特許第6598387号(P6598387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598387遮音材サイズ算定装置及び遮音材サイズ算定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598387
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】遮音材サイズ算定装置及び遮音材サイズ算定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20191021BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20191021BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20191021BHJP
   E01F 8/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G06F17/50 680Z
   G06F17/50 604A
   G06F17/50 612G
   G01H3/00 A
   G01H17/00 C
   E01F8/00
【請求項の数】2
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-111394(P2017-111394)
(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公開番号】特開2018-206104(P2018-206104A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2018年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】517199178
【氏名又は名称】合同会社環境リレーションシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100121371
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 和人
(72)【発明者】
【氏名】堀江 研二
【審査官】 田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−148239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
E01F 8/00
G01H 3/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメータを入力する入力装置と、演算結果を出力する出力装置と、演算装置とを備え、N個(Nは正整数)の騒音源とM個(Mは正整数)の受音点に対し、前記各受音点における前記各騒音源からの騒音レベルLijを目標騒音レベルLij(dest)以下とするために必要な遮音材の必要十分なサイズを算出する遮音材サイズ算定装置であって、
前記演算装置は、
前記各騒音源S(i=1,…,N)の位置座標{qSi}及び騒音パワーレベル{LW,i}、前記各受音点P(j=1,…,M)の位置座標{qPi}、前記目標騒音レベル{Lij(dest)}、前記遮音材の設置位置範囲(qDw,l,qDw,r)、周辺地形、並びに前記遮音材の音響関連パラメータを含む初期パラメータを入力する初期パラメータ入力手段と、
騒音源Sと受音点Pの各組(i,j)に対し、前記初期パラメータに基づき、遮音材に依存しない騒音レベルの補正量であるベース騒音補正量ΔLbase,ijを算出するベース補正量演算手段と、
前記各組(i,j)に対し、前記目標騒音レベルLij(dest)から、前記騒音源Sの騒音パワーレベルLW,i、音場の空間自由度に基づく補正量、及び前記ベース騒音補正量ΔLbase,ijを引いた目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を算出する目標騒音補正量設定手段と、
前記騒音源Sと前記受音点Pとを結ぶ線分lijと前記遮音材の設置位置範囲(qDw,l,qDw,r)に鉛直に立てた平面との交点をMijとし、交点Mijから前記遮音材の上下端辺及び左右端辺に垂直に下ろした線分を、其々、線分l及び線分lとしたとき、前記目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)から、(a)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材上端辺を回折する二次元上端回折行路、(b)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材左端辺を回折する二次元左端回折行路、(c)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材右端辺を回折する二次元右端回折行路、(d)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材下端辺を回折する二次元下端回折行路、の其々に対する音響レベル演算により、前記線分lijと前記二次元上端回折行路,前記二次元左端回折行路,前記二次元右端回折行路,及び前記二次元下端回折行路との行路差、並びにそれらの行路差に相当する前記遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)を算出し初期値として設定する二次元逆演算手段と、
設定された前記遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)に基づき、前記騒音源Sから、前記遮音材の上端辺,左端辺,右端辺,及び下端辺を回折して前記受音点Pへ至る、三次元空間内の最短回折行路に対する前記遮音材による騒音補正量ΔLwall,ij(res)を算出する三次元騒音補正量演算手段と、
前記目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)と前記騒音補正量ΔLwall,ij(res)の差分絶対値が所定の閾値未満か否かを判定する騒音補正量収束判定手段と、
前記騒音補正量収束判定手段が前記閾値以上と判定した場合、差分ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)の符号に応じて前記行路差のうちの何れかを所定の値だけ増減させる行路差更新手段と、
前記行路差更新手段により前記行路差のうちの何れかが変更された場合、前記二次元上端回折行路,前記二次元左端回折行路,及び前記二次元右端回折行路に対する音響レベル演算により、変更された前記行路差以外の前記行路差を再算出すると共に、再算出後の前記各行路差に相当する前記遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び遮音材の左右端位置(qAij,qBij)を再算出する逆演算手段と、
前記騒音補正量収束判定手段が前記閾値未満と判定した場合、前記出力装置により前記遮音材の左右端位置(qAij,qBij)及びサイズ(wwall,ij,hwall,ij)並びに前記遮音材の占める領域を同一図画面上に図画出力する結果出力手段と、を備えていることを特徴とする遮音材サイズ算定装置。
【請求項2】
パラメータを入力する入力装置と、演算結果を出力する出力装置と、演算装置とを備えたコンピュータに読み込ませて実行させることにより、前記コンピュータを、請求項1記載の遮音材サイズ算定装置として機能させることを特徴とする遮音材サイズ算定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工事、鉄道、道路等において発せられる騒音を遮断する遮音材を設計する際の遮音材のサイズを算定するために用いられる遮音材サイズ算定装置及び遮音材サイズ算定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
屋外における一般的な防音対策として、建設工事、道路、工場では、騒音防止のため、防音パネルや遮音壁(以下、本明細書ではまとめて「遮音材」という。)が利用されている。現在のところ、これら防音対策に用いる遮音材の設置形状、規模、音響透過損失の検討は、過去の経験から類推して決定したり、また複数の想定される設置ケースについて幾度も予測計算を繰り返し行い最適な設置ケースを選択したりする方法によって行われている。尚、騒音レベルの標準的な計算方法に関しては、非特許文献1,2が公表されている。このような遮音材の設計方法に関連する技術としては、特許文献1,2に記載のものが公知である。
【0003】
特許文献1,2に記載の技術は、遮音性及び遮音板の重量の観点から、遮音板の最適な組み合わせを探索する遮音板組合せ探索プログラムに関するものである。この遮音板組合せ探索プログラムは、(1)遮音壁の各段を構成する複数のパネル体の組み合わせを、互いに遮音性及び重量の異なる複数種の遮音板の何れかと、上記遮音板とは異なる特殊部材と、貫通状態との中から順次選択する組み合わせ選択ステップ、(2)騒音源からの音波が当該遮音板の上下端を回折することによるスリット回折減衰と上記音波が当該遮音板を透過することによる透過損失とに基づいて当該遮音板の透過減衰を、上記組み合わせ選択ステップにおいて選択されたパネル体に応じて求め、更に求めた各段の透過減衰の合計に基づいて上記遮音壁の透過減衰値を求める演算ステップ、(3)上記演算ステップにて求められた透過減衰値に応じた受音点の騒音レベルと、パネル体の種類に応じて予め決められたスコアに基づく評価値とを上記組み合わせ選択ステップにて選択された全ての組み合わせについて求め、上記騒音レベルと上記評価値とに基づいて上記全ての組み合わせの中から決定した一のパネル体の組み合わせを解として出力する解探索ステップ、を有するものである。解探索ステップにおいては、パネル体の重量がスコアに反映される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−194918号公報
【特許文献2】特開2016−148239号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】橘秀樹,日本音響学会建設工事騒音予測調査研究委員会,「建設工事騒音の予測モデル"ASJ CN-Model 2007" : 日本音響学会建設工事騒音予測調査研究委員会報告(<小特集>建設工事騒音の予測モデル)」,日本音響学会誌,一般社団法人日本音響学会,2008年4月1日,第64巻,第4号,pp.229-260.
【非特許文献2】日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会,坂本慎一,「道路交通騒音の予測モデル"ASJ RTN-Model 2013" : 日本音響学会道路交通騒音調査研究委員会報告(<小特集>道路交通騒音の予測モデル)」,日本音響学会誌,一般社団法人日本音響学会,2014年4月1日,第70巻,第4号,pp.172-230.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2の技術では、予めパネル体のサイズが決められており、これらの決められたサイズのパネル体を組合せて遮音壁を構成する際の最良の組合せを求めるものである。従って、求められる解としては、決められたサイズのパネル体の組合せパターンが求められることとなる。
【0007】
然し乍ら、この場合パネル体のサイズが予め決められたものであるために、そのサイズを使用する場合という条件における最適解を求めるものであり、必ずしも受音点における騒音レベルを目標値とするために最小限必要な遮音材のサイズが求められるものではない。実際の工事現場では、遮音材としてパネル体や遮音シートが使用されるが、遮音材のサイズは任意に変更が可能である。従って、受音点における騒音レベルを目標値とするために最小限必要な遮音材のサイズを求めることが必要となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、受音点における騒音レベルを目標値とするために最小限必要な遮音材の任意形状のサイズを求めることが可能な遮音材サイズ算定装置及び遮音材サイズ算定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る遮音材サイズ算定装置は、パラメータを入力する入力装置と、演算結果を出力する出力装置と、演算装置とを備え、N個(Nは正整数)の騒音源とM個(Mは正整数)の受音点に対し、前記各受音点における前記各騒音源からの騒音レベルLijを目標騒音レベルLij(dest)以下とするために必要な遮音材の必要十分なサイズを算出する遮音材サイズ算定装置であって、
前記演算装置は、
前記各騒音源S(i=1,…,N)の位置座標{qSi}及び騒音パワーレベル{LW,i}、前記各受音点P(j=1,…,M)の位置座標{qPi}、前記目標騒音レベル{Lij(dest)}、前記遮音材の設置位置範囲(qDw,l,qDw,r)、周辺地形、並びに前記遮音材の音響関連パラメータを含む初期パラメータを入力する初期パラメータ入力手段と、
騒音源Sと受音点Pの各組(i,j)に対し、前記初期パラメータに基づき、遮音材に依存しない騒音レベルの補正量であるベース騒音補正量ΔLbase,ijを算出するベース補正量演算手段と、
前記各組(i,j)に対し、前記目標騒音レベルLij(dest)から、前記騒音源Sの騒音パワーレベルLW,i、音場の空間自由度に基づく補正量、及び前記ベース騒音補正量ΔLbase,ijを引いた目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を算出する目標騒音補正量設定手段と、
前記騒音源Sと前記受音点Pとを結ぶ線分lijと前記遮音材の設置位置範囲(qDw,l,qDw,r)に鉛直に立てた平面との交点をMijとし、交点Mijから前記遮音材の上下端辺及び左右端辺に垂直に下ろした線分を、其々、線分l及び線分lとしたとき、前記目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)から、(a)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材上端辺を回折する二次元上端回折行路、(b)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材左端辺を回折する二次元左端回折行路、(c)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材右端辺を回折する二次元右端回折行路、(d)前記線分lij,lを含む平面内の前記遮音材下端辺を回折する二次元下端回折行路、の其々に対する音響レベル演算により、前記線分lijと前記二次元上端回折行路,前記二次元左端回折行路,前記二次元右端回折行路,及び前記二次元下端回折行路との行路差、並びにそれらの行路差に相当する前記遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)を算出し初期値として設定する二次元逆演算手段と、
設定された前記遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)に基づき、前記騒音源Sから、前記遮音材の上端辺,左端辺,右端辺,及び下端辺を回折して前記受音点Pへ至る、三次元空間内の最短回折行路に対する前記遮音材による騒音補正量ΔLwall,ij(res)を算出する三次元騒音補正量演算手段と、
前記目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)と前記騒音補正量ΔLwall,ij(res)の差分絶対値が所定の閾値未満か否かを判定する騒音補正量収束判定手段と、
前記騒音補正量収束判定手段が前記閾値以上と判定した場合、差分ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)の符号に応じて前記行路差のうちの何れかを所定の値だけ増減させる行路差更新手段と、
前記行路差更新手段により前記行路差のうちの何れかが変更された場合、前記二次元上端回折行路,前記二次元左端回折行路,及び前記二次元右端回折行路に対する音響レベル演算により、変更された前記行路差以外の前記行路差を再算出すると共に、再算出後の前記各行路差に相当する前記遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び遮音材の左右端位置(qAij,qBij)を再算出する逆演算手段と、
前記騒音補正量収束判定手段が前記閾値未満と判定した場合、前記出力装置により前記遮音材の左右端位置(qAij,qBij)及びサイズ(wwall,ij,hwall,ij)並びに前記遮音材の占める領域を同一図画面上に図画出力する結果出力手段と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、受音点における騒音レベルを目標値とするために最小限必要な遮音材の任意形状のサイズを求めることが可能となる。また、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を達成するための行路差と、それらの行路差に相当する遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)を、二次元上端回折行路,二次元左端回折行路,二次元右端回折行路,二次元下端回折行路による二次元演算により暫定的に算出し、その後、二次元演算により算出された遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)を用いて、三次元空間内における最短の回折行路に対する前記遮音材による騒音補正量ΔLwall,ij(res)を算出して検証することを反復実行することで、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を達成するための遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)を算出することにより、高速且つ正確な遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall,ij)及び左右端位置(qAij,qBij)を算出することができる。また、結果出力手段が、同一図画面上に、其々の騒音源Sと受音点Pの組(i,j)に対する遮音材の左右端位置(qAij,qBij)及びサイズ(wwall,ij,hwall,ij)並びに遮音材の占める領域を図画出力することで、全ての組(i,j)に対して、目標騒音レベル{Lij(dest)}を達成するための必要最小限の遮音材の全体形状を容易に得ることが出来る。
【0011】
ここで、「周辺地形」とは、“盛土”、“切土”、“高架”、“平面”のように、反射又は回折に影響を及ぼす周辺地形の種類をいう(非特許文献1,2参照)。「遮音材の音響関連パラメータ」とは、音響透過損失R、遮音材の縦横の回折減衰比率、回折計算チャート等の遮音材の音響回折及び音響透過を計算する際に必要なパラメータをいう。「ベース騒音補正量」とは、遮音材に依存しない騒音レベルの補正量をいい、具体的には、後述の式(2)で表される補正量である。「音場の空間自由度に基づく補正量」とは、音場の指向性係数Q半自由空間(騒音源が地表面近傍)の場合は2)を単位球表面積4πで割った値のデシベル値をいう。「遮音材の設置位置範囲」とは、遮音材を設置することができる位置の範囲をいい、両端点の位置座標(qDw,l,qDw,r)を結ぶ線分上の範囲である。「音響レベル演算」とは、回折行路に沿って騒音源から受音点に到達する音響レベルを算出する演算をいう。「同一図画面上に図画出力」とは、出力装置の同一の画面上や同一のプリント用紙上に遮音材の形状を図的に出力することをいう。尚、「行路差」は、遮音材の各端辺に対する回折方向に応じて正又は負の値をとるものとする。
【0012】
また、本発明に係る遮音材サイズ算定プログラムは、パラメータを入力する入力装置と、演算結果を出力する出力装置と、演算装置とを備えたコンピュータに読み込ませて実行させることにより、前記コンピュータを、前記本発明の遮音材サイズ算定装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、防音対策として遮音材を利用する場合において、本発明を用いて遮音材の高さ及び延長を検討すれば、目標騒音レベルに対して必要最小限な遮音材の高さ及び延長を把握できるため、無駄のない適切な対策が実施できる。さらに、音響透過損失の異なる複数の遮音材について必要な高さ及び延長を検討し、これらを比較、検討することにより、音響透過損失の異なる複数の遮音材の組み合わせが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】騒音源、受音点、及び遮音材の位置関係を表す模式図である。
図2】本発明の実施例1に係る遮音材サイズ算定装置が組み込まれたコンピュータ・システムのハードウェアの全体構成を表す図である。
図3】実施例1に係る遮音材サイズ算定装置の機能的構成を表す図である。
図4】実施例1の遮音材サイズ算定装置の全体動作を表すフローチャートである。
図5図4における最小面積遮音材サイズ算出処理の詳細を表すフローチャートである。
図6】有限サイズの長方形の遮音材ABCDの音響回折計算のための領域分割モデルである。
図7】計算で使用する回折補正量の種類を表す図である。
図8】スリット回折を示す図である。
図9】スリット回折計算における仮想遮音材の設定を示す図である。
図10】行路差δの算出方法を説明する図である。
図11】回折補正量の計算チャートである。
図12】遮音材の高さ、幅及び位置の算出処理を説明する図である。
図13】遮音材上端で回折する場合における三次元空間の騒音源Sから受音点Pへの最短行路を示す図である。
図14】騒音源と受音点の一つの組(i,j)に対して、遮音材の面積が最小となるように決定された遮音材のサイズ(wij,hij)及び位置xijの例を示す図である。
図15】全ての騒音源と一つの受音点の組(i,j)に対して、遮音材の面積が最小となるように決定された遮音材のサイズ(wij,hij)及び位置座標(qAij,qBij)の例を示す図である。
図16図4における遮音材必要延長算出処理の詳細を表すフローチャートである。
図17図4における遮音材必要高さ算出処理の詳細を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1に係る遮音材サイズ算定装置は、N個の騒音源S,…,S(i=1,…,N)とM個の受音点P,…,P(j=1,…,M)を各位置に配置し、各騒音源S(i=1,…,N)から騒音パワーレベルLw,iで騒音が発生した場合に、各騒音源Sの各受音点P(j=1,…,M)における騒音レベルLijを所定の目標騒音レベルLij(dest)以下とするために必要な、必要最小限の遮音材のサイズ及び形状を算出する装置である。図1に、騒音源、受音点、及び遮音材の位置関係を表す模式図を示す。図1において、騒音発生領域は格子状に区画し、各格子の中心を騒音源S,…,S図1の例ではN=18)としている。また、騒音を測定する受音点P,…,P図1の例ではM=3)は、騒音発生領域の周辺に適宜配置する。遮音材は線分D上の何処かに配置するものとする。この場合、遮音材の設置可能な範囲(設置位置範囲)は線分Dとなる。各騒音源S(i=1,…,N)と各受音点P(j=1,…,M)とを結ぶ線分の長さをdijとする。図1は平面図で表されているが、実際には騒音源S,受音点Pの位置は3次元空間内の点で表される。尚、遮音材の設置位置範囲は初期条件として与えられるものとし、遮音材の全体形状は任意形状とする。遮音材サイズ算定装置が遮音材のサイズを演算する動作としては、(A)最小面積となるサイズを算出する動作、(B)遮音材の高さを一定として遮音材の必要延長を算出する動作、(C)遮音材の幅を一定として遮音材の必要高さを算出する動作、の3つの演算動作を選択することができる。
【0017】
図2は、本発明の実施例1に係る遮音材サイズ算定装置が組み込まれたコンピュータ・システムのハードウェアの全体構成を表す図である。図2において、本実施例のコンピュータ・システムは、サーバ1、クライアントPC2、LAN3、ルーター4、電気通信回線5、携帯型PC6、及び携帯端末7を備えている。携帯端末7は、スマートフォンやタブレットなどの通常の携帯端末である。コンピュータで実行することによって遮音材サイズ算定装置を実現するための遮音材サイズ算定プログラムは、サーバ1、クライアントPC2、又は携帯型PC6の一乃至複数にインストールされる。サーバ1、クライアントPC2又は携帯型PC6に遮音材サイズ算定プログラムをインストールして実行する場合には、当該サーバ1、クライアントPC2又は携帯型PC6自体が遮音材サイズ算定装置となる。また、サーバ1に遮音材サイズ算定プログラムをインストールして、LAN3,ルーター4,電気通信回線5を介してクライアントPC2、携帯型PC6、又は携帯端末7からアクセスして処理を実行させ、当該クライアントPC2、携帯型PC6、又は携帯端末7で結果が閲覧することができるように構成することもできる。
【0018】
図3は、実施例1に係る遮音材サイズ算定装置の機能的構成を表す図である。遮音材サイズ算定装置10は、入力装置11、演算装置12、及び出力装置13を備えており、これらは通常のコンピュータが備えている入力装置(キーボード、マウス、タッチパネル等)、演算装置、出力装置(ディスプレイ、プリンタ等)である。演算装置12には遮音材サイズ算定プログラムが読み込まれて実行されており、その結果、演算装置12では、初期パラメータ入力部15、パラメータ記憶部16、ベース補正量演算部17、目標騒音補正量設定部18、二次元逆演算部19、三次元騒音補正量演算部20、騒音補正量収束判定部21、行路差更新部22、逆演算部23、及び結果出力部24が機能的に実現されている。
【0019】
初期パラメータ入力部15は、入力装置11から入力される初期パラメータを、内部変数として記憶している各パラメータ変数へ入力する。パラメータ記憶部16は、初期パラメータ入力部15により入力される各パラメータ変数等を記憶する。ここで、初期パラメータは、各騒音源S(i=1,…,N)の位置座標x及び騒音パワーレベルLW,i、各受音点P(j=1,…,M)の位置座標x及び目標騒音レベルLj(dest)、遮音材の設置予定位置範囲(遮音材の設置予定位置の起終点座標(図1の線分Dの両端点の位置座標(qDw,l,qDw,r)))、回折減衰比asp(後述)の初期値asp0及び終了値asp1、周辺地形、並びに遮音材の音響関連パラメータ(遮音材の音響透過損失R、回折計算チャート等)を含む。
【0020】
ベース補正量演算部17は、i番目(i=1,…,N)の騒音源Sとj番目の受音点P(j=1,…,M)の各組(i,j)に対し、初期パラメータ入力部15により設定された初期パラメータに基づき、遮音材に依存しないベース騒音補正量ΔLbase,ijを算出する。目標騒音補正量設定部18は、騒音源Sと受音点Pの各組(i,j)に対し、目標騒音レベルLij(dest)から、騒音源Sの騒音パワーレベル、音場の空間自由度に基づく補正量、及びベース騒音補正量ΔLbase,ijを差し引いた目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を算出する。二次元逆演算部19は、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)から、騒音源Sと受音点Pを含む平面上の二次元平面内の音響レベル演算により、騒音源Sから受音点Pを結ぶ直線と騒音源Sから遮音材上下左右端辺を通り受音点Pへ至る各行路との行路差δidx(後述)、及び該行路差δidxに相当する遮音材のサイズを算出し初期値として設定する。三次元騒音補正量演算部20は、設定された遮音材のサイズに基づき、三次元計算(後述)により、騒音源Sの受音点Pにおける遮音材による騒音補正量ΔLwall,ij(res)を算出する。騒音補正量収束判定部21は、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)と騒音補正量ΔLwall,ij(res)の差の絶対値が|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|が所定の閾値ε未満か否かを判定する。行路差更新部22は、騒音補正量収束判定部21が閾値ε以上と判定した場合、差ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)の符号に応じて行路差δidxのいずれかの設定値を所定の値Δδだけ増減させる。逆演算部23は、行路差更新部22により行路差δidxの設定値が変更された場合、行路差δidxに相当する遮音材のサイズを算出する。結果出力部24は、騒音補正量収束判定部21が前記閾値ε未満と判定した場合、出力装置に遮音材の位置及びサイズを図画出力する。
【0021】
以上のように構成された本実施例に係る遮音材サイズ算定装置10について、以下、その動作を説明する。
【0022】
(1)全体の動作
図4は、実施例1の遮音材サイズ算定装置の全体動作を表すフローチャートである。まず、ステップS1,S2において、ユーザにより、入力装置11から、各騒音源S(i=1,…,N)の位置座標x及び騒音パワーレベルLW,i、各受音点P(j=1,…,M)の位置座標x、各騒音源の各受音点における目標騒音レベルLij(dest)、遮音材の設置位置範囲、周辺地形、並びに遮音材の音響関連パラメータ(音響透過損失R、遮音材の縦横の回折減衰比の初期値及び終了値、回折計算チャート等)が入力される。このとき、初期パラメータ入力部15は、出力装置13に含まれるディスプレイ上に、各パラメータの入力画面を表示し、入力装置11からユーザにより各パラメータが入力されると、それらをパラメータ記憶部16に保存する。ここで、「周辺地形」は、“盛土”、“切土”、“高架”、“平面”の中から選択する。
【0023】
次に、ステップS3において、初期パラメータ入力部15は、出力装置13に含まれるディスプレイ上に、動作パターンの選択画面を表示し、ユーザにより入力装置11から入力される動作パターンの選択指示に従って、動作パターンを設定する。ここで、「動作パターン」とは、(A)最小面積となるサイズを算出する動作、(B)遮音材の高さを一定として遮音材の必要延長を算出する動作、(C)遮音材の幅を一定として遮音材の必要高さを算出する動作、の3つの動作パターンをいう。
【0024】
ここで、動作パターンとして(A)の動作が選択された場合(ステップS4)、後述の「最小面積遮音材サイズ算出処理」の処理が実行される(ステップS5)。動作パターンとして(B)の動作が選択された場合(ステップS4)、後述の「遮音材必要延長算出処理」の処理が実行される(ステップS6)。動作パターンとして(C)の動作が選択された場合(ステップS4)、後述の「遮音材必要高さ算出処理」の処理が実行される(ステップS7)。
【0025】
最後に、結果出力部24は、(A)〜(C)の各処理に於いて算出される遮音材のサイズパラメータから、遮音材のサイズ及び全体形状を、出力装置13に図画出力し(ステップS8)、一連の動作を終了する。
【0026】
(2)最小面積遮音材サイズ算出処理(動作パターン(A))
図5は、図4における最小面積遮音材サイズ算出処理(S5)の詳細を表すフローチャートである。本実施例では、基本的に、1つの騒音源Sと1つの受音点Pの組(i,j)の其々について、その組(i,j)に対する必要最小限の面積の遮音材のサイズ及び位置を算出し、最後に、各組(i,j)に対して算出された遮音材のサイズ及び位置を統合することにより、必要最小限の面積の遮音材のサイズ及び形状を算出する。
【0027】
まず、演算装置12は、受音点Pのインデックスjを設定し(ステップS101)、次いで、騒音源Sのインデックスiを設定する(ステップS102)ことにより、計算対象とする騒音源と受音点の組(i,j)を設定する。
【0028】
次に、ステップS103において、ベース補正量演算部17は、距離減衰等の遮音材の有無には依存しない騒音補正量を算出する。ここで、一般に、騒音源Sの受音点Pにおける騒音レベルは次式により表される(非特許文献1,2参照)。
【0029】
【数1】
ここで、式(1)における各変数の意味は次の通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
式(1)において、左辺は騒音源Sの受音点Pにおける騒音レベルである。右辺第1項のLw,i=10 log10(Wi/I0)(Wiは騒音源Sの音響パワー[W],I0=1pWは基準音源の音響パワー)は騒音源Sの騒音パワーレベルであり、右辺第2項及び第3項は距離減衰に関する補正量(右辺第2項は音場の指向性係数Q(半自由空間(騒音源が地表面近傍)の場合は2)を単位球表面積4πで割った値のデシベル値(=10 log10(Q/4π))を表す。)であり、右辺第4項は遮音材の回折・透過に伴う減衰に関する補正量であり、右辺第5項は地表面の影響に関する補正量であり、右辺第6項は空気の音響吸収に関する補正量である(各補正量の詳細は非特許文献1,2参照)。右辺のうち、騒音源Sの騒音パワーレベルLw,iは初期パラメータとして設定され、パラメータ記憶部16に保存されている。右辺第2項,右辺第3項,第5項,第6項は遮音材に依存しない補正量であり、右辺第4項は遮音材に依存する補正量である。従って、ベース補正量演算部17は、式(1)の右辺第2項,右辺第3項,第5項,第6項の和、即ち、
【0032】
【数2】
を計算する。
【0033】
次に、ステップS104において、目標騒音補正量設定部18は、組(i,j)に対する、遮音材に関する目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を次式により算出する。
【0034】
【数3】
ここで、Lij(dest)は組(i,j)に対して割り当てられる目標騒音レベルである。目標騒音レベルLij(dest)はiに依らず、受音点Pに対して一定の値Lj(dest)とされる。これは、騒音源S1〜SNiのどの場所で騒音が発生した場合でも、受音点Pにおいて同じレベルまで騒音レベルが下がるように遮音材の大きさを調整することを意味する。尚、受音点Pにおける目標騒音レベルLj(dest)は初期パラメータとして予め設定され(ステップS1)、パラメータ記憶部16に保存されている。
【0035】
次に、ステップS105において、演算装置12は、ループカウンタloop_countを1に初期化し、遮音材の回折減衰比(縦の回折減衰に対する横の回折減衰の比)aspをaspに初期化する。尚、回折減衰比aspの初期値は、予め設定された極めて小さい値(略0に近い値)に設定される。
【0036】
ここで、回折減衰比aspについて説明する。図6は、有限サイズの長方形の遮音材ABCDの音響回折計算のための領域分割モデルである。尚、図6では、理解を容易にするため、遮音材ABCDの下辺CDの中央点を原点Oとし、水平方向をx軸、紙面前後方向をy軸、鉛直方向をz軸とする座標軸を、参考として表示している。遮音材ABCDが載る平面を、遮音材ABCDの上下辺及び左右辺を延長した4本の直線により、9つの領域に分割し、各領域を図6に示したようにΓ,Γ,Γ,Γ,Γ,Γ,Γ,Γ,Γとする。領域Γは遮音材ABCDの領域であり、領域Γ,Γ,Γ,Γ,Γは解放された空間の領域であり、領域Γ,Γ,Γは地面領域である。遮音材ABCDは、騒音源Sと受音点Pを結ぶ線分を切るように、地面に垂直に立てて設置されている。本明細書において、計算で使用する回折補正量の種類を、図7(a)〜(f)に示した通り、以下のように定義する(以下の(a)〜(f)は、それぞれ図7(a)〜(f)に対応)。
【0037】
(a)遮音材上端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ123,ij: 遮音材上端で回折する場合の回折行路差
ΔL123,ij: 遮音材上端で回折する場合の回折補正量
(b)地盤で回折する場合[音源から受音点が見える場合(負の行路差)]
δ0-5,ij: 地盤で回折する場合の回折行路差
ΔL0-5,ij: 地盤で回折する場合の回折補正量
(c)遮音材左端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ146,ij: 遮音材左端で回折する場合の回折行路差
ΔL146,ij: 遮音材左端で回折する場合の回折補正量
(d)遮音材右端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ358,ij: 遮音材右端で回折する場合の回折行路差
ΔL358,ij: 遮音材右端で回折する場合の回折補正量
(e)遮音材下端で回折する場合[音源から受音点が見えない場合(正の行路差)]
δ678,ij: 遮音材下端で回折する場合の回折行路差
ΔL678,ij: 遮音材下端で回折する場合の回折補正量
(f)(遮音材ABCDの)上の遮音材下端で回折する場合[音源から受音点が見える場合(負の行路差)]
δ0,4-8,ij: 上の遮音材下端で回折する場合の回折行路差
ΔL0,4-8,ij: 上の遮音材下端で回折する場合の回折補正量
ここで、「正の行路差」,「負の行路差」とは、其々、行路差δの符号が+,−である行路差をいう。尚、行路差δの符号は、遮音材の端辺に対する回折の方向で定まる(非特許文献2の13頁,図3.1参照)。
【0038】
図7において、領域Γ〜Γ図6の領域Γ〜Γに対応する。また、グレーに着色された領域は遮蔽領域、着色されていない領域は開放領域を表す。記号δ,ΔLは、其々、回折行路差,回折補正量を表し、記号δ,ΔLの添字は、カンマの前の部分が開放された領域のインデックス、カンマの後の部分が騒音源S,受音点Pのインデックスを表す。例えば、図7(a)の場合、領域Γ,Γ,Γが解放され領域Γ,Γ〜Γが遮蔽された場合(領域Γ,Γ,Γ以外の領域を半無限大の仮想障壁と考えた場合)を表しており、δ123,ijはその場合における回折行路差(騒音源Sから受音点Pを結ぶ線分Sと騒音源Sから半無限大仮想障壁の上端を通り受音点Pへ至る最短行路との行路差)、ΔL123,ijは行路差δ123,ijに対する回折補正量を表す。上記の(a)〜(f)のそれぞれの回折補正量ΔLidx(idxは(a)〜(f)のそれぞれのインデックス)は、それに対応する回折行路差δidxを用いて、後述の式(8),(9)により計算される(式(8),(9)のΔLdがΔLidxに、δがδidxに対応)。
【0039】
回折減衰比aspは、上記の回折補正量を用いて、次式によって定義される。
【0040】
【数4】
【0041】
次に、ステップS106において、二次元逆演算部19は、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)から、騒音源Sと受音点Pとを含む二次元平面(S,Pを含む平面)内の最短行路に対する音響レベル演算により、騒音源Sから受音点Pを結ぶ線分Sと騒音源Sから遮音材上端を通り受音点Pへ至る行路との行路差δ123,ij、前記線分Sと騒音源Sから遮音材左端を通り受音点Pへ至る行路との行路差δ146,ij、前記線分Sと騒音源Sから遮音材右端を通り受音点Pへ至る行路との行路差δ358,ij、及び該行路差δ123,ij,δ146,ij,δ358,ijに相当する遮音材のサイズ(遮音材の幅wwall,ij及び高さhwall,ij)を算出し初期値として設定する。この二次元逆演算部19における演算処理(以下「二次元逆演算処理」という。)は、具体的には以下のようにして行われる。
【0042】
有限サイズの長方形の遮音材に対する回折補正量の計算に関しては、非特許文献1,2及びバビネの原理に基づいて、音響透過損失を考慮した回折補正量の算出式は以下のように計算できる。
【0043】
前述した図6の遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,transは、次式により表される(非特許文献2参照)。
(i)高架、盛土、切土の場合
【0044】
【数5】
(ii)平面の場合
【0045】
【数6】
ここで、式(5),(6)における各変数の意味は次の通りである。
【0046】
【表2】
【0047】
遮音材の音響透過損失Rは、初期パラメータとして設定され、パラメータ記憶部16に保存されている。スリット回折に関する補正量ΔLdif,slitは、図8に示すように、遮音材ABCDの領域Γをスリット開口(O〜O)に置き換えて、スリット開口(O〜O)を通過する音のエネルギーを、図9に示すように、2つの仮想障壁(頂点Oの仮想障壁及び頂点Oの仮想障壁)により回折される音のエネルギーの差として、次式により計算される(非特許文献2参照)。
【0048】
【数7】
【0049】
また、回折減衰補正量ΔLは、ナイフエッジ(薄い障壁)を前提として、次式により計算される。
【0050】
(i)騒音源Sから受音点Pが見えない場合
【0051】
【数8】
(ii)騒音源Sから受音点Pが見える場合
【0052】
【数9】
【0053】
ここで、δは、図10に示すように、回折経路SOPと直達経路SPとの行路差[m]である。また、a,b,cは定数であり、ユニット・建設機械の場合には、a=18.4,b=15.2,c=0.42,d=0.073である。尚、この計算式(8),(9)を図化した回折補正量の計算チャートは、例えば、図11に示す通りである。尚、図11は回折補正量の計算チャートの一例であり、これ以外の回折補正量の計算チャート(例えば、前川チャート等)を用いることも出来る。
【0054】
今、ステップS106においては、式(5),(6)における音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,transを、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)に設定し既知の値とする。また、式(5)〜(7)において、地盤で回折する場合の回折補正量ΔL0-5,ij図7(b))及び遮音材下端で回折する場合の回折補正量ΔL678,ij図7(e))は、初期パラメータとして設定されている、騒音源Sの座標qSi、受音点Pの座標qPj、及び遮音材の設置予定位置の起終点座標(図1の線分Dの両端点の座標(qDw,l,qDw,r)、即ち、遮音材の設置予定位置範囲)から、式(8),(9)により一意的に算出することが出来る。また、遮音材左端で回折する場合の回折補正量ΔL146,ij図7(c))、及び遮音材右端で回折する場合の回折補正量ΔL358,ij図7(d))は、式(4)より、遮音材上端で回折する場合の回折補正量ΔL123,ij図7(a))と回折減衰比aspとから、
【0055】
【数10】
により算出されるので、回折補正量ΔL146,ij,ΔL358,ijは回折補正量ΔL123,ijの従属変数である。故に、ステップS106において式(5)〜(7)における独立な未知変数は回折補正量ΔL123,ij図7(a))と上の遮音材下端で回折する場合の回折補正量ΔL0,4-8,ij図7(f))である。このうち、回折補正量ΔL0,4-8,ijについては、ここでは便宜的にΔL0,4-8,ij=0とする。然為れば、式(5)〜(7)における独立な未知変数は回折補正量ΔL123,ijのみとなるので、二次元逆演算部19は、式(5)〜(7)から導かれる回折補正量ΔL123,ijの逆算式により、回折補正量ΔL123,ijを算出し、更に式(10)により、回折補正量ΔL146,ij,ΔL358,ijが算出する。更に、算出された回折補正量ΔL123,ij,ΔL146,ij,ΔL358,ijから、式(8),(9)を用いて、遮音材の上端,左端,右端で回折する場合の回折行路差δ123,ij,δ146,ij,δ358,ijを逆算する。
【0056】
次に、二次元逆演算部19は、騒音源Sの座標、受音点Pの座標、及び遮音材の設置予定位置の起終点座標(図1の線分Dの両端点の座標)から、線分Sの長さdij、及び図12に示したような、線分Sijと遮音材との交点Mijの座標(xMij,yMij,zMij)を算出する(尚、図12の座標軸は見易くするために一例として記したもの)。交点Mijから遮音材の上端辺に下ろした垂線の足Qt,ij(2)は、騒音源S,受音点Pを焦点とし各焦点から周上点までの距離の和がdij+δ123,ijである路面に垂直な平面(点S,P,Qt,ij(2)を含む平面)内の楕円の楕円周上にあるので、二次元逆演算部19は、交点Mijから遮音材の上端までの距離dtを、前記楕円の方程式を用いて算出する。即ち、点S,P,Mij,Qt,ij(2)の位置ベクトルをqSi,qPj,qMij,qQt,ij、遮音材の上端辺に垂直な該端辺に対して外向き(鉛直上向き)の単位ベクトルをut⊥とすると、
【0057】
【数11】
なので、二次元逆演算部19は、式(11)を距離dtについて解いた演算式を計算することによって距離dtの値を計算する。
【0058】
同様にして、二次元逆演算部19は、点S,P,Ql,ij(2)(点Ql,ij(2)は交点Mijから遮音材の左端に下ろした垂線の足)を含む平面内において遮音材左端で回折する行路長dij+δ146,ijの行路を仮定した場合の交点Mijから遮音材の左端辺までの距離dlを算出し、点S,P,Qr,ij(2)(点Qr,ij(2)は交点Mijから遮音材の右端辺に下ろした垂線の足)を含む平面内において遮音材右端で回折する行路長dij+δ358,ijの行路を仮定した場合の交点Mijから遮音材の右端までの距離drを算出する。この場合、二次元逆演算部19が、距離dl,距離drを計算する際の演算式は、
【0059】
【数12】
である。ここで、qQl,ij,qQr,ijは、其々、点Ql,ij(2),Qr,ij(2)の位置ベクトル、ul⊥,ur⊥は、其々、遮音材の左端辺,右端辺に垂直な該端辺に対して外向きの単位ベクトル、qDw,lj,qDw,rは、其々、遮音材の設置予定位置である線分Dの左端点,右端点の位置ベクトルを表す(図1参照)。
【0060】
そして、二次元逆演算部19は、交点Mijの座標qMij=(xMij,yMij,zMij)及び距離dt,dl,dr並びに方向ベクトルut⊥,ul⊥,ur⊥より、組(i,j)に対する遮音材の幅wwall,ij=dl+dr、遮音材の高さhwall,ij=zMij+dt、遮音材の面積a=hwall,ij・wwall,ij、遮音材の左上端点Aijの座標qAij=(xAij,yAij,zAij)=qMij+dtt⊥+dll⊥、及び遮音材の右上端点Bijの座標qBij=(xBij,yBij,zBij)=qMij+dtt⊥+drr⊥を算出する。
【0061】
次に、ステップS107において、三次元騒音補正量演算部20は、二次元逆演算処理により算出された、サイズが(wwall,ij,hwall,ij)で左右上端点の位置座標が(xAij,yAij,zAij),(xBij,yBij,zBij)の遮音材に対し、三次元空間内における最短な回折行路を考慮して、式(5)〜(7)により、遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,trans,ij=ΔLwall,ij(res)を再度計算し、ステップS108において、騒音補正量収束判定部21は、目標値との差|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|が許容誤差ε以下か否かを判定する。この三次元騒音補正量演算部20における演算処理(以下「三次元騒音補正量演算処理」という。)は、具体的には以下のようにして行われる。
【0062】
三次元騒音補正量演算部20が有限サイズの遮音材に対する音響透過損失を考慮した回折補正量を算出する場合、まず、騒音源S,受音点Pの位置座標qSi,qPj、遮音材下端辺の起終点座標qDij,qCij、及び遮音材上端辺の起終点座標qAij,qBijから、式(8),(9)により図7で説明した上述の補正量ΔL123,ij,ΔL0-5,ij,ΔL146,ij,ΔL358,ij,ΔL678,ij,ΔL0,4-8,ijを算出し、式(5)〜(7)により音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,transを算出する。ここで、三次元騒音補正量演算部20が、式(8),(9)の演算を行う際に、行路差δ123,ij,δ0-5,ij,δ146,ij,δ358,ij,δ678,ij,δ0,4-8,ijを算出するが、これらの行路差の演算の際の最短行路が、三次元空間の場合には、前述の二次元逆演算処理の場合とは相違する。
【0063】
図13は、遮音材上端辺で回折する場合における三次元空間の騒音源Sから受音点Pへの最短行路を示す図である。図13(a)は騒音源Sの側から視た斜視図であり、図13(b)は真上から視た平面図である。尚、図13においては、図を見易くするため、各記号における添字i,jは省略している。騒音源Siから遮音材上端辺へ下ろした垂線の足を点Sb,i、受音点Pjから遮音材上端辺へ下ろした垂線の足を点Pb,jとし、騒音源Sから受音点Pへの最短行路が遮音材上端辺と交差する折点をQt,ij(3)とする。線分Qt,ij(3)i,線分Qt,ij(3)j,線分Sb,ii,線分Pb,jj,線分Qt,ij(3)b,i,線分Qt,ij(3)b,jの長さを、其々、r,r,a,a,b,bとする。騒音源Siから受音点Pjへの行路長r12はr12=r+rであり、これが最小となるように点Qt,ij(3)の位置が決定される。今、図13に示したように、三角形Sb,it,ij(3)Sを、遮音材上端辺上の辺Sb,it,ij(3)を回転軸として、遮音材に直交する水平面まで回転したときの点Siの写像点をSi’とし、三角形Pb,jt,ij(3)jを、遮音材上端辺上の辺Pb,jt,ij(3)を回転軸として、遮音材に直交する水平面まで回転したときの点Pjの写像点をPj’とする。線分Qt,ij(3)i’,線分Qt,ij(3)j’の長さはr,r、線分Sb,ii’,線分Pb,jj’の長さはa,aである。r+rが最小のとき、経路Si’Qt,ij(3)jは、図13(b)のように直線となり、
【0064】
【数13】
となる。ここで、dSbPbは線分Sb,ib,jの長さ、dSPは線分Sijの長さ(=dij図12参照))である。遮音材下端辺(地盤)を回折する場合の行路差δ678,ij(=δ0-5,ij)、遮音材左端辺を回折する場合の行路差δ146,ij、遮音材右端辺を回折する場合の行路差δ358,ijも同様にして計算される。尚、上の遮音材下端辺を回折する場合の行路差δ0,4-8,ijは行路差δ123,ijの反数である。三次元騒音補正量演算処理では、三次元騒音補正量演算部20は、式(13a),(13b)等の演算により、其々の行路差δ123,ij,δ0-5,ij,δ146,ij,δ358,ij,δ678,ij,δ0,4-8,ijを算出する。
【0065】
尚、図13(b)から分かるように、前述の二次元逆演算処理の場合には行路Sit,ij(2)jは平面視で直線Siijjと重なるが、三次元空間で考える場合には、一般には、行路Sit,ij(3)jは平面視で直線Siijjとは重ならない。従って、一般に、三次元空間で考えた最短行路の行路差は、二次元で考えた最短行路の行路差以下となることが分かる。
【0066】
ステップS108において、|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|>εの場合、ステップS109において、ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)>0であるか否かを判定し、
(i)ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)>0の場合は、ステップS110において、行路差更新部22は現在の行路差δ123,ijの設定値に刻み幅Δδを加えて再設定し、
(ii)ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)<0の場合は、ステップS111において、行路差更新部22は現在の行路差δ123,ijの設定値から刻み幅Δδを引いて再設定する。
そして、ステップS112において、逆演算部23は、再設定された行路差δ123,ijの設定値を用いて、式(8),(9)より遮音材上端で回折する場合の回折補正量ΔL123,ijを算出し、算出した回折補正量ΔL123,ijと回折減衰比aspから、遮音材左端辺,右端辺で回折する場合の回折補正量ΔL146,ij,ΔL358,ijを算出し、式(8),(9)を用いて、行路差δ146,ij,δ358,ijを逆算して、各行路差を再設定する。そして、行路差更新部22は、前述した二次元逆演算処理により、組(i,j)に対する遮音材の幅wwall,ij、遮音材の高さhwall,ij、遮音材の左上端点Aijの座標qAij、及び遮音材の右上端点Bijの座標qBijを再度算出して設定した後、前述のステップS107の処理へ戻る。
【0067】
ステップS108において、|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|≦εの場合、演算装置12は、ループカウンタloop_countが1の場合には(ステップS115)、騒音補正量収束判定部21は、現在の遮音材の面積aの値をバックアップ用の面積格納変数aに格納し、現在の遮音材のサイズ(hwall,ij,wwall,ij)の値をバックアップ用の面積格納変数(hwall,ij,wwall,ij(best)に格納し、現在の遮音材の左右上端点の位置座標(qAij,qBij)をバックアップ用の面積格納変数(qAij,qBij(best)に格納した後(ステップS117)、遮音材の回折減衰比aspに刻み幅Δaspを加えて再設定し、ループカウンタloop_countをインクリメントし(ステップS118)、前述のステップS106の処理へ戻る。
【0068】
一方、ステップS115においてループカウンタloop_countが1より大きい場合には、騒音補正量収束判定部21は、現在の回折減衰比aspが終了値aspに達しているか否かを判定する(ステップS115a)。asp<aspであれば、現在の遮音材の面積aを算出し(ステップS115b)、算出された現在の遮音材の面積aの値をバックアップ用の面積格納変数aに格納された前回の面積の値と比較する(ステップS116)。そして、a<aであれば、現在の遮音材の面積aの値をバックアップ用の面積格納変数aに格納し、現在の遮音材のサイズ(hwall,ij,wwall,ij)の値をバックアップ用の面積格納変数(hwall,ij,wwall,ij(best)に格納し、現在の遮音材の左右上端点の位置座標(qAij,qBij)をバックアップ用の面積格納変数(qAij,qBij(best)に格納する(ステップS117)。そして、遮音材の回折減衰比aspに刻み幅Δaspを加えて再設定し、ループカウンタloop_countをインクリメントし(ステップS118)、前述のステップS106の処理へ戻る。
【0069】
一方、ステップS115bにおいてasp≧asp(回折減衰比aspが終了値aspに到達)であれば、組(i,j)に対する遮音材のサイズ(hij,wij)を面積最小のときの最適サイズ(hwall,ij,wwall,ij(best)に設定し、遮音材の左右上端点の位置座標(qAij,qBij)を面積最小のときの位置座標(qAij,qBij(best)に設定する(ステップS119)。これにより、組(i,j)に対して面積が最小となる遮音材のサイズ(hij,wij)、並びに遮音材の左右上端点の位置座標(qAij,qBij)が決定される。
【0070】
図14に、騒音源と受音点の一つの組(i,j)に対して、遮音材の面積が最小となるように決定された遮音材のサイズ(wij,hij)及び位置xijの例を示す。図14において「遮音材起点」と「遮音材終点」を結ぶ水平線が遮音材の上辺となり、「遮音材起点」又は「遮音材終点」から地面に鉛直に下ろした線分が、それぞれ遮音材の側辺となる。
【0071】
以上のステップS103〜S119の処理を、全ての組(i,j)に対して反復実行する(ステップS120,ステップS121)。これにより、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して遮音材のサイズ(wij,hij)及び遮音材の左右上端点位置qAij,qBijが算出される。
【0072】
最後に、ステップS122において、結果出力部24は、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して算出された遮音材のサイズ(wij,hij)及び遮音材の中心位置xijに基づき、各組(i,j)の遮音材を同一図面上に重ねて図画出力する。
【0073】
図15に、全ての騒音源と一つの受音点の組(i,j)に対して、遮音材の面積が最小となるように決定された遮音材のサイズ(wij,hij)及び位置座標(qAij,qBij)の例を示す。図15において、それぞれの組(i,j)に対して、サイズ(wij,hij)及び位置座標(qAij,qBij)から各組(i,j)に対して「遮音材起点」と「遮音材終点」が決定される。従って、これを基に、図15(b)に示すように遮音材を同一図面に重ねて図画出力することで、目標騒音レベルを達成するために必要最小限な遮音材の全体形状を得ることが出来る。
【0074】
(3)遮音材必要延長算出処理(動作パターン(B))
図16は、図4における遮音材必要延長算出処理の詳細を表すフローチャートである。遮音材必要延長算出処理では、遮音材の高さhwallは初期パラメータとしてステップS2で予め設定されており、騒音源と受音点の各組(i,j)に対して遮音材の幅wwall,ijを最適化する。
【0075】
まず、演算装置12は、受音点Pのインデックスjを設定し(ステップS201)、次いで、騒音源Sのインデックスiを設定する(ステップS202)ことにより、計算対象とする騒音源と受音点の組(i,j)を設定する。
【0076】
次に、ステップS203において、ベース補正量演算部17は、前述の式(2)により、距離減衰等の遮音材の有無には依存しない騒音補正量ΔLbase,ijを算出する。
【0077】
次に、ステップS204において、目標騒音補正量設定部18は、組(i,j)に対する、遮音材に関する目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を前述の式(3)により算出する。
【0078】
次に、ステップS205において、二次元逆演算部19は、遮音材の左右端辺で回折する場合の回折行路差δ358,ij,δ678,ij及び遮音材の幅wwall,ijを算出し初期値として設定する。この二次元逆演算部19における演算処理は、具体的には以下のようにして実行される。
【0079】
ここでは遮音材の高さhwallが既知であるため、騒音源Sと受音点Pを含む路面に垂直な二次元平面内の回折行路は決まっている。従って、二次元逆演算部19は、まず、点S,Pの位置座標qSi,qPi、遮音材の設置予定位置の起終点座標(図1の線分Dの両端点の位置座標(qDw,lj,qDw,r))、及び遮音材の高さhwallから、回折行路差δ123,ij,δ0-5,ij,δ678,ij,δ0,4-8,ijを算出し、これらの行路差を用いて、式(8)(9)より、回折補正量ΔL123,ij,ΔL0-5,ij,ΔL678,ij,ΔL0,4-8,ijを算出する。また、遮音材の音響透過損失R及び目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)は、すでに設定されている。更に、遮音材左端で回折する場合の回折補正量ΔL146,ijと遮音材右端で回折する場合の回折補正量ΔL358,ijとは同値であるものとする(ΔL358,ij=ΔL146,ij)。従って、式(5)〜(7)において、独立な未知変数はΔL146,ij(又はΔL358,ij)のみであるため、二次元逆演算部19は、式(5)〜(7)からΔL146,ij(又はΔL358,ij)を逆算する逆算式の演算を行うことにより、回折補正量ΔL146,ij,ΔL358,ijを算出し、式(8)(9)の逆算演算により、遮音材左右端で回折する場合の回折行路差δ146,ij,δ358,ijを算出する。そして、算出された回折行路差δ146,ij,δ358,ijを用いて、実施例1と同様に、式(12a)〜(12c)から導かれるqQl,ij,qQr,ijを算出する演算式を演算することで、図12の点Ql,ij(2),Qr,ij(2)の位置ベクトルqQl,ij,qQr,ijを算出し、距離dl=|qQl,ij−qMij|,dr=|qQr,ij−qMij|、遮音材の幅wwall,ij=|qQl,ij−qQr,ij|、及び遮音材の左右上端点Aij,Bijの座標qAij=qMij+dtt⊥+dll⊥,qBij=qMij+dtt⊥+drr⊥を算出する。
【0080】
次に、ステップS206において、三次元騒音補正量演算部20は、上記二次元平面内の計算により算出された遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)から、実施例1のステップS107で説明した三次元騒音補正量演算処理を実行することで、遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,trans,ij=ΔLwall,ij(res)を再度計算し、ステップS207において、騒音補正量収束判定部21は、目標値との差|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|が許容誤差ε以下か否かを判定する。
【0081】
ステップS207において、|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|>εの場合、ステップS208において、ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)>0であるか否かを判定し、
(i)ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)>0の場合は、ステップS209において、行路差更新部22は現在の行路差δ146,ij(又はδ358,ij)の設定値に刻み幅Δδを加えて再設定し、
(ii)ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)<0の場合は、ステップS210において、行路差更新部22は現在の行路差δ146,ij(又はδ358,ij)の設定値から刻み幅Δδを引いて再設定する。
そして、ステップS211において、逆演算部23は、再設定された行路差δ146,ij(又はδ358,ij)の設定値を用いて、ステップS205と同様の二次元平面内の回折行路の計算によって、音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,trans,ijが目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)となる遮音材の幅wwall,ijを算出し、遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)を再設定した後、前述のステップS206の処理へ戻る。
【0082】
ステップS207において、|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|≦εの場合、算出された遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)が騒音点Sと受音点Pの組(i,j)に対する最適なサイズ及び左右上端点位置座標に決定される。
【0083】
以上のステップS203〜S211の処理を、全ての組(i,j)に対して反復実行する(ステップS212,ステップS213)。これにより、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び左右上端点位置座標(qAij,qBij)が算出される。
【0084】
最後に、ステップS214において、結果出力部24は、最小面積遮音材サイズ算出処理の場合と同様に、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して算出された遮音材のサイズ(wij,hij)及び左右上端点位置座標(qAij,qBij)に基づき、各組(i,j)の遮音材を同一図面に重ねて図画出力する。
【0085】
(4)遮音材必要高さ算出処理(動作パターン(C))
図17は、図4における遮音材必要高さ算出処理の詳細を表すフローチャートである。遮音材必要高さ算出処理では、遮音材の幅wwallは初期パラメータとしてステップS2で予め設定されており、騒音源と受音点の各組(i,j)に対して遮音材の高さhwall,ijを最適化する。
【0086】
まず、演算装置12は、受音点Pのインデックスjを設定し(ステップS301)、次いで、騒音源Sのインデックスiを設定する(ステップS302)ことにより、計算対象とする騒音源と受音点の組(i,j)を設定する。
【0087】
次に、ステップS303において、ベース補正量演算部17は、前述の式(2)により、距離減衰等の遮音材の有無には依存しない騒音補正量ΔLbase,ijを算出する。
【0088】
次に、ステップS304において、目標騒音補正量設定部18は、組(i,j)に対する、遮音材に関する目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)を前述の式(3)により算出する。
【0089】
次に、ステップS305において、二次元逆演算部19は、目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)から、騒音源Sと受音点Pを含む路面に垂直な二次元平面内の音響レベル演算により、騒音源Sから受音点Pを結ぶ直線と騒音源Sから遮音材上端を通り受音点Pへ至る行路との行路差δ123,ij、及び遮音材の高さhwall,ijを算出し初期値として設定する。この二次元逆演算部19における演算処理は、具体的には以下のようにして実行される。
【0090】
ここでは遮音材の幅wwallが既知であるため、騒音源Sと受音点Pを含む路面に水平な二次元平面内の回折行路が決まっている。従って、二次元逆演算部19は、まず、点S,Pの位置座標qSi,qPi、遮音材の設置予定位置の起終点座標(図1の線分Dの両端点の位置座標(qDw,l,qDw,r))、及び遮音材の幅wwallから、回折行路差δ0-5,ij,δ678,ij,δ146,ij,δ358,ijを算出し、これらの行路差を用いて、式(8)(9)より、回折補正量ΔL0-5,ij,ΔL678,ij,ΔL146,ij,ΔL358,ijを算出する。ここで、δ146,ij=δ358,ij,ΔL146,ij=ΔL358,ijをとする。また、遮音材の音響透過損失R及び目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)は、すでに設定されている。また、(遮音材ABCDの)上の遮音材下端で回折する場合の回折補正量ΔL0,4-8,ijについては、便宜的にΔL0,4-8,ij=0とする。従って、式(5)〜(7)において、独立な未知変数はΔL123,ijのみであるため、二次元逆演算部19は、式(5)〜(7)からΔL123,ijを逆算する逆算式の演算を行うことにより、回折補正量ΔL123,ijを算出し、式(8)(9)の逆算演算により、遮音材上端で回折する場合の回折行路差δ123,ijを算出する。そして、算出された回折行路差δ123,ijを用いて、実施例1と同様に、式(11)から導かれるqQt,ijを算出する演算式を演算することで、図12の点Qt,ij(2)の位置ベクトルqQt,ijを算出し、距離dt=|qQt,ij−qMij|、遮音材の高さhwall,ij=zQt,ij、及び遮音材の左右上端点Aij,Bijの座標qAij=qMij+dtt⊥+dll⊥,qBij=qMij+dtt⊥+drr⊥を算出する。
【0091】
次に、ステップS306において、三次元騒音補正量演算部20は、上記二次元平面内での計算により算出された遮音材のサイズ(wwall,h wall,ij)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)から、実施例1のステップS107で説明した三次元騒音補正量演算処理を実行することで、遮音材ABCDによる音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,trans,ij=ΔLwall,ij(res)を再度計算し、ステップS307において、騒音補正量収束判定部21は、目標値との差|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|が許容誤差ε以下か否かを判定する。
【0092】
ステップS307において、|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|>εの場合、ステップS308において、ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)>0であるか否かを判定し、
(i)ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)>0の場合は、ステップS309において、行路差更新部22は現在の行路差δ123,ijの設定値に刻み幅Δδを加えて再設定し、
(ii)ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)<0の場合は、ステップS310において、行路差更新部22は現在の行路差δ123,ijの設定値から刻み幅Δδを引いて再設定する。
そして、ステップS311において、逆演算部23は、再設定された行路差δ123,ijの設定値を用いて、二次元平面内の回折行路の計算によって、音響透過損失を考慮した回折補正量ΔLdif,transが目標騒音補正量ΔLwall,ij(dest)となる遮音材の高さhwall,ijを算出し、遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)を再設定した後、前述のステップS306の処理へ戻る。
【0093】
ステップS307において、|ΔLwall,ij(dest)−ΔLwall,ij(res)|≦εの場合、算出された遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)が騒音点Sと受音点Pの組(i,j)に対する最適なサイズ及び左右上端点位置座標に決定される。
【0094】
以上のステップS303〜S311の処理を、全ての組(i,j)に対して反復実行する(ステップS312,ステップS313)。これにより、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して遮音材のサイズ(wwall,ij,hwall)及び遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)が算出される。
【0095】
最後に、ステップS314において、結果出力部24は、最小面積遮音材サイズ算出処理の場合と同様に、全ての騒音源と受音点の組(i,j)(i=1,…,N,j=1,…,M)に対して算出された遮音材のサイズ(wij,hij)遮音材の左右上端点位置座標(qAij,qBij)に基づき、各組(i,j)の遮音材を同一図面に重ねて図画出力する。
【符号の説明】
【0096】
サーバ1
クライアントPC2
LAN3
ルーター4
電気通信回線5
携帯型PC6
携帯端末7
遮音材サイズ算定装置10
入力装置11
演算装置12
出力装置13
初期パラメータ入力部15
パラメータ記憶部16
ベース補正量演算部17
目標騒音補正量設定部18
二次元逆演算部19
三次元騒音補正量演算部20
騒音補正量収束判定部21
行路差更新部22
逆演算部23
結果出力部24
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17