特許第6598419号(P6598419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598419触媒及びそれを用いた直結二段接触気相酸化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6598419
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】触媒及びそれを用いた直結二段接触気相酸化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20191021BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20191021BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20191021BHJP
   B01J 27/199 20060101ALI20191021BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20191021BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20191021BHJP
   C07C 45/37 20060101ALI20191021BHJP
   C07C 51/23 20060101ALI20191021BHJP
   C07C 51/25 20060101ALI20191021BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20191021BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20191021BHJP
【FI】
   B01J23/887 Z
   B01J37/08
   B01J35/08 Z
   B01J27/199 Z
   C07C47/22 A
   C07C47/22 J
   C07C45/35
   C07C45/37
   C07C51/23
   C07C51/25
   C07C57/05
   !C07B61/00 300
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-540016(P2019-540016)
(86)(22)【出願日】2019年2月18日
(86)【国際出願番号】JP2019005842
【審査請求日】2019年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-27498(P2018-27498)
(32)【優先日】2018年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-120455(P2018-120455)
(32)【優先日】2018年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酒井 秀臣
(72)【発明者】
【氏名】福永 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】中澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌平
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成喜
(72)【発明者】
【氏名】杉山 元彦
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−251183(JP,A)
【文献】 特開2012−115825(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/181839(WO,A1)
【文献】 特開2010−241700(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/140263(WO,A1)
【文献】 特開2012−232944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07C 45/35
C07C 45/37
C07C 47/22
C07C 51/23
C07C 51/25
C07C 57/05
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性成分が下記式(I)で表される組成を有し、かつアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.026mmol/g以下である、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒。
Moa1Bib1Fec1d1e1f1g1h1x1 (I)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも一種の元素、Bはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Cはホウ素、リン、クロム、マンガン、亜鉛、ヒ素、ニオブ、スズ、アンチモン、テルル、セリウムおよび鉛から選ばれる少なくとも一種の元素、Dはシリコン、アルミニウム、チタニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Eはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも一種の元素、そしてOは酸素であり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1およびx1はそれぞれMo、Bi、Fe、A、B、C、D、EおよびOの原子比を表し、a1=12の時、0.1≦b1≦10、0.1≦c1≦20、1≦d1≦20、0.3<e1<1.0、0≦f1≦10、0≦g1≦30、0≦h1≦5であり、x1はそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)
【請求項2】
前記アンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.024mmol/g以下である、請求項1に記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項3】
前記アンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.020mmol/g以下である、請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項4】
アルカリ金属がセシウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項5】
成形触媒である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項6】
球状担体に触媒活性成分が担持された触媒であり、触媒の平均粒径が3.0mm以上10.0mm以下であり、触媒活性成分が触媒全体に占める割合が20質量%以上80質量%以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項7】
触媒活性成分の組成を構成する金属成分を含有するスラリーを乾燥して乾燥紛体を得る工程、前記乾燥粉体を200℃以上600℃以下の温度で予備焼成して予備焼成紛体を得る工程、前記予備焼成粉体を成形する工程、および得られた成形物を再度200℃以上600℃以下の温度で本焼成する工程、を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒(以下触媒(A)とする)を用いて、不飽和アルデヒド化合物を経由した後、不飽和カルボン酸化合物を得る、直結二段接触気相酸化方法。
【請求項9】
前記触媒(A)を用いて不飽和アルデヒド化合物を得る段階である第一段目工程、および前記第一段目工程に用いた触媒と異なる触媒(以下触媒(B)とする)を用いて不飽和カルボン酸化合物を製造する段階である第二段目工程を含む、請求項8に記載の直結二段接触気相酸化方法。
【請求項10】
前記触媒(B)の触媒活性成分が下記式(II)で表される組成を有する、請求項9に記載の直結二段接触気相酸化方法。
Mo10a2b2Cuc2Asd2e2g2 (II)
(式中、Mo、V、P、Cu、As、Oはそれぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、ヒ素及び酸素を表し、XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a2〜e2は、それぞれMo、V、P、Cu、AsおよびXの原子比を表し、a2は0.1≦a2≦6、b2は0.5≦b2≦6、c2は0<c2≦3、d2は0≦d2≦3、e2は0≦e2≦3であり、g2は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
【請求項11】
前記不飽和アルデヒドがメタクロレインであり、前記不飽和カルボン酸がメタクリル酸である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の直結二段接触気相酸化方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の直結二段接触気相酸化方法を用いた、副生成物である芳香族化合物の低減方法。
【請求項13】
前記芳香族化合物がテレフタル酸である、請求項12に記載の副生成物である芳香族化合物の低減方法。
【請求項14】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の直結二段接触気相酸化方法を用いる、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物またはその両方の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を含む触媒とそれを用いた直結二段接触気相酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法や、ブテン類から1,3−ブタジエンを製造する方法として、分子状酸素による接触気相酸化方法が、数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モリブデン、ビスマスを含む複合酸化物触媒の製造方法において、(1)少なくともこれらの成分元素の供給源化合物の水性系での一体化工程において有機酸を添加し、触媒原料を含む溶液またはスラリーを調製する段階と、(2)前記溶液またはスラリーを乾燥、焼成する段階とを含む、アンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量に対するアンモニア昇温脱離法による低温側における触媒の酸量の比率が0.14以下であることを特徴とする複合酸化物触媒の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、触媒前駆体に硝酸塩、アンモニウム塩などの塩類を含有させる方法、特許文献3にはモリブデン含有スラリーにキレート剤を添加する方法、特許文献4には、モリブデン化合物およびビスマス化合物の一体化の際にアンモニア水を添加する方法が開示されている。
【0005】
これら公知技術は、触媒成分の添加工程を種々工夫して、得られる触媒の高収率化を図っているが、触媒製造時の簡便性や安全性、触媒製造における再現性、触媒の機械強度の面、さらには環境問題等の面では従来の触媒は未だ充分とは言えず、その改良も望まれていた。
【0006】
また、イソブチレンおよびt−ブチルアルコ−ルから選ばれる少なくとも1種を接触気相酸化反応させた場合、主生成物のメタクロレインのほかに、マレイン酸やテレフタル酸等の比較的高沸点の化合物が副生し、同時に重合物やタール状物質が反応生成ガス中に含まれてくる。このような物質を含む反応生成ガスをそのまま後段反応に供すると、これらの物質は配管内や後段触媒充填層での閉塞を引き起し、圧力損失の増大や、触媒活性の低下、メタクリル酸への選択率の低下などの原因となる。また、閉塞を除去するために工業生産を停止しなければならなくなり、多大な生産性の低下を引き起こしてしまう。このようなトラブルは、メタクリル酸の生産性を高めるためにイソブチレンおよび/またはt−ブチルアルコールの供給量を増やしたり、イソブチレンおよび/またはt−ブチルアルコール濃度を上げたりすると多く発生する。
【0007】
このようなトラブルを防止するため一般に採用される方法としては、定期的に反応を停止して、後段触媒のガス入口側に触媒層での閉塞や触媒の活性低下を防止するために充填した不活性物質を抜き出して入れ替える方法が提案されている。あるいは前段反応生成ガスからメタクロレインをいったん分離し、あらためてこの分離メタクロレインを後段反応に供給することで酸化反応の最適化プロセスを採用する方法も提案されている。さらには原料ガス濃度を必要以上に希釈して、副生成物濃度を下げて反応を行う方法も提案されている。特許文献5には前段および後段の反応の中間部での配管などの閉塞防止のために、その部分を無水マレイン酸の沸点以上の温度に保温する方法、ガス線速度を極めて大きくとるように工夫する方法が開示されている。特許文献6には、後段反応に用いられる触媒の形状を特定して触媒間の空隙率を上げて前段反応器からの固形物の閉塞を押える方法等が提案されている。しかしながら、これらの方法もまた、工業的方法としては充分満足できるものではなく、僅かな収率の向上よりも長期間な工業生産のため、高沸点物質の副生が少ない触媒の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2012−115825号公報
【特許文献2】日本国特開2003−251183号公報
【特許文献3】日本国特開平2−214543号公報
【特許文献4】日本国特開2003−220335号公報
【特許文献5】日本国特開昭50−126605号公報
【特許文献6】日本国特開昭61−221149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高沸点化合物である芳香族化合物の副生を低減することで長期安定的な運転と最終生成物を高収率に提供することを可能とする触媒、及びその触媒を用いた直結二段接触気相酸化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を必須成分とし、かつモリブデン12原子に対するアルカリ金属の原子比が0.3より大きく1.0未満である触媒において、特定の酸量を有した触媒とそれを用いた直結二段接触気相酸化方法が、高沸点化合物である芳香族化合物の副生を抑え、長期安定的な運転と高収率での最終生成物製造に寄与するものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)
モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を必須成分とし、かつモリブデン12原子に対するアルカリ金属の原子比が0.3より大きく1.0未満であり、かつアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.026mmol/g以下である、触媒、
(2)
前記アンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.024mmol/g以下である、(1)に記載の触媒、
(3)
前記アンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.020mmol/g以下である、(1)又は(2)に記載の触媒、
(4)
触媒活性成分が下記式(I)で表される組成を有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒、
Moa1Bib1Fec1d1e1f1g1h1x1 (I)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも一種の元素、Bはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Cはホウ素、リン、クロム、マンガン、亜鉛、ヒ素、ニオブ、スズ、アンチモン、テルル、セリウムおよび鉛から選ばれる少なくとも一種の元素、Dはシリコン、アルミニウム、チタニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Eはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも一種の元素、そしてOは酸素であり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1およびx1はそれぞれMo、Bi、Fe、A、B、C、D、EおよびOの原子比を表し、a1=12の時、0.1≦b1≦10、0.1≦c1≦20、1≦d1≦20、0.3<e1<1.0、0≦f1≦10、0≦g1≦30、0≦h1≦5であり、x1はそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)
(5)
アルカリ金属がセシウムである、(1)〜(4)のいずれかに記載の触媒、
(6)
成形触媒である、(1)〜(5)のいずれかに記載の触媒、
(7)
球状担体に触媒活性成分が担持された触媒であり、触媒の平均粒径が3.0mm以上10.0mm以下であり、触媒活性成分が触媒全体に占める割合が20質量%以上80質量%以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の触媒、
(8)
触媒活性成分の組成を構成する金属成分を含有するスラリーを乾燥して乾燥紛体を得る工程、前記乾燥粉体を200℃以上600℃以下の温度で予備焼成して予備焼成紛体を得る工程、前記予備焼成粉体を成形する工程、および得られた成形物を再度200℃以上600℃以下の温度で本焼成する工程、を含む(1)〜(7)のいずれかに記載の触媒の製造方法、
(9)
(1)〜(7)のいずれか一項に記載の触媒(以下触媒(A)とする)を用いて、不飽和アルデヒド化合物を経由した後、不飽和カルボン酸化合物を得る、直結二段接触気相酸化方法、
(10)
前記触媒(A)を用いて不飽和アルデヒド化合物を得る段階である第一段目工程、および前記第一段目工程に用いた触媒と異なる触媒(以下触媒(B)とする)を用いて不飽和カルボン酸化合物を製造する段階である第二段目工程を含む、(9)に記載の直結二段接触気相酸化方法、
(11)
前記触媒(B)の触媒活性成分が下記式(II)で表される組成を有する、(10)に記載の直結二段接触気相酸化方法。
Mo10a2b2Cuc2Asd2e2g2 (II)
(式中、Mo、V、P、Cu、As、Oはそれぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、ヒ素及び酸素を表し、XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a2〜e2は、それぞれMo、V、P、Cu、AsおよびXの原子比を表し、a2は0.1≦a2≦6、b2は0.5≦b2≦6、c2は0<c2≦3、d2は0≦d2≦3、e2は0≦e2≦3であり、g2は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
(12)
前記不飽和アルデヒドがメタクロレインであり、前記不飽和カルボン酸がメタクリル酸である、(9)〜(11)のいずれかに記載の直結二段接触気相酸化方法、
(13)
(9)〜(12)のいずれかに記載の直結二段接触気相酸化方法を用いた、副生成物である芳香族化合物の低減方法、
(14)
前記芳香族化合物がテレフタル酸である、(13)に記載の副生成物である芳香族化合物の低減方法、
(15)
(9)〜(12)のいずれかに記載の直結二段接触気相酸化方法を用いる、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物またはその両方の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒は、モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を必須成分とし、かつモリブデン12原子に対するアルカリ金属の原子比が0.3より大きく1.0未満であり、かつアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.026mmol/g以下であることを特徴とし、その触媒を用いた直結二段接触気相酸化方法は、高沸点の副生成物である芳香族化合物の低減に有効である。本方法によれば、長期安定的な運転と高収率で最終生成物を得ることが可能である。
【0013】
特にイソブチレンおよびt−ブチルアルコ−ルから選ばれる少なくとも1種の原料を、分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化する状況下において本発明の製造方法を用いると、高沸点化合物である芳香族化合物の副生を低減することができ、長期安定的な運転とメタクロレインおよび/またはメタクリル酸を高収率に製造することを維持できる。
また、副生成物の削減により、配管閉塞も起こし難く、定期的な清掃によるシャットダウンの回数を減らすことができ、安定的に不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸化合物を製造することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[触媒(A)について]
本実施形態の触媒は、モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を含む複合酸化物触媒であり、モリブデン12原子に対するアルカリ金属の原子比が0.3より大きく1.0未満であり、かつアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.026mmol/g以下である。なお、本明細書において、上記構成を有する触媒を触媒(A)と記載する。
【0016】
上記触媒(A)においてアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量は0.026mmol/g以下であるが、好ましくは0.024mmol/g以下、さらに好ましくは0.020mmol/g以下である。この酸量であることにより、目的化合物への酸化反応以外の副反応を抑制し、目的化合物以外の副生成物が減少する結果、高沸点化合物の副生を少なくできる。また特に、不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物等の最終生成物を安定に高い収率で得ることができる。なお下限は特に制限はないが、0.0002mmol/g等で良く、好ましい下限は0.0012である。
【0017】
本実施形態の触媒(A)をアンモニア昇温脱離スペクトル(例えば「BELCAT−B」、日本ベル株式会社製等で測定可能)にて測定すると、100℃以上400℃以下の範囲(低温側)に1つのピーク(この酸量の値を酸量(L)と表記する)を有しており、400℃以上の範囲(高温側)に1つのピーク(この酸量の値を酸量(H)と表記する)を有していた。100℃以上400℃以下の範囲のピークの頂点は200℃付近に存在し、400℃以上の範囲のピークの頂点は600℃付近に存在する。
【0018】
上記触媒(A)は、モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を含む複合酸化物触媒であり、モリブデン12原子に対するアルカリ金属の原子比が0.3より大きく1.0未満である。副生成物である芳香族化合物の生成をより有効に抑える為のアルカリ金属の原子比の下限としては、0.32がより好ましく、0.34が更に好ましく、0.36が最も好ましい。またアルカリ金属の原子比の上限としては、0.8がより好ましく、0.6が更に好ましく、0.5が最も好ましい。
【0019】
触媒(A)の触媒活性成分の好ましい組成は、下記一般式(I)で表される。
Moa1Bib1Fec1d1e1f1g1h1x1 (I)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも一種の元素、Bはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Cはホウ素、リン、クロム、マンガン、亜鉛、ヒ素、ニオブ、スズ、アンチモン、テルル、セリウムおよび鉛から選ばれる少なくとも一種の元素、Dはシリコン、アルミニウム、チタニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Eはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも一種の元素、そしてOは酸素であり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1およびx1はそれぞれMo、Bi、Fe、A、B、C、D、EおよびOの原子比を表し、a1=12の時、0.1≦b1≦10、0.1≦c1≦20、1≦d1≦20、0.3<e1<1.0、0≦f1≦10、0≦g1≦30、0≦h1≦5であり、x1はそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)。
なお、ここでいう触媒活性成分は、触媒(A)や後述する触媒(B)等に含まれる触媒活性を示す成分を指す。すなわち、触媒が不活性担体を含む場合には、当該不活性担体は触媒活性成分に含まれない。
【0020】
本実施形態の触媒(A)を構成する各元素の出発原料としては特に制限されるものではないが、例えばモリブデン成分の原料としては三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウム、メタモリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸またはその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸またはその塩などを用いることができる。
【0021】
ビスマス成分の原料としては硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスのようなビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができる。これらの原料は固体のままあるいは水溶液や硝酸溶液、それらの水溶液から生じるビスマス化合物のスラリーとして用いることができるが、硝酸塩、あるいはその溶液、またはその溶液から生じるスラリーを用いることが好ましい。上記一般式(I)の組成におけるb1の下限としては、0.3がより好ましく、0.5が更に好ましく、0.8が特に好ましい。またb1の上限としては、8がより好ましく、6が更に好ましく、4が特に好ましい。
【0022】
上記一般式(I)で表されるB成分であるアルカリ金属の原料としては、これらに限定されないが、成分元素(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)の水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酸化物又は酢酸塩等が挙げられる。好ましくは、セシウムを含有する化合物であり、例えば、水酸化セシウム、塩化セシウム、炭酸セシウム、硫酸セシウム、酸化セシウム等が挙げられるが、特に硝酸セシウムを用いることが好ましい。上記一般式(I)の組成において、eは0.3<e1<1.0、好ましくは0.32≦e1≦0.8、より好ましくは0.34≦e1≦0.6である。また、触媒(A)におけるアルカリ金属はセシウムであると好ましく、上記の好ましい態様における一般式(I)のB成分はセシウムであると好ましい。
【0023】
上記一般式(I)で表されるB成分であるアルカリ金属の原料は原子比が低すぎると、アンモニア昇温脱離法による触媒の酸量(H)が高くなり、高沸点化合物の副生が多くなるため、好ましくない。また、B成分原料の原子比が高い場合、高沸点化合物の副生は少なくなり、長期間な工業生産は可能となるが、原料転化率が低くなってしまうため、結果として満足のいく収率の向上が期待できない。
【0024】
その他の成分元素の出発原料としては、一般にこの種の触媒に使用される金属元素のアンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、水酸化物、有機酸塩、酸化物またはこれらの混合物を組み合わせて用いればよいが、アンモニウム塩および硝酸塩が好適に用いられる。上記一般式(I)の組成におけるc1の下限としては、0.3がより好ましく、0.6が更に好ましく、1が特に好ましい。またc1の上限としては、16がより好ましく、12が更に好ましく、8が特に好ましい。上記一般式(I)の組成におけるd1の下限としては、3がより好ましく、5が更に好ましく、6が特に好ましい。またd1の上限としては、16がより好ましく、14が更に好ましく、12が特に好ましい。上記一般式(I)の組成におけるf1の上限としては、8がより好ましく、6が更に好ましく、4が特に好ましい。上記一般式(I)の組成におけるg1の上限としては、20がより好ましく、15が更に好ましく、10が特に好ましい。上記一般式(I)の組成におけるh1の上限としては、4がより好ましく、3が更に好ましく、2が特に好ましい。
【0025】
触媒(A)の製造にあたっては、これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。スラリー液は、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。スラリー液における水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はない。乾燥方法や乾燥条件を勘案して、水の使用量を適宜決定すれば良い。通常、スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、200質量部以上2000質量部以下である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、又完全に乾燥できない場合も生ずるなどデメリットが多い。
【0026】
上記各成分元素の供給源化合物のスラリー液は上記の各供給源化合物を、(イ)一括して混合する方法、(ロ)一括して混合後、熟成処理する方法、(ハ)段階的に混合する方法、(ニ)段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、および(イ)〜(ニ)を組み合わせた方法により調製することが好ましい。ここで、上記熟成とは、「工業原料もしくは半製品を、一定時間、一定温度などの特定条件のもとに処理して、必要とする物理性、化学性の取得、上昇あるいは所定反応の進行などをはかる操作」のことをいう。なお、本実施形態において、上記の一定時間とは、5分以上24時間以下の範囲をいい、上記の一定温度とは室温以上の水溶液ないし水分散液の沸点以下の範囲をいう。
【0027】
本実施形態において、必須活性成分を混合する際に用いられる攪拌機の攪拌翼の形状は特に制約はなく、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、傾斜パドル翼、スクリュー翼、アンカー翼、リボン翼、大型格子翼などの任意の攪拌翼を1段あるいは上下方向に同一翼または異種翼を2段以上で使用することができる。また、反応槽内には必要に応じてバッフル(邪魔板)を設置しても良い。
【0028】
次いで、このようにして得られたスラリー液を乾燥する。乾燥方法は、スラリー液が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられる。これらのうち本実施形態においては、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70℃以上150℃以下である。また、この際得られるスラリー液乾燥体の平均粒径が10μm以上700μm以下となるように乾燥するのが好ましい。
【0029】
上記のようにして得られた触媒前駆体は予備焼成し、成形を経て、本焼成することで、成形形状を制御、保持することが可能となり、工業用途として特に機械的強度が優れた触媒が得られ、安定した触媒性能を発現できる。
【0030】
成形は、シリカ等の担体に担持する担持成形と、担体を使用しない非担持成形と、のいずれの成形方法も採用できる。具体的な成形方法としては、例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状としては、例えば、円柱状、リング状、球状等が運転条件を考慮して適宜選択可能である。球状担体、特にシリカやアルミナ等の不活性担体に触媒活性成分を担持した、平均粒径3.0mm以上10.0mm以下、好ましくは平均粒径3.0mm以上8.0mm以下の担持触媒を使用すると好ましい。担体に担持する場合には、触媒活性成分が触媒全体に占める割合が20質量%以上80質量%以下であると好ましい。なお、成形に際しては、公知の添加剤、例えば、グラファイト、タルク等を少量添加してもよい。また、担体としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等を用いてもよい。
【0031】
予備焼成方法や予備焼成条件または本焼成方法や本焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。予備焼成や本焼成の最適条件は、用いる触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、通常、空気等の酸素含有ガス流通下または不活性ガス流通下で、200℃以上600℃以下、好ましくは300℃以上550℃以下で、0.5時間以上、好ましくは1時間以上40時間以下で行う。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させない気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0032】
この触媒(A)は特定の組成及び特定の酸量を有することにより、芳香族化合物の生成を有効に低減することができる。
またこの効果は、特に芳香族アルデヒド化合物の生成を抑える効果が大きいため、不飽和アルデヒド化合物を得る段階(本明細書においては第一段目工程と定義する)において用いることがより効果的である。また、上記芳香族化合物は、テレフタル酸の前駆体である場合が多い為、本実施形態の直結二段接触気相酸化方法によれば、テレフタル酸の副生の抑制に特に効果的である。
【0033】
直結二段接触気相酸化方法とは、第一段目生成ガスから目的生成物を分離した後、第二段目反応に供する分離法とは異なり、第一段目の生成ガスを直接第二段目に供する方法である。また、本実施形態の直結二段接触気相酸化方法は、イソブチレンおよびt−ブチルアルコ−ルから選ばれる少なくとも1種の原料を、酸化触媒組成物の存在下に、分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化して、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸を製造する際に用いられることが特に好ましい。
【0034】
[触媒(B)について]
本実施形態の直結二段接触気相酸化方法において、不飽和カルボン酸を製造する段階(本明細書において第二段目工程と記載する)では第一段目工程で用いた触媒とは異なる触媒(本明細書において触媒(B)と記載する)を用いることが好ましい。ここで、「異なる」とは触媒の組成又は製造方法が異なるものを意味し、同一組成、同一製造方法で製造された触媒であれば、多少の物性値に違いがあったとしても「異なる」ものではない。
触媒(B)としては、第一段目工程で用いる触媒と異なるものであれば特に制限はなく、上記触媒(A)の条件を満たすものであっても、満たさないものであっても良い。
【0035】
触媒(B)の触媒活性成分の好ましい組成は、下記一般式(II)で表される。
Mo10a2b2Cuc2Asd2e2g2 (II)
(式中、Mo、V、P、Cu、As、Oはそれぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、ヒ素及び酸素を表し、XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a2〜e2は、それぞれMo、V、P、Cu、AsおよびXの原子比を表し、a2は0.1≦a2≦6、b2は0.5≦b2≦6、c2は0<c2≦3、d2は0≦d2≦3、e2は0≦e2≦3であり、g2は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
【0036】
上記好ましい組成の触媒活性成分を含む触媒(B)の製造にあたっては、この種の触媒、例えば酸化物触媒、ヘテロポリ酸又はその塩構造を有する触媒を調製する方法として一般に知られている方法が採用できる。触媒を製造する際に使用できる原料は特に限定されず、種々のものが使用できる。例えば、モリブデン化合物としては、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸、酸化モリブデン等が使用でき、バナジウム化合物としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム等が使用でき、リン化合物としては、リン酸もしくはその塩、重合リン酸もしくはその塩が使用でき、銅化合物としては、酸化銅、リン酸銅、硫酸銅、硝酸銅、モリブデン酸銅、銅金属等が使用でき、アンチモン、砒素、銀、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、ゲルマニウム、錫、鉛、チタン、ジルコニウム、クロム、レニウム、ビスマス、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、セリウム、トリウム、カリウム及びルビジウム化合物としては、それぞれの硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物、金属等が使用できる。
【0037】
触媒(B)の製造にあたっては、これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。上記の触媒(A)において説明した方法と同様の方法に従って、スラリー液を調製できる。得られたスラリー液を乾燥し、触媒活性成分固体とする。乾燥方法は、スラリー液が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられるが、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70〜150℃である。また、この際得られるスラリー液乾燥体の平均粒径が10〜700μmとなるように乾燥するのが好ましい。
【0038】
本実施形態の触媒活性成分固体のうち特に好ましいものは、ヘテロポリ酸構造を有する触媒である。このヘテロポリ酸構造を有する触媒は、リンバナドモリブデン酸を基本骨格とし、他の構成元素はこのヘテロポリ酸構造の中に組み込まれ、触媒活性及び選択性の向上に寄与すると共に、構造の熱的安定性の向上にも寄与していると考えられる。このヘテロポリ酸構造を有する触媒は、特に寿命の長い触媒である。ヘテロポリ酸構造を有する触媒は通常のヘテロポリ酸の一般的な調製法によって容易に調製できる。
【0039】
前記のようにして得られた触媒活性成分固体は、そのまま被覆用混合物に供することができるが、焼成すると成形性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100〜350℃、好ましくは150〜300℃、焼成時間は1〜20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。
【0040】
また、本実施形態において、前記スラリーを調製する際の活性成分を含有する化合物は、必ずしも全ての活性成分を含んでいる必要はなく、一部の成分を下記被覆工程前に使用してもよい。
【0041】
本実施形態の触媒(B)の形状は特に制約はなく、酸化反応において反応ガスの圧力損失を小さくするために、柱状物、錠剤、リング状、球状等に成型し使用する。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから、不活性担体に触媒活性成分固体を被覆し、被覆触媒とするのが特に好ましい。
【0042】
この被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰返しにより激しく攪拌させ、ここにバインダーと触媒活性成分固体並びに、必要により、これらに他の添加剤例えば成形助剤、強度向上剤を添加した被覆用混合物を担体に被覆する方法である。
【0043】
バインダーの添加方法は、1)前記被覆用混合物に予め混合しておく、2)被覆用混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)被覆用混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)被覆用混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)被覆用混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)〜4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法を任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば被覆用混合物の固定容器壁への付着、被覆用混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。
【0044】
バインダーは水及び1気圧以下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であれば特に制約はない。水以外のバインダーの具体例としてはメタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類等のアルコール、好ましくは炭素数1〜4のアルコール、エチルエーテル、ブチルエーテル又はジオキサン等のエーテル、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル、アセトン又はメチルエチルケトン等のケトン等並びにそれらの水溶液が挙げられ、特にエタノールが好ましい。バインダーとしてエタノールを使用する場合、エタノール/水=10/0〜0/10(質量比)、好ましくは水と混合し9/1〜1/9(質量比)とすることが好ましい。これらバインダーの使用量は、被覆用混合物100質量部に対して通常2〜60質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0045】
上記被覆における担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等の直径1〜15mm、好ましくは2.5〜10mmの球形担体等が挙げられる。これら担体は通常は10〜70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と被覆用混合物の割合は通常、被覆用混合物/(被覆用混合物+担体)=10〜75質量%、好ましくは15〜60質量%となる量を使用する。被覆用混合物の割合が大きい場合、被覆触媒の反応活性は大きくなるが、機械的強度が小さくなる傾向にある。逆に、被覆用混合物の割合が小さい場合、機械的強度は大きいが、反応活性は小さくなる傾向がある。なお、前記において、必要により使用する成形助剤としては、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等が挙げられる。成形助剤の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1〜60質量部である。また、更に必要により触媒活性成分固体及び反応ガスに対して不活性な無機繊維(例えば、セラミックス繊維又はウィスカー等)を強度向上剤として用いることは、触媒の機械的強度の向上に有用であり、ガラス繊維が好ましい。これら繊維の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1〜30質量部である。
【0046】
前記のようにして得られた被覆触媒はそのまま触媒として接触気相酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100〜450℃、好ましくは270〜420℃、焼成時間は1〜20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。本実施形態に用いられる触媒(B)は担体に担持させることによって、耐熱性、寿命の向上、反応収率の増大等好ましい効果が期待できる。担体の材質としてはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物を使用でき、さらにその粒径、吸水率、機械的強度、各結晶相の結晶化度や混合割合なども特に制限はなく、最終的な触媒(B)の性能、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。
【0047】
本実施形態の触媒(A)は、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法や、ブテン類から1,3−ブタジエンを製造する方法、特にイソブチレン、t−ブチルアルコールを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してメタクロレイン、メタアクリル酸を製造する方法に用いることができる。触媒(A)を上記方法に用いることで、芳香族化合物(特にテレフタル酸)の副生を有効に抑制することができる。また、ホットスポットの温度を抑制し高収率に目的物を製造することができ、これらの結果として公知の方法と比較して、製品の価格競争力の向上が期待できる。
【0048】
触媒(A)は、特にイソブチレンおよびt−ブチルアルコ−ルから選ばれる少なくとも1種の原料を、触媒の存在下に、分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化して、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸を製造する際に好適に使用できる。本実施形態の製造方法における原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのイソブチレンが常温で1〜10容量%、好ましくは4〜9容量%、分子状酸素が3〜20容量%、好ましくは4〜18容量%、水蒸気が0〜60容量%、好ましくは4〜50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20〜80容量%、好ましくは30〜60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本実施形態の触媒上に250〜450℃で、常圧〜10気圧の圧力下で、空間速度300〜5000hr−1で導入し反応を行う。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお実施例において転化率、収率、選択率は次の通りに定義される。
・原料転化率=(第一段目工程で反応したt−ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)/(第一段目工程に供給したt−ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)*100
・第一段目工程メタクロレイン収率=(第一段目工程で生成したメタクロレインのモル数)/(第一段目工程に供給したt−ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)*100
・第一段目工程メタクリル酸収率=(第一段目工程で生成したメタクリル酸のモル数)/(第一段目工程に供給したt−ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)*100
・有効収率=第一段目工程メタクロレイン収率+第一段目工程メタクリル酸収率
・第二段目工程メタクロレイン収率=(第二段目工程で生成したメタクロレインのモル数)/(第一段目工程に供給したt−ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)*100
・第二段目工程メタクロレイン転化率=(第一段目工程メタクロレイン収率−第二段目工程メタクロレイン収率)/(第一段目工程メタクロレイン収率)*100
・最終メタクリル酸収率=(第一段目工程で生成したメタクリル酸のモル数)+第二段目工程で生成したメタクリル酸のモル数)/(第一段目工程に供給したt−ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)*100
【0050】
なお、本実施例におけるアンモニア昇温脱離法によるモリブデン、ビスマスを含む複合酸化物触媒の酸量は、触媒分析装置(商品名:「BELCAT−B」、日本ベル株式会社製)を用いて測定した。触媒0.3gを正確に秤量後、測定管に充填し、ヘリウム雰囲気下にて処理温度500℃で1時間の触媒前処理を行った。次いで、アンモニアガスを吸着温度100℃で吸着させ、30分間真空排気し、600℃まで10℃/minの速度で昇温して、触媒成形体単位重量当たりのアンモニア脱離量を測定した。
【0051】
また、テレフタル酸の定量は液体クロマトグラフィー(商品名:「UltiMate 3000 HPLC system」、Thermo Scientific社製)を用いて行った。実施例において、テレフタル酸収率は以下の式に従って算出した。
テレフタル酸収率(%)=(生成したテレフタル酸のモル数)/(供給したt−ブタノールまたはイソブチレンのモル数)*100
【0052】
[触媒(A)に関する評価]
(酸化反応試験)
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケットおよび触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径22.2mmのステンレス製反応器に触媒成形体を充填した。当該反応器に、原料モル比がイソブチレン:酸素:窒素:水=1:2.2:12.5:1.0の混合ガスを接触時間2.4秒(NTP基準)で供給して、0.05kgfの加圧下で反応を行った。反応成績、アンモニア昇温脱離法による触媒成形体の酸量およびテレフタル酸収率は表1の通りであった。
【0053】
[実施例1]
蒸留水3040mlを加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム800gと硝酸セシウム29gとを溶解して水溶液(A)を得た。別に、硝酸コバルト791g、硝酸第二鉄267g、および硝酸ニッケル88gを蒸留水607mlに溶解して水溶液(B)を調製した。また、濃硝酸78mlを加えて酸性にした蒸留水402mlに硝酸ビスマス306gを溶解して水溶液(C)を調製した。上記水溶液(A)に(B)、(C)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し、440℃で5時間予備焼成し予備焼成粉末(D)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Fe=1.8、Co=7.2、Ni=0.8、Cs=0.4であった。
【0054】
その後、予備焼成粉末(D)100質量部に結晶性セルロース5質量部を混合した粉末を不活性担体(粒径4.0mm)に担持した。担持は、予備焼成粉末(D)が成形後の触媒全体に占める割合が40質量%となるように、実施した。
こうして得た成形物を520℃で5時間本焼成し触媒成形体(E)を得た。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルを測定したところ、100℃以上400℃以下の範囲に1つのピークを有しており、400℃以上の範囲に1つのピークを有していた。100℃以上400℃以下の範囲のピークの頂点は200℃付近に存在し(この酸量の値を表1において酸量(L)と表記する)、400℃以上の範囲のピークの頂点は600℃付近(この酸量の値を表1において酸量(H)と表記する)に存在していた。得られた結果を表1に示した。
【0055】
[比較例1]
実施例1において硝酸セシウム29gを0gにした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Fe=1.8、Co=7.2、Ni=0.8、Cs=0であった。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルは実施例1の触媒と同様の形状を示していた。得られた結果を表1に示した。
【0056】
[比較例2]
実施例1において硝酸セシウム29gを11gにした以外は実施例1と同様の方法で触媒を調製した。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Fe=1.8、Co=7.2、Ni=0.8、Cs=0.2であった。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルは実施例1の触媒と同様の形状を示していた。得られた結果を表1に示した。
【0057】
[実施例2]
蒸留水3040mlを加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム800gと硝酸セシウム29gとを溶解して水溶液(A)を得た。別に、硝酸コバルト718g、硝酸第二鉄297g、および硝酸ニッケル264gを蒸留水678mlに溶解して水溶液(B)を調製した。また、濃硝酸43mlを加えて酸性にした蒸留水224mlに硝酸ビスマス170gを溶解して水溶液(C)を調製した。上記水溶液(A)に(B)、(C)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し、440℃で5時間予備焼成し予備焼成粉末(D)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=0.9、Fe=2.0、Co=6.5、Ni=2.4、Cs=0.4であった。
【0058】
その後、予備焼成粉末(D)100質量部に結晶性セルロース5質量部を混合した粉末を不活性担体(粒径4.0mm)に担持した。担持は、予備焼成粉末(D)が成形後の触媒全体に占める割合が40質量%となるように、実施した。
こうして得た成形物を520℃で5時間本焼成し触媒成形体(E)を得た。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルを測定したところ、100℃以上400℃以下の範囲に1つのピークを有しており、400℃以上の範囲に1つのピークを有していた。100℃以上400℃以下の範囲のピークの頂点は200℃付近に存在し、400℃以上の範囲のピークの頂点は600℃付近に存在していた。得られた結果を表1に示した。
【0059】
[実施例3]
実施例2において硝酸セシウム29gを37gにした以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製した。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は、原子比でMo=12、Bi=0.9、Fe=2.0、Co=6.5、Ni=2.4、Cs=0.5であった。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルは実施例2の触媒と同様の形状を示していた。得られた結果を表1に示した。
【0060】
[比較例3]
実施例2において硝酸セシウム29gを74gにした以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製した。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は、原子比でMo=12、Bi=0.9、Fe=2.0、Co=6.5、Ni=2.4、Cs=1.0であった。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルは実施例2の触媒と同様の形状を示していた。得られた結果を表1に示した。モリブデン12原子に対するセシウムの原子比が大きいため、テレフタル酸の副生は少なくなり、長期間の工業生産は可能となるが、原料転化率が低くなってしまったため、満足のいく収率を達成できない結果となった。
【0061】
[比較例4]
実施例2において硝酸セシウム29gを3gにした以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製した。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は、原子比でMo=12、Bi=0.9、Fe=2.0、Co=6.5、Ni=2.4、Cs=0.04であった。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルは実施例1の触媒と同様の形状を示していた。得られた結果を表1に示した。
【0062】
[比較例5]
実施例2において硝酸セシウム29gを22gにした以外は実施例2と同様の方法で触媒を調製した。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は、原子比でMo=12、Bi=0.9、Fe=2.0、Co=6.5、Ni=2.4、Cs=0.3であった。得られた触媒成形体のアンモニア昇温脱離スペクトルは実施例2の触媒と同様の形状を示していた。得られた結果を表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
上記の酸化反応(直結二段接触気相酸化における第一段目工程)において、テレフタル酸収率が0.01%以下であれば、実用性として問題がない。上記の実施例1および実施例2では、テレフタル酸収率が0.01%以下であり、実用上問題がないことが確認された。
【0065】
[直結二段接触気相酸化方法に関する評価]
[実施例4]
実施例1において、予備焼成粉末(D)に結晶性セルロースを混合した粉末を不活性担体に担持して得た成形物を、540℃で5時間本焼成し触媒成形体を得た。この時のアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量は0.011mmol/gであった。
実施例1及び上記のようにして調製した触媒を、熱媒である溶融塩を循環させるためのジャケットを備え、気相酸化触媒層と不活性充填物層との境界部の温度を測定するための熱電対が管軸に設置された、内径22.6mmのステンレス製反応管に充填した。充填は、気相酸化触媒層の層高が313cm(反応原料ガス入口部より540℃本焼成品が90cm、520℃本焼成品が223cm)になるように実施した。また、反応原料ガスの入り口部には、平均粒径5mmのシリカ及びアルミナを主成分とする不活性充填物からなる球状体を、層高が140cmになるように充填した。次いで、この反応管に、イソブチレンを分子状酸素を用いて酸化させてなる反応原料ガス(組成(モル比);イソブチレン:酸素:水蒸気:窒素=1:2.0:1.6:11.9)を、空間速度1000hr−1となるように供給し、浴温を340℃に設定し、第一段目工程の反応を開始した。
第二段酸化反応器には、日本国特許第5570142号公報の実施例1に記載のMo−V−P系ヘテロポリ酸触媒を用いた。触媒を内径29.4mmのステンレス反応管に350cm充填し、上記第一段目工程の酸化反応による生成ガスを導入し、第二段目工程の酸化反応を実施した。反応管出口圧力は0.05MPaに調製した。第二段目工程の反応浴温度はメタクロレイン転化率が65%から85%となるように調整し、第二段目工程におけるメタクロレインの転化率により、配管閉塞物のメイン成分であるテレフタル酸生成量がどのように変化するか測定を行った。結果を表2に示す。
【0066】
[比較例6]
比較例2で調製した触媒を、気相酸化触媒層の層高が313cmになるように第一段目工程の酸化反応器に充填した以外は実施例4と同様にして反応を開始した。
なお第二段目工程の酸化反応器には、実施例4で用いたものと同じ触媒を用いた。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例4、比較例6の結果より、本発明の直結二段接触気相酸化方法を用いた場合には、テレフタル酸の副生率を大きく低減できていることが確認された。またそれに伴って、収率の向上にもつながっていることが分かる。
【0069】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本願は、2018年2月20日付で出願された日本国特許出願(特願2018−27498)および2018年6月26日付で出願された日本国特許出願(特願2018−120455)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、高沸点化合物である芳香族化合物の副生を低減することで長期安定的な運転と最終生成物を高収率に提供することを可能とする触媒とそれを用いた不飽和カルボン酸化合物の製造方法を提供するものである。特にイソブチレン又はt−ブチルアルコ−ルを原料として原料、分子状酸素含有ガスを用いて接触気相酸化する状況下において高沸点化合物である芳香族化合物の副生を低減することができ、長期安定的な運転とメタクロレインおよび/またはメタクリル酸を高収率に得ることができる。
【要約】
高沸点化合物である芳香族化合物の副生を低減することで長期安定的な運転と最終生成物を高収率に提供することを可能とする触媒、及びそれを用いた直結二段接触気相酸化方法を提供するものである。当該触媒は、モリブデン、ビスマス、鉄およびアルカリ金属を必須成分とし、かつモリブデン12原子に対するアルカリ金属の原子比が0.3より大きく1.0未満であり、かつアンモニア昇温脱離法による高温側における触媒の酸量が0.026mmol/g以下である。