特許第6598052号(P6598052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6598052-車両のエア供給システム 図000002
  • 特許6598052-車両のエア供給システム 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598052
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】車両のエア供給システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/00 20060101AFI20191021BHJP
   B60T 15/04 20060101ALI20191021BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B60T17/00 B
   B60T15/04 B
   B60T17/18
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-108474(P2015-108474)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-222040(P2016-222040A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】大澤 正治
(72)【発明者】
【氏名】太田 知希
(72)【発明者】
【氏名】黒田 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】野中 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】飯合 和徳
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−240704(JP,A)
【文献】 特開2001−213131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
15/00−17/22
B60W 10/00−10/30
30/00−50/16
F16D 25/00−39/00
48/00−48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側エア供給路から複数の下流側エア供給路が分岐し、前記複数の下流側エア供給路がブレーキへ圧縮エアを供給するブレーキ回路とクラッチへ圧縮エアを供給するクラッチ回路とを含む車両のエア供給システムであって、
前記ブレーキ及び前記クラッチへ供給するエア圧を検出するエア圧検出手段と、
前記エア圧検出手段が検出したエア圧が第1の所定圧以下に低下したとき、エア圧の低下を前記車両の運転者に報知する報知手段と、
前記クラッチへ供給するエア圧が第2の所定圧を超えている場合は前記クラッチ回路を開放し、前記第2の所定圧以下に低下した場合は前記クラッチ回路を閉止し、前記ブレーキへ供給するエア圧が第3の所定圧を超えている場合は前記ブレーキ回路を開放し、前記第3の所定圧以下に低下した場合は前記ブレーキ回路を閉止する開閉手段と、を備え、
前記第2の所定圧は、前記第1の所定圧及び前記第3の所定圧よりも低いエア圧に予め設定されている
ことを特徴とする車両のエア供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ及びブレーキに対して圧縮エアを供給する車両のエア供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サプライエアサーバにマルチプロテクションバルブを介してブレーキなどの複数系統のエア供給回路を接続する回路構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−213131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなエア回路構成がブレーキへのエア供給回路とクラッチへのエア供給回路とを含む場合、ブレーキへのエア圧又はクラッチへのエア圧の少なくとも一方が所定の閾値よりも低下した際に、エア圧の低下を警報によって運転者へ報知するとともに、ブレーキへのエア圧を優先的に確保するためにクラッチへのエア供給回路を閉止する場合がある。
【0005】
この場合、エア圧の低下が報知された後は、運転者はクラッチを全く動作させることができず、走行に支障が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、エア圧の低下が報知された後であっても所定の状況下であればクラッチを動作させることが可能な車両のエア供給システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、上流側エア供給路から複数の下流側エア供給路が分岐し、前記複数の下流側エア供給路がブレーキへ圧縮エアを供給するブレーキ回路とクラッチへ圧縮エアを供給するクラッチ回路とを含む車両のエア供給システムであって、エア圧検出手段と、報知手段と、開閉手段とを備える。
【0008】
エア圧検出手段は、ブレーキ及びクラッチへ供給するエア圧を検出する。報知手段は、エア圧検出手段が検出したエア圧が第1の所定圧以下に低下したとき、エア圧の低下を車両の運転者に報知する。開閉手段は、クラッチへ供給するエア圧が第2の所定圧を超えている場合はクラッチ回路を開放し、第2の所定圧以下に低下した場合はクラッチ回路を閉止する。開閉手段は、ブレーキへ供給するエア圧が第3の所定圧を超えている場合はブレーキ回路を開放し、第3の所定圧以下に低下した場合はブレーキ回路を閉止する。第2の所定圧は、第1の所定圧及び第3の所定圧よりも低いエア圧に予め設定されている。
【0009】
上記構成では、第2の所定圧が第1の所定圧よりも低いエア圧に予め設定されているので、ブレーキへ供給するエア圧又はクラッチへ供給するエア圧が第1の所定圧以下に低下し、エア圧の低下が報知された後であっても、クラッチへ供給するエア圧が第2の所定圧以下に低下するまでの間(第2の所定圧を超えている間)は、クラッチ回路が閉止せずに開放が維持される。このように、クラッチへ供給するエア圧が第2の所定圧以下に低下するまでの間は、エア圧の低下の報知後であってもクラッチへの圧縮エアの供給が維持されるので、運転者はクラッチを動作させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エア圧の低下が報知された後であっても、クラッチへ供給するエア圧が第2の所定圧よりも低下するまでの間であれば、運転者はクラッチを動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るエア供給システムを模式的に示す構成図である。
図2図1のマルチプロテクションバルブの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る車両のエア供給システムについて、図面を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の車両に設けられたエア供給システム1は、上流側エア回路2と下流側エア回路3とマルチプロテクションバルブ(開閉手段)10と警報装置(報知手段)30とを備える。
【0014】
上流側エア回路2は、エアコンプレッサ4と、エアタンク5と、エアドライヤ6と、プレッシャレギュレータ7と、タンク上流側管路8と、タンク下流側管路(上流側エアエア供給路)9とを含む。下流側エア回路3は、ブレーキ接続管路(下流側エア供給路、ブレーキ回路)11と、クラッチ接続管路(下流側エア供給路、クラッチ回路)12とを含む。マルチプロテクションバルブ10は、タンク下流側管路9からブレーキ接続管路11及びクラッチ接続管路12への分岐部分に設けられる。
【0015】
エアコンプレッサ4は、エンジン(図示省略)によって駆動して吐出口4aから圧縮エアを吐出させる。タンク上流側管路8は、エアコンプレッサ4の吐出口4aとエアタンク5の流入口5aとを連通し、エアドライヤ6は、タンク上流側管路8の途中に設けられる。エアドライヤ6のインレットポート6aはエアコンプレッサ4の吐出口4aと連通し、エアドライヤ6のアウトレットポート6bはチェック弁15を介してエアタンク5の流入口5aと連通する。チェック弁15は、エアタンク5の流入口5aからエアドライヤ6のアウトレットポート6bへのエアの逆流を阻止する。プレッシャレギュレータ7は、エアタンク5の内圧を一定に保つように、エアコンプレッサ4のアンロード弁(図示省略)及びエアドライヤ6のパージバルブ(図示省略)を制御する。
【0016】
タンク下流側管路9は、エアタンク5の流出口5bとマルチプロテクションバルブ10のインレットポート10aとをチェック弁16を介して連通する。チェック弁16は、マルチプロテクションバルブ10のインレットポート10aからエアタンク5の流出口5bへのエアの逆流を阻止する。
【0017】
マルチプロテクションバルブ10は、上記インレットポート10aと第1アウトレットポート10bと第2アウトレットポート10cとを有する。第1アウトレットポート10bは、ブレーキ接続管路11を介してブレーキ13に接続され、第2アウトレットポート10cは、クラッチ接続管路12を介してクラッチ14に接続される。
【0018】
図2に示すように、マルチプロテクションバルブ10の内部には、上流側流路18と、第1下流側流路19と、第2下流側流路20と、第1圧力制御弁21と、第2圧力制御弁22と、第1迂回流路23と、第2迂回流路24と、第1逆止弁25と、第1絞り弁26と、第2逆止弁27と、第2絞り弁28とが設けられる。
【0019】
上流側流路18の上流端はインレットポート10aに連通し、上流側流路18の下流端は、第1下流側流路19と第2下流側流路20とに分岐する。第1下流側流路19の下流端は第1アウトレットポート10bに連通し、第1圧力制御弁21は第1下流側流路19に介設されている。第2下流側流路20の下流端は第2アウトレットポート10cに連通し、第2圧力制御弁22は第2下流側流路20に介設されている。
【0020】
第1迂回流路23は、第1下流側流路19の第1圧力制御弁21の上流側と下流側とを連通し、第1逆止弁25及び第1絞り弁26は、第1迂回流路23に介設されている。第2迂回流路24は、第2下流側流路20の第2圧力制御弁22の上流側と下流側とを連通し、第2逆止弁27及び第2絞り弁28は、第2回流路24に介設されている。
【0021】
第1圧力制御弁21は、作用するエア圧が予め設定された所定の閉弁圧(ブレーキ閉弁圧)Pb以下に低下するとコイルバネの付勢力によって自動的に閉弁する圧力制御弁である。上流側流路18の内圧(エアタンク5及びタンク下流側管路9の内圧)Puがブレーキ閉弁圧Pbを超えていると、第1圧力制御弁21が第1下流側流路19を開放し、ブレーキ接続管路11を介してブレーキ13に圧縮エアが供給される。一方、上流側流路18の内圧Puがブレーキ閉弁圧Pb以下に低下すると、第1圧力制御弁21が第1下流側流路19を閉止し、ブレーキ13に圧縮エアが供給されない。
【0022】
第2圧力制御弁22は、作用するエア圧が予め設定された所定の閉弁圧(クラッチ閉弁圧、第2の所定圧)Pc以下に低下するとコイルバネの付勢力によって自動的に閉弁する圧力制御弁である。上流側流路18の内圧Puがクラッチ閉弁圧Pcを超えていると、第2圧力制御弁22が第2下流側流路20を開放し、クラッチ接続管路12を介してクラッチ14に圧縮エアが供給される。一方、上流側流路18の内圧Puがクラッチ閉弁圧Pb以下に低下すると、第2圧力制御弁22が第2下流側流路20を閉止し、クラッチ14に圧縮エアが供給されない。
【0023】
本実施形態では、ブレーキ閉弁圧Pbの方がクラッチ閉弁圧Pcよりも高く設定されており(Pb>Pc)、上流側流路18の内圧Puが低下してブレーキ閉弁圧Pb以下になると、ブレーキ接続管路11へのエア供給が停止し、さらに低下してクラッチ閉弁圧Pc以下になると、第2圧力制御弁22がクラッチ接続管路12へのエア供給も停止する。
【0024】
また、第1圧力制御弁21及び第2圧力制御弁22の自動閉弁機能により、上流側エア回路2及び下流側エア回路3(ブレーキ回路やクラッチ回路)の一部のエア圧が失陥等によって低下すると、その異常な回路が閉弁されて、他の正常な回路が保護される。
【0025】
ブレーキ接続管路11からブレーキ13へ圧縮エアが供給されている状態で、車室内のブレーキペダル(図示省略)が運転者によって踏み込まれると、ブレーキドラム(図示省略)が作動してタイヤ(図示省略)を制動する。
【0026】
また、クラッチ接続管路12からクラッチ14へ圧縮エアが供給されている状態で、車室内のクラッチペダル(図示省略)が運転者によって踏み込まれると、クラッチ14が接続状態から切断状態に切替る。
【0027】
このように、マルチプロテクションバルブ10においてタンク下流側管路9からブレーキ接続管路11及びクラッチ接続管路12がそれぞれ分岐する。マルチプロテクションバルブは、ブレーキ13へ供給するエア圧がブレーキ閉弁圧Pbを超えている場合はブレーキ接続管路11を開放し、ブレーキ閉弁圧Pb以下に低下した場合はブレーキ接続管路11を閉止する。マルチプロテクションバルブは、クラッチ14へ供給するエア圧がクラッチ閉弁圧Pcを超えている場合はクラッチ接続管路12を開放し、クラッチ閉弁圧Pc以下に低下した場合はクラッチ接続管路12を閉止する。
【0028】
エアタンク5には、エアタンク5の内圧Psを検出して警報装置30へ送信する内圧センサ(検出手段)17が設けられる。内圧センサ17が検出する内圧Psは、マルチプロテクションバルブを介してブレーキ13及びクラッチ14へ供給されるエア圧である。
【0029】
警報装置30は、ECU(Electronic Central Unit)31と警報ランプ32とを有する。警報ランプ32は、車室内の運転者が視認可能な位置(例えば、インストルメントパネルのメータパネル内)に設けられる。
【0030】
ECU31は、内圧センサ17から受信した内圧Psが予め設定された所定の警報圧(第1の所定圧)Pw以下に低下したか否かを判定し、内圧Psが警報圧Pw以下に低下したとき、エア圧の低下を運転者に報知するために警報ランプ32を点灯する。警報圧Pwはクラッチ閉弁圧Pcよりも高いエア圧に(クラッチ閉弁圧Pcは警報圧Pwよりも低いエア圧に)予め設定されている(Pc<Pw)。
【0031】
なお、ECU31は、内圧Psが警報圧Pw以下である場合に常に警報ランプ32を点灯してもよく、内圧Psが警報圧Pwを超えている状態から警報圧Pw以下に低下した際に所定時間だけ警報ランプ32を点灯してもよい。また、警報ランプ32に代えて又は加えて、液晶画面の表示や音声等によってエア圧の低下を報知してもよい。
【0032】
本実施形態によれば、クラッチ閉弁圧Pcが警報圧Pwよりも低いエア圧に予め設定されているので、エアタンク5の内圧Psが警報圧Pw以下に低下し、警報ランプ32の点灯によってエア圧の低下が報知された後であっても、クラッチ14へ供給するエア圧(エアタンク5の内圧Ps)がクラッチ閉弁圧Pc以下に低下するまでの間(クラッチ閉弁圧Pcを超えている間)は、クラッチ接続管路11が閉止せずに開放が維持される。このように、クラッチ14へ供給するエア圧がクラッチ閉弁圧Pc以下に低下するまでの間は、警報ランプ32の点灯後であってもクラッチ14への圧縮エアの供給が維持されるので、運転者はクラッチペダルを踏み込むことによってクラッチ14を動作させることができる。
【0033】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0034】
例えば、上流側エア回路2から分岐する下流側エア回路3は、ブレーキ回路及びクラッチ回路以外の他の回路(例えば、エアサスペンションに圧縮エアを供給する回路など)を含んでもよく、係る他の回路をマルチプロテクションバルブ10で分岐してもよい。また、ブレーキ回路を上流側エア回路2から前側と後側の2系統に分岐してもよい。
【0035】
また、マルチプロテクションバルブ10に代えて、ブレーキ回路とクラッチ回路の各々にシングルプロテクションバルブを設けてもよい。
【0036】
また、内圧センサ17をエアタンク5以外の場所(例えば、タンク下流側管路9やブレーキ回路やクラッチ回路など)に設けてもよい。ブレーキ回路やクラッチ回路に内圧センサ17を設けた場合、当該回路の失陥によりエア圧が低下した場合も警報ランプ33が点灯する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両のエア供給システムとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 エア供給システム
2 上流側エア回路
3 下流側エア回路
5 エアタンク
8 タンク上流側管路
9 タンク下流側管路(上流側エア供給路)
10 マルチプロテクションバルブ(開閉手段)
11 ブレーキ接続管路(下流側エア供給路、ブレーキ回路)
12 クラッチ接続管路(下流側エア供給路、クラッチ回路)
13 ブレーキ
14 クラッチ
17 内圧センサ(検出手段)
30 警報装置(報知手段)
図1
図2