登録商標)60」(重量平均分子量8500、酸価215mgKOH/g)、「ジョンクリル(登録商標)586」、「ジョンクリル(登録商標)687」、「ジョンクリル(登録商標)63」及び「ジョンクリル(登録商標)HPD296」;ビックケミー社製の「Disperbyk190」及び「Disperbyk191」;ゼネカ社製の「ソルスパース20000」及び「ソルスパース27000」等があげられる。
【0016】
前記樹脂bは、メタクリル酸メチルとメタクリル酸のみを構成成分とするポリマーブロックAと、メタクリル酸ベンジルとメタクリル酸のみを構成成分とするポリマーブロックBとを有するABA型トリブロック共重合体であって、重量平均分子量3000〜30000、酸価は90mgKOH/g〜200mgKOH/gであるABA型トリブロック共重合体の一部又はすべてを中和したものである。
【0017】
前記水性インクは、前記樹脂a及び前記樹脂bを含むことにより、光沢紙記録時の耐擦性に優れる。前記耐擦性向上のメカニズムは、例えば、つぎのように推定される。従来から、水性顔料インクにおいて、顔料分散の機能を有する樹脂と、耐擦性向上機能を有する樹脂との、2種類の樹脂を併用することが行われてきた。本発明によれば、耐擦性向上機能を有する樹脂として、前記樹脂bを用いることで、さらに高いレベルで光沢紙記録時の耐擦性を向上し、且つ、蒸発粘度の上昇を抑制することが可能である。
【0018】
光沢紙記録時の耐擦性は、樹脂が互いに絡み合い、造膜することで達成される。水性顔料インクにおいて、顔料が前記樹脂aを用いて分散される場合、分散状態にある顔料粒子表面には(メタ)アクリル酸残基が露出しているため、前記樹脂aと共通の残基をもつメタクリル酸をモノマーとして含み、親和性の高い前記樹脂bを用いることが効果的である。また、耐擦性向上機能を有する樹脂として、ランダム共重合体やジブロック共重合体を用いた場合、ポリマー鎖中に前記樹脂aと親和性の高い部分が無いか、あっても一端にのみであり、他端には親和性の低い部分が露出することとなる。これに対し、本発明では、両端に前記樹脂aとの親和性の高い部分を有する前記樹脂bを用いることで、隣り合う顔料粒子を強固につなぎあわせることが可能である。
【0019】
さらに、前記樹脂bが、疎水性のポリマーブロックBを有することで、水性顔料インク中の総イオン濃度を低減できるとともに、前記樹脂bに適度な強度を付与することが可能である。水性顔料インク中の総イオン濃度が高くなると、顔料粒子間の電気的な反発力が低減するため、顔料の分散安定性を阻害する。これに対し、顔料粒子をつなぎ合わせるのに寄与度の低い中央部をイオン性モノマー割合の低いポリマーブロックBとすることで、水性インク中の総イオン濃度を低減することが可能である。また、メタクリル酸のみを構成成分とするポリマーでは強度に劣るのに対し、重合後に高い強度を発揮するモノマーを入れることにより、強度を付与することができる。このとき、適度な柔軟性を持たせるために、スチレンのようなガラス転移点(Tg)の高いものではなく、Tgの低いメタクリル酸ベンジルを選択することで、光沢紙記録時の耐擦性を損なわない。
【0020】
図1は、前記顔料分散用樹脂を用いた樹脂分散型顔料インクについて、光沢紙記録時の耐擦性向上の推定メカニズムの一例を説明する概念図である。
図1(A)に示すように、顔料分散用樹脂22(前記樹脂a)で被覆された顔料粒子21を含む水性インクを光沢紙Pに吐出すると、顔料分散用樹脂22(前記樹脂a)で被覆された顔料粒子21は、光沢紙Pの表面に留まる。そして、このとき、本発明における前記樹脂bが共存しなければ、光沢紙P上に堆積した顔料分散用樹脂22(前記樹脂a)で被覆された顔料粒子21は、充分な強度を有する膜を形成できず、軽く擦られただけで容易に剥離してしまう。一方、
図1(B)に示すように、本発明における樹脂b23が共存する場合には、樹脂b23が顔料分散用樹脂22(前記樹脂a)で被覆された顔料粒子21の間に入り込む。そして、
図1(C)に示すように、樹脂b23と溶解した顔料分散用樹脂22(前記樹脂a)とで膜を形成し、顔料粒子21を強固につなぎあわせる。その結果、光沢紙記録時の耐擦性が向上すると推定される。なお、
図1は、概念図であり、顔料粒子と、樹脂bとの大きさの比率や、樹脂bにおけるモノマー数等は、実際とは異なり、
図2において同様である。
【0021】
図2は、本発明における顔料と樹脂bとの相互作用の一例を説明する概念図である。
図2(A)に示すように、疎水性のポリマーブロックBが、2つの親水性のポリマーブロックAに挟まれた構成を有する樹脂b23では、
図2(B)に示すAB型ジブロック共重合体31と比較して、顔料粒子21を被覆する顔料分散用樹脂22(前記樹脂a)との相互作用が大きく、顔料粒子21をつなぎとめる作用が大きいと考えられる。
【0022】
前述のメカニズムは、全て推定に過ぎず、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
前記樹脂bの重量平均分子量は、3000〜30000であり、例えば、6500〜30000、8000〜15000である。前記樹脂bは、1つのポリマーブロックBが、2つのポリマーブロックAに挟まれた構成を有すればよく、各ポリマーブロックの重量平均分子量の比率は、特に限定されず、例えば、A:B:A=1:1:1であってもよいし、任意の比率であってもよい。前記重量平均分子量は、例えば、JISK0124に準じて、測定可能である。
【0024】
前記樹脂bの酸価は、90mgKOH/g〜200mgKOH/gであり、例えば、100mgKOH/g〜200mgKOH/g、100mgKOH/g〜150mgKOH/gである。前記酸価は、例えば、JISK0070に準じて、測定可能である。
【0025】
前記樹脂bは、例えば、市販品を用いてもよいし、自家調製してもよい。前記樹脂bは、例えば、段階的重合法で調製可能である。前記段階的重合法としては、例えば、米国特許第4,508,880号に記載されているような陰イオン又はグループ移動重合法があげられる。前記グループ移動重合法では、開始剤は、非官能性のものであっても、酸グループを含有しても、アミノグループを含有してもよい。また、前記樹脂bは、例えば、まず、一方の第1のポリマーブロックAを重合させ、次いでポリマーブロックBを重合させ、次いで他方の第2のポリマーブロックAを重合させる陰イオン重合法又はグループ移動重合法によっても調製できる。前記樹脂bの調製方法の具体例は、例えば、後述の実施例において説明するとおりである。ただし、これらの調製方法は例示に過ぎず、前記樹脂bは、いかなる方法で調製されてもよい。
【0026】
前記水性インク全量における前記樹脂bの配合量は、例えば、0.1重量%〜5重量%、0.25重量%〜2.5重量%、0.5重量%〜2重量%である。前記樹脂bは、少量でも光沢紙記録時の耐擦性を向上可能なため、蒸発粘度の上昇を抑制できる。
【0027】
前記水性インクにおける前記樹脂aの配合量と前記樹脂bの配合量の合計は、例えば、10重量%以下、6重量%以下、4重量%以下である。
【0028】
前記水性インクにおいて、前記樹脂a(R)と、前記樹脂b(C)との重量比は、例えば、C/R=0.05〜2、0.1〜1.5、0.2〜1である。
【0029】
前記水性インクは、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0030】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0031】
前記水性インク全量における前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜80重量%、5重量%〜50重量%である。
【0032】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
前記水性インク全量における前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%、0重量%〜15重量%、1重量%〜4重量%である。
【0034】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0035】
前記水性インクは、例えば、顔料、前記樹脂a、前記樹脂b及び水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0036】
つぎに、本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0037】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法について説明する。
【0038】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする。
【0039】
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。前記記録媒体としては、前記光沢紙が好適であるが、これに限定されず、例えば、普通紙等であってもよい。
【0040】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0041】
図3に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0042】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。前記4色の水性インクのうちの少なくとも一つが、本発明のインクジェット記録用水性インクである。ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、光沢紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0043】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0044】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。
図3において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0045】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。
【0046】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。本発明によれば、光沢紙記録時には、耐擦性に優れた記録物を得ることが可能である。
図3においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0047】
図3に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。
【実施例】
【0048】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0049】
〔樹脂bの調製〕
樹脂bは、リビングラジカル重合法により合成した。窒素雰囲気下にあるジエチレングリコールジメチルエーテルに、2−アイオド−2−シアノプロパン、アゾビスイソブチロニトリル、アイオドスクシンイミド、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸を加えて昇温し、重合反応を進行・完了させた。続いて、メタクリル酸ベンジル及びメタクリル酸の混合物を添加して重合を行った後、同様にメタクリル酸メチル及びメタクリル酸の混合物を添加し重合を行うことで、ABA型トリブロック共重合体を得た。また、ジエチレングリコールジメチルエーテルを減圧留去し、純水と水酸化カリウムを添加することで重量平均分子量10000、酸価130mgKOH/gの表1〜3に示す樹脂b1の水溶液を得た。また、重合温度、重合溶媒、開始剤、モノマー組成、ラジカル発生剤、触媒、中和剤及び重合時間を適宜変更した以外は同様にして、表2に示す樹脂b2〜8の水溶液を得た。
樹脂b1〜8のモノマー重量比メタクリル酸メチル/メタクリル酸//メタクリル酸ベンジル/メタクリル酸//メタクリル酸メチル/メタクリル酸は次の通りとした。2本斜線はブロック間の分離を示し、1本斜線はランダムコポリマーを示している。
樹脂b1
0.25/0.09//0.31/0.03//0.25/0.09
樹脂b2
0.26/0.07//0.32/0.01//0.26/0.07
樹脂b3
0.24/0.09//0.30/0.04//0.24/0.09
樹脂b4
0.21/0.12//0.27/0.07//0.21/0.12
樹脂b5
0.25/0.09//0.31/0.03//0.25/0.09
樹脂b6
0.25/0.09//0.31/0.03//0.25/0.09
樹脂b7
0.25/0.09//0.31/0.03//0.25/0.09
樹脂b8
0.25/0.09//0.31/0.03//0.25/0.09
【0050】
〔ランダム共重合体の調製〕
ランダム共重合体は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸ベンジルを全て最初に一斉投入した以外は、前記樹脂bと同様のリビングラジカル重合法により合成した。また、ジエチレングリコールジメチルエーテルを減圧留去し、純水と水酸化カリウムを添加することで、重量平均分子量10000、酸価130mgKOH/gの表2に示すランダム共重合体の水溶液を得た。
ランダム共重合体のモノマー重量比メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸ベンジルは次の通りとした。1本斜線はランダムコポリマーを示している。
ランダム共重合体
0.49/0.17/0.31
【0051】
〔顔料分散液1、3及び4の調製〕
顔料(C.I.ピグメントレッド122)20重量%、スチレン−アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物 7重量%(酸価175、分子量10000)に、純水を加え全体を100重量%とし、撹拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れ、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルターでろ過することにより、顔料分散液1を得た。なお、スチレン−アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。また、顔料種、成分割合、分散処理時間を適宜変更した以外は同様にして、表3に示す顔料分散液3及び4を得た。
【0052】
〔顔料分散液2の調製〕
顔料(C.I.ピグメントレッド122)20重量%、スチレン−メタクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物 9重量%(酸価175、分子量10000)に、純水を加え全体を100重量%とし、撹拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れ、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルターでろ過することにより、顔料分散液2を得た。なお、スチレン−メタクリル酸共重合体は一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。
【0053】
[実施例1−1〜1−7及び比較例1−1]
実施例1−1〜1−7は、前記重量比C/Rを変更した例である。インク組成(表1)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記樹脂bの水溶液及び前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1−1〜1−7及び比較例1−1のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0054】
実施例及び比較例の水性インクについて、(a)光沢紙記録時の耐擦性評価及び(b)蒸発粘度評価を、下記方法により実施した。
【0055】
(a)光沢紙記録時の耐擦性評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機MFC−J4510Nを使用して、実施例1−1〜1−7及び比較例1−1の水性インクを用いて、光沢紙(ブラザー工業(株)の専用紙 写真光沢紙BP71GA4)上に解像度1200dpi×2400dpiで単色パッチを含む画像を記録し、評価サンプルを作製した。前記評価サンプルを、所定時間毎に8×10
3Paの定荷重をかけたゴム手袋にて擦った。擦り部周辺のインク擦れを、下記評価基準に従って目視評価した。なお、下記評価基準において、「汚れ」は、非記録部にまで水性インクが引き伸ばされることによって生じる色移りを意味し、「擦れ」は、記録部に生じる擦れ傷を意味する。
【0056】
光沢紙記録時の耐擦性評価 評価基準
AA:評価サンプル作製後3分後に擦ると、擦り部周辺に汚れ・擦れは生じなかった。
A :評価サンプル作製後4分後に擦ると、擦り部周辺に汚れ・擦れは生じなかった。
B :評価サンプル作製後5分後に擦ると、擦り部周辺に汚れ・擦れは生じなかった。
C :評価サンプル作製後5分後に擦ると、擦り部周辺に汚れ・擦れは生じた。
【0057】
(b)蒸発粘度評価
実施例1−1〜1−7及び比較例1−1の水性インク5gを、開放瓶(口径20mm)に入れ、温度60℃、相対湿度40%の環境で一晩静置した。静置後の前記水性インクの粘度を、粘度計(東機産業(株)製のTVE−25形)を用いて、25℃で測定し、下記評価基準に従って評価した。
【0058】
蒸発粘度評価 評価基準
AA:粘度が、2000mPa・s未満であった。
A :粘度が、2000mPa・s以上であった。
【0059】
実施例1−1〜1−7及び比較例1−1の水性インクのインク組成及び評価結果を、表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すとおり、実施例1−1〜1−7では、光沢紙記録時の耐擦性及び蒸発粘度の評価結果が良好であった。特に、前記重量比C/Rが0.2〜1である実施例1−1、1−3、1−4、1−6及び1−7では、光沢紙記録時の耐擦性及び蒸発粘度の評価結果が極めて優れていた。一方、前記樹脂bを用いなかった比較例1−1では、光沢紙記録時の耐擦性の評価結果が悪かった。
【0062】
[実施例2−1〜2−7、比較例2−1及び2−2]
実施例2−1〜2−7は、前記ABA型トリブロック共重合体を変更した例である。水性インク組成(表2)における、顔料分散液1を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1に、前記樹脂bの水溶液及び前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例2−1〜2−7、比較例2−1及び2−2のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0063】
実施例2−1、2−2、比較例2−1及び2−2の水性インクについて、光沢紙記録時の耐擦性評価及び蒸発粘度評価を、実施例1−1〜1−7及び比較例1−1と同様にして実施した。
【0064】
実施例2−1〜2−7、比較例2−1及び2−2の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表2に示す。なお、表2には、実施例1−1の水性インク組成及び評価結果も、あわせて示している。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すとおり、実施例2−1〜2−7では、光沢紙記録時の耐擦性及び蒸発粘度の評価結果が良好であった。特に、前記樹脂bの重量平均分子量が8000〜15000であり、酸価が100mgKOH/g〜150mgKOH/gである実施例2−1〜2−4では、光沢紙記録時の耐擦性及び蒸発粘度の評価結果が極めて優れていた。一方、前記樹脂bに代えて、前記ランダム共重合体又はポリエチレングリコールを用いた比較例2−1及び2−2では、光沢紙記録時の耐擦性の評価結果が悪かった。
【0067】
[実施例3−1〜3−3]
実施例3−1〜3−3は、顔料分散液を変更した例である。水性インク組成(表3)における、顔料分散液を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液に、前記樹脂bの水溶液及び前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例3−1〜3−3のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0068】
実施例3−1〜3−3の水性インクについて、光沢紙記録時の耐擦性評価及び蒸発粘度評価を、実施例1−1〜1−7及び比較例1−1と同様にして実施した。
【0069】
実施例3−1〜3−3の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表3に示す。なお、表3には、実施例1−1の水性インク組成及び評価結果も、あわせて示している。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示すとおり、実施例3−1〜3−3では、光沢紙記録時の耐擦性及び蒸発粘度の評価結果が実施例1−1と同等であった。