【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1に係る遮音材サイズ算定装置は、N個の騒音源S
1,…,S
N(i=1,…,N)とM個の受音点P
1,…,P
M(j=1,…,M)を各位置に配置し、各騒音源S
i(i=1,…,N)から騒音パワーレベルL
w,iで騒音が発生した場合に、各騒音源S
iの各受音点P
j(j=1,…,M)における騒音レベルL
ijを所定の目標騒音レベルL
ij(dest)以下とするために必要な、必要最小限の遮音材のサイズ及び形状を算出する装置である。
図1に、騒音源、受音点、及び遮音材の位置関係を表す模式図を示す。
図1において、騒音発生領域は格子状に区画し、各格子の中心を騒音源S
1,…,S
N(
図1の例ではN=18)としている。また、騒音を測定する受音点P
1,…,P
M(
図1の例ではM=3)は、騒音発生領域の周辺に適宜配置する。遮音材は線分D
w上の何処かに配置するものとする。この場合、遮音材の設置可能な範囲(設置位置範囲)は線分D
wとなる。各騒音源S
i(i=1,…,N)と各受音点P
j(j=1,…,M)とを結ぶ線分の長さをd
ijとする。
図1は平面図で表されているが、実際には騒音源S
i,受音点P
jの位置は3次元空間内の点で表される。尚、遮音材の設置位置範囲は初期条件として与えられるものとし、遮音材の全体形状は任意形状とする。遮音材サイズ算定装置が遮音材のサイズを演算する動作としては、(A)最小面積となるサイズを算出する動作、(B)遮音材の高さを一定として遮音材の必要延長を算出する動作、(C)遮音材の幅を一定として遮音材の必要高さを算出する動作、の3つの演算動作を選択することができる。
【0017】
図2は、本発明の実施例1に係る遮音材サイズ算定装置が組み込まれたコンピュータ・システムのハードウェアの全体構成を表す図である。
図2において、本実施例のコンピュータ・システムは、サーバ1、クライアントPC2、LAN3、ルーター4、電気通信回線5、携帯型PC6、及び携帯端末7を備えている。携帯端末7は、スマートフォンやタブレットなどの通常の携帯端末である。コンピュータで実行することによって遮音材サイズ算定装置を実現するための遮音材サイズ算定プログラムは、サーバ1、クライアントPC2、又は携帯型PC6の一乃至複数にインストールされる。サーバ1、クライアントPC2又は携帯型PC6に遮音材サイズ算定プログラムをインストールして実行する場合には、当該サーバ1、クライアントPC2又は携帯型PC6自体が遮音材サイズ算定装置となる。また、サーバ1に遮音材サイズ算定プログラムをインストールして、LAN3,ルーター4,電気通信回線5を介してクライアントPC2、携帯型PC6、又は携帯端末7からアクセスして処理を実行させ、当該クライアントPC2、携帯型PC6、又は携帯端末7で結果が閲覧することができるように構成することもできる。
【0018】
図3は、実施例1に係る遮音材サイズ算定装置の機能的構成を表す図である。遮音材サイズ算定装置10は、入力装置11、演算装置12、及び出力装置13を備えており、これらは通常のコンピュータが備えている入力装置(キーボード、マウス、タッチパネル等)、演算装置、出力装置(ディスプレイ、プリンタ等)である。演算装置12には遮音材サイズ算定プログラムが読み込まれて実行されており、その結果、演算装置12では、初期パラメータ入力部15、パラメータ記憶部16、ベース補正量演算部17、目標騒音補正量設定部18、二次元逆演算部19、三次元騒音補正量演算部20、騒音補正量収束判定部21、行路差更新部22、逆演算部23、及び結果出力部24が機能的に実現されている。
【0019】
初期パラメータ入力部15は、入力装置11から入力される初期パラメータを、内部変数として記憶している各パラメータ変数へ入力する。パラメータ記憶部16は、初期パラメータ入力部15により入力される各パラメータ変数等を記憶する。ここで、初期パラメータは、各騒音源S
i(i=1,…,N)の位置座標x
i及び騒音パワーレベルL
W,i、各受音点P
j(j=1,…,M)の位置座標x
j及び目標騒音レベルL
j(dest)、遮音材の設置予定位置範囲(遮音材の設置予定位置の起終点座標(
図1の線分D
wの両端点の位置座標(q
Dw,l,q
Dw,r)))、回折減衰比asp(後述)の初期値asp
0及び終了値asp
1、周辺地形、並びに遮音材の音響関連パラメータ(遮音材の音響透過損失R、回折計算チャート等)を含む。
【0020】
ベース補正量演算部17は、i番目(i=1,…,N)の騒音源S
iとj番目の受音点P
j(j=1,…,M)の各組(i,j)に対し、初期パラメータ入力部15により設定された初期パラメータに基づき、遮音材に依存しないベース騒音補正量ΔL
base,ijを算出する。目標騒音補正量設定部18は、騒音源S
iと受音点P
jの各組(i,j)に対し、目標騒音レベルL
ij(dest)から、騒音源S
iの騒音パワーレベル、音場の空間自由度に基づく補正量、及びベース騒音補正量ΔL
base,ijを差し引いた目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)を算出する。二次元逆演算部19は、目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)から、騒音源S
iと受音点P
jを含む平面上の二次元平面内の音響レベル演算により、騒音源S
iから受音点P
jを結ぶ直線と騒音源S
iから遮音材上下左右端辺を通り受音点P
jへ至る各行路との行路差δ
idx(後述)、及び該行路差δ
idxに相当する遮音材のサイズを算出し初期値として設定する。三次元騒音補正量演算部20は、設定された遮音材のサイズに基づき、三次元計算(後述)により、騒音源S
iの受音点P
jにおける遮音材による騒音補正量ΔL
wall,ij(res)を算出する。騒音補正量収束判定部21は、目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)と騒音補正量ΔL
wall,ij(res)の差の絶対値が|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|が所定の閾値ε未満か否かを判定する。行路差更新部22は、騒音補正量収束判定部21が閾値ε以上と判定した場合、差ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)の符号に応じて行路差δ
idxのいずれかの設定値を所定の値Δδだけ増減させる。逆演算部23は、行路差更新部22により行路差δ
idxの設定値が変更された場合、行路差δ
idxに相当する遮音材のサイズを算出する。結果出力部24は、騒音補正量収束判定部21が前記閾値ε未満と判定した場合、出力装置に遮音材の位置及びサイズを図画出力する。
【0021】
以上のように構成された本実施例に係る遮音材サイズ算定装置10について、以下、その動作を説明する。
【0022】
(1)全体の動作
図4は、実施例1の遮音材サイズ算定装置の全体動作を表すフローチャートである。まず、ステップS1,S2において、ユーザにより、入力装置11から、各騒音源S
i(i=1,…,N)の位置座標x
i及び騒音パワーレベルL
W,i、各受音点P
j(j=1,…,M)の位置座標x
j、各騒音源の各受音点における目標騒音レベルL
ij(dest)、遮音材の設置位置範囲、周辺地形、並びに遮音材の音響関連パラメータ(音響透過損失R、遮音材の縦横の回折減衰比の初期値及び終了値、回折計算チャート等)が入力される。このとき、初期パラメータ入力部15は、出力装置13に含まれるディスプレイ上に、各パラメータの入力画面を表示し、入力装置11からユーザにより各パラメータが入力されると、それらをパラメータ記憶部16に保存する。ここで、「周辺地形」は、“盛土”、“切土”、“高架”、“平面”の中から選択する。
【0023】
次に、ステップS3において、初期パラメータ入力部15は、出力装置13に含まれるディスプレイ上に、動作パターンの選択画面を表示し、ユーザにより入力装置11から入力される動作パターンの選択指示に従って、動作パターンを設定する。ここで、「動作パターン」とは、(A)最小面積となるサイズを算出する動作、(B)遮音材の高さを一定として遮音材の必要延長を算出する動作、(C)遮音材の幅を一定として遮音材の必要高さを算出する動作、の3つの動作パターンをいう。
【0024】
ここで、動作パターンとして(A)の動作が選択された場合(ステップS4)、後述の「最小面積遮音材サイズ算出処理」の処理が実行される(ステップS5)。動作パターンとして(B)の動作が選択された場合(ステップS4)、後述の「遮音材必要延長算出処理」の処理が実行される(ステップS6)。動作パターンとして(C)の動作が選択された場合(ステップS4)、後述の「遮音材必要高さ算出処理」の処理が実行される(ステップS7)。
【0025】
最後に、結果出力部24は、(A)〜(C)の各処理に於いて算出される遮音材のサイズパラメータから、遮音材のサイズ及び全体形状を、出力装置13に図画出力し(ステップS8)、一連の動作を終了する。
【0026】
(2)最小面積遮音材サイズ算出処理(動作パターン(A))
図5は、
図4における最小面積遮音材サイズ算出処理(S5)の詳細を表すフローチャートである。本実施例では、基本的に、1つの騒音源S
iと1つの受音点P
jの組(i,j)の其々について、その組(i,j)に対する必要最小限の面積の遮音材のサイズ及び位置を算出し、最後に、各組(i,j)に対して算出された遮音材のサイズ及び位置を統合することにより、必要最小限の面積の遮音材のサイズ及び形状を算出する。
【0027】
まず、演算装置12は、受音点P
jのインデックスjを設定し(ステップS101)、次いで、騒音源S
iのインデックスiを設定する(ステップS102)ことにより、計算対象とする騒音源と受音点の組(i,j)を設定する。
【0028】
次に、ステップS103において、ベース補正量演算部17は、距離減衰等の遮音材の有無には依存しない騒音補正量を算出する。ここで、一般に、騒音源S
iの受音点P
jにおける騒音レベルは次式により表される(非特許文献1,2参照)。
【0029】
【数1】
ここで、式(1)における各変数の意味は次の通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
式(1)において、左辺は騒音源S
iの受音点P
jにおける騒音レベルである。右辺第1項のL
w,i=10 log
10(W
i/I
0)(W
iは騒音源S
iの音響パワー[W],I
0=1pWは基準音源の音響パワー)は騒音源S
iの騒音パワーレベルであり、右辺第2項及び第3項は距離減衰に関する補正量(右辺第2項は音場の指向性係数Q(半自由空間(騒音源が地表面近傍)の場合は2)を単位球表面積4πで割った値のデシベル値(=10 log
10(Q/4π))を表す。)であり、右辺第4項は遮音材の回折・透過に伴う減衰に関する補正量であり、右辺第5項は地表面の影響に関する補正量であり、右辺第6項は空気の音響吸収に関する補正量である(各補正量の詳細は非特許文献1,2参照)。右辺のうち、騒音源S
iの騒音パワーレベルL
w,iは初期パラメータとして設定され、パラメータ記憶部16に保存されている。右辺第2項,右辺第3項,第5項,第6項は遮音材に依存しない補正量であり、右辺第4項は遮音材に依存する補正量である。従って、ベース補正量演算部17は、式(1)の右辺第2項,右辺第3項,第5項,第6項の和、即ち、
【0032】
【数2】
を計算する。
【0033】
次に、ステップS104において、目標騒音補正量設定部18は、組(i,j)に対する、遮音材に関する目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)を次式により算出する。
【0034】
【数3】
ここで、L
ij(dest)は組(i,j)に対して割り当てられる目標騒音レベルである。目標騒音レベルL
ij(dest)はiに依らず、受音点P
jに対して一定の値L
j(dest)とされる。これは、騒音源S
1〜S
Niのどの場所で騒音が発生した場合でも、受音点P
jにおいて同じレベルまで騒音レベルが下がるように遮音材の大きさを調整することを意味する。尚、受音点P
jにおける目標騒音レベルL
j(dest)は初期パラメータとして予め設定され(ステップS1)、パラメータ記憶部16に保存されている。
【0035】
次に、ステップS105において、演算装置12は、ループカウンタloop_countを1に初期化し、遮音材の回折減衰比(縦の回折減衰に対する横の回折減衰の比)aspをasp
0に初期化する。尚、回折減衰比aspの初期値は、予め設定された極めて小さい値(略0に近い値)に設定される。
【0036】
ここで、回折減衰比aspについて説明する。
図6は、有限サイズの長方形の遮音材ABCDの音響回折計算のための領域分割モデルである。尚、
図6では、理解を容易にするため、遮音材ABCDの下辺CDの中央点を原点Oとし、水平方向をx軸、紙面前後方向をy軸、鉛直方向をz軸とする座標軸を、参考として表示している。遮音材ABCDが載る平面を、遮音材ABCDの上下辺及び左右辺を延長した4本の直線により、9つの領域に分割し、各領域を
図6に示したようにΓ
0,Γ
1,Γ
2,Γ
3,Γ
4,Γ
5,Γ
6,Γ
7,Γ
8とする。領域Γ
0は遮音材ABCDの領域であり、領域Γ
1,Γ
2,Γ
3,Γ
4,Γ
5は解放された空間の領域であり、領域Γ
6,Γ
7,Γ
8は地面領域である。遮音材ABCDは、騒音源Sと受音点Pを結ぶ線分を切るように、地面に垂直に立てて設置されている。本明細書において、計算で使用する回折補正量の種類を、
図7(a)〜(f)に示した通り、以下のように定義する(以下の(a)〜(f)は、それぞれ
図7(a)〜(f)に対応)。
【0037】
(a)遮音材上端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ
123,ij: 遮音材上端で回折する場合の回折行路差
ΔL
123,ij: 遮音材上端で回折する場合の回折補正量
(b)地盤で回折する場合[音源から受音点が見える場合(負の行路差)]
δ
0-5,ij: 地盤で回折する場合の回折行路差
ΔL
0-5,ij: 地盤で回折する場合の回折補正量
(c)遮音材左端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ
146,ij: 遮音材左端で回折する場合の回折行路差
ΔL
146,ij: 遮音材左端で回折する場合の回折補正量
(d)遮音材右端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ
358,ij: 遮音材右端で回折する場合の回折行路差
ΔL
358,ij: 遮音材右端で回折する場合の回折補正量
(e)遮音材下端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ
678,ij: 遮音材下端で回折する場合の回折行路差
ΔL
678,ij: 遮音材下端で回折する場合の回折補正量
(f)(遮音材ABCDの)上の遮音材下端で回折する場合[音源から受音点が見える場合(負の行路差)]
δ
0,4-8,ij: 上の遮音材下端で回折する場合の回折行路差
ΔL
0,4-8,ij: 上の遮音材下端で回折する場合の回折補正量
ここで、「正の行路差」,「負の行路差」とは、其々、行路差δの符号が+,−である行路差をいう。尚、行路差δの符号は、遮音材の端辺に対する回折の方向で定まる(非特許文献2の13頁,
図3.1参照)。
【0038】
図7において、領域Γ
0〜Γ
8は
図6の領域Γ
0〜Γ
8に対応する。また、グレーに着色された領域は遮蔽領域、着色されていない領域は開放領域を表す。記号δ,ΔLは、其々、回折行路差,回折補正量を表し、記号δ,ΔLの添字は、カンマの前の部分が開放された領域のインデックス、カンマの後の部分が騒音源S
i,受音点P
jのインデックスを表す。例えば、
図7(a)の場合、領域Γ
1,Γ
2,Γ
3が解放され領域Γ
0,Γ
4〜Γ
8が遮蔽された場合(領域Γ
1,Γ
2,Γ
3以外の領域を半無限大の仮想障壁と考えた場合)を表しており、δ
123,ijはその場合における回折行路差(騒音源S
iから受音点P
jを結ぶ線分S
iP
jと騒音源S
iから半無限大仮想障壁の上端を通り受音点P
jへ至る最短行路との行路差)、ΔL
123,ijは行路差δ
123,ijに対する回折補正量を表す。上記の(a)〜(f)のそれぞれの回折補正量ΔL
idx(idxは(a)〜(f)のそれぞれのインデックス)は、それに対応する回折行路差δ
idxを用いて、後述の式(8),(9)により計算される(式(8),(9)のΔL
dがΔL
idxに、δがδ
idxに対応)。
【0039】
回折減衰比aspは、上記の回折補正量を用いて、次式によって定義される。
【0040】
【数4】
【0041】
次に、ステップS106において、二次元逆演算部19は、目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)から、騒音源S
iと受音点P
jとを含む二次元平面(S
i,P
jを含む平面)内の最短行路に対する音響レベル演算により、騒音源S
iから受音点P
jを結ぶ線分S
iP
jと騒音源S
iから遮音材上端を通り受音点P
jへ至る行路との行路差δ
123,ij、前記線分S
iP
jと騒音源S
iから遮音材左端を通り受音点P
jへ至る行路との行路差δ
146,ij、前記線分S
iP
jと騒音源S
iから遮音材右端を通り受音点P
jへ至る行路との行路差δ
358,ij、及び該行路差δ
123,ij,δ
146,ij,δ
358,ijに相当する遮音材のサイズ(遮音材の幅w
wall,ij及び高さh
wall,ij)を算出し初期値として設定する。この二次元逆演算部19における演算処理(以下「二次元逆演算処理」という。)は、具体的には以下のようにして行われる。
【0042】
有限サイズの長方形の遮音材に対する回折補正量の計算に関しては、非特許文献1,2及びバビネの原理に基づいて、音響透過損失を考慮した回折補正量の算出式は以下のように計算できる。
【0043】
前述した
図6の遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,transは、次式により表される(非特許文献2参照)。
(i)高架、盛土、切土の場合
【0044】
【数5】
(ii)平面の場合
【0045】
【数6】
ここで、式(5),(6)における各変数の意味は次の通りである。
【0046】
【表2】
【0047】
遮音材の音響透過損失Rは、初期パラメータとして設定され、パラメータ記憶部16に保存されている。スリット回折に関する補正量ΔL
dif,slitは、
図8に示すように、遮音材ABCDの領域Γ
0をスリット開口(O
0〜O
1)に置き換えて、スリット開口(O
0〜O
1)を通過する音のエネルギーを、
図9に示すように、2つの仮想障壁(頂点O
0の仮想障壁及び頂点O
1の仮想障壁)により回折される音のエネルギーの差として、次式により計算される(非特許文献2参照)。
【0048】
【数7】
【0049】
また、回折減衰補正量ΔL
dは、ナイフエッジ(薄い障壁)を前提として、次式により計算される。
【0050】
(i)騒音源Sから受音点Pが見えない場合
【0051】
【数8】
(ii)騒音源Sから受音点Pが見える場合
【0052】
【数9】
【0053】
ここで、δは、
図10に示すように、回折経路SO
0Pと直達経路SPとの行路差[m]である。また、a,b,cは定数であり、ユニット・建設機械の場合には、a=18.4,b=15.2,c=0.42,d=0.073である。尚、この計算式(8),(9)を図化した回折補正量の計算チャートは、例えば、
図11に示す通りである。尚、
図11は回折補正量の計算チャートの一例であり、これ以外の回折補正量の計算チャート(例えば、前川チャート等)を用いることも出来る。
【0054】
今、ステップS106においては、式(5),(6)における音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,transを、目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)に設定し既知の値とする。また、式(5)〜(7)において、地盤で回折する場合の回折補正量ΔL
0-5,ij(
図7(b))及び遮音材下端で回折する場合の回折補正量ΔL
678,ij(
図7(e))は、初期パラメータとして設定されている、騒音源S
iの座標q
Si、受音点P
jの座標q
Pj、及び遮音材の設置予定位置の起終点座標(
図1の線分D
wの両端点の座標(q
Dw,l,q
Dw,r)、即ち、遮音材の設置予定位置範囲)から、式(8),(9)により一意的に算出することが出来る。また、遮音材左端で回折する場合の回折補正量ΔL
146,ij(
図7(c))、及び遮音材右端で回折する場合の回折補正量ΔL
358,ij(
図7(d))は、式(4)より、遮音材上端で回折する場合の回折補正量ΔL
123,ij(
図7(a))と回折減衰比aspとから、
【0055】
【数10】
により算出されるので、回折補正量ΔL
146,ij,ΔL
358,ijは回折補正量ΔL
123,ijの従属変数である。故に、ステップS106において式(5)〜(7)における独立な未知変数は回折補正量ΔL
123,ij(
図7(a))と上の遮音材下端で回折する場合の回折補正量ΔL
0,4-8,ij(
図7(f))である。このうち、回折補正量ΔL
0,4-8,ijについては、ここでは便宜的にΔL
0,4-8,ij=0とする。然為れば、式(5)〜(7)における独立な未知変数は回折補正量ΔL
123,ijのみとなるので、二次元逆演算部19は、式(5)〜(7)から導かれる回折補正量ΔL
123,ijの逆算式により、回折補正量ΔL
123,ijを算出し、更に式(10)により、回折補正量ΔL
146,ij,ΔL
358,ijが算出する。更に、算出された回折補正量ΔL
123,ij,ΔL
146,ij,ΔL
358,ijから、式(8),(9)を用いて、遮音材の上端,左端,右端で回折する場合の回折行路差δ
123,ij,δ
146,ij,δ
358,ijを逆算する。
【0056】
次に、二次元逆演算部19は、騒音源S
iの座標、受音点P
jの座標、及び遮音材の設置予定位置の起終点座標(
図1の線分D
wの両端点の座標)から、線分S
iP
jの長さd
ij、及び
図12に示したような、線分S
iP
jと遮音材との交点M
ijの座標(x
Mij,y
Mij,z
Mij)を算出する(尚、
図12の座標軸は見易くするために一例として記したもの)。交点M
ijから遮音材の上端辺に下ろした垂線の足Q
t,ij(2)は、騒音源S
i,受音点P
jを焦点とし各焦点から周上点までの距離の和がd
ij+δ
123,ijである路面に垂直な平面(点S
i,P
j,Q
t,ij(2)を含む平面)内の楕円の楕円周上にあるので、二次元逆演算部19は、交点M
ijから遮音材の上端までの距離d
tを、前記楕円の方程式を用いて算出する。即ち、点S
i,P
j,M
ij,Q
t,ij(2)の位置ベクトルをq
Si,q
Pj,q
Mij,q
Qt,ij、遮音材の上端辺に垂直な該端辺に対して外向き(鉛直上向き)の単位ベクトルをu
t⊥とすると、
【0057】
【数11】
なので、二次元逆演算部19は、式(11)を距離d
tについて解いた演算式を計算することによって距離d
tの値を計算する。
【0058】
同様にして、二次元逆演算部19は、点S
i,P
j,Q
l,ij(2)(点Q
l,ij(2)は交点M
ijから遮音材の左端に下ろした垂線の足)を含む平面内において遮音材左端で回折する行路長d
ij+δ
146,ijの行路を仮定した場合の交点M
ijから遮音材の左端辺までの距離d
lを算出し、点S
i,P
j,Q
r,ij(2)(点Q
r,ij(2)は交点M
ijから遮音材の右端辺に下ろした垂線の足)を含む平面内において遮音材右端で回折する行路長d
ij+δ
358,ijの行路を仮定した場合の交点M
ijから遮音材の右端までの距離d
rを算出する。この場合、二次元逆演算部19が、距離d
l,距離d
rを計算する際の演算式は、
【0059】
【数12】
である。ここで、q
Ql,ij,q
Qr,ijは、其々、点Q
l,ij(2),Q
r,ij(2)の位置ベクトル、u
l⊥,u
r⊥は、其々、遮音材の左端辺,右端辺に垂直な該端辺に対して外向きの単位ベクトル、q
Dw,lj,q
Dw,rは、其々、遮音材の設置予定位置である線分D
wの左端点,右端点の位置ベクトルを表す(
図1参照)。
【0060】
そして、二次元逆演算部19は、交点M
ijの座標q
Mij=(x
Mij,y
Mij,z
Mij)及び距離d
t,d
l,d
r並びに方向ベクトルu
t⊥,u
l⊥,u
r⊥より、組(i,j)に対する遮音材の幅w
wall,ij=d
l+d
r、遮音材の高さh
wall,ij=z
Mij+d
t、遮音材の面積a=h
wall,ij・w
wall,ij、遮音材の左上端点A
ijの座標q
Aij=(x
Aij,y
Aij,z
Aij)=q
Mij+d
tu
t⊥+d
lu
l⊥、及び遮音材の右上端点B
ijの座標q
Bij=(x
Bij,y
Bij,z
Bij)=q
Mij+d
tu
t⊥+d
ru
r⊥を算出する。
【0061】
次に、ステップS107において、三次元騒音補正量演算部20は、二次元逆演算処理により算出された、サイズが(w
wall,ij,h
wall,ij)で左右上端点の位置座標が(x
Aij,y
Aij,z
Aij),(x
Bij,y
Bij,z
Bij)の遮音材に対し、三次元空間内における最短な回折行路を考慮して、式(5)〜(7)により、遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,trans,ij=ΔL
wall,ij(res)を再度計算し、ステップS108において、騒音補正量収束判定部21は、目標値との差|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|が許容誤差ε以下か否かを判定する。この三次元騒音補正量演算部20における演算処理(以下「三次元騒音補正量演算処理」という。)は、具体的には以下のようにして行われる。
【0062】
三次元騒音補正量演算部20が有限サイズの遮音材に対する音響透過損失を考慮した回折補正量を算出する場合、まず、騒音源S
i,受音点P
jの位置座標q
Si,q
Pj、遮音材下端辺の起終点座標q
Dij,q
Cij、及び遮音材上端辺の起終点座標q
Aij,q
Bijから、式(8),(9)により
図7で説明した上述の補正量ΔL
123,ij,ΔL
0-5,ij,ΔL
146,ij,ΔL
358,ij,ΔL
678,ij,ΔL
0,4-8,ijを算出し、式(5)〜(7)により音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,transを算出する。ここで、三次元騒音補正量演算部20が、式(8),(9)の演算を行う際に、行路差δ
123,ij,δ
0-5,ij,δ
146,ij,δ
358,ij,δ
678,ij,δ
0,4-8,ijを算出するが、これらの行路差の演算の際の最短行路が、三次元空間の場合には、前述の二次元逆演算処理の場合とは相違する。
【0063】
図13は、遮音材上端辺で回折する場合における三次元空間の騒音源S
iから受音点P
jへの最短行路を示す図である。
図13(a)は騒音源S
iの側から視た斜視図であり、
図13(b)は真上から視た平面図である。尚、
図13においては、図を見易くするため、各記号における添字i,jは省略している。騒音源S
iから遮音材上端辺へ下ろした垂線の足を点S
b,i、受音点P
jから遮音材上端辺へ下ろした垂線の足を点P
b,jとし、騒音源S
iから受音点P
jへの最短行路が遮音材上端辺と交差する折点をQ
t,ij(3)とする。線分Q
t,ij(3)S
i,線分Q
t,ij(3)P
j,線分S
b,iS
i,線分P
b,jP
j,線分Q
t,ij(3)S
b,i,線分Q
t,ij(3)P
b,jの長さを、其々、r
1,r
2,a
1,a
2,b
1,b
2とする。騒音源S
iから受音点P
jへの行路長r
12はr
12=r
1+r
2であり、これが最小となるように点Q
t,ij(3)の位置が決定される。今、
図13に示したように、三角形S
b,iQ
t,ij(3)Sを、遮音材上端辺上の辺S
b,iQ
t,ij(3)を回転軸として、遮音材に直交する水平面まで回転したときの点S
iの写像点をS
i’とし、三角形P
b,jQ
t,ij(3)P
jを、遮音材上端辺上の辺P
b,jQ
t,ij(3)を回転軸として、遮音材に直交する水平面まで回転したときの点P
jの写像点をP
j’とする。線分Q
t,ij(3)S
i’,線分Q
t,ij(3)P
j’の長さはr
1,r
2、線分S
b,iS
i’,線分P
b,jP
j’の長さはa
1,a
2である。r
1+r
2が最小のとき、経路S
i’Q
t,ij(3)P
jは、
図13(b)のように直線となり、
【0064】
【数13】
となる。ここで、d
SbPbは線分S
b,iP
b,jの長さ、d
SPは線分S
iP
jの長さ(=d
ij(
図12参照))である。遮音材下端辺(地盤)を回折する場合の行路差δ
678,ij(=δ
0-5,ij)、遮音材左端辺を回折する場合の行路差δ
146,ij、遮音材右端辺を回折する場合の行路差δ
358,ijも同様にして計算される。尚、上の遮音材下端辺を回折する場合の行路差δ
0,4-8,ijは行路差δ
123,ijの反数である。三次元騒音補正量演算処理では、三次元騒音補正量演算部20は、式(13a),(13b)等の演算により、其々の行路差δ
123,ij,δ
0-5,ij,δ
146,ij,δ
358,ij,δ
678,ij,δ
0,4-8,ijを算出する。
【0065】
尚、
図13(b)から分かるように、前述の二次元逆演算処理の場合には行路S
iQ
t,ij(2)P
jは平面視で直線S
iM
ijP
jと重なるが、三次元空間で考える場合には、一般には、行路S
iQ
t,ij(3)P
jは平面視で直線S
iM
ijP
jとは重ならない。従って、一般に、三次元空間で考えた最短行路の行路差は、二次元で考えた最短行路の行路差以下となることが分かる。
【0066】
ステップS108において、|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|>εの場合、ステップS109において、ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)>0であるか否かを判定し、
(i)ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)>0の場合は、ステップS110において、行路差更新部22は現在の行路差δ
123,ijの設定値に刻み幅Δδを加えて再設定し、
(ii)ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)<0の場合は、ステップS111において、行路差更新部22は現在の行路差δ
123,ijの設定値から刻み幅Δδを引いて再設定する。
そして、ステップS112において、逆演算部23は、再設定された行路差δ
123,ijの設定値を用いて、式(8),(9)より遮音材上端で回折する場合の回折補正量ΔL
123,ijを算出し、算出した回折補正量ΔL
123,ijと回折減衰比aspから、遮音材左端辺,右端辺で回折する場合の回折補正量ΔL
146,ij,ΔL
358,ijを算出し、式(8),(9)を用いて、行路差δ
146,ij,δ
358,ijを逆算して、各行路差を再設定する。そして、行路差更新部22は、前述した二次元逆演算処理により、組(i,j)に対する遮音材の幅w
wall,ij、遮音材の高さh
wall,ij、遮音材の左上端点A
ijの座標q
Aij、及び遮音材の右上端点B
ijの座標q
Bijを再度算出して設定した後、前述のステップS107の処理へ戻る。
【0067】
ステップS108において、|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|≦εの場合、演算装置12は、ループカウンタloop_countが1の場合には(ステップS115)、騒音補正量収束判定部21は、現在の遮音材の面積aの値をバックアップ用の面積格納変数a
mに格納し、現在の遮音材のサイズ(h
wall,ij,w
wall,ij)の値をバックアップ用の面積格納変数(h
wall,ij,w
wall,ij)
(best)に格納し、現在の遮音材の左右上端点の位置座標(q
Aij,q
Bij)をバックアップ用の面積格納変数(q
Aij,q
Bij)
(best)に格納した後(ステップS117)、遮音材の回折減衰比aspに刻み幅Δaspを加えて再設定し、ループカウンタloop_countをインクリメントし(ステップS118)、前述のステップS106の処理へ戻る。
【0068】
一方、ステップS115においてループカウンタloop_countが1より大きい場合には、騒音補正量収束判定部21は、現在の回折減衰比aspが終了値asp
1に達しているか否かを判定する(ステップS115a)。asp<asp
1であれば、現在の遮音材の面積aを算出し(ステップS115b)、算出された現在の遮音材の面積aの値をバックアップ用の面積格納変数a
mに格納された前回の面積の値と比較する(ステップS116)。そして、a<a
mであれば、現在の遮音材の面積aの値をバックアップ用の面積格納変数a
mに格納し、現在の遮音材のサイズ(h
wall,ij,w
wall,ij)の値をバックアップ用の面積格納変数(h
wall,ij,w
wall,ij)
(best)に格納し、現在の遮音材の左右上端点の位置座標(q
Aij,q
Bij)をバックアップ用の面積格納変数(q
Aij,q
Bij)
(best)に格納する(ステップS117)。そして、遮音材の回折減衰比aspに刻み幅Δaspを加えて再設定し、ループカウンタloop_countをインクリメントし(ステップS118)、前述のステップS106の処理へ戻る。
【0069】
一方、ステップS115bにおいてasp≧asp
1(回折減衰比aspが終了値asp
1に到達)であれば、組(i,j)に対する遮音材のサイズ(h
ij,w
ij)を面積最小のときの最適サイズ(h
wall,ij,w
wall,ij)
(best)に設定し、遮音材の左右上端点の位置座標(q
Aij,q
Bij)を面積最小のときの位置座標(q
Aij,q
Bij)
(best)に設定する(ステップS119)。これにより、組(i,j)に対して面積が最小となる遮音材のサイズ(h
ij,w
ij)、並びに遮音材の左右上端点の位置座標(q
Aij,q
Bij)が決定される。
【0070】
図14に、騒音源と受音点の一つの組(i,j)に対して、遮音材の面積が最小となるように決定された遮音材のサイズ(w
ij,h
ij)及び位置x
ijの例を示す。
図14において「遮音材起点」と「遮音材終点」を結ぶ水平線が遮音材の上辺となり、「遮音材起点」又は「遮音材終点」から地面に鉛直に下ろした線分が、それぞれ遮音材の側辺となる。
【0071】
以上のステップS103〜S119の処理を、全ての組(i,j)に対して反復実行する(ステップS120,ステップS121)。これにより、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して遮音材のサイズ(w
ij,h
ij)及び遮音材の左右上端点位置q
Aij,q
Bijが算出される。
【0072】
最後に、ステップS122において、結果出力部24は、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して算出された遮音材のサイズ(w
ij,h
ij)及び遮音材の中心位置x
ijに基づき、各組(i,j)の遮音材を同一図面上に重ねて図画出力する。
【0073】
図15に、全ての騒音源と一つの受音点の組(i,j)に対して、遮音材の面積が最小となるように決定された遮音材のサイズ(w
ij,h
ij)及び位置座標(q
Aij,q
Bij)の例を示す。
図15において、それぞれの組(i,j)に対して、サイズ(w
ij,h
ij)及び位置座標(q
Aij,q
Bij)から各組(i,j)に対して「遮音材起点」と「遮音材終点」が決定される。従って、これを基に、
図15(b)に示すように遮音材を同一図面に重ねて図画出力することで、目標騒音レベルを達成するために必要最小限な遮音材の全体形状を得ることが出来る。
【0074】
(3)遮音材必要延長算出処理(動作パターン(B))
図16は、
図4における遮音材必要延長算出処理の詳細を表すフローチャートである。遮音材必要延長算出処理では、遮音材の高さh
wallは初期パラメータとしてステップS2で予め設定されており、騒音源と受音点の各組(i,j)に対して遮音材の幅w
wall,ijを最適化する。
【0075】
まず、演算装置12は、受音点P
jのインデックスjを設定し(ステップS201)、次いで、騒音源S
iのインデックスiを設定する(ステップS202)ことにより、計算対象とする騒音源と受音点の組(i,j)を設定する。
【0076】
次に、ステップS203において、ベース補正量演算部17は、前述の式(2)により、距離減衰等の遮音材の有無には依存しない騒音補正量ΔL
base,ijを算出する。
【0077】
次に、ステップS204において、目標騒音補正量設定部18は、組(i,j)に対する、遮音材に関する目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)を前述の式(3)により算出する。
【0078】
次に、ステップS205において、二次元逆演算部19は、遮音材の左右端辺で回折する場合の回折行路差δ
358,ij,δ
678,ij及び遮音材の幅w
wall,ijを算出し初期値として設定する。この二次元逆演算部19における演算処理は、具体的には以下のようにして実行される。
【0079】
ここでは遮音材の高さh
wallが既知であるため、騒音源S
iと受音点P
jを含む路面に垂直な二次元平面内の回折行路は決まっている。従って、二次元逆演算部19は、まず、点S
i,P
jの位置座標q
Si,q
Pi、遮音材の設置予定位置の起終点座標(
図1の線分D
wの両端点の位置座標(q
Dw,lj,q
Dw,r))、及び遮音材の高さh
wallから、回折行路差δ
123,ij,δ
0-5,ij,δ
678,ij,δ
0,4-8,ijを算出し、これらの行路差を用いて、式(8)(9)より、回折補正量ΔL
123,ij,ΔL
0-5,ij,ΔL
678,ij,ΔL
0,4-8,ijを算出する。また、遮音材の音響透過損失R及び目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)は、すでに設定されている。更に、遮音材左端で回折する場合の回折補正量ΔL
146,ijと遮音材右端で回折する場合の回折補正量ΔL
358,ijとは同値であるものとする(ΔL
358,ij=ΔL
146,ij)。従って、式(5)〜(7)において、独立な未知変数はΔL
146,ij(又はΔL
358,ij)のみであるため、二次元逆演算部19は、式(5)〜(7)からΔL
146,ij(又はΔL
358,ij)を逆算する逆算式の演算を行うことにより、回折補正量ΔL
146,ij,ΔL
358,ijを算出し、式(8)(9)の逆算演算により、遮音材左右端で回折する場合の回折行路差δ
146,ij,δ
358,ijを算出する。そして、算出された回折行路差δ
146,ij,δ
358,ijを用いて、実施例1と同様に、式(12a)〜(12c)から導かれるq
Ql,ij,q
Qr,ijを算出する演算式を演算することで、
図12の点Q
l,ij(2),Q
r,ij(2)の位置ベクトルq
Ql,ij,q
Qr,ijを算出し、距離d
l=|q
Ql,ij−q
Mij|,d
r=|q
Qr,ij−q
Mij|、遮音材の幅w
wall,ij=|q
Ql,ij−q
Qr,ij|、及び遮音材の左右上端点A
ij,B
ijの座標q
Aij=q
Mij+d
tu
t⊥+d
lu
l⊥,q
Bij=q
Mij+d
tu
t⊥+d
ru
r⊥を算出する。
【0080】
次に、ステップS206において、三次元騒音補正量演算部20は、上記二次元平面内の計算により算出された遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)から、実施例1のステップS107で説明した三次元騒音補正量演算処理を実行することで、遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,trans,ij=ΔL
wall,ij(res)を再度計算し、ステップS207において、騒音補正量収束判定部21は、目標値との差|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|が許容誤差ε以下か否かを判定する。
【0081】
ステップS207において、|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|>εの場合、ステップS208において、ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)>0であるか否かを判定し、
(i)ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)>0の場合は、ステップS209において、行路差更新部22は現在の行路差δ
146,ij(又はδ
358,ij)の設定値に刻み幅Δδを加えて再設定し、
(ii)ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)<0の場合は、ステップS210において、行路差更新部22は現在の行路差δ
146,ij(又はδ
358,ij)の設定値から刻み幅Δδを引いて再設定する。
そして、ステップS211において、逆演算部23は、再設定された行路差δ
146,ij(又はδ
358,ij)の設定値を用いて、ステップS205と同様の二次元平面内の回折行路の計算によって、音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,trans,ijが目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)となる遮音材の幅w
wall,ijを算出し、遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)を再設定した後、前述のステップS206の処理へ戻る。
【0082】
ステップS207において、|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|≦εの場合、算出された遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)が騒音点S
iと受音点P
jの組(i,j)に対する最適なサイズ及び左右上端点位置座標に決定される。
【0083】
以上のステップS203〜S211の処理を、全ての組(i,j)に対して反復実行する(ステップS212,ステップS213)。これにより、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)が算出される。
【0084】
最後に、ステップS214において、結果出力部24は、最小面積遮音材サイズ算出処理の場合と同様に、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して算出された遮音材のサイズ(w
ij,h
ij)及び左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)に基づき、各組(i,j)の遮音材を同一図面に重ねて図画出力する。
【0085】
(4)遮音材必要高さ算出処理(動作パターン(C))
図17は、
図4における遮音材必要高さ算出処理の詳細を表すフローチャートである。遮音材必要高さ算出処理では、遮音材の幅w
wallは初期パラメータとしてステップS2で予め設定されており、騒音源と受音点の各組(i,j)に対して遮音材の高さh
wall,ijを最適化する。
【0086】
まず、演算装置12は、受音点P
jのインデックスjを設定し(ステップS301)、次いで、騒音源S
iのインデックスiを設定する(ステップS302)ことにより、計算対象とする騒音源と受音点の組(i,j)を設定する。
【0087】
次に、ステップS303において、ベース補正量演算部17は、前述の式(2)により、距離減衰等の遮音材の有無には依存しない騒音補正量ΔL
base,ijを算出する。
【0088】
次に、ステップS304において、目標騒音補正量設定部18は、組(i,j)に対する、遮音材に関する目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)を前述の式(3)により算出する。
【0089】
次に、ステップS305において、二次元逆演算部19は、目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)から、騒音源S
iと受音点P
jを含む路面に垂直な二次元平面内の音響レベル演算により、騒音源S
iから受音点P
jを結ぶ直線と騒音源S
iから遮音材上端を通り受音点P
jへ至る行路との行路差δ
123,ij、及び遮音材の高さh
wall,ijを算出し初期値として設定する。この二次元逆演算部19における演算処理は、具体的には以下のようにして実行される。
【0090】
ここでは遮音材の幅w
wallが既知であるため、騒音源S
iと受音点P
jを含む路面に水平な二次元平面内の回折行路が決まっている。従って、二次元逆演算部19は、まず、点S
i,P
jの位置座標q
Si,q
Pi、遮音材の設置予定位置の起終点座標(
図1の線分D
wの両端点の位置座標(q
Dw,l,q
Dw,r))、及び遮音材の幅w
wallから、回折行路差δ
0-5,ij,δ
678,ij,δ
146,ij,δ
358,ijを算出し、これらの行路差を用いて、式(8)(9)より、回折補正量ΔL
0-5,ij,ΔL
678,ij,ΔL
146,ij,ΔL
358,ijを算出する。ここで、δ
146,ij=δ
358,ij,ΔL
146,ij=ΔL
358,ijをとする。また、遮音材の音響透過損失R及び目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)は、すでに設定されている。また、(遮音材ABCDの)上の遮音材下端で回折する場合の回折補正量ΔL
0,4-8,ijについては、便宜的にΔL
0,4-8,ij=0とする。従って、式(5)〜(7)において、独立な未知変数はΔL
123,ijのみであるため、二次元逆演算部19は、式(5)〜(7)からΔL
123,ijを逆算する逆算式の演算を行うことにより、回折補正量ΔL
123,ijを算出し、式(8)(9)の逆算演算により、遮音材上端で回折する場合の回折行路差δ
123,ijを算出する。そして、算出された回折行路差δ
123,ijを用いて、実施例1と同様に、式(11)から導かれるq
Qt,ijを算出する演算式を演算することで、
図12の点Q
t,ij(2)の位置ベクトルq
Qt,ijを算出し、距離d
t=|q
Qt,ij−q
Mij|、遮音材の高さh
wall,ij=z
Qt,ij、及び遮音材の左右上端点A
ij,B
ijの座標q
Aij=q
Mij+d
tu
t⊥+d
lu
l⊥,q
Bij=q
Mij+d
tu
t⊥+d
ru
r⊥を算出する。
【0091】
次に、ステップS306において、三次元騒音補正量演算部20は、上記二次元平面内での計算により算出された遮音材のサイズ(w
wall,h
wall,ij)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)から、実施例1のステップS107で説明した三次元騒音補正量演算処理を実行することで、遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,trans,ij=ΔL
wall,ij(res)を再度計算し、ステップS307において、騒音補正量収束判定部21は、目標値との差|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|が許容誤差ε以下か否かを判定する。
【0092】
ステップS307において、|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|>εの場合、ステップS308において、ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)>0であるか否かを判定し、
(i)ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)>0の場合は、ステップS309において、行路差更新部22は現在の行路差δ
123,ijの設定値に刻み幅Δδを加えて再設定し、
(ii)ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)<0の場合は、ステップS310において、行路差更新部22は現在の行路差δ
123,ijの設定値から刻み幅Δδを引いて再設定する。
そして、ステップS311において、逆演算部23は、再設定された行路差δ
123,ijの設定値を用いて、二次元平面内の回折行路の計算によって、音響透過損失を考慮した回折補正量ΔL
dif,transが目標騒音補正量ΔL
wall,ij(dest)となる遮音材の高さh
wall,ijを算出し、遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)を再設定した後、前述のステップS306の処理へ戻る。
【0093】
ステップS307において、|ΔL
wall,ij(dest)−ΔL
wall,ij(res)|≦εの場合、算出された遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)が騒音点S
iと受音点P
jの組(i,j)に対する最適なサイズ及び左右上端点位置座標に決定される。
【0094】
以上のステップS303〜S311の処理を、全ての組(i,j)に対して反復実行する(ステップS312,ステップS313)。これにより、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して遮音材のサイズ(w
wall,ij,h
wall)及び遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)が算出される。
【0095】
最後に、ステップS314において、結果出力部24は、最小面積遮音材サイズ算出処理の場合と同様に、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して算出された遮音材のサイズ(w
ij,h
ij)遮音材の左右上端点位置座標(q
Aij,q
Bij)に基づき、各組(i,j)の遮音材を同一図面に重ねて図画出力する。