特許第6598364号(P6598364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598364
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】塗膜転写具
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   B43L19/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-201745(P2015-201745)
(22)【出願日】2015年10月13日
(65)【公開番号】特開2017-74677(P2017-74677A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】田村 悠
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−029053(JP,A)
【文献】 特開2006−305839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース本体と、
前記ケース本体内に収容され、相互に連動して回転する供給リールおよび巻取リールと、
前記ケース本体に形成された開口部から突出して取り付けられた転写ヘッドと、
剥離可能な塗膜面が外側になるようにして前記転写ヘッドに掛け回され、前記供給リールから繰り出されて前記転写ヘッドを経由して前記巻取リールに巻き取られる転写テープと、
幅方向の両側に形成された一対の側片部を介して前記ケース本体または前記転写ヘッドに回動自在に取り付けられ、前記転写ヘッドに掛け回された前記転写テープの未使用部分をカバー部で覆う第1の位置と、当該未使用部分を露出させる第2の位置とに回動するヘッドカバーと、
前記カバー部における前記一対の側片部よりも幅方向内側に形成された棒状の弾性変形部と、
前記ヘッドカバーが取り付けられた前記ケース本体または前記転写ヘッドにおける前記ヘッドカバーの回動領域上の回動軸周りに形成され、前記弾性変形部の変形量が最大となる最大変形部が前記ヘッドカバーの回動途中の1箇所に設けられて当該ヘッドカバーの回動時に前記弾性変形部が摺動して弾性変形し、前記弾性変形部が前記最大変形部よりも前記第1の位置側にある場合には前記第1の位置に、前記第2の位置側にある場合には前記第2の位置に、前記ヘッドカバーを付勢する付勢手段と、
を備えたことを特徴とする塗膜転写具。
【請求項2】
前記弾性変形部は、前記ヘッドカバーの回動軸に向かって延びて形成されたアーム部であり、
前記付勢手段は、前記弾性変形部を前記ヘッドカバーの前記回動軸の軸方向に弾性変形させる段差部である、
ことを特徴とする請求項1記載の塗膜転写具。
【請求項3】
前記弾性変形部は、前記ヘッドカバーの回動軸に沿って延びて形成されたアーム部であり、
前記付勢手段は、前記弾性変形部を前記ヘッドカバーの回動軸の直交軸方向に弾性変形させる面状部である、
ことを特徴とする請求項1記載の塗膜転写具。
【請求項4】
前記弾性変形部の基部は、湾曲した形状に切り欠かれている、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の塗膜転写具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写テープに塗布された塗膜を被転写体に転写する塗膜転写具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば紙面に書かれた文字などに修正用の塗膜を転写するためのツールとして、あるいは、例えば紙面に糊状の塗膜を転写するためのツールとして、塗膜転写具が知られている。
【0003】
この塗膜転写具は、相互に連動して回転する供給リールと巻取リールとがケース内に収容され、2つの端部が供給リールと巻取リールとにそれぞれ固定された転写テープがケースの先端に形成された開口部から突出して取り付けられた転写ヘッドに掛け回された構造となっている。
【0004】
そして、使用時においては、ケースを把持して転写ヘッドを用紙などの被転写体に押し付けながら当該被転写体に沿って移動させることにより、供給リールから繰り出された転写テープに塗布された塗膜が被転写体に転写され、塗膜のなくなった転写後の転写テープが巻取リールに巻き取られるようになっている。
【0005】
ここで、転写ヘッドでは転写テープが露出しているために、塗膜転写具を使用しないときに、転写ヘッドに掛け回された転写テープの未使用部分に塵埃等が付着したり塗膜が剥落したりするおそれがある。そこで、このような事態を防止するために、当該部分を覆うためのカバーであるヘッドカバーを、転写テープの未使用部分を覆う第1の位置と、未使用部分を露出させる第2の位置とに回動可能に取り付けたものが提案されている。
【0006】
このようなヘッドカバーが取り付けられた塗膜転写具としては、例えば特許文献1(特開2009−029053号公報)に記載されたものがある。当該公報には、回動するヘッドカバーの取付軸部(枢着軸部)に設けられた付勢機構により、この付勢機構の一方を弾性変形させてヘッドカバーを第1の位置(閉止位置)と第2の位置(開成位置)とに選択的に付勢する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−029053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に記載のように、回動するヘッドカバーの取付軸部にさらに付勢機構を設け、取付軸部が回動と付勢という2つの機能を備えるようにすると、当該取付軸部の構造が複雑になる。すると、ヘッドカバーが第1の位置と第2の位置とに回動する動作を何度も繰り返したときに取付軸部に摩耗や変形が生じやすくなり、回動動作が不安定になるおそれが考えられる。
【0009】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、回動するヘッドカバーの取付軸部の構造を複雑化することなく、転写テープの未使用部分を覆う第1の位置と未使用部分を露出させる第2の位置とに付勢されるヘッドカバーを備えた塗膜転写具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の塗膜転写具は、ケース本体と、前記ケース本体内に収容され、相互に連動して回転する供給リールおよび巻取リールと、前記ケース本体に形成された開口部から突出して取り付けられた転写ヘッドと、剥離可能な塗膜面が外側になるようにして前記転写ヘッドに掛け回され、前記供給リールから繰り出されて前記転写ヘッドを経由して前記巻取リールに巻き取られる転写テープと、幅方向の両側に形成された一対の側片部を介して前記ケース本体または前記転写ヘッドに回動自在に取り付けられ、前記転写ヘッドに掛け回された前記転写テープの未使用部分をカバー部で覆う第1の位置と、当該未使用部分を露出させる第2の位置とに回動するヘッドカバーと、前記カバー部における前記一対の側片部よりも幅方向内側に形成された棒状の弾性変形部と、前記ヘッドカバーが取り付けられた前記ケース本体または前記転写ヘッドにおける前記ヘッドカバーの回動領域上の回動軸周りに形成され、前記弾性変形部の変形量が最大となる最大変形部が前記ヘッドカバーの回動途中の1箇所に設けられて当該ヘッドカバーの回動時に前記弾性変形部が摺動して弾性変形し、前記弾性変形部が前記最大変形部よりも前記第1の位置側にある場合には前記第1の位置に、前記第2の位置側にある場合には前記第2の位置に、前記ヘッドカバーを付勢する付勢手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の塗膜転写具は、上記請求項1に記載の発明において、前記弾性変形部は、前記ヘッドカバーの回動軸に向かって延びて形成されたアーム部であり、前記付勢手段は、前記弾性変形部を前記ヘッドカバーの前記回動軸の軸方向に弾性変形させる段差部である、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の塗膜転写具は、上記請求項1に記載の発明において、前記弾性変形部は、前記ヘッドカバーの回動軸に沿って延びて形成されたアーム部であり、前記付勢手段は、前記弾性変形部を前記ヘッドカバーの回動軸の直交軸方向に弾性変形させる面状部である、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の塗膜転写具は、上記請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、前記弾性変形部の基部は、湾曲した形状に切り欠かれている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
ヘッドカバーを付勢する機構は、カバー部における一対の側片部よりも幅方向内側に形成された棒状の弾性変形部と、ヘッドカバーの回動軸の周りに形成されてヘッドカバーを第1の位置または第2の位置に選択的に付勢する付勢手段で構成されており、ヘッドカバーの取付軸部には設けられていない。よって、ヘッドカバーの取付軸部は回動という単一の機能だけを備えることになり、ヘッドカバーの取付軸部の構造が複雑化することがなくなる。
【0015】
これにより、ヘッドカバーが第1の位置と第2の位置とに回動する動作を頻繁に繰り返しても、取付軸部には摩耗や変形は生じにくくなり、ヘッドカバーの回動動作が安定化する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る塗膜転写具の斜視図である。
図2図1の塗膜転写具の分解斜視図である。
図3】第1の実施の形態に係る塗膜転写具において、ヘッドカバーが第1の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図である。
図4】第1の実施の形態に係る塗膜転写具において、ヘッドカバーが第2の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図である。
図5】第1の実施の形態に係る塗膜転写具の要部であるヘッドカバーおよびその周辺部分を示す斜視図である。
図6】第1の実施の形態に係る塗膜転写具の第1の位置におけるアーム部と段差部との位置関係を示す説明図である。
図7図6に示す位置からヘッドカバーが第2の位置に向けて回動したときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図である。
図8】は図7に示す位置からヘッドカバーがさらに回動してアーム部が最大変形部に到達したときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図である。
図9図8に示す位置からヘッドカバーがさらに回動したときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図である。
図10図9に示す位置からヘッドカバーがさらに回動して第2の位置となったときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図である。
図11】本発明の第2の実施の形態に係る塗膜転写具において、ヘッドカバーが第1の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図である。
図12】第2の実施の形態に係る塗膜転写具において、ヘッドカバーが第2の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図である。
図13】第2の実施の形態に係る塗膜転写具の要部であるヘッドカバーおよびその周辺部分を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
(第1の実施の形態)
【0019】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る塗膜転写具の斜視図、図2図1の塗膜転写具の分解斜視図、図3は第1の実施の形態に係る塗膜転写具においてヘッドカバーが第1の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図、図4は第1の実施の形態に係る塗膜転写具においてヘッドカバーが第2の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図、図5は第1の実施の形態に係る塗膜転写具の要部であるヘッドカバーおよびその周辺部分を示す斜視図である。
【0020】
本発明の一実施の形態である塗膜転写具は、修正用の塗膜や糊状の塗膜などが塗布された転写テープを紙面に転写するために用いられるものであり、図1および図2に示すように、長さ方向に沿って縦に2分割され、一体化してケース本体1を形成する第1のケース部1aおよび第2のケース部1bを有している。
【0021】
図2に示すように、第1のケース部1aには、先端に嵌合穴3a−1,3b−1,3c−1,3d−1,3e−1を備えて第2のケース部1bに向けて延びる5本のシャフト3a,3b,3c,3d,3eが一体形成されており、第2のケース部1bにおけるこれらシャフト3a〜3eに対応した位置には、嵌合突起(図示せず)が形成されている。したがって、シャフト3a〜3eの嵌合穴3a−1〜3e−1に嵌合突起が嵌まり込むことにより第1のケース部1aと第2のケース部1bとが一体となり、内部空間を有するケース本体1が形成される。
【0022】
ケース本体1の先端には開口部4が形成されており、この開口部4から突出するようにして転写ヘッド5が取り付けられている。
【0023】
なお、第1の実施の形態の塗膜転写具のケース本体1は無色透明なプラスチック製であり、よって図1においては内部の部材が透けて見えるが、図面が煩雑になるためにこれらの部材は図示を省略している。但し、ケース本体1は無色透明である必要はなく、有色透明や不透明であってもよく、また、ケース本体1の材質はプラスチックに限定されるものではない。
【0024】
図2において、ケース本体1内には、相互に連動して回転する供給リール6および巻取リール7が収容されている。
【0025】
ここで、後方に位置する供給リール6は後方側のシャフト3aに回転自在に支持され、前方に位置する巻取リール7はシャフト3aよりも前方側のシャフト3bに回転自在に支持されている。また、供給リール6の一方側には大径のギア8が取り付けられており、巻取リール7には小径のギア(図示せず)がギア8と同じ側に設けられている。
【0026】
供給リール6のギア8と巻取リール7のギアとは間隔を開けて配置されており、これらのギア8の間に位置するようにして、中継ギア(図示せず)がケース本体1に回転自在に取り付けられている。中継ギアは大径のギア8および小径のギアと噛み合っており、よって、当該中継ギアを介して大径のギア8と小径のギアとが相互に結合(ギア結合)されている。これにより、供給リール6と巻取リール7とは連動して相互に同方向に回転する。
【0027】
なお、巻取リール7には図示しないラチェット機構が設けられており、これにより供給リール6と巻取リール7とは一方向(図2に示す場合には、時計回りの方向)のみに回転し、逆方向には回転できないようになっている。
【0028】
供給リール6には、転写テープTが巻き回されている。この転写テープTは、一方端が供給リール6に巻き付けられ、他方端が巻取リール7に巻き付けられており、修正用や糊状の剥離可能な塗膜面が外側になるようにして供給リール6から繰り出され、巻取リール7に巻き取られるようになっている。したがって、前述した供給リール6と巻取リール7とにおける一方向のみの回転方向とは、転写テープTが繰り出される方向であり、また転写テープTが巻き取られる方向である。
【0029】
なお、図2に示すように、本実施の形態では、転写テープTは供給リール6の下側から繰り出されて、巻取リール7の上側から巻き取られる走行経路となっていることから、供給リール6と巻取リール7とは相互に同方向に回転するようになっているが、走行経路が異なっていたり、供給リール6と巻取リール7との位置関係が逆になっていたりする場合には、供給リール6と巻取リール7とは相互に逆方向に回転する構造が採用されることがある。
【0030】
また、本実施の形態では、供給リール6と巻取リール7とはギア結合により連動して回転するようになっているが、両者の機械的な結合形態はギアに限定されるものではなく、ベルトなどであってもよい。
【0031】
供給リール6から繰り出された転写テープTは転写ヘッド5に掛け回されており、この転写ヘッド5を経由して巻取リール7に巻き取られるようになっている。
【0032】
なお、転写テープTは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等のプラスチックフィルムまたは紙からなる厚さ3〜60μmの長尺状体の片面もしくは両面にシリコーン樹脂等の離型層を形成して基材とし、この基材の片面に、公知の方法で粘着剤等を塗布することにより作製される。粘着剤としては、アクリル樹脂系、ビニル樹脂系、ロジン系、ゴム系等の粘着剤、あるいはこれらの粘着剤に架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、充填剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤等の助剤を適宜配合したものが用いられる。具体的には、基材の片面に粘着層を設けたものが粘着テープ(テープ糊)、基材の片面に隠蔽力のある顔料とバインダとしての高分子樹脂等からなる隠蔽層を設け、その上に粘着層を設けたものが修正テープ、基材の片面に蛍光着色層を設け、その上に粘着層を設けたものが蛍光テープである。基材の片面に形成される層の厚さは、例えば、乾燥後において約0.3〜60μmである。
【0033】
ここで、図2に詳しく示すように、前述したシャフト3cは、シャフト3aとシャフト3bとの間で、且つケース本体1の底面に対して僅かな隙間を空けて形成されている。また、シャフト3dは、シャフト3bおよびシャフト3cよりも前方側で、やはり同様にケース本体1の底面に対して僅かな隙間を空けて形成されている。
【0034】
転写テープTはこれらの隙間に通された配置となっており、よって、供給リール6から繰り出されて転写ヘッド5へと至る走行経路は、ケース本体1の底面に沿った経路となっている。これにより、転写テープTの走行経路と巻取リール7との間隔を広くとることができて、走行中の転写テープTと巻取リール7に巻き取られる転写テープTとの干渉が回避されることになる。
【0035】
なお、巻取リール7には、一対の円板状のテープガイド7aが、軸方向の両側に対向配置されている。このテープガイド7aは巻き取られる転写テープTの幅方向の自由な動きを規制するものであり、当該テープガイド7aによって、塗膜転写後の転写テープTは逸脱することなく巻取リール7に巻き取られる。
【0036】
ケース本体1の先端に形成された開口部4に取り付けられた転写ヘッド5は、転写テープTが掛け回されたヘッド本体部5aと、ヘッド本体部5aの両側において相互に対向して設けられた一対のガイド片5bとを備えている。
【0037】
ヘッド本体部5aの先端はガイド片5bから僅かに突出しており、転写ヘッド5を用紙などの被転写体に押し付けて塗膜を転写する際に、転写テープTの掛け回されたヘッド本体部5aが確実に被転写体に押し当てられるようになっている。ガイド片5bは、前述したテープガイド7aと同様に、転写テープTの幅方向の自由な動きを規制するものであり、このガイド片5bによって、塗膜を転写する転写テープTはヘッド本体部5aから逸脱することなく走行するようになる。
【0038】
このような転写ヘッド5において、ヘッド本体部5aの後方には固定部5cが形成され、固定部5cのさらに後方には、シャフト3eに嵌め込まれる孔5d−1の形成された嵌込部5dが形成されている。
【0039】
固定部5cの両側には突起片5c−1が形成されており、固定部5cの先端下部が開口部4の下部に当たり、突起片5c−1の側部および上部がケース本体1の側壁および当該ケース本体1の内側に突出して形成された規制片(図示せず)の下部にそれぞれ当たって横方向および上下方向が規制されるとともに、嵌込部5dの孔5d−1がシャフト3eに嵌め込まれて前後方向が規制されることにより、転写ヘッド5がケース本体1の前述した位置に固定されている。
【0040】
なお、本実施の形態においては、前述したヘッド本体部5aおよびガイド片5b、ならびに固定部5cおよび嵌込部5dは、相互に一体形成されている。但し、これらは別体となっていてもよい。
【0041】
図1図4に示すように、ケース本体1の先端下部にはヘッドカバー10が回動自在に取り付けられている。すなわち、ヘッドカバー10の一方端において幅方向の両側に設けられた側片部10cには、取付軸部を形成する一対の軸突起(図示せず)が互いに向かい合うようにして内側に形成されており、ケース本体1には、当該軸突起が嵌まり込む軸穴(図示せず)が形成されている。よって、側片部10cでケース本体1を挟むようにして軸突起を軸穴に嵌め込むことにより、ヘッドカバー10がケース本体1に対して回動自在となっている。
【0042】
なお、このヘッドカバー10は、転写ヘッド5に掛け回された転写テープTの未使用部分(図1および図2において、ヘッド本体部5aの下側に位置する部分)をカバー面(カバー部)10aで覆う第1の位置(図3に示す位置)と、未使用部分を露出させる第2の位置(図4に示す位置)とに回動するようになっている。
【0043】
したがって、塗膜転写具を使用するときには、ヘッドカバー10を第2の位置に回動して転写テープTの未使用部分を露出させる一方、使用後はヘッドカバー10を第1の位置に回動して転写テープTの未使用部分を覆うことにより、その未使用部分に塵埃等が付着したり塗膜が剥落したりするのが防止される。
【0044】
図3および図4に示すように、ヘッドカバー10のカバー面10aには、ヘッドカバー10の回動軸Aに向かって延びるようにして、弾性変形可能なアーム部11(弾性変形部)が形成されている。
【0045】
また、ケース本体1には、ヘッドカバー10の回動に伴って前述したアーム部11が摺動することで当該アーム部11を弾性変形させ、ヘッドカバー10を前述した第1の位置および第2の位置に選択的に付勢する段差部12(付勢手段)が、ヘッドカバー10の回動領域上における回動軸Aの周りに形成されている。
【0046】
図3図5に示すように、この段差部12は、回動軸Aの軸方向に膨らむように長くなって回動軸Aの周りに形成されており、摺動するアーム部11をヘッドカバー10の回動軸Aの軸方向に弾性変形させるようになっている。また、段差部12におけるヘッドカバー10の回動途中の1箇所(本実施の形態では、回動領域のほぼ中央部)には、最も回動軸Aの軸方向に膨らんだ箇所、すなわちアーム部11の変形量(変形荷重)が最大となる最大変形部12aが形成されている。
【0047】
したがって、弾性変形時においてアーム部11が変形荷重を除荷して元の形状に戻ろうとする性質を利用することにより、アーム部11が段差部12の最大変形部12aよりも第1の位置側(転写テープTの未使用部分をカバー面10aで覆う位置側)にある場合には、ヘッドカバー10は第1の位置に付勢されることになる。一方、アーム部11が段差部12の最大変形部12aよりも第2の位置側(転写テープTの未使用部分を露出させる位置側)にある場合には、ヘッドカバー10は第2の位置に付勢されることになる。
【0048】
なお、第1の位置では、ヘッドカバー10の回動軸Aの近傍に形成されたストッパ部10bがケース本体1に当接することにより、第2の位置では、ヘッドカバー10のカバー面10aがケース本体1に当接することにより、当該ヘッドカバー10は確実に第1の位置または第2の位置にて保持される。
【0049】
図5において詳しく示すように、アーム部11の基部11aは湾曲に切り欠かれた形状となっている。このような形状にすることにより、アーム部11が弾性変形したときに基部11aにかかる応力が分散されるので、基部11aにクラックが入ったり、アーム部11が基部11aで折れ曲がったりしにくくなって耐久性が向上する。但し、アーム部11の基部11aは湾曲形状に形成されていなくてもよい。
【0050】
以上の構成を有する第1の実施の形態に係る塗膜転写具において、ヘッドカバー10が第1の位置から第2の位置へと回動する際におけるアーム部11の動きについて、図6図10を用いて説明する。
【0051】
ここで、図6は第1の実施の形態に係る塗膜転写具の第1の位置におけるアーム部と段差部との位置関係を示す説明図、図7図6に示す位置からヘッドカバーが第2の位置に向けて回動したときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図、図8図7に示す位置からヘッドカバーがさらに回動してアーム部が最大変形部に到達したときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図、図9図8に示す位置からヘッドカバーがさらに回動したときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図、図10図9に示す位置からヘッドカバーがさらに回動して第2の位置となったときのアーム部と段差部との位置関係を示す説明図である。なお、これらの図面において、(a)はアーム部と段差部との位置関係をヘッドカバーの回動軸の軸方向の断面で示しており、(b)はアーム部と段差部との位置関係をヘッドカバーの回動軸周りを平面に展開して示している。
【0052】
図6に示す第1の位置は、前述のように、転写テープTの未使用部分がヘッドカバー10のカバー面10aで覆われている位置である。このとき、ヘッドカバー10のアーム部11は回動軸の周りに延びるように形成された段差部12の一方の端部付近に位置しており、段差部12によって僅かに弾性変形することにより、前述のように、ヘッドカバー10のストッパ部10bがケース本体1に当接している。なお、第1の位置では、アーム部11は弾性変形しないようにしてもよい。
【0053】
この第1の位置から、使用者が、アーム部11の弾発力に抗してヘッドカバー10を第2の位置に向けて回動させると、図7に示すように、アーム部11は徐々に変形量を増しながら、最大変形部12aに向けて段差部12を摺動していく。
【0054】
そして、図8に示す位置、つまりアーム部11が段差部12の最大変形部12aとなった位置で、当該アーム部11は最も大きく弾性変形して変形荷重が最大になる。なお、最大変形部12aにアーム部11が到達する位置までは、第1の位置に戻ろうとするアーム部11の弾発力に抗しながらヘッドカバー10を回動させる。
【0055】
続いて、アーム部11が最大変形部12aを乗り越えて第2の位置側になると、図9に示すように、変形荷重を除荷しようとするアーム部11の弾発力により、ヘッドカバー10は第2の位置に向けて一気に回動する。したがって、図6に示す位置から図8に示す位置になるまでに必要であったヘッドカバー10を第2の位置に向けて回動させるための使用者による力は不要になる。
【0056】
そして、図10に示す位置、すなわちヘッドカバー10のアーム部11が段差部12の他方の端部付近となる第2の位置に到達したならば、ヘッドカバー10のカバー面10aがケース本体1に当接して回動が停止し、転写テープTの未使用部分が露出した状態になる。この第2の位置でも、ヘッドカバー10のアーム部11は段差部12によって僅かに弾性変形することにより、ヘッドカバー10のカバー面10aがケース本体1に当接している。但し、第2の位置でも、アーム部11は弾性変形しないようにしてもよい。
【0057】
なお、ヘッドカバー10が第2の位置から第1の位置へと回動する場合には、アーム部11の動く方向が図10から図9図8図7図6と逆になるだけで、アーム部11の動き自体は第1の位置から第2の位置へと回動する場合と同様になる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態の塗膜転写具によれば、段差部12を摺動するアーム部11が弾性変形することにより、ヘッドカバー10を、転写テープTの未使用部分を覆う第1の位置と未使用部分を露出させる第2の位置とに付勢することが可能になる。
【0059】
このとき、本実施の形態の塗膜転写具では、ヘッドカバー10のカバー面10aには、回動軸Aに向かって延びるアーム部11を形成し、ヘッドカバー10の取り付けられたケース本体1には、アーム部11を弾性変形させる段差部12を、ヘッドカバー10の回動領域上の回動軸Aの周りにおいて当該回動軸Aの軸方向に膨らむように形成している。そして、段差部12を摺動するアーム部11を弾性変形させるようにしてヘッドカバー10を第1の位置および第2の位置に選択的に付勢している。
【0060】
したがって、ヘッドカバー10を付勢する機構は、ヘッドカバー10のカバー面10aに形成されたアーム部11とヘッドカバー10の回動軸Aの周りに形成された段差部12で構成されており、回動するヘッドカバー10の取付軸部には設けられていない。
【0061】
よって、ヘッドカバー10の取付軸部は、回動と付勢という2つの機能ではなく、回動という単一の機能だけを備えているので、ヘッドカバー10を付勢する機構を備えつつも当該ヘッドカバー10の取付軸部の構造が複雑化することがない。
【0062】
これにより、ヘッドカバー10が第1の位置と第2の位置とに回動する動作を頻繁に繰り返しても、取付軸部には摩耗や変形は生じにくくなり、ヘッドカバー10の回動動作が安定化する。
【0063】
また、このようにヘッドカバー10の付勢機構は、ヘッドカバー10のカバー面10aのアーム部11とヘッドカバー10の回動軸Aの周りの段差部12とで構成されている。したがって、段差部12の回動軸Aの軸方向に対する膨らみの形状を変えるだけで、アーム部11の弾発力の調整を容易に行うことが可能になる。
【0064】
(第2の実施の形態)
【0065】
図11は本発明の第2の実施の形態に係る塗膜転写具においてヘッドカバーが第1の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図、図12は第2の実施の形態に係る塗膜転写具において、ヘッドカバーが第2の位置にある状態を斜め下方から示す斜視図、図13は第2の実施の形態に係る塗膜転写具の要部であるヘッドカバーおよびその周辺部分を示す斜視図である。
【0066】
第2の実施の形態の塗膜転写具は、ヘッドカバー10の付勢機構以外の部分は既に説明した第1の実施の形態の塗膜転写具と同様の構成になっている。したがって、以下においては、ヘッドカバー10の付勢機構についてのみを説明し、同様の構成となっている部分の説明は省略する。
【0067】
図11図13に示すように、第2の実施の形態においては、アーム部21(弾性変形部)がヘッドカバー10の回動軸Aに沿って延びて形成されている。また、アーム部11を摺動により弾性変形させてヘッドカバー10を第1の位置および第2の位置に選択的に付勢する手段として、面状部22(付勢手段)が、ヘッドカバー10の回動領域上の回動軸Aの周りに形成されている。この面状部22は板カム(周縁カム)のカム面に相当するものであり、当該面状部22におけるヘッドカバー10の回動途中の1箇所(本実施の形態では、回動領域のほぼ中央部)には、アーム部21の変形量(変形荷重)が最大となる最大変形部22a(カムの頂点に相当する部分)が形成されている。
【0068】
このような本実施の形態の塗膜転写具によれば、面状部22を摺動するアーム部21は、ヘッドカバー10の回動軸Aの直交軸方向に弾性変形されることになる。
【0069】
ヘッドカバー10を第1の位置から第2の位置へ回動させる場合、アーム部21の弾発力に抗してヘッドカバー10を回動させると、当該アーム部21は徐々に変形量を増しながら面状部22を摺動していく。そして、アーム部21が面状部22の最大変形部22aを乗り越えて第2の位置側になると、変形荷重を除荷しようとするアーム部21の弾発力でヘッドカバー10は一気に回動して第2の位置になる。
【0070】
このような、第2の実施の形態の塗膜転写具でも、面状部22を摺動するアーム部21が弾性変形することにより、ヘッドカバー10を第1の位置と第2の位置とに選択的に付勢することが可能になる。
【0071】
そして、ヘッドカバー10のカバー面10aには、回動軸Aに沿って延びるアーム部21を形成し、ヘッドカバー10の取り付けられたケース本体1には、アーム部21を弾性変形させる面状部22を、ヘッドカバー10の回動領域上の回動軸Aの周りに形成している。
【0072】
したがって、ヘッドカバー10を付勢する機構は、ヘッドカバー10のカバー面10aに形成されたアーム部21とヘッドカバー10の回動軸Aの周りに形成された面状部22で構成されており、回動するヘッドカバー10の取付軸部には設けられていない。
【0073】
よって、本実施の形態の塗膜転写具においても、ヘッドカバー10の取付軸部は回動という単一の機能だけを備えることになり、ヘッドカバー10を付勢する機構を備えつつも当該ヘッドカバー10の取付軸部の構造が複雑化することがない。
【0074】
これにより、ヘッドカバー10が第1の位置と第2の位置とに回動する動作を頻繁に繰り返しても、取付軸部には摩耗や変形が生じにくくなり、ヘッドカバー10の回動動作が安定化する。
【0075】
また、ヘッドカバー10の付勢機構は、ヘッドカバー10のカバー面10aのアーム部21とヘッドカバー10の回動軸Aの周りの面状部22とで構成されている。したがって、面状部22の形状(カム形状)を変えるだけで、アーム部21の弾発力の調整を容易に行うことが可能になる。
【0076】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではないと考えるべきである。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0077】
たとえば、本実施の形態では、ヘッドカバー10はケース本体1に取り付けられているが、転写ヘッド5に取り付けるようにしてもよい。この場合、段差部12や面状部22といった付勢手段は、転写ヘッド5に形成されることになる。
【0078】
また、段差部12は、本願のように回動軸Aの軸方向で高低差をつけて段差を形成するのではなく、摺動方向の両側を高くした溝形状にして段差を形成してもよい。
【0079】
さらに、本実施の形態にて示したアーム部11,21は弾性変形部の一例であり、弾性変形が可能である限り、これらのアーム部11,21の形状に限定されるものではない。
【0080】
また、本実施の形態では、弾性変形部であるアーム部11,21は1箇所に形成され、よって当該アーム部11,21を弾性変形させる付勢手段である段差部12や面状部22も1箇所に形成されているが、弾性変形部や付勢手段は複数箇所に形成してもよい。
【0081】
この場合、付勢手段である段差部12や面状部22に設けられる最大変形部12a,22aも段差部12や面状部22の数だけ存在することになる。すなわち、段差部12や面状部22が複数箇所に形成されれば、最大変形部12a,22aも複数箇所に形成されることになる。但し、個々の段差部12や面状部22における最大変形部12a,22aは、第1の位置と第2の位置とに回動するヘッドカバー10の回動途中の1箇所に設けられることに変わりはない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の塗膜転写具は、粘着テープ、修正テープ、蛍光テープなど様々な転写テープを装着して使用することが可能であり、特定の転写テープに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0083】
1 ケース本体
1a 第1のケース部
1b 第2のケース部
3a,3b,3c,3d,3e シャフト
3a−1,3b−1,3c−1,3d−1,3e−1 嵌合穴
4 開口部
5 転写ヘッド
5a ヘッド本体部
5b ガイド片
5c 固定部
5c−1 突起片
5d 嵌込部
5d−1 孔
6 供給リール
7 巻取リール
7a テープガイド
8 ギア
10 ヘッドカバー
10a カバー面
10b ストッパ部
10c 側片部
11 アーム部(弾性変形部)
11a 基部
12 段差部(付勢手段)
12a 最大変形部
21 アーム部(弾性変形部)
22 面状部(付勢手段)
22a 最大変形部
A 回動軸
T 転写テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13