特許第6598112号(P6598112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598112
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】電子写真用トナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20191021BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20191021BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G03G9/087 331
   G03G9/087 325
   G03G9/097 365
   G03G9/08 381
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-200328(P2015-200328)
(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公開番号】特開2017-72758(P2017-72758A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】白井 英治
(72)【発明者】
【氏名】平井 規晋
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−164616(JP,A)
【文献】 特開2006−285195(JP,A)
【文献】 特開2004−191623(JP,A)
【文献】 特開平11−249339(JP,A)
【文献】 特開2015−125408(JP,A)
【文献】 特開2015−045719(JP,A)
【文献】 特開2007−093809(JP,A)
【文献】 特開2014−174501(JP,A)
【文献】 特開2015−007765(JP,A)
【文献】 特開2014−232168(JP,A)
【文献】 特開2015−043049(JP,A)
【文献】 特開2013−054178(JP,A)
【文献】 特開2015−072442(JP,A)
【文献】 特開2008−020848(JP,A)
【文献】 特開2015−118341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分に由来する構成単位とセバシン酸を99質量%以上含むカルボン酸成分に由来する構成単位とを含有する結晶性ポリエステルを含む電子写真用トナーであって、
該結晶性ポリエステルの数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、電子写真用トナー。
【請求項2】
前記結晶性ポリエステルのMw/Mnが2以上5以下である、請求項1に記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステルについての示差走査熱量測定(DSC)による2nd RUNにおける融解のピークトップが73.5℃以上77.0℃以下であり、吸熱量が70J/g以上90J/g以下である、請求項1又は2に記載の電子写真用トナー。
【請求項4】
SP値が10.5以上11.5以下であり、軟化点が100℃以上120℃以下であり、ガラス転移温度Tgが60℃以上75℃以下である非晶質ポリエステルを更に含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真用トナー。
【請求項5】
前記非晶質ポリエステルと前記結晶性ポリエステルとの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)が、100/20以上100/3以下の範囲内である、請求項4に記載の電子写真用トナー。
【請求項6】
スチレンアクリル部位のSPが前記結晶性ポリエステルのSP値の±0.5の範囲内であり、ポリエステル部位のSP値が前記非晶質ポリエステルのSP値の±0.5の範囲内である、スチレンアクリル部位及びポリエステル部位を有する複合樹脂を更に含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真用トナー。
【請求項7】
前記複合樹脂が、分子量400以上2,000以下かつ融点70℃以上120℃以下である水酸基を有する炭化水素ワックス由来の構成単位を1質量%以上15質量%以下で含む、請求項6に記載の電子写真用トナー。
【請求項8】
前記水酸基を有する炭化水素ワックスが、融点80℃以上120℃以下の炭化水素ワックスである、請求項7に記載の電子写真用トナー。
【請求項9】
前記結晶性ポリエステルと前記複合樹脂との質量比(結晶性ポリエステル/複合樹脂)が、100/300以上100/50以下の範囲内である、請求項6〜8のいずれか1つに記載の電子写真用トナー。
【請求項10】
下記工程1、2及び3を含む、電子写真用トナーの製造方法。
工程1:エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分とセバシン酸を99質量%以上含む酸成分とを重縮合させて得られる結晶性ポリエステルであって、数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の結晶性ポリエステルを、有機溶剤中に分散させて結晶性ポリエステル分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステル分散液と、SP値が10.5以上11.5以下であり、軟化点が100℃以上120℃以下であり、ガラス転移温度Tgが60℃以上75℃以下である非晶質ポリエステルとを混合して、混合物を得る工程
工程3:工程2で得られた混合物に水相を加えて、4μm以上7μm以下の粒子に転相する工程
【請求項11】
前記結晶性ポリエステル分散液における前記結晶性ポリエステルの粒径が、80nm以上2,000nm以下である、請求項10に記載の電子写真用トナーの製造方法。
【請求項12】
工程2において、更に、スチレンアクリル部位のSPが前記結晶性ポリエステルのSP値の±0.5の範囲内であり、ポリエステル部位のSP値が前記非晶質ポリエステルのSP値の±0.5の範囲内である、スチレンアクリル部位及びポリエステル部位を有する複合樹脂を混合する、請求項10又は11に記載の電子写真用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用トナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トナーには、出力画像の高品質化のための耐高温オフセット性、省エネルギー化のための低温定着性、並びに製造後の保管時や運搬時における高温高湿に耐えうる耐熱保存性が要求されている。特に、定着時における消費電力は画像形成工程における消費電力の多くを占めるため、低温定着性の向上は非常に重要である。
【0003】
結晶性ポリエステルは、ポリエチレン等の他の結晶性樹脂と異なり、非晶質ポリエステルとの相容性が高く、分散が容易であるという特長や、結晶部分が発現する明確な融点を有するという特長により、トナーの低温定着性向上に適した結着樹脂として、近年注目されている。
【0004】
特許文献1には、フィルミングがなく、安定した低温定着性及び耐高温オフセット性、耐熱保存性を有するトナーを提供することを目的として、成分として結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂とを含有する結着樹脂を含むトナーであって、結晶性ポリエステル樹脂が、X線回折測定により20°<2θ<25°の範囲に少なくとも2つの回折ピークが検出され、且つ、融点が60℃以上80℃未満であり、回折ピークの半値幅がいずれも1.0°/2θ未満であるトナーが開示されている。
【0005】
特許文献2には、優れた低温定着性及び耐熱保存性を有しつつ、更に高温高湿保存性及び画像光沢の優れたトナーを提供することを目的として、示差走査熱量測定(DSC)の昇温1回目におけるガラス転移温度が20℃以上50℃以下であり、テトラヒドロフラン(THF)不溶分の示差走査熱量測定(DSC)の昇温2回目におけるガラス転移温度が−40℃以上30℃以下であり、THF不溶分の100℃における貯蔵弾性率が1.0×105〜1.0×107Paであり、THF不溶分の40℃における貯蔵弾性率と100℃における貯蔵弾性率との比が3.5×10以下であるトナーが開示されている。
【0006】
特許文献3には、充分な低温定着性能を有し、かつ現像工程の高速化に対応するために、流動性に優れたトナー粒子の製造方法を提供することを目的として、スチレンアクリル系樹脂を主成分とする結着樹脂、着色剤及び結晶性樹脂を含有するトナー粒子の製造方法であって、懸濁重合法または溶解懸濁法によって樹脂粒子を製造した後に、該樹脂粒子を水系媒体中において、該結着樹脂の中間点ガラス転移温度以上、該結晶性樹脂の融解開始温度以下の温度で0.5時間以上加熱保持する工程を含むトナー粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−242750号公報
【特許文献2】特開2015−052697号公報
【特許文献3】特開2013−080112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザプリンタには様々な環境においても均質な画質が求められており、レーザプリンタに用いられるトナーには、高湿下及び低湿下のいずれの環境においても均質なトナー帯電性を示す環境安定性が求められる。
本発明は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性のバランスに優れた電子写真用トナー及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の<1>〜<3>を提供する。
<1>エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分に由来する構成単位とセバシン酸を99質量%以上含むカルボン酸成分に由来する構成単位とを含有する結晶性ポリエステルを含む電子写真用トナーであって、
該結晶性ポリエステルの数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、電子写真用トナー。
<2>下記工程1、2及び3を含む、電子写真用トナーの製造方法。
工程1:エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分とセバシン酸を99質量%以上含む酸成分とを重縮合させて得られる結晶性ポリエステルであって、数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の結晶性ポリエステルを、有機溶剤中に分散させて結晶性ポリエステル分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステル分散液と、SP値が10.5以上11.5以下であり、軟化点が100℃以上120℃以下であり、ガラス転移温度Tgが60℃以上75℃以下である非晶質ポリエステルとを混合して、混合物を得る工程
工程3:工程2で得られた混合物に水相を加えて、4μm以上7μm以下の粒子に転相する工程
<3>下記工程1、2及び3を含む工程によって得られる電子写真用トナー。
工程1:エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分とセバシン酸を99質量%以上含む酸成分とを重縮合させて得られる結晶性ポリエステルであって、数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の結晶性ポリエステルを、有機溶剤中に分散させて結晶性ポリエステル分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステル分散液と、SP値が10.5以上11.5以下であり、軟化点が100℃以上120℃以下であり、ガラス転移温度Tgが60℃以上75℃以下である非晶質ポリエステルとを混合して、混合物を得る工程
工程3:工程2で得られた混合物に水相を加えて、4μm以上7μm以下の粒子に転相する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明のトナーは、低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性のバランスに優れ、また、本発明のトナーを用いて形成された定着画像は折り曲げ強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[電子写真用トナー]
本発明の電子写真用トナーは、エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分に由来する構成単位とセバシン酸を99質量%以上含むカルボン酸成分に由来する構成単位とを含有する結晶性ポリエステルを含む電子写真用トナーであって、該結晶性ポリエステルの数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5以上20以下である。
【0012】
本発明の電子写真用トナーが低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性のバランスに優れる理由は定かではないが、以下のように推定される。
通常、溶剤中に分散した結晶性ポリエステルを、溶剤に溶解した樹脂中に分散させて、結晶性ポリエステルを不溶のままトナー化しようとしても、トナー中で結晶性ポリエステルの分散を保つのが困難である。これに対して、本発明では、特定の結晶性ポリエステルを用いることで、トナー中で結晶性ポリエステルを高度に分散させることができる。
本発明に用いられる結晶性ポリエステルは、エチレングリコール/セバシン酸の結晶性ポリエステルの分子量に対するSP値の広がりが大きく、かつ低分子量でも結晶化しやすい。また、本発明に用いられる結晶性ポリエステルは特定の分子量分布を有している。結晶性ポリエステルにおける分子量5000以下の成分は有機溶剤に可溶であり、有機溶剤に溶解した非晶質ポリエステルと相溶するため分散剤としての役割を果たし、トナー中で結晶性ポリエステルの高分散を維持できる。
【0013】
なお、本発明において、ポリエステルとは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルを含む。変性されたポリエステルとしては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル成分と付加重合系樹脂成分を含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0014】
(樹脂の結晶性)
樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち、「軟化点/吸熱の最大ピーク温度」で定義される結晶性指数によって表される。一般に、この結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6未満では結晶性が低く非晶質部分が多い。本発明において、「結晶性樹脂」とは、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、更に好ましくは0.9〜1.2である樹脂をいい、「非晶質樹脂」とは、結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満の樹脂をいう。
上記の「吸熱の最大ピーク温度」とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度のことを指す。最大ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、最大ピーク温度を結晶性樹脂の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質樹脂のガラス転移温度に起因するピークとする。
樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。
【0015】
(結晶性ポリエステル)
本発明に用いられる結晶性ポリエステルは、エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分に由来する構成単位とセバシン酸を99質量%以上含むカルボン酸成分に由来する構成単位とを含有する。
【0016】
<結晶性ポリエステルのアルコール単位>
結晶性ポリエステルのアルコール単位は、トナーの耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分に由来する構成単位である。
アルコール成分中のエチレングリコールの含有量は、トナーの耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、99.0質量%以上であり、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.8質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0017】
エチレングリコール以外のアルコール成分としては、炭素数3以上の脂肪族ジオール、芳香族アルコール、3価以上のアルコールが挙げられる。
炭素数3以上の脂肪族ジオールとしては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。芳香族アルコールとしては、ポリオキシプロピレン(2,2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2,2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド(平均付加モル数1〜10)付加物等が挙げられる。3価以上のアルコールとしては、グリセロール(グリセリンともいう)、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0018】
<結晶性ポリエステルのカルボン酸単位>
結晶性ポリエステルのカルボン酸単位は、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、セバシン酸を99質量%以上含むカルボン酸成分に由来する構成単位である。
カルボン酸成分中のセバシン酸の含有量は、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、99.0質量%以上であり、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.8質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0019】
セバシン酸以外のカルボン酸成分としては、セバシン酸以外の脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにこれらの無水物及びアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。これらの中では、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
セバシン酸以外の脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸等が挙げられる。脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。3価以上の多価カルボン酸としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0020】
<結晶性ポリエステルの物性>
−結晶性ポリエステルの数平均分子量Mn−
結晶性ポリエステルの数平均分子量は、トナーの環境安定性を向上させる観点から、4,500以上、好ましくは5,000以上、より好ましくは5,500以上であり、また、7,000以下、好ましくは6,800以下、より好ましくは6,500以下である。
なお、本発明において、結晶性ポリエステルの数平均分子量は、クロロホルム可溶分を測定した値をいい、具体的には実施例に示された方法により測定した値をいう。
【0021】
−結晶性ポリエステルの重量平均分子量Mw−
結晶性ポリエステルの重量平均分子量は、トナーの環境安定性を向上させる観点から、9,000以上、好ましくは10,000以上、より好ましくは11,000以上であり、また、27,500以下、好ましくは25,000以下、より好ましくは22,500以下である。
なお、本発明において、結晶性ポリエステルの重量平均分子量は、クロロホルム可溶分を測定した値をいい、具体的には実施例に示された方法により測定した値をいう。
【0022】
−結晶性ポリエステルの分子量分布−
結晶性ポリエステルのMw/Mnは、トナーの環境安定性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは2.2以上、更に好ましくは2.5以上、より更に好ましくは2.8以上であり、また、好ましくは5以下、より好ましくは4.8以下、更に好ましくは4.5以下である。
【0023】
本発明に用いられる結晶性ポリエステルの分子量分布は、分子量500以下の成分が2質量%以下、分子量500超1,000以下の成分が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下の成分が10質量%以上25質量%以下である。
【0024】
結晶性ポリエステルにおける分子量500以下の成分は、親水性が高過ぎるため、分散剤として作用しない。また、トナー表面に出現しやすく、2質量%を超えて結晶性ポリエステルに含まれているとトナーの耐熱保存性に悪影響を及ぼす。したがって、結晶性ポリエステルにおける分子量500以下の成分は、結晶性ポリエステル全量に対して2質量%以下、好ましくは1.9質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下である。
【0025】
結晶性ポリエステルにおける分子量500超1,000以下の成分は、分散剤として有効に作用し得るが、再結晶化しないため5質量%を超えて結晶性ポリエステルに含まれているとトナーの耐熱保存性に悪影響を及ぼす。したがって、結晶性ポリエステルにおける分子量500超1,000以下の成分は、低温定着性の観点から、結晶性ポリエステル全量に対して2質量%以上、好ましくは2.2質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは2.8質量%以上であり、また、5質量%以下、好ましくは4.8質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下である。
【0026】
結晶性ポリエステルにおける分子量1,000超5,000以下の成分は、分散剤としての効果が高い。その量が10質量%未満では分散剤として所望の効果が得られない一方、25質量%を越えると再結晶化時に結晶性ポリエステルの分散粒径が肥大化する。したがって、結晶性ポリエステルにおける分子量1,000超5,000以下の成分は、トナーの環境安定性又は低温定着性の観点から、10質量%以上、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、25質量%以下、好ましくは22質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0027】
−結晶性ポリエステルの酸価−
結晶性ポリエステルの酸価は、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、5mgKOH/g以上、好ましくは7mgKOH/g以上であり、また、20mgKOH/g以下、好ましくは18mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下である。
【0028】
−結晶性ポリエステルの軟化点−
結晶性ポリエステルの軟化点は、反応性を向上させる観点及びポリエステルの分子量を高め、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは78℃以上であり、また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下である。
【0029】
−結晶性ポリエステルの融点−
結晶性ポリエステルについての示差走査熱量測定(DSC)による2nd RUNにおける融解のピークトップは、反応性を向上させる観点及びポリエステルの分子量を高め、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは73.5℃以上、より好ましくは75.0℃以上、更に好ましくは76.0℃以上であり、また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは77.0℃以下、より好ましくは76.9℃以下、更に好ましくは76.8℃以下である。
ここで、示差走査熱量測定(DSC)による2nd RUNにおける融解のピークトップとは、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのままの温度で1分間維持した後、昇温速度50℃/分で測定した際に得られる吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの頂点の温度であり、これを融点とした。
【0030】
−吸熱量−
結晶性ポリエステルについての示差走査熱量測定(DSC)による2nd RUNにおける吸熱量は、反応性を向上させる観点及びポリエステルの分子量を高め、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは70J/g以上、より好ましくは73J/g以上、更に好ましくは75J/g以上であり、また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは90J/g以下、より好ましくは88J/g以下、更に好ましくは85J/g以下である。
ここで、示差走査熱量測定(DSC)による2nd RUNにおける吸熱量とは、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのままの温度で1分間維持した後、昇温速度10℃/分で測定した際に得られる吸熱ピークの吸熱面積を算出したものである。
【0031】
なお、本発明において、上述の結晶性ポリエステルの軟化点、融点及び酸価は、後述する実施例に示された方法により測定した値をいう。
また、結晶性ポリエステルの数平均分子量、軟化点、融点及び酸価は、アルコール成分やカルボン酸成分の種類や組成比、触媒量等の調整、反応温度や反応時間、反応圧力等の反応条件の選択によって制御することができる。
【0032】
−結晶性ポリエステルの粒径−
結晶性ポリエステルを有機溶剤中に分散させたとき、結晶性ポリエステル分散液における結晶性ポリエステルの体積中位粒径(D50)は、トナー中で結晶性ポリエステルを高度に分散させる観点から、好ましくは80nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは300nm以上、より更に好ましくは450nm以上であり、また、好ましくは2,000nm以下、より好ましくは1,500nm以下、更に好ましくは1,200nm以下、より更に好ましくは1,000nm以下である。
【0033】
<結晶性ポリエステルの製造方法>
本発明に用いられる結晶性ポリエステルは、エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分とセバシン酸を99質量%以上含む酸成分とを重縮合させることで得られる。この重縮合反応は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましい。
【0034】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応時の温度は、反応性の観点から190℃以上が好ましく、また、熱分解性の観点から250℃以下が好ましい。
所望の分子量分布を有する結晶性ポリエステルを得る観点からは、低温から徐々に合成することが好ましい。急激に昇温すると高分子量化せずに、分子量500以下の低分子量成分が多く発生する場合がある。例えば140℃から210℃まで12時間かけて昇温することが好ましい。
【0035】
重縮合反応は、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下で行ってもよい。
【0036】
エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒等が挙げられる。所望の分子量分布を有する結晶性ポリエステルを得る観点からは、チタン触媒を用いることが好ましい。
スズ触媒としては、酸化ジブチル錫、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)等が挙げられるが、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)等のSn−C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。チタン触媒としては、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)等が挙げられる。
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。
【0037】
エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0038】
所望の分子量分布を有する結晶性ポリエステルを得る観点からは、反応終了後に水蒸気蒸留を行い、分子量500以下の低分子量成分を除去することが好ましい。例えば、反応終了後に系内に140℃の水蒸気を5g/分の速度で1時間吹き込むことが好ましい。
【0039】
本発明のトナーは、結着樹脂の1つとして上記結晶性ポリエステルを含有する。結着樹脂における上記結晶性ポリエステルの含有量は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、結着樹脂全量に対して好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは4.0質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。本発明のトナーは、結晶性ポリエステルの含有量が少なくてもトナー全体の吸湿を抑制することができる。
【0040】
(非晶質ポリエステル)
本発明のトナーは、トナーの保存性及び耐久性を向上させる観点から、結着樹脂として非晶質ポリエステルを更に含有することが好ましい。
【0041】
<非晶質ポリエステルのアルコール単位>
非晶質ポリエステルのアルコール単位は、トナーの保存性及び耐久性を向上させる観点から、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70モル%以上100モル%以下含有するアルコール成分に由来する構成単位であることが好ましい。
【0042】
【化1】
【0043】
上記式(I)中、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示す。x及びyは、正の数を示し、xとyの和は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上であり、また、好ましくは16以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下である。
【0044】
前記ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの保存性及び耐久性を向上させる観点から、非晶質ポリエステルのアルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは実質的に100モル%である。
また、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
アルコール成分に含有され得るビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコールとしては、炭素数2以上10以下の脂肪族ジオールが好ましく、炭素数2以上10以下の脂肪族ジオールがより好ましい。具体的な化合物としては、結晶性ポリエステルに用いられるものが挙げられる。
また、前記結晶性ポリエステルに用いられるのと同様の3価以上のアルコールを例示することができる。
【0046】
<非晶質ポリエステルのカルボン酸単位>
非晶質ポリエステルのカルボン酸単位は、トナーの転写性、保存性及び耐久性を向上させる観点からの芳香族ジカルボン酸化合物に由来する構成単位であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸化合物が好ましい。テレフタル酸化合物としては、テレフタル酸並びにその無水物及びアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられ、テレフタル酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸化合物を含有する場合、その含有量は、非晶質ポリエステルのカルボン酸成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であり、また、好ましくは97モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは92モル%以下である。
【0047】
カルボン酸成分に含有され得るテレフタル酸化合物以外のカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、並びにこれらの無水物及びアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸等が挙げられる。脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。3価以上の多価カルボン酸としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0048】
<非晶質ポリエステルの物性>
−非晶質ポリエステルの酸価−
非晶質ポリエステルの酸価は、トナーの保存性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0049】
−非晶質ポリエステルの軟化点−
非晶質ポリエステルの軟化点は、反応性を向上させる観点及びポリエステルの分子量を高め、トナーの保存性を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、更に好ましくは110℃以上であり、また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下である。
【0050】
−非晶質ポリエステルのガラス転移温度−
非晶質ポリエステルのガラス転移温度は、トナーの保存性を向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは63℃以上であり、また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは75℃以下、より好ましくは72℃以下である。
【0051】
−非晶質ポリエステルのSP値−
有機溶剤に溶解した際の非晶質ポリエステルのSP値は、好ましくは10.5以上、より好ましくは10.7以上であり、また、好ましくは11.5以下、より好ましくは11.3以下である。
本発明において、SP値とは、Fedorsの方法による溶解度パラメータを意味し、〔Robert F. Fedors, Polymer Engineering and Science, 14, 147-154 (1974)〕に記載された下記の式に基づいて求められた値δである。
Fedorsの式: δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
〔単位:(cal/cm31/2
〔ここで、Δei:原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)、Δvi:モル体積(cm3/mol)である。〕
【0052】
<非晶質ポリエステルの製造方法>
本発明に用いられる非晶質ポリエステルは、上記のアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させることで得られる。
【0053】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応時の温度は、反応性の観点から190℃以上が好ましく、また、熱分解性の観点から250℃以下が好ましい。
【0054】
重縮合反応は、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下で行ってもよい。エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤の好ましい例については、結晶性ポリエステルの製造に用いられるエステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤と同様である。
【0055】
本発明のトナーが結着樹脂として非晶質ポリエステルを含有する場合、非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルとの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、好ましくは100/20以上、より好ましくは100/15以上、更に好ましくは100/10以上であり、また、好ましくは100/3以下、より好ましくは100/5以下である。
【0056】
(複合樹脂)
本発明のトナーは、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、非晶質ポリエステルを含むセグメント(c1)(ポリエステル部位)と、構成単位としてスチレンを含む付加重合体からなるセグメント(c2)(スチレンアクリル部位)とを有する複合樹脂を更に含有することが好ましい。
【0057】
複合樹脂を構成するセグメント(c1)は、非晶質ポリエステルを含む。当該非晶質ポリエステルとしては、上述した非晶質ポリエステルと同様である。
ポリエステル部位のSP値は、前記非晶質ポリエステルのSP値の±0.5の範囲内であることが好ましい。
【0058】
複合樹脂を構成するセグメント(c2)は、構成単位としてスチレンを含む付加重合体からなる。
セグメント(c2)の構成単位となる原料モノマーとしては、モノマーの入手容易性の観点、並びにトナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、スチレン単独又はスチレンと(メタ)アクリル酸エステルの併用が好ましく、スチレンと(メタ)アクリル酸エステルの併用が更に好ましい。
セグメント(c2)中における構成単位としてスチレンを含む付加重合体の含有量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは実質的に100質量%であり、より更に好ましくは100質量%である。
スチレンアクリル部位のSPは、結晶性ポリエステルのSP値の±0.5の範囲内であることが好ましい。
【0059】
〔スチレン〕
スチレンを用いる場合、スチレンを由来とする構成単位の含有量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、セグメント(c2)中、好ましくは60%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0060】
〔(メタ)アクリル酸エステル〕
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1以上18以下)、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルが挙げられ、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、アルキル基の炭素数1以上18以下の(メタ)アクリル酸アルキルが好ましく、アルキル基の炭素数4以上12以下の(メタ)アクリル酸アルキルがより好ましく、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキル基の炭素数8以上12以下の(メタ)アクリル酸アルキルが更に好ましく、2−エチルヘキシルアクリレートがより更に好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、(メタ)アクリル酸エステルを由来とする構成単位の含有量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、セグメント(c2)中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
【0061】
〔両反応性モノマー〕
セグメント(c2)は、セグメント(c1)のポリエステル樹脂との結合点となる両反応性モノマーを含むことが好ましい。両反応性モノマーとは、付加重合反応及び重縮合反応の両方の反応が可能なモノマーである。
この両反応性モノマーは、カルボキシ基を有するビニルモノマーが好ましい。このカルボキシ基を有するビニルモノマーとしては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、チグリン酸、2−ペンテン酸、4−ペンテン酸、2−メチル−2−ペンテン酸、4−メチル−2−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、5−ヘキセン酸等が挙げられ、なかでも、重合性の観点から、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも1種が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
両反応性モノマーの使用量は、構成単位としてスチレンを含む付加重合体のポリエステル樹脂への分散性並びに付加重合反応及び重縮合反応の反応制御の観点から、セグメント(c1)のポリエステル樹脂の原料モノマーであるカルボン酸成分全量100モル%に対し、好ましくは1モル%以上、より好ましくは2モル%以上、更に好ましくは3モル%以上、より更に好ましくは4モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下、より更に好ましくは16モル%以下である。
【0062】
<複合樹脂の製造方法>
複合樹脂は、以下の(1)〜(3)のいずれかの方法により製造することが好ましい。なお、両反応性モノマーは、反応性の観点から、ビニル系樹脂成分の原料モノマーと共に反応系に供給されることが好ましい。
【0063】
(1)アルコール成分及びカルボン酸成分による重縮合反応の工程(A)の後に、ビニル系樹脂成分の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)を行う方法。
工程(B)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて、重縮合系樹脂成分の3価以上の原料モノマー等を架橋剤として重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応や両反応性モノマーとの反応をさらに進めることもできる。
【0064】
(2)ビニル系樹脂成分の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)の後に、重縮合系樹脂成分の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)を行う方法。
アルコール成分及びカルボン酸成分については、付加重合反応時に反応系内に存在させておき、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒を添加させることにより重縮合反応を開始することもできるし、反応系内に後から添加することにより重縮合反応に適した温度条件下で重縮合反応を開始することもできる。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒を添加することで分子量及び分子量分布が調節できる。
【0065】
(3)アルコール成分及びカルボン酸成分による重縮合反応の工程(A)とビニル系樹脂成分の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)とを並行して行う方法。
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(A)と工程(B)とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて、重縮合系樹脂成分の3価以上の原料モノマー等を架橋剤として重合系に添加し、更に工程(A)の重縮合反応を行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
【0066】
以上の中でも、方法(1)が、重縮合反応の反応温度の自由度が高いという点から好ましい。
付加重合反応に適した温度は、120℃以上180℃未満が好ましく、165℃以上180℃未満がより好ましい。なお、後述の通り、重縮合反応に適した温度は、180〜250℃が好ましく、180〜230℃が好ましい。
上記(1)〜(3)の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。
【0067】
<複合樹脂の物性等>
複合樹脂の重量平均分子量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性の観点の観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上、より更に好ましくは15,000以上であり、そして、好ましくは50,000以下、より好ましくは45,000以下、更に好ましくは43,000以下、より更に好ましくは40,000以下である。
複合樹脂の数平均分子量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性の観点から、好ましくは800以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは2,000以上、より更に好ましくは2,500以上であり、そして、好ましくは7,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下、より更に好ましくは3,500以下、より更に好ましくは3,300以下である。
【0068】
複合樹脂の酸価は、複合樹脂の樹脂粒子分散液の分散安定性、均一なトナー粒子を得ること及びトナーの帯電性の観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0069】
複合樹脂の軟化点は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。
【0070】
複合樹脂のガラス転移温度は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
【0071】
なお、複合樹脂の重量平均分子量、数平均分子量、酸価、軟化点、ガラス転移温度、吸熱の最大ピーク温度は実施例に記載の測定方法で測定する。
また、複合樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上併用する場合、軟化点はその混合物を実施例に記載の方法によって求めた値である。
【0072】
セグメント(c1)及びセグメント(c2)の総量に対するセグメント(c2)の割合[(c2)/{(c1)+(c2)}×100]は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0073】
セグメント(c2)に対するセグメント(c1)の質量比[(c1)/(c2)]は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは65/35以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは85/15以下である。
【0074】
複合樹脂中におけるセグメント(c1)及びセグメント(c2)の総量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは実質的に100質量%、より更に好ましくは100質量%である。
【0075】
本発明のトナーが複合樹脂を含有する場合、結晶性ポリエステルと複合樹脂との質量比(結晶性ポリエステル/複合樹脂)は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、好ましくは100/300以上、より好ましくは100/200以上、更に好ましくは100/150以上であり、また、好ましくは100/50以下、より好ましくは100/90以下である。
【0076】
(ワックス)
複合樹脂は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、水酸基を有する炭化水素ワックス由来の構成単位を有することが好ましい。
【0077】
炭化水素ワックスの数平均分子量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは400以上であり、また、好ましくは2,000以下である。
【0078】
炭化水素ワックスの融点は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0079】
炭化水素ワックスの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィンワックス、パラフィンワックスが挙げられる。
本発明では、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、融点90℃以上120℃以下のポリエチレンワックスが好ましい。
【0080】
複合樹脂中のワックス由来の構成単位の含有量は、トナーの低温定着性、帯電安定性及び流動性を向上させる観点から、複合樹脂全量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0081】
(添加剤)
本発明のトナーには、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、着色剤、離型剤及び荷電制御剤が含有されることが好ましい。
【0082】
<着色剤>
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、及びマラカイトグリーンオクサレート等の種々の顔料;アクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアジン系、及びチアゾール系等の各種染料が挙げられる。これらの着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0083】
<離型剤>
離型剤としては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0084】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性及び耐オフセット性を向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。
【0085】
離型剤の数平均分子量は、低温定着性及び耐オフセット性を向上させる観点から、好ましくは500以上であり、また、好ましくは5,000以下である。
【0086】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性及び耐オフセット性を向上させる観点並びに結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは7質量部以下である。
【0087】
<荷電制御剤>
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウム系アゾ染料、及びサリチル酸金属錯体等が挙げられる。これらの各種荷電制御剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、より更に好ましくは2質量部以下である。
【0089】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は、下記工程1、2及び3を含む。
工程1:エチレングリコールを99質量%以上含むアルコール成分とセバシン酸を99質量%以上含む酸成分とを重縮合させて得られる結晶性ポリエステルであって、数平均分子量Mnが4,500以上7,000以下であり、分子量500以下が2質量%以下、分子量500超1,000以下が2質量%以上5質量%以下、分子量1,000超5,000以下が10質量%以上25質量%以下であり、酸価が5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の結晶性ポリエステルを、有機溶剤中に分散させて結晶性ポリエステル分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた結晶性ポリエステル分散液と、SP値が10.5以上11.5以下であり、軟化点が100℃以上120℃以下であり、ガラス転移温度Tgが60℃以上75℃以下である非晶質ポリエステルとを混合して、混合物を得る工程
工程3:工程2で得られた混合物に水相を加えて、4μm以上7μm以下の粒子に転相する工程
【0090】
<工程1>
工程1は、結晶性ポリエステル分散液を得る工程である。結晶性ポリエステルを有機溶剤中に分散させて結晶性ポリエステル分散液を得る。結晶性ポリエステルについては上述のとおりである。
【0091】
有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、及びイソブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びジエチルケトン等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチルが挙げられる。これらの中でも、結晶性ポリエステル又は非晶質ポリエステルの分散性及びトナーの耐久性の観点から、メチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましく、酢酸エチルがより好ましい。
【0092】
結晶性ポリエステルと混合する際の有機溶剤の使用量は、結晶性ポリエステル100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは500質量部以上であり、また、好ましくは5,000質量部以下、より好ましくは3,000質量部以下である。
【0093】
結晶性ポリエステル分散液における結晶性ポリエステルの体積中位粒径(D50)は、トナー中で結晶性ポリエステルを高度に分散させる観点から、好ましくは80nm以上、より好ましくは150nm以上、更に好ましくは300nm以上、より更に好ましくは450nm以上であり、また、好ましくは2,000nm以下、より好ましくは1,500nm以下、更に好ましくは1,200nm以下、より更に好ましくは1,000nm以下である。
【0094】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた結晶性ポリエステル分散液と非晶質ポリエステルとを混合して、混合物を得る工程である。非晶質ポリエステルについては上述のとおりである。
【0095】
非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルとの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、好ましくは100/20以上、より好ましくは100/15以上、更に好ましくは100/10以上であり、また、好ましくは100/3以下、より好ましくは100/5以下である。
【0096】
工程2において、更に複合樹脂を混合することが好ましい。複合樹脂については上述のとおりである。
結晶性ポリエステルと複合樹脂との質量比(結晶性ポリエステル/複合樹脂)は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性を向上させる観点から、好ましくは100/300以上、より好ましくは100/200以上、更に好ましくは100/150以上であり、また、好ましくは100/50以下、より好ましくは100/90以下である。
【0097】
<工程3>
工程3は、工程2で得られた混合物に水相を加えて、4μm以上7μm以下の粒子に転相する工程である。
当該工程では、凝集を効率的に行うために凝集剤を添加することが好ましい。凝集剤は、第四級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等の有機系凝集剤;無機金属塩、無機アンモニウム塩等の無機系凝集剤が用いられる。トナーの粒径分布、耐熱保存性向上及び印刷物の光沢性向上の観点から、無機系凝集剤が好ましく、なかでも無機金属塩が好ましい。
【0098】
無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等が挙げられる。無機金属塩の中心金属の価数は、トナーの粒径分布、耐熱保存性向上、印刷物の光沢性向上の観点から、2価以上であることが好ましい。
【0099】
凝集剤を添加する場合、その添加量は、トナーの耐熱保存性向上及び印刷物の光沢性向上の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0100】
凝集剤は、水系媒体に溶解させて添加することが好ましく、凝集剤の添加時及び添加終了後は十分撹拌することが好ましい。凝集剤を均一に分散し、均一な凝集を起こさせる観点から、凝集剤の添加は、20℃以上40℃以下にて行うことが好ましく、凝集剤を添加した後、所定の粒径になるまで40℃以上60℃以下に保持することが好ましい。
【0101】
当該工程では、着色剤、荷電制御剤、離型剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、及び老化防止剤等の添加剤を添加してから凝集させてもよい。該添加剤は、水系分散体としてから使用することもできる。添加剤については上述のとおりである。
【0102】
工程3においては、結晶性ポリエステルを含む水系分散液及び非晶質ポリエステルを含む水系分散液と、必要に応じて用いられる各種添加剤との混合物を、均一に分散させる観点から、好ましくは結着樹脂の軟化点未満の温度、より好ましくは「該軟化点−30℃」以下の温度で分散処理を行う。具体的には、好ましくは65℃以下、より好ましくは55℃以下であり、また、媒体の流動性及び樹脂の水系分散液の製造エネルギーの観点から、分散処理は0℃より高い温度で行なうことが好ましく、10℃以上で行うことがより好ましい。
【0103】
分散処理の方法としては、「ウルトラディスパー」(浅田鉄工株式会社製)、「エバラマイルダー」(株式会社荏原製作所製)及び「TKホモミクサー」(プライミクス株式会社製)等の高速撹拌混合装置;「高圧ホモゲナイザー」(株式会社イズミフードマシナリ製)、「ミニラボ 8.3H型」(Rannie社製)に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー;「マイクロフルイダイザー」(Microfluidics社製)及び「ナノマイザー」(ナノマイザー株式会社製)等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。
【0104】
工程3で得られる凝集粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは7μm以下、より好ましくは6μm以下である。
【0105】
工程3で得られた凝集粒子を、適宜、ろ過等の固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程に供することにより、電子写真用トナーを得ることができる。
洗浄工程では、トナーとして十分な帯電特性及び信頼性を確保する目的から、トナー表面の金属イオンを除去するため、酸を用いることが好ましい。また、添加した非イオン性界面活性剤も洗浄により完全に除去することが好ましく、非イオン性界面活性剤の曇点以下での水系溶液での洗浄が好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
また、乾燥工程では、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等、任意の方法を採用することができる。トナーの乾燥後の水分含量は、帯電性向上の観点から、好ましくは1.5質量%以下、更には1.0質量%以下に調整することが好ましい。
【0106】
(外添剤)
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましく、外添剤としては、無機微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の例は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛が挙げられ、シリカが好ましい。シリカとしては、トナーの転写性を向上させる観点から、疎水化処理された疎水性シリカが好ましい。
【0107】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0108】
外添剤の体積平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、また、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは90nm以下である。
【0109】
外添剤の含有量は、帯電度の環境安定性及び加圧保存安定性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0110】
(トナーの物性)
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは7μm以下、より好ましくは6μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0111】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0112】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0113】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT−500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0114】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0115】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度及び融点〕
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しその温度で1分間維持した。その後、昇温速度50℃/分で測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの頂点の温度を吸熱の最高ピーク温度とした。結晶性ポリエステルにおいては、吸熱の最高ピーク温度を融点とした。
【0116】
〔樹脂の吸熱の吸熱量〕
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しその温度で1分間維持した。その後、昇温速度10℃/分で測定した。観測される吸熱ピークの吸熱面積を計算し、結晶性ポリエステルの吸熱量とした。
【0117】
〔樹脂の酸価〕
樹脂の酸価については、JIS K0070の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0118】
〔ポリエステルの数平均分子量、重量平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、樹脂の数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwを求めた。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、樹脂をクロロホルムに溶解させた。ついで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP−200」(住友電気工業株式会社製)を用いて濾過して不溶成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量測定
下記装置を用いて、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定化させた。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の分子量が既知の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製;2.63×103、2.06×104、1.02×105、ジーエルサイエンス株式会社製;2.10×103、7.00×103、5.04×104)を標準試料として作成したものを用いた。
測定装置:「CO−8010」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「GMHXL」+「G3000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)
【0119】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC210」(セイコーインスツル株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を離型剤の融点とした。
【0120】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:「コールターマルチサイザーII」(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:「コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19」(ベックマンコールター社製)
電解液:「アイソトンII」(ベックマンコールター社製)
分散液:「エマルゲン109P」(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王株式会社製、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させさせて、試料分散液を調製した。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように前記分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0121】
<樹脂の製造>
製造例1、2、3、5、8及び9
(結晶性ポリエステルA1、A2、A3、A5,A8及びA9の製造)
表1に示す原料モノマーを、窒素導入管、98℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、140℃から210℃まで12時間かけて昇温した。180℃に温度を下げた後、同温度で40kPaにおいて撹拌しながら140℃の水(水蒸気)を5g/分の速度で1時間樹脂中に吹き込み、添加した。吹き込み終了後、8kPaにて更に0.5時間反応を行い系内の水分を十分に取り除いた後、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)20gを添加し、210℃で更に1時間反応させた後、8kPaにて所定の分子量になるまで反応させた。
【0122】
製造例4
(結晶性ポリエステルA4の製造)
表1に示す原料モノマーを、窒素導入管、98℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、140℃から210℃まで12時間かけて昇温した。チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)20gを添加、210℃で更に1時間反応させた後、8kPaにて所定の分子量になるまで反応させた。
【0123】
製造例6及び7
(結晶性ポリエステルA6及びA7の製造)
表1に示す原料モノマー及び2−エチルヘキサン酸錫(II)20gを、窒素導入管、98℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、140℃から210℃まで12時間かけて昇温した。180℃に温度を下げた後、同温度で40kPaにおいて撹拌しながら140℃の水(水蒸気)を5g/分の速度で1時間樹脂中に吹き込み、添加した。吹き込み終了後、8kPaにて更に0.5時間反応を行い系内の水分を十分に取り除いた後、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)20gを添加、210℃で更に1時間反応させた後、8kPaにて所定の分子量になるまで反応させた。
【0124】
【表1】
【0125】
製造例10、11及び12
(非晶質ポリエステルB1、B2及びB3の製造)
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー、並びにチタンジイソプロピレートビス(トリエタノールアミネート)40g及び没食子酸2gを、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃まで昇温し、230℃にて6時間反応させた。その後、210℃で無水トリメリット酸を加えた後、2時間反応させた後、210℃で1時間常圧にて反応させた後、8kPaにて表2に示す軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステルを得た。
【0126】
【表2】
【0127】
製造例13、14及び15
(複合樹脂C1、C2及びC3の製造)
表3に示す無水トリメリット酸以外の重縮合系樹脂成分の原料モノマー、水酸基を有する炭化水素ワックス及びポリエチレンワックス、並びにチタンジイソプロピレートビス(トリエタノールアミネート)20g及び没食子酸2gを、温度計、ステンレス製撹拌棒、脱水管、流下式コンデンサー、及び窒素導入管を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃から235℃まで6時間かけて昇温した後、235℃にて4時間反応した。その後、8kPaにて1時間反応した。
次に、8kPaの減圧条件を維持したまま温度を160℃に下げ、表3に示すビニル系樹脂の原料モノマー、ラジカル重合開始剤及びアクリル酸の混合溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、反応を1時間熟成した後、8kPaにて1時間減圧し、残存したビニル系樹脂の原料モノマー等を除去した。
そして、8kPaの減圧条件を維持したまま無水トリメリット酸を添加し、200℃に昇温した。200℃で3時間反応した後、20kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って、複合樹脂を得た。
【0128】
【表3】
【0129】
実施例1〜13及び比較例1〜5
<結晶性ポリエステル分散液の製造>
製造例1〜9でそれぞれ得られた結晶性ポリエステルをジェットミル粉砕機で10μmまで粉砕した。
500mL容の容器に、酢酸エチル100g及び各結晶性ポリエステル10gを入れ、更に、0.3mmφのジルコニアビーズ300gを入れ、ペイントシェーカー(浅田鉄鋼株式会社製)にて5時間振とうした後、ステンレス金網(200メッシュ)でジルコニアビーズを濾過し、結晶性ポリエステル分散液をそれぞれ得た。
【0130】
<ワックス分散液の製造>
500mL容の容器に、酢酸エチル100g及びパラフィンワックス「HNP−9」(日本精鑞株式会社製、融点75℃)10gを入れ、70℃に昇温し完全に溶解することを確認した後、氷水槽に漬け、10分にて20℃まで冷却し、その後、0.3mmφのジルコニアビーズ300gを入れ、5時間振とうし、ワックス分散液を得た。ワックスの粒径は350nmであった。
【0131】
<顔料マスターバッチの製造>
非晶質ポリエステル100質量部、着色剤「ECB−301」(C.I.ピグメントブルー15:3、大日精化工業株式会社製)20質量部を、ヘンシェルミキサーにて撹拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。
【0132】
<現像用トナーの調製>
(ポリエステル混合液の作成)
非晶質ポリエステル100質量部、複合樹脂10質量部、顔料マスターバッチ20質量部、酢酸エチル150質量部を、パドル型撹拌翼を備えた2Lフラスコにて溶解させた後、結晶性ポリエステル分散液100質量部、ワックス分散液50質量部を加え、アトライター(日本コークス工業株式会社製)を用いて充分に混合、分散した。
【0133】
(水系分散体の作成)
一方、高速撹拌装置「TKホモミクサー」(プライミクス株式会社製)を備えた4Lの四つ口容器中にイオン交換水300質量部と0.1MのNa3PO4水溶液390質量部を投入し、40℃に加温した。ここに、1.0MのCaCl2の水溶液60質量部を添加し、回転数10,000rpmで撹拌して微細な難水溶性分散安定剤Ca3(PO42を含む水系分媒体を調製した。
【0134】
(トナーの作成)
ポリエステル混合液を水系分媒体に投入して窒素気流下40℃に保持しつつ10,000rpmで4分間撹拌を続けて、造粒を行なった。その後、撹拌をパドル型撹拌翼に切り替え、40℃で2時間、減圧下で酢酸エチルを回収した。
減圧留去終了後、容器中の内容物を室温まで冷却し、これに塩酸を加えて難水溶性分散安定剤を溶解し、濾過、水洗、乾燥を経てトナー粒子を得た。トナー粒子の体積中位粒径(D50)は5.8μmであった。
【0135】
<外添処理>
得られた上記トナー粒子100質量部に対して、疎水性シリカ「NAX−50」(日本アエロジル株式会社製、平均粒子径40nm)1.0質量部、疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル株式会社製、平均粒子径16nm)0.6質量部、ST、A0撹拌羽根を装着した10L容のヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)に投入し、3,000r/minにて2分間撹拌して、トナーを得た。
【0136】
〔トナーの評価〕
(1)トナーの耐熱保存性
内容積100mLの広口ポリビンにトナー20gを入れて密封し、任意の温度の環境下で48時間静置した。その後、25℃の温度下で密封したまま12時間以上静置して冷却した。次いで、「パウダーテスタ(登録商標)」(ホソカワミクロン株式会社製)の振動台に、目開き250μmのフルイをセットし、その上に前記トナー20gを乗せ30秒間振動を行い、フルイ上にトナーが残らなかったもの(凝集しなかったもの)の任意温度の最大値を凝集しない最高温度とし、耐熱保存性の指標とした。数値が大きいほど、トナーが耐熱保存性に優れることを表す。
【0137】
(2)トナーの環境安定性
(2−1)常温低湿(NL)環境下での帯電安定性
トナー0.4g(4質量部)と、シリコーンコートフェライトキャリア(関東電化工業株式会社製、平均粒子径90μm)9.6g(96質量部)を20mL容のポリプロピレン製の容器に投入し、20℃20%RHの環境下で12時間開封した状態で放置後、10分間ボールミルにて混合した。混合後、「q/m Meter MODEL 210HS」(TREK社製)を用いてNL環境下での帯電量を測定した。
【0138】
(2−2)常温高湿(NH)環境下での帯電安定性
トナー0.4g(4質量部)と、シリコーンコートフェライトキャリア(関東電化工業株式会社製、平均粒子径90μm)9.6g(96質量部)を20mL容のポリプロピレン製の容器に投入し、20℃80%RHの環境下で12時間開封した状態で放置後、10分間ボールミルにて混合した。混合後、「q/m Meter MODEL 210HS」(TREK社製)を用いてNH環境下での帯電量を測定した。
【0139】
NH環境下での帯電量/NL環境下での帯電量の値が1に近いほど、トナーが環境安定性に優れることを表し、0.60以上が実用上好ましく、0.80以上がより好ましい。
【0140】
(3)トナーの低温定着性
複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、シャープ株式会社製の紙[CopyBond SF−70NA(75g/m2)]上に、トナー付着量が0.6mg/cm2となるように未定着の状態で印刷物を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着ローラの温度を100℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で前記未定着状態の印刷物の定着試験を行った。
500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復こすり、こする前後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(こすり後/こすり前)が最初に70%を越える定着ローラの温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほどトナーの低温定着性が良好であることを表す。
【0141】
(4)印字物の折り曲げ強度
複写機「AR−505」(シャープ株式会社製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、J紙(富士ゼロックス株式会社製)上に、トナー付着量が0.6mg/cm2となるように未定着の状態で印刷物を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度100mm/sec)を用い、定着ローラの温度を140℃にて定着を行った。
さらに印字物を印字面が上になるように山折りし、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度200mm/sec、40℃)を通した後、折り目の部分の画像を観察し、以下の基準で評価した。
5:損傷なし
4:白点が数か所で観察
3:一部にヒビがあり
2:折り目に0.5mm以下の白線がある
1:折り目に1mm以上の白線がある
数値が高いほど印字物の折り曲げ強度が高いことを表し、3以上が実用上好ましく、4以上がより好ましい。
【0142】
【表4】
【0143】
以上の結果より、実施例のトナーは、比較例のトナーに比べて、いずれも低温定着性、耐熱保存性及び環境安定性のバランスに優れることがわかる。
また、本発明のトナーを用いると、印字物の折り曲げ強度が向上することがわかる。これは、本発明のトナーにおいて結晶性ポリエステルが微分散することで衝撃が吸収されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の電子写真用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられる電子写真用トナーとして好適に使用できる。