特許第6598186号(P6598186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598186ePTFEフィルムの接着方法及びePTFEフィルム接合材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598186
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】ePTFEフィルムの接着方法及びePTFEフィルム接合材
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/02 20060101AFI20191021BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20191021BHJP
   C09J 161/04 20060101ALI20191021BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20191021BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20191021BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C09J5/02
   C09J201/00
   C09J161/04
   C09D5/00 D
   C09D129/04
   B32B27/30 D
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-13767(P2015-13767)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-138188(P2016-138188A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390015679
【氏名又は名称】ジャパンマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−102397(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092991(WO,A1)
【文献】 特開2012−204797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 − 201/10
B32B 1/00 − 43/00
C09D 1/00 − 10/00
C09D 101/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ePTFEフィルムに接合材を接合するePTFEフィルムの接着方法であって、
PVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを水中に分散させた表面処理液を前記ePTFEフィルムの表面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後に前記表面処理液を乾燥させる乾燥工程と、
前記ePTFEフィルムの表面処理液塗布面に接合材を接着剤で接着する接着工程とを備えることを特徴とするePTFEフィルムの接着方法。
【請求項2】
前記表面処理液中のPVAの濃度が3〜20質量%であり、過硫酸カリウムの濃度が0.5〜15質量%であり、Al(OH)(ベーマイトゾル)の濃度が0.5〜15質量%であることを特徴とする請求項1記載のePTFEフィルムの接着方法。
【請求項3】
前記接合材が次の(1)(2)(3)であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のePTFEフィルムの接着方法。
(1)ステンレス、アルミニウム、鉄、銅、合金の金属箔や金属板
(2)PET、ePTFEフィルム、ナイロン、ゴム(ブチル、NBR、SBR)、ケブ
ラー糸をベースにした織布、木綿布、絹布の有機材
(3)セラミックペーパー、ガラス繊維布、炭化繊維布、炭素繊維布の無機材
【請求項4】
前記接着剤がフェノール樹脂系接着剤であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の
いずれかに記載のePTFEフィルムの接着方法。
【請求項5】
PVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを水中に分散させた表面処理液をePTFEフィルムの表面に塗布して乾燥させた易接着層と、接着剤とをePTFEフィルムと接合材との間に有することを特徴とするePTFEフィルム接合材。
【請求項6】
ePTFEフィルムの表面に塗布し、ePTFEフィルムと接合材との接着を容易にするための表面処理液であって、
PVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを水中に分散させたことを特徴とする表面処理液。
【請求項7】
前記表面処理液中のPVAの濃度が3〜20質量%であり、過硫酸カリウムの濃度が0.5〜15質量%であり、Al(OH)(ベーマイトゾル)の濃度が0.5〜15質量%であることを特徴とする請求項6記載の表面処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はePTFEフィルムの接着方法及びePTFEフィルム接合材に関する。
【背景技術】
【0002】
不活性で、薄くて軽量、かつ耐久性に優れたePTFE(延伸性PTFE)フィルムは、グランドパッキン、ガスケットや建築用ファブリック等の種々の分野で用いられている(例えば、特許文献1参照)。このePTFEフィルムは非接着性であるために他の材料と接着することができないが、他の異種類の材料と接着することができれば、非常に多くの分野で活用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−244787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、他の材料と容易に接着するePTFEフィルムの接着方法及び他の材料と接着したePTFEフィルム接合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、ePTFEフィルムに接合材を接合するePTFEフィルムの接着方法であって、PVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを水中に分散させた表面処理液を前記ePTFEフィルムの表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後に前記表面処理液を乾燥させる乾燥工程と、前記ePTFEフィルムの表面処理液塗布面に接合材を接着剤で接着する接着工程とを備えることを特徴とするePTFEフィルムの接着方法に関する。
【0006】
請求項2に係る発明は、前記表面処理液中のPVAの濃度が3〜20質量%であり、過硫酸カリウムの濃度が0.5〜15質量%であり、Al(OH)(ベーマイトゾル)の濃度が0.5〜15質量%であることを特徴とする請求項1記載のePTFEフィルムの接着方法に関する。
【0007】
請求項3に係る発明は、前記接合材が次の(1)(2)(3)であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のePTFEフィルムの接着方法に関する。
(1)ステンレス、アルミニウム、鉄、銅、合金の金属箔や金属板
(2)PET、ePTFEフィルム、ナイロン、ゴム(ブチル、NBR、SBR)、ケブラー糸をベースにした織布、木綿布、絹布の有機材
(3)セラミックペーパー、ガラス繊維布、炭化繊維布、炭素繊維布の無機材
【0008】
請求項4に係る発明は、前記接着剤がフェノール樹脂系接着剤であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のePTFEフィルムの接着方法に関する。
【0009】
請求項5に係る発明は、ePTFEフィルムと接合材との間にPVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを有することを特徴とするePTFEフィルム接合材に関する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のePTFEフィルムの接着方法によれば、ePTFEフィルムを接合材に容易に接着することができる。
【0011】
請求項2に係る発明のePTFEフィルムの接着方法によれば、ePTFEフィルムを接合材に更に容易に接着することができる。
【0012】
請求項3に係る発明のePTFEフィルムの接着方法によれば、ePTFEフィルムと種々の接合材を容易に製造することができる。
【0013】
請求項4に係る発明のePTFEフィルムの接着方法によれば、ePTFEフィルムを接合材に容易に接着することができる。
【0014】
請求項5に係る発明のePTFEフィルム接合材によれば、ePTFEフィルムが接合材から容易に剥がれない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】剥離試験のチャートであり、(a)は本実施形態の接着方法によって接着したePTFEフィルムのチャート、(b)は従来の接着方法によって接着したePTFEフィルムのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係るePTFEフィルムの接着方法について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係るePTFEフィルムの接着方法は、PVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを水中に分散させた表面処理液を前記ePTFEフィルムの表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後に前記表面処理液を乾燥させる乾燥工程と、前記ePTFEフィルムの表面処理液塗布面に接合材を接着剤で接着する接着工程とを備える。
以下、各工程について説明する。
【0017】
<表面処理液作成工程>
塗布工程の前にePTFEフィルムの表面に塗布する表面処理液を下記のように作成する。
表面処理液は、水にPVAと過硫酸カリウムとAl(OH)(ベーマイトゾル)とを分散させたものであり、それぞれの濃度は、PVAが3〜20質量%、過硫酸カリウムが0.5〜15質量%、Al(OH)(ベーマイトゾル)が0.5〜15質量%が好ましい。
この表面処理液は、例えば、下記のA液とB液を9:1の割合で混合させて作成する。これにより、PVAが5質量%、過硫酸カリウムが1質量%、Al(OH)(ベーマイトゾル)が1質量%の表面処理液を作成できる。
A液:PVAが5.56質量%、アルミナゾルが18.56質量%、残りが精製水
B液:過硫酸カリウムが10質量%、残りが精製水
なお、アルミナゾル中のAl(OH)(ベーマイトゾル)の濃度は6.7質量%である。
また、PVAは60℃で水に可溶であり、過硫酸カリウムは70〜75℃で水に可溶である。
なお、ePTFEフィルムの厚さ(μm)及び密度(g/cm)は、特に限定はないが、独立したフィルムであって厚さ5〜200μmが好ましい。
【0018】
<塗布工程>
ePTFEフィルムの表面に表面処理液を塗布する。塗布する方法に限定はなく、例えばハケによって塗布すればよい。また、量産の場合は、ロールツーロールのコーター機械を使用してもよい。
塗布する厚みとしては、特に制限はないが、3〜30μmが好ましい。
【0019】
<乾燥工程>
塗布工程に続いて、塗布した表面処理液を乾燥させる。
乾燥させる方法に限定はなく、例えば60〜100℃で乾燥させればよい。温度を上げ過ぎるとePTFEフィルムが収縮してしまうおそれがある。
【0020】
<接着工程>
乾燥工程に続いて、表面処理液を乾燥させたePTFEフィルムの表面処理液塗布面に接合材を接着剤で接着する。
接合材としては、特に制限はなく、例えば下記のものが挙げられる。
(1)ステンレス、アルミニウム、鉄、銅、合金等の金属箔や金属板
(2)PET、ePTFEフィルム、ナイロン、ゴム(ブチル、NBR、SBR)、ケブラー糸をベースにした織布、木綿布、絹布等の有機材
(3)セラミックペーパー、ガラス繊維布、炭化繊維布、炭素繊維布等の無機材
接着剤としては、特に制限はなく、有機系接着剤、無機系接着剤(水系)を用いることができ、例えばフェノール樹脂系接着剤である。接着剤の厚みとしては、それぞれの接着剤に適した厚みとすればよく、例えば2〜30μmである。
接着方法としては、特に制限はなく、例えば箔や布状の接合材に接着する場合には、ePTFEフィルムと接合材とを2本のローラに挟み、ローラの回転によって接着すればよい。接着温度も、各接着剤に適した温度とすればよい。
上記(2)のように接合材にePTFEフィルムを用い、ePTFEフィルム同士の共接合が可能であり、ePTFEフィルムを積層した任意の厚さでも常温の雰囲気で加工が可能である。
【0021】
本実施形態の接着方法によれば、ePTFEフィルムを接合材に強固に接着することができる。また、接着時に静電気が発生することもなく、常温で接着することもできる。
この接着方法によって、箔や布状の接合材とePTFEフィルムとを積層することにより、立体物も形成することができる。
このように、高い接着力が得られるのは、過硫酸カリウムのOH基と、より多くの結合力を持ったAl(OH)との配合によって、より強力な結合を発揮することができるためである。
【0022】
<実施例>
種々の表面処理液を用い、接合材に接着した後の剥離強度を下記のようにして評価した。
【0023】
(ePTFEフィルム)
日本ドナルドソン株式会社の厚さ60μmのePTFEフィルムを用いた。
【0024】
(表面処理液)
表面処理液の実施例液と比較例液として下記のものを用いた。
実施例液:PVA 5質量%、過硫酸カリウム 1質量%、Al(OH) 1質量%、残り精製水
比較例液1:Al(OH) 1質量%、残り精製水
比較例液2:PVA 5質量%、過硫酸カリウム 1質量%、残り精製水
なお、PVAには、キシダ化学株式会社製「PVA500」を用いた。
また、Al(OH)には、川研ファインケミカル株式会社のアルミナゾル「CSA-1110AD」を用いた。
【0025】
(接合材)
接合材として、表面をNMPで洗浄した厚さ0.2mmのSUS301の板を用いた。
【0026】
(接着剤)
フェノール樹脂系熱硬化性接着剤(リグナイト社製、R−10)を用いた。
【0027】
(接着方法)
(1)一部のePTFEフィルムに、Al電極でコロナ表面処理を行った。コロナ表面処理の放電量は400(W・min/m)とした。
(2)ePTFEフィルムの表面に実施例液及び比較例液の表面処理液をハケで均一に塗布した。塗布厚さは15μmとした。
(3)表面処理液の塗布後、乾燥させた。乾燥条件は、アルミナだけを含んだ表面処理液を塗布したePTFEフィルムは80℃、10minとし、PVAを含んだ表面処理液を塗布したePTFEフィルムは100℃、5minとした。
(4)ハケで接着剤をSUS301の表面に厚さ2〜3μm塗布した。
(5)SUS301の接着剤塗布面にePTFEフィルムを密着させ、約30g/cmの荷重をかけながら98℃で20min加熱した。
【0028】
(90°剥離試験)
(1)JIS Z0237に準じて剥離試験を行った。
(2)試験機は、島津製作所製AGS−X50N(H24補機B−3)を使用した。
(3)試料は12mm幅とした。
(4)引張速度300mm/minとした。
(5)引きはがし始め25mmは無視し、その後の50mmの剥離力の平均をとった。
(6)試験数はそれぞれ3回とし、その平均をとった。
【0029】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。
また、表1での試験No.1の剥離試験のチャートを図1(a)に示し、試験No.3のチャートを図1(b)に示す。
【0030】
【表1】
破壊位置が界面とは、ePTFEフィルムとSUSとの間で剥離したことを示す。一方、破壊位置が層間とは、ePTFEフィルムとSUSとの間で剥離せずに、ePTFEフィルムの内部で層がめくれるように破壊した状態であり、(層間破壊の力<接着力)の場合に発生する。
【0031】
表面処理液が実施例液(PVA 5質量%、過硫酸カリウム 1質量%、Al(OH) 1質量%、残り精製水)で、コロナ放電を行っていない試験No.1の場合には、他の試験No.よりも圧倒的に高い強度を示した。そして、この場合には、層間で破壊しているので、これ以上の接着力はないと思われる。
このように、本発明の接着方法によって、ePTFEフィルムを容易に接合材に接着させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のePTFEフィルムの接着方法は、ガスケット、パッキンをはじめ、工業、家電、民生用の種々の複合材に好適に使用される。
図1