(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記エラストマーが、ポリジメチルシロキサンオリゴマー又はパーフルオロポリエーテルオリゴマー由来の部位を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の防汚構造体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の防汚構造体について詳細に説明する。
本発明の防汚構造体1は、
図1に示すように、表面に凹凸を有する基材2と、三次元網目構造を有する高分子材料層3と、防汚液4を備えるものであり、少なくとも上記基材表面の凹部内に上記高分子材料層3を有し、該高分子材料層3が防汚液4により膨潤して該防汚液4を保持したものである。
【0016】
本発明の高分子材料層3は、三次元網目構造中に防汚液4が侵入することで膨潤して防汚液4を保持するものであり、保持している防汚液4の量によって体積が変化するものである。
【0017】
このような高分子材料層3は、その表面の防汚液4が失われると収縮し、防汚液4が高分子材料層内部から表面に滲みだすため、高分子材料層表面の防汚膜が自己修復される。
【0018】
つまり、高分子材料層3が膨潤した状態は、
図2に模式的に示すように、防汚液分子が高分子材料の分子鎖の間に侵入して網目構造を広げようとする力と、架橋された網目構造の収縮力とが釣り合った状態である。
【0019】
したがって、高分子材料層表面の防汚膜が失われると、防汚液4が高分子材料の分子鎖間に侵入しようとする力が弱まって、防汚液による高分子材料の網目構造を広げようとする力が弱まる。
そうすると、高分子材料の分子鎖間に侵入した防汚液4は、高分子材料の収縮力によって高分子材料層3の表面に押し出されて防汚膜が自己修復される。
【0020】
また、防汚液4の分子が高分子材料の分子鎖の間に侵入して網目構造を広げることで、
図3中矢印で示すように、基材凹部内の高分子材料層3が上記凹部の内壁を押して高分子材料層3と基材2との密着性が向上するため、基材2と高分子材料層3との剥離が防止される。
【0021】
表面エネルギーが小さい防汚液は、一般に撥水性・撥油性が高い一方で粘度が低く浸透性が高いものであり、基材と高分子材料層の接合界面に浸透して高分子材料層を剥離し易いものである。
本発明においては、基材表面の凹部内に高分子材料層3を有するため、浸透性の高い表面エネルギーの小さい防汚液を用いることで、高分子材料層3が膨潤して剥離が防止されると共に、防汚性・撥水性が向上する。
【0022】
<防汚液>
上記防汚液は、上記高分子材料層の表面に防汚膜を形成して、水、油、砂、埃等の異物を撥ね、異物の付着を低減するものであり、撥水性及び/又は撥油性を有し、かつ上記高分子材料層を膨潤するものである。
なお、本発明において、「膨潤する」とは、防汚液中に高分子材料層を24時間浸漬したときの高分子材料層の体積が、浸漬前の高分子材料層の体積よりも増えることをいう。
【0023】
上記防汚液は、撥水性・撥油性が高く、高分子材料層の体積を大きく増加させるものであることが好ましく、具体的には、高分子材料層の体積を膨潤前後で1.1倍以上変化させるものであることが好ましい。
【0024】
上記防汚液としては、上記高分子材料層との親和性が高く、上記高分子材料層を膨潤させるものを使用することができ、例えば、高分子材料の溶解度パラメータ(SP値)との差が2以下である防汚液を好ましく使用することができる。
具体的には、上記高分子材料層を構成する高分子材料にもよるが、例えば、シリコーンオイルや、フッ素系オイルなどが挙げられる。
【0025】
上記シリコーンオイルとしては、直鎖状または環状のシリコーンオイルを使用できる。
直鎖状のシリコーンオイルとしては、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルを挙げることができ、ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。
また、変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。
環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0026】
上記含フッ素系オイルとしては、フルオロポリエーテルオイル、パーフルオロポリエーテルオイル等を挙げることができる。
【0027】
また、上記防汚液は、25℃における動粘度が1〜600cSt(mm
2/s)であることが好ましく、5〜50cStであることがより好ましい。
【0028】
防汚液の動粘度が上記範囲内であると防汚性を向上させることができる。
動粘度が600cStを超えると耐熱性(耐流出性)が高くなる一方で撥水性・防汚性が低下することがあり、一方で本発明の高分子材料層3は、三次元網目構造中に防汚液4が侵入することで膨潤して防汚液4を強固に保持する為、低動粘度の防汚液を用いても耐熱性を保つが、動粘度が1cSt未満では高温下での粘度が低下して高分子材料層からの滲みだしが過剰になることがある。
上記動粘度は、JIS K−2283準拠して測定できる。
【0029】
<高分子材料層>
上記高分子材料層は、上記防汚液を保持するものであり、三次元網目構造を有する高分子材料から成る。
【0030】
上記高分子材料としては、防汚液により膨潤し、防汚液を分子レベルの細孔内に侵入させて保持できればよく、例えば、含フッ素エラストマー、シリコーンエラストマー等を挙げることができる。使用目的等にもよるが、中でも含フッ素エラストマーは撥油性にも優れ好ましく使用できる。
【0031】
上記含フッ素エラストマーはCF
2−CF
2結合を有し、上記シリコーンエラストマーはSi−O−Si結合を有する。これらエラストマーの結合はCH
2−CH
2結合のC−C結合よりも結合エネルギーが大きいものであるため、耐候性、耐熱性、化学的安定性に優れ、長期に亘り防汚液を保持することができる。
【0032】
上記含フッ素エラストマーとしては、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、又はこれらの共重合体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でもパーフルオロポリエーテルであることが好ましい。
【0033】
上記シリコーンエラストマーとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、メチルビニルシリコーンエラストマー、メチルフェニルシリコーンエラストマー、フルオロシリコーンエラストマー、又はこれらの共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリジメチルシロキサンであることが好ましい。
【0034】
<基材>
上記基材はその表面に凹凸を有するものであり、上記高分子材料層の接合面積が広いものである。上記基材としては、ガラスや鋼板等の無機材料の他、樹脂成形品や塗膜など有機材料を含む基材を使用することができる。
【0035】
上記凹凸は、その内壁面が防汚構造体の表面に対してほぼ直交するものであることが好ましい。上記凹凸がその底面よりも開口部が広く、防汚構造体の表面に向けて拡がるものであると上記高分子材料層が剥離し易くなることがあり、逆に開口部が狭いものであると凹部内の防汚液が高分子材料層表面に滲みだし難くなることがある。
【0036】
また、上記凹凸の内壁の高さは、0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm以上であることで、基材と高分子材料層との剥離が防止される。
上記基材表面の凹凸は、エッチングにより粗面化処理することで形成できる。
【0037】
上記基材の表面凹凸の開口部の平均直径は、400nm/n以下であることが好ましい。上記nは、nb/neを表わし、nbは基材の屈折率、neは高分子材料層の屈折率を表わす。
なお、アクリル樹脂の屈折率は1.49〜1.53、ガラスの屈折率は1.40〜1.8、ポリカーボネートの屈折率は1.59、シリコーンゴムの屈折率は1.40〜1.43、フッ素ゴムの屈折率は1.38〜1.39である。
【0038】
自動車部品においては、ヘイズ値が1%未満であることが要求される。可視光線の最小波長は380nm程度であり、基材の表面凹凸の開口部の平均直径が400nm/n以下であることで透明な防汚構造体を形成できる。
【0039】
上記ヘイズ値は、JIS K 7136に準拠し、ヘイズ・透過率計を用いて測定することができる。
【0040】
<防汚構造体の作製>
次に、本発明の防汚構造体の製造方法について説明する。
上記防汚構造体は、重合して高分子材料となるモノマーやオリゴマー等の原料を含む塗工液を基材上に塗布して乾燥し、上記モノマーやオリゴマー等を重合させて高分子材料層を形成し、該高分子材料層に防汚液を保持させることで形成できる。
【0041】
上記塗工液には必要に応じて重合開始剤を含有させてもよい。重合開始剤により常温で重合させることができ、樹脂など加熱が困難な基材表面にも高分子材料層を形成できる。
【0042】
また、上記塗工液の溶媒としては、上記モノマーやオリゴマー等の原料を溶解できればよく、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン等を使用できる。
【0043】
上記塗工液を基材に塗布する方法としては、スプレー塗工、ロールコーター、フローコート、ディップコート等、従来公知の塗工方法を挙げることができる。
【0044】
<自動車部品>
本発明の自動車部品は上記本発明の防汚構造体を備えて成る。自動車部品が上記防汚構造体を備えることで、長期に亘り防汚性能に優れたものとすることができ、洗車や清掃の回数を減らすことや、雨天や悪路において良好な視界を確保することができる。
【0045】
上記自動車部品としては、カメラレンズ、ミラー、ガラスウィンドウ、ボディ等の塗装面、各種ライトのカバー、ドアノブ、メーターパネル、ウィンドウパネル、ラジエターフィン、エバポレーター等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが3μm、格子深さ1μm、格子深さ0.7μmの
図4に示す四角柱をくり貫いた桝形状の正方格子構造の微細凹凸を形成した。
【0048】
熱硬化性ポリジメチルシロキサンオリゴマー(KE109EA;信越化学工業)と熱硬化性ポリジメチルシロキサンオリゴマー(KE109EB;信越化学工業)を等量混合し、真空乾燥機に入れ、常温で15分間真空乾燥して混合液中の気泡を除去して、高分子材料層塗工液を作製した。
【0049】
上記高分子材料層塗工液を、微細凹凸を形成したアクリル樹脂板に塗工し、厚さが1.2μmになるように脱脂綿ガーゼ(ペンコット:旭化成社製)で拭き取り、オーブンで100℃1時間加熱し乾燥・硬化させて高分子樹脂層を形成した。
【0050】
上記高分子樹脂層を形成したアクリル樹脂板をシリコーンオイル(KF96−30)中に24時間浸漬して高分子樹脂層を膨潤させた後、80度〜90度に傾け常温で10分間放置し、高分子樹脂層の表面を木綿製ガーゼの新しい面を毎回更新して5往復拭き取って過剰なシリコーンオイルを除去し、防汚構造体を作製した。
【0051】
[実施例2]
シリコーンオイル(KF96−30)をシリコーンオイル(KF96−5)に代える他は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0052】
[実施例3]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが0.35μm、ピラー高さ0.2μm、ピラー径0.1μmの
図5に示すような、平面から円柱が突出した形状のピラー凹凸構造の微細凹凸を形成した。
上記アクリル樹脂板を用いる他は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0053】
[実施例4]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが0.4μm、ピラー高さ0.2μm、ピラー径0.1μmの
図2に示すピラー凹凸構造の微細凹凸を形成した。
上記アクリル樹脂板を用いる他は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0054】
[実施例5]
厚さ2mm、50mm×50mmのアクリル樹脂板の表面をエッチング処理し、ピッチが0.35μm、ピラー高さ0.2μm、ピラー径0.1μmの
図2に示すピラー凹凸構造の微細凹凸を形成した。
【0055】
上記アクリル樹脂板の微細凹凸形成面に、プラズマCVD法により厚さ10nmのSiO
2被膜を形成した後、フッ素改質剤(PFPE系表面改質剤:オプツールDSX:信越化学社製)を真空蒸着し、厚さ10nmのフッ素被膜を形成した。
【0056】
熱硬化性PFPEオリゴマー(X−71−8115_A;信越化学工業)と熱硬化性PFPEオリゴマー(X−71−8115_B;信越化学工業)を等量混合し、真空乾燥機に入れ、常温で15分間真空乾燥して混合液中の気泡を除去して、高分子材料層塗工液を作製した。
【0057】
上記高分子材料層塗工液を、微細凹凸を形成したアクリル樹脂板に塗工し、厚さが1.2μmになるように脱脂綿ガーゼ(ペンコット:旭化成社製)で拭き取り、オーブンで150℃1時間加熱し乾燥・硬化させて高分子樹脂層を形成した。
【0058】
上記高分子樹脂層を形成したアクリル樹脂板をPFPEオイル(Fomblin M03)中に24時間浸漬して高分子樹脂層を膨潤させた後、80度〜90度に傾け常温で10分間放置し、高分子樹脂層の表面を木綿製ガーゼの新しい面を毎回更新して5往復拭き取って過剰なPFPEオイルを除去し、防汚構造体を作製した。
【0059】
[比較例1]
高分子材料層を設けないこと以外は実施例1と同様にして防汚構造体を作製した。
【0060】
[比較例2]
高分子材料層を設けないこと以外は実施例3と同様にして防汚構造体を作製した。
【0061】
[比較例3]
微細凹凸を形成せずに平坦なアクリル樹脂板を用いる他は実施例2と同様にして防汚構造体を作製した。
【0062】
上記実施例1〜5、比較例1〜3の防汚構造体の構成を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
上記実施例1〜5、比較例1〜3の防汚構造体を下記の方法で評価した。
評価結果を表2に示す。
【0065】
<耐剥離性>
上記防汚構造体を作製の際、高分子樹脂層を防汚液で膨潤させた後、高分子樹脂層が自然に剥がれるか否かを目視確認した。
○:全く剥がれなし
×:一部に剥がれあり
【0066】
<水滴滑落性>
全自動接触角計(協和界面科学社製)を用いて水滴転落角を測定した。
○:5[μL]の水滴転落角が10°以下
△:5[μL]の水滴転落角が10°を超え90°未満
×:5[μL]の水滴が90°でも転落しない。
【0067】
<耐熱性>
上記防汚構造体をガラス立てに刺して80度に傾けた状態で、90℃のオーブンに4時間放置した後、常温に1時間放置した後、水滴(5[μL])の転落角を測定した。
○:5[μL]の水滴転落角が10°以下
△:5[μL]の水滴転落角が10°を超え90°未満
×:試験片の傾きが90°の時、5[μL]の水滴が付着し、滑落しない。または、加熱によって試験片が変形等した為に水滴転落角を測定できない。
【0068】
<光学特性>
ヘイズ・透過率計を用いてJIS K 7136に準拠し、ヘイズ値を測定した。
◎:ヘイズ値が1%以下
○:ヘイズ値が1%を超え40%以下
×:ヘイズ値が40%を超え5%以下
【0069】
【表2】
【0070】
なお、比較例3は高分子樹脂層を防汚液で膨潤させた後、高分子樹脂層の1/3が基材か剥がれた状態であり、水滴滑落性の評価はできたが、加熱(90℃×4hr)によって高分子樹脂層が完全に剥がれたため、耐熱性評価の水滴滑落性は測定できなかった。