特許第6598138号(P6598138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598138防汚構造体及び該防汚構造体を備える自動車部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598138
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】防汚構造体及び該防汚構造体を備える自動車部品
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20191021BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20191021BHJP
   B32B 33/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B32B3/30
   B32B27/00 101
   B32B33/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-58785(P2016-58785)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-170737(P2017-170737A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】渋川 聡哉
(72)【発明者】
【氏名】野口 雄司
(72)【発明者】
【氏名】村上 亮
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/005030(WO,A1)
【文献】 特表2015−531005(JP,A)
【文献】 特開2018−076536(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0152270(US,A1)
【文献】 特表2014−509959(JP,A)
【文献】 特開2018−039266(JP,A)
【文献】 特表2014−504519(JP,A)
【文献】 特開2017−140405(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0147627(US,A1)
【文献】 特開2013−049839(JP,A)
【文献】 特開2013−209509(JP,A)
【文献】 特開2015−214072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B05D1/00−7/26
C09K3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する基材と、三次元網目構造を有する高分子材料層と、該高分子材料層を膨潤する防汚液と、を備える防汚構造体であって、
少なくとも上記基材表面の凹部内に上記高分子材料層を有し、
上記高分子材料層が、上記防汚液を保持したものであることを特徴とする防汚構造体。
【請求項2】
上記高分子材料層がエラストマーから成ることを特徴とする請求項1に記載の防汚構造体。
【請求項3】
上記エラストマーが、ポリジメチルシロキサンオリゴマー又はパーフルオロポリエーテルオリゴマー由来の部位を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の防汚構造体。
【請求項4】
上記防汚液が、シリコーンオイル又はフッ素系オイルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の防汚構造体。
【請求項5】
上記フッ素系オイルが、パーフルオロポリエーテルオイルであることを特徴とする請求項4に記載の防汚構造体。
【請求項6】
上記基材の表面凹凸の開口部の平均直径が、400nm/n以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の防汚構造体。
但し、上記nはnb/neを表わし、nbは基材の屈折率、neは高分子材料層の屈折率を表わす。
【請求項7】
防汚構造体を有する自動車部品であって、
上記防汚構造体が、上記請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の防汚構造体であることを特徴とする自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚液を保持する高分子材料層を備える防汚構造体に係り、更に詳細には、上記高分子材料層の剥がれを防止して長期に亘り、自己修復性を有する撥水面が形成される防汚構造体及び該防汚構造体を備える自動車部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚性を有する易滑性表面を有するものがある。
例えば、特許文献1の特表2014−509959号公報には、多孔質構造を有する基質に防汚剤を固定化させ、基質表面に撥水面を形成することで異物を撥ね、異物の付着を低減することが提案されている。そして、上記特許文献1には、基質表面の防汚剤が失われたとしても多孔質構造の毛細管ネットワークにより基質内部から防汚剤が補充され、撥水面が自己修復される旨が開示されている。
【0003】
また、非特許文献1には、シリコーンオイルを保持するポリジメチルシロキサンエラストマー層を設けることで、上記エラストマー表面にシリコーンオイルが滲み出し、自己修復性を有する撥水面が形成される旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014−509959号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liquid−Infused Silicone As a Biofouling−Free Medical Material” ACS Biomater. Sci. Eng. 2015, 1, 43?51 Joanna Aizenberg, Harvard University
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、毛細管ネットワークにより防汚剤を撥水面に補充するものであるため、撥水面に補充される防汚剤の量が、防汚剤の表面張力等によって変わり、高温環境下では防汚剤が過剰に流出し易く、長期に亘り撥水面を自己修復させることが困難である。
【0007】
また、非特許文献1に記載のものは、エラストマーの弾性力によって保持するシリコーンオイルをエラストマー表面に押し出す力と、シリコーンオイルがエラストマーの網目構造を拡げようとする力とのバランスによって、シリコーンオイルが滲みだすものであり、長期に亘り撥水面を自己修復させることができる。
【0008】
しかしながら、撥水性・防汚性に優れるオイルは一般的に低粘度であり、非特許文献1に記載のものは、撥水性・防汚性向上のために低粘度のシリコーンオイルを用いると、エラストマー層と基材との界面にシリコーンオイルが浸透し、上記エラストマー層が基材から剥がれるため、撥水性・防汚性を向上させることが困難である。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防汚液を保持する高分子材料層が基材から剥がれることを防止して、長期に亘り撥水面を自己修復させると共に、撥水性・防汚性を向上させることができる防汚構造体及び該防汚構造体を備える自動車部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、基材表面に形成された凹凸の凹部内の高分子材料層が、防汚液で膨潤して上記基材凹部の内壁を押すことで、接合面の面積の増加と相俟って基材からの剥がれを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の防汚構造体は、表面に凹凸を有する基材と、三次元網目構造を有する高分子材料層と、該高分子材料層を膨潤する防汚液とを備える。
そして、少なくとも上記基材表面の凹部内に上記高分子材料層を有し、上記高分子材料層が、上記防汚液を保持したものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の自動車部品は上記防汚構造体を有するであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面凹凸を有する基材が少なくともその凹部内に高分子材料層を備え、該高分子材料層が膨潤して防汚液を保持することとしたため、高分子材料層の剥離が防止されて長期に亘り、自己修復する撥水面を形成できると共に、撥水性・防汚性を向上できる防汚構造体及び該防汚構造体を備える自動車部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の防汚構造体の一例を示す概略断面図である。
図2】高分子材料が膨潤した状態を示す模式図である。
図3】高分子材料層が膨潤して剥離が防止される状態を説明する図である。
図4】基材表面の微細凹凸の一例を示す図である。
図5】基材表面の微細凹凸の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の防汚構造体について詳細に説明する。
本発明の防汚構造体1は、図1に示すように、表面に凹凸を有する基材2と、三次元網目構造を有する高分子材料層3と、防汚液4を備えるものであり、少なくとも上記基材表面の凹部内に上記高分子材料層3を有し、該高分子材料層3が防汚液4により膨潤して該防汚液4を保持したものである。
【0016】
本発明の高分子材料層3は、三次元網目構造中に防汚液4が侵入することで膨潤して防汚液4を保持するものであり、保持している防汚液4の量によって体積が変化するものである。
【0017】
このような高分子材料層3は、その表面の防汚液4が失われると収縮し、防汚液4が高分子材料層内部から表面に滲みだすため、高分子材料層表面の防汚膜が自己修復される。
【0018】
つまり、高分子材料層3が膨潤した状態は、図2に模式的に示すように、防汚液分子が高分子材料の分子鎖の間に侵入して網目構造を広げようとする力と、架橋された網目構造の収縮力とが釣り合った状態である。
【0019】
したがって、高分子材料層表面の防汚膜が失われると、防汚液4が高分子材料の分子鎖間に侵入しようとする力が弱まって、防汚液による高分子材料の網目構造を広げようとする力が弱まる。
そうすると、高分子材料の分子鎖間に侵入した防汚液4は、高分子材料の収縮力によって高分子材料層3の表面に押し出されて防汚膜が自己修復される。
【0020】
また、防汚液4の分子が高分子材料の分子鎖の間に侵入して網目構造を広げることで、図3中矢印で示すように、基材凹部内の高分子材料層3が上記凹部の内壁を押して高分子材料層3と基材2との密着性が向上するため、基材2と高分子材料層3との剥離が防止される。
【0021】
表面エネルギーが小さい防汚液は、一般に撥水性・撥油性が高い一方で粘度が低く浸透性が高いものであり、基材と高分子材料層の接合界面に浸透して高分子材料層を剥離し易いものである。
本発明においては、基材表面の凹部内に高分子材料層3を有するため、浸透性の高い表面エネルギーの小さい防汚液を用いることで、高分子材料層3が膨潤して剥離が防止されると共に、防汚性・撥水性が向上する。
【0022】
<防汚液>
上記防汚液は、上記高分子材料層の表面に防汚膜を形成して、水、油、砂、埃等の異物を撥ね、異物の付着を低減するものであり、撥水性及び/又は撥油性を有し、かつ上記高分子材料層を膨潤するものである。
なお、本発明において、「膨潤する」とは、防汚液中に高分子材料層を24時間浸漬したときの高分子材料層の体積が、浸漬前の高分子材料層の体積よりも増えることをいう。
【0023】
上記防汚液は、撥水性・撥油性が高く、高分子材料層の体積を大きく増加させるものであることが好ましく、具体的には、高分子材料層の体積を膨潤前後で1.1倍以上変化させるものであることが好ましい。
【0024】
上記防汚液としては、上記高分子材料層との親和性が高く、上記高分子材料層を膨潤させるものを使用することができ、例えば、高分子材料の溶解度パラメータ(SP値)との差が2以下である防汚液を好ましく使用することができる。
具体的には、上記高分子材料層を構成する高分子材料にもよるが、例えば、シリコーンオイルや、フッ素系オイルなどが挙げられる。
【0025】
上記シリコーンオイルとしては、直鎖状または環状のシリコーンオイルを使用できる。
直鎖状のシリコーンオイルとしては、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルを挙げることができ、ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。
また、変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。
環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0026】
上記含フッ素系オイルとしては、フルオロポリエーテルオイル、パーフルオロポリエーテルオイル等を挙げることができる。
【0027】
また、上記防汚液は、25℃における動粘度が1〜600cSt(mm/s)であることが好ましく、5〜50cStであることがより好ましい。
【0028】
防汚液の動粘度が上記範囲内であると防汚性を向上させることができる。
動粘度が600cStを超えると耐熱性(耐流出性)が高くなる一方で撥水性・防汚性が低下することがあり、一方で本発明の高分子材料層3は、三次元網目構造中に防汚液4が侵入することで膨潤して防汚液4を強固に保持する為、低動粘度の防汚液を用いても耐熱性を保つが、動粘度が1cSt未満では高温下での粘度が低下して高分子材料層からの滲みだしが過剰になることがある。
上記動粘度は、JIS K−2283準拠して測定できる。
【0029】
<高分子材料層>
上記高分子材料層は、上記防汚液を保持するものであり、三次元網目構造を有する高分子材料から成る。
【0030】
上記高分子材料としては、防汚液により膨潤し、防汚液を分子レベルの細孔内に侵入させて保持できればよく、例えば、含フッ素エラストマー、シリコーンエラストマー等を挙げることができる。使用目的等にもよるが、中でも含フッ素エラストマーは撥油性にも優れ好ましく使用できる。
【0031】
上記含フッ素エラストマーはCF−CF結合を有し、上記シリコーンエラストマーはSi−O−Si結合を有する。これらエラストマーの結合はCH−CH結合のC−C結合よりも結合エネルギーが大きいものであるため、耐候性、耐熱性、化学的安定性に優れ、長期に亘り防汚液を保持することができる。
【0032】
上記含フッ素エラストマーとしては、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、又はこれらの共重合体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でもパーフルオロポリエーテルであることが好ましい。
【0033】
上記シリコーンエラストマーとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、メチルビニルシリコーンエラストマー、メチルフェニルシリコーンエラストマー、フルオロシリコーンエラストマー、又はこれらの共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリジメチルシロキサンであることが好ましい。
【0034】
<基材>
上記基材はその表面に凹凸を有するものであり、上記高分子材料層の接合面積が広いものである。上記基材としては、ガラスや鋼板等の無機材料の他、樹脂成形品や塗膜など有機材料を含む基材を使用することができる。
【0035】
上記凹凸は、その内壁面が防汚構造体の表面に対してほぼ直交するものであることが好ましい。上記凹凸がその底面よりも開口部が広く、防汚構造体の表面に向けて拡がるものであると上記高分子材料層が剥離し易くなることがあり、逆に開口部が狭いものであると凹部内の防汚液が高分子材料層表面に滲みだし難くなることがある。
【0036】
また、上記凹凸の内壁の高さは、0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm以上であることで、基材と高分子材料層との剥離が防止される。
上記基材表面の凹凸は、エッチングにより粗面化処理することで形成できる。
【0037】
上記基材の表面凹凸の開口部の平均直径は、400nm/n以下であることが好ましい。上記nは、nb/neを表わし、nbは基材の屈折率、neは高分子材料層の屈折率を表わす。
なお、アクリル樹脂の屈折率は1.49〜1.53、ガラスの屈折率は1.40〜1.8、ポリカーボネートの屈折率は1.59、シリコーンゴムの屈折率は1.40〜1.43、フッ素ゴムの屈折率は1.38〜1.39である。
【0038】
自動車部品においては、ヘイズ値が1%未満であることが要求される。可視光線の最小波長は380nm程度であり、基材の表面凹凸の開口部の平均直径が400nm/n以下であることで透明な防汚構造体を形成できる。
【0039】
上記ヘイズ値は、JIS K 7136に準拠し、ヘイズ・透過率計を用いて測定することができる。
【0040】
<防汚構造体の作製>
次に、本発明の防汚構造体の製造方法について説明する。
上記防汚構造体は、重合して高分子材料となるモノマーやオリゴマー等の原料を含む塗工液を基材上に塗布して乾燥し、上記モノマーやオリゴマー等を重合させて高分子材料層を形成し、該高分子材料層に防汚液を保持させることで形成できる。
【0041】
上記塗工液には必要に応じて重合開始剤を含有させてもよい。重合開始剤により常温で重合させることができ、樹脂など加熱が困難な基材表面にも高分子材料層を形成できる。
【0042】
また、上記塗工液の溶媒としては、上記モノマーやオリゴマー等の原料を溶解できればよく、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン等を使用できる。
【0043】
上記塗工液を基材に塗布する方法としては、スプレー塗工、ロールコーター、フローコート、ディップコート等、従来公知の塗工方法を挙げることができる。
【0044】
<自動車部品>
本発明の自動車部品は上記本発明の防汚構造体を備えて成る。自動車部品が上記防汚構造体を備えることで、長期に亘り防汚性能に優れたものとすることができ、洗車や清掃の回数を減らすことや、雨天や悪路において良好な視界を確保することができる。
【0045】
上記自動車部品としては、カメラレンズ、ミラー、ガラスウィンドウ、ボディ等の塗装面、各種ライトのカバー、ドアノブ、メーターパネル、ウィンドウパネル、ラジエターフィン、エバポレーター等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが3μm、格子深さ1μm、格子深さ0.7μmの図4に示す四角柱をくり貫いた桝形状の正方格子構造の微細凹凸を形成した。
【0048】
熱硬化性ポリジメチルシロキサンオリゴマー(KE109EA;信越化学工業)と熱硬化性ポリジメチルシロキサンオリゴマー(KE109EB;信越化学工業)を等量混合し、真空乾燥機に入れ、常温で15分間真空乾燥して混合液中の気泡を除去して、高分子材料層塗工液を作製した。
【0049】
上記高分子材料層塗工液を、微細凹凸を形成したアクリル樹脂板に塗工し、厚さが1.2μmになるように脱脂綿ガーゼ(ペンコット:旭化成社製)で拭き取り、オーブンで100℃1時間加熱し乾燥・硬化させて高分子樹脂層を形成した。
【0050】
上記高分子樹脂層を形成したアクリル樹脂板をシリコーンオイル(KF96−30)中に24時間浸漬して高分子樹脂層を膨潤させた後、80度〜90度に傾け常温で10分間放置し、高分子樹脂層の表面を木綿製ガーゼの新しい面を毎回更新して5往復拭き取って過剰なシリコーンオイルを除去し、防汚構造体を作製した。
【0051】
[実施例2]
シリコーンオイル(KF96−30)をシリコーンオイル(KF96−5)に代える他は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0052】
[実施例3]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが0.35μm、ピラー高さ0.2μm、ピラー径0.1μmの図5に示すような、平面から円柱が突出した形状のピラー凹凸構造の微細凹凸を形成した。
上記アクリル樹脂板を用いる他は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0053】
[実施例4]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが0.4μm、ピラー高さ0.2μm、ピラー径0.1μmの図2に示すピラー凹凸構造の微細凹凸を形成した。
上記アクリル樹脂板を用いる他は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0054】
[実施例5]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが0.35μm、ピラー高さ0.2μm、ピラー径0.1μmの図2に示すピラー凹凸構造の微細凹凸を形成した。
【0055】
上記アクリル樹脂板の微細凹凸形成面に、プラズマCVD法により厚さ10nmのSiO被膜を形成した後、フッ素改質剤(PFPE系表面改質剤:オプツールDSX:信越化学社製)を真空蒸着し、厚さ10nmのフッ素被膜を形成した。
【0056】
熱硬化性PFPEオリゴマー(X−71−8115_A;信越化学工業)と熱硬化性PFPEオリゴマー(X−71−8115_B;信越化学工業)を等量混合し、真空乾燥機に入れ、常温で15分間真空乾燥して混合液中の気泡を除去して、高分子材料層塗工液を作製した。
【0057】
上記高分子材料層塗工液を、微細凹凸を形成したアクリル樹脂板に塗工し、厚さが1.2μmになるように脱脂綿ガーゼ(ペンコット:旭化成社製)で拭き取り、オーブンで150℃1時間加熱し乾燥・硬化させて高分子樹脂層を形成した。
【0058】
上記高分子樹脂層を形成したアクリル樹脂板をPFPEオイル(Fomblin M03)中に24時間浸漬して高分子樹脂層を膨潤させた後、80度〜90度に傾け常温で10分間放置し、高分子樹脂層の表面を木綿製ガーゼの新しい面を毎回更新して5往復拭き取って過剰なPFPEオイルを除去し、防汚構造体を作製した。
【0059】
[比較例1]
高分子材料層を設けないこと以外は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0060】
[比較例2]
高分子材料層を設けないこと以外は実施例3と同様にして防汚構造体を作製した。
【0061】
[比較例3]
微細凹凸を形成せずに平坦なアクリル樹脂板を用いる他は実施例2と同様にして防汚構造体を作製した。
【0062】
上記実施例1〜5、比較例1〜3の防汚構造体の構成を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
上記実施例1〜5、比較例1〜3の防汚構造体を下記の方法で評価した。
評価結果を表2に示す。
【0065】
<耐剥離性>
上記防汚構造体を作製の際、高分子樹脂層を防汚液で膨潤させた後、高分子樹脂層が自然に剥がれるか否かを目視確認した。
○:全く剥がれなし
×:一部に剥がれあり
【0066】
<水滴滑落性>
全自動接触角計(協和界面科学社製)を用いて水滴転落角を測定した。
○:5[μL]の水滴転落角が10°以下
△:5[μL]の水滴転落角が10°を超え90°未満
×:5[μL]の水滴が90°でも転落しない。
【0067】
<耐熱性>
上記防汚構造体をガラス立てに刺して80度に傾けた状態で、90℃のオーブンに4時間放置した後、常温に1時間放置した後、水滴(5[μL])の転落角を測定した。
○:5[μL]の水滴転落角が10°以下
△:5[μL]の水滴転落角が10°を超え90°未満
×:試験片の傾きが90°の時、5[μL]の水滴が付着し、滑落しない。または、加熱によって試験片が変形等した為に水滴転落角を測定できない。
【0068】
<光学特性>
ヘイズ・透過率計を用いてJIS K 7136に準拠し、ヘイズ値を測定した。
◎:ヘイズ値が1%以下
○:ヘイズ値が1%を超え40%以下
×:ヘイズ値が40%を超え5%以下
【0069】
【表2】
【0070】
なお、比較例3は高分子樹脂層を防汚液で膨潤させた後、高分子樹脂層の1/3が基材か剥がれた状態であり、水滴滑落性の評価はできたが、加熱(90℃×4hr)によって高分子樹脂層が完全に剥がれたため、耐熱性評価の水滴滑落性は測定できなかった。
【符号の説明】
【0071】
1 防汚構造体
2 基材
3 高分子材料層
4 防汚液
図1
図2
図3
図4
図5