(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598029
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】アクティブ消音装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
G10K11/178 120
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-216297(P2016-216297)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-72771(P2018-72771A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(73)【特許権者】
【識別番号】593205831
【氏名又は名称】東邦商事株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594129437
【氏名又は名称】明興産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓実
【審査官】
堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−202875(JP,A)
【文献】
特開2008−182473(JP,A)
【文献】
特開2003−198330(JP,A)
【文献】
特開2006−293627(JP,A)
【文献】
梶川嘉延,「3次元音場におけるアクティブノイズコントロール」,日本音響学会誌,日本,一般社団法人日本音響学会,2016年 2月 1日,第72巻 第2号,pp.87−92
【文献】
大場弘和,「LMS系アルゴリズムのFPGA実装による実時間収束特性に関する研究」,[online],2006年 2月28日,[令和1年5月16日検索],インターネット<URL:http://www.arailab.dnj.ynu.ac.jp/thesis/h17/main-oba.pdf>
【文献】
宮崎信浩,「バーチャルマイクロホンを用いたフィードバックANCシステムに関する検討」,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.112 No.48 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2012年,Vol.112,No.48,pp.59−64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次音源から発せられた制御対象音を集音して参照信号を出力する第1マイクと、
前記参照信号に基づいて、前記制御対象音を制御する制御信号を出力する適応フィルタと、
前記制御信号に基づいて、前記制御対象音を打ち消す制御音を発音する2次音源と、
前記制御対象音と前記制御音とが合成された合成音を集音して、誤差信号を出力する第2マイクと、
前記適応フィルタの出力から前記第2マイクの入力までの伝達特性を模擬し、前記参照信号を受けて、フィルタード参照信号を出力する伝達特性模擬フィルタと、
前記誤差信号と前記フィルタード参照信号とを用いたLMSアルゴリズムに基づいて、前記適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ更新部とを備え、
前記フィルタ更新部は、定数値を、複数時点の前記フィルタード参照信号を要素とするベクトルの2乗ノルムを2のべき乗で近似した値で除算した値を前記LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータとして用
い、
前記フィルタ更新部は、式(1)〜(3)で表されるステップサイズパラメータを用い、
【数1】
ここで、r(n)は時刻nにおける前記フィルタード参照信号であり、Nは前記適応フィルタのタップ数であり、αは定数であり、‖R(n)‖2は、R(n)の二乗ノルムである、アクティブ消音装置。
【請求項2】
1次音源から発せられた制御対象音を制御するアクティブ消音装置であって、
再合成された参照信号に基づいて、前記制御対象音を制御する制御信号を出力する適応フィルタと、
前記制御信号に基づいて、前記制御対象音を打ち消す制御音を発音する2次音源と、
前記制御対象音と前記制御音とが合成された合成音を集音して、誤差信号を出力するマイクと、
前記適応フィルタの出力から前記マイクの入力までの伝達特性を模擬し、前記制御信号を受けて、フィルタード制御信号を出力する第1の伝達特性模擬フィルタと、
前記誤差信号と前記フィルタード制御信号とを加算して、前記再合成された参照信号を出力する加算器と、
前記適応フィルタの出力から前記マイクの入力までの伝達特性を模擬し、前記再合成された参照信号を受けて、フィルタード再合成参照信号を出力する第2の伝達特性模擬フィルタと、
前記誤差信号と前記フィルタード再合成参照信号とを用いたLMSアルゴリズムに基づいて、前記適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ更新部とを備え、
前記フィルタ更新部は、定数値を、複数時点の前記フィルタード再合成参照信号を要素とするベクトルの2乗ノルムを2のべき乗で近似した値で除算した値を前記LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータとして用
い、
前記フィルタ更新部は、式(1)〜(3)で表されるステップサイズパラメータを用い、
【数2】
ここで、r(n)は時刻nにおける前記フィルタード再合成参照信号であり、Nは前記適応フィルタのタップ数であり、αは定数であり、‖R(n)‖2は、R(n)の二乗ノルムである、アクティブ消音装置。
【請求項3】
前記フィルタ更新部は、FPGAによって構成される、請求項1または2に記載のアクティブ消音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブ消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工場や車両などにおける騒音を低減するために、制御音源から制御音を干渉音として発生するアクティブ消音装置が知られている。アクティブ消音装置において、制御音源を制御する適応フィルタのフィルタ係数を最適な値に設定するために、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムが用いられる(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
LMSアルゴリズムにおいて、ステップサイズパメラータの調整が問題となる。非特許文献1には、以下の式に示すステップサイズパラメータμを用いることが提案されている。
【0004】
【数1】
【0005】
ここで、‖R(n)‖
2は、適応フィルタに入力される複数時点の入力信号を要素とするベクトルの2乗ノルムである。βは正則化係数である。βは、ステップサイズパラメータμが一定値とならないように、たとえば、0.01などの小さい値に設定される。分母にβが含まれることによって、‖R(n)‖
2が0に近い場合に、ステップサイズパラメータμが無限大に発散してしまうのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−142469号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】サイモンヘイキン著、武部幹訳、「適応フィルタ入門」、現代工学社、1987年9月、p.121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載されているような正規化LMSアルゴリズムでは、‖R(n)‖
2が0に近い場合に、ステップサイズパラメータμが極度に大きくなる。その結果、大きなステップサイズ(更新量)で、フィルタ係数が更新されるため、フィルタ係数の計算精度が劣化するという問題がある。
【0009】
また、非特許文献1の方法では、ステップサイズパラメータμを求めるためには、式(D1)で示すように除算が必要となり、処理速度が遅くなるという問題がある。
【0010】
それゆえに、本発明の目的は、制御音源を制御する適応フィルタのフィルタ係数の計算精度が高く、かつ計算速度が速いアクティブ消音装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある局面のアクティブ消音装置は、1次音源から発せられた制御対象音を集音して参照信号を出力する第1マイクと、参照信号に基づいて、制御対象音を制御する制御信号を出力する適応フィルタと、制御信号に基づいて、制御対象音を打ち消す制御音を発音する2次音源と、制御対象音と制御音とが合成された合成音を集音して、誤差信号を出力する第2マイクと、適応フィルタの出力から第2マイクの入力までの伝達特性を模擬し、参照信号を受けて、フィルタード参照信号を出力する伝達特性模擬フィルタと、誤差信号とフィルタード参照信号とを用いたLMSアルゴリズムに基づいて、適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ更新部とを備える。フィルタ更新部は、定数値を、複数時点のフィルタード参照信号を要素とするベクトルの2乗ノルムを2のべき乗で近似した値で除算した値をLMSアルゴリズムのステップサイズパラメータとして用いる。
【0012】
また、本発明の別の局面のアクティブ消音装置は、1次音源から発せられた制御対象音を制御するアクティブ消音装置であって、再合成された参照信号に基づいて、制御対象音を制御する制御信号を出力する適応フィルタと、制御信号に基づいて、制御対象音を打ち消す制御音を発音する2次音源と、制御対象音と制御音とが合成された合成音を集音して、誤差信号を出力するマイクと、適応フィルタの出力からマイクの入力までの伝達特性を模擬し、制御信号を受けて、フィルタード制御信号を出力する第1の伝達特性模擬フィルタと、誤差信号とフィルタード制御信号とを加算して、再合成された参照信号を出力する加算器と、適応フィルタの出力からマイクの入力までの伝達特性を模擬し、再合成された参照信号を受けて、フィルタード再合成参照信号を出力する第2の伝達特性模擬フィルタと、誤差信号とフィルタード再合成参照信号とを用いたLMSアルゴリズムに基づいて、適応フィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ更新部とを備える。フィルタ更新部は、定数値を、複数時点のフィルタード再合成参照信号を要素とするベクトルの2乗ノルムを2のべき乗で近似した値で除算した値をLMSアルゴリズムのステップサイズパラメータとして用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクティブ消音装置によれば、制御音源を制御する適応フィルタのフィルタ係数の計算精度を高く、かつ計算速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態のアクティブ消音装置の構成を表わす図である。
【
図2】第2の実施形態のアクティブ消音装置の構成を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態のアクティブ消音装置の構成を表わす図である。
【0016】
図1に示すように、このアクティブ消音装置は、第1マイクとしての参照マイク2と、2次音源としてのスピーカ3と、第2マイクとしての誤差マイク4と、プレアンプ51,57と、パワーアンプ54と、ADC(Analog-to-Digital Converter)52,58と、DAC(Digital-to-Analog Converter)55と、LPF(Low-Pass Filter)53,56,59と、コントローラ20とを備える。コントローラ20は、伝達特性模擬フィルタ7と、適応フィルタ5と、フィルタ更新部6とを備える。このアクティブ消音装置は、フィードフォワード型の制御手法によって、騒音を制御する。コントローラ20は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)によって構成される。
【0017】
参照マイク2は、1次音源としての騒音源NSから発せられた制御対象音である騒音を集音して、参照信号を出力する。
【0018】
プレアンプ51は、参照マイク2の出力を増幅する。LPF53は、プレアンプ51の出力の低域成分を通過させる。ADC52は、LPF53の出力をデジタル信号に変換する。ADC52から出力される時刻nにおける参照信号をx(n)とする。
【0019】
適応フィルタ5は、LPF53からの参照信号を受けて、制御対象音を制御する制御信号を出力する。時刻nにおける制御信号をy(n)とする。時刻nにおける適応フィルタ5のフィルタ係数ベクトルをW(n)とする。
【0020】
制御信号y(n)は、参照信号ベクトルX(n)とフィルタ係数ベクトルW(n)とによって、以下のように表される。ここで、Nは、適応フィルタ5のタップ数である。
【0022】
DAC55は、適応フィルタ5の出力をアナログ信号に変換する。LPF56は、DAC55の出力の低域成分を通過させる。パワーアンプ54は、LPF56の出力を増幅する。
【0023】
スピーカ3は、制御信号に基づいて、制御対象音を打ち消す制御音を発音する。
誤差マイク4は、制御対象音と制御音が合成された合成音を集音して、誤差信号を出力する。
【0024】
プレアンプ57は、誤差マイク4の出力を増幅する。LPF59は、プレアンプ57の出力の低域成分を通過させる。ADC58は、LPF59の出力をデジタル信号に変換する。ADC58から出力される時刻nにおける誤差信号をe(n)とする。
【0025】
伝達特性模擬フィルタ7は、適応フィルタ5の出力から誤差マイク4の入力までの伝達特性を模擬し、参照信号を受けて、フィルタード参照信号を出力する。この伝達特性は、LPF56、DAC55、パワーアンプ54の特性と、スピーカ3と誤差マイク4の間の伝達特性を含む。時刻nにおけるフィルタード参照信号をr(n)とし、模擬した伝達特性ベクトルをC′とし、時刻nにおける参照信号ベクトルをX(n)、時刻nにおけるフィルタード参照信号ベクトルをR(n)とする。r(n)は、X(n)とC′とによって、以下の式で表される。
【0027】
フィルタ更新部6は、誤差信号とフィルタード参照信号ベクトルとを用いたLMSアルゴリズムに基づいて、適応フィルタ5のフィルタ係数を更新する。フィルタ更新部6は、LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータとして定数値を第1の値で除算した値を用いる。第1の値は、フィルタード参照信号ベクトルの2乗ノルムを2のべき乗(2
k、kは0以上の整数)で近似した値である。
【0028】
たとえば、フィルタ更新部6は、以下の式(A7)を計算することによって、誤差信号が最小となるように適応フィルタ5のフィルタ係数ベクトルを更新する。μはステップサイズパラメータを表わす。ステップサイズパラメータμは、以下の式(A8)、(A9)で表される。
【0030】
上記ステップサイズパラメータμを用いることによる利点について説明する。
まず、ステップサイズパラメータμの分母がN(‖R(n)‖
2)のため、入力信号であるR(n)の強度が小さくなっても、ステップサイズ(更新量)が極端に小さくなったり、R(n)の強度が大きくなっても、ステップサイズが極端に大きくなったりしないので、適応フィルタ5のフィルタ係数ベクトルの計算精度が劣化しない。特に、‖R(n)‖
2が1以下のときには、N(‖R(n)‖
2)が1となるため、ステップサイズパラメータμの計算において、発散を防止できる。
【0031】
また、フィルタ更新部6への入力信号であるR(n)の強度に影響されずに、LMSアルゴリズムの安定化条件(0<μ<2/入力電力の総和)を満たす。
【0032】
2のべき乗であるN(q)は、ビット表現したときに、最上位ビットだけが1となる。デジタル回路においては、2のべき乗の除算は、右シフト演算によって行われる。これにより、ステップサイズパラメータμの計算処理を高速化できる。その結果、参照マイク2と誤差マイク4との距離を小さくしても、フィルタ係数ベクトルの更新処理が可能となる。また、除算を右シフト演算で行えるため、FPGAによって、ステップサイズパラメータμの計算を含むフィルタ係数ベクトルの更新計算が可能となる。FPGAを用いることによって、高いサンプリング周波数で、かつ並列処理で適応フィルタ5のフィルタ係数ベクトルの計算が可能であるとともに、適応フィルタ5のフィルタ係数ベクトルの計算のための回路の規模を小さくすることができる。
【0033】
本実施の形態のステップサイズパラメータと、非特許文献1に記載のステップサイズパラメータとを比較すると、以下のような相違点がある。
【0034】
‖R(n)‖
2が0に近いときには、フィルタ係数ベクトルを更新するステップサイズを小さくした方が計算精度が良くなる。‖R(n)‖
2が0に近いときには、本実施の形態では、ステップサイズパラメータμはαとなるが、非特許文献1に記載のステップサイズパラメータμは、α/β(=100α)となる。よって、‖R(n)‖
2が0に近いときに、非特許文献1では、本実施の形態よりも大きなステップサイズでフィルタ係数ベクトルが更新されるため、計算精度が悪くなるといえる。
【0035】
また。非特許文献1に記載のステップサイズパラメータの計算は、2のべき乗の除算とはならないので、右シフト演算が不可能となるとともに、FPGAを用いることが困難となるので、計算精度が悪くなり、回路規模も大きくなる。
【0036】
[第2の実施の形態]
図2は、第2の実施の形態のアクティブ消音装置の構成を表わす図である。
【0037】
図2に示すように、このアクティブ消音装置は、2次音源としてのスピーカ3と、誤差マイク4と、プレアンプ57と、パワーアンプ54と、ADC58と、DAC55と、LPF56,59と、コントローラ30とを備える。コントローラ30は、伝達特性模擬フィルタ17,18と、適応フィルタ15と、フィルタ更新部16と、加算器19とを備える。このアクティブ消音装置は、フィードバック型の制御手法によって、騒音を制御する。コントローラ30は、FPGAによって構成される。
【0038】
適応フィルタ15は、加算器19から再合成参照信号を受けて、制御対象音を制御する制御信号を出力する。
【0039】
時刻nにおける制御信号をy(n)とする。時刻nにおける再合成参照信号をd(n)とする。時刻nにおける適応フィルタ15のフィルタ係数ベクトルをW(n)とする。
【0040】
制御信号y(n)は、再合成参照信号ベクトルD(n)とフィルタ係数ベクトルW(n)とによって、以下のように表される。ここで、Nは、適応フィルタ15のタップ数である。
【0042】
DAC55は、適応フィルタ15の出力をアナログ信号に変換する。LPF56は、DAC55の出力の低域成分を通過させる。パワーアンプ54は、LPF56の出力を増幅する。
【0043】
スピーカ3は、制御信号に基づいて、制御対象音を打ち消す制御音を発音する。
誤差マイク4は、制御対象音と制御音が合成された合成音を集音して、誤差信号を出力する。
【0044】
プレアンプ57は、誤差マイク4の出力を増幅する。LPF59は、プレアンプ57の出力の低域成分を通過させる。ADC58は、LPF59の出力をデジタル信号に変換する。ADC58から出力される時刻nにおける誤差信号をe(n)とする。
【0045】
伝達特性模擬フィルタ17は、適応フィルタ15の出力から誤差マイク4の入力までの伝達特性を模擬し、制御信号を受けて、フィルタード制御信号を出力する。この伝達特性は、LPF56、DAC55、パワーアンプ54の特性と、スピーカ3と誤差マイク4の間の伝達特性を含む。
【0046】
時刻nにおけるフィルタード制御信号をg(n)とし、模擬した伝達特性ベクトルをC′とし、時刻nにおける制御信号ベクトルをY(n)、時刻nにおけるフィルタード制御信号ベクトルをG(n)とする。g(n)は、Y(n)とC′とによって、以下の式で表される。
【0048】
加算器19は、誤差信号と、フィルタード制御信号とを加算して、再合成参照信号を出力する。
【0050】
伝達特性模擬フィルタ18は、伝達特性模擬フィルタ17と同様に、適応フィルタ15の出力から誤差マイク4の入力までの伝達特性を模擬する。伝達特性模擬フィルタ18は、再合成参照信号を受けて、フィルタード再合成参照信号を出力する。時刻nにおけるフィルタード再合成参照信号をr(n)とし、時刻nにおけるフィルタード再合成参照信号ベクトルをR(n)とする。r(n)は、D(n)とC′とによって、以下の式で表される。
【0052】
フィルタ更新部16は、誤差信号とフィルタード再合成参照信号ベクトルとを用いたLMS(Least Mean Square)アルゴリズムに基づいて、適応フィルタ15のフィルタ係数ベクトルを更新する。フィルタ更新部16は、LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータとして定数値を第1の値で除算した値を用いる。第1の値は、フィルタード再合成参照信号ベクトルの2乗ノルムを2のべき乗で近似した値である。
【0053】
たとえば、フィルタ更新部16は、以下の式(B11)を計算することによって、誤差信号が最小となるように適応フィルタ15のフィルタ係数ベクトルを更新する。μはステップサイズパラメータを表わす。ステップサイズパラメータμは、以下の式(B12)、(B13)で表される。
【0055】
本実施の形態でも、第1の実施形態と同様のLMSアルゴリズムのステップサイズパラメータを用いるので、適応フィルタ15のフィルタ係数ベクトルの計算を高速化、高精度化できるとともに、回路規模を小さくすることができる。
【0056】
(変形例)
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、たとえば、以下のような変形例も含む。
【0057】
(1)N(q)
式(A9)、(B13)では、qの値を2のべき乗で表される数値に切り上げた値をN(q)としたが、式(C1)に示すように、qの値を2のべき乗で表される数値に切り下げた値(ただし、qが1よりも小さいときには、1とする)をN(q)としてもよい。
【0059】
あるいは、2のべき乗で表される数値の中で、qに最も近い数値をN(q)としてもよい。
【0060】
(2)FGPA
第1の実施形態では、LPF53,56,59、およびコントローラ20がFPGA40によって構成され、第2の実施形態では、LPF56,59、およびコントローラ30がFPGA42によって構成されるものとしたが、これに限定されるものではない。FPGAの代わりに、DSP(Digital Signal Processor)、または汎用のコンピュータを用いることとしてもよい。
【0061】
本発明のアクティブ消音装置は、騒音の強度が一定でない環境でも安定的に作動するため、例えば、多数の機械が動いている時と動いていない時とで騒音の強度が大きく異なる工場内および建設現場等において好適に使用することができる。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
2 参照マイク、3 スピーカ、4 誤差マイク、5,15 適応フィルタ、6,16 フィルタ更新部、7,17,18 伝達特性模擬フィルタ、19 加算器、20,30 コントローラ、41,42 FPGA、51,57 プレアンプ、52,58 ADC、53,56,59 LPF、54 パワーアンプ、55 DAC。