(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598135
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】ゴム混練機における混練判定方法およびゴムの混練り方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/28 20060101AFI20191021BHJP
B29B 7/14 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-184704(P2015-184704)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2017-56666(P2017-56666A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】大窪 栄
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−214661(JP,A)
【文献】
特開平06−344334(JP,A)
【文献】
特開平06−344335(JP,A)
【文献】
特開昭60−179128(JP,A)
【文献】
特開昭52−103478(JP,A)
【文献】
特開昭58−008544(JP,A)
【文献】
特開平11−077666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00− 7/90
B01F 7/00− 7/32
C08C 1/00− 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム混練機において混練りされた混練バッチが正常か異常かを判定するゴム混練機における混練判定方法を用いて、ゴムの混練りを行うゴムの混練り方法であって、
前記混練判定方法が、
正常である混練バッチがゴム混練機において混練りされた際の、少なくとも、電力および温度をパラメーターとして所定の周期でサンプリングして基準混練波形を予め作成すると共に、前記基準混練波形に対する許容範囲を予め決めておき、
その後、対象となる混練バッチについて混練波形を作成し、対象となる混練バッチについて得られた混練波形と、予め作成した前記基準混練波形に対する許容範囲とを比較照合することによって、混練バッチが正常であるか異常であるかの判定を行う混練判定方法であり、
前記基準混練波形の許容範囲を、それぞれのパラメーターについて、前記基準混練波形の値の上下それぞれ0〜30%の範囲で設定し、
前記混練バッチの混練波形が前記基準混練波形に対する許容範囲内である割合が60%以上である場合に正常と判定し、60%未満である場合に異常と判定し、
前記混練判定方法において、前記混練バッチが正常と判定された場合には、前記混練バッチを次工程に送り、
前記混練バッチが異常と判定された場合には、前記混練バッチを次工程に送らずに取り除くことを特徴とするゴムの混練り方法。
【請求項2】
前記混練判定方法が、
前記基準混練波形および前記基準混練波形に対する許容範囲を各種配合の混練対象毎に予め設定しておき、対応する前記基準混練波形および前記許容範囲を用いて各種配合の混練対象に対して前記判定を行う混練判定方法であることを特徴とする請求項1に記載のゴムの混練り方法。
【請求項3】
前記混練判定方法が、
ベース練り、リミル練り、または仕上げ練りにおいて適用される混練判定方法であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴムの混練り方法。
【請求項4】
前記ゴム混練機がバンバリーミキサーであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のゴムの混練り方法。
【請求項5】
対象となる混練バッチについて作成された混練波形と前記基準混練波形に対する許容範囲との比較照合を、ラムの下降開始時点から行うことを特徴とする請求項4に記載のゴムの混練り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練機において混練りされた混練バッチ(ゴム組成物)の混練状態を判定するゴム混練機における混練判定方法およびゴムの混練り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バンバリーミキサーなどの混練機にポリマー、薬品、フィラー、オイルなどを投入してバッチ混練りする際には、従来より、ローターの回転数、温度、時間、PI(積算電力量:ローターに掛かった電力の総量)に基づいて混練りを制御しており、この混練り中は、電力量、温度、時間がチャートとして示される。
【0003】
しかし、従来より、混練り中には、設備の不良や練り不良、原料の投入忘れや投入間違いなどの工程の異常や、原材料自体の異常により混練バッチに異常が発生することがあった。
【0004】
そこで、混練りされたバッチが正常に混練りされているか否かを判定する方法が種々検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−344334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の判定方法は、最終的なゴム検査をするまで異常の発生が分からず、異常バッチの発生が分かった時点で、直ちにラインを止めるものではなかったため、異常が発生した混練バッチを次工程にてそのまま使用してトラブルの発生を招いたり、異常が発生した混練バッチが混練機の下(アンダーバンバリー)で前後の正常な混練バッチと混ざってさらに異常が広がってしまったりする可能性があり、さらなる改良が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、混練バッチの混練りに際して異常バッチの発生を即座に判定して、発生した異常バッチの次工程への流出を防止することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
ゴム混練機において混練りされた混練バッチが正常か異常かを判定するゴム混練機における混練判定方法
を用いて、ゴムの混練りを行うゴムの混練り方法であって、
前記混練判定方法が、
正常である混練バッチがゴム混練機において混練りされた際の、少なくとも、電力および温度をパラメーターとして所定の周期でサンプリングして基準混練波形を予め作成すると共に、前記基準混練波形に対する許容範囲を予め決めておき、
その後、対象となる混練バッチについて混練波形を作成し、対象となる混練バッチについて得られた混練波形と、予め作成した前記基準混練波形に対する許容範囲とを比較照合することによって、混練バッチが正常であるか異常であるかの判定を行
う混練判定方法であり、
前記基準混練波形の許容範囲を、それぞれのパラメーターについて、前記基準混練波形の値の上下それぞれ0〜30%の範囲で設定し、
前記混練バッチの混練波形が前記基準混練波形に対する許容範囲内である割合が60%以上である場合に正常と判定し、60%未満である場合に異常と判定し、
前記混練判定方法において、前記混練バッチが正常と判定された場合には、前記混練バッチを次工程に送り、
前記混練バッチが異常と判定された場合には、前記混練バッチを次工程に送らずに取り除くことを特徴とする
ゴムの混練り方法である。
【0011】
請求項
2に記載の発明は、
前記混練判定方法が、
前記基準混練波形および前記基準混練波形に対する許容範囲を各種配合の混練対象毎に予め設定しておき、対応する前記基準混練波形および前記許容範囲を用いて各種配合の混練対象に対して前記判定を行う
混練判定方法であることを特徴とする請求項
1に記載の
ゴムの混練り方法である。
【0014】
請求項
3に記載の発明は、
前記混練判定方法が、
ベース練り、リミル練り、または仕上げ練りにおいて適用される
混練判定方法であることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の
ゴムの混練り方法である。
【0015】
請求項
4に記載の発明は、
前記ゴム混練機がバンバリーミキサーであることを特徴とする請求項1ないし請求項
3のいずれか1項に記載の
ゴムの混練り方法である。
【0016】
請求項
5に記載の発明は、
対象となる混練バッチについて作成された混練波形と前記基準混練波形に対する許容範囲との比較照合を、ラムの下降開始時点から行うことを特徴とする請求項
4に記載の
ゴムの混練り方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、混練バッチの混練りに際して異常バッチの発生を即座に判定して、発生した異常バッチの次工程への流出を防止することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るゴム混練機における混練判定方法の基準混練波形と許容範囲を説明する図である。
【
図2】実施例および比較例の混練波形を示す図であり、左図は実施例の混練波形であり、右図は比較例の混練波形である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0021】
本実施の形態においては、混練バッチの混練波形が基準混練波形に対する許容範囲(トレランス)内にどの程度存在しているかを求め、その結果に応じて、混練バッチが正常であるか異常であるかの判定を行う。
【0022】
即ち、正常な材料を用いて正常な手順に従って正常な混練バッチを製造した場合、電力量、温度と時間との関係を示すチャートは、バッチが異なっても殆んど変化しないが、設備の不良や練り不良、工程異常、原料異常などがあると、このチャートが大きく変化する。
【0023】
このため、正常な混練バッチにおけるチャートに基づいて基本のチャート(基準混練波形)を予め作成しておき、実際の混練バッチにおけるチャート(混練波形)と比較照合して、その変化を知ることができれば、上記した設備の不良や練り不良、工程異常、原料異常などにより異常な混練バッチが発生していることを知ることができる。
【0024】
例えば、原料異常の一例として、水濡れしたカーボンブラック(CB)が使用された混練バッチの場合、ローターに対してゴムがスリップしてトルクが掛からなくなるため、混練波形が大きく変化する。そして、このまま混練りを進めていくと、混練バッチの水分率が高くなり、押出などでこの混練バッチを使用すると、ポーラスが発生したりして不良が発生する恐れがある。このため、上記のように混練波形が基準混練波形から大きく変化したことを検出することにより、異常バッチと判定することができる。
【0025】
以下、本実施の形態に係る混練判定方法の手順を具体的に説明する。
【0026】
(1)ステップ1(基準混練波形の作成)
まず、基準混練波形(マスターチャート)を予め作成する。基準混練波形は正常な混練バッチの混練りを行い、混練り開始からの経過時間、ローターの電力量、ゴム温度を所定の周期(例えば1秒)でサンプリングすることにより作成された波形データであり、混練バッチの配合毎に作成される。
【0027】
この基準混練波形は、横軸を混練り開始からの経過時間、縦軸を少なくともローターの電力量、ゴム温度として、所定の周期でサンプリングされた各計測値をプロットすることにより作成される。なお、ここで、ローターの電力量、ゴム温度を縦軸としているのは、電力量や温度がバッチの混練り状況を左右する主たるパラメーターであることによる。そして、計測値をサンプリングする所定の周期としては、適宜設定することができるが、1秒であることが好ましい。但し、1秒以下であってもよい。
【0028】
(2)ステップ2(許容範囲の設定)
次に、上記基準混練波形に基づいて許容範囲(トレランス)を設定する。これは、実際の混練りにおいては、正常な原料、設備、工程で混練りした場合でも、一定の範囲でのバラツキが発生することを避けられないため、その許容範囲を決定するものであり、混練バッチの配合毎に適宜設定される。
【0029】
図1は本実施の形態に係るゴム混練機における混練判定方法の基準混練波形1と許容範囲2を説明する図である。
図1に示すように、基準混練波形1をセンターとして、上下に、それぞれ所定の幅で許容範囲2が設定される。この許容範囲2は、電力量、温度等の各パラメーターについて、上下それぞれが基準混練波形1の値の0〜30%で適宜設定される。
【0030】
(3)ステップ3(基準混練波形および許容範囲の記憶)
次に、上記で設定された基準混練波形と許容範囲を、実際の混練バッチを開始する前に、制御装置に記憶させておく。
【0031】
(4)ステップ4(判定基準の設定)
次に、混練バッチの正常異常を判定する基準となる割合Aを設定して、同様に、制御装置に記憶させる。この割合Aは、実際の混練バッチにおいて得られる混練波形が、上記で設定した許容範囲内にどの程度あるかによって正常な混練バッチとのズレを知り、混練バッチの正常、異常を判定する閾値となるものであり、例えば60%に設定される。
【0032】
(5)ステップ5(混練波形の作成)
次に、判定対象の混練りを開始し、上記した基準混練波形の作成と同様にして、混練波形を作成する。
【0033】
(6)ステップ6(比較照合)
次に、基準混練波形と混練バッチの混練波形を比較照合する。これにより、混練波形が基準混練波形からどのように変化していることを知ることができるため、混練バッチが正常であるか異常であるかの判定を行うことができる。
【0034】
具体的には、混練バッチの混練波形が許容範囲内にある混練波形の部分の全体の波形に対する割合を算出して、次のステップにおいて混練バッチが正常であるか異常であるかの判定を行う。
【0035】
なお、混練バッチにおいては材料の投入バラツキがあるため、上記した波形の比較照合は、バンバリーのラムの下降開始時点から行うことが好ましい。
【0036】
(7)ステップ7(判定)
次に、ステップ6で算出された割合とステップ4で設定された割合Aとを比較する。そして、算出された割合が割合A以上であれば混練バッチは正常であると判定する。一方、算出された割合が割合A未満であれば混練バッチは異常であると判定する。例えば、上記のように割合Aを60%に設定した場合には、算出された割合が60%以上の場合に正常であると判定し、60%未満の場合に異常と判定する。
【0037】
以上の手順により、混練バッチが正常と判定された場合には、混練バッチはそのままアンダーバンバリーから排出されて、既に正常として排出されていた混練バッチと混合される。
【0038】
一方、異常と判定された場合には、混練サイクルを停止させ、正常な混練バッチに異常な混練バッチが混合されないようにする。その後、正常な混練バッチをアンダーバンバリーから排出するまでは、上記状態をキープする。
【0039】
このように、本実施の形態によれば、混練バッチが完了した時点で混練バッチが正常であるか異常であるかを即座に判定することができるため、発生した異常バッチの次工程への流出を防止することができる。
【0040】
なお、上記した本実施の形態に係るゴム混練機における混練判定方法は、通常のベース練りだけでなく、リミル練りや仕上げ練りなど、いずれの練り工程においても適用して、異常バッチを判定することができる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0042】
混練機として、バンバリーミキサー(270L、ローター:4WN)を使用して、タイヤカーカス用のゴム組成物を各20バッチ混練りした。そして、実施例では、本実施の形態に係る混練判定方法を行いながら混練りを行い、比較例では混練り中の判定を行わなかった。なお、実施例においては、許容値の範囲を15%に、割合Aを70%に設定した。
【0043】
そして、混練りする20バッチの内、1バッチにおいて、水濡れしたカーボンブラック(CB)を使用し、このバッチを不良バッチとして判定できるか否かを調べた。
【0044】
図2に実施例と比較例における混練波形を示す。
図2中の左図は実施例において不良バッチとして判定されるべき混練りバッチの混練波形を、基準混練波形1と合わせて示している。一方、右図は比較例の混練波形であり、20バッチの全てについての混練波形が記載されている。
【0045】
図2の左図および右図において、上側の波形が温度、下側の波形が電力を示している。
【0046】
図2より、実施例においては、基準混練波形1から大きく外れた混練波形3が1バッチ確認されたため、混練りを停止して確認したところ、上記した水に濡れたカーボンブラックが混入したバッチであったため、このバッチを取り除くことにより不良バッチの数を1バッチに抑えることができた。
【0047】
一方、比較例においては、実施例のように混練り途中で、水に濡れたカーボンブラックが混入したバッチを検出することができず、20バッチ全てを混練りした後の検査によって異常が判明したため全てのバッチが不良バッチとなった。
【0048】
以上より、混練波形と予め定められた基準混練波形の許容範囲とを比較照合することにより、混練り中の異常バッチの発生を即座に判定して、他の混練りバッチへ影響を与えることなく、異常バッチの流出を防止できることが確認できた。
【0049】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 基準混練波形
2 許容範囲
3 混練バッチの混練波形