【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、センター・オブ・イノベーション事業「共進化社会システム創成拠点」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電子伝導性酸化物が、平均粒径3〜200nmの粒子状電子伝導性酸化物であって、当該粒子状電子伝導性酸化物が前記導電補助材の一部が露出するように前記導電補助材に担持されてなる請求項1に記載の燃料電池用電極材料。
前記電子伝導性酸化物が、平均膜厚2〜50nmの薄膜状電子伝導性酸化物であって、当該薄膜状電子伝導性酸化物が前記導電補助材の一部または全部を被覆するように担持されてなる請求項1に記載の燃料電池用電極材料。
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、請求項6に記載の燃料電池用電極であることを特徴とする膜電極接合体。
工程(1)における電子伝導性酸化物を担持する方法が、電子伝導性酸化物の前駆体とアンモニアとを直接反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持するアンモニア共沈法である請求項9または10に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
工程(1)における電子伝導性酸化物を担持する方法が、電子伝導性酸化物の前駆体と、アンモニア発生化合物を分解して発生するアンモニアとを反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持する均一沈殿法である請求項9または10に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「〜」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0017】
<1.本発明の燃料電池用電極材料>
本発明の燃料電池用電極材料(以下、「本発明の電極材料」と称す場合がある。)は、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材と、前記導電補助材に担持された電子伝導性酸化物と、前記導電補助材及び前記電子伝導性酸化物のうち前記電子伝導性酸化物に分散担持された電極触媒粒子とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の電極材料では、電子伝導性酸化物に担持された電極触媒粒子は炭素系材料の導電補助材とほとんど接触しないため、従来の炭素系担体に電極触媒粒子を担持した際に生じる電気化学的酸化による炭素系担体の腐食に起因する電極性能の低下を回避できる。そして、本発明の電極材料を構成する導電補助材は相互接触性がよく、優れた電子伝導性を有する繊維状炭素や鎖状連結炭素粒子であるため、当該電極材料を用いて、燃料電池用電極を構成した際に、前記導電補助材が互いに接触して低抵抗の導電パスが形成され、電子伝導性に優れた電極となる。
このように、本発明の電極材料は、電子伝導性酸化物に起因する電気化学的酸化への優れた耐久性と、炭素系材料に起因する優れた電子伝導性を併せ持つ。そのため、当該電極材料で形成された燃料電池用電極は、優れた電極性能を示すと共に、サイクル耐久性が高く、長期間発電することができる。
【0019】
また、従来の粒子状の電子伝導性酸化物を担体とする燃料電池用電極触媒材料では、粒子状の電子伝導性酸化物は、電極触媒粒子の担体であると共に、燃料電池用電極の骨格としての役割を有するため、平均粒径0.1〜5μm程度の粒子が使用されている。このような粒径を有する電子伝導性酸化物は、炭素系材料と比較して電子伝導性が劣るため、同程度の粒径の炭素材料を担体として使用した燃料電池用電極材料と比較して電気抵抗が大きくなる。さらに、前記粒径を有する電子伝導性酸化物は、数nm〜数十nm程度の一次粒子が凝集した平均粒径0.1〜5μm程度の二次粒子であるため、一次粒子間の粒界に起因する電気抵抗が生じ、これも燃料電池用電極の電気抵抗増大の主要な一因になっていた。
【0020】
これに対し、本願発明の燃料電池用触媒材料では、燃料電池用電極の骨格としての役割を、繊維状炭素又は鎖状連結炭素粒子からなる導電補助材が担うため、電極触媒粒子が担持される電子伝導性酸化物の粒径(薄膜の場合は厚み)を小さくすることができる。そのため、本願発明の燃料電池用触媒材料を用いて形成した燃料電池用電極では、電子伝導性酸化物に起因する電気抵抗を低減できる。
【0021】
また、電子伝導性酸化物に起因する電気抵抗を低減できるため、耐久性が高いが電子伝導性に乏しく、従来の燃料電池用触媒材料では実用が困難であった電子伝導性酸化物(例えば、酸化チタン等)についても、本発明の電極材料としては好適に使用できる。
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の燃料電池用電極材料の代表的な構成を示す模式図である。
図1に示すように、本発明に係る燃料電池用電極材料1は、導電補助材2と、導電補助材2に担持された担持された粒子状の電子伝導性酸化物3aと、電子伝導性酸化物3aに分散担持された電極触媒粒子3bによって構成される。
【0024】
導電補助材2は、表面がグラファイト構造である繊維状炭素や鎖状連結炭素粒子からなる炭素系導電補助材である。繊維状炭素や鎖状連結炭素粒子は相互接触性がよく、電子伝導性に優れるため、燃料電池用電極材料1を用いて燃料電池用電極を形成した際に導電パスが形成される。なお、本明細書において、「導電補助材」とは、燃料電池用電極材料に含まれ、燃料電池用電極を形成した際に電子伝導性を向上させる役割を有するものを意味する。
導電補助材2は、炭素系材料由来の優れた電子伝導性を有し、電子伝導性酸化物3aを担持できる。燃料電池用電極材料1は、このような導電補助材2を用いているため、燃料電池用電極を形成した際に、隣接する導電補助材2が連続的に接触でき、かつ燃料電池用電極内の水素や酸素などのガス拡散及び水(蒸気)の排出がスムーズに行える程度の空間を形成できる。
【0025】
繊維状炭素は、中空状あるいは繊維状の炭素材料であり、具体的にはいわゆるカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバーが挙げられる。なお、本発明において、「カーボンナノチューブ」とは、単層CNTだけでなく、2層CNT、複層CNT及びこれらの混合物を含む。
【0026】
ここで、燃料電池用電極を形成した際の電極内の電気伝導性とガス拡散性を両立させるためには、繊維状炭素は直径2nm〜20μm、全長0.03〜500μmであることが好適である。
なお、中空状あるいは繊維状の炭素材料のうち、カーボンナノチューブに代表されるように、直径が100nm以下のもの、または、気相成長炭素繊維(Vaper Grown Carbon Fiber,VGCF)のような直径が100〜1000nm程度のもの、活性炭素繊維のような直径が1μm〜20μmのものを指すことが多いが、これらの炭素材料の長さと呼称についての明確な規定はないため、本明細書内ではこれらを合わせて繊維状炭素と称する。
【0027】
また、繊維状炭素の中でも、表面がグラファイト構造である繊維状炭素であれば、化学的に安定で、表面積も小さいために電極触媒粒子が担持されにくく、大部分の電極触媒粒子が電子伝導性酸化物に選択的に担持される。そのため、全ての電極触媒粒子のうち、繊維状炭素と直接的に接触する電極触媒粒子の割合が小さくなり、燃料電池用電極として使用する際に繊維状炭素が電気化学的酸化腐食することが抑制される。表面がグラファイト構造である繊維状炭素としては、単層CNT、2層CNT、複層CNT、気相成長炭素繊維(VGCF)が挙げられ、高結晶性、高純度のものが好ましい。この中でも、VGCFが特に好ましい。
【0028】
また、鎖状連結炭素粒子は、一次粒径30〜300nmの炭素粒子が鎖状連結した粒子であり、炭素に由来する高い電子伝導性を有する。燃料電池用電極を形成した際の電極内の電気伝導性とガス拡散性を両立させるためには、鎖状連結炭素粒子のアスペクト比が5以上であることが好適であり、より好適にはアスペクト比が10以上である。
鎖状連結炭素粒子の中でも、アセチレンの熱分解によって製造されるアセチレンブラック(AB)が好ましい。アセチレンブラックは、通常のカーボンブラックと比較して、グラファイト化が進んでいるため、上述の表面がグラファイト構造である繊維状炭素と同様に、電極触媒粒子が担持されにくいという効果が期待できる。また、アセチレンブラックは、アセチレンガスから直接生成させることができ、PEFCにおける電解質膜の劣化を引き起こす鉄イオンなどの不純物を含まないように製造できることから、PEFCで使う導電補助材として適している。
【0029】
(電子伝導性酸化物)
電子伝導性酸化物3aを構成する電子伝導性酸化物としては、燃料電池(特には固体高分子形燃料電池)のアノード条件、カソード条件の少なくともいずれか一方で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つものであればよい。
なお、PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温〜150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温〜150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
【0030】
電子伝導性酸化物として具体的には、酸化スズ、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン及び酸化タングステンから選択される1種を主体とする電子伝導性酸化物が挙げられる。ここで、本発明において「主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた酸化物であって、母体酸化物が80mol%以上含まれるもの、を意味する。
【0031】
ドープされる元素として、具体的には、Sn,Ti,Sb,Nb,Ta,W,In,V,Cr,Mn,Moなどが挙げられる(但し、母体酸化物と異なる元素である。)。ドープされる元素は、母体酸化物より価数が高い元素であり、例えば、母体酸化物が酸化チタンの場合で例示すると、上記ドープ種元素のうち、Ti以外の元素(例えば、Nb)が選択される。
【0032】
この中でも、電子伝導性酸化物3aが、酸化チタン、酸化タングステン又は酸化スズを主体とする酸化物であることが好ましい。ここで、「主体とする酸化物」とは、対象となる酸化物を50mol%以上含む酸化物をいう。
【0033】
本発明の燃料電池用電極材料1において、燃料電池用電極の骨格としての役割は繊維状炭素又は鎖状連結炭素粒子からなる導電補助材2が担うことから、電子伝導性が炭素系材料と比較して小さい電子伝導性酸化物3aは、電極触媒粒子3bが分散担持することができる範囲内で、粒径が小さい方が好ましい。電子伝導性酸化物3aは、一次粒子、二次粒子のいずれでもよい。但し、電子伝導性酸化物3aが一次粒子であることが好ましい。これは、電子伝導性酸化物3aが二次粒子の場合には二次粒子を構成する一次粒子間の粒界抵抗により電気抵抗が大きくなるためである。
電子伝導性酸化物3aは、好適には平均粒径3〜200nmの粒子状電子伝導性酸化物であり、より好適には実質的に一次粒子となる平均粒径5〜40nmの粒子状電子伝導性酸化物である。そして、燃料電池用電極材料1の導電性の観点からは、粒子状の電子伝導性酸化物3aが密集せずに、導電補助材2の一部が露出され、導電補助材2と他の導電補助材2とが接触の直接的な接触を阻害しない程度に電子伝導性酸化物3aが分散して担持されていることが好ましい。
【0034】
すなわち、本発明の燃料電池用電極材料における電子伝導性酸化物の好適な態様の一つは、粒子状電子伝導性酸化物の前記導電補助材の一部が露出するように前記導電補助材に担持されている態様である。導電補助材の露出部分は、当該露出部分のそれぞれが互いに接触できる程度であればよい。そして、粒子状電子伝導性酸化物の平均粒径が、3〜200nmが好適であり、平均粒径5〜40nmがより好適である。
なお、「粒子状電子伝導性酸化物の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の粒子状電子伝導性酸化物(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。
【0035】
なお、
図1では、電子伝導性酸化物3aは、導電補助材2に分散担持された粒子状電子伝導性酸化物であるがこれに限定されず、電子伝導性酸化物3aは導電補助材2に担持されていればよい。例えば、導電補助材2を薄膜状の電子伝導性酸化物が被覆する形態であってもよい。薄膜状電子伝導性酸化物は、例えば、蒸着などの乾式法で導電補助材に対し、電子伝導性酸化物を被覆することで形成できる。
燃料電池用電極材料1の導電性の観点からは、薄膜状電子伝導性酸化物の膜厚は、形成できる範囲でできるだけ薄い方が好ましい。すなわち、本発明の燃料電池用電極材料における電子伝導性酸化物の好適な態様の一つは、電子伝導性酸化物が平均膜厚2〜50nmの薄膜状電子伝導性酸化物であって、当該薄膜状電子伝導性酸化物の一部又は全部が前記導電補助材を被覆するように担持されてなる態様である。電子伝導性酸化物が平均膜厚2〜50nmであれば、電子伝導性酸化物に起因する電気抵抗が実質的に問題にならないため、導電補助材の露出部分が互いに接触する必要がない。なお、「薄膜状電子伝導性酸化物の平均膜厚」は、薄膜状電子伝導性酸化物の厚み方向の断面電子顕微鏡像より調べられる任意位置の厚み(5点)の平均値により得ることができる。
【0036】
電子伝導性酸化物は、電極触媒の担持量を高めるために、機械的強度が保てる範囲で、表面性が大きい方が好ましい。具体的にはBET比表面積が70m
2/g以上が好適であり、より好適には100m
2/g以上、さらに好適には150m
2/g以上である。
【0037】
また、電子伝導性酸化物の担持量は、粒径(薄膜状の場合は膜厚)や表面積等の電子伝導性酸化物の物性、電子伝導性酸化物の製造方法によっても最適値がかわるため、十分な量の電極触媒粒子が担持できる範囲で適宜決定される。
酸化スズの場合を例示すると、導電補助材と電子伝導性酸化物の合計を100重量%としたときに、通常、5〜95重量%であり、好ましくは45〜95重量%である。電子伝導性酸化物の担持量が少なすぎると、燃料電池用電極材料として十分な量の電極触媒粒子が担持できなくなる。電子伝導性酸化物の担持量が多すぎると電子伝導性酸化物の粒径(薄膜状の場合は膜厚)が大きくなりすぎて燃料電池用電極材料の電気抵抗が大きくなる場合がある。
【0038】
ここで、電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする酸化物である場合には、本発明の燃料電池用電極をカソードとして使用することが好ましい。
元素としてスズ(Sn)は、PEFCのカソード条件で、酸化物であるSnO
2が熱力学的に安定であり酸化分解が起こらない。また、酸化スズは、十分な電子伝導性を有し、電極触媒粒子(特には貴金属粒子)を高分散で担持が可能な担体となる。
なお、本発明の燃料電池用電極をアノードとして使用する場合には、酸化スズを主体とする酸化物はPEFCのアノード条件で還元され金属Snとなるため好ましくない。
【0039】
酸化スズを主体とする酸化物の中でも、より優れた電極性能を有する燃料電池用電極が形成できる点で、ニオブ(Nb)を0.1〜20mol%ドープしたニオブドープ酸化スズが特に好ましい。
【0040】
本発明の燃料電池用電極をアノードとして使用する場合における電子伝導性酸化物の好適な一例として、酸化チタンを主体とする酸化物が挙げられる。元素としてチタン(Ti)は、PEFCのアノード条件で、酸化物であるTiO
2が熱力学的に安定であり還元が起こらない。さらに酸化チタンを主体とする酸化物は、PEFCのアノード条件のみならず、カソード条件でも、酸化物であるTiO
2が熱力学的に安定であるため、カソードとしても好適に使用できる。
なお、酸化チタンを主体とする酸化物は、酸化スズを主体とする酸化物と比較して電子伝導性が劣るが、上述の通り、本発明の電極材料は、燃料電池用電極の骨格としての役割は繊維状炭素又は鎖状連結炭素粒子からなる導電補助材が担うことから、電極触媒粒子が担持される電子伝導性酸化物の粒径(薄膜の場合は厚み)は小さくすることができるため、酸化チタンを主体とする酸化物も好適に使用できる。
【0041】
(電極触媒粒子)
電極触媒粒子3bは、電子伝導性酸化物3aに選択的に分散担持されている。ここで「電子伝導性酸化物に選択的に分散担持」とは、全ての電極触媒粒子(個数)のうち、80%以上、好適には90%以上、より好適には95%以上(100%を含む)が、電子伝導性酸化物に担持されていることを意味する。電子伝導性酸化物に担持された電極触媒粒子の割合は、評価対象となる燃料電池用電極材料を電磁顕微鏡で観察した任意の電極触媒粒子(100個以上)を選出し、そのうち、電子伝導性酸化物に担持された個数と、炭素系導電補助材に担持された個数とをカウントすることにより、評価することができる。
【0042】
電極触媒粒子3bは、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性を有するものであれば、貴金属系触媒、非貴金属系触媒のいずれでもよいが、好適には、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金から選択される。なお、「貴金属を含む合金」とは「上記の貴金属のみからなる合金」と、「上記の貴金属とそれ以外の金属からなる合金で上記の貴金属を10質量%以上含む合金」を含む。貴金属と合金化させる上記「それ以外の金属」は、特に限定されないが、Co,Ni,W,Ta,Nb,Snを好適な例として挙げることができ、これらを1種類あるいは2種類以上を使用してもよい。また、分相した状態で2種類以上の上記貴金属及び貴金属を含む合金を使用してもよい。なお、上記貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金を以下、「電極触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0043】
電極触媒金属の中でも、Pt及びPtを含む合金は、固体高分子形燃料電池の作動温度である80℃付近の温度域において、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性が高いため、特に好適に使用することができる。
【0044】
電極触媒粒子3bの形状は、特に制限されず公知の電極触媒粒子と同様の形状のものが使用できる。具体的な形状として球形、楕円形、多面体、コアシェル構造等が挙げられる。また、電極触媒粒子3bの構造は、結晶に限定されず、非晶質であってよく、結晶と非晶質の混合体であってもよい。
【0045】
電極触媒粒子3bの大きさは、小さいほど電気化学反応が進行する有効表面積が増加するため、電気化学的触媒活性が高くなる傾向がある。しかし、その大きさが小さすぎると、電気化学的反応活性が低下する。従って、電極触媒粒子3bの大きさは、平均粒子径として、1〜30nm、より好ましくは1.5〜10nmである。
なお、本発明における「電極触媒粒子の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる電極触媒粒子(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。電子顕微鏡像による平均粒径算出時は、微粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
すなわち、本発明の燃料電池用電極材料における電極触媒粒子の好適な態様の一つは、前記電極触媒粒子が、平均粒子径1〜30nmのPt及びPtを含む合金からなる電極触媒粒子である。
【0046】
電極触媒粒子の担持量は、触媒の種類、担体である電子伝導性酸化物の大きさ(厚み)等の条件を考慮して適宜決定される。触媒担持量が少なすぎると電極性能が不十分となり、多すぎると電極触媒粒子が凝集して性能が低下する場合がある。
【0047】
電極触媒粒子の担持量は、燃料電池用電極材料の全重量に対して、好ましくは0.1〜60質量%、より好ましくは0.5〜20質量%とすると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電極反応活性を得ることができる。
【0048】
また、電極触媒粒子の担持量は、電子伝導性酸化物に対して、通常、3〜40質量%である。このような範囲であれば、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電気化学的触媒活性を得ることができる。
前記担持量が3質量%未満の場合は、電極反応活性が不十分であり、40質量%超の場合は電極触媒粒子の凝集が起こりやすく、酸素や水素の電気化学反応に対する有効表面積が低下するという問題がある。なお、電極触媒粒子の担持量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)によって調べることができる。
【0049】
<2.燃料電池用電極材料の製造方法>
上述した本発明の燃料電池用電極材料の製造方法は特に限定されず、燃料電池用電極材料を構成する導電性補助材、電子伝導性酸化物、電極触媒粒子の種類に応じて適宜好適な方法を選択すればよい。また、導電補助材に電子伝導性酸化物を担持した後に、電子伝導性酸化物に電極触媒粒子を担持してもよいし、電子伝導性酸化物に電極触媒粒子を担持した後に、当該電極触媒粒子が担持した電子伝導性酸化物を導電補助材に担持してもよい。
本発明の燃料電池用電極材料を再現性良く製造できる点で、以下に説明する製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す。)によって製造することが好適である。
すなわち、本発明の燃料電池用電極材料の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に、電子伝導性酸化物を担持する工程
(2)前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬し、前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を担持する工程
(3)前記電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を活性化する工程
なお、本発明の製造方法において、工程(2)と工程(3)は同時に行ってもよい。
【0050】
本発明の製造方法では、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に電子伝導性酸化物を担持したのちに、電極触媒粒子を担持させることに特徴がある。
すなわち、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子は、電子伝導性酸化物を担持することができるが、電極触媒粒子が担持されにくいという性質を有する。これは導電補助材を構成する炭素材料の表面がグラファイト構造であると、電極触媒粒子と結合性が弱く、電極触媒粒子が表面を移動して凝集する劣化挙動が起こりやすいという性質に由来する。
導電補助材に電子伝導性酸化物を担持した後に、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬すると、電極触媒前駆体が選択的に電子伝導性酸化物に担持され、これを還元処理等により電極触媒粒子に変換される。そのため、本発明の製造方法によれば、大部分の電極触媒粒子が選択的に電子伝導性酸化物に分散担持された燃料電池用電極材料を得ることができる。
【0051】
以下、本発明の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0052】
「工程(1)」
工程(1)は、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に、電子伝導性酸化物を担持する工程である。
導電補助材および電子伝導性酸化物は、<1.本発明の燃料電池用電極材料>で上述した通りであり、ここでは詳しい説明を省略する。本発明の製造方法の工程(1)は、電子伝導性酸化物として、特に酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物を、表面がグラファイト構造である繊維状炭素に担持するのに適した方法である。酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物については上述の通りであるため、説明を省略する。
【0053】
導電補助材としては、表面がグラファイト構造である繊維状炭素が特にはVGCFが好ましい。導電補助材は、表面改質により表面の一部を酸化して、電子伝導性酸化物の担持性が向上しているものが好ましい。導電補助材の表面改質の方法は特に制限はないが、0.5〜30%水(水蒸気)を含む不活性ガス(例えば、N
2)で200〜400℃の温度で処理する方法が挙げられる。すなわち、本発明の製造方法で使用される好適な導電補助材の一態様として、表面改質されたVGCFが挙げられる。
【0054】
電子伝導性酸化物を担持する方法としては、導電補助材に電子伝導性酸化物を担持できる方法であればいかなる方法も採用できる。その中でも以下に説明する電子伝導性酸化物の前駆体にアンモニアを直接反応させる「アンモニア共沈法」や、尿素等のアンモニア発生化合物を分解して発生するアンモニアを反応させる「均一沈殿法」が好適である。
なお、均一沈殿法は詳しくは後述するように、アンモニア発生化合物の分解生成物としてのアンモニアを利用する点で、アンモニア共沈法の一種でもあるが、本明細書においてはアンモニアそのものを直接利用する方法のみを「アンモニア共沈法」と称し、アンモニア発生化合物を分解してアンモニアを生成する方法は除外して、両者を区別するものとする。
【0055】
アンモニア共沈法は、溶媒中で電子伝導性酸化物の前駆体とアンモニアとを直接反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持する方法である。
この方法の利点として、アンモニア溶液を滴下しながら順次反応させ、アンモニア溶液の濃度や滴下スピードを変えることによって反応速度を制御できることが挙げられる。なお、アンモニア共沈法における電子伝導性酸化物の前駆体としては、特に制限はなく、電子伝導性酸化物の構成金属元素(例えば、スズ)の硫酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、酢酸塩、塩化物、アンモニウム錯体、リン酸塩、カルボン酸塩などを使用することができる。電子伝導性酸化物が酸化スズの場合の好適な前駆体として、塩化スズ(水和物含む)が挙げられる。
【0056】
溶媒としては電子伝導性酸化物の前駆体を溶解できる溶媒であればよく、例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。
詳細な理由は現時点では完全に明らかではないが、溶媒として無水エタノールを使用すると、導電補助材に対する電子伝導性酸化物の担持量が増加するため好ましい。
すなわち、本発明の製造方法における電子伝導性酸化物を担持する好適な態様のひとつは、アンモニア共沈法であり、特に溶媒に無水エタノールを使用することであり、さらには、導電補助材としてVGCF、電子伝導性酸化物として酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物を使用する態様である。
【0057】
アンモニア共沈法によって、導電補助材に担持された電子伝導性酸化物は、非晶質状態であるものを含むため、これを乾燥、焼成することで結晶性が高い電子伝導性酸化物を得ることができる。
乾燥方法は、特に制限がなく、加熱・減圧・自然乾燥などの方法で上述の水、エタノールなどの溶媒を蒸発させればよい。また、乾燥時の雰囲気は特に限定されるものではなく、酸素を含有する酸化性雰囲気中や大気雰囲気、窒素やアルゴンなどを含有する不活性雰囲気、水素を含有する還元性雰囲気などの雰囲気条件を任意に選ぶことができるが、通常、大気雰囲気である。
【0058】
導電補助材の上にアンモニア共沈法で形成して担持した電子伝導性酸化物を、酸素を含有する酸化性雰囲気(例えば、大気雰囲気下)で、300〜800℃、好適には、400〜700℃、特に好適には450〜650℃で熱処理することで、結晶性及び電子伝導性の高い電子伝導性酸化物を得ることができる。熱処理温度が低すぎると未満の場合には、結晶性が低くなり、十分な電子伝導性が得られない場合があり、800℃を超える場合には、電子伝導性酸化物が凝集し、表面積が小さくなりすぎる場合や、導電補助材から電子伝導性酸化物が脱離する場合がある。
【0059】
なお、炭素材料は、酸化性雰囲気において高温(例えば、500℃)を超えると燃料するおそれがあるが、本発明で導電補助材として使用される、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子は高温耐久性が高い。そのため、上記温度範囲の中で実質的に燃焼せず、電子伝導性酸化物が脱離しない範囲で熱処理温度を決定すればよい。
特に好適なVGCFは、結晶性が高いため、少なくとも600℃の大気雰囲気において、導電補助材から電子伝導性酸化物がほとんど脱離せず安定である。
【0060】
また、均一沈殿法は、電子伝導性酸化物の前駆体と、アンモニア発生化合物を分解して発生するアンモニアとを反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持する方法である。均一沈殿法では、溶液中において、分子レベルでアンモニア発生化合物からアンモニアが生成されることで一様に反応が起こるために、均質な電子伝導性酸化物の沈殿物が生成し、導電補助材に担持される。
アンモニア発生化合物としては均一沈殿法を行う温度において分解し、アンモニアを発生する化合物であればよく、溶媒が水の場合には、100℃以下で分解する尿素や尿素誘導体が用いられる。
【0061】
なお、均一沈殿法における電子伝導性酸化物の前駆体や溶媒は、アンモニア共沈法と同様であるため、説明を省略する。なお、電子伝導性酸化物が酸化スズの場合の好適な前駆体として、塩化スズ(水和物含む)が挙げられる。
【0062】
均一沈殿法におけるアンモニア発生化合物を分解する方法としては、アンモニア発生化合物を含む溶液を、熱伝導を利用して直接加熱する方法(以下、均一沈殿法(加熱式)と記載する場合がある)でもよいが、より比表面積が大きい沈殿物(電子伝導性酸化物)を導電補助材に担持させることができる点で、以下に説明するマイクロ波加熱均一沈殿法が好適である。
【0063】
マイクロ波加熱均一沈殿法は、電子伝導性酸化物の前駆体と、アンモニア発生化合物を分解して発生するアンモニアとを反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持する均一沈殿法において、マイクロ波照射によって加熱を行って、当該溶液中のアンモニア発生化合物を分解する方法である。電子伝導性酸化物が酸化スズを主体とする場合、マイクロ波加熱均一沈殿法では、粒径10nm以下(特には5nm以下)の粒状電子伝導性酸化物を製造することができる。また、製造条件によっては生成する電子伝導性酸化物を薄膜状とすることができ、薄膜状の電子伝導性酸化物が導電補助材の一部または全部を被覆するように担持された構造を製造することができる。
【0064】
マイクロ波加熱均一沈殿法では、アンモニア共沈法よりも表面積が大きく、粒径(薄膜の場合は膜厚)の小さい電子伝導性酸化物を得ることができることに利点の一つがある。そのため、表面積が大きいため、多量の電極触媒粒子を担持でき、かつ、粒径(薄膜の場合は膜厚)の小さいため、電子伝導性酸化物に起因する電気抵抗を低減できる。
実施例で後述するように電子伝導性酸化物が酸化スズの場合には、BET比表面積が70m
2/g以上、好適には100m
2/g以上、より好ましくは150m
2/g以上とすることができる。
【0065】
マイクロ波加熱均一沈殿法においても、電子伝導性酸化物を担持したのちに熱処理を行うこともできる。熱処理を行う場合の条件はアンモニア共沈法と同様の条件である。
【0066】
また、マイクロ波加熱均一沈殿法は、マイクロ波照射によって、溶液中での導電補助材の分散性を高めることができる点でも好適である。
【0067】
溶媒としては電子伝導性酸化物の前駆体を溶解できる溶媒であればよく、例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。
【0068】
マイクロ波加熱均一沈殿法の例を、電子伝導性酸化物が酸化スズである場合で具体的に説明すると、例えば、塩化スズ(SnCl
4・5H
2O)等の酸化スズ前駆体と、アンモニア発生化合物である尿素を含む溶液に導電補助材を添加し、マイクロ波照射した状態で目的の温度まで加熱し、その後所定の時間保持することによって、溶液中で尿素が分解されて発生するアンモニアによって酸化スズ前駆体から酸化スズ粒子が生成し、導電補助材に均一に分散担持される。
マイクロ波照射の強度は、溶液の量、アンモニア発生化合物の分解性や導電補助材の分散性等を考慮して適宜決定される。反応温度は、電子伝導性酸化物の種類、アンモニア発生化合物の分解性等の諸条件を考慮して決定されるが、均一な品質の電子伝導性酸化物が形成される点で90〜100℃が好ましい。
【0069】
「工程(2)」
工程(2)は、前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬し、前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を担持する工程である。表面がグラファイト構造である繊維状炭素や鎖状連結炭素粒子(特には繊維状炭素)には電極触媒前駆体ないしは電極触媒粒子は担持されにくく、大部分が電子伝導性酸化物に担持される。
【0070】
電極触媒前駆体は、<1.本発明の燃料電池用電極材料>における電極触媒粒子において説明した電極触媒の前駆体であり、工程(2)における溶液中、あるいは工程(3)において還元され、0価の電極触媒金属となるものであればよい。
電極触媒粒子が白金(Pt)である場合で電極触媒前駆体を具体的に例示すると、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金等のハロゲン化白金;クロロ白金酸、テトラクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム等の白金の無機酸塩;白金アセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金、シアン化白金等の白金の有機酸塩などが挙げられる。電極触媒粒子がPt以外の金属である場合には、それに対応する前駆体を使用すればよい。
【0071】
電極触媒前駆体又は電極触媒粒子の担持方法としては公知の金属担持方法を採用することができる。
工程(2)において、電極触媒前駆体から電極触媒微粒子の形成と、電子伝導性酸化物への担持を行う方法は特に制限されないが、担持方法によっては、電極金属粒子の粒径や分散性の点で、本発明の目的を達成することができない場合がある。
高分散で粒径の小さい電極触媒粒子を得ることが可能な好適な方法として、以下に説明する貴金属アセチルアセトナートを使用する貴金属アセチルアセトナート法と、貴金属コロイドを使用するコロイド法が挙げられる。
【0072】
電極触媒前駆体に貴金属アセチルアセトナートを使用する方法(貴金属アセチルアセトナート法)は、電極触媒前駆体である貴金属アセチルアセトナートを電子伝導性酸化物への担持した後に、電極触媒前駆体を電極触媒粒子へ直接的に変換する方法である。この方法では、貴金属前駆体に残留不純物を含まないため、触媒活性の向上が見込まれる。
【0073】
また、アセチルアセトナート法では、貴金属アセチルアセトナートをジクロロメタンなどの適当な溶媒に溶解させた溶液に電子伝導性酸化物を担持した導電補助材を分散し、それを撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、電極触媒前駆体の担持が行うことができるため、塩素や硫黄といった不純物が混入することを回避でき、ナノサイズの粒径分布の揃った電極触媒粒子を高分散に担持することができる。また、溶液中に強い酸化剤や還元剤を用いることがないため、電子伝導性酸化物や炭素系の導電補助材が劣化することを回避できるという利点がある。
【0074】
貴金属アセチルアセトナートとしては、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属のアセチルアセトナートが挙げられ、これらを1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、貴金属アセチルアセトナートを分散できる有機溶媒であればよく、代表例としては、ジクロロメタンが挙げられる。
【0075】
貴金属アセチルアセトナート法による電極触媒微粒子の担持方法を提示すると、電子伝導性酸化物が担持された導電補助材と貴金属アセチルアセトナートとを所定の容器に入れ、氷冷しながら、超音波攪拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで攪拌する方法が挙げられる。
【0076】
なお、貴金属アセチルアセトナート法は有機溶媒を使用するため、疎水性の導電補助材との親和性が高く、後述する水溶媒を使用するコロイド法と比較して、電子伝導性酸化物への電極触媒粒子の担持選択性が若干劣るが、高分散な電極触媒粒子を容易に担持できる点で有用である。また、電子伝導性酸化物による導電補助材の被覆が比較的大きい場合(例えば、被覆率70%以上)であれば、アセチルアセトナート法を採用しても、実質的に電子伝導性酸化物の表面の表面に選択的に電極触媒粒子を担持可能である。
【0077】
一方、コロイド法は、貴金属アセチルアセトナート法では必須の有機溶媒を使用せずに、水溶媒を使用して、粒径分布が小さい電極触媒粒子を得ることができる方法である。コロイド法は溶媒に水を使用できる点で有機溶媒を必須とする担持方法と比較して有利である。コロイド法では、溶媒に水を使用しているため、生成する電極触媒粒子が、疎水性である表面がグラファイトの炭素材料へは特に担持されづらいため、電子伝導性酸化物の表面に選択的に担持されやすい。
例えば、電子伝導性酸化物として酸化スズを選択し、マイクロ波加熱均一沈殿法によって高表面積の電子伝導性酸化物の形成した場合において、コロイド法を採用することにより、電子伝導性酸化物の表面に高分散な電極触媒に選択的に担持できる。
【0078】
コロイド法について以下に説明する。コロイド法は、電極触媒前駆体のコロイド(特に貴金属コロイド)を含む溶液に前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を分散し、電極触媒の前駆体コロイドを還元して前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子として担持する方法である。コロイド法では界面活性剤、有機溶媒を用いることなく、ナノサイズの粒径分布の揃った電極金属粒子を生成できる。
【0079】
コロイド法の具体的方法をあげると、電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材に、貴金属コロイドを含む溶液に分散し、貴金属コロイドを還元して前記電子伝導性酸化物に貴金属微粒子として担持する。
なお、貴金属コロイドを含む溶液の作製する条件は特に制限されるものではなく、選択した貴金属前駆体、および還元剤に応じた適宜の条件とすればよい。
【0080】
溶媒としては電子伝導性酸化物の前駆体を溶解できる溶媒であればよく、例えば、水、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。溶媒として水を使用できることはコロイド法の利点の一つである。
【0081】
還元剤としては、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO
3)、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウム、過酸化水素、ヒドラジンなどが挙げられる。これらは、単独でも2種類以上混合して使用してもよい。さらに、ある還元剤で還元を行った後に、別の還元剤によって還元を行ってもよい。このように液相での多段階の還元処理を行うことで、高分散な貴金属微粒子を担体上に担持することができ、その好適な具体例として、還元剤をNaHSO
3、過酸化水素の順番で使用する方法が挙げられる。
【0082】
溶液のpHはpH4〜6が特に好適である。このpH域で作製すると、貴金属コロイドが凝集することなく均一に分散したコロイド溶液を作製できる。好適な温度域は20〜100℃(特に好適には50〜70℃)である。また、長時間の還元剤と接触させると、形成される貴金属粒子の粒子径が増大することから、接触時間は通常、10分間〜2時間程度である。
【0083】
「工程(3)」
工程(3)は、前記電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を活性化する工程である。工程(2)において、電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体は、不定比の金属酸化物を含むことがあり、そのままでは活性が低いため、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、あるいは水素を含有する還元性雰囲気中で熱処理することで電極触媒となる金属の有する電気化学触媒作用を活性化する。
【0084】
熱処理条件は、電子伝導性酸化物や、電極触媒となる金属や前駆体の種類にもよって、適宜選択される。例えば、酸化スズ等の還元性雰囲気では不安定な電子伝導性酸化物の場合には、電極触媒がPtやPt合金の場合、通常、180〜400℃、好適には200〜250℃である。温度が低すぎると電極触媒となる金属の活性化が不十分となり、温度が高すぎると電極触媒粒子が凝集し、有効反応表面積が小さくなりすぎる問題がある。雰囲気には必要に応じて水蒸気を加えてもよい。
【0085】
また、TiO
2等の水素を含有する還元性雰囲気中でも安定な電子伝導性酸化物の場合には、水素存在の存在下で熱処理を行うことができる。水素は窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性気体で0.1〜50%(好適には1〜10%)に希釈されて用いられる。熱処理温度は電極触媒がPtやPt合金の場合、通常、180〜400℃、好適には200〜250℃である。温度が低すぎると電極触媒となる金属の活性化が不十分となり、温度が高すぎると電極触媒粒子が凝集し、有効反応表面積が小さくなりすぎる問題がある。雰囲気には必要に応じて水蒸気を加えてもよい。
【0086】
<3.燃料電池用電極>
本発明の燃料電池用電極は、上述の燃料電池用電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含み、前記導電補助材が互いに接触して導電パスを形成していることを特徴とする。
【0087】
このような構成であれば、上述した本発明の電極材料を構成する導電補助材が、長径で優れた電子伝導性を有する炭素材料である繊維状炭素や鎖状連結炭素粒子であるため、燃料電池用電極全体として、電子伝導性に優れる。さらに、長径の導電補助材の隙間は、少なくとも通気性を発現する程度に空隙を作ることができるため、水素、酸素、水蒸気等の電極反応に関与するガスの拡散性に優れると共に、十分なプロトン伝導性電解質材料を十分に保持できる。そのため、当該電極材料で形成された燃料電池用電極は、優れた電極性能を示すと共に、サイクル耐久性が高く、長期間発電することができる。
【0088】
以下に、本発明の燃料電池用電極材料を用いて形成した燃料電池用電極について説明する。具体的には、上述の燃料電池用電極材料をPEFCにおける電極として用いたケースについて説明する。
【0089】
この燃料電池用電極は、上述の燃料電池用電極材料のみから構成されていてもよいが、通常、燃料電池の電解質に使用されるプロトン伝導性電解質材料(以下、「プロトン伝導性電解質材料」、または単に「電解質材料」と記載する場合がある。)を含む。燃料電池用電極材料と共に燃料電池の電極に含まれる電解質材料は、燃料電池用電解質膜に使用される電解質材料と同じであってもよく、異なってもよい。燃料電池用電極と電解質膜の密着性を向上させる観点から、同じものを用いることが好ましい。
【0090】
PEFCの電極と電解質膜とに使用される電解質材料としては、プロトン伝導性電解質材料が挙げられる。このプロトン伝導性電解質材料は、ポリマー骨格の全部または一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質材料と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質材料に大別され、この両者を電解質材料として使用することができる。
【0091】
フッ素系電解質材料としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などが好適な一例として挙げられる。
【0092】
炭化水素系電解質材料としては、具体的には、ポリスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールスルホン酸、ポリベンズイミダゾールホスホン酸、ポリイミドスルホン酸等のポリマーや、これらにアルキル基等の側鎖を有するポリマーが好適な一例として挙げられる。
【0093】
上記燃料電池用電極材料と燃料電池用電極材料と混合する電解質材料との質量比は、これらの材料を用いて形成される電極内の良好なプロトン伝導性を付与し、かつ電極内のガス拡散及び水蒸気の排出をスムーズに行えるように適宜決定すればよい。ただし、燃料電池用電極材料に混合する電解質材料の量が多すぎるとプロトン伝導性はよくなるが、ガスの拡散性は低下する。逆に混合する電解質材料の量が少なすぎるとガス拡散性はよくなるが、プロトン伝導性は低下する。そのため、上記燃料電池用電極材料に対する電解質材料の質量比率は、10〜50質量%が好適な範囲である。この質量比率が10質量%より小さい場合は、プロトン伝導性を有する材料の連続性が悪くなり、燃料電池用電極として十分なプロトン伝導性が確保できない。逆に50質量%より大きい場合は燃料電池用電極材料の連続性が悪くなり、燃料電池用電極として十分な電子伝導性を有することができなくなる場合がある。さらには電極内部でのガス(酸素、水素、水蒸気)の拡散性が低下する場合がある。
【0094】
本発明の燃料電池用電極は、上述の燃料電池用電極材料やプロトン伝導性材料以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、上述の燃料電池用電極材料に含まれる導電補助材以外の導電補助材(以下、「他の導電性補助材」と記載する。)を含んでいてもよい。他の導電補助材を含むことにより、燃料電池用電極材料をつなぐ導電パスが増加し、電極全体としての導電性が向上する場合がある。
他の導電補助材としては、上述した導電補助材である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子でもよいし(但し、電子伝導性酸化物や電極触媒粒子は担持されていないもの)、カーボンブラック、活性炭など通常の粒子状炭素でもよい。
【0095】
なお、本発明の燃料電池用電極材料を含む燃料電池用電極として、PEFC用電極について説明したが、PEFC以外にもアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などなどの各種燃料電池における電極として用いることができる。また、PEFCと同様な高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
なお、本発明の燃料電池用電極材料を含む燃料電池用電極は、酸素の還元、水素の酸化に対する優れた電気化学的触媒活性を有するため、カソード及びアノードとして使用することができる。特に、上記(反応2)で示される酸素の還元電気化学的触媒活性に優れ、燃料電池の運転条件で担体である導電性材料の電気化学的酸化分解が起こらないことから、特にカソードとして好適に使用することができる。
【0096】
また、本発明の燃料電池用電極は、PEFC以外にもアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などの各種燃料電池における電極として用いることができる。また、PEFCと同様な固体高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
【0097】
<4.膜電極接合体(MEA)>
本発明の膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、上記本発明の燃料電池用電極であることを特徴とする。
【0098】
本発明の好適な実施形態として、電子伝導性酸化物に酸化スズを主体とする酸化物を用いた電極材料を含む燃料電池用電極を本発明の燃料電池用電極をカソードに使用した膜電極接合体について説明する。
図2は本発明の実施形態に係る膜電極接合体の断面構造を模式的に示したものである。
図2に示すように膜電極接合体10は、カソード4及びアノード5が固体高分子電解質膜6に対面して配置された構造を有する。
【0099】
カソード4は、電極触媒層4aとガス拡散層4bで構成される。
電極触媒層4aは、上述の通り、本発明の燃料電池用電極(電子伝導性酸化物:酸化スズを主体とする酸化物)を用いているため、詳細な説明は省略する。なお、アノード5として本発明の燃料電池用電極を使用した場合には、カソード4としてその他の公知のカソードも使用できる。
【0100】
ガス拡散層4bとしては従来公知のガス拡散層を使用することができる。例えば、従来PEFCのガス拡散層として使用されている、100nm〜90μm程度の細孔径分布を有する導電性の炭素系シート状部材が挙げられ、好適には撥水処理が施されたカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン不織布等を用いることができる。また、ステンレススチール等の炭素系材料以外のシート状部材でもよい。このようなガス拡散層4bの厚みは特に制限はないが、通常、50μm〜1mm程度である。また、ガス拡散層4bは、その片面に平均粒径10〜100nm程度の炭素微粒子の集合体及び撥水剤からなるマイクロポーラス層を有していてもよい。
【0101】
アノード5は、電極触媒層5aとガス拡散層5bで構成される。アノード5としては、本発明の燃料電池用電極のほか、その他の公知のアノードも同様に使用できる。例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、グラッシーカーボンなどの炭素系材料からなる導電性担体の表面上に、触媒である貴金属粒子を担持した電極材料と、燃料電池の電解質材料との分散液を塗布・乾燥して製造された電極触媒層5aを、ガス拡散層5b上に形成した電極が挙げられる。アノード5のガス拡散層5bは、カソード4で説明したガス拡散層4bと同様のものが使用できる。
【0102】
固体高分子電解質膜6としては、プロトン伝導性を有し、化学的安定性及び熱的安定性を有するものであれば公知のPEFC用電解質膜を用いればよい。なお、
図2では厚みを強調して図示しているが、電気抵抗を小さくするため固体高分子電解質膜6の厚みは通常0.05mm程度である。
【0103】
固体高分子電解質膜6を構成する電解質材料としては、フッ素系電解質材料、炭化水素系電解質材料が挙げられる。特にフッ素系電解質材料で形成されている電解質膜が、耐熱性、化学的安定性などに優れているため好ましい。具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などが好適例として挙げられる。
炭化水素系高分子電解質材料としては、例えば、ポリスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールスルホン酸、ポリベンズイミダゾールホスホン酸、ポリイミドスルホン酸等のポリマーや、これらにアルキル基等の側鎖を有するポリマー等が挙げられる。また、電解質膜として、無機系プロトン伝導体であるリン酸塩、硫酸塩などからなる電解質膜を使用することもできる。
【0104】
以上、図面を参照して本発明のMEAの実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上記実施の形態ではカソードのみに本発明の燃料電池用電極を採用しているが、アノードにも本発明の燃料電池用電極を用いてもよい。好適な一例として、電子伝導性酸化物に酸化チタンを主体とする酸化物を用いた電極材料を含む燃料電池用電極をアノードとして用いることが挙げられる。
【0105】
<5.固体高分子形燃料電池>
本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)は、本発明の膜電極接合体を備えてなり、通常、膜電極接合体をガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。
【0106】
図3は本発明の固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。
図3に示すように、固体高分子形燃料電池20においてアノード5には水素が供給され、(反応1)2H
2 → 4H
++4e
-によって、生成したプロトン(H
+)は固体高分子電解質膜6を介してカソード4に供給され、また、生成した電子は外部回路21を介してカソードへ供給され、(反応2)O
2+4H
++4e
-→2H
2Oによって、酸素と反応して水を生成する。このアノードとカソードの電気化学反応によって両電極間に電位差を発生させる。本発明の固体高分子形燃料電池において、本発明の膜電極接合体以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、詳細な説明を省略する。
実際には、本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【実施例】
【0107】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
実施例の燃料電池用電極材料として、製造方法あるいは導電性補助材の種類の異なる以下の実施例1〜3の燃料電池用電極材料を製造した。
【0109】
<実施例1>
導電性補助材として、以下の物性を有する繊維状炭素(昭和電工株式会社製、気相法炭素繊維、VGCF−H(登録商標))を使用した。
繊維径:150nm
真密度:2.1g/cm
3
比表面積:11.4m
2/g
熱伝導率:1200W/(m・K)
導電率:1×10
-4Ωcm
【0110】
工程(1)(<実施例1>)
実施例1においては、アンモニア共沈法で酸化スズ粒子を製造した。
まず、上記繊維状炭素(0.2519g)に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌し、繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl
2・2H
2O)(0.7698g)を入れ、ホットスターラーで50℃に保持して、攪拌しながらアンモニア水(NH
328重量%)をビュレットで滴下した(5cc/分)。アンモニア水の滴下後、1時間攪拌を続けたのちに、分散液の濾過、洗浄を行い、100℃で10時間乾燥させた。乾燥後大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、実施例1の酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を得た。なお、本明細書(実施例及び図面の説明)において「酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素」を、燃料電池材料用電極材料(電極触媒未担持)と記載する場合がある。
得られたサンプルを走査型電子顕微鏡(FE−SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ、S−5200)で観察したFE−SEM像を
図4(a)〜(c)に示す。また、得られたサンプルをX線回折法にて評価したところ、Snのシグナルは確認されず、SnO
2のシグナルのみが確認された。
また、熱分析装置(株式会社リガク製、ThermoPlus TG8120)を用いて、酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を、大気雰囲気下で800℃まで昇温し、昇温前後の質量差を重量減少分を燃焼した繊維状炭素の重量として、酸化スズ粒子の担持率を求めたところ、47.47重量%であった。
【0111】
工程(2)
工程(1)で得られた酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素に、白金アセチルアセトナート法により、電極触媒粒子であるPt触媒粒子を担持した。Pt前駆体(Pt(C
5H
7O
2)
2)の量は、Ptが20wt%になるようにした。ナスフラスコに、酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素およびPt前駆体を加え、さらにジクロロメタン(20mL)を加え溶解させた。次いで、ナスフラスコを氷冷しながら、超音波攪拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで攪拌して、薄黄色の粉末を得た。
【0112】
工程(3)
工程(2)で得られた粉末を、N
2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間還元処理を施すことで、実施例1の燃料電池用電極材料を得た。
【0113】
<実施例2>
工程(1)(<実施例2>)
実施例2においては、均一沈殿法(加熱式)で酸化スズ粒子を製造した。
導電性補助材として実施例1と同じ繊維状炭素(VGCF)を使用し、当該繊維状炭素(0.5008g)に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌して繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl
2・2H
2O)(0.2912g)及び尿素(5.0672g)を入れ、ホットスターラーで100℃に保持して30分間攪拌し、さらにホットスターラーのヒーターをオフしたのちに30分間攪拌した。次いで、分散液の濾過、洗浄を行い、100℃で10時間乾燥させた。乾燥後大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、実施例2の酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を得た。得られたサンプルのFE−SEM像を
図5(a)〜(c)に示す。また、得られたサンプルをX線回折法にて評価したところ、Snのシグナルは確認されず、SnO
2のシグナルのみが確認された。
【0114】
工程(2)及び工程(3)
使用する酸化スズ粒子を担持した導電性補助材を、上記実施例2の酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素に変更した以外は、実施例1の工程(2)、(3)と同様にして、実施例2の燃料電池用電極材料を得た。
【0115】
(実施例3)
導電性補助材として、以下の物性を有する鎖状連結炭素粒子(電気化学工業株式会社製、デンカブラック、HS−100(登録商標))を使用した。
一次粒子径:48nm
比表面積:39m
2/g
(鎖平均長さ/粒子平均粒径):約12
導電率:0.14Ωcm
【0116】
工程(1)(<実施例3>)
工程(1)として、導電性補助材として繊維状炭素に代えて、上記鎖状連結炭素粒子を使用した以外は、上記工程(1)(<実施例1>)と同様にして、酸化スズ粒子を担持した鎖状連結炭素粒子を得た。
【0117】
工程(2)及び工程(3)
使用する酸化スズ粒子を担持した導電性補助材を、上記の工程(1)(<実施例3>)
で得られた酸化スズ粒子を担持した鎖状連結炭素粒子に変更した以外は、実施例1の工程(2)、(3)と同様にして、実施例3の燃料電池用電極材料を得た。
【0118】
[評価1]微細構造観察
実施例1,2(導電性補助材:繊維状炭素)
アンモニア共沈法で製造した実施例1の燃料電池用電極材料のFE-SEM像を
図4(a)〜(c)、均一沈殿法(加熱式)で製造した実施例2の燃料電池用電極材料のFE-SEM像を
図5(a)〜(c)に示す。なお、
図4(a)〜(c)及び
図5(a)〜(c)は工程(1)における繊維状炭素に酸化スズ粒子担持した後のサンプルを観察したものであり、Pt触媒粒子は担持されていない。
【0119】
図4(a)及び
図5(a)に示されるように、導電補助材である繊維状炭素が互いに接触していることがわかる。
また、
図4(b)、(c)に示されるように、アンモニア共沈法で製造した実施例1の燃料電池用電極材料では、繊維状炭素の表面に粒径10〜20nm程度の酸化スズ粒子が担持されていた。一方、
図5(b)、(c)均一沈殿法(加熱式)で製造した実施例2の燃料電池用電極材料では、繊維状炭素の表面に酸化スズ粒子が担持されているものの、凝集粒子となっている部分が確認された。このようにアンモニア共沈法及び均一沈殿法(加熱式)のいずれの方法でも、導電性補助材である繊維状炭素に対して酸化スズ粒子を担持できることが確認された。
【0120】
工程(3)におけるPt触媒粒子担持後の実施例1の燃料電池用電極材料の微細構造観察を行った。
図6(a)は、繊維状炭素の酸化スズ粒子担持部分のFE−SEM像、
図6(b)は繊維状炭素の酸化スズ粒子が担持されていない部分の繊維状炭素のFE−SEM像である。
図6(a)に示されるように繊維状炭素に担持された酸化スズ粒子の表面には微粒子が担持されている。なお、酸化スズ粒子のほとんどが粒径40nm以下であり、粒子20nm以下の粒子も多数認められた。担持された酸化スズ粒子に対し、高分解STEM観察(
図7(a),(b))及びEDS分析を行ったところ、前記微粒子がPt触媒粒子であることが確認された。観察されたPt触媒粒子の粒径は、すべて5nm以下であった。
方、
図6(b)に示されるように(酸化スズが担持されていない)繊維状炭素の表面には、Pt触媒粒子はほとんど観察されなかった。
このことから、上述の実施例1の製造方法により、Pt触媒粒子は酸化スズ粒子に選択的に分散担持されていることが分かった。
【0121】
実施例3(導電性補助材:鎖状連結炭素粒子)
図8(a),(b)に実施例3の燃料電池用電極材料のFE−SEM像を示す。実施例3の燃料電池用電極材料では、鎖状連結炭素粒子の表面にPt触媒粒子が担持された酸化スズ粒子が担持されていることが確認された。また、Pt触媒粒子の大部分は酸化スズ粒子に担持されているが、実施例1と異なり、酸化スズが担持されていない鎖状連結炭素粒子の表面にも、一部Pt触媒粒子が担持されていることが確認された。
【0122】
[評価2]電位サイクル耐久試験(ハーフセル)
燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)にて、実施例1及び実施例3の燃料電池材料の燃料電池材料の評価を行った。この評価方法は、PEFCの起動停止を模擬した電位サイクルを負荷することによって電極材料の劣化挙動を評価する方法である。評価の方法の詳細は後述する。なお、PEFCの起動停止にはカソード電位は標準水素電極基準で1.0Vから1.5Vまで三角波に近い形で変動するとされ、電位サイクル耐久試験ではこれを模擬した電位サイクル(1.0V〜1.5V、1サイクル:2秒)を負荷することによって測定が行われる。本評価ではこの操作を繰り返し、燃料電池自動車(FCV)で10年間以上の使用に相当する60,000サイクルまで実施した。
【0123】
電位サイクル耐久試験の評価用の電極として、直径5mmのGC(グラッシーカーボン、北斗電工(株)、HR2−D1−GC5)上に、実施例1,3及び比較例1〜3のいずれかの燃料電池用電極材料と2−プロパノール、5%ナフィオン分散液をFCCJの評価プロトコル(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)に則った割合で混合したものを、白金担持量が17.3μg/cm
2になるように塗布し電極を使用した。
【0124】
電位サイクル耐久試験後の電極材料の劣化挙動の評価は、電位サイクル数による電気化学的表面積(ECSA)の変化を評価することで行った。ECSAは、をサイクリックボルタンメトリー(CV)によって求めることができる。なお、ECSAは、担持されたPt触媒粒子の有効表面積に相当する。
【0125】
CVの測定条件は以下の通りである。電気化学的表面積(Pt有効表面積)は、表面のPt原子一つに水素原子が一つ吸着するとの仮定に基づき、CVから求めた水素吸着量から算出した。なお、1原子のPtに付き 1原子のHが吸着すると仮定すると210μC/cm
2の電気量となる。
測定:三電極式セル(作用極:燃料電池用電極材料/GC,対極:Pt,参照極:Ag/AgCl)
電解液:0.1M HClO
4(pH:約1)
測定電位範囲:0.05〜1.2V(標準水素電極基準)
走査速度 :50 mV/s
水素吸着量:0.05〜0.4Vの水素吸着を示すピーク面積から算出
Pt有効表面積(ECSA):下記式より算出
ECSA=(水素吸着量)[μC] / 210[μC/cm
2]
【0126】
なお、電位サイクル耐久試験は、以下の比較例1〜3の燃料電池用電極材料に対してもおこなった。比較例1,2の燃料電池用電極材料は、従来の製造方法によるPt担持酸化スズ粒子を上記特許文献3で開示された方法に準じる方法で製造したものであり、また、比較例3の燃料電池用電極材料は市販の白金微粒子担持炭素粒子(Pt/C)である。
評価条件は、上記実施例1,3と同様である。
【0127】
<比較例1>
塩化スズ水和物(SnCl
2・2H
2O)(2.98g)を純水(4.5mL)に溶解させ、6%に希釈したアンモニア水に滴下した。滴下後1時間、攪拌してから、ろ過、洗浄、乾燥(100℃、24時間)後、大気雰囲気下、600℃、2時間熱処理を行うことで、酸化スズ粒子を作製した。得られたSnO
2粒子の平均粒径(二次粒子)は約1.0μmであった。
酸化スズ粒子へのPt担持は白金アセチルアセトナート法により行った。Pt前駆体(Pt(C
5H
7O
2)
2)の量は、Ptが20重量%になるようにし、ジクロロメタン(CH
2Cl
2)中で担持した。得られたスラリーを乾燥後、N
2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間還元処理を施すことで、比較例1の燃料電池用電極材料を得た。
【0128】
<比較例2>
比較例1の燃料電池用電極材料の作製における酸化スズ粒子の作製の際に、塩化ニオブ(NbCl
5)を、Sn:Nb=98:2(mol比)の割合で添加することで作製したニオブドープ酸化スズ粒子を使用した以外は比較例1と同様にして、比較例2の燃料電池用電極材料を得た。
【0129】
<比較例3>
比較例3の燃料電池用電極材料として、炭素担体(VULCAN XC-72 カーボン)にPt触媒粒子を担持したPt/Cを使用した。なお、比較例3の燃料電池用電極材料のPt担持量は、実施例1,3及び比較例1,2と同様に20重量%である。
【0130】
実施例1、実施例3及び比較例1〜3のCVから算出されるECSAの変化を評価した結果を
図9に示す。
導電補助材として繊維状炭素を使用した実施例1及び鎖状連結炭素粒子を使用した実施例3は、導電補助材を使用していない比較例1,2と比較して大きなECSAを示した。このことから、Pt触媒粒子を分散担持した酸化スズ粒子を導電補助材に担持した実施例1、実施例3の燃料電池用電極材料は、従来のPt/SnO
2系燃料電池用電極材料と比較して、高活性であることが示唆された。
また、実施例1及び実施例3と、炭素担体にPtを担持した比較例3とを比較すると、ECSAの初期値は、比較例3と比較して小さかったものの、サイクル回数が増加すると比較例3が著しくECSAが低減するのに対し、実施例1及び実施例3ではECSAの低下は緩やかであり、特に実施例1はその傾向が顕著であった。
今回負荷した電位サイクルは担体腐食が起きる1.0V〜1.5Vであるので,炭素担体にPtを担持した比較例3では担体腐食によりPtが脱離・凝集を起こし大幅なECSAの低下を引き起こしたと考えられる。一方で実施例1及び実施例3では、大部分のPtが担体腐食が起こらない酸化スズ微粒子に担持されているため、ECSAの減少率が小さくなっていると考えられる。
【0131】
[評価3]電気化学的評価(単セル、初期性能評価)
[評価3−1]実施例1(導電補助材:繊維状炭素)
導電補助材に繊維状炭素(VGCF)を使用した実施例1の燃料電池用電極材料から形成されるカソードを有するMEAを用いて、IV特性の評価を行った。また、比較のため、カソードに市販の46wt%Pt/Cからから形成されるカソードを有するMEA(以下、比較例4と称す。)を作成し、同様にIV特性の評価を行った。
【0132】
(実施例1)
まず、電解質膜として、ナフィオン膜(厚み:50μm)に、46wt%Pt/C(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E)を、ナフィオン溶液を含む所定の有機溶媒に分散させて、アノード形成用の分散溶液を調合した。得られた分散溶液をナフィオン膜上にスプレー印刷して、所定の厚みのアノード(電極触媒層)をナフィオン膜上に作製した。アノード(電極触媒層)の上には、ガス拡散層として撥水性カーボンペーパー(東レ社製,型番:EC−TP1−060T)を配置した。なお、アノードの形成において、Pt量が0.3mg/cm
2になるように調整した。
次いで、実施例1の燃料電池用電極材料を使用した以外はアノードと同様の方法で、カソード形成用の分散溶液を調合した。得られた分散液を、アノードを形成したナフィオン膜の反対面に、スプレー印刷して、ナフィオン膜上に所定の厚みのカソード(電極触媒層)を作製した。アノード、カソードそれぞれの上にカーボンペーパーを配置して、所定の条件(0.3kN、130℃)で圧着して、実施例1のMEAを得た。なお、実施例1のMEAのカソードにおけるPt量は0.5mg/cm
2である。
【0133】
(比較例4)
市販の46wt%Pt/C(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E)を、比較例4の燃料電池用電極材料として使用し、該燃料電池用電極材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例4のMEAを得た。比較例4のMEAのカソード、アノードにおけるPt量はともに0.3mg/cm
2である。
【0134】
実施例1、比較例4のMEAを組み込んだ単セル発電評価用治具(自作)を80℃に設定した恒温槽内に設置し、以下の条件でIV特性の評価を行った。その際、燃料電池評価装置(東陽テクニカ社製、型番:PE−8900K)およびポテンショ/ガルバノスタット(Solatron社製、型番:SI1287)を用いた。
図10にIV特性の結果を示す。
(アノード条件)
電極面積:0.5cm
2
供給ガス種 :100% H
2
ガス供給速度 :100mL/min
供給ガス加湿温度 :79℃(相対湿度:100%)
(カソード条件)
電極面積:0.5cm
2
供給ガス種 :Air
ガス供給速度 :100mL/min
供給ガス加湿温度 :60℃(相対湿度:42%)
【0135】
図10に示すように、実施例1の燃料電池用電極材料をカソードとして用いた実施例のMEAは、従来の炭素担体を使用した燃料電池用電極材料をカソードとして用いた比較例のMEAに匹敵する性能を示しており、特に電流密度600mA/cm
2を超えると実施例の方がより高いセル電圧を示した。
【0136】
IV特性を更に詳細に分析するために、カレントインタラプト法によりカソード過電圧をオーミック過電圧、非オーミック過電圧に分けて測定し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のセル評価プロトコルに従って非オーミック過電圧を分離して評価した結果を
図11に示す。なお、活性化過電圧は反応物質の活性化に消費されるエネルギーに相当し、濃度過電圧は、電極における反応物質および反応生成物の補給・除去が遅く、電極反応が阻害されることに起因する。
【0137】
図11に示されるように、実施例1は、比較例4と比べ、濃度過電圧の立ち上がりが緩やかであった。このことは、実施例1は繊維状炭素を使用しているため、電極内空隙が確保され、電極内での反応物質および反応生成物の補給・除去がスムーズに起こっていることが示唆される。そのため、IV特性においても,濃度過電圧の影響が顕著に現れる高電流密度域においても、電圧が急激に低下していないものと考えられる。
なお、活性化過電圧については、実施例1と比較例4とは同様の傾向であった。
【0138】
[評価3−2]実施例3(導電補助材:鎖状連結炭素粒子)
導電補助材に鎖状連結炭素粒子を使用した実施例3の燃料電池用電極材料から形成されるカソードを有するMEAを用いて、IV特性の評価を行った。MEAの製造方法及び評価方法は上記[評価3−1]と同様である。
図12に評価結果を示すように、実施例3は低電流密度領域では実施例1に匹敵する性能を示したが、400mA/cm
2を超えると、電圧低下が大きくなった。
【0139】
以下の評価で導電補助材として使用した繊維状炭素は、上記評価で使用した繊維状炭素(VGCF)を、3%水蒸気加湿N
2(N
2バブリング)で300℃、2時間熱処理を行って表面改質したものである。
【0140】
[評価4]サイクル耐久試験
実施例1、実施例3および比較例4の燃料電池用電極をカソードとして用いたMEAを用いて、燃料電池実用化推進審議会「固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案(平成23年度改訂版)」における「III−3−3 試験名:電位サイクル試験法1/2」(起動停止模擬電位サイクル)に準じる方法でサイクル耐久性試験評価を行った。
図13に起動停止模擬電位サイクルの説明図を示す。
まず、実施例1、実施例3および比較例4のMEAを使用して、上記評価3と同じ装置を使用して、初期IV特性を測定した。次いで、起動停止模擬電位サイクルとして、電位を1.0Vから1.5Vまで0.5V/secで走査させて、三角波で加速試験を行い、所定回数サイクル後、IV測定を行う。この操作を繰り返し、燃料電池自動車(FCV)で10年間の使用に相当する60,000サイクルまで実施した。結果を
図14に結果を示す。
【0141】
図14に示すように、カソードに市販のPt/Cを使用した比較例4では、2000サイクル程度で著しく電圧が低下した。この劣化要因として、カソード条件下における炭素担体の腐食と、炭素担体の腐食によるPt触媒粒子の脱離が考えられる。
これに対し、実施例1、実施例3では、60,000サイクルの発電が可能であった。特に実施例1では60,000サイクル後も相対セル電圧(サイクル初期電圧に対する電圧比)が0.95以上であった。上述の通り、導電補助材に繊維状炭素(VGCF)を使用した実施例1では、Pt触媒粒子は、カソード条件下で熱力学的に安定な電子伝導性酸化物(酸化スズ)に選択的に分散担持されており(
図6(a),(b)参照)、導電補助材の上にはほとんど存在しなかったため、炭素腐食によるPt触媒粒子の脱離が起こっていないと考えられる。
【0142】
一方、実施例3では20,000サイクルまでに全体の2/3の電圧手騎亜が起きており、その後の劣化は穏やかであった。
上述の通り、導電補助材に鎖状連結炭素粒子を使用した実施例3では、Pt触媒粒子は、電子伝導性酸化物(酸化スズ)に大部分が分散担持されているが、一部のPt触媒粒子は導電補助材にも存在するため(
図8(a),(b)参照)、サイクル初期には導電補助材の上のPt触媒粒子は炭素腐食により脱離し、その後電子伝導性酸化物(酸化スズ)に保持されたPt触媒粒子によって発電していることが示唆される。
この結果から、導電補助材として繊維状炭素(VGCF)がより好適であると判断した。
【0143】
[評価5]燃料電池用電極材料の製造方法の検討(酸化スズの担持方法)
[評価5−1]溶媒の影響(アンモニア共沈法)
<実施例1A>
上記<実施例1>の工程(1)において、塩化スズ水和物を溶解する溶媒を、純水から無水エタノールに変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例1Aの燃料電池用電極材料(電極触媒粒子未担持)を得た。表1に実施例1、実施例1AにおけるSnO
2担持率を示す。なお、SnO
2回収率は、(SnO
2実担持率)/(SnO
2理論担持率)である。表1に示されるように溶媒を無水エタノールにすることでSnO
2回収率が大幅に向上した。
【0144】
【表1】
【0145】
[評価5−2]酸化スズの調整方法の比較(マイクロ波加熱均一沈殿法)
<実施例2A,実施例2B>
実施例2A,2Bにおいては、マイクロ波加熱均一沈殿法で酸化スズ粒子を製造した。
導電性補助材として上述の実施例1と同じ繊維状炭素(VGCF)を使用し、当該繊維状炭素に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌して繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl
2・2H
2O)及び尿素を入れて十分に混合した。塩化スズ水和物の量は、酸化スズに変化した際に30wt%となる仕込み量とした。
マイクロ波装置(μReacter EX, 四国計測工業株式会社)を使用し200Wのマイクロ波を照射して、昇温速度20℃/分で90℃まで昇温した。90℃到達後、出力を50Wとして同温度で10分間保持した。次いで、分散液の濾過、洗浄を行い、100℃で10時間乾燥させることで、実施例2Aの燃料電池用電極材料(電極触媒粒子未担持、as-prepared)を得た。次いで、大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、実施例2Bの燃料電池用電極材料(電極触媒粒子未担持、after heat treatment)を得た。実施例2A,実施例2B及び比較用の実施例1AのXRDプロファイルを
図15に示す。また、実施例2A,実施例2BのFE−SEM像を
図16(a),(b)に示す。
【0146】
図15に示されるようにマイクロ波加熱均一沈殿法で製造した実施例2A,実施例2Bは、アンモニア共沈法で製造した実施例1Aと比較してSnO
2のピークがブロードになっている。このことから、それぞれの方法でSnO
2が形成され、結晶子の大きさはマイクロ波加熱均一沈殿法の方が小さいことが認められる。また、
図16(a)に示すように熱処理なしの実施例2A(as-prepared)は、明確にわからない程度のSnO
2粒子サイズ(5nm以下)であり、薄膜状でVGCF(導電補助材)に担持されていた。一方、熱処理ありの実施例2BではSnO
2粒子サイズ20〜50nm程度になっており、粒子状でVGCF(導電補助材)に担持されていた。
【0147】
(BET比表面積の比較)
アンモニア共沈法、均一沈殿法(ホットスターラー加熱)、マイクロ波加熱均一沈殿法でSnO
2の担持を行った燃料電池用電極材料のBET比表面積を評価した。アンモニア共沈法、マイクロ波加熱均一沈殿法は上述の実施例1A、実施例2Aに準じる方法で製造し、均一沈殿法(ホットスターラー加熱)のサンプルは上記実施例2に準じる方法で作製し、加熱には同じホットスターラーを使用した。
図17にそれぞれ製造方法でのSnO
2の担持量30wt%、50wt%でのBET比表面積の評価結果を示す。
図17に示されるように、BET比表面積が大きい順に、マイクロ波加熱均一沈殿法、均一沈殿法(ホットスターラー加熱)、アンモニア共沈法であった。また、アンモニア共沈法では担持率が増加してもBET比表面積がほとんど変化しなかったのに対し、均一沈殿法(特にマイクロ波加熱均一沈殿法)では担持率が増加すると表面積が増加した。
【0148】
図18にマイクロ波均一沈殿法でのSnO
2担持量(30〜90wt%)とBET比表面積の関係を評価した結果を示す。SnO
2の担持量が増加するにつれ、BET比表面積が増大し、BET比表面積は、SnO
2担持量50wt%以上では100m
2/g以上、70wt%以上ではBET比表面積が150m
2/g以上であった。このようにマイクロ波加熱均一沈殿法では、電極触媒粒子の担持に適した表面積が大きいSnO
2を繊維状炭素(VGCF)に担持できることができることから、本発明に係る燃料電池用電極材料の製造方法に特に適する方法である。