【実施例】
【0021】
最初に、閾値の設定に用いた計測、および本発明での計測における化合物の分析方法を示す。
シトルリン、2−アミノ酪酸等の血中(血漿)アミノ酸の分析は以下のアミノ酸分析方法に従った。
[試料の調製(前処理)]
生体試料(血漿)10μLを正確に測り、MassTrak AAA試薬1(ホウ酸バッファ)を70μL添加し、攪拌後、MassTrak AAA試薬2を20μL添加後に攪拌し、ヒートブロック(55℃)で10分加温しアミノ酸分析用試料とした。
【0022】
[アミノ酸分析条件]
システム: Waters ACQUITY UPLCR システム
カラム: MassTrak
TM Amino Acid Analysisカラム 内径2.1×長さ150mm
移動相A: MassTrak溶離液A
移動相B: MassTrak溶離液B
流量: 0.4mL/分
カラム温度: 43℃
サンプル温度: 20℃
サンプル注入量: 1μL
検出: UV260nm
【0023】
アザライン酸、ピメリン酸等のアミノ酸以外の化合物の分析は以下のメタボローム解析方法に従った。
[試料の調製(前処理)]
生体試料(血漿)40μLを正確に測り、これに内部標準溶液400μL(メチオニンスルホン、カンファースルホン酸、2−モルホリノエタンスルホン酸をそれぞれ20μmol/L含む)を加える。混合後、クロロホルム400μLと超純水120μLを加えて激しく混和後、遠心分離し水層を分取する。分取した水層を限外濾過(分画分子量 5,000)で除タンパク後、乾固する。乾固した試料を40μLの3−アミノピロリジン,トリメサート水溶液(各200μM/L)に溶解し、メタボローム解析用の試料とした。
【0024】
[メタボローム解析(キャピラリー電気泳動/質量分析装置、CE/MS)条件]
システム: Agilent CE−TOFMS System
陽イオン性代謝物質測定モード
高性能キャピラリー電気泳動(High Performance Capillary Electrophoresis,HPCE)条件
Capillary: Fused−Silica, 内径50μm×長さ100cm
Buffer: 1M Formate
Voltage: Positive, 30kV
Temperature: 20℃
Injection: Pressure injection 50mbar, 5sec(approximately 5nL)
Preconditioning: 4min at run buffer
【0025】
飛行時間型質量分析(Time−of−Flight mass spectrometer, TOF−MS)条件
Polarity: Positive
Capillary voltage: 4,000V
Fragmentor: 75V
Skimmer: 50V
OCT RFV: 500V
Drying gas:N
2, 10L/min
Drying gas temp.:300℃
Nebulizer gas press.: 7psig
Sheath liquid: 50%MeOH / Water containing 0.01M Hexakis(2,2−difluoroethoxy) phosphazene
Flow rate: 10L/min
Lock mass: 2MeOH
13Cisotope m/z66.063061,
Hexakis(2,2−difluoroethoxy)phosphazene m/z 622.028963
【0026】
陰イオン性代謝物質測定モード
高性能キャピラリー電気泳動(High Performance Capillary Electrophoresis, HPCE)条件
Capillary: COSMO(+),内径50μm×長さ105cm
Buffer: 50mM Ammonium acetate, pH8.5
Voltage: Negative,30kV
Temperature: 20℃
Injection: Pressure injection 50mbar, 30sec(approximately 30nL)
Preconditioning: 2min at 50mM Ammonium acetate, pH3.4 and 5min at run buffer
【0027】
飛行時間型質量分析(Time−of−Flight mass spectrometer, TOF−MS)条件
Polarity: Negative
Capillary voltage: 3,500V
Fragmentor: 100V
Skimmer : 50V
OCT RFV: 200V
Drying gas:N
2, 10L/min
Drying gas temp.: 300℃
Nebulizer gas press.: 7psig
Sheath liquid:5mM Ammonium acetate in 50 % MeOH/Water containing 0.1M Hexakis(2,2−difluoroethoxy) phosphazene
Flow rate: 10L/min
Lock mass:2CH
3COOH
13Cisotope m/z 120.038339,
Hexakis(2,2−difluoroethoxy)phosphazene+CH
3COOH m/z 680.035541
【0028】
計測1(閾値設定)
〔対象者〕
週5日(月曜日〜金曜日勤務、週休2日(土曜日と日曜日))の日勤労働者(標準労働時間8:30〜17:00、1時間の昼休み含む)のうち、月曜日から金曜日の5日間の労働により疲労感があり、週末の休息で疲労感がなくなっていた4名の日勤労働者(以下「疲労あり」、43〜54歳、平均年齢48.5±4.9歳)と月曜日から金曜日の5日間の労働により疲労感がない5名の労働者(以下「疲労なし」、25〜49歳、平均年齢36.4±10.5歳)を対象とした。
【0029】
〔疲労評価〕
1.VAS評価
対象者の主観的な疲労の評価は、日本疲労学会の抗疲労臨床評価ガイドライン第5版(http://www.hirougakkai.com/guideline.pdf)の疲労感VAS(Visual Analogue Scale)検査方法(http://www.hirougakkai.com/VAS.pdf)を利用した。
疲労感VAS検査は、100mmの直線の左端(0mm)を「疲れを全く感じない」、右端(100mm)を「何もできないほど疲れきっている」感覚として、今、感じている疲労感を、直線の左右両端に示した感覚を参考に100mmの直線上に示してもらう方法である。
VAS検査は、試験初日の金曜日就寝時から、連続10日間、毎日就寝時に実施し、2回実施した金曜日、土曜日、日曜日の結果は平均値で示した。
その結果、表1に示すように、「疲労あり」では、金曜日就寝時の数値が高く、金曜日に疲労が蓄積している状態と判断した。「疲労なし」では、数値の大きな上昇は認められず疲労が蓄積していない状態と判断した。
【0030】
【表1】
【0031】
2.血中濃度の測定
月曜日と金曜日の早朝の空腹時に採血した。「疲労あり」の金曜日の血液を「疲労」、「疲労あり」の月曜日の血液と「疲労なし」の金曜日の血液を「非疲労」とし、対象者から採取した血液中の表2に示す成分の濃度を測定した。血中(血漿)アミノ酸は、上述のアミノ酸自動分析により測定し、血中(血漿)有機酸は、上述のキャピラリー電気泳動/質量分析装置(CE/MS)により測定した。
【0032】
【表2】
【0033】
その結果、表2に示すように、「疲労」の血液中では、アザライン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度が増加し、反対にピメリン酸の濃度が減少していることが見出された。
また、「疲労」の血液中では、分岐鎖アミノ酸、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、芳香族アミノ酸、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、アスパラギン、メチオニン、リジンの濃度と2−アミノ酪酸/ロイシン比が増加し、他方、ピルピン酸、乳酸、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、総アミノ酸、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の濃度が減少していることが見出された。
すなわち、これらの化合物は疲労の評価マーカーとして使える可能性がある。なかでもアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンは、増加や減少の幅に比べて、測定されている疲労時あるいは非疲労時の数値の範囲が小さいので、適切な閾値を定めれば後述するようにその値をそのまま疲労の有無の判定に使うことができる。
【0034】
3.閾値の設定
「疲労」と「非疲労」の、それぞれの血中成分のROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を作成し、表4に示す閾値を設定した。
この際、前述したように診査の信頼性を図る尺度である感度・特異度・有効度をそれぞれ設定し、それに応じた閾値を表4に示すように設定した。
具体的には疲労感がある被験者を確実に疲労有りとして検出するためには感度が100%であることが好ましいので、感度100%となる閾値を表4に示すように設定した。また、疲労感がない被験者を確実に疲労なしと判定するためには特異度が100%であることが好ましいので特異度100%となる閾値を2−アミノ酪酸及びシトルリンについて設定した。また、誤検出を少なくする閾値として、シトルリンについて37.5μmol/Lを設定した。
なお、感度・特異度・有効度の算出方法は表3のとおりである。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表4に示すように、本発明によれば、的確に疲労を評価できることが確認された。例えば、アザライン酸の閾値を0.96μmol/Lとすると、感度、特異度共に100%となり、疲労度が高いヒト、或いは疲労度が低いヒトを確実に抽出できた。
図2に、表2に示した各疲労評価マーカーの代謝マップを示す。疲労評価マーカーは、解糖系、TCAサイクル、尿素サイクル、β酸化等のエネルギー代謝系と神経伝達物質のカテコールアミン生成系等に関与していた。
図2中、「↑」は濃度が増加したことを示し、「↓」は濃度が減少したことを示す。
【0038】
実施例1
〔対象者〕
週5日(月曜日〜金曜日勤務、週休2日(土曜日と日曜日))の日勤労働者(標準労働時間8:30〜17:00、1時間の昼休み含む)のうち、月曜日から金曜日の5日間の労働により疲労感があり、週末の休息で疲労感がなくなっていた4名の日勤労働者(以下、「疲労あり」、43〜54歳、平均年齢48.5±4.9歳)を対象とした。
【0039】
〔疲労評価〕
1.VAS評価
対象者の主観的な疲労の評価は、計測1と同様にVAS評価により行った。
その結果、表5に示すように、「疲労あり」の金曜日就寝時の数値が高く、金曜日に疲労が蓄積している状態と判断した。
【0040】
【表5】
【0041】
2.血中濃度の測定
計測1と同様にして、金曜日の早朝の空腹時に対象者から血液を採取し、計測1で定めた閾値に基づく、疲労評価の感度、特異度、有効度を求め、表6に示した。なお、本発明で用いない化合物についても、表中に、適宜閾値を設定して求めた感度、特異度、有効度を示す。
【0042】
【表6】
【0043】
その結果、良好な感度、特異度、有効度が示され、本発明の頑健性、汎用性が確認された。
【0044】
実施例2
〔対象者〕
週5日勤務(月〜金)、週休2日(土日休日)の日勤労働者(標準労働時間8:30〜17:00、1時間の昼休み含む)のうち、月曜日から金曜日の労働により疲労感がある4名の労働者(以下「疲労あり」、43〜54歳、平均年齢48.5±4.9歳)と、疲労感がない5名の労働者(以下「疲労なし」、25〜49際、平均年齢36.4±10.5歳)を対象とした。
【0045】
〔疲労評価〕
1.VAS評価
対象者の主観的な疲労の評価は、計測1と同様にVAS評価により行った。
その結果、表7に示すように、「疲労あり」の金曜日就寝時の数値が高く、金曜日に疲労が蓄積している状態と判断した。
【0046】
【表7】
【0047】
2.血中濃度の測定
計測1と同様にして、金曜日の早朝の空腹時に対象者から血液を採取し、計測1で定めた閾値に基づく、疲労評価の感度、特異度、有効度を求め、表8に示した。なお、本発明で用いない化合物についても、表中に、適宜閾値を設定して求めた感度、特異度、有効度を示す。
【0048】
【表8】
【0049】
その結果、良好な感度、特異度、有効度が示され、本発明の頑健性、汎用性が確認された。