特許第6598087号(P6598087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598087X線装置における散乱に関する改善及び該X線装置を使用する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598087
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】X線装置における散乱に関する改善及び該X線装置を使用する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20191021BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   A61B6/00 350M
   A61B6/00 300J
   A61B6/00 333
   G01T7/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-537026(P2017-537026)
(86)(22)【出願日】2015年10月5日
(65)【公表番号】特表2017-537748(P2017-537748A)
(43)【公表日】2017年12月21日
(86)【国際出願番号】GB2015052908
(87)【国際公開番号】WO2016051212
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2018年10月2日
(31)【優先権主張番号】1417637.4
(32)【優先日】2014年10月4日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1422752.4
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517118342
【氏名又は名称】アイベックス イノベーションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】スコット,パウル
(72)【発明者】
【氏名】ギブソン,グレイ
(72)【発明者】
【氏名】ロックレイ,ネイル
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−014911(JP,A)
【文献】 特開平05−303154(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/058612(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/027390(WO,A1)
【文献】 特開2009−018110(JP,A)
【文献】 特表2008−502395(JP,A)
【文献】 特開平10−314152(JP,A)
【文献】 特開昭63−082627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 − 6/14
G01T 1/00 − 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源及びピクセル化X線検出器を含み、被写体である物質にX線を照射してX線画像を生成するX線装置であって、該装置は:
物質の種類及び物質の厚さを表す値に関する第1データベース、
物質の種類及び物質の厚さに関連付けられる散乱放射線値に関する第2データベース、
i)前記X線検出器の出力信号と、前記第1データベースの値とを比較して、前記第1データベースから最も近い物質の種類び物質の厚さを出力し;
ii)前記第2データベースから、ステップiにおける出力、又は、アルゴリズムにおける前の繰返しで識別された物質の種類及び物質の厚と関連付けられる散乱放射線を導出し;
iii)前記散乱放射線を、前記X線検出器の出力信号から除去し;
iv)ステップiiiの出力に対して、物質の種類及び物質の厚さ識別ステップを実行し;
v)アルゴリズムのステップii、iii、及び、ivの少なくとも1回の更なる繰返しにおいて、識別ステップで識別された物質の種類及び物質の厚さを利用する、
アルゴリズムを実行するよう構成されたプロセッサ
を更に含み、
修正されたX線出力信号が最適化されていると判定されたとき、前記繰返しは停止され、前記修正されたX線出力信号が最適化されているか否かを判定するステップは、
現繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値を、前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値、又は複数の前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値の平均と比較すること;及び
前記現繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値が、前記前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値、又は複数の前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値の平均の閾値範囲内であるかを判定すること;を含み、
前記比較された値が前記閾値内にある場合、前記アルゴリズムのステップ(ii)〜(iv)の再繰返しは、停止される、
X線装置。
【請求項2】
前記アルゴリズムは、除去された散乱放射線のX線光子が散乱しなければ相互作用したであろう前記検出器の空間的位置の出力信号に、前記除去された散乱放射線を加えることによって、前記X線検出器の前記出力信号を修正する更なるステップを含む、請求項1に記載のX線装置。
【請求項3】
前記X線出力信号は、前記X線検出器の各画素に関するX線出力信号である、請求項1又は2に記載のX線装置。
【請求項4】
前記アルゴリズムは、前記各画素に関するX線出力信号に対して実行される、請求項3に記載のX線装置。
【請求項5】
物質の種類及び物質の厚に関連付けられる散乱放射線値の前記第2データベースの散乱値は、散乱カーネルである、請求項1乃至の何れかに記載のX線装置。
【請求項6】
前記データベースは、対象となる物質の範囲の一部に関する素性及び厚さを表す散乱カーネルを追加される、請求項に記載のX線装置。
【請求項7】
前記X線検出器の出力信号から散乱放射線を除去するステップは、前記検出器の各画素に関して、ステップiiで前記データベースから選択された散乱カーネルから散乱カーネルを補間するステップを含む、請求項に記載のX線装置。
【請求項8】
各画素に関連付けられる補間された散乱カーネルからX線検出器出力信号全体に対する散乱推定値を生成する更なるステップを含む、請求項に記載のX線装置。
【請求項9】
被写体である物質にX線を照射して生成されたX線画像におけるコントラスト対ノイズ比を改善する方法であって、該方法は:
i)X線検出器の出力信号を、物質の種類及び物質の厚さを表す第1データベース値にある値と比較し、前記第1データベースから最も近い物質の種類び物質の厚さを出力するステップ;
ii)物質の種類及び物質の厚さに関連付けられる散乱放射線値に関する第2データベースから、ステップiにおける出力、又は、前の繰返しで識別された物質の種類及び物質の厚さと関連付けられる散乱放射線を導出するステップ;
iii)前記散乱放射線を、前記X線検出器の前記出力信号から除去するステップ
iv)ステップiiiの出力に対して、物質の種類及び物質の厚さ識別ステップを実行するステップ;
v)アルゴリズムのステップii、iii、及び、ivの少なくとも1回の更なる繰返しにおいて、識別ステップで識別された物質の種類及び物質の厚さを利用するステップ、
を含み、
修正されたX線出力信号が最適化されていると判定されたとき、前記繰返しは停止され、前記修正されたX線出力信号が最適化されているか否かを判定するステップは、
現繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値を、前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値、又は複数の前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値の平均と比較するステップ;及び
前記現繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値が、前記前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値、又は複数の前の繰返しにおいて識別された物質の種類及び物質の厚さを示す値の平均の閾値範囲内であるかを判定するステップ;を含み、
前記比較された値が前記閾値内にある場合、前記アルゴリズムのステップ(ii)〜(iv)の再繰返しは、停止される、
方法。
【請求項10】
前記除去された散乱放射線のX線光子が散乱しなければ相互作用したであろう前記検出器の空間的位置での出力信号に、前記除去された散乱放射線を加えることによって、前記X線検出器の前記出力信号を修正する更なるステップを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記X線検出器の出力信号は、前記X線検出器の画素からの出力信号であり、請求項又は10の方法ステップは、各画素の出力に対して実行される、請求項又は10に記載の方法。
【請求項12】
物質の種類及び物質の厚に関連付けられる散乱放射線値の前記第2データベースの散乱値は、散乱カーネルである、請求項乃至11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記データベースは、対象となる物質の範囲の一部に関する素性及び厚さを表す散乱カーネルを追加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記X線検出器の出力信号から散乱放射線を除去するステップは、前記検出器の各画素に関して、ステップiiで前記データベースから選択された散乱カーネルから散乱カーネルを補間するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
各画素に関連付けられる補間された散乱カーネルからX線検出器出力信号全体に対する散乱推定値を生成する更なるステップを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱線除去グリッドを通常利用するX線機器、特に、散乱X線をX線画像分析に利用するために提供する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物がX線照射を受ける際に、X線光子の一部は吸収され、また一部は、対象物を通過し、散乱されず、X線検出器に衝突する。これは「直接放射線」と呼ばれる。一部のX線は吸収され、残りは散乱される。発生した散乱の強度は、検出器によって検出される直接放射線量を超えることがある。散乱放射線の結果、コントラストが低下し、ノイズが増大するために、画質が悪くなる。
【0003】
吸収されたX線は、X線画像でコントラストを提供する。散乱X線光子が、検出器に当たると、散乱X線光子がどこから来たかを識別できないため、画像におけるランダムノイズが増大される。
【0004】
散乱の問題を解決するのに用いられる最も広く採用されている技術は、X線検出器と被験対象物との間に散乱線除去グリッドを設置することである。散乱線除去グリッドは、X線吸収物質から形成される一連の離間した平行な薄層(lamella)を含む。散乱X線の大部分は、薄層の1つと係合し、吸収される。従って、散乱線除去グリッドが存在する場合にX線検出器によって検出されるのは、主に直接放射線となる。
【0005】
最初の散乱線除去グリッドは、米国特許第1164987号(Bucky)(特許文献1)に記載されている。
【0006】
散乱線除去グリッドに関する問題の1つは、検出画像における散乱の影響を軽減するだけでなく、X線吸収薄層が、直接放射線の一部、即ち薄層の経路で伝搬する光子を吸収してしまうことである。
【0007】
散乱線除去グリッドにおいて失われた光子を補完する、つまり低下した画質を補うために、X線束を増加することが慣用技術になっている。しかしながら、これは、X線画像処理がX線感光物質のものである場合、欠点となる。これは、散乱線除去グリッドが存在することで補完するために患者へのX線放射線量が増大されなければならない場合、医療画像処理において、最大の懸念事項となる。
【0008】
X線画像処理で使用されるX線パワーを減少するために、幾つかの試みが行われた。
【0009】
米国特許第7551716号(特許文献2)では、散乱線除去グリッドを使用する代わりに、散乱X線光子を大凡判定するのに数学的方法を使用している。散乱X線光子を大凡判定するのに数学的方法を利用することによって、散乱線除去グリッドを使用するX線装置と比べると、X線量は減少されることができる、又は信号対ノイズ比は、増大される。
【0010】
多吸収板を含むX線装置が、本出願人の英国特許出願第2498615号公報(特許文献3)に記載されている。このX線装置では、X線エネルギスペクトルは、多様に摂動される。この装置及び方法は、物質特性を識別可能にする情報を提供する。特許文献3は、参照することにより本明細書に組込まれる。
【0011】
先行技術は、散乱放射線を大幅に減少するために散乱線除去グリッドを使用することによって、又はX線画像から散乱放射線がどのようになるかの推定値を除去するために数学的補正を適用することによって、散乱放射線によって引き起される問題を解決する。
【0012】
本発明は、直接放射線と散乱放射線の両方を測定することを伴う新たな方法で散乱の問題を解決する。これは、直接放射線と散乱放射線の両方に作用するよう装置に変更を加えることによって、達成される。
【0013】
散乱放射線は、これまで、X線画像に悪影響を与えるものと見なされてきた。散乱に関する問題を解決する際の以前の試みは、画像が、X線検出器に衝突する直接X線放射線によって出来るだけ形成されるように、散乱放射線の除去を最適化することに重点が置かれていた。
【0014】
散乱放射線を測定するために提供するだけでなく、本発明は、散乱放射線を、物質及び物質の厚さを識別する際に、及びコントラスト対ノイズ比を改善する際に使用するためにも提供する。
【0015】
X線検出器からの測定出力信号を、散乱放射線の独立した測定値とを比較することによって、直接放射線と散乱放射線を含む画像中で散乱放射線を識別でき、且つ画像から散乱放射線を除去できる。それにより、コントラスト対ノイズ比を高められる。医療用途、及びX線が、X線によって損なわれる可能性がある物質を分析するのに使用される他の用途に関連して、本発明は、線量を、同様の水準の画像を作成するのに低減可能にする、又は同じX線量を使用して、より良好な画像が生成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第1164987号
【特許文献2】米国特許第7551716号
【特許文献3】英国特許出願第2498615号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1態様によると、X線源及び多画素X線検出器、及びX線源と検出器間に、入射するX線光子を摂動するよう構成される部材を含むX線装置であり、部材は、該部材に入射するX線光子を、該X線光子の入射角度に応じて、異なって摂動するように適合され、部材は、少なくとも部分的にX線光子に対して半透明を示す物質から形成された複数の要素を含むX線装置であって、該装置は:
物質の種類及び/又は物質の厚さを表す値に関する第1データベース、
物質の種類及び/又は物質の厚さを示す散乱放射線値に関する第2データベース、
i)X線検出器の各画素の出力信号と第1データベースの値とを比較して、第1データベースから最も近い物質及び/又は厚さを出力し;
ii)第2データベースから、ステップ(i)における物質の種類及び/又は厚さと関連付けられる散乱放射線を選択し;
iii)散乱放射線を、X線検出器の出力信号から除去する
アルゴリズムを実行するよう構成されたプロセッサ
を更に含むX線装置が提供される。
【0018】
有利には、アルゴリズムは、除去された散乱放射線のX線光子が散乱しなければ相互作用したであろう検出器の空間的位置での出力信号に、除去された散乱放射線を加えることによって、X線検出器の出力信号を修正するステップを含む。
【0019】
物質の種類及び/又は厚さを表す値に関する第1データベースは、例えば、散乱線除去グリッドを利用することによって、散乱を除外して、実質的に作成されてもよい。
【0020】
アルゴリズムは、各画素のX線出力信号に対して、実行されてもよい。
【0021】
好適には、アルゴリズムは、アルゴリズムのステップii及びiiiの少なくとも1回の更なる繰返しで識別された物質及び/又は厚さを利用して、ステップiiiの出力に対して、物質及び/又は厚さ識別ステップを実行するステップを含む。
【0022】
有利には、アルゴリズムは、修正されたX線出力信号が最適化されているか否かを判定する更なるステップを含む。
【0023】
修正されたX線出力信号が最適化されているか否かを判定するステップは、現繰返しの画像における物質の種類及び厚さを示す値を、前の繰返しの画像における物質の種類及び/又は厚さを示す値、又は多数の前の繰返しにおける物質の種類及び/又は厚さを示す値の平均と比較すること、及び現繰返しの画像における物質の種類及び/又は厚さを示す値が、前の繰返しの物質の種類及び/又は厚さを示す値、又は多数の前の繰返しにおける物質の種類及び/又は厚さを示す値の平均の閾値範囲内であるかを判定することを含んでもよい。比較された値が閾値内にある場合、アルゴリズムのステップ(i)〜ステップ(iii)の再繰返しは、停止されてもよい。
【0024】
アルゴリズムは、除去された散乱放射線のX線光子が散乱しなければ相互作用したであろう検出器の空間的位置での出力信号に、除去された散乱放射線を加えることによって、X線検出器の出力信号を修正する更なるステップを含んでもよい。
【0025】
好適には、物質の種類及び/又は厚さを示す散乱放射線値に関する第2データベースの散乱値は、散乱カーネルである。
【0026】
散乱カーネルは、物質を通るX線光子の単一軌道からの散乱を表わすものとして定義されてもよい。
【0027】
データベースは、対象となる物質の範囲の一部に関する素性及び/又は厚さを表す散乱カーネルを追加されてもよい。
【0028】
X線検出器の出力信号から散乱放射線を除去するステップは、検出器の各画素に対して、ステップiiでデータベースから選択された散乱カーネルから散乱カーネルを補間するステップを含んでもよく、各画素に関連付けられる補間された散乱カーネルからX線検出器の出力信号全体に関する散乱推定値を生成する更なるステップも含んでもよい。
【0029】
有利には、部材は、多吸収板(MAP:multi−absorption plate)であり、該MAPは、複数の異なる領域を含む板であり、異なる領域は、入射X線エネルギに対して異なる透明性を有する。複数の異なる領域は、隣接する領域が入射X線エネルギに対して異なる透明性を有する、繰返しパターンで形成されてもよい。
【0030】
部材は、画像キャプチャ中、静止位置に保持されるのが好ましい。
【0031】
本発明の第2態様によると、X線源及び多画素X線検出器、及びX線源と検出器間に、入射するX線光子を摂動するよう構成される部材を含むX線装置であり、部材は、装置の少なくとも2つの異なる構成を提供するように適合され、部材は、異なる構成で、X線光子を異なって摂動するX線装置を提供する。
【0032】
好適には、部材は、上記装置の少なくとも2つの異なる構成を提供するように移動可能である。
【0033】
一実施形態では、部材は、多吸収板(MAP)であり、該MAPは、複数の異なる領域を含む板であり、各領域は、入射X線エネルギに対して異なる透明性を有する。かかるMAPは、1軸で、2軸又は3軸で移動可能としてもよく、これらの軸は、互いに直交してもよい。
隣接する領域が入射X線エネルギに対して異なる透明性を有する、繰返しパターンで形成されてもよい。
【0034】
部材を移動することによって、どれか一つのX線光子が衝突する可能性がある部材の部分は、構成別に異なり、従って、装置の構成別に散乱パターンは異なる。
【0035】
直接放射線の場合、既知の異なる構成間で移動する効果は、常に同じである。即ち、構成(a)から構成(b)に部材を移動すると、直接放射線に対して常に同じ効果を有する。構成(b)から構成(c)に部材を移動しても、直接放射線に対して常に同じ効果を有するが、その効果は、構成(a)から構成(b)に移動する効果とは異なるかも知れない。この知識を用いて、直接放射線を識別できる、従って、散乱放射線も、直接放射線でないものという理由で、識別できる。
【0036】
別の実施形態では、部材は、個々の薄層がフレーム内で回転可能に取付けられることを除いて、散乱線除去グリッドに酷似する。フレーム内で薄層を回転させると、装置の構成は変化するが、これは、薄層がX線源からX線検出器に延伸する軸と平行になる散乱パターンが、薄層が上記軸と平行から例えば5度傾く散乱パターンと異なるためである。
【0037】
別の実施形態では、MAPを移動する、又は散乱線除去グリッドの薄層を、回転するように構成する代わりに、部材は、電流等の信号を印加すると平坦構成と屈曲構成との間で変化する形状記憶合金から形成されてもよい。
【0038】
別の実施形態では、部材は、電流を印加すると大きさを変える圧電物質から形成される。
【0039】
部材は、フレーム内で回転可能に取付けられる個々の薄層を含んでもよい。
【0040】
部材は、信号の印加時に形状を変えることによって構成間で変化する形状記憶合金から形成されてもよい。部材は、信号の受信時に平坦構成と屈曲構成との間で変化する形状記憶合金から形成されてもよい。
【0041】
部材は、電流の印加時に大きさ及び/又は形状を変化させる圧電物質から形成されてもよい。
【0042】
本発明の別の態様によると、X線源及び多画素X線検出器、及びX線源と検出器間に、入射するX線光子を摂動するよう構成される部材を含むX線装置であり、部材は、該部材に入射するX線光子を、該X線光子の入射角度に応じて、異なって摂動するように適合され、部材は、少なくとも部分的にX線光子に対して半透明を示す物質から形成された複数の要素を含むX線装置が提供される。
【0043】
好適には、上記要素は、X線源からX線検出器に延伸する軸の方向に、該軸と直角を成す方向よりは、更に延伸する。
【0044】
散乱X線光子が、要素の1つに衝突すると、散乱X線光子が、該要素を通過するか、該要素によって吸収されるか、及び散乱X線光子が該要素を通過する場合、該光子のエネルギは、X線光子の該要素に対する入射角に応じて決まる。これは、X線光子の入射角によって、入射したX線光子が通過しなければならない物質の厚さが決まるからである(勿論、該要素の角に最も近くに入射するX線光子は、同じ入射角で、該要素の角から最も遠くに入射した場合よりも、物質の厚さが薄くなるかも知れない)。
【0045】
本発明の他の態様によれば、X線画像から散乱放射線を除去する方法を提供し、該方法は、本発明の第1態様の装置において、被験物質を、X線光子に当て、試験中に、部材の構成を変化させるステップ;X線画像を分析し、X線画像における直接放射線と散乱放射線を識別し、X線画像から識別された散乱放射線を除去するステップを含む。
【0046】
X線画像から散乱放射線を除去する方法は、物質の種類及び/又は物質の厚さを識別する更なるステップを含んでもよい。
【0047】
物質の種類及び/又は厚さは、除去された散乱放射線から識別されてもよい。X線画像は、識別された物質の種類及び/又は厚さに従い、修正されてもよい。
【0048】
本発明の他の態様によれば、散乱X線放射線と直接X線放射線の両方を含む原X線画像において散乱放射線から物質及び/又は物質の厚さを識別する方法が提供される。
【0049】
未知の物質及び/又は厚さが、本発明の装置を使用して試験される場合、結果として得られた散乱パターンは、最も近い物質及び/又は厚さが識別され得るデータベース中の散乱パターンと比較され、それにより物質及び/又は厚さを識別できる。
【0050】
物質及び/又は厚さの識別を実行するために、既知の厚さの既知の物質に、部材の構成が試験中に変化される本発明の第2態様の装置で、X線光子を当ててもよい。これにより、部材の異なる構成と一致する異なる散乱パターンを、既知の物質及び/又は厚さに対して生成できる。これは、データベースに保存されることができる。これは、画素毎に行われてもよい、即ち、多画素検出器の各画素の出力に対して行われてもよい。
【0051】
また、既知の物質の種類及び/又は厚さに対する散乱パターンも、データベースに記録され、保存されてもよい。
【0052】
図面は、本発明の好適実施形態を説明しており、例として挙げたものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明による装置の略図である。
図2】本発明の部材の実施例を示している。
図3】本発明の別の部材の実施例を示している。
図4】本発明の更に別の部材の実施例を示している。
図5】本発明の更に別の部材の実施例を示している。
図6】本発明の更に別の部材の実施例を示している。
図7】本発明の更に別の部材の実施例を示している。
図8a】本発明の別の実施形態を示している。
図8b】本発明の別の実施形態を示している。
図9図8a及び図8bに示された本発明の実施形態の動作に関する方法を示すフローチャートである。
図10図8a及び図8bに示された本発明の実施形態の動作に関する方法を示す別のフローチャートである。
図10a図8a及び図8bに示された本発明の実施形態の動作に関する別の方法を表すフローチャートである。
図11a図8a〜図10に示された本発明の実施形態による処理前に検出された試料の画像を示している。
図11b図8a〜図10に示された本発明の実施形態による処理後に検出された試料の画像を示している。
図12a図11aに示された画像に関するカウント数対強度のヒストグラムを示している。
図12b図11bに示された画像に関するカウント数対強度のヒストグラムを示している。
図12c】散乱再割当前後の多数の対象領域に関するコントラスト対ノイズ比を示すグラフである。
図13】板を図8a及び図8bのように指向させた状態で、上から見た多吸収板の図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、本発明による装置1の一般配置図を示している。X線源2は、検出器3と、この場合多吸収板又は散乱線除去グリッドである部材4が、検出器3の線源側で、検出器3に隣接して位置する状態で、位置合せされる。被験試料5は、線源2と多吸収板(MAP)又は散乱線除去グリッド4との間に位置する。
【0055】
図2図7では、部材に関する多数の異なる選択し得る仕組み(arrangement)を示している。
【0056】
図2では、部材4は、一連の左右対称の段4a、4b、4cを含むMAPであり、それによりMAPの中心部分4cは、MAPの最外側部分と比べると、物質の厚さが3倍になっている。MAPは、図2の左側に示されているように、横に移動されてもよい、又は図2の右側に示されているように、上方及び下方に移動されてもよい。次に、左側の図を見ると、本装置の6つの異なる構成を示している。最上より下の各図は、立体遮蔽(solid shading)状態にあるMAP4の新たな位置を示し、最上図では、陰影状態にあるMAPの位置を示している。勿論、横に移動するMAP4よりむしろ、それに加えて又はその代わりに、MAPは、前後に移動してもよい。
【0057】
右側の図を見ると、MAPの5つの異なる構成を示している。中央の図は、移動する前のMAPを示している。中央図より上の図は、垂直方向に2段上方へ移動したところを示し、中央図より下の図は、垂直方向に2段下方に移動したところを示している。
【0058】
図2の図面から分かるように、MAPが水平方向又は垂直方向に移動されると、特定の経路で伝搬するX線光子が通過しなければならない物質の厚さは、MAPの位置が変化するのに応じて、変化する。
【0059】
図3では、部材4は、互いに重なる複数の板6a、6bから成る。各板6a、6bは、グリッド状の物質で作製される。この実施形態では、上板6aは、下板6bより薄くなっている。最上図では、グリッド6a、6bは整列されている。最上図のすぐ下の図では、上グリッド6aは、左へ移動されており、上グリッド6aの物質が、下グリッドの間隙部に部分的に重なっている。上グリッドが更に移動されると、上グリッド6aは、下グリッド6bの間隙部に重なるように移動し、更に移動すると、最も下の2図に示されるように、上グリッド6aは、上グリッド6aの物質の3部分が下グリッドの物質と、下グリッドの最右部分が上グリッドによって被覆されない状態で、整列されるように移動する。勿論、この実施形態で重要なことは、板6aと板6b間の相対移動である。かかる移動は、上及び/又は下板6a、6bに関するものである。
【0060】
ここでもまた、当業者は、被験物質によって散乱されるX線光子が、上下グリッドが互いに対してどのような位置であるかに応じて異なる影響を受けることが分かるであろう。
【0061】
図4では、部材4は、フレーム(図示せず)内に、該フレームに対する相対的回転が可能であるように、取付けるよう構成される薄層7a、8aの上下組7、8を含む。薄層7a、8aが回転すると、特定の経路で伝搬するX線光子(散乱X線光子又は直接X線光子とされる)が通過しなければならない物質の厚さは、変化する。図4の4図から分かるように、薄層7a、8aは、薄層7a、8aがX線源から検出器に延伸する軸と略同じ平面に存在する位置から、薄層7a、8aが上記軸に対して垂直になる位置に移動できる。
【0062】
薄層7a、8aを形成する物質は、X線光子に対して不透明としてもよい、又はX線光子に対して半透明としてもよい。薄層を半透明にする効果については、図5を参照して、以下で更に詳細に説明される。
【0063】
図5は、直交する2方向に延伸する薄層9a、10aを有する散乱線除去グリッドの形をした部材4を示している。左から右に延伸する薄層9aは、X線光子に対して半透明であるが、薄層9aに対して垂直に延伸する薄層10aは、X線光子に対して不透明である。線源からX線検出器に延伸する軸に対して微小角度の半透明な薄層に衝突する散乱X線光子は、かなり大きな角度で、例えば、上記軸に対して垂直に傾斜する半透明な薄層に衝突する散乱X線光子よりも、遥かに厚い物質を通過する必要があるだろう。かかるX線光子は、殆ど減衰せずに、薄層を通過する可能性がある。従って、散乱X線光子は、半透明薄膜に対する入射角に応じて減衰されると理解される。
【0064】
図5に示される部材4は、静的又は動的配置で、使用されてもよい。
【0065】
動的配置では、部材4は、移動されてもよいように取付けられ、この移動は、図2及び図3を参照して説明されたのと同様な方法で行われてもよい。これらの図面を参照して説明されたように、図5を参照して説明された部材4を特定の方法で移動する直接X線光子への効果は、常に同じであり、この予想される変化は、直接X線光子、従って散乱X線光子を識別するのに使用されることができる。
【0066】
静的配置では、部材は、異なる構成を有さないため、該部材の直接X線光子に対する効果は、可変ではない。しかしながら、散乱X線光子を識別可能である。
【0067】
異なる物質の種類及び厚さに関して、散乱X線光子のパターンは、物質及び厚さに特有であることが知られている。異なる既知の厚さの異なる既知の物質を試験することによって、X線検出器出力に関するデータベースが、構築できる。かかるX線検出器出力は、各画素で記録される信号を含む。未知の物質の試料が装置1で試験される場合、試料5の物質種類及び/又は厚さの識別は、隣接する画素で受信された信号、又は隣接する画素で受信された信号間の差異の形をしたデータを、信号又は異なる既知の物質種類及び/又は厚さと関連付けられた信号間の差異に関するデータベースと比較し、検出された信号又は信号間の差異と最も合致するデータベースからの情報に基づいて、試料の物質種類及び/又は厚さに関する判定を行うことによって、達成されてもよい。
【0068】
図6図7は、部材1の構成が、該部材を形成する物質に対して物理的変化を与えることによって変化される点で同様である。図6は、4薄層11aから形成された部材1を示しており、各層は、付与される電荷に応じて形状を変化する圧電物質製である。一構成(最上図)では、薄層11aは、深くて狭く、平行な薄層間の間隙が、個々の薄層11aの幅より大幅に広くなっている。電荷が付与され、圧電物質が形状を変化すると、各薄層は、より浅く、幅広になる。付与される電荷が更に変化されると、物質は、図6の最下図で示されたように、薄層11aが纏って連続した平面となるまで、形状を変化する。
【0069】
図7の実施形態では、部材1は、形状記憶合金から形成され、最上図で示された平面構成と、湾曲領域12a、12bを提供する波形構成との間で動く。印加される電流に応じて、部材1は、図示された2構成間で形状を変化する。
【0070】
図2図3図6及び図7では、同じ矢印a、b、c及びdが示されている。これらは、X線光子の経路、及び該光子が部材の構成に応じて衝突する部材1の物質を表している。当業者は、部材の構成を変えることで、X線光子に対する部材の効果が大きくなり得ることを容易に理解するであろう。
【0071】
図8aは、本発明の別の実施形態による装置1を示している。X線源2は、多吸収板(MAP)4が検出器3の線源側で検出器に隣接して位置した状態で、検出器3と位置合せされている。MAP4は、図2を参照して説明した種類のもの、又は図13を参照して説明したようなMAP16としてもよい。図2で示された本発明の実施形態と、図8a及び図8bで示された実施形態との主な相違点は、MAP4の動きである。図2の実施形態では、MAP4は、線源2及び検出器3に対して移動するのに対して、図8a及び図8bの実施形態では、MAP4は静止している。
【0072】
図13で示されたMAP16は、異なる領域16a〜16iを含む。板の異なる領域は、異なるX線吸収能力を有する。これらの領域は、異なる厚さを有してもよい、又は、例えば、異なる物質から形成されてもよい。
【0073】
図8aは、被験試料5に入射するX線光子に起きることを示している。上記で説明されたように、X線源2から放出されたX線光子mの中、一部のX線光子m’は、被験試料5を真直ぐ通過して、検出器3に衝突しており、これらのX線光子は、「直接放射線」を表し、一部は吸収され、一部のX線光子nは散乱される。
【0074】
散乱X線光子nは、望ましくない。本発明のこの実施形態は、図8aで示された散乱X線光子nを画像から除去可能にし、疑似直接放射線n’として、散乱X線光子nが関連付けられた直接放射線m’に再割当可能にする。その結果、図8bにおいて、X線光子が衝突して生じる検出器3の任意の一画素に関する出力は、直接放射線m’及び再割当された疑似直接放射線n’を含むことになる。これは、コントラストを高め、従って、検出器3によって生成された画像のコントラスト対ノイズ比を高めると共に、より望ましい画像を提供するが、というのも、散乱X線光子nが、散乱線除去グリッドを用いた場合でのようには、除去されず、X線光子が散乱しなければX線光子が相互作用したであろう検出器の空間的位置での出力信号に追加されるからである。そのため、結果的に、画像コントラストを改善できる。
【0075】
検出された画像から散乱光子nを除去し、該散乱光子nを疑似直接放射線n’として再割当するために、検出器3によって検出された信号は、以下のように処理される。
【0076】
異なる物質及び該物質の異なる厚さの散乱パターンに関するデータベースが、作成される。これは、図10で示されたシミュレーションモデルを使用して行われ、該シミュレーションモデルでは、異なる物質及び該物質の異なる厚さが、X線光子のペンシルビームが該物質に入射する際に、どのように散乱するかをシミュレートする。シミュレーションモデルを使用する代わりに、データベース用データは、試料を異なる物質の種類及び/又は厚さのものとして、実際の装置及び試料を使用して収集されることもできる。
【0077】
多画素検出器の1画素と位置合せされるペンシルビームを使用することによって、線源が位置合せされる画素に達するX線光子が、「直接放射線」の大部分、又は直接放射線の経路から微小角度を通り散乱された散乱放射線を表すこと、及び他の画素によって検出された全てのX線光子が、入射したペンシルビームから来た散乱X線光子であることを確信できる。従って、特定の厚さのあらゆる物質の特徴的な散乱パターンを確立できる。この処理を、同じ物質の異なる厚さに対して繰返すことによって、同じ物質の異なる厚さに対する特徴的なパターンは、確立されることができる。同様に、異なる物質及び/又は該物質の異なる厚さに対する処理を繰返して、特徴的な散乱パターンに関するデータベースは、構築されることができる。
【0078】
X線システム及びX線物理学のモンテカルロモデルは、粒子が被験物を通過するのをシミュレートするGEANT4と呼ばれるソフトウェアパッケージを使用して、作成された。このモデルは、異なる物質及び該物質の厚さに入射するX線光子のペンシルビームの結果をシミュレートするために使用された。異なる物質及び該物質の異なる厚さに対する結果は、記録される。
【0079】
各散乱パターンは、図10でグラフ1に示されたものと同様の形を有する。散乱と関連して、これは、散乱カーネルとしても知られている。いかなる散乱カーネルに関しても、ペンシルビームと位置合せされない検出器3の画素に入射した全てのX線光子によって表される散乱光子は、識別され、画像から除去されることができる。更に画像を改善するために、除去された散乱放射線は、直接放射線としてペンシルビームと直接位置合せされた画素(複数可)で記録された光子強度に再び加えられてもよい。従って、画素(複数可)で結果として得られる出力強度は、直接放射線の出力信号と、散乱されなければ除去された散乱放射線のX線光子が相互作用したであろう検出器の空間的位置での出力信号との合計となる。
【0080】
しかしながら、対象となる全ての物質及び該物質の厚さに特徴的な散乱カーネルに関するデータベースを作成して、使用するには、膨大なデータ保存容量と極めて強力な処理能力を必要とするであろう、或いは、かかるデータベースに保存されたデータを使用するには、極めて低速になるであろう。
【0081】
そのため、本発明のこの実施形態のモデルは、それら自体が特にシミュレートされていない物質及び該物質の厚さの組合せに対する散乱カーネルを導出するために、補間法を使用する。補間の技法、及びこの実施形態においてエミュレーションは、それ自体新しいものではない。
【0082】
図9は、本発明の処理が、どのようにしてX線検出器3によって記録されたデータから散乱X線光子を除去し、疑似直接放射線として散乱光子を再割当するかを示すフローチャートである。
【0083】
図10で説明されたフローチャートは、図9で示された処理について、より詳細に説明しており、特に、散乱のない画像を齎すサブステップが説明されている。
【0084】
ステップ20では、エネルギ強度の形のデータが、検出器3の各画素に関して、検出器3によって記録される。
【0085】
ステップ21では、物質の種類及び物質の厚さを識別するサブプロセスが、例えば、特許文献3に記載された技術を使用して実行されるが、該技術では、ピクセル化検出器の出力強度が、該出力強度を物質の素性(identity)及び厚さと相関させる値に関するデータベース30と比較される。従って、このステップの出力は、検出器3の各画素と関連付けられる物質識別データベースからの物質及び厚さである。用語「物質」は、物質の組合せを含む。例えば、このステップの出力は、検出器3の特定の画素で識別された物質が、筋肉と骨というようにしてもよい。事実上、このステップ21の出力は、物質の素性及び/又は厚さに関する第1推定値である。
【0086】
ステップ22では、識別された物質の散乱カーネルが、ステップ22aでエミュレートされる、即ち、散乱カーネルに関するデータベース31から、散乱カーネルが、検出器3の各画素に関して、ステップ21で識別された物質に対してエミュレート(導出)される。個々の散乱カーネルは、ステップ22bで纏めてコンボリューションされる。この散乱カーネルのコンボリューションは、画像の散乱推定値として知られるものを形成しており、図10のグラフ2に示されている。グラフ2から分かるように、散乱推定値には、検出器の各画素と関連付けられる散乱値が存在する。ステップ22cでは、画像を表す検出されたX線強度に関する散乱は、検出器の各画素に関する検出器の出力値から散乱強度値を減算することによって、除去される。ステップ22cの出力は、画像としてもよい、又は画像として表され得る強度値としてもよい散乱のない画像22dとして示される。
【0087】
X線画像における改善は、処理に関してこの時点で止めることができる。しかしながら、物質の素性及び厚さの第1推定値が正しい可能性が低く、そのため、物質の識別及び/又は厚さの第1推定値に基づいて画像から散乱放射線を除去だけする以上に、画像を改善することが好ましい。
【0088】
ステップ22では、初期校正が、物質及び物質の厚さに関するデータベースへの検出器の出力を校正するために実行される。
【0089】
ステップ23では、物質識別ステップが、ステップ22の結果得られた検出器の各画素に関する出力強度に対して実行される(これらの出力強度は、画像を形成する)。この物質識別ステップでは、ステップ22からの検出器の各画素に関する出力強度は、事前に識別された物質及び/又は厚さについて確立された検出器の出力強度に関するデータベースと比較される。
【0090】
ステップ24では、ステップ23における物質及び/又は厚さの識別が最適化されているか否かについて判定が行われる。これは、まず、ステップ23における物質及び/又は厚さを表す値(又は、該値と相関するパラメータ)を、ステップ21における物質及び/又は厚さの識別を表わす値と比較し、ステップ23の結果がステップ21における値の閾値内にあるか否かを確立することによって、行われる。閾値内にない可能性が高い、答えがNOの場合、ステップ22及び23は、現在繰返し中のステップ22及び23において物質及び/又は厚さを表す値が、収束するまで、即ち、前の繰返しにおける、又は前の繰返し数の平均における物質及び/又は厚さを表す値の閾値内になるまで、繰返される。答えがYESの場合、処理はステップ25に進み、ステップ25では、散乱は、再割当された散乱を有する画像を作成するために、再割当される、又は再割当されず、散乱のない画像が作成される。
【0091】
各繰返しに関して、散乱除去ステップ22は、ステップ20からの散乱を有するX線画像について実行されるが、各繰返しでは、物質及び/又は厚さの識別は、最初の繰返し後の全繰返しに関して、前の繰返しのステップ23からとなる。散乱除去ステップ後の、ステップ23からの物質及び/又は厚さの識別を利用することによって、次の散乱除去ステップ22では、ステップ23の出力は、繰返しの数が増えるほど繰返し当たりの改善は減少しつつ、通常繰返しの数だけ改善するであろう。第2及びそれ以降の繰返しにおける物質の識別は、ステップ21における物質及び/又は厚さの識別に使用される第1データベースで、或いは物質の種類及び/又は厚さを表す値に関する更なるデータベースで、実行されてもよい。かかる更なるデータベース又は第1データベース自体は、散乱を除外して、実質的に収集されたデータを使用して、追加されてもよい。MAPは、ステップ21における物質の素性及び/又は厚さの第1推定値に必要なだけである。
【0092】
物質の識別及び/又は厚さを表す値は、コントラスト、散乱カーネル、散乱推定値を含んでもよい。
【0093】
散乱の影響を軽減しながら、ステップ23における物質の識別は、収束後の散乱のない画像24’によって表される、より正確な結果を出すことができる。
【0094】
ステップ21〜24は、物質の種類及び厚さの識別が収束するまで、繰返される。勿論、この比較は、以前の物質値の数の平均と行われることもある。しかしながら、動作原理は、明確である。ステップ21〜24は、識別された物質の種類及び厚さ(又は、それらと相関されるパラメータ)に関する大きな変化が全くなくなるまで、再び繰返される。
【0095】
識別された物質及び/又は厚さに関する大きな変化が全く無くなると、処理はステップ25に進み、ステップ25では、出力は、除去された散乱放射線のX線光子が、散乱しなければ相互作用したであろう検出器の空間的位置での出力信号に、除去された散乱放射線を追加することによって、散乱が再割当された状態の画像となる。再割当ステップ25の結果は、ステップ25’における再割当された画像によって表される。
【0096】
図10aは、別の処理について説明しており、より少ないステップを使用するが、より大きな処理能力と、より大きな散乱カーネルに関するデータベース31’を必要とする。幾つかの物質及び/又は厚さに関する散乱カーネルデータベースを作成し、使用する代わりに、散乱カーネルデータベース31’は、データベース31’が対象となる全ての物質及び/又は厚さの散乱カーネルを含むと考えられるような、多数の物質及び/又は厚さが追加される。従って、本実施形態におけるエミュレーションによる補間ステップ22aは、必要なく、散乱の推定値は、ステップ22bで、データベース31’の散乱カーネル値から直接作成される。
【0097】
ステップ22c及びステップ22dは、図10を参照して説明された通りであり、処理の出力が、ステップ22dからの散乱のない画像となっている。
【0098】
しかしながら、より少ないステップを必要とするものの、必要とされるデータ採取、データ保存、及び処理能力は、今のところ、図9及び図10に示された処理が好ましいことを意味している。
【0099】
図11a〜図12bは、図8a〜図10で説明された本発明の処理を実行する効果について、説明している。
【0100】
GEANT4でモンテカルロX線シミュレーションを使用するシミュレーション実験では、かなりの散乱放射線を発生するであろう重複するアルミニウムとプラスチック(PMMA)片のシミュレーション試料が、本技法の有効性を説明するのに使用された。同シミュレーションでは、画像の3領域−R1、R2及びR3を画定する3試料を使用した。R1は、PMMAとして知られる物質であり、厚さは、18.5mmであった。R2は、18.5mmのPMMA及び12.7mmのアルミニウムを使用した。R3は、18.5mmのPMMA及び6.35mmのアルミニウムを使用した。
【0101】
散乱除去前に得られる画像は、隣接する領域間、R1とR2間でコントラスト対ノイズ比(CNR:contrast to noise)が16.1という、低コントラストを示している。
【0102】
図9及び図10で説明された処理は、X線光子が散乱しなければ相互作用したであろう画素位置に散乱放射線を再割当するために使用された。図11aに示された画像と図11bに示された画像とのコントラストに関する視覚的な改善は、特にR1とR2との間で、明らかである。信号対ノイズ比は、58.7(非修正の画像より4倍近く良好)であった。また、図12bのヒストグラムは、改善を示している。R1、R2及びR3に関するピークは、ここでは、よく離間している。
【0103】
また、図12cも、本発明によるX線信号処理の結果、コントラスト対ノイズ比が改善したことを示している。グラフでは、R1とR2の間及びR1とR3の間のコントラスト対ノイズ比を示している。これは、標準測度であり、2領域の標準偏差間の差を求め、これを1領域の標準偏差で割って、算出される。
【0104】
本発明は、散乱放射線を、より良好に識別でき、従って、直接放射線と散乱放射線を含む画像から一層容易に除去できる。
【0105】
更に、本発明は、コントラスト対ノイズ比を、散乱放射線を除去することによって、又は散乱放射線を除去し、除去された散乱放射線のX線光子が散乱されなければ相互作用したであろう検出器の空間的位置での出力信号に、除去された散乱放射線を再び加えることによって、改善できる。
【0106】
コントラスト対ノイズ比を改善することによって、X線投与量は、減少されるかも知れない、又は試料又は患者へのX線投与量を増大させずにコントラスト対ノイズ比を高めるかも知れない。医療においては、投与量を減少することは、患者に害を与える可能性を低くし、そのため極めて望ましいことは、よく理解されている。
【0107】
従って、本発明の装置及び方法は、医療画像処理に使用されるX線量を減少できる。
【0108】
異なる実施形態の特徴は、該特徴が記載された実施形態だけに限らず、本明細書に記載された他の実施形態で使用されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9
図10
図10a
図11a
図11b
図12a
図12b
図12c
図13