(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の実施形態及び実施例について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態の記載内容及び実施例に限定して解釈されるものではない。
【0023】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一態様に係る強誘電体セラミックスの製造方法を説明する模式的な断面図である。
【0024】
基板(図示せず)を準備する。この基板としては、種々の基板を用いることができ、例えばSi単結晶やサファイア単結晶などの単結晶基板、表面に金属酸化物膜が形成された単結晶基板、表面にポリシリコン膜またはシリサイド膜が形成された基板等を用いることができる。なお、本実施形態では、(100)に配向したSi基板を用いる。
【0025】
次に、Si基板(図示せず)上にZrO
2膜(図示せず)を550℃以下の温度(好ましくは500℃の温度)で蒸着法により形成する。このZrO
2膜は(100)に配向する。なお、750℃以上の温度でZrO
2膜を蒸着法により形成すると、そのZrO
2膜は(100)に配向しない。
【0026】
本明細書において(100)に配向することと(200)に配向することと(400)に配向することは実質的に同一であり、また(001)に配向することと(002)に配向することと(004)に配向することは実質的に同一である。
【0027】
この後、ZrO
2膜上に下部電極103を形成する。下部電極103は、金属または酸化物からなる電極膜によって形成される。金属からなる電極膜としては例えばPt膜またはIr膜が用いられる。酸化物からなる電極膜としては例えばSr(Ti
1−xRu
x)O
3膜であり、xは下記式4を満たす。
0.01≦x≦0.4 ・・・式4
【0028】
本実施形態では、ZrO
2膜上に550℃以下の温度(好ましくは400℃の温度)でスパッタリングによってエピタキシャル成長によるPt膜103を下部電極として形成する。このPt膜103は(200)に配向する。
【0029】
次に、下部電極103上にPbZrO
3膜(以下、「PZO膜」ともいう。)104を形成する。このPZO膜104は、種々の方法で形成でき、例えばゾルゲル法、CVD法、スパッタ法によって形成することができる。PZO膜104をゾルゲル法で形成する場合は、PZOの前駆体溶液を基板上に塗布し、5atm以上(好ましくは7.5気圧以上)の酸素雰囲気で結晶化を行うとよい。なお、PZOの格子定数は、それぞれa=8.232オングストローム,b=11.776オングストローム,c=5.882オングストロームである。a軸長さが平均的ペロブスカイト(ap≒4オングストローム)の約2倍,c軸長さがc≒(√2)ap,b軸長さはb≒2cとなっている。このPZOの格子定数の変化は、基本的にはペロブスカイト八面体結晶の回転と、これに八面体の歪みが加わって、b軸方向の周期が2倍になったものである。
PZOは
図23に示すように斜方晶である。このため、PZOは見かけ上格子定数が大きくなっている。それは、ペロブスカイトが縦に45°程度回転していて、あたかも回転した結晶を点線部分のように周囲を取り囲んで、大きな結晶のように取り扱っているためである。つまり、見かけ上、a,b,c軸の長さがとても長くなっているように取り扱うのが斜方晶の慣例である。実際のPZOは実線のような結晶で、通常のペロブスカイト結晶である。
【0030】
次に、PZO膜104上にPZT膜105を形成する。このPZT膜105は、Pb(Zr
1−xTi
x)O
3膜であり、xは下記式2を満たす。Pb(Zr
1−xTi
x)O
3膜は(001)に配向している。
0<x<1 ・・・式2'
【0031】
なお、本明細書において「PZT膜」は、Pb(Zr,Ti)O
3に不純物を含有するものも含み、その不純物を含有させてもPZT膜の圧電体の機能を消滅させないものであれば種々のものを含有させてもよいものとする。
【0032】
以下にPZT膜の形成方法の一例について詳細に説明する。
PZT膜形成用ゾルゲル溶液としては、ブタノールを溶媒とする鉛が70%〜90%不足した量添加された、濃度10重量%濃度のE1溶液を用いた。
【0033】
このゾルゲル溶液に、ジメチルアミノエタノールというアミノ基を有するアルカリ性アルコールを、体積比で、E1ゾルゲル溶液:ジメチルアミノエタノール=7:3の割合で添加したところ、pH=12と強アルカリ性を示した。
【0034】
上記、本溶液を用いて、PZTアモルファス膜のスピンコート形成を行った。スピンコーターはミカサ株式会社製MS-A200を用いて行った。先ず800rpmで5秒、1500rpmで10秒回転させた後、徐々に10秒で3000rpmまで回転を上昇させた後、150℃のホットプレート(アズワン株式会社製セラミックホットプレートAHS-300)上に5min、大気中で放置した後、300℃のホットプレート(同AHS-300)上で10min、同じく大気中で放置した後、室温まで冷却した。これを5回繰り返すことで、所望の膜厚200nmのPZTアモルファス膜をPZO膜104上に形成した。これを複数枚作製した。
【0035】
次いで、上記のPZTアモルファス膜を、加圧酸素雰囲気で熱処理することにより、PZTアモルファス膜を結晶化したPZT膜105をPZO膜104上に形成する。なお、PZTの格子定数の一例は0.401nmである。
【0036】
上記のようにPZT膜105を形成した後に、PZT膜105にポーリング処理を行ってもよい。
【0037】
なお、本実施形態では、PZT膜105をゾルゲル法により形成しているが、PZT膜をスパッタ法により形成してもよい。
【0038】
本実施形態によれば、PZO膜104をPZT膜105の初期核層(即ちバッファ層)として用いることにより、PZT膜105の圧電特性を向上させることができる。詳細に説明すると、PbZrO
3(PZO)はPb(Zr
1−xTi
x)O
3(PZT)の相図中、Ti比率0(ゼロ)の場合であり、反強誘電体であるが、Pb(Zr
1−xTi
x)O
3の中でc軸長が最も長いため、PZOが全てのPZTのc軸長を伸ばす方向に働き、その構造が取り得る最大の圧電パフォーマンスを得られ易くすることができる。つまり、PZOを初期核にすることで、PZT全体がPZO初期核の結晶軸に影響を受けて、PZT膜全体でc結晶軸が伸び易くなり、つまり分極し易くなり、圧電性を容易に取り出すことが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態では、下部電極103上に、Pb(Zr,Ti)O
3の相図中、Ti比率0であるPZO膜104を形成し、PZO膜104上にPb(Zr
1−xTi
x)O
3膜105(0<x<1・・・式2')を形成するが、非常に少ないTi比率のPb(Zr
1−ATi
A)O
3膜上にPb(Zr
1−xTi
x)O
3膜を形成してもよい。ただし、A及びxは下記式1〜式3を満たす。Pb(Zr
1−xTi
x)O
3膜は(001)に配向している。
0≦A≦0.1 ・・・式1
0.1<x<1 ・・・式2
A<x ・・・式3
上記式1を満たすこと、つまりTi比率を10%以下とすることで、初期核として用いるPb(Zr
1−ATi
A)O
3膜が反強誘電性斜方晶相のPZT(つまりPb(Zr,Ti)O
3の相図中、斜方晶領域(ortho領域)のPZT)となり、Pb(Zr
1−ATi
A)O
3が全てのPb(Zr
1−xTi
x)O
3(PZT)のc軸長を伸ばす方向に働き、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の一態様に係る強誘電体セラミックスの製造方法を説明する模式的な断面図であり、
図1と同一部分には同一符号を付す。
【0041】
Si基板(図示せず)、ZrO
2膜(図示せず)及び下部電極103までは第1の実施形態と同様の方法で形成するので、説明を省略する。
【0042】
次に、下部電極103上に酸化膜106を形成する。この酸化膜106は、ペロブスカイト構造の酸化物であるとよく、例えばSr(Ti,Ru)O
3膜である。このSr(Ti,Ru)O
3膜は、Sr(Ti
1−xRu
x)O
3膜であり、xは下記式4を満たし、スパッタリングにより形成される。この際のスパッタリングターゲットは、Sr(Ti
1−xRu
x)O
3の焼結体を用いる。但し、xは下記式4を満たす。
0.01≦x≦0.4(好ましくは0.05≦x≦0.2) ・・・式4
【0043】
なお、Sr(Ti
1−xRu
x)O
3膜のxが0.4以下であるのは、xを0.4超とするとSr(Ti
1−xRu
x)O
3膜が粉になり、十分に固められないからである。
【0044】
この後、Sr(Ti
1−xRu
x)O
3膜を加圧酸素雰囲気でRTA(Rapid Thermal Anneal)により結晶化する。Sr(Ti
1−xRu
x)O
3膜は、ストロンチウムとチタンとルテニウムの複合酸化物で、ペロブスカイト構造をとる化合物である。
【0045】
次に、酸化膜106上にPZO膜104を第1の実施形態と同様の方法で形成する。次いで、PZO膜104上にPZT膜105を第1の実施形態と同様の方法で形成する。PZT膜105は(001)に配向している。
【0046】
本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
なお、本実施形態では、酸化膜106上に、PZO膜104を形成し、PZO膜104上にPZT105を形成するが、非常に少ないTi比率のPb(Zr
1−ATi
A)O
3膜上にPb(Zr
1−xTi
x)O
3膜を形成してもよい。ただし、A及びxは下記式1〜式3を満たす。Pb(Zr
1−xTi
x)O
3膜は(001)に配向している。
0≦A≦0.1 ・・・式1
0.1<x<1 ・・・式2
A<x ・・・式3
上記式1を満たすことで第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、上述した第1及び第2の実施形態を適宜組合せて実施してもよい。
【実施例1】
【0049】
図3(A)〜(C)は、実施例1によるサンプルの製造方法を説明するための断面図である。
【0050】
図3(A)に示すように、(100)の結晶面を有する6インチのSi基板11の上に反応性蒸着法によりZrO
2膜12を成膜した。この際の蒸着条件は表1に示すとおりである。このZrO
2膜12は(100)に配向した。
【0051】
次に続けて、ZrO
2膜12上にスパッタリングにより膜厚100nmのPt膜13を成膜した。この際の成膜条件は表1に示すとおりである。このPt膜13は(200)に配向した。この時のXRDパターンを
図4に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
図4は、
図3(A)に示すPt膜13まで成膜したサンプルのXRD回折結果を示している。このXRDチャートからPt膜が(400)に配向し、2Θ=103.71°であることが確認された。なお、
図4において縦軸は強度であり、横軸は2Θである。
【0054】
次に、Pt膜13上にPbZrO
3膜(以下、「PZO膜」という。)とPb(Zr
0.55Ti
0.45)O
3膜(以下、「PZT膜」という。)を順に積層した積層膜15を形成した。詳細には、Pt膜13上にゾルゲル法で膜厚250nmのPZO膜を塗布した。この際の条件は以下のとおりである。
1.4mol/kg濃度の1.3PbZrO
3形成用MOD溶液(豊島製作所製Lot.00050667-1),エタノール,2nブトキシエタノールを合わせて1000ml(それぞれ1:1:1の割合で混合)とし、その中に、ポリビニルピロリドン(日本触媒K-30)という白色粉末を20g添加し、撹拌溶解したものをPZO250nmの原料溶液とした、この溶液3mlを6inウェハ上に滴下し、3000rpmで10sec回転塗布した後、150℃ホットプレート上に30sec保持、次に250℃ホットプレート上に90sec保持した後、1atm-O2雰囲気中で600℃,3min焼結した。
【0055】
続けて、PZO膜上に膜厚2500nmのPZT膜をスパッタ法で形成した。この際のスパッタ条件は実施例2と同様である。この時のXRDパターンを
図5に示す。
【0056】
図5は、
図3(A)に示すサンプルのXRD回折結果を示すチャートである。このXRDチャートから積層膜15のPZT膜が(004)に配向し、2Θ=97.1°であることが確認された。なお、
図5において縦軸は強度であり、横軸は2Θである。
【0057】
次に、
図3(B)に示すように、Si基板11を全て研削し、ZrO
2膜12をICP(Inductive Coupling Plasma)エッチャーで除去した後に、
図3(C)に示すように、Pt膜13をミリングにより除去した。これにより、PZT/PZOの積層膜15のみが残された。この時のXRDパターンを
図6に示す。
【0058】
図6は、
図3(C)に示すサンプルのXRD回折結果を示すチャートである。このXRDチャートから積層膜15のPZT膜が2Θ=96.97°で(004)のみのピークが得られた。これにより、PZT/PZOの積層膜15は(001)c軸単一配向膜であることが分かった。なお、
図6において縦軸は強度であり、横軸は2Θである。
【0059】
ここで、PZT(400)は、Pt(400)と同位置に存在し、PZT膜が(400)配向と(004)配向の混合膜である場合、
図7に示すPZT(004)のピーク強度が、
図6に示すPZT(004)単一膜と比較して弱く成りやすい。加えて、
図7に示すPZTは2Θ≧98°であることが多い。なお、
図7は、(400)配向と(004)配向が混合した比較例としてのPZT膜のサンプルのXRD回折結果を示すチャートである。
【0060】
当然のことであるが、PZT(400)と(004)の混合膜の場合は、
図3(C)に示すようなPZTのみの膜構造としても、
図7に示すPZT(400)のピークが存在する。従って、
図6に示すXRDチャートから
図3(C)に示すPZT膜は(001)c軸単一配向膜であるといえる。
【0061】
本実施例によれば、PZO膜をPZT膜の初期核層(即ちバッファ層)として用いることにより、(001)のc軸に単一配向したPZT膜を得ることができ、PZT膜の圧電特性を向上させることができる。詳細に説明すると、PbZrO
3(PZO)はPb(Zr
xTi
1−x)O
3(PZT)の相図中、Ti比率0(ゼロ)の場合であり、Pb(Zr
xTi
1−x)O
3の中でc軸長が最も長いため、PZOが全てのPZTのc軸長を伸ばす方向に働き、それにより分極し易くなり、その結果、圧電性を容易に取り出すことが可能となる。
【実施例2】
【0062】
図8は、実施例2によるサンプルの製造方法を説明するための断面図である。
図8に示すサンプルのSi基板11、ZrO
2膜12及びPt膜13は、
図3(A)に示す実施例1によるサンプルと同様の方法で作製された。
【0063】
次に、Pt膜13上にスパッタリングによりSr(Ti
0.8Ru
0.2)O
3膜(以下、「STRO膜」という。)14を形成した。この際のスパッタリングの条件は以下のとおりである。
【0064】
[STRO膜14のスパッタリング条件]
プロセス :RF−スパッタリング
ターゲット :Sr(Ti
0.8Ru
0.2)O
3
RFパワー :400W/13.56MHz
プロセス圧力 :4Pa
ガス流量 Ar/O
2(sccm):30/10
基板温度 :600℃
プロセス時間 :20sec
膜厚:50nm
【0065】
この後、STRO膜14を加圧酸素雰囲気でRTAにより結晶化する。この際のRTAの条件は以下のとおりである。
【0066】
[RTAの条件]
アニール温度:600℃
導入ガス :酸素ガス
圧力 :9kg/cm
2
昇温レート :100℃/sec
アニール時間:5分
【0067】
次に、STRO膜14の上に膜厚50〜400nmのPZO膜16をスピンコート法により成膜する。この際の成膜条件は、以下の(1)〜(3)とおりである。
(1)1.4mol/kg濃度の1.3PbZrO
3形成用MOD溶液(豊島製作所製Lot.00050667-1),エタノール,2nブトキシエタノールを合わせて1000ml(それぞれ1:1:1の割合で混合)とし、その中に、ポリビニルピロリドン(日本触媒K-30)という白色粉末を10g添加し、撹拌溶解したものをPZO-50nmの原料溶液とした、この溶液3mlを6inウェハ上に滴下し、5000rpmで10sec回転塗布した後、150℃ホットプレート上に30sec保持、次に250℃ホットプレート上に90sec保持した後、1atm-O
2雰囲気中で600℃,3min焼結し、厚さ50nmのPZO膜を形成した。
(2)1.4mol/kg濃度の1.3PbZrO
3形成用MOD溶液(豊島製作所製Lot.00050667-1),エタノール,2nブトキシエタノールを合わせて1000ml(それぞれ1:1:1の割合で混合)とし、その中に、ポリビニルピロリドン(日本触媒K-30)という白色粉末を20g添加し、撹拌溶解したものをPZO-250nmの原料溶液とした、この溶液3mlを6inウェハ上に滴下し、3000rpmで10sec回転塗布した後、150℃ホットプレート上に30sec保持、次に250℃ホットプレート上に90sec保持した後、1atm-O
2雰囲気中で600℃,3min焼結し、厚さ250nmのPZO膜を形成した。
(3)1.4mol/kg濃度の1.3PbZrO
3形成用MOD溶液(豊島製作所製Lot.00050667-1),エタノール,2nブトキシエタノールを合わせて1000ml(それぞれ1:1:1の割合で混合)とし、その中に、ポリビニルピロリドン(日本触媒K-30)という白色粉末を20g添加し、撹拌溶解したものをPZO-400nmの原料溶液とした、この溶液3mlを6inウェハ上に滴下し、1000rpmで10sec回転塗布した後、150℃ホットプレート上に30sec保持、次に250℃ホットプレート上に90sec保持した後、1atm-O
2雰囲気中で600℃,3min焼結し、厚さ400nmのPZO膜を形成した。
【0068】
次いで、PZO膜16の上に膜厚1000〜4000nmのPb(Zr
0.55Ti
0.45)O
3膜(以下、「PZT膜」という。)17をスパッタ法で形成した。この際のスパッタ条件は以下のとおりである。
【0069】
[スパッタ条件]
装置 : RFマグネトロンスパッタリング装置
パワー : 1500W
ガス : Ar/O
2
圧力 : 0.14Pa
温度 : 600℃
成膜速度 : 0.63nm/秒
成膜時間 : 1.3分
【0070】
図9は、比較例によるサンプルの製造方法を説明するための断面図であり、
図8と同一部分には同一符号を付す。
【0071】
図9に示すサンプルは、
図8に示すサンプルからPZO膜16を無くしたものであり、PZO膜16以外は
図8に示すサンプルと同様の膜構造であり、各膜の形成方法も同様である。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すサンプル1〜6は、実施例2によるサンプルであり、
図8に示す膜構造を有する。表2に示すサンプル7〜9は、比較例によるサンプルであり、
図9に示す膜構造を有する。サンプル1〜6それぞれのPZO膜16の膜厚及びサンプル1〜9それぞれのPZT膜17の膜厚は、以下のとおりである。
【0074】
PZO膜16の膜厚 PZT膜17の膜厚
サンプル1(実施例): 50nm なし
サンプル2(実施例): 250nm なし
サンプル3(実施例): 400nm なし
サンプル4(実施例): 50nm 1000nm(総膜厚1050nm)
サンプル5(実施例):250nm 2500nm(総膜厚2750nm)
サンプル6(実施例):400nm 4000nm(総膜厚4400nm)
サンプル7(比較例): なし 1000nm
サンプル8(比較例): なし 2500nm
サンプル9(比較例): なし 4000nm
【0075】
サンプル1〜9のXRDデータを取得し、そのXRDデータより取出した詳細なデータが表2に示されている。
【0076】
図10は、サンプル4(実施例)のXRDチャートであり、
図11は、サンプル6(実施例)のXRDチャートであり、
図12は、サンプル9(比較例)のXRDチャートである。
図10〜
図12それぞれは15°≦2Θ≦50°の範囲を示している。
【0077】
図10〜
図12に示すように、サンプル4,6,9のいずれも2Θ≦50°の範囲では、殆ど結晶性に差は見られず、どれも良好なPZT結晶膜である。
【0078】
図13は、サンプル1(実施例)のXRDチャートであり、
図14は、サンプル2(実施例)のXRDチャートであり、
図15は、サンプル3(実施例)のXRDチャートである。
図13〜
図15それぞれは90°≦2Θ≦110°の範囲を示している。
【0079】
図16は、サンプル4(実施例)のXRDチャートであり、
図17は、サンプル5(実施例)のXRDチャートであり、
図18は、サンプル6(実施例)のXRDチャートである。
図16〜
図18それぞれは90°≦2Θ≦110°の範囲を示している。
【0080】
図20は、サンプル7(比較例)のXRDチャートであり、
図21は、サンプル8(比較例)のXRDチャートであり、
図22は、サンプル9(比較例)のXRDチャートである。
図20〜
図22それぞれは90°≦2Θ≦110°の範囲を示している。
【0081】
サンプル1〜3(実施例)では、初期核であるPZO膜16が50〜400nm全ての場合で、
図13〜
図15に示したように、(004)ピークが2Θ≦97°と非常に低角度域に存在していた。加えて、初期核であるPZO膜16の上部にPZT(55/45)膜17を膜厚1000〜4000nmで形成した場合のサンプル4〜6(実施例)でも、
図16〜
図18に示したように、(004)ピークが2Θ≦97°と非常に低角度域に存在していた。また、表2に示すように、サンプル4〜6(実施例)では、PZT(004)ピーク強度が、膜厚1000nm当たり175000cps以上と非常に結晶性良好であった。また、表2に示すように、サンプル4〜6(実施例)では、PZT(004)/Pt(400)ピーク強度比率が(004)/(400)>60%であった。また、表2に示すように、サンプル4〜6(実施例)では、 |(400)−(004)|のac軸長の2Θ差が、 |(400)−(004)|>6.5°と非常に大きく、残留分極値が大きいことを十分に予測させるものであった。
【0082】
また、表2に示すように、 サンプル4〜6(実施例)では、半値全幅FWHM、いわゆる、半価幅は、FWHM<0.8°と単結晶のそれと同等の数値を有していた。なお、半値全幅 (はんちぜんはば、full width at half maximum, FWHM)は、
図19に示す幅を意味する(ウィキペディア-半値幅より)。
【0083】
また、サンプル4〜6(実施例)を、
図9に示す製造方法で作製した比較例のサンプル7〜9(
図20〜
図22参照)と比較すると、サンプル4〜6(実施例)のPZT膜が優れた結晶膜であることが分かる。
【0084】
本実施例によれば、PZO膜をPZT膜の初期核層(即ちバッファ層)として用いることにより、(001)のc軸に単一配向したPZT膜を得ることができ、PZT膜の圧電特性を向上させることができる。
【実施例3】
【0085】
Si基板、ZrO
2膜及びPt膜は、実施例1によるサンプルと同様の方法で作製された。そして、PZO前躯体溶液(実施例1,2と同じ溶液)をスピンコート法により、5000rpm-10secの回転条件で厚さ40nmのPZOをPt膜上に塗布した。その後、昇温速度が10℃/sec、焼結環境がO
2、10atmで焼結温度650℃で1minの結晶化を行った。その後、XRD回折評価を行ったところ、
図24(B)のように(001)配向した厚さ40nmのPZO膜が得られた。
【0086】
次に、この厚さ40nmのPZO膜上に、そのまま続けて、スパッタ法で厚さ4μmのPZT膜を形成した。この時のXRDパターンは
図24(A)のように、(001)配向したPZO膜の格子定数と同等の格子定数を持った、すなわちPZOのc軸長を保持したまま、厚さ4μmのPZT(Zr/Ti=55/45:XRF分析値)膜を得ることが出来た。
【0087】
図24(B)の厚さ40nmのPZO膜の場合、明確に存在が確認できたZrO
2が、
図24(A)の厚さ4μmのPZT膜を塗布したところ、PZT膜の膜厚が4μmともなると、PZT強度が相当強くなっており、同一基板なのであるが、このXRD評価条件の場合は、ZrO
2の存在は、もはや確認することが不可能であった。