特許第6598319号(P6598319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人埼玉県立大学の特許一覧

<>
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000002
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000003
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000004
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000005
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000006
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000007
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000008
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000009
  • 特許6598319-リハビリテーション支援システム 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598319
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】リハビリテーション支援システム
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20191021BHJP
   A61B 5/0476 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   A61H1/02 G
   A61B5/04 322
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-77475(P2018-77475)
(22)【出願日】2018年4月13日
(65)【公開番号】特開2019-180959(P2019-180959A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2018年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】510157465
【氏名又は名称】公立大学法人埼玉県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豊太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−217721(JP,A)
【文献】 特開2016−106940(JP,A)
【文献】 特開2017−153706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A61B 5/0476
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳の障害のために体肢が麻痺した患者のリハビリテーションを支援するシステムであって、
前記患者が、麻痺した体肢部分の運動の支援を受けるために装着する運動支援装置と、
前記患者の脳波データを解析する脳波データ解析装置と、
前記脳波データ解析装置の解析結果に基づいて前記運動支援装置の駆動を制御する制御ユニットと、
を備え、
前記脳波データ解析装置は、
脳波データを取得する脳波取得部と、
前記脳波データから、前記体肢部分の運動を意図したときに現れる運動想起データを識別して、前記体肢部分が麻痺していないヒトの前記運動想起データが分布する第1の領域と、前記体肢部分が麻痺しているヒトの前記運動想起データが分布する第2の領域とを分かつ境界線を機械学習し、前記運動支援装置を装着した患者の脳波データから識別した運動想起データの属する領域の情報、または、該運動想起データと前記境界線との間の距離を示す情報を出力する機械学習手段と、
を有し、
前記制御ユニットは、前記運動支援装置を装着した患者の前記運動想起データが、前記境界線から所定距離以内にあるとき、または、前記第1の領域にあるとき、前記運動支援装置の駆動を指示する、リハビリテーション支援システム。
【請求項2】
請求項1記載のリハビリテーション支援システムであって、
前記機械学習手段が、サポートベクターマシン(SVM)である、リハビリテーション支援システム。
【請求項3】
請求項2記載のリハビリテーション支援システムであって、
前記SVMは、健常者の脳波データと、前記体肢部分が麻痺しているヒトの脳波データとを用いて前記境界線を機械学習する、リハビリテーション支援システム。
【請求項4】
請求項2記載のリハビリテーション支援システムであって、
前記SVMは、片麻痺患者の麻痺していない側の脳波データを、前記体肢部分が麻痺していないヒトの脳波データとして用いて前記境界線を機械学習する、リハビリテーション支援システム。
【請求項5】
請求項1記載のリハビリテーション支援システムであって、
前記制御ユニットは、前記運動支援装置を装着した患者の麻痺した体肢部分にセラピストが手を添えて運動させたときの用手運動を記憶する記憶部を有し、前記患者の前記運動想起データが、前記境界線から所定距離以内にあるとき、または、前記第1の領域にあるとき、前記運動支援装置に、前記記憶部に記憶された前記用手運動の再現を指示する、リハビリテーション支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載のリハビリテーション支援システムであって、
前記運動支援装置は、上肢が麻痺した前記患者の上腕に装着される上腕駆動アームと、前記患者の前腕に装着される前腕駆動アームと、前記上腕駆動アーム及び前腕駆動アームを駆動する駆動部と、を備えるリハビリテーション支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳性麻痺した体肢の運動機能を回復するリハビリテーションを支援する支援システム関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞や脳出血を発症すると、脳の神経細胞に障害が発生し、急性期症状が治癒した後も、脳の障害が原因で手足の麻痺などの後遺症が残ることが少なくない。
本発明者等は、先に、上肢が麻痺した患者のリハビリテーションを支援する運動支援装置(アームロボット)を提案している(下記特許文献1)。
この装置は、図5に示すように、患者の上腕を固定する固定部111を備える上腕駆動アーム11と前腕を固定する固定部121を備える前腕駆動アーム12と、を有しており、前腕駆動アーム12及び上腕駆動アーム11が、設定されたプログラムに従って患者の前腕及び上腕を動かすように構成されている。図6は、このアームロボットのアームを患者に装着した状態を示している。
【0003】
こうした支援装置を用いて患者の麻痺した体肢のリハビリテーションを行う場合、患者がロボットに動かされるまま、受け身の姿勢で訓練に臨むよりも、患者が自ら麻痺した箇所を動かそうという意識を持ってロボットの運動支援を受けた方が、リハビリテーションの効果が上がることが知られている。
【0004】
下記特許文献2には、そうした点を考慮して、患者の脳波から運動意図を表す脳波が観測されたときに運動支援装置を駆動するリハビリテーションシステムが開示されている。
このシステムでは、図7に示すように、患者の指を他動的に伸ばす電動装具30、31及びモータ32が患者に装着され、作業療法士の合図に応じ、指を動かそうとする運動意図を持つように患者への指示が行われる。患者が指の運動意図を持つと、患者の脳波から運動意図に関連するERD信号が検出され、この検出により電動装具30のモータ32が起動して患者の指が伸展する。そのため、摘まんでいたペグPが落ちる。また、電動装具30の駆動に合わせて、筋刺激電極33から指の伸展に関わる患者の筋肉に電気刺激が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−153706号公報
【特許文献2】特開2016−13182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されているように、脳波から特定の情報を識別し、その識別情報に基づいてマシンを駆動する“ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)”の技術は、各方面で研究されている。
しかし、脳が損傷した患者の脳波から特定の情報を識別することは可なり難しい。
【0007】
脳波の観測は、通常、頭皮上に配置した複数の電極を通じて行われる。頭皮上の電極の取付位置は、国際10/20法で決められている。脳波は、脳内での神経活動によるインパルス(活動電位)の集合電位を、頭皮上の複数の電極を介して記録したものであり、脳内で特定の神経活動が発生すると、その影響が頭皮上の複数の電極で観測される。
図8は、健常者の脳内で覚醒時の意識と関連付けられるベータ波が発生しているときに、各電極で検出される信号の電極間の相互相関関係を示している。電極間を結ぶ線の太さが太い程、それらの電極で同じような信号が検出されることを示している。
一方、図9は、脳に損傷がある患者の脳内でベータ波が発生しているときの各電極間の相互相関関係を示している。
【0008】
図8図9から分かるように、脳に損傷がある患者の脳波は、健常者の脳波と可なり相違しており、健常者の脳波に比べて特徴を捉え難い。また、脳の損傷の程度が異なれば、患者間の脳波の相違も大きくなる。
そのため、脳に損傷がある患者の自発脳波から特徴を識別し、識別結果に基づいてリハビリテーションの運動支援装置を駆動することは実際上難しい。
【0009】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、脳の障害のために体肢が麻痺した患者のリハビリテーションを支援するシステム提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、脳の障害のために体肢が麻痺した患者のリハビリテーションを支援するシステムであって、患者が、麻痺した体肢部分の運動の支援を受けるために装着する運動支援装置と、患者の脳波データを解析する脳波データ解析装置と、脳波データ解析装置の解析結果に基づいて運動支援装置の駆動を制御する制御ユニットと、を備えている。
上記脳波データ解析装置は、脳波データを取得する脳波取得部と、脳波データから、体肢部分の運動を意図したときに現れる運動想起データを識別して、体肢部分が麻痺していないヒトの運動想起データが分布する第1の領域と、体肢部分が麻痺しているヒトの運動想起データが分布する第2の領域とを分かつ境界線を機械学習し、運動支援装置を装着した患者の脳波データから識別した運動想起データの属する領域の情報、または、その運動想起データと境界線との間の距離を示す情報を出力する機械学習手段と、を有している。
また、上記制御ユニットは、運動支援装置を装着した患者の運動想起データが、境界線から所定距離以内にあるとき、または、第1の領域にあるとき、運動支援装置の駆動を指示する。
このシステムでは、運動支援装置を装着して機能回復訓練を行う患者の自発脳波から、健常者の運動想起データにある程度類似するデータが検出されれば、運動支援装置が駆動される。そのため、患者の運動意欲に基づいて、麻痺した体肢が運動支援装置の支援を受けて動くことになり、リハビリテーションの効果が向上する。また、患者は、こうした訓練を続けることで、健常者と同等の運動想起データが検出可能な自発脳波を出力できるようになる。
【0011】
また、本発明のリハビリテーション支援システムでは、機械学習手段として、サポートベクターマシン(SVM)を用いる。
SVMは、多数の健常者及び患者の脳波をサンプルデータに用いて、運動想起したときに信号変化が現れる電極位置を健常者の脳波から解析し、その位置の電極の信号によって表される健常者の運動想起データと患者の運動想起データとを分離する境界線を機械学習する。運動支援装置を装着した患者の脳波が入力すると、その患者の運動想起データと境界線との距離を算出して出力する。
【0012】
また、本発明のリハビリテーション支援システムでは、SVMのサンプルデータとして、健常者の脳波データを用いても良いし、それに代えて、片麻痺患者の麻痺していない側の脳波データを用いても良い。
【0013】
また、本発明のリハビリテーション支援システムでは、制御ユニットに、運動支援装置を装着した患者の麻痺した体肢部分にセラピストが手を添えて運動させたときの用手運動を記憶する記憶部を設け、患者の自発意思に基づいて運動支援装置を駆動するとき、記憶部に記憶された用手運動を再現させることが望ましい。
患者の自発意思に基づいて、患者の症状に合った運動が運動支援装置の支援の下で行われる。
【0014】
また、本発明のリハビリテーション支援システムでは、運動支援装置として、図5に示すアームロボットを用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、脳に障害を持つために体肢が麻痺した患者のリハビリテーションを効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るリハビリテーション支援システムの構成を示すブロック図
図2】SVMの動作を説明する図
図3】本発明の実施形態に係るリハビリテーション支援方法の手順を示すフロー図
図4】用手運動療法の例を示す図
図5】上肢運動を支援するアームロボットを示す図
図6図5のアームロボットを患者に装着した状態を示す図
図7】従来のリハビリテーションシステムを示す図
図8】各電極で検出される脳波データの相互相関関係を示す図(健常者)
図9】各電極で検出される脳波データの相互相関関係を示す図(脳障害者)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るリハビリテーション支援システムの構成をブロック図で示している。
このシステムは、上肢が麻痺した患者のリハビリテーションを支援する運動支援装置(アームロボット)10と、脳波を解析する脳波解析装置20と、脳波解析装置20の解析結果に基づいてアームロボット10を駆動する制御ユニット30とを備えている。
アームロボット10は、図5に示すものであり、上腕を固定する固定部111を備える上腕駆動アーム11と、前腕を固定する固定部121を備える前腕駆動アーム12と、図5では明示していないが、制御ユニット30の指示に基づいて上腕駆動アーム11及び前腕駆動アーム12を駆動する駆動部13と、上腕駆動アーム11及び前腕駆動アーム12の動きの情報を運動療法情報として取得する運動療法情報取得部14とを備えている。
【0019】
脳波解析装置20は、頭皮上に配置された電極を介して脳波を取得する脳波情報取得部21と、取得した脳波を記録する脳波情報記録部22と、記録された脳波情報を解析する脳波情報解析部23と、を備えている。脳波情報解析部23については、後に詳述する。
また、制御ユニット30は、アームロボット10の運動療法情報取得部14から送られて来る運動療法情報を記録する運動療法情報記録部31と、記録された運動療法情報から関節運動の速さや力・運動方向等を解析する運動療法情報解析部32と、脳波情報解析部23の解析結果を受けてアームロボット10を駆動するかどうかを決定する駆動判定部33と、駆動判定部33がアームロボット10の駆動を決定したとき、運動療法情報解析部32で解析されたアームロボット10の動きを駆動部13に再現させる運動療法再現制御部34と、を備えている。
【0020】
脳波解析装置20の脳波情報解析部23は、特許請求の範囲で言う「機械学習手段」に相当するものであり、サポートベクターマシン(SVM)により機械学習し、脳波を解析する。脳波情報解析部23は、コンピュータがプログラムで規定された処理を実行することにより実現される。
脳波情報解析部23の機械学習のために、まず、多数の健常者が上肢の運動をイメージしたとき(または、実際に上肢を動かす動作を行ったとき)の脳波が脳波情報取得部21で取得される。
脳波情報解析部23は、その多数の脳波から、健常者が上肢運動を想起したときに信号変化が現れる、相互相関関係が高い複数の電極の位置を学習する。そして、健常者が上肢運動を想起したときの脳波から、それらの電極で検出される脳波信号のパワースペクトルを成分とする健常者の運動想起データを求める。
同様に、脳波情報解析部23は、脳に障害があるヒトが上肢運動をイメージしたとき(または、実際に上肢を動かす動作を行ったとき)の多数の脳波をサンプルデータに用いて、学習した前記電極で検出される脳波信号のパワースペクトルを成分とする“脳に障害があるヒト”の運動想起データを求める。
【0021】
次いで、脳波情報解析部23は、健常者の運動想起データと“脳に障害があるヒト”の運動想起データとを分ける境界線を機械学習する。
いま、運動想起データが、相互相関関係の高い二つの電極で検出される脳波信号のパワースペクトルを成分としていると仮定する。
この場合、健常者及び“脳に障害があるヒト”の運動想起データは、図2に示すように、X軸が一方の電極で検出される脳波信号のパワースペクトル成分の大きさを表し、Y軸が他方の電極で検出される脳波信号のパワースペクトル成分の大きさを表す特徴空間にプロットすることができる。
【0022】
この特徴空間に表示した健常者の運動想起データと“脳に障害があるヒト”の運動想起データとを分ける境界線を得るために、脳波情報解析部23は、マージン(引いた境界線とデータとの最短距離)が最大になるように境界線を設定する。
なお、ここでは、二次元の特徴空間を例に説明したが、相互相関関係の高い電極の数が増えれば、それに応じて、特徴空間の次元数は多くなるし、電極の数が1であれば、特徴空間は1次元の空間になる。
【0023】
脳波情報解析部23は、こうした前処理を行った後、アームロボット10に装着された患者の脳波を取得すると、学習した前記電極で検出された脳波信号のパワースペクトルを成分とする患者の運動想起データを算出して前記特徴空間にプロットする。そして、患者の運動想起データと境界線とを比較し、患者の運動想起データが、前記特徴空間の健常者の運動想起データが存在する第一領域にあるか、“脳に障害があるヒト”の運動想起データが存在する第二領域にあるかを識別する。第二領域にある場合は、患者の運動想起データと境界線との最短距離を算出する。
脳波情報解析部23は、この識別結果や境界線との最短距離の情報を制御ユニット30の駆動判定部33に伝える。
【0024】
駆動判定部33は、患者の運動想起データが特徴空間の第一領域にある場合、または、境界線との最短距離が所定距離未満である場合に、運動療法再現制御部34にアームロボット10を駆動するように指示する。
この指示を受けた運動療法再現制御部34は、アームロボット10の駆動部13に、運動療法情報解析部32で解析されたアームロボット10の動きを再現させる。
【0025】
図3のフロー図は、このシステムによる運動支援の手順を示している。
多数の健常者の脳波をサンプルデータに用いて、上肢を動かそうと意図したときに脳波の変化が現れる電極を識別し、その電極で検出される脳波データを上肢運動の運動想起データとして設定する(ステップ1)。健常者の運動想起データと、上肢が麻痺しているヒト(麻痺者)が上肢を動かそうと意図したときに前記電極で検出される運動想起データとを多数個集め、それらを運動想起データの特徴空間にプロットして、健常者の運動想起データと麻痺者の運動想起データとを分ける境界線を求める(ステップ2)。
次いで、上肢が麻痺した患者のリハビリテーションを支援するため、アームロボット10を患者に装着し(ステップ3)、患者の上肢をセラピストが持って動かす用手運動療法を実行する。図4は、この時の様子を示している。このとき、アームロボット10の動きの情報が運動療法情報取得部14で取得され、制御ユニット30の運動療法記録部31に記録される(ステップ4)。
【0026】
次いで、アームロボット10を装着した患者の脳波を測定する(ステップ5)。
患者が上肢を動かそうと意図したときの脳波から、運動想起データ用に特定された前記電極で検出される患者の運動想起データが測定される。そして、患者の運動想起データが、特徴空間においてステップ2で求めた境界線とどのような関係にあるかが脳波情報解析部23で解析される(ステップ6)。
患者の運動想起データが、特徴空間の健常者の運動想起データが存在する第1領域にあれば(ステップ7でYes)、アームロボット10による運動支援が開始される(ステップ10)。患者の運動想起データが第1領域に無い場合は(ステップ7でNo)、患者の運動想起データと境界線との最短距離が閾値未満であるかが解析され、閾値未満であれば(ステップ8でYes)、アームロボット10による運動支援が開始される(ステップ10)。
【0027】
患者の運動想起データと境界線との最短距離が閾値未満でないときは(ステップ8でNo)、上肢を動かすために患者がどのようにイメージすれば良いかが指導され、あるいは、ステップ8での閾値を下げるように調整された後(ステップ9)、ステップ5からの手順が繰り返される。
【0028】
ステップ7またはステップ8でYesの場合、制御ユニット30の運動療法再現制御部34は、運動療法情報記録部31に記録された用手運動療法がアームロボット10で再現されるように、アームロボット10の駆動部13を制御する。
用手運動療法の時間または回数が規定値に達すると(ステップ11でYes)、上肢運動療法で行われた手技が記録されて(ステップ12)、終了する。ステップ11でNoの場合は、ステップ5からの手順が繰り返される。
【0029】
このように、このシステムでは、アームロボット10を装着した患者の脳波から健常者の運動想起データにある程度類似するデータが検出されると、アームロボット10を駆動するように構成している。アームロボット10が駆動すると、患者は、思った通りに上肢が動いた、という疑似体験を経験することになる。そうした経験の積み重ねは、リハビリテーションの効果を高め、患者の脳波から検出される運動想起データが、健常者のそれにより近づく、と言う好循環を生むことになる。
【0030】
ステップ8における閾値は、リハビリテーションの進度に応じて小さくしても良い。
また、ステップ6では、健常者の運動想起データと患者の運動想起データとが同一位置の電極で検出された脳波データから成るものとして説明した。例えば、図9において、健常者の運動想起データが右半球の電極F4及び電極C4で検出された脳波データを成分としている場合、患者の運動想起データも電極F4及び電極C4で検出された脳波データを成分としているものと説明した。
しかし、患者の運動想起データには、右半球の電極F4及び電極C4で検出された脳波データを成分とする運動想起データだけで無く、左半球の対応する電極F3及び電極C3で検出された脳波データを成分とする運動想起データを含めても良い。
これは、脳梗塞などによって失われた一方の側の脳の機能が、反対側の脳によって“肩代わり”される現象が見られるためである。
【0031】
また、ステップ1、2の健常者の脳波の代わりに、片麻痺患者の麻痺していない側の脳波をサンプルデータとして用いても良い。
ここでは、上肢が麻痺した患者のリハビリテーションについて説明したが、本発明は、その他の体肢部分が麻痺した患者のリハビリテーションにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のリハビリテーション支援システム及び支援方法は、脳に障害を持つために体肢が麻痺した患者のリハビリテーションを効果的に行うことが可能であり、リハビリ施設や病院等において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 運動支援装置(アームロボット)
11 上腕駆動アーム
12 前腕駆動アーム
13 駆動部
14 運動療法情報取得部
20 脳波解析装置
21 脳波情報取得部
22 脳波情報記録部
23 脳波情報解析部
30 制御ユニット
31 運動療法情報記録部
32 運動療法情報解析部
33 駆動判定部
34 運動療法再現制御部
111 固定部
121 固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9