【実施例】
【0019】
最初に、車両について説明する。
本実施例に係る車両は、
図1に示すように、車両電源1とバックアップ電源ユニット2(補助電源装置)とブレーキバイワイヤシステム3(電動ブレーキ手段)により車両を制動可能に構成された車両用制動装置4と、空調装置や電子機器等の車両側負荷5等を備えている。この車両は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関(何れも図示略)とを備えたハイブリッド車両であり、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに回生することにより車両を制動する回生制動と、ブレーキバイワイヤシステム3による液圧制動とを併用して必要な制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行可能に構成されている。
【0020】
次に、車両電源1について説明する。
車両電源1は、例えば12Vの車両用のバッテリ11(主電源)と、このバッテリ11に並列に接続されると共に内燃機関の駆動により発電可能なオルタネータ12等を備え、バッテリ11の充電率等の充放電状態を検出可能な充放電センサ13を備えている。車両電源1は、途中部にバックアップ電源ユニット2が介装された第1回線L1と、この第1回線L1に並行に配設された第2回線L2との2系統の回線によって、ブレーキバイワイヤシステム3に電力を供給可能に接続されている。第2回線L2の途中部から分岐した第3回線L3は、車両側負荷5に接続されている。
【0021】
次に、バックアップ電源ユニット2について説明する。
バックアップ電源ユニット2は、ブレーキバイワイヤシステム3についてバッテリ11の電力供給に支障が生じる可能性がある場合に、ブレーキバイワイヤシステム3にバックアップ電力を供給するブレーキバイワイヤシステム3専用の補助電源装置である。バックアップ電源ユニット2は、複数のキャパシタとして例えば第1キャパシタ21a及び第2キャパシタ21bと、充電回路部22と、第1制御部23(制御手段)等を備えている。
【0022】
第1,第2キャパシタ21a,21bは、例えば複数の電気二重層キャパシタセルを直並列に接続したキャパシタセル群で夫々構成されている。第1キャパシタ21aは、その電圧を検知する第1電圧センサ26aを備え、第2キャパシタ21bは、その電圧を検知する第2電圧センサ26bを備えている。尚、バックアップ電源ユニット2は、キャパシタを3つ以上備えていてもよいが、複数のキャパシタは容量等の仕様が同じであることが好ましい。
【0023】
第1,第2キャパシタ21a,21bは、夫々充電可能なように充電回路部22に接続されている。また、第1キャパシタ21aは電力を供給可能なように電気的にオンオフ状態を切替え可能な第1接点24aを介して第1回線L1に接続され、第2キャパシタ21bは第2接点24bを介して第1回線L1に接続される。さらに、電気的にオンオフ状態を切替え可能な第3接点24cを介して第1キャパシタ21aと第2キャパシタ21bを直列に接続可能に構成されている。
【0024】
第1回線L1には、バッテリ11とブレーキバイワイヤシステム3の接続のオンオフ状態を電気的に切替え可能な第4接点25が設置されている。充電回路部22は、第4接点25より車両電源1側の第1回線L1に接続され、第1キャパシタ21aが電力を供給していないときに第1制御部23の制御信号に基づいて第1キャパシタ21aを充電し、同様にして第2キャパシタ21bを充電する。第1制御部23は、バックアップ電源ユニット2の蓄電手段に充放電させないときには第1接点24a〜第3接点24c、第4接点25を夫々オフにしている。
【0025】
第1制御部23は、
図2に示すように、バッテリ11の充放電センサ13、第1電圧センサ26a、第2電圧センサ26b、ブレーキペダルストロークセンサ47の検知信号に基づいて第1接点24a〜第4接点25及び充電回路部22に制御信号を送信すると共に、ブレーキバイワイヤシステム3を制御する第2制御部37に制御信号を送信する。また、第2制御部37は、第1制御部23にバックアップ電源ユニット2から供給する電力の演算に必要な後述の目標制動力に関する制御信号を送信する。
【0026】
この第1制御部23は、CPU(Central Processing Unit)と、ROMと、RAMと、イン側インタフェースと、アウト側インタフェース等によって構成されている。ROMには、充放電を制御するための種々のプログラムやデータが格納され、RAMには、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられている。第1制御部23は、図示外の電力線により車両電源1から電力供給を受けて動作する。
【0027】
第1制御部23は、第2制御部37から入力した目標制動力に相当する目標減速度Dと、乗員の踏力で発生可能な減速度D0とに基づいて、ブレーキバイワイヤシステム3に対して作動が要求される要求減速度D1を下記(1)式のように演算する。
D1=D−D0 …(1)
【0028】
減速度D0は、乗員が発揮可能な最大踏力に基づいて予め実験等により求められ、演算された要求減速度D1は制動用目標トルクに換算され、この制動用目標トルクに基づいてブレーキバイワイヤシステム3の作動に必要な第1電力E1(必要電力)が算出される。
【0029】
また、第1制御部23は、バッテリ11の充電率SOCに基づきバッテリ11からブレーキバイワイヤシステム3に供給可能な電力として第2電力E2を演算する。そして、第1電力E1が第2電力E2より大きい場合に、バックアップ電源ユニット2からブレーキバイワイヤシステム3に電力を供給させる。
【0030】
バックアップ電源ユニット2が車両電源1と共に電力供給を行う場合、第1制御部23はバックアップ電源ユニット2から第1電力E1と第2電力E2の差分電力ΔEを供給させる。例えば、第1制御部23は第1接点24aをオンにして、バックアップ電源ユニット2の第1キャパシタ21aから差分電力ΔEを供給させる。車両電源1の代わりにバックアップ電源ユニット2から第1電力E1を供給させることもできる。
【0031】
第1制御部23は、バックアップ電源ユニット2から電力を供給するとき、ブレーキペダルストロークセンサ47に検知される乗員によるブレーキペダル41の踏込ストローク(以下、ストロークと略す。)Stが大きい程、バックアップ電源ユニット2の電力供給時間を長くしている。
【0032】
図3に示すように、電力供給時の第1,第2キャパシタ21a,21bの放電特性は、ブレーキ液圧を昇圧するピーク電流として例えば50Aを200msecの間出力する昇圧ステージと、ブレーキ液圧を保持する定常電流として例えば2Aを12secの間出力する維持ステージとから構成されている。そして、この維持ステージの継続時間TをストロークStに比例するように設定されている。
【0033】
次に、ブレーキバイワイヤシステム3について説明する。
図1に示すように、ブレーキバイワイヤシステム3は、第1,第2回線L1,L2から電力が供給される電源供給制御回路部31と、モータ32と、ブレーキ液流路を電気的に開閉可能な電磁弁33〜36と、第2制御部37等を備えている。
【0034】
電源供給制御回路部31は、供給された電力を所定の制御条件に基づきモータドライバ32a、電磁弁ドライバ33a〜36a及び第2制御部37に分配している。具体的には、第1,第2回線L1,L2から供給される電力を必要に応じて電圧等の変換を行ってモータドライバ32a、電磁弁ドライバ33a〜36a及び第2制御部37に必要な電力を分配している。尚、第2制御部37は、図示外の電力線により車両電源1から電力供給を受け、ブレーキバイワイヤシステム3に供給される電力が不足する状況下でも動作する。
【0035】
ここで、ブレーキバイワイヤシステム3の操作系に係る概略構成について説明する。
図3に示すように、ブレーキバイワイヤシステム3は、乗員の操作によるブレーキペダル41のストロークStに応じたブレーキ液圧を生成可能なマスタシリンダ42と、モータ32とこのモータ32に駆動されるポンプ部とからなる電動ブレーキブースタ43(電動ブレーキ手段)と、反力発生機構44と、このマスタシリンダ42又は/及び電動ブレーキブースタ43により発生されたブレーキ液圧によって車両の前後左右輪FL,FR,RL,RRの回転を夫々制動するホイールシリンダ45a〜45dと、第2制御部37等を備えている。
【0036】
マスタシリンダ42は、第1圧力発生室42aと、第2圧力発生室42bとを備えている。第1,第2圧力発生室42a,42bは、リザーバタンク46に夫々接続され、内部に圧縮スプリングを夫々備えている。これら第1,第2圧力発生室42a,42bは、ブレーキペダル41の踏込操作に応じて略同様のブレーキ液圧を圧送可能に構成されている。第1圧力発生室42aは、開閉可能な電磁弁33を介してホイールシリンダ45a,45bに連通され、第2圧力発生室42bは、開閉可能な電磁弁36を介してホイールシリンダ45c,45dに連通されている。
【0037】
電動ブレーキブースタ43は、そのポンプ部が開閉可能な電磁弁34を介してホイールシリンダ45a,45bに連通され、開閉可能な電磁弁35を介してホイールシリンダ45c,45dに連通されている。反力発生機構44は、第1圧力発生室42aと電磁弁33とを連通する流路に接続され、例えば、シリンダと、このシリンダ内で摺動自在なピストンと、ピストンを付勢する付勢手段等によって形成されている。これにより、乗員がブレーキペダル41を踏込又は踏戻操作したとき、ブレーキペダル41を介して予め設定された特性の反力を乗員に対して作用させることができる。
【0038】
第2制御部37は、電動ブレーキブースタ43と、反力発生機構44と、ブレーキペダルストロークセンサ47と、電磁弁33〜36を制御することにより、減速度制御処理及び踏力制御処理を実行可能に構成されている。
【0039】
図5に示すように、第2制御部37は、踏力特性マップM1を有している。踏力特性マップM1は、所定の関数、例えば、対数関数によって規定されている。下記(2)式に示すように、乗員の感覚の強さは刺激の強さの対数に比例している。
A=klogB+K …(2)
尚、Aは感覚量、Bは物理量、kはゲイン、Kは積分定数である。
【0040】
第2制御部37は、ブレーキペダルストロークセンサ47で検出されたストロークStと踏力特性マップM1とに基づき目標操作反力に相当する踏力Fを設定し、これに対応した作動指令信号を反力発生機構44に出力している。
【0041】
図6に示すように、第2制御部37は、制動特性マップM2を有している。第2制御部37は、検出されたストロークStを介して設定された踏力Fと制動特性マップM2とを用いて車両の目標減速度Dを設定し、目標減速度Dに対応した作動指令信号をモータドライバ32a、電磁弁ドライバ33a〜36aに出力している。これにより、各ホイールシリンダ45a〜45dが駆動され、制動特性マップM2に基づく目標減速度Dの制動が実行されている。また、第2制御部37は、これと同時にブレーキバイワイヤシステム3の作動に必要な電力が供給されるように、ストロークSt及び目標減速度Dに関する制御信号を第1制御部23に出力している。
【0042】
第2制御部37が出力した制御信号を受信した第1制御部23は、ブレーキバイワイヤシステム3の作動に必要な電力を供給するためにバッテリ11が供給可能な電力を演算し、バッテリ11の供給電力が不足する場合にバックアップ電源ユニット2から電力を供給する。この第1制御部23によるバックアップ電源ユニット2の制御について、
図7のフローチャートに基づいて説明する。図中のSi(i=1,2…)は、各ステップを表す。
【0043】
最初にS1において、バッテリ11の充放電状態とバックアップ電源ユニット2の第1,第2キャパシタ21a,21bの電圧の情報を取得してS2に進む。そしてS2において、第1,第2キャパシタ21a,21bから電力を供給する給電手段を選択してS3に進む。このときS1で取得した電圧に基づいて、電圧が最も高いキャパシタ(例えば第1キャパシタ21a)を給電手段に選択する。
【0044】
次にS3において、ブレーキペダル41が踏込まれたか否か判定する。この判定は、ブレーキペダルストロークセンサ47の検出信号に基づいて行われるが、ブレーキペダル41の踏込みの有無を検知する図示外のブレーキセンサの検出信号に基づいて行うことも可能である。ブレーキペダル41が踏込まれて判定がYesの場合はS4に進み、判定がNoの場合はS12に進む。
【0045】
次にS4において、ブレーキペダル41のストロークStと踏力特性マップM1,制動特性マップM2に基づき目標減速度Dを演算してS5に進む。そしてS5において、演算された目標減速度Dと乗員の踏力で発生可能な減速度D0とを用いて、ブレーキバイワイヤシステム3に要求される要求減速度D1を演算してS6に進む。
【0046】
次にS6において、演算された要求減速度D1を用いてブレーキバイワイヤシステム3の作動に必要な第1電力E1を演算してS7に進む。そしてS7において、S1で検出されたバッテリ11の充放電状態等に基づきバッテリ11からブレーキバイワイヤシステム3に対して供給可能な第2電力E2を演算してS8に進む。
【0047】
次にS8において、第1電力E1が第2電力E2より大きいか否か判定する。判定がYesの場合、即ちバッテリ11の供給電力が不足する場合はS9に進み、S9において給電手段から第1電力E1と第2電力E2の差分電力ΔEをブレーキバイワイヤシステム3に供給させてS10に進む。このときS2で電力供給する給電手段として選択した第1キャパシタ21aをブレーキバイワイヤシステム3に接続するように、第1接点24aをオンにする。ブレーキバイワイヤシステム3は、供給された電力により電動ブレーキブースタ43を駆動して要求減速度D1に相当する制動力を発揮する。
【0048】
次にS10において、給電手段の電力供給回数Nに、これまでの電力供給回数に1を加えた値を入力してS11に進む。
【0049】
一方、S8の判定がNoの場合、即ちバッテリ11の供給電力が不足しない場合はS11に進み、バッテリ11から第2回線L2を介してブレーキバイワイヤシステム3に電力を供給させてS12に進む。このときブレーキバイワイヤシステム3は、バッテリ11から供給された電力により電動ブレーキブースタ43を駆動して要求減速度D1に相当する制動力を発揮する。
【0050】
ブレーキペダル41が踏込まれておらずS3の判定がNoの場合、S12において給電手段でないキャパシタ(S2で選択されていないキャパシタ)を充電可能か否か判定する。S1で取得したバッテリ11の充放電状態と第1,第2キャパシタ21a,21bの電圧に基づいて、給電手段でないキャパシタが満充電状態でなく、且つバッテリ11が充電用の電力を供給可能であれば、充電回路部22により充電可能である。S12の判定がYesの場合はS13に進んで、例えば給電手段でないキャパシタが第2キャパシタ21bの場合は、第2接点24bと第4接点25をオンにして、充電回路部22に第2キャパシタ21bを充電させてS14に進み、判定がNoの場合はS14に進む。
【0051】
次にS14において、給電手段の電力供給回数Nが所定回数に到達したか否か判定する。判定がYesの場合はS15に進んで給電手段の電力供給回数Nを「0」にリセットしてリターンし、判定がNoの場合はS3に戻る。所定回数が1回に設定されている場合は、給電手段から電力が1回供給されるとキャパシタが切替えられることになり、ブレーキ操作中のキャパシタの切替えを確実に防ぐことができる。尚、所定回数を1回に限定する必要はなく、第1,第2キャパシタ21a,21bがブレーキバイワイヤシステム3に電力を供給可能な回数を超えないように予め設定可能である。また、ブレーキペダル41の踏込み回数に基づいて給電手段とするキャパシタを切替えるように構成することもできる。
【0052】
次に、上記車両用制御装置の作用、効果について説明する。
車両用制御装置は、バッテリ11からブレーキバイワイヤシステム3に供給される電力が不足する場合に、バックアップ電源ユニット2の給電手段として選択したキャパシタから電力を供給して必要な制動力を得ることができる。この電力を供給する給電手段として例えば第1キャパシタ21aを選択したとき、給電手段と異なる第2キャパシタ21bを充電可能であれば充電しておく。
【0053】
そして、給電手段として選択された第1キャパシタ21aが電力を所定回数供給したら、第1キャパシタ21aと異なる充電された第2キャパシタ21bを次の給電手段として選択する。このように、給電手段として選択したキャパシタの電力供給回数に基づいて、他の充電されたキャパシタに給電手段の選択を切替えるので、ブレーキ操作中に選択したキャパシタが電力供給できなくなることがない。従って、ブレーキ操作中に異なるキャパシタに切替えることを防いで、ブレーキ操作中キャパシタの切替えに伴って発生するブレーキペダルの反力や制動力の変動による違和感を乗員に与えないようにすることができる。
【0054】
また、所定回数を1回に設定したとき、キャパシタから1回電力供給される毎に充電された別のキャパシタから電力供給可能なように給電手段の選択を切替えるので、ブレーキ操作中に選択したキャパシタが電力供給できなくなることがない。従って、ブレーキ操作中に異なるキャパシタに切替えることを確実に防いで、ブレーキ操作中のキャパシタの切替えに伴って発生する違和感を乗員に与えないようにすることができる。
【0055】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、回生制動と液圧制動とを実行可能なハイブリッド車両の例を説明したが、少なくともブレーキバイワイヤシステム3を備えていれば良く、電気自動車や内燃機関のみ備えた車両等に適用可能である。
【0056】
2〕前記実施形態においては、乗員の要求を重視して、目標制動力(である目標減速度D)を乗員が操作したブレーキペダル41のストロークStに基づき設定した例を説明したが、安全性を重視して、乗員によるブレーキペダル41の操作量に拘らず車両の危険回避に必要な減速度を目標減速度Dとしても良い。具体的には、進行方向前方の状況を検出可能な状況検出手段として例えばカメラやレーダ等を設け、乗員によるブレーキペダル41の踏込操作を条件とした上で、状況検出手段による検出結果に基づき目標減速度Dを設定しても良い。この場合、検出した進行方向前方の状況に基づき設定された目標減速度Dを要求減速度D1に設定することが好ましい。
【0057】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態をも包含するものである。