特許第6598302号(P6598302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598302
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】信号処理回路
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/44 20060101AFI20191021BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20191021BHJP
   H03K 19/195 20060101ALI20191021BHJP
   H01L 39/22 20060101ALI20191021BHJP
   H01L 39/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G01J1/44 P
   G01J1/02 R
   G01J1/02 Q
   H03K19/195
   H01L39/22 K
   H01L39/22 C
   H01L39/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-23303(P2016-23303)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-142146(P2017-142146A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木 茂人
(72)【発明者】
【氏名】寺井 弘高
(72)【発明者】
【氏名】山下 太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 茂之
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−232311(JP,A)
【文献】 特開2013−19777(JP,A)
【文献】 特開2005−257453(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0355019(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0003672(US,A1)
【文献】 M. S. Allman et al.,A near-infrared 64-pixel superconducting nanowire single photon detector array with integrated multiplexed readout,Appl. Phys. Lett.,2015年,106,192601
【文献】 Adam McCaughan et al.,Superconducting-nanowire single-photon-detector linear array,Appl. Phys. Lett.,2013年,103,142602
【文献】 Joseph C. Bardin et al.,Cryogenic SiGe Integrated Circuits for Superconducting Nanowire Single Photon Detector Readout,Proc. of SPIE,2014年,9114,911404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00−1/60、11/00
H01L 39/00−39/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超伝導単一光子検出器(以下、SSPD)から出力される検出信号の処理に用いられ、超伝導デジタル論理回路により構成される信号処理回路であって、
前記複数のSSPDのそれぞれに接続されている複数の伝送経路と、
前記伝送経路のそれぞれを第1伝送経路と第2伝送経路とに分岐する分岐部と、
前記第1伝送経路に接続されている時間情報生成回路と、
前記第2伝送経路に接続されているアドレス情報生成回路と、
を備え、
前記時間情報生成回路は、前記複数のSSPDの検出信号に基づいて、前記複数のSSPDへ光子が入射した時間を特定するための時間(タイミング)情報信号を出力し、
前記アドレス情報生成回路は、前記複数のSSPDの検出信号に基づいて、前記複数のSSPDのうちの光子が入射したSSPDを特定するためのアドレス情報信号を出力する信号処理回路。
【請求項2】
前記時間情報生成回路は、前記複数のSSPDの検出信号の論理和を取ることで前記時間情報信号を出力するように構成された回路である請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記アドレス情報生成回路として、前記複数のSSPDの検出信号を所定ビット数のバイナリコードに変換し、前記バイナリコードに対応するパルス列を生成するように構成されたエンコーダ回路を備える請求項1又は2に記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記アドレス情報生成回路として、前記第2伝送経路毎に、前記第2伝送経路を伝わる検出信号の遅延時間を異ならせるように構成されたパルス位置変調回路を備える請求項1又は2に記載の信号処理回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導単一光子検出器(以下、SSPD)は、従来の単一光子検知器(例えば、アバランシェ・フォトダイオード検出器)に比べ、高い検出効率、高い時間分解能(タイミングジッタ)、低い暗計数率等の優れた性能を備え、量子情報通信等の様々な分野への利用が期待されている。
【0003】
このような超伝導単一光子検出システムでは、1個の受光部を備える超伝導単一光子検出器の開発がこれまで行われてきたが、近年、複数の受光部(ピクセル)を備える超伝導単一光子検出器(以下、「多ピクセルSSPD」という場合がある)が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
かかる多ピクセルSSPDの開発により、超伝導単一光子検出システムが、例えば、空間分解能機能及び光子数識別機能を備え得る等、システムの更なる高機能化が図れ、その利用範囲が拡大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−232311号公報
【特許文献2】特開2013−19777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来例は、多ピクセルSSPDのピクセル数増加に伴うタイミングジッタ(時間分解能)の悪化については十分に検討されていない。なお、タイミングジッタとは、超伝導単一光子検出システムが光子入射に対して出力信号を発生するタイミングの時間揺らぎでことをいう。
【0007】
本開示の一態様(aspect)は、多ピクセルSSPDのピクセル数が増加する場合でも、従来に比べ超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタの悪化が抑制され得る信号処理回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様の信号処理回路は、複数の超伝導単一光子検出器(以下、SSPD)から出力される検出信号の処理に用いられ、超伝導デジタル論理回路により構成される回路であって、前記複数のSSPDのそれぞれに接続されている複数の伝送経路と、前記伝送経路のそれぞれを第1伝送経路と第2伝送経路とに分岐する分岐部と、前記第1伝送経路に接続されている時間情報生成回路と、前記第2伝送経路に接続されているアドレス情報生成回路と、を備え、前記時間情報生成回路は、前記複数のSSPDの検出信号に基づいて、前記複数のSSPDへ光子が入射した時間を特定するための時間(タイミング)情報信号を出力し、前記アドレス情報生成回路は、前記複数のSSPDの検出信号に基づいて、前記複数のSSPDのうちの光子が入射したSSPDを特定するためのアドレス情報信号を出力する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様の信号処理回路は、多ピクセルSSPDのピクセル数が増加する場合でも、従来に比べ超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタの悪化が抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の多ピクセルSSPD用の信号処理回路の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態の第1実施例による信号処理回路の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態の第1実施例による信号処理回路の動作の説明に用いる図である。
図4図4は、実施形態の第1実施例による信号処理回路の出力の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態の第2実施例による信号処理回路の一例を示す図である。
図6図6は、実施形態の第2実施例による信号処理回路の出力の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態の変形例による信号処理回路を備える超伝導単一光子検出システムの一例を示す図である。
図8図8は、従来の多ピクセルSSPD用の信号処理回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
多ピクセルSSPDのピクセル数と超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタとの関係について鋭意検討が行われ、以下の知見が得られた。
【0012】
図8は、従来の多ピクセルSSPD用の信号処理回路の一例を示す図である。図8の信号処理回路1は、光子が検出されたピクセルを識別可能な多ピクセルSSPD用の処理回路である。ここでは、64個のピクセル数を備える多ピクセルSSPDを用いる場合の信号処理回路1のブロック図及び動作シーケンスが示されている。
【0013】
図8に示すように、信号処理回路1は、64個のT型フリップフロップT1(以下、T1セル)からなるカウンタ回路と、64個のD型フリップフロップDFF(以下、DFFセル)からなるシフトレジスタ回路とを備える。なお、これらのT1セル及びDFFセルは、例えば、単一磁束素子(以下、SFQ)等で構成されている。
【0014】
図8のカウンタ回路では、64個のSSPD(図示せず)のそれぞれの検出信号が、T1セルのそれぞれに保持される。そして、外部からのリセット信号でT1セルのそれぞれの内部情報が、DFFセルのそれぞれへと受け渡される。次いで、外部からのクロック信号でシフトレジスタ回路からDFFセルの内部情報を、アウト信号としてシリアルに読み出すことで、光子が検出されたピクセルを判別することができる。
【0015】
以上により、光子が検出された多ピクセルSSPDの位置情報を得ることで、例えば、超伝導単一光子検出システムの高感度イメージングへの応用展開が可能となる。
【0016】
また、信号処理回路1では、単一磁束素子を情報担体として用いているので、信号処理回路1を微小信号で高速に動作できるとともに、信号処理回路1の消費電力を低減できる。
【0017】
更に、本来64本必要な出力信号ケーブルを、リセット、クロック及びアウトの3本に削減できるので、多ピクセルSSPDの信号処理における熱負荷増大を抑制できる。
【0018】
しかし、発明者らは、信号処理回路1を用いる場合、多ピクセルSSPDのピクセル数増加が、超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタ(時間分解能)の悪化を招くという問題を見出した。具体的には、図8に示すように、従来の超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタの最小単位は、ピクセル数(ビット数)/クロック周波数で算出される時間区間Tに制約される。例えば、クロック周波数が1GHz、多ピクセルSSPDのピクセル数が64個(64ビット)であると、この時間区間Tは、約64nsec程度である。この場合、約64nsecの時間内に、仮に多ピクセルSSPDに複数の光子が入射しても、これらの光子の時間情報を区別して取得することができない。
【0019】
そして、このような事実は、SSPDのタイミングジッタが100psec以下、SFQ回路のタイミングジッタが数psecであることを考慮する場合、従来の超伝導単一光子検出システムが、これらの素子の性能を十分に活かせていないことを意味する。
【0020】
そこで、発明者らは、多ピクセルSSPDのピクセル数が増加する場合でも超伝導単一光子検出システムにおけるタイミングジッタの悪化を抑制すべく、多ピクセルSSPDのアドレス情報と時間情報とを別々に生成するという着想に到達した。
【0021】
すなわち、本開示の第1の態様は、複数の超伝導単一光子検出器(以下、SSPD)から出力される検出信号の処理に用いられ、超伝導デジタル論理回路により構成される信号処理回路であって、複数のSSPDのそれぞれに接続されている複数の伝送経路と、伝送経路のそれぞれを第1伝送経路と第2伝送経路とに分岐する分岐部と、第1伝送経路に接続されている時間情報生成回路と、第2伝送経路に接続されているアドレス情報生成回路と、を備え、時間情報生成回路は、複数のSSPDの検出信号に基づいて、複数のSSPDへ光子が入射した時間を特定するための時間情報信号を出力し、アドレス情報生成回路は、複数のSSPDの検出信号に基づいて、複数のSSPDのうちの光子が入射したSSPDを特定するためのアドレス情報信号を出力する信号処理回路を提供する。
【0022】
かかる構成によると、多ピクセルSSPDのピクセル数が増加する場合でも、従来に比べ超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタの悪化が抑制され得る。具体的には、本態様の信号処理回路では、アドレス情報と時間情報とが別々に生成される。よって、多ピクセルSSPDのピクセル数(規模)に応じてアドレス情報生成回路の最適化を図ることにより、従来に比べ、超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタを向上させ得る。
【0023】
特に、本態様の信号処理回路は、SSPDのタイミングジッタが100psec以下、SFQ回路のタイミングジッタが数psecであることを考慮する場合、超伝導単一光子検出システムにおいて、100psec以下のタイミングジッタの実用化にも寄与できる。
【0024】
また、本開示の第2の態様の信号処理回路は、第1の態様の信号処理回路において、時間情報生成回路は、複数のSSPDの検出信号の論理和を取ることで時間情報信号を出力する。
【0025】
かかる構成によると、多ピクセルSSPDへ光子が入射した時間を、時間情報生成回路の時間情報信号として適切に取得することができる。
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0027】
なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0028】
(実施形態)
図1は、実施形態の多ピクセルSSPD用の信号処理回路の一例を示す図である。多ピクセルSSPD11のピクセル数及び配列は任意であるが、図1では、多ピクセルSSPD11中の64個のSSPD(SNM:N=1〜8、M=1〜8)がマトリクス状に配列されている例が示されている。なお、信号処理回路10の構成を簡略化する趣旨で、図1において、多ピクセルSSPD11の第1列の8個のSSPD(S11・・・S18)のそれぞれに対応する8本の伝送経路25のみを図示し、以下、これらの信号処理について説明する。なお、第2列以降のSSPDの信号処理についても同様である。
【0029】
図1に示すように、信号処理回路10は、伝送経路25と、分岐部26と、時間情報生成回路20と、アドレス情報生成回路21と、を備える。
【0030】
信号処理回路10は、8個のSSPD(S11・・・S18)から出力される検出信号の処理に用いられ、超伝導デジタル論理回路で構成されている。
【0031】
SSPDの内部の構成及び動作は公知であるので説明を省略する。また、超伝導デジタル論理回路は、超伝導状態で機能する論理回路であれば、どのような構成であっても構わない。超伝導デジタル論理回路として、例えば、SFQ回路、断熱動作磁束量子パラメトロン(QFP)回路、超伝導ナノワイヤクライオトロン回路、Reciprocal Quantum Logic(RQL)回路等を挙げることができる。
【0032】
伝送経路25は、8個のSSPD(S11・・・S18)のそれぞれに接続されている。伝送経路25は、SSPD(S11・・・S18)の検出信号(パルス)を伝えることができれば、どのような構成であっても構わない。伝送経路25として、例えば、同軸ケーブルを例示できる。
【0033】
分岐部26は、8本の伝送経路25のそれぞれを第1伝送経路25Aと第2伝送経路25Bとに分岐する。
【0034】
時間情報生成回路20は、第1伝送経路25Aに接続されている。そして、時間情報生成回路20は、多ピクセルSSPD11の検出信号に基づいて、多ピクセルSSPD11へ光子が入射した時間を特定するための時間(タイミング)情報信号を出力する。時間情報生成回路20は、このような時間情報信号を出力できれば、どのような構成であっても構わない。
【0035】
例えば、時間情報生成回路20は、多ピクセルSSPD11の検出信号の論理和を取ることで時間情報信号を出力するように構成された回路であってもよい。これにより、多ピクセルSSPD11中のSSPD(S11・・・S18)のいずか一つに光子が入射した場合、必ず、時間情報生成回路20からパルス信号が出力される。よって、本パルス信号により、多ピクセルSSPD11へ光子が入射した時間が特定され、多ピクセルSSPD11へ光子が入射した時間を、時間情報生成回路20の時間情報信号として適切に取得することができる。
【0036】
アドレス情報生成回路21は、第2伝送経路25Bに接続されている。そして、アドレス情報生成回路21は、SSPD(S11・・・S18)の検出信号に基づいて、SSPD(S11・・・S18)のうちの光子が入射したSSPDを特定するためのアドレス情報信号を出力する。アドレス情報生成回路21は、このようなアドレス情報信号を出力できれば、どのような構成であっても構わない。アドレス情報生成回路21の具体例については第1実施例及び第2実施例で説明する。
【0037】
なお、ここで、上記の時間情報生成回路20及びアドレス情報生成回路21は、例えば、従来の半導体素子(例えば、CMOSトランジスタ)を用いる代わりに、SFQを情報担体として用いている。SFQ回路の動作原理は公知なので説明を省略する。これにより、信号処理回路10は、高速に動作できるとともに、消費電力が小さいという半導体素子で構成された従来の信号処理回路と比較した有利な特徴を備える。
【0038】
以上により、信号処理回路10は、多ピクセルSSPD11のピクセル数が増加する場合でも、従来に比べ超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタの悪化が抑制され得る。具体的には、信号処理回路10では、アドレス情報と時間情報とが別々に生成される。よって、多ピクセルSSPD11のピクセル数(規模)に応じてアドレス情報生成回路21の最適化を図ることにより、従来に比べ、超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタを向上させ得る。
【0039】
特に、信号処理回路10は、SSPDのタイミングジッタが100psec以下、SFQ回路のタイミングジッタが数psecであることを考慮する場合、超伝導単一光子検出システムにおいて、100psec以下のタイミングジッタの実用化にも寄与できる。
【0040】
(第1実施例)
図2は、実施形態の第1実施例による信号処理回路の一例を示す図である。
【0041】
図2に示すように、信号処理回路10Aは、伝送経路25と、分岐部26と、時間情報生成回路20と、エンコーダ回路21Aと、遅延回路22Aと、を備える。伝送経路25、分岐部26及び時間情報生成回路20については実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0042】
信号処理回路10Aは、アドレス情報生成回路21として、エンコーダ回路21Aを備える。つまり、エンコーダ回路21Aは、第2伝送経路25Bに接続されている。そして、エンコーダ回路21Aは、多ピクセルSSPD11の検出信号のデータを所定ビット数のバイナリコードに変換し、このバイナリコードに対応するパルス列を生成するように構成されている。
【0043】
エンコーダ回路21Aは、上記のパルス列を生成できれば、どのような構成であっても構わない。例えば、本例では、図3の真理値表に示すように、8個のSSPD(S11・・・S18)のいずれか一つに光子が入射する場合にエンコーダ回路21Aに入力する値が「1」を取るものとして、これらの2進数に対応する3ビットの出力パルス(A2、A1、A0)が、エンコーダ回路21Aで生成されている。
【0044】
遅延回路22Aは、エンコーダ回路21Aのパルス列の出力タイミングを時間情報信号のパルスに対して遅延させる回路である。つまり、エンコーダ回路21Aの出力が遅延回路22Aを経て時間情報生成回路20の出力部に伝送されている。具体的には、遅延回路22Aにより、上記パルス列の出力タイミングが、時間情報信号のパルスに対して時間区間(Δx)だけ遅延する。
【0045】
図4は、実施形態の第1実施例による信号処理回路の出力の一例を示す図である。なお、図4では、8個のSSPD(S11・・・S18)のうちのSSPD(S16)に光子が入射する場合のバイナリコードのパルス列が図示されている。
【0046】
図4に示すように、アドレス情報生成回路21としてエンコーダ回路21Aを用いることで、8個のSSPD(S11・・・S18)のうちの光子が入射したSSPDを特定するためのアドレス情報信号が、エンコーダ回路21Aの3ビットの出力パルス(A2、A1、A0)で表現され得る。つまり、エンコーダ回路21Aを使用しない場合に比べ、アドレス情報信号を5ビット分少ない情報で特定できる。
【0047】
以上により、本実施例の信号処理回路10Aは、多ピクセルSSPDのピクセル数に相当する個数のパルスをシリアルに読み出さずに、上記のアドレス情報信号を得ることができるので、超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタを向上させ得る。
【0048】
また、遅延回路22Aを用いることで、時間情報生成回路20の出力(時間情報信号)とエンコーダ回路21Aの出力(アドレス情報信号)とを明確に区別させ得る。
【0049】
本実施例の信号処理回路10Cは、上記特徴点以外は、実施形態の信号処理回路10と同様に構成してもよい。
【0050】
(第2実施例)
図5は、実施形態の第2実施例による信号処理回路の一例を示す図である。
【0051】
図5に示すように、信号処理回路10Bは、伝送経路25と、分岐部26と、時間情報生成回路20と、パルス位置変調回路21Bと、遅延回路22Bと、を備える。伝送経路25、分岐部26及び時間情報生成回路20については実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0052】
信号処理回路10Bは、アドレス情報生成回路21として、パルス位置変調回路21Bを備える。つまり、パルス位置変調回路21Bは、第2伝送経路25Bに接続されている。そして、パルス位置変調回路21Bは、第2伝送経路25B毎に、第2伝送経路25Bを伝わる検出信号の遅延時間を異ならせるように構成されている。
【0053】
パルス位置変調回路21Bは、第2伝送経路25B毎に、第2伝送経路25Bを伝わる検出信号の遅延時間を異ならせることができれば、どのような構成であってもよい。例えば、図5に示すように、パルス位置変調回路21Bは、7個の遅延回路(Δt遅延)及び7個の論理和回路(OR)により構成されていてもよい。
【0054】
遅延回路22Bは、パルス位置変調回路21Bからのパルスの出力タイミングを時間情報信号のパルスに対して遅延させる回路である。例えば、遅延回路22Bにより、SSPD(S18)に光子が入射する場合、パルス位置変調回路21Bからのパルスの出力タイミングが、時間情報信号のパルスに対して時間区間(Δx)だけ遅延する。
【0055】
図6は、実施形態の第2実施例による信号処理回路の出力の一例を示す図である。
【0056】
図6に示すように、アドレス情報生成回路21としてパルス位置変調回路21Bを用いることで、8個のSSPD(S11・・・S18)のうちの光子が入射したSSPDを特定するためのアドレス情報信号が、パルス位置変調回路21Bのパルスの出力タイミングで表現され得る。
【0057】
図6では、第1列の8個のSSPD(S11・・・S18)のうちのSSPD(S17)に光子が入射する場合におけるパルス位置変調回路21Bのパルスが図示されている。第1列のSSPD(S17)に光子が入射する場合、パルス位置変調回路21Bのパルスは、遅延回路22B及び1個の遅延回路(Δt遅延)を経て出力される。よって、本パルスの出力タイミングは、時間情報信号のパルスの出力タイミングに比べ、時間区間(Δx+Δt)だけ遅延する。つまり、パルス位置変調回路21Bのパルスの出力タイミングを知ることで、第1列の8個のSSPD(S11・・・S18)のうちの光子が入射したSSPDが特定される。
【0058】
以上により、本実施例の信号処理回路10Bは、多ピクセルSSPDのピクセル数に相当する個数のパルスをシリアルに読み出さずに、上記のアドレス情報信号を得ることができるので、超伝導単一光子検出システムのタイミングジッタを向上させ得る。
【0059】
また、遅延回路22Bを用いることで、時間情報生成回路20の出力(時間情報信号)とパルス位置変調回路21Bの出力(アドレス情報信号)とを明確に区別させ得る。
【0060】
本実施例の信号処理回路10Bは、上記特徴点以外は、実施形態の信号処理回路10と同様に構成してもよい。
【0061】
(変形例)
図7は、実施形態の変形例による信号処理回路を備える超伝導単一光子検出システムの一例を示す図である。
【0062】
図7に示すように、超伝導単一光子検出システム100の信号処理回路10Cは、伝送経路25と、分岐部26と、時間情報生成回路20と、アドレス情報生成回路21と、ビット列統合回路27と、を備える。伝送経路25、分岐部26、時間情報生成回路20及びアドレス情報生成回路21については実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0063】
ビット列統合回路27は、時間情報信号を伝える伝送経路と複数のアドレス情報信号を伝える伝送経路(本例では、8本)とを単一の伝送経路で出力する。
【0064】
信号処理回路10Cは、超伝導状態において動作するので、多ピクセルSSPD11とともに、冷凍機28(例えば、GM冷凍機)によって極低温に冷却されている。このため、ビット列統合回路27を用いない場合は、多ピクセルSSPD11のピクセル数増加により、伝送経路を構成する同軸ケーブルの本数が増え、その結果、冷凍機28への熱負荷(熱侵入量)が大きくなる。よって、この場合、信号処理回路の冷凍機28への実装が困難となる可能性があるが、本変形例の信号処理回路10Cは、上記構成により、単一の同軸ケーブルのみが外部の室温領域へ延伸するので、このような可能性を低減できる。
【0065】
本変形例の信号処理回路10Cは、上記特徴点以外は、実施形態の信号処理回路10と同様に構成してもよい。
【0066】
なお、実施形態、第1実施例、第2実施例及び変形例は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示の一態様は、例えば、多ピクセルSSPD用の信号処理回路として利用できる。
【符号の説明】
【0068】
10 :信号処理回路
10A :信号処理回路
10B :信号処理回路
10C :信号処理回路
20 :時間情報生成回路
21 :アドレス情報生成回路
21A :エンコーダ回路
21B :パルス位置変調回路
22A :遅延回路
22B :遅延回路
25 :伝送経路
25A :第1伝送経路
25B :第2伝送経路
26 :分岐部
27 :ビット列統合回路
28 :冷凍機
100 :超伝導単一光子検出システム
図1
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図8