(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598322
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】保温保冷具
(51)【国際特許分類】
A41D 1/00 20180101AFI20191021BHJP
A61F 7/10 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
A41D1/00 E
A61F7/10 311Z
A41D1/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-102748(P2018-102748)
(22)【出願日】2018年5月29日
(65)【公開番号】特開2019-60065(P2019-60065A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2017-198024(P2017-198024)
(32)【優先日】2017年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517356759
【氏名又は名称】田中 章子
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】特許業務法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 章子
【審査官】
姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/108235(WO,A1)
【文献】
特開2012−161391(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3187782(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3172210(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3105925(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/00
A61F 7/10
A41D 13/00
A61F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温保冷シートからなる保温保冷具であって、
前記保温保冷シートは、一層又は多層の防水樹脂製の表地シートと裏地シートとが、複数の小室を有する袋状体をなすように防水糸で縫い合わされてなり、前記小室各々にはゲル状素材が封入され、前記表地シートと前記裏地シートとの縫い合わせ箇所には、前記袋状体を形成する前記表地シートと前記裏地シートとは別体の少なくとも2枚の帯状シートが重ねて挟み込まれ、前記帯状シートは縫い目と平行に配置されることを特徴とする保温保冷具。
【請求項2】
前記表地シートと前記裏地シートとは前記小室を隔てる縫い合わせ線が交差しないように縫い合わされることを特徴とする請求項1記載の保温保冷具。
【請求項3】
前合わせベストの形状に形成され、前記表地シートと前記裏地シートとは前記小室を隔てる縫い合わせ線が前記ベストの左右方向と平行又は前記左右方向に対して若干傾斜するように縫い合わされることを特徴とする請求項1記載の保温保冷具。
【請求項4】
前記保温保冷シートにより形成された、動物の背側を覆う背被覆体と前記動物の腹側を覆う腹被覆体とを組み合わせてなり、
前記背被覆体と前記腹被覆体とには、前記動物の首周り形状に沿って切り欠かれた首周り切欠部と、前記動物の脚周り形状に沿って切り欠かれた左右一対の脚周り切欠部と、がそれぞれ形成され、
前記背被覆体と前記腹被覆体とは、前記脚周り切欠部の近傍に設けられる面ファスナをそれぞれ有し、前記面ファスナによって、前記背被覆体と前記腹被覆体とは結合可能であることを特徴とする請求項1に記載の保温保冷具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温保冷具に関する。
【背景技術】
【0002】
高温に晒される屋外作業時、特に炎天下における作業時に、早急に人体を冷却する効果を得られる保冷機能を有する衣料が必要とされている。また、体温の制御が得意でない動物(例えば犬など)にもこのような衣料は有効である。このような衣料には身体を冷却する効果の他、簡単に着用することができ、軽量であることが求められる。
【0003】
そのような衣料としては、例えば、衣服形のナイロンシートを貼り合わせ、その間隙に不凍ゲルを注入して保持させ、上体位を冷却する効果のある衣服がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、冷却水をベストに注入し吸収シートに保冷水を浸すことで冷却効果が得られるものがある(特許文献2参照)。
【0005】
ところで、保冷機能を有する衣料その他の保冷具における保冷剤としては、高吸水性ポリマーを水で膨潤させたゲルを袋体に封入したもの等が用いられている。そして、流動性のあるゲルが袋体の内部で部分的に偏ることを防止するため、縫製によって袋体の内部を複数の小室に区分し、個々の小室の中にゲルを封入することが行われている。
【0006】
更に、縫製によって袋体の内部を複数の小室に区分する場合、縫製部分(縫い目)からゲルが漏れ出すことを防止するため、いくつかの方法が提案されている。例えば、袋体を内布と外布の二重構造とし、その内布を高吸水性ポリマー粒子が通過しない程度の縫い目密度で縫合し、ゲルの漏れを防止する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
また、袋体を構成する布と高吸水性ポリマーとの間に不織布を介在させてゲルの漏れを防止する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0008】
更に、縫製によって形成される縫い目線の上(袋体の外側)に、目止め用の樹脂膜を形成し、ゲルの漏れを防止する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭58−18912号公報
【特許文献2】国際公開第2013/105478号
【特許文献3】特開2012−161391号公報
【特許文献4】特開2013−85923号公報
【特許文献5】実用新案登録第3088977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、保冷機能を有する衣服を作るには、下記の(ア)から(カ)に例示するような様々な課題があり、実現は困難であった。(ア)従来の保冷剤ブロックは規格で形状が決まっており、長方形または正方形で、しかもサイズが小さい携帯サイズのものが殆どを占めている。従って、保冷剤の冷却効果を衣服全体にいきわたらせるためには、多数の保冷剤ブロックが必要である。(イ)衣服の形状に裁断した2枚のシートの間に保冷剤を挟み込むためには、2枚のシートを接着する必要があるが、曲線部分の接着が困難である。(ウ)冷却した際に凍結する保冷剤を用いると、冷却時に保冷剤が凍結し、身体に対する形状追従性を失うので、衣服を着用することが困難である。また、うまく冷却しないと、保冷剤が均一に分布せず、特定の部位に偏在してしまう。(エ)冷却した際に凍結する保冷剤を用いると、衣服のサイズによっては一般家庭の冷凍庫に収まらない。(オ)ゲル状素材が解凍されて流動性が上がると、自重により短時間で衣服の裾まで流れ、その部分に溜まってしまうため、衣服の上部側(例えば肩部分等)において冷却効果が得られない。(カ)保冷剤が解凍されて流動性が上がると、2枚のシートの縫い目からゲル状素材が漏れる。
【0011】
特に、前記(カ)の課題、即ち、縫い目から保冷剤が漏れるという問題は深刻であった。また、上記の課題は、保冷機能を衣服だけに限定されるものではなく、保冷機能を備える保冷具、保温機能を有する保温具、及び保温保冷具にも適用される。
【0012】
本発明は、ゲル状素材の漏れを有効に抑制することができる保温保冷具を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態に係る保温保冷具は、保温保冷シートからなる。前記保温保冷シートは、
一層又は多層の防水樹脂製の表地シートと裏地シートとが、複数の小室を有する袋状体をなすように防水糸で縫い合わされてなり、前記小室各々にはゲル状素材が封入され、前記表地シートと前記裏地シートとの縫い合わせ箇所
には
、前記袋状体を形成する前記表地シートと前記裏地シートとは別体の少なくとも2枚の帯状シートが
重ねて挟み込まれ
、前記帯状シートは縫い目と平行に配置される前記表地シートと前記裏地シートとは前記小室を隔てる縫い合わせ線が交差しないように縫い合わされるのが好ましい。人用の保温保冷具は、典型的には、前合わせベストの形状に形成される。このとき、前記表地シートと前記裏地シートとは前記小室を隔てる縫い合わせ線が前記ベストの左右方向と平行又は前記左右方向に対して若干傾斜するように縫い合わされる。
【0014】
動物用の保温保冷具は、典型的には、前記保温保冷シートにより形成された、動物の背側を覆う背被覆体と前記動物の腹側を覆う腹被覆体とを組み合わせてなる。このとき、前記背被覆体と前記腹被覆体とには、前記動物の首周り形状に沿って切り欠かれた首周り切欠部と、前記動物の脚周り形状に沿って切り欠かれた左右一対の脚周り切欠部と、がそれぞれ形成され、前記背被覆体と前記腹被覆体とは、前記脚周り切欠部の近傍に設けられる面ファスナをそれぞれ有し、前記面ファスナによって、前記背被覆体と前記腹被覆体とは結合可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ゲル状素材の漏れを有効に抑制することができる保温保冷具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る保冷衣服を着用した状態を示す使用状態図であって、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【
図3】
図2の保冷衣服を平面的に展開した状態を示す平面図である。
【
図4】
図2の保冷衣服の縫い合わせ箇所を厚さ方向に切断した断面を模式的に示す図である。
【
図5】
図4に示す縫い合わせ箇所のA−A断面を模式的に示す図である。
【
図6】
図5に示す縫い合わせ箇所の形成前の状態を模式的に示す図である。
【
図7】
図2の保冷衣服の構成部材を示す分解図である。
【
図8】
図2の保冷衣服の端部の形成前の状態を模式的に示す図である。
【
図9】
図2の保冷衣服の端部の形成後の状態を模式的に示す図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る保冷衣服を着用した状態を示す使用状態図であって、(a)は正面図、(b)は斜視図である。
【
図11】
図10の保冷衣服を平面的に展開した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る保温保冷具は、保冷機能を備える衣服(以下、保冷衣服という)を例に説明する。保冷衣服は、これを着用した人または動物を冷却するためのものである。その冷却効果は、一定時間持続する。冷却効果が低下した場合であっても、保冷衣服を冷凍庫や保冷バッグ、保冷容器に収納し、再度冷却することで、繰り返し使用することができる。
【0018】
本実施形態に係る保冷衣服は、前記の課題を以下のように解決することができる。
(ア)の課題に対しては、冷却剤ブロックを使用する構成ではなく、表地シートと裏地シートとの間の空隙にゲル状素材を封入する構成を採用した。これにより、加工自由度が向上し、表地シート、裏地シートを任意の形に裁断し、着用する人または動物の身体形状に合った保冷衣服を作ることができる。
(イ)の課題に対しては、表地シートと裏地シートを縫い合わせる方法を採用した。これにより、工業用ミシンで縫製することができ、2枚のシートを接着する場合のように曲線部分の接着が困難ということはなく、曲線加工も容易である。この際、防水糸を使用するため、そこからゲル状素材が染み出すこともない。
(ウ)の課題に対しては、冷却すると凍結して固まる保冷剤ではなく、凍結しても固まらないゲル状素材を採用した。これにより、保冷衣服を冷却した後もその柔軟性を維持することができ、着用し易いという利点がある。
(エ)の課題に対しては、冷却すると凍結して固まる保冷剤ではなく、凍結しても固まらないゲル状素材を採用した。これにより、冷却後も保冷衣服を任意箇所で折り畳むことができ、一般家庭の冷凍庫などにも収めることができる。特に、縫い合わせ箇所を折り目とした場合、折り畳んだ後の保冷衣服の厚みを抑制することができる。
(オ)の課題に対しては、保冷衣服の左右方向に沿って表地シートと裏地シートとを縫い合わせ、上下方向に区画された小室を多数備える構成を採用した。これにより、ゲル状素材が解凍されても、一気に裾まで落ちることはなく、各小室で留まらせることができる。したがって、ゲル状素材が保冷衣服の中で偏在する不具合を防止することができる。つまり、冷却機能を発揮する箇所を保冷衣服の全体に分散させることができ、保冷衣服の上部側(例えば肩部分等)も確実に冷却することができる。
(カ)の課題に対しては、表地シートと裏地シートの縫い合わせ箇所には、両シートの間に少なくとも2枚の樹脂製の帯状シートを挟んで縫い合わせる構成を採用した。これにより、縫い目の針穴からゲル状素材が漏れる事態を有効に抑制することができる。
【0019】
着用する人または動物の身体形状に整合させることができ、また、保冷剤として固まらないゲル状素材を採用することで、着用時の肌に対する保冷衣服の密着性を向上させる。これにより、冷却効果が高まり、体温を効率的に下げて正常値に近づけることができ、熱気から身を守り、熱中症状を予防することができる。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る保冷衣服について詳細に説明する。
本実施形態に係る保冷衣服は、保温保冷シートからなる。この保温保冷シートは、表地シート2、裏地シート4、防水糸12及びゲル状素材22を備える。
【0021】
表地シート2と裏地シート4とはゲル状素材22が充填される複数の小室を備える袋状体を構成する。典型的には、表地シート2と裏地シート4はゲル状素材22が生地表面から漏れないよう防水樹脂製である。防水性樹脂の種類は特に限定されず、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)等の従来公知の合成樹脂を好適に用いることができる。もちろん、表地シート2と裏地シート4は、防水樹脂層と防水機能のない材質の層とを有するような多層構造であってもよい。さらに、表地シート2と裏地シート4とは全体として防水性を有していればよく、全ての部分が防水性樹脂から構成されていなくても良い。
【0022】
防水糸12は表地シート2と裏地シート4とを縫い合わせるための糸である。防水性のない糸で表地シート2と裏地シート4を縫い合わせると、糸にゲル状素材22が浸透し、糸を伝ってゲル状素材22が漏れ出すおそれがある。従って、防水性の素材からなる防水糸12を使用する。防水性素材の種類は特に限定されず、例えばナイロン等の従来公知の合成樹脂を好適に用いることができる。
【0023】
ゲル状素材22は高吸水性ポリマーに含水させたゲル等が好適に用いられる。高吸水性ポリマーの種類は特に限定されないが、例えばポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム等の従来公知の高吸水性ポリマーを好適に用いることができる。このゲル状素材22は冷凍庫に投入した際に凍ることのない不凍性のゲルからなるものであることが好ましい。
【0024】
図1乃至
図3に示すように、保冷衣服1は、前合わせベストの形状の表地シート2と裏地シート4とが、複数の小室10を有する袋状体をなすように防水糸12で縫い合わされてなる。前合わせベストの形状に形成することで、保冷衣服1の着脱が容易になる。
【0025】
表地シート2と裏地シート4とは、典型的には小室10を隔てる縫い合わせ線がベストの左右方向と平行になるように縫い合わされる。もちろん、ベストの左右方向に対して若干傾斜した方向に沿って縫い合わされてもよい。これにより、表地シート2と裏地シート4とからなる袋状体は防水糸12によって上下に区画される。小室10各々にはゲル状素材22が封入される。このような構成は、ベストを着用した状態で、ゲル状素材22が解凍されても、それが一気に裾まで落ちることはなく、各小室10で留まらせる。従って、ゲル状素材22が保冷衣服1の中で偏在する不具合を防止することができ、保冷衣服1の上部側(例えば肩部分等)も確実に冷却することができる。好ましくは、表地シート2と裏地シート4とは小室10を隔てる縫い合わせ線が交差しないように縫い合わされる。縫い合わせ線を交差させないことで、近接した位置に縫い針が2回打ち込まれることがなくなり、針穴が拡大することを回避し、ゲル状素材22の漏れを更に効果的に抑制することができる。
【0026】
図2に示すように、保冷衣服1の後身頃は、その下端側が左右に分割された左右一対の尾部を有する。一対の尾部の各々は後身頃の下端側に向かうほど幅狭となる燕尾状に形成されている。一対の尾部の各々に上下方向のみに区画された複数の小室が形成されていることが好ましい。後身頃を燕尾状に形成することで、後身頃の中央に三角形状の切欠部が形成されることになり、保冷衣服1の軽量化を図ることができる。また、この切欠部を形成することで、後身頃に左右に区画された小室を形成することができ、袋状体の区画の細分化を図ることができる。これにより、ゲル状素材22の偏在を更に防止することができる。すなわち、後身頃の中央に切欠部を形成することは、保冷衣服1の軽量化と冷却効果の効率化とを両立する。もちろん、衣服のデザインに応じて、または冷却する部位に応じて任意箇所に切り欠きを設け、同様の効果を得ることができる。
【0027】
図4乃至
図6に示すように、表地シート2と裏地シート4との縫い合わせ箇所のうち、複数の小室を区画する縫い合わせ箇所は、表地シート2と裏地シート4の間に、少なくとも2枚の樹脂製の帯状シート6,8が挟み込まれる。帯状シート6,8を構成する樹脂の種類は特に限定されず、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)等の従来公知の合成樹脂を好適に用いることができる。但し、前記(3)で説明したように、弾性・柔軟性を有する材料であることが好ましい。そのような観点から、帯状シート6,8がポリウレタン樹脂からなるものであることが好ましい。
【0028】
発明者は、試作と効果測定とを繰り返し、表地シート2と裏地シート5との間に、少なくとも2枚の帯状シート6,8を挟み込むことにより、縫い目の針穴からゲル状素材22が漏れることを有効に抑制することができることを発見した。これは、表地シート2と裏地シート4の間に、少なくとも2枚の樹脂製の帯状シート6,8が挟み込むことによって、以下の(1)から(4)の効果を発揮するためであると推測する。
(1)帯状シート6,8が邪魔板のように機能し、針穴方向へのゲル状素材22の侵入を阻害する。
(2)表地シート2と帯状シート6との間、帯状シート6、8の間、及び裏地シート4と帯状シート8との間の隙間にエア溜まりができ、そのエア溜まりにより、針穴方向へのゲル状素材22の侵入が妨げられる。
(3)縫製時において、帯状シート6,8は厚み方向に縮み、縫製後において、帯状シート6,8は元の厚みに戻ろうとする。この補正後の元の厚みに戻ろうとする力(復元力)によって、防水糸12の弛みが抑制され、縫い合わせを強固な状態で維持することができる。縫い合わせを強固にできることで、表地シート2、帯状シート6,8及び裏地シート4の重ね合わせ部分の密着性が維持され、針穴方向へのゲル状素材22の侵入が妨げられる。
(4)表地シート2、帯状シート6,8、裏地シート4の針穴の位置が前後左右にずれることによって針穴が塞がれるため、ゲル状素材22が漏れ難くなる。
【0029】
表地シート2と裏地シート4の間に挟み込まれる帯状シート6,8の枚数は、縫い合わせの容易性とゲル状素材22の漏洩の抑制との観点から、2枚であることが好ましい。ただし、これは、帯状シートが2枚以上、例えば3枚、4枚であることを否定するものではない。2枚を大きく超える場合、縫い合わせ箇所の厚みが厚くなり過ぎてしまい、縫い合わせが困難となる可能性がある。縫い合わせることができた場合であっても、縫製後の帯状シートの復元力によって防水糸12が切れてしまう可能性がある。
【0030】
なお、以上に説明したのは、複数の小室10を区画する縫い合わせ箇所の構成であるが、袋状体をなす表地シート2と裏地シート4の縁部にも同様の縫い合わせ箇所を設け、外縁部からゲル状素材22が漏れ出すのを防止することが好ましい。
【0031】
図7乃至
図9に縁部の構成例を示す。
図7に示すように、表地シート2および裏地シート4の縁部を包み込むように覆う縁部包部材16と、帯状シート6,8と同種の素材で構成した縁部シート18、20とを用意する。
図8に示すように、小室10を区画する縫い合わせ箇所と同様に、表地シート2と裏地シート4との間に縁部シート18、20を挟みこんだ状態で表地シート2と裏地シート4とを縫い合わせ、さらにその端部を包むように縁部包部材16で覆い、防水糸12で縫い合わせる。これにより、
図9に示すように、縫い合わせ部分が形成される。このような縫い合わせ構造とすると、小室10を区画する縫い合わせ部分と同様に、ゲル状素材22の漏洩を効果的に抑制することができる。
【0032】
本実施形態に係る保冷衣服は、人間用に限定されない。
図10に示す保冷衣服1Aは、動物用、具体的には犬用である。この保冷衣服1Aは、
図1に示す保冷衣服1と同様の構造の保温保冷シートからなる。即ち、複数の小室10A、10Bを区画する縫い合わせ箇所は
図4及び
図5で示した構造を採用し、表地シート2A,2Bと裏地シート4A,4Bの縁部については、
図7乃至
図9に示す構造を採用したものである。
【0033】
保冷衣服1Aは、動物の背側を覆う背被覆体50と動物の腹側を覆う腹被覆体70とを組み合わせてなる。背被覆体50と腹被覆体70とは互いに脱着自在であって、互いを結合することによって、犬の胴回りを覆う胴衣を形成することができるように構成されている。
【0034】
図10に示す保冷衣服1Aの背被覆体50には、動物の首周り形状に沿って切り欠かれた首周り切欠部52と、動物の脚周り形状に沿って切り欠かれた左右一対の脚周り切欠部54,56と、が形成されている。同様に、保冷衣服1Aの腹被覆体70には、動物の首周り形状に沿って切り欠かれた首周り切欠部72と、動物の脚周り形状に沿って切り欠かれた左右一対の脚周り切欠部74,76と、が形成されている。なお、背被覆体50の首周り切欠部の近傍にリード(綱)用の穴を形成しても良い。こうすることで、胴輪の上から保冷衣服1Aを着用させ、リード(綱)用の穴にリード(綱)を通し、外部に引き出すことができる。
【0035】
背被覆体50の脚周り切欠部54,56の前後には前後一対のフック状の面ファスナ58,60,62,64が付設されている。同様に、腹被覆体70の脚周り切欠部74,76の前後には前後一対のループ状の面ファスナ78,80,82,84が付設されている。これらフック状及びループ状の面ファスナによって、背被覆体50と腹被覆体70とが結合され、犬用の胴衣が構成される。即ち、背被覆体50の面ファスナ58を腹被覆体70の面ファスナ78に、背被覆体50の面ファスナ60を腹被覆体70の面ファスナ80に、背被覆体50の面ファスナ62を腹被覆体70の面ファスナ82に、背被覆体50の面ファスナ64を腹被覆体70の面ファスナ84にそれぞれ貼着することによって、背被覆体50と腹被覆体70とが結合される。なお、
図11において、符号2Bは表地シート、符号4Aは裏地シート、符号12Aおよび12Bは防水糸、符号16Aおよび16Bは縁部包部材を示す。
【0036】
本実施形態に係る保冷衣服は、熱中症状の予防や体温が上昇した身体を冷却するために使用するものである。この保冷衣服は、上下に区画された複数の小室にゲル状素材が封入されている。使用する際には、冷凍庫で8時間から10時間(約一晩)凍らせてから使用する。冷感を得られる時間は、人用と動物用とで異なり、使用する環境の温度条件等によっても異なるが、概ね1時間から最大で3時間ほどである。人用、動物用は身体に対して密着するように固定し、また脱衣も容易にするため、面ファスナを付設するとよい。これにより、保冷衣服を身体に確実に固定し、また、サイズの調整も可能となる。本発明の保冷衣服の構成を採用すれば、人用、動物用を問わず、400gから2kg程度であって、軽量であり、持ち運びもしやすい。通勤や通学の際に着用すれば、夏場などの高温環境下においても清涼感を得ながら移動することが可能となる。また、太陽の下で作業する作業員が着用すれば、熱中症を予防するとともに作業効率の改善が期待できる。
【0037】
なお、本実施形態に係る保冷衣服に、サイズに合わせた繊維素材の専用カバーを被せれば、低温やけどを予防することができ、また、カバーに結露を吸収させることもできるため、元々着衣していた洋服を汚さずに済む。カバーを着脱可能に構成すれば、洗濯することもでき、常に清潔に使用することができる。
【0038】
また、本実施形態は保温保冷シートを使って形成された保冷衣服を例に説明したが、保温保冷シートは、それ単独でマットとして使用することができる。さらに、保温保冷シートを使って、人(動物)が着用する又は使用する他の物、例えばネックピロー、枕カバー、マフラー、手袋、ズボンなどの保温保冷具を形成することも可能である。さらに、本実施形態では、衣服の全体が保温保冷シートにより形成されていたが、衣服の一部分、例えば襟部分が保温保冷シートにより形成されていてもよい。この場合、好適には、保温保冷シートで形成された衣服の一部分と他の部分とが脱着自在に構成される。
【0039】
本実施形態に係る衣服に使用されたゲル状素材は保冷剤としてだけではなく保温剤としても機能させることができる。つまり、本実施形態に係る衣服は、保温機能を有する衣服(以下、保温衣服という)としても使用することができる。保温衣服は、これを着用した人または動物を温めるためのものである。その保温効果は、一定時間持続する。保温効果が低下した場合であっても、保温衣服を電子レンジで温めるまたは湯煎する等の任意の方法で再度温めることで、繰り返し使用することができる。この場合、表地シートと裏地シートとは、耐寒性に加えて耐熱性に優れた樹脂、例えばシリコーン樹脂製であることが好ましい。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本実施形態に係る衣服、ゲル状素材の漏れを有効に抑制することができるため、人用または動物用の保温保冷具として好適に用いることができる。また、一般家庭のみならず、医療現場、災害避難時、熱中症対策等の用途で使用することができ、国内のみならず世界的にも需要を見込むことができ、産業上の利用価値は極めて大きいものである。
【符号の説明】
【0042】
1,1A:保冷衣服、2,2B:表地シート、4,4A:裏地シート、6、8:帯状シート、10:小室、12,12A,12B:防水糸、14:縫い針、16,16A,16B:縁部包部材、18,20:縁部シート、50:背被覆体、52:首周り切欠部、54,56:脚周り切欠部、58,60,62、64:面ファスナ、70:腹被覆体、72:首周り切欠部、74、76:脚周り切欠部、78,80,82、84:面ファスナ。