【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発研究開発項目(2)「木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発」」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点からカーボンニュートラルな資源としてバイオマス(動植物から得られる再生可能な有機性資源)が注目されている。例えば、糖質原料やデンプン原料といった食糧にもなる可食性バイオマスを用いたバイオエタノールの製造が挙げられるが、この場合は食糧との競合が問題となっている。一方、非可食性バイオマスは食糧との競合がなく、注目されている。例えば非可食性バイオマスの一つであるリグノセルロースバイオマスには、未利用の間伐材や製材工場での残材、住宅の解体で発生する木材等がある。リグノセルロース系バイオマスの利用は、廃棄物の抑制やエネルギー資源としての利用が期待されており、環境的観点から重要である。
【0003】
リグノセルロースバイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されている。リグニンはセルロースを繋ぎ合わせる接着分子である。その構造はフェニルプロパン骨格が重合したものであるため、芳香族化合物の資源として注目されている。
【0004】
リグニンはこれまで燃料や分散剤としての利用に限られていたが、近年、社会的背景から化学工業製品としての利用が模索されている。その一つとして、リグニンにはフェノール性の水酸基が含まれているため、フェノール樹脂等の樹脂原料として期待されている。
【0005】
樹脂物性はフェノール性水酸基同士の架橋構造によって大きく変化する。たとえば、芳香族骨格をベースとした剛直骨格型では、耐熱性(ガラス転移温度)は高いが、一般的に粘度が高くなるため、靭性に劣る等の問題がある。非特許文献1では、分子構造にスピロアセタール骨格を導入することで、水素結合を介した緩和により耐衝撃性、引張強度、伸張性が向上することが報告されている。
【0006】
これまでに知られているリグニンの化学的な修飾は、反応性の高いフェノール性の水酸基を用いているのみであり、その他のアルデヒド基等の官能基を用いて化学的に変成している例はない(非特許文献1)。リグニンは様々な結合様式が含まれているため、樹脂物性を調整することは困難であり、フェノール性水酸基同士を樹脂原料に適した構造に架橋する方法は確立されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、変性リグニンの新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に記載の変性リグニンの製造方法に関する。
(1)リグニンを多価アルコールと酸触媒下加熱する工程を含む、変成リグニンの製造方法。
(2)多価アルコールがペンタエリスリトール又はジトリメチロールプロパンである、前記変成リグニンの製造方法。
(3)リグニンがアルデヒド基、アセタール構造又はエノールエーテル構造を含む請求項1に記載の変成リグニンの製造方法。
(4)炭化水素を用いる請求項1に記載の変成リグニンの製造方法。
(5)トルエンを用いる請求項1に記載の変成リグニンの製造方法。
(5)前記変成リグニン及びエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。
(6)請求項1に記載の変成リグニンとエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、バイオマス又はバイオマスから分離したリグニンから、多価アルコールにより変性された変性リグニンを効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の変性リグニンの製造方法は、リグニンを含有するバイオマス又はバイオマスから分離したリグニンを酸触媒存在下、多価アルコールと炭化水素溶媒中において加熱する工程を含む。
【0013】
本発明におけるバイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものを言う。リグノセルロース系バイオマスとしては、未利用の間伐材や製材工場での残材、住宅の解体で発生する木材等の木質系バイオマス、稲わら、麦わら、もみ殻等の未利用バイオマス、サトウキビ、トウモロコシ、ユーカリ等の草本系バイオマスが挙げられる。
【0014】
リグニンとは木化した植物体中に15〜35%程度存在する芳香族高分子化合物である。本発明におけるリグニンを含有するバイオマスとはリグノセルロース系バイオマスであり、例えば、木化した植物体を起源とするバイオマスである。具体的には、スギ、ヒノキ、トウヒ、マツ、ユーカリ、ブナ、ヤナギ、タケなどの木材、麦わら、稲わら、もみ殻、サトウキビの絞りかす、テンサイ残渣、キャッサバ、ナタネ残渣、大豆残渣、トウモロコシの茎葉、アブラヤシの果実殻、タバコの残管、ネピアグラス、エリアンサスなどが挙げられる。
【0015】
本発明においては、リグニンはリグノセルロース系バイオマスから分離されたものを用いるが、リグノセルロース系バイオマスそのものを用いてもよい。本発明におけるバイオマスから分離したリグニンとは、本発明の工程とは別に予めバイオマスより分離されたリグニンであり、分離方法の違いにより、硫酸リグニン、塩酸リグニン、過ヨウ素酸リグニン、ジオキサンリグニン、アルコールリグニン、チオグリコール酸リグニン、リグノスルホン酸、クラフトリグニン、ソーダリグニン、Brauns天然リグニン、摩砕リグニン、セルロース糖化残渣リグニン、水熱リグニン、水蒸気爆砕リグニンなどが挙げられる。
【0016】
リグニンは芳香族高分子化合物で4−ヒドロキシフェニルプロパンを単量体とする重合体である。本発明において用いるリグニンはアルデヒド基、アセタール構造及び/又はエノールエーテル構造を持つものが好ましい。具体的には、アルコール溶媒中、酸条件で分解したリグニンが好ましい。本発明において変性リグニンとは、リグニンを多価アルコールで変性して得られるものをいう。変性リグニンは単一の構造を有するものではなく、2種以上の変性リグニンの混合物も含む。
【0017】
本発明において用いられる多価アルコールは、水酸基が4つ以上の多価アルコールである。具体例としては4価のアルコールであるペンタエリスリトール又はジトリメチロールプロパンが挙げられる。中でもジトリメチロールプロパンが好ましい。
【0018】
本発明において用いられる酸触媒としては、ブレンステッド酸、ルイス酸が挙げられる。ブレンステッド酸としては硫酸、塩酸、硝酸、メタンスルホン酸等であり、ルイス酸としては三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、四塩化錫、三塩化鉄、塩化アルミニウム等が挙げられる。このうち、硫酸、メタンスルホン酸、塩化アルミニウムが好ましく、本発明の変性リグニンの収率が最も高い硫酸が最も好ましい。
【0019】
本発明において用いられる酸触媒の使用量は、少なすぎると反応が進行しにくく、また多すぎると反応後の除去が困難である理由から、使用する溶媒に対し0.01質量%〜5質量%で、好ましくは0.05質量%〜2質量%である。
【0020】
本発明はリグニンを多価アルコールと酸触媒下加熱する工程を含むが、その際、炭化水素を溶媒として用いてもよい。
【0021】
本発明において用いられる炭化水素は、炭素数が6〜10の炭化水素であることが好ましく、具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、ガソリン、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、ミネラルスピリット、リモネンが挙げられる。回収・再利用にエネルギーがかからず容易な事から、沸点は150℃以下が好ましい。また、本発明により得られる低分子リグニンの溶解性が良いことから芳香族炭化水素が好ましく、中でもトルエン、キシレンが最も好ましい。
【0022】
本発明の変性リグニンの製造法は以下の工程を含む。
(1)リグニンを含有するバイオマスまたはバイオマスから分離したリグニンと多価アルコールを炭化水素溶媒に懸濁する。
(2)酸触媒を加え、生成する水又はアルコールを系外に留去しながら加熱する。
(4)反応溶液に水を加えろ過する。
(5)溶媒を水層と分離する。
(6)溶媒を留去し変性リグニンを得る。
【0023】
リグニンを含有するバイオマスまたはバイオマスから分離したリグニンと多価アルコールを炭化水素溶媒に懸濁する際の温度は通常10〜50℃であるが、諸条件に応じて適宜変更してよい。
【0024】
リグニンと多価アルコールへの酸触媒の添加方法に制限はない。酸触媒が十分に溶解しない場合は懸濁させて反応を行っても良い。リグニン、多価アルコール又は酸触媒が十分に溶解しない場合は、炭化水素、又は、炭化水素及びアルコールの混合溶媒を用いてもよい。酸触媒は直接加えても、炭化水素もしくはアルコール、炭化水素及びアルコールの混合溶媒のいずれかに溶解し加えてもよい。炭化水素もしくはアルコール、炭化水素及びアルコールの混合溶媒のいずれかに溶解し加える場合は炭化水素及びアルコールの混合溶媒の混合比が好ましい範囲となるようにする。酸触媒を加える温度は10〜50℃であるがこれにこだわらない。
【0025】
本発明の加熱工程の温度は、変性リグニンが製造できる限り特に限定されないが、40℃〜150℃であることが好ましい。温度が高すぎると、バイオマス中にセルロース成分等が存在している場合、「フルフラール」、「レボグルコセノン」及び「レブリン酸」などの不純物が増加し、温度が低すぎると変性反応が十分に進行しないため、好ましくは50℃〜100℃で加熱する。
【0026】
加熱方法に特段の限定はない。反応液の容量等に応じて適宜選択できる。例えば反応液の入った容器をウォーターバス、オイルバス等公知の加熱装置で加熱するほか、マイクロ波の照射により加熱してもよい。
【0027】
加熱時間は、変性リグニンが製造できる限り特に限定されないが、加熱時間は短すぎると変成が十分に進行しないので、5分〜360分であり、10分〜120分がより好ましく、30分〜90分がさらに好ましい。
【0028】
加熱後、反応溶液を室温まで冷却し、通常行われる濾過・溶媒除去を行い、変性リグニンを精製する。精製手法に特段の限定はない。なお、濾過の際、酸触媒を取り除くために水を加える。水を加えて濾過する温度は10℃〜50℃である。50℃より温度が高いと得られた変性リグニンが分解する。
【0029】
水層と分離する温度は10℃〜50℃である。酸触媒の除去が十分でない場合はさらに水を加え洗浄する。必要に応じて水層から有機溶媒を用いて抽出しても良い。
【0030】
溶媒を溜去する場合は、使用する溶媒の沸点より高い温度で蒸発させ溜去する。高温にすると、リグニンの高分子化が進むので減圧下で行うのがよい。
【0031】
本発明の変性法では変性リグニンである誘導体を得ることができる。なお、得られる誘導体は1種又は種々の化合物の混合物であるが、個々の構造を全て解析することは困難である。代表的な誘導体として下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
一般式(I)中、R
1からR
4は同一又は異なっていてもよく、水素原子又はメトキシ基を示す。n
1とn
2は炭素数であって、0〜2(整数)であり、n
1とn
2の炭素数は異なってもよい。Xは4価のリンカーを示す。
【0034】
4価のリンカーとは、本発明において用いられる多価アルコール由来の構造である。例えば多価アルコールが4価のアルコールであるペンタエリスリトールの場合は式(II)の構造であり、4価のアルコールであるジトリメチロールプロパンであれば式(III)の構造である。
【0037】
本発明の分解方法により得られた変性リグニンはフェノール性水酸基を有するため、エポキシ樹脂と混合して熱硬化性の樹脂組成物として利用することができる。なお、該熱硬化性の樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂は本発明の分解方法により得られた変性リグニンを通常の方法でエポキシ化したもの、又は、他のエポキシ樹脂のいずれでもよい。
【0038】
次に、本発明の分解方法により得られた変性リグニンのエポキシ樹脂について説明する。
該エポキシ樹脂は、上記手法によって得られた変性リグニンを溶剤中において、エピハロヒドリンと反応させ、エポキシ化することにより得られる。本発明の分解方法により得られた変性リグニンが種々の化合物の混合物である場合、得られる本発明のエポキシ樹脂も種々の化合物の混合物となる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂を得る反応において用いるエピハロヒドリンとしては、エピクロルヒドリン、α−メチルエピクロルヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等が好ましく挙げられ、特に、工業的に入手が容易なエピクロルヒドリンが好ましい。エピハロヒドリンの使用量は、本発明のビスフェノール化合物の水酸基1モルに対し通常2〜100モルであり、経済性を考慮すると好ましくは2〜8モルである。通常エポキシ樹脂は、アルカリ金属酸化物の存在下でビスフェノール化合物とエピハロヒドリンとを付加させ、次いで生成した1,2−ハロヒドリンエーテル基を開環させてエポキシ化する反応により得られる。
【0040】
エポキシ化反応に使用できるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましく挙げられ、これらは固形物をそのまま使用しても、あるいはその水溶液を使用してもよい。水溶液を使用する場合は、該アルカリ金属水酸化物の水溶液を連続的に反応系内に添加すると共に、減圧下または常圧下で連続的に留出させた水及びエピハロヒドリンの混合液から分液により水を除去し、エピハロヒドリンのみを反応系内に連続的に戻す方法でもよい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、本発明のビスフェノール化合物等の水酸基1モルに対して通常0.9〜3.0モルであり、好ましくは1.0〜2.5モルであり、より好ましくは1.0〜2.0モルであり、特に好ましくは1.0〜1.3モルである。また、エポキシ化反応において、特にフレーク状の水酸化ナトリウムを用いることで、水溶液とした水酸化ナトリウムを使用するよりも得られるエポキシ樹脂に含まれるハロゲン量を顕著に低減させることが可能となる。更にこのフレーク状の水酸化ナトリウムは、反応系内に分割添加されることが好ましい。分割添加を行なうことで、反応温度の急激な減少を防ぐことができ、これにより不純物である1,3−ハロヒドリン体やハロメチレン体の生成を防止することができる。
【0041】
エポキシ化反応を促進するために、触媒を用いることができる。用いることができる触媒としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩が好ましく挙げることができる。4級アンモニウム塩の使用量としては、本発明のフェノール樹脂の水酸基1モルに対し通常0.1〜15gであり、好ましくは0.2〜10gである。
【0042】
反応温度は通常30〜90℃であり、好ましくは35〜80℃である。反応時間は通常0.5〜10時間であり、好ましくは1〜8時間である。反応終了後、反応物を水洗後、または水洗無しに加熱減圧下で反応液からエピハロヒドリンや溶媒等を除去する。また得られたエポキシ樹脂中に含まれるハロゲン量をさらに低減させるために、回収した本発明のエポキシ樹脂をトルエン、メチルイソブチルケトンなどの溶剤に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えて反応を行ない、閉環を確実なものにすることも出来る。この場合、アルカリ金属水酸化物の使用量は、本発明のビスフェノール化合物の水酸基1モルに対して通常0.01〜0.3モルであり、好ましくは0.05〜0.2モルである。反応温度は通常50〜120℃、反応時間は通常0.5〜2時間である。
【0043】
反応終了後、生成した塩を濾過、水洗などにより除去し、更に加熱減圧下で溶剤を留去することにより本発明のエポキシ樹脂が得られる。また、本発明のエポキシ樹脂が結晶として析出する場合は、大量の水に生成した塩を溶解した後に、本発明のエポキシ樹脂の結晶を濾取してもよい。このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂は、本発明のビスフェノール化合物に含まれるヒドロキシル基がグリシジル化された構造を有する。
【実施例】
【0044】
合成例1
窒素パージを施したフラスコに(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド(8.44g)を量りとり、THF(53mL)を加えた。反応溶液を氷浴で冷却し、カリウム tert−ブトキシド(4.6g)を加えた。10分間撹拌した後、THFに溶解させたシリンガアルデヒド(3.0g)を滴下して加えた。反応温度を室温に戻し、30分間撹拌した後に塩化アンモニウム水溶液を加えた。水層を酢酸エチルで三回抽出した後に、有機層を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過で硫酸マグネシウムを取り除いた後、溶媒をエバポレーターで留去した。組成生物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/ヘキサン−酢酸エチル)で精製した。温度計、攪拌機、冷却管及びディーン・スターク装置を付したフラスコに、生成物(2.8g)、メタノールに溶解させたジトリメチロールプロパン(1.68g)、p−トルエンスルホン酸(20mg)、トルエン(75mL)を仕込み、70度で1.5時間、窒素をバブリングしながら反応を行った。この間に生成したメタノールは系外へ留去した。反応終了後、系内の温度を室温に下げ、水を加えた。次いで、水層を酢酸エチルで三回抽出し、合わせた有機層を硫酸マグネシウムで脱水した。硫酸マグネシウムをろ過で取り除き、溶媒を減圧下、留去して、組成生物を得た。組成生物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/ヘキサン−酢酸エチル)で精製し、式(III)の架橋構造を有するビスフェノール化合物(2.7g)を得た。
【0045】
実施例1
木粉(ユーカリ、1.5φ)をマイクロ波反応容器に10g量りとり、トルエン(一級、純正化学株式会社)を120mL加えた。メタノールで100倍に希釈した硫酸(特級、純正化学株式会社)を13mL、メタノール(一級、純正化学株式会社)を17mL加えた。反応容器に蓋を取り付け、マイクロ波合成装置にセットした。マイクロ波を照射し、反応温度140℃で20分間加熱した。反応溶液の温度が室温まで下がった後に、水(75mL)を加え、桐山漏斗でろ過を行った。水層をトルエンで1回抽出し、有機層を塩水で洗浄し、ホモシリンガアルデヒドジメチルアセタール、ホモバニリルアルデヒドジメチルアセタールを含むリグニン溶液を得た。
【0046】
実施例2
実施例1で得られたリグニン溶液を温度計、攪拌機、冷却管及びディーン・スターク装置を付したフラスコに移し、メタノールに溶解させたジトリメチロールプロパン(202mg)、p−トルエンスルホン酸(10mg)を仕込み、50℃で2時間、窒素をバブリングしながら反応を行った。この間に生成したメタノールは系外へ留去した。反応終了後、系内の温度を室温に下げ、水(75mL)を加えた。次いで、水層を酢酸エチルで三回抽出し、合わせた有機層を硫酸マグネシウムで脱水した。硫酸マグネシウムをろ過で取り除き、溶媒を減圧下、留去して、茶色粘性個体として本発明の変性リグニン(913mg、9wt%)を得た。
得られた変性リグニンのHMQC NMRを
図1に示す。多価アルコールでの架橋構造を確認するために、標品である合成例1のHMQC NMRを
図2に示す。
図1と
図2の比較から、得られた変性リグニン中に合成例1の化合物と同一の式(III)の架橋構造を有する変性リグニンが含まれていることがわかる。
【0047】
実施例3
攪拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながら実施例2で得られた変性リグニン(0.9g)、エピクロロヒドリン(17.7g)、テトラエチルアンモニウムクロリド(14mg)、水(44mg)を加えて、90℃にまで昇温した。次いで30%水酸化ナトリウム水溶液(334mg)を添加した後、さらに60℃で30分間、75℃で30分間、90℃で30分間反応を行った。反応終了後水洗いを行い、有機層の溶媒を留去した。残留物にメチルイソブチルケトン(21mL)を加え溶解し、75℃にまで昇温した。撹拌下で30%水酸化ナトリウム水溶液(15mg)を加え、2時間反応を行った後、有機層を水洗いし、得られた有機層からロータリーエバポレーターを用いて、メチルイソブチルケトン等の溶媒を留去することで本発明のエポキシ樹脂(0.81g、90wt%)を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は387g/eqであった。
【0048】
実施例4
木粉をユーカリの代わりにスギを用いた以外は実施例1及び2と同様の操作を行い、本発明の変性リグニンを粘性茶色個体として6wt%の収率で得た。HMQC NMRにて実施例2と同一の式(III)の架橋構造を有する変性リグニンであることを確認した。
【0049】
実施例5
実施例4で得られた変性リグニン(0.9g)を用いたほかは実施例3と同様にして本発明のエポキシ樹脂(70wt%)を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は396g/eqであった。
【0050】
実施例6
実施例3、5で得られた本発明のエポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂(明和化成株式会社製H−1、水酸基当量103g/eq.)をエポキシ基と水酸基が当量比で1対1となるよう混合し、メチルエチルケトンに溶解させた。1wt%のトリフェニルホスフィンを加えた後に、溶媒を110℃、10分間乾燥させ、示唆走査熱量計により硬化物のガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
以上より、本発明の変成リグニンの製造方法により得られる変性リグニンが樹脂原料として有用であることが示された他、本発明のエポキシ樹脂もフェノールノボラックにより硬化することから、化学工業製品の原料として有用であることが明らかである。