特許第6598209号(P6598209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598209
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】電圧検出装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20191021BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20191021BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   H02J7/00 Q
   H02J7/02 H
   H01M10/48 P
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-38331(P2016-38331)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-158269(P2017-158269A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(72)【発明者】
【氏名】槌矢 真吾
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 誠二
【審査官】 高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−085354(JP,A)
【文献】 特開2013−162581(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0088202(US,A1)
【文献】 特開2012−172992(JP,A)
【文献】 特開2015−033283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 − 7/12
H02J 7/34 − 7/36
H01M 10/42 −10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルに各々並列接続され、かつバイパス抵抗とスイッチング素子との直列回路からなる複数の放電回路と、複数の前記電池セルの各端子の端子電圧を伝送する複数の伝送線路と、該伝送線路から入力された前記端子電圧に基づいて複数の前記電池セルのセル電圧を検出するセル電圧検出部とを備えた電圧検出装置において、
隣り合う一対の電池セルの放電回路をそれぞれ異なるデューティ比で放電状態において、各セル電圧の中で上限側電池異常しきい値を越えた前記セル電圧が存在する場合に前記一対の電池セルに関する前記電池セル自身の電圧と前記電池セル自身の電圧を含む一対のセル電圧の差に基づいて前記一対の電池セルに関する前記伝送線路の断線または、前記電池セル自身の異常とを識別して判定する異常判定部を備えることを特徴とする電圧検出装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、各セル電圧の中で上限側電池異常しきい値を越えた前記セル電圧が存在する場合、前記一対のセル電圧の差が所定の断線しきい値を越えた場合に、前記伝送線路の断線を判定することを特徴とする請求項1に記載の電圧検出装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、各セル電圧の中で上限側電池異常しきい値を越えた前記セル電圧が存在する場合、前記一対のセル電圧の差が所定のしきい値を越えない場合は電池セル自身の異常を判定することを特徴とする請求項1に記載の電圧検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、バイパス抵抗とスイッチング素子との直列回路からなり、組電池の各電池セルに並列接続された複数の放電回路と、電池セルのセル電圧を検出する電圧検出回路と、各電池セルのセル電圧に基づいて当該セル電圧が均一となるように各スイッチング素子を制御するセルバランス制御装置において、互いに隣り合う一対の電池セルに接続された放電回路を異なるデューティ比で制御し、この際の一対の電池セルのセル電圧の差分が所定の判定しきい値(例えば1,3V)を越えると、セル電圧を検出するために各電池セルの端子から引き出された配線に断線が発生したと判定するセルバランス制御装置が開示されている。
【0003】
このように上記配線に断線が発生した場合、一対の電池セルのセル電圧は互いに異なる変化傾向を示す。すなわち、一対のセル電圧の一方は、徐々に低下して最終的に低電圧側電池異常判定閾値(例えば0.6V)よりも低下し、一対のセル電圧の他方は、徐々に上昇して最終的に高電圧側電池異常判定閾値(例えば4.5V)よりも上昇する。したがって、上記セルバランス制御装置は、セル電圧を検出するための配線が断線した場合に、セル電圧が低電圧側電池異常判定閾値あるいは/及び高電圧側電池異常判定閾値を越えたことによる電池異常(組電池の異常)として車両の走行を制御する車両走行ECUに通知する。そして、車両走行ECUは、バッテリECUを介して配線の断線発生の通知を受けると、車両の走行を禁止する措置を取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−085354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セル電圧を検出するための配線(セル電圧検出用配線)の断線と電池異常(組電池の異常)とは別の事象であり、重要性も異なる。すなわち、電池セルが過充電又は過放電されるような電池異常(組電池の異常)の場合は緊急性を要する異常であり、車両の走行を禁止する措置が適当であるが、セル電圧検出用配線の断線は、組電池自身の異常ではないので、緊急性が電池異常(組電池の異常)よりも大幅に低いため、車両を停止させても問題ない場所や修理工場までの所定の距離を走行させる退避走行を行うことが可能である。したがって、セル電圧検出用配線の断線と電池異常(組電池の異常)とを識別して検知することは、車両のより適切な走行制御を実現する上で極めて重要である。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、車両のより適切な走行制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、電圧検出装置に係る第1の解決手段として、複数の電池セルに各々並列接続され、かつバイパス抵抗とスイッチング素子との直列回路からなる複数の放電回路と、複数の前記電池セルの各端子の端子電圧を伝送する複数の伝送線路と、該伝送線路から入力された前記端子電圧に基づいて複数の前記電池セルのセル電圧を検出するセル電圧検出部とを備えた電圧検出装置において、隣り合う一対の電池セルの放電回路をそれぞれ異なるデューティ比で放電状態とした場合に前記一対の電池セルに関する前記電池セル自身の電圧と前記電池セル自身の電圧を含む一対のセル電圧の差に基づいて前記一対の電池セルに関する前記伝送線路の断線または、前記電池セル自身の異常とを識別して判定する異常判定部を備える、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、電圧検出装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記異常判定部は、前記電池セル自身の電圧が異常の場合、前記一対のセル電圧の差が所定の断線しきい値を越えた場合に、前記伝送線路の断線を判定する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、電圧検出装置に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記異常判定部は、前記電池セル自身の電圧が異常の場合、前記一対のセル電圧の差が所定のしきい値を越えない場合は電池セル自身の異常を判定する、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、電圧検出装置に係る第4の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記異常判定部は、前記電池セル自身の電圧が下限側電池異常しきい値以下の場合、あるいは上限側電池異常しきい値以上の場合に前記電池セル自身の電圧を異常と判定する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、隣り合う一対の電池セルの放電回路をそれぞれ異なるデューティ比で放電状態とした場合における電池セル自身の電圧と電池セル自身の電圧を含む一対のセル電圧の差に基づいて一対の電池セルに関する伝送線路の断線または電池セル自身の異常とを識別して判定するので、車両のより適切な走行制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るセルバランス制御装置Aの構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施形態に係るセルバランス制御装置Aの全体動作を示すタイミングチャートである。
図3】本発明の一実施形態における断線検知処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態における一対のセル電圧V1,V2及び差電圧ΔV1を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るセルバランス制御装置Aは、図1に示すように、組電池を構成する合計12個の電池セルC1〜C12の電圧(セル電圧)を検出する装置であり、所定サイズのプリント基板上に実装された12個の放電回路B1〜B12、13本の伝送線路S1〜S13、13個のCRフィルタF1〜F13、12個のセル電圧検出部D1〜D12、温度センサTS、マイコンM(異常判定部)及び絶縁素子IRを備えている。
【0014】
12個の電池セルC1〜C12は、一列に直列接続された直列回路を構成しており、電池セルC1のマイナス端子が組電池のマイナス端子であり、また電池セルC12のプラス端子が組電池のプラス端子である。すなわち、12個の電池セルC1〜C12は、電池セルC1→電池セルC2→(中略)→電池セルC11→電池セルC12の順に直列接続されており、各電池セルC1〜C12のセル電圧の合計値が組電池の出力電圧となる。
【0015】
12個の放電回路B1〜B12は、上記12個の電池セルC1〜C12に各々並列接続されており、各々にバイパス抵抗とスイッチング素子との直列回路である。これら放電回路B1〜B12は、スイッチング素子がON状態になると放電状態となり、スイッチング素子がOFF状態になると非放電状態となる。
【0016】
すなわち、放電回路B1は電池セルC1に並列接続され、放電回路B2は電池セルC2に並列接続されている。放電回路B3は電池セルC3に並列接続され、放電回路B4は電池セルC4に並列接続されている。放電回路B5は電池セルC5に並列接続され、放電回路B6は電池セルC6に並列接続されている。放電回路B7は電池セルC7に並列接続され、放電回路B8は電池セルC8に並列接続されている。放電回路B9は電池セルC9に並列接続され、放電回路B10は電池セルC10に並列接続されている。また、放電回路B11は電池セルC11に並列接続され、放電回路B12は電池セルC12に並列接続されている。
【0017】
13本の伝送線路S1〜S13は、12個の電池セルC1〜C12の各端子の端子電圧を12個のセル電圧検出部D1〜D12に伝送するための配線(セル電圧検出用配線)であり、12個の電池セルC1〜C12の各端子(合計13個)と12個のセル電圧検出部D1〜D12の各入力端(合計13個)とを相互に接続する。
【0018】
すなわち、伝送線路S1は電池セルC1のプラス端子とセル電圧検出部D1の一方の入力端1aとを接続し、伝送線路S2は電池セルC1のマイナス端子と電池セルC2のプラス端子との接続点とセル電圧検出部D1の他方の入力端1b及びセル電圧検出部D2の一方の入力端2aとを接続する。
【0019】
伝送線路S3は、電池セルC2のマイナス端子と電池セルC3のプラス端子との接続点とセル電圧検出部D2の他方の入力端2b及びセル電圧検出部D3の一方の入力端3aとを接続し、図示しない伝送線路S4は、電池セルC3のマイナス端子と電池セルC4のプラス端子との接続点とセル電圧検出部D3の他方の入力端3b及び図示しないセル電圧検出部D4の一方の入力端4aとを接続する。
【0020】
また、図示しない伝送線路S5は、電池セルC4のマイナス端子と電池セルC5のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D4の他方の入力端4b及びセル電圧検出部D5の一方の入力端5aとを接続し、図示しない伝送線路S6は、電池セルC5のマイナス端子と電池セルC6のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D5の他方の入力端5b及びセル電圧検出部D6の一方の入力端6aとを接続する。
【0021】
図示しない伝送線路S7は、電池セルC6のマイナス端子と電池セルC7のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D6の他方の入力端6b及びセル電圧検出部D7の一方の入力端7aとを接続し、図示しない伝送線路S8は、電池セルC7のマイナス端子と電池セルC8のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D7の他方の入力端7b及びセル電圧検出部D8の一方の入力端8aとを接続する。
【0022】
図示しない伝送線路S9は、電池セルC8のマイナス端子と電池セルC9のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D8の他方の入力端8b及びセル電圧検出部D9の一方の入力端9aとを接続し、同じく図示しない伝送線路S10は、電池セルC9のマイナス端子と電池セルC10のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D9の他方の入力端9b及びセル電圧検出部D10の一方の入力端10aとを接続する。
【0023】
図示しない伝送線路S11は、電池セルC10のマイナス端子と電池セルC11のプラス端子との接続点と同じく図示しないセル電圧検出部D10の他方の入力端10b及びセル電圧検出部D11の一方の入力端11aとを接続し、伝送線路S12は、電池セルC11のマイナス端子と電池セルC12のプラス端子との接続点と図示しないセル電圧検出部D11の他方の入力端11b及びセル電圧検出部D12の一方の入力端12aとを接続する。また、伝送線路S13は、電池セルC12のマイナス端子とセル電圧検出部D12の他方の入力端12bとを接続する。
【0024】
13個のCRフィルタF1〜F12は、13本の伝送線路S1〜S13に各々設けられたノイズ除去用のローパスフィルタであり、フィルタ抵抗及びフィルタコンデンサから構成されている。上記フィルタ抵抗は、13本の伝送線路S1〜S13の各々に直列に接続されており、また上記フィルタコンデンサは、一端が13本の伝送線路S1〜S13の各々に、また他端がGND(接地電位)に接続されている。
【0025】
すなわち、CRフィルタF1は伝送線路S1に設けられており、CRフィルタF2は伝送線路S2に設けられており、CRフィルタF3は伝送線路S3に設けられており、CRフィルタF4は伝送線路S4に設けられており、CRフィルタF5は伝送線路S5に設けられており、CRフィルタF6は伝送線路S6に設けられており、CRフィルタF7は伝送線路S7に設けられており、CRフィルタF8は伝送線路S8に設けられており、CRフィルタF9は伝送線路S9に設けられており、CRフィルタF10は伝送線路S10に設けられており、CRフィルタF11は伝送線路S11に設けられており、CRフィルタF12は伝送線路S12に設けられており、またCRフィルタF13は伝送線路S13に設けられている。
【0026】
12個のセル電圧検出部D1〜D12は、12個の電池セルC1〜C12に対応して設けられており、各伝送線路S1〜S13から入力される各電池セルC1〜C12の端子電圧に基づいて各電池セルC1〜C12の端子間電圧を検出する。すなわち、各セル電圧検出部D1〜D12は、13本の伝送線路S1〜S13から入力される各電池セルC1〜C12の各端子電圧の差分(差電圧)をセル電圧V1〜V12として検出してマイコンMに出力する。
【0027】
すなわち、セル電圧検出部D1は、伝送線路S1と伝送線路S2とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC1のセル電圧V1を検出し、セル電圧検出部D2は、伝送線路S2と伝送線路S3とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC2のセル電圧V2を検出する。セル電圧検出部D3は、伝送線路S3と伝送線路S4とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC3のセル電圧V3を検出し、セル電圧検出部D4は、伝送線路S4と伝送線路S5とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC4のセル電圧V4を検出する。
【0028】
セル電圧検出部D5は、伝送線路S5と伝送線路S6とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC5のセル電圧V5を演算し、セル電圧検出部D6は、伝送線路S6と伝送線路S7とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC6のセル電圧V6を検出する。セル電圧検出部D7は、伝送線路S7と伝送線路S8とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC7のセル電圧V7を検出し、セル電圧検出部D8は、伝送線路S8と伝送線路S9とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC8のセル電圧V8を検出する。
【0029】
セル電圧検出部D9は、伝送線路S9と伝送線路S10とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC9のセル電圧V9を検出し、セル電圧検出部D10は、伝送線路S10と伝送線路S11とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC10のセル電圧V10を検出し、セル電圧検出部D11は、伝送線路S11と伝送線路S12とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC11のセル電圧V11を検出し、セル電圧検出部D12は、伝送線路S12と伝送線路S13とから入力される一対の端子電圧に基づいて電池セルC12のセル電圧V12を検出する。
【0030】
温度センサTSは、各素子が実装された上記プリント基板の温度(基板温度)を検出し、当該基板温度を示す温度信号をマイコンMに出力する。この温度センサTSは、プリント基板上において温度上昇によって破壊や誤動作が懸念されるセル電圧検出部D1〜D12やマイコンMの近傍に実装されている。このような温度センサTSは、例えばサーミスタである。
【0031】
マイコンMは、CPU(Central Processing Unit)やメモリ、入出力インターフェイス等が一体的に組み込まれた所謂ワンチップマイコンであり、内部メモリに記憶された電圧検知プログラムを実行することにより所定の機能を発揮する。このマイコンMは、各セル電圧検出部D1〜D12から入力されるセル電圧V1〜V12を所定のサンプリング周期でサンプリングすることにより、セル電圧V1〜V12のサンプル値を順次取得する。
【0032】
また、このマイコンMは、当該サンプル値を内部メモリに記憶すると共に上記電圧検知プログラムに従った所定の処理を施すことにより、各電池セルC1〜C12の充電状態のバランス制御処理、また各伝送線路S1〜S13や各電池セルC1〜C12の診断処理を行う。
【0033】
すなわち、マイコンMは、各放電回路B1〜B12を制御することにより複数の電池セルC1〜C12の充電バランスを調整する充電バランス調整部として機能する。マイコンMは、電池セルC1〜C12のセル電圧V1〜V12が均等になるように各放電回路B1〜B12を制御する。
【0034】
また、マイコンMは、各伝送線路S1〜S13や各電池セルC1〜C12の診断処理を行う異常判定部としても機能する。このマイコンMは、各放電回路B1〜B12のスイッチング素子に開閉信号を出力することにより、互いに隣り合う一対の電池セルの放電回路を異なるデューティ比で放電状態とし、この状態における上記一対の電池セルに関する一対のセル電圧の変化傾向に基づいて、上記一対の電池セルに関する伝送線路の断線(断線異常)と一対の電池セル自身の異常(電池異常)とを識別する。
【0035】
また、このマイコンMは絶縁素子IRを介して外部のバッテリECUと通信可能に接続されており、上記断線異常と電池異常との識別結果を外部のバッテリECUに通知する。絶縁素子IRは、マイコンMとバッテリECUとのアイソレーションをとるための素子であり、例えばフォトカプラである。
【0036】
次に、本実施形態に係るセルバランス制御装置Aの動作について、図2図4を参照して説明する。
【0037】
本実施形態に係るセルバランス制御装置Aにおいて、マイコンMは、図2に示すように、一定周期で交互に繰り返す異常検出期間と実放電期間とにおいて各伝送線路S1〜S13の異常診断と各セル電圧V1〜V12の均一化を交互に行う。すなわち、マイコンMは、時刻t1〜t2の異常検出期間(例えば150ms)において、隣り合う一対の電池セルに接続された放電回路のスイッチング素子をそれぞれ異なるデューティ比で制御する。
【0038】
例えば、マイコンMは、この時刻t1〜t2の異常検出期間において、奇数番目の電池セルC1、C3、…、C11に接続された放電回路B1、B3、…、B11のスイッチング素子T1、T3、…、T11を4%のデューティ比(第1のデューティ比)でON/OFFさせると共に、偶数番目の電池セルC2、C4、…、C12に接続された放電回路B2、B4、…、B12のスイッチング素子T2、T4、…、T12を96%のデューティ比(第2のデューティ比)でON/OFFさせる。
【0039】
ここで、13本の伝送線路S1〜S13の何れかに断線が発生した場合、当該断線した線路に関係すると共に互いに隣り合う一対の電池セルのセル電圧(一対のセル電圧)は、上述したように一対の放電回路を異なるデューティ比で制御した場合に、各伝送線路S1〜S13にCRフィルタF1〜F12が設けられている関係で逆の変化傾向を示し、最終的には各電池セルC1〜C12の電池異常しきい値を越える。
【0040】
上記電池異常しきい値は、各電池セルC1〜C12の異常を判定するために設定された下限側電池異常しきい値Vmin及び上限側電池異常しきい値Vmaxであり、各電池セルC1〜C12が正常な場合には到達し得ないセル電圧である。
【0041】
また、断線が発生した場合における上記一対のセル電圧の差電圧に着目すると、上記異常検出期間の開始時刻t1以降において徐々に増加して断線しきい値ΔVthを越える。上記差電圧は合計11個存在し、差電圧ΔV1は一対のセル電圧V1,V2に関するものであり、差電圧ΔV2は一対のセル電圧V2,V3に関するものであり、(中略)、差電圧ΔV11は一対のセル電圧V11,V12に関するものである。
【0042】
上記断線しきい値ΔVthは、上記一対のセル電圧が互いに逆の変化傾向で変化した場合における差電圧であり、かつ上記一対のセル電圧が電池異常しきい値に到達する前の差電圧として設定される。すなわち、13本の伝送線路S1〜S13の何れかに断線が発生した場合、一対のセル電圧は、互いに逆の変化傾向で変化して断線しきい値ΔVthを越え、その後で下限側電池異常しきい値Vminあるいは上限側電池異常しきい値Vmaxを越えることになる。
【0043】
例えば、電池セルC1と電池セルC2との接続点とセル電圧検出部D1及びセル電圧検出部D2とを接続する伝送線路S2に断線が生じた場合、この伝送線路S2に関係すると共に互いに隣り合う一対の電池セルは、電池セルC1と電池セルC2とである。
【0044】
図2に示すように、上記異常検出期間の開始時刻t1以降、つまり上記一対の電池セルC1、C2に関する一対の放電回路B1、B2を異なるデューティ比で制御を開始して以降、上記一対の電池セルC1、C2に関する一対のセル電圧V1、V2のうち、一方のセル電圧V1は徐々に上昇し、また他方のセル電圧V2は徐々に低下する。そして、一対のセル電圧V1、V2の差電圧ΔV1が断線しきい値ΔVth以上となり、その上で一方のセル電圧V1が下限側電池異常しきい値Vminに到達し、また他方のセル電圧V2が上限側電池異常しきい値Vmaxに到達する。
【0045】
マイコンMは、異常検出期間の開始時刻t1以降、各セル電圧V1〜V12を順次取り込むと共に互いに隣り合う一対の電池セルの差電圧ΔV1〜ΔV11を順次演算する。そして、図3に示すフローチャートに沿って内部メモリに記憶された各セル電圧V1〜V12及び各差電圧ΔV1〜ΔV11に関する識別処理を実行することにより、上記一対の電池セルに関する伝送線路の断線(断線異常)と上記一対の電池セル自身の異常(電池異常)とを識別する。
【0046】
すなわち、マイコンMは、各セル電圧V1〜V12の中で上限側電池異常しきい値Vmaxを越えたものが存在するか否かを判断する(ステップS1)。そして、マイコンMは、この判断が「Yes」の場合つまり上限側電池異常しきい値Vmaxを越えたセル電圧を含む一対のセル電圧が互いに逆の変化傾向で変化し、その上で当該一対のセル電圧の差電圧が断線しきい値ΔVthを越えたか否か判断する(ステップS2)。例えば、セル電圧V1を含む一対のセル電圧は一対のセル電圧V1、V2であり、セル電圧V2を含む一対のセル電圧は一対のセル電圧V1、V2及び一対のセル電圧V2、V3である。
【0047】
例えばセル電圧V1が上限側電池異常しきい値Vmaxを越えた場合、マイコンMは、一対のセル電圧V1、V2及び一対のセル電圧V2、V3について、2つの差電圧V1、V2が互いに逆の変化傾向を示し、その上で断線しきい値ΔVthを越えたか否か判断する。そして、マイコンMは、ステップS2の判断が「Yes」の場合において、一方の差電圧V1が断線しきい値ΔVthを越えた場合は伝送線路B2が断線したと判定し、他方の差電圧V2が断線しきい値ΔVthを越えた場合には、伝送線路B3が断線したと判定する(ステップS3)。
【0048】
なお、マイコンMは、ステップS2の判断が「No」の場合、つまりセル電圧V1が上限側電池異常しきい値Vmaxを越えたものの、一対のセル電圧が互いに逆の変化傾向で変化せず、また一対のセル電圧の差電圧ΔV1、ΔV2が何れも断線しきい値ΔVthを越得ない場合には、セル電圧V1に対応する電池セルC1が異常になったと判定する(ステップS4)。
【0049】
また、マイコンMは、ステップS1の判断が「No」の場合には、各セル電圧V1〜V12の中で下限側電池異常しきい値Vminを越えたものが存在するか否かを判断する(ステップS5)。そして、マイコンMは、このステップS5における判断が「Yes」の場合、つまり下限側電池異常しきい値Vminを越えたセル電圧を含む一対のセル電圧の差電圧が互いに逆の変化傾向を示し、その上で断線しきい値ΔVthを越えたか否か判断する(ステップS6)。
【0050】
例えばセル電圧V2が下限側電池異常しきい値Vminを越えた場合、マイコンMは、一対のセル電圧V1、V2及び一対のセル電圧V2、V3について、2つの差電圧V1、V2が互いに逆の変化傾向を示し、その上で断線しきい値ΔVthを越えたか否か判断する。そして、マイコンMは、ステップS6の判断が「Yes」の場合において、一方の差電圧V1が断線しきい値ΔVthを越えた場合は伝送線路B2が断線したと判定し、他方の差電圧V2が断線しきい値ΔVthを越えた場合には、伝送線路B3が断線したと判定する(ステップS7)。
【0051】
なお、マイコンMは、ステップS6の判断が「No」の場合、つまりセル電圧V2が下限側電池異常しきい値Vminを越えたものの、一対のセル電圧が互いに逆の変化傾向で変化せず、また一対のセル電圧の差電圧ΔV1、ΔV2が何れも断線しきい値ΔVthを越得ない場合には、セル電圧V2に対応する電池セルC2が異常になったと判定する(ステップS8)。
【0052】
また、マイコンMは、上述したステップS5における判断が「No」の場合、つまり各セル電圧V1〜V12の中に上限側電池異常しきい値Vmax及び下限側電池異常しきい値Vminのいずれをも超えるものが存在しない場合には、各電池セルC1〜C12及び各伝送線路S2〜S12は正常であると判定する(ステップS9)。
【0053】
このような本実施形態に係るセルバランス制御装置Aによれば、互いに隣り合う一対の電池セルに関する伝送線路の断線(断線異常)と同じく互いに隣り合う一対の電池セル自身の異常(電池異常)とを切り分けて検知することが可能である。例えばマイコンMが断線異常と電池異常との識別結果を外部のバッテリECUを介して車両の走行を制御する他のECU(図示略)に通知することによって、当該他のECUは、電池異常の場合は車両を停止させる制御を行い、断線異常の場合は自車両を退避走行させる退避走行制御が行うことが可能になる。したがって、このセルバランス制御装置Aによれば、車両のより適切な走行制御を実現することができる。
【0054】
なお、マイコンMは、時刻t1〜t2の異常検出期間における異常検出処理が終了すると、次の時刻t2−t3の実放電期間(例えば500ms)において、温度センサTSから得られる基板温度Ta及び各電池セルC1〜C12の電圧検出結果V1〜V2に基づいて、各電池セルC1〜C12の電圧が均一となるように各放電回路B1〜B12のスイッチング素子T1〜T12を制御する。
【0055】
そして、マイコンMは、時刻t2〜t3の実放電期間におけるセルバランス制御が終了すると、次の時刻t3−t4の異常検出期間において、上述した時刻t1〜t2の異常検出期間とは異なり、奇数番目の電池セルC1、C3、…、C11に接続された放電回路B1、B3、…、B11のスイッチング素子T1、T3、…、T11を96%のデューティ比でON/OFFさせると共に、偶数番目の電池セルC2、C4、…、C12に接続された放電回路B2、B4、…、B12のスイッチング素子T2、T4、…、T12を4%のデューティ比でON/OFFさせることにより異常検出処理を行う。
【0056】
すなわち、マイコンMは、異常検出期間毎に第1のデューティ比と第2のデューティ比を交互に切り替えて異常検出処理を行うことにより、隣り合う電池セルの一方が過放電状態となることを防止する。なお、図2に示すように、第1のデューティ比と第2のデューティ比の値を入れ替えても、電池セルC1のセル電圧V1と電池セルC2のセル電圧V2の変化傾向が逆転するだけであり、時刻t1〜t2の異常検出期間と同様に伝送線路S2〜S12の断線を検知することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態は本発明をセルバランス制御装置Aに適用した場合に関するものであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、例えば複数の電池セルのセル電圧を単純に検出するだけの電圧検出装置にも適用可能である。
【0058】
(2)上記実施形態では、互いに隣り合う一対の電池セルにおける一対のセル電圧の差電圧ΔV1〜ΔV11を断線しきい値ΔVthと比較することにより各伝送線路S2〜S12の断線を判定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、互いに隣り合う一対の電池セルの放電回路を異なるデューティ比で放電状態とした場合において、上記一対のセル電圧が複数のサンプル値に亘って逆の変化傾向を示すか否かに基づいて各伝送線路S2〜S12の断線を判定してもよい。
【符号の説明】
【0059】
A セルバランス制御装置
B1〜B12 放電回路
C1〜C12 電池セル
D1〜D12 セル電圧検出部
F1〜F12 CRフィルタ
M マイコン(異常判定部)
S1〜S13 伝送線路
図1
図2
図3
図4