特許第6598301号(P6598301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598301
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】レール削正作業支援方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/17 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   E01B31/17
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-11266(P2016-11266)
(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公開番号】特開2017-133153(P2017-133153A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−103503(JP,A)
【文献】 特開2001−317930(JP,A)
【文献】 特開昭55−068902(JP,A)
【文献】 特開平01−080803(JP,A)
【文献】 特開2005−042501(JP,A)
【文献】 特開2003−232002(JP,A)
【文献】 米国特許第05140776(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールの長手方向に沿ってレール凹凸が生じたレールの当該レール凹凸を除去するレール削正作業のレール削正作業支援方法であって、
前記レール凹凸の連続データを測定する測定工程と、
前記連続データの区間ごとの平均レール凹凸を算定するデータ処理工程と、
前記平均レール凹凸の凹凸量を所定の範囲でクラス分けするクラス分け工程と、
前記平均レール凹凸に基づいてレール削正が必要と判断するしきい値以上の区間をレール削正区間として決定する区間決定工程と、
前記クラス分けに基づいてレール削正作業のパス数を決定するパス数決定工程とを備え
前記区間決定工程は、取り付けを行うためのしきい値以上の区間について隣接する前記レール削正区間が互いに重複するように削正の取り付け延長区間を有するように前記レール削正区間が決定されることを特徴とするレール削正作業支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレール削正作業支援方法において、
前記測定工程は、地上で測定可能なトロリータイプのレール凹凸連続測定装置を用いて予め測定されたレール凹凸の連続データを用いることを特徴とするレール削正作業支援方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレール削正作業支援方法において、
前記測定工程は、車上で測定可能な可搬型のレール波状摩耗モニタリング装置を用いて予め測定された車内騒音から推定したレール凹凸の連続データを用いることを特徴とするレール削正作業支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が走行する鉄道軌道のレール凹凸を除去するレール削正作業を効率的に行うことができるレール削正支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道軌道のレール凹凸を除去してレールの軌道面を研削及び再型取りする方式として種々の方式が知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたレール削正台車は、モータによって回転駆動される少なくとも1つの砥石車の構体から構成される少なくとも1つの研削ユニットからなり、各構体が直線的に動くことができる対応する支持体に取り付けられ、かくして砥石車を研削されるべきレールの表面に向離させる研削ユニットを形成し、各砥石車の軸線が長手方向軸線に対して垂直な平面内に置かれ、各支持体がレールに関連して横方向にフレームに関連して支持体自体を移動させる並進運動手段によりフレームに独立して取り付けられ、そして各支持体が少なくとも1つの支持ローラおよびこの支持体をフレームに接続し、かつこの支持ローラに対応する研削ユニットの直ぐ近くにレールの1側に対して当てる休止手段からなるという構成を備えている。
【0004】
このようなレール削正台車によれば、レールに対してレール削正台車を簡単な手段で案内することができ、台車の脱線の危険を抑制することができると共に、より正確なレール凹凸の除去を行うことでレールの軌道面を研削および再型取りすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−106203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のレール削正方法では、レール削正作業の前に、レール削正区間の中の任意の数点でスポット的にレール凹凸のデータを測定し、削正区間全体のパス数(レール削正作業の削正回数)を決定されることが多かった。あるいは、レール表面の凹凸の状態を測定した連続データを測定し、該連続データの曲線中の数点におけるレール凹凸測定データに基づき、その曲線全体のレール削正作業の削正量を決定し、その削正作業を行うためのパス数を決定することも行われている。なお、削正作業の始終点は、現場における目視による凹凸の調査結果から決定されるか、あるいは曲線の始点(BTC)及び終点(ETC)を削正作業の始終点として決定されることが多かった。また、場合によっては、車上測定データ(軸箱加速度や車内騒音等)を用いて削正の始終点を決めることもまれに行われている。この方法によると、削正区間にレール凹凸の小さな区間が含まれた場合、レール削正作業が一律のパス数で施工されるため、削正が不要な区間まで多くのパス数で削正作業が実施されることがあり、不経済であった。ここで、レール凹凸とは、レールの頭長頂面あるいはゲージコーナ部に生じている周期的なレールの凹凸であって、波状摩耗や波状曲り等の周期的なレール凹凸を含む。
【0007】
また、この方法によると、削正区間にレール凹凸の大きな区間が含まれた場合、事前に計画した削正パス数ではその区間の凹凸を完全に除去することができないという問題があった。なお、この場合、削正途中に削正台車の車上から削正台車に搭載されたレール凹凸連続測定装置を用いてレール凹凸の除去具合を確認し、削正パス数の追加を検討することもあるが、その判断には熟練した作業者の技能を必要とすると共に、作業時間に余裕がある場合しか施工することができないという問題があった。このようにパス数や始終点の決定は熟練した作業者の経験によって決定されることが多く、どのような作業者でもこれらの決定を行うことができるものではないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、レール削正作業の効率化を図るため、直接あるいは間接的に測定したレール凹凸の連続測定データに基づきレール削正区間の始終点を決定し、またその区間内で最適なレール削正のパス数を決定するレール削正作業支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るレール削正作業支援方法は、レールの長手方向に沿ってレール凹凸が生じたレールの当該レール凹凸を除去するレール削正作業のレール削正作業支援方法であって、前記レール凹凸の連続データを測定する測定工程と、前記連続データの区間ごとの平均レール凹凸を算定するデータ処理工程と、前記平均レール凹凸の凹凸量を所定の範囲でクラス分けするクラス分け工程と、前記平均レール凹凸に基づいてレール削正が必要と判断するしきい値以上の区間をレール削正区間として決定する区間決定工程と、前記クラス分けに基づいてレール削正作業のパス数を決定するパス数決定工程とを備え、前記区間決定工程は、取り付けを行うためのしきい値以上の区間について隣接する前記レール削正区間が互いに重複するように削正の取り付け延長区間を有するように前記レール削正区間が決定されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るレール削正作業支援方法において、前記測定工程は、地上で測定可能なトロリータイプのレール凹凸連続測定装置を用いて予め測定されたレール凹凸の連続データを用いると好適である。
【0011】
また、本発明に係るレール削正作業支援方法において、前記測定工程は、車上で測定可能な可搬型のレール波状摩耗モニタリング装置を用いて予め測定された車内騒音から推定したレール凹凸の連続データを用いると好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るレール削正作業支援方法は、測定によって得られたレール凹凸の連続データをもとに、レール削正区間やパス数を決定するので、どのような作業者であっても適正なレール削正区間やパス数を決定することができるので、レール削正作業の最適化及び効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るレール削正作業支援方法のフロー。
図2】定尺レール区間で測定されたレール凹凸の連続データ。
図3】ロングレール区間で測定されたレール凹凸の連続データ。
図4図2におけるレール凹凸の連続データの区間ごとの平均レール凹凸を算出したグラフ。
図5図2の区間ごとの平均レール凹凸のクラス分け及びレール削正区間を決定したグラフ。
図6図5のクラス分け及びレール削正区間から実際の施工計画パス数を決定したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るレール削正作業支援方法のフローであり、図2及び図3は、測定されたレール凹凸の連続データの例であり、図4は、図2におけるレール凹凸の連続データの区間ごとの平均レール凹凸を算出したグラフであり、図5は、図2の区間ごとの平均レール凹凸のクラス分け及びレール削正区間を決定したグラフであり、図6は、図5のクラス分け及びレール削正区間から実際の施工計画パス数を決定したグラフである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係るレール削正作業支援方法は、地上で測定可能なトロリータイプのレール凹凸連続測定装置あるいはレール削正台車等の保守車両に搭載されたレール凹凸連続測定装置によって予め測定されたレール凹凸の連続データD、又は車上で測定可能な可搬型のレール波状摩耗モニタリング装置予め測定された車内騒音のデータから推定されたレール凹凸の連続データDを決定する測定工程1によってレール凹凸の連続データを測定し、測定された連続データDについてデータ処理工程2で標準偏差σを算出することで凹凸データの傾向付けを行い、該傾向分けされたデータについて、クラス分け工程3において、所定の閾値を用いて凹凸量のクラス分け及び、区間決定工程4で削正が必要な箇所の特定を行い、該クラスに応じて必要なパス数をパス数決定工程5で決定する。
【0018】
具体的には、データ処理工程2は、図2に示す連続データのうち、定尺レールにおけるレールの継目部におけるノイズ(遊間による欠線部の通過によるもの)の影響を除去するために、継目の特定を行う。この継目の特定は、連続データに概略周期的に認められる著大値を特定することにより行うことができる。次に、その位置から前後数m(1.0〜2.5m)程度を除く区間のレール凹凸データの標準偏差を算出する。また、継目部が溶接された所謂ロングレールでは、連続データD中に著大値がないデータについては、25m程度を1区間として認識し、レール凹凸データの標準偏差を算出する。
【0019】
次に、一定区間ごとのレール凹凸の標準偏差に2√2を乗じて区間ごとの平均のレール凹凸を算出する。これは波状摩耗によるレール凹凸が周期的であることから、これを正弦波と仮定し、数学的に平均振幅を求めている。求められた区間ごとのレール凹凸の平均値は図4のように可視化することができる。
【0020】
次に、クラス分け工程3において、レール凹凸の平均値について所定の閾値を用いて凹凸量のクラス分けを行う。具体的には、図5に示すように、例えば1)0.05mm以下、2)0.05mm以上0.10mm未満、3)0.10mm以上0.20mm未満、4)0.20mm以上0.30mm未満、5)0.30mm以上0.40mm未満の5つのクラスに分類する。なお、クラス分けの数は、上述したような5つのクラスに分類することに限定されず、レール凹凸の最大値に応じて適宜増減させると好適である。
【0021】
区間決定工程4では、求められたレール凹凸の平均振幅の測定結果における分布を分析し、レール削正の始点及び終点を算出する。具体的には、図4において、例えばレール削正が必要と判断されるしきい値(0.10mm)以上のレール凹凸が認められる箇所を削正が必要な区間としてその範囲の始点及び終点を特定する。なお、例えば取り付けを行うためのしきい値(0.05mm)以上の区間については、隣接するレール削正区間が互いに重複するように削正の取り付け延長区間に含ませるように始点及び終点を設定すると好適である。
【0022】
最後に、パス数決定工程5で分類されたクラスに応じて必要なパス数を決定する。実際にレール削正を行うレール削正台車は、平均凹凸除去量のスペックを有しているので、各クラスの最大値を除去することができるパス数を選定する。具体的には図6において、例えば、1パスで0.03mmの凹凸を除去できる削正台車の場合、レール凹凸が0.10〜0.20mmのクラスでは、0.20/0.03=6.67となることから、当該クラスではパス数を7パスと決定することができる。また、以下のように、レール凹凸と当該レール凹凸の除去に必要なパス数のテーブルを有すると好適である。このように、レール凹凸と当該レール凹凸の除去に必要なパス数のテーブルを事前に保有することによって効果的なパス数の決定を行うことができる。なお、必要パス数は、レール凹凸を1パスで除去できる削正量で除した値を切り上げることで求めると好適である。
【0023】
【表1】
【0024】
以上説明した本実施形態に係るレール削正作業支援方法は、レール凹凸を適切に分析することで、レール削正の効率化を図ることが可能となり、レール削正に要する時間を短縮することが可能となり、例えば一晩で行うことのできるレール削正延長の延伸が可能となる。また、レール凹凸の除去不足が生じないので、レール凹凸を完全に除去することができ、結果的に波状摩耗の再発までの期間を延伸することが可能となる。
【0025】
なお、本実施形態に係るレール削正作業支援方法は、これらのデータ処理をコンピュータで行うことができるようなプログラムを実行すると、データ処理の自動化を図ることができる。また、本実施形態に係るレール削正作業支援方法は、レール凹凸測定装置やレール削正台車等の保守車両に搭載されたレール凹凸連続測定装置によって予め測定された連続データあるいは、レール波状摩耗モニタリング装置によって予め測定された車内騒音のデータから推定された連続データを用いることを説明したが、用いられるデータは、他の装置を用いてレール凹凸を直接測定したデータや、台車に取り付けた加速度センサによる軸箱加速度及び車上に設置されたマイクロホン等による車内騒音などから間接的に求めたデータを用いても構わない。さらに、レール凹凸の予めの測定のタイミングは、削正作業とは別日に行っても構わないし、削正作業の当日に行っても構わない。ただし、当日に行う場合は、作業時間が決まっていることから、凹凸が大きすぎる場合には当該支援方法を用いても完全にレール凹凸を除去することができない場合があるが、その場合であっても従来の方法よりは凹凸の除去効率は向上する。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0026】
1 測定工程、 2 データ処理工程, 3 クラス分け工程, 4 区間決定工程, 5 パス数決定工程, D 連続データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6