特許第6598425号(P6598425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6598425-疲労の評価方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598425
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】疲労の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20191021BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   A61B5/16 200
   A61B5/16ZDM
   G01N33/483 F
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-36554(P2014-36554)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-159942(P2015-159942A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】高妻 和哉
(72)【発明者】
【氏名】三井 友毅
(72)【発明者】
【氏名】落合 龍史
(72)【発明者】
【氏名】片岡 洋祐
【審査官】 北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/030211(WO,A1)
【文献】 特表2005−518361(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/016101(WO,A1)
【文献】 久米 慧嗣,"水浸疲労負荷モデル動物におけるTCA回路および尿素回路内代謝物レベルの変化",日本疲労学会誌,日本,日本疲労学会,2013年 6月 7日,第9巻,第1号,p.86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00− 5/01
A61B 5/06− 5/22
G01N33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(a)〜(d):
(a)被験者から採取された生体試料中のアザライン酸の濃度を測定し、当該生体試料中のアザライン酸の濃度と0.78〜0.96μmol/Lである第1の閾値を比較し、アザライン酸の濃度が該閾値より高いと疲労度が高いと判定され、アザライン酸の濃度が該閾値未満であると疲労度が低いと判定される工程、
(b)被験者から採取された生体試料中のピメリン酸の濃度を測定し、当該生体試料中のピメリン酸の濃度と1.14〜1.22μmol/Lである第2の閾値を比較し、ピメリン酸の濃度が該閾値未満であると疲労度が高いと判定され、ピメリン酸の濃度が該閾値より高いと疲労度が低いと判定される工程、
(c)被験者から採取された生体試料中の2−アミノ酪酸の濃度を測定し、当該生体試料中の2−アミノ酪酸の濃度と22.5〜27.3μmol/Lである第3の閾値を比較し、2−アミノ酪酸の濃度が該閾値より高いと疲労度が高いと判定され、2−アミノ酪酸の濃度が該閾値未満であると疲労度が低いと判定される工程、
(d)被験者から採取された生体試料中のシトルリンの濃度を測定し、当該生体試料中のシトルリンの濃度と37.5μmol/Lである第4の閾値を比較し、シトルリンの濃度が該閾値より高いと疲労度が高いと判定され、シトルリンの濃度が該閾値未満であると疲労度が低いと判定される工程、
から選択される1又は2以上の工程を含む、疲労の評価方法。
【請求項2】
生体試料が血液である請求項1記載の疲労の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労の評価方法及び疲労評価マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
疲労は、現代の社会に生きる人が日常向き合っている現象である。我が国で疲労感を自覚しているヒトの割合は、就労人口の約60%以上とも云われている。
このような状況の中、疲労の指標化が望まれ、疲労のバイオマーカーの探索研究等が精力的になされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、健常者と慢性疲労症候群の患者の間にグルコース、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸の量的差異が見られ、被験者の生体サンプル中のこれらの健常者の測定値に対する比率を算出し、疲労を評価する方法が報告されている。
また、特許文献2には、生体個体から分離した血液中の総アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、芳香族アミノ酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンからなる群より選択されるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合を精神疲労の疲労度が高いと評価し、グリシン、プロリン、アラニン、アスパラギン、リジン及びヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸の濃度が所定の値より低い場合を肉体疲労の疲労度が高いと評価し、トリプトファンの濃度が所定の値より低い場合を複合的疲労の疲労度として評価する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−24555号公報
【特許文献2】特許第3923507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、半年以上続く慢性的な疲労を抱える者、すなわち慢性疲労症候群の病的な疲労や、一時的な肉体負荷・精神負荷を与えたときの急性の変化による疲労を評価対象としたもので、健常なヒトの、日々の生活や労働により生じる疲労を評価するものではなかった。
したがって、本発明は、健常者の日常の生活や労働で生じる疲労を客観的に評価するために有用なマーカーを特定し、当該マーカーを用いた疲労を評価するための方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、健常な労働者について、1週間分の疲労が蓄積していると認められた金曜日の血中成分と、疲労が回復していると認められた休養日後の月曜日の血中成分を比較したところ、これまで知られていなかった化合物の量的な変化が見られることを見出した。そして、当該特定の化合物が、健常者の日常の生活や労働で生じる疲労を客観的に評価するために有用なマーカーとなり得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の工程(a)〜(d):
(a)被験者から採取された生体試料中のアザライン酸の濃度を測定する工程、
(b)被験者から採取された生体試料中のピメリン酸の濃度を測定する工程、
(c)被験者から採取された生体試料中の2−アミノ酪酸の濃度を測定する工程、
(d)被験者から採取された生体試料中のシトルリンの濃度を測定する工程、
より選ばれる1又は2以上の工程を含む、疲労の評価方法を提供するものである。
また、本発明は、アザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンより選ばれる1種又は2種以上からなる疲労評価マーカーを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、健常者の日常の生活や労働で生じる疲労を客観的に評価することができる。これにより、疲労度を的確に捉え、適切な人材を選択することや、状態に応じたアドバイスを与えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の疲労の評価方法の概略フローチャートである。
図2】疲労評価マーカーの代謝マップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の疲労の評価方法の概略フローチャートであり、当該疲労の評価方法では、被験者から採取された生体試料の分析を行う。詳細には、次の工程(a)〜(d):
(a)被験者から採取された生体試料中のアザライン酸の濃度を測定する工程、
(b)被験者から採取された生体試料中のピメリン酸の濃度を測定する工程、
(c)被験者から採取された生体試料中の2−アミノ酪酸の濃度を測定する工程、
(d)被験者から採取された生体試料中のシトルリンの濃度を測定する工程、
より選ばれる1又は2以上の工程を行う。
本発明において、疲労とは、肉体的及び精神的活動、又は疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態を云い、疲労度とは該疲労の度合いをいう。
疲労は、前記のとおり、病的な疲労とそれ以外の生理的な疲労に分類されるが、本発明における疲労は病的な疲労ではなく、生理的な、肉体的及び精神的な疲労を含む複合疲労であることが好ましい。
すなわち、本発明の方法が適用される被験者は、健常者、更に健常労働者、更に健常なディスクワーカーであることが好ましい。
【0011】
本発明において、生体試料としては、例えば、血液(全血、血漿、血清等)、髄液、汗、尿、涙液、唾液等が挙げられる。なかでも、血液が好ましい。
【0012】
生体試料中のアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度を測定する方法は、従来公知の方法でよいが、後述する実施例に記載の方法に準ずる方法が好ましい。
【0013】
本発明では、被験者から採取された生体試料中のアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンから選ばれる少なくとも1種の濃度に基づいて疲労が評価される。好ましくは、アザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸、シトルリンの濃度の上昇或いは低下により被験者の疲労を評価することができる。この際、アザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンに関して予め所定の閾値を設定し、被験者の生体試料中の濃度と該所定の閾値を比較する工程を含むのが好ましい。
【0014】
後述するように、被験者の疲労度が高いと血中のアザライン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度は高くなり、一方、ピメリン酸の濃度は低くなることが見出された。したがって、アザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度は、被験者の疲労を反映する指標となり得る。
すなわち、アザライン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンについては、被験者から採取された生体試料中の濃度が高い場合、被験者の疲労度が高いと判定され、濃度が低い場合、被験者の疲労度が低いと判定される。
好ましくは、生体試料中のアザライン酸、2−アミノ酪酸又はシトルリンの濃度が、これらに関して予め設定した第1、第3又は第4の所定の閾値より高いと被験者の疲労度が高いと判定され、濃度が該第1、第3又は第4の所定の閾値未満であると被験者の疲労度が低いと判定される。
他方、ピメリン酸については、被験者から採取された生体試料中の濃度が低い場合、被験者の疲労度が高いと判定され、濃度が高い場合、被験者の疲労度が低いと判定される。
好ましくは、生体試料中のピメリン酸の濃度が、これに関して予め設定した第2の所定の閾値未満であると被験者の疲労度が高いと判定され、濃度が該第2の所定の閾値より高いと被験者の疲労度が低いと判定される。
閾値は、この値を超えると或いは満たないと疲労度が高い、疲労が蓄積していると判断される基準となる値である。
【0015】
閾値は、例えば、後述するVAS評価で「疲労あり」の被験者、「疲労なし」の被験者毎に、生体試料中の各成分についてROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を作成し、該ROC曲線を用いて設定することができる。
【0016】
この際、診査の信頼性を図る尺度である感度・特異度・有効度をそれぞれ任意に設定し、その割合に応じた閾値を設定することができる。
感度は、疲労感がある被験者が陽性となる割合(真陽性率)を意味し、特異度は疲労感のない被験者が陰性となる割合(真陰性率)を意味する。特異度が高くなるように閾値を設定すると偽陰性が多くなり、感度が低くなる。一方、感度が高くなるように設定すると偽陽性が多くなり、特異度は低くなる。そこで、閾値は、目的に応じて決定されるのが好ましい。
【0017】
閾値は、予想される疲労度に応じて変えるのが好ましい。
例えば、アザライン酸の閾値は好ましくは0.78μmol/L以上1.1μmol/L以下に、更に好ましくは0.96μmol/Lに、ピメリン酸の閾値は好ましくは1.14μmol/L以上1.72μmol/L以下に、更に好ましくは1.22μmol/Lに、2−アミノ酪酸の閾値は、好ましくは22.5μmol/L以上27.3μmol/L以下に、更に好ましくは24.9μmol/L、シトルリンの閾値は37.5μmol/Lに設定することが好ましい。
疲労度が低いことが明らかな被験者の場合は、2−アミノ酪酸の閾値を26.8μmol/L、シトルリンの閾値を43.4μmol/Lに設定することがより好ましい。
また、疲労度が高いことが明らかな被験者の場合は、シトルリンの閾値を32.7μmol/Lに設定する。
例えば、後述する実施例では、アザライン酸の閾値を0.96μmol/Lとすると、感度、特異度共に100%となり、有効度が100%と極めて信頼性の高い評価法となる。また、ピメリン酸の閾値を1.22μmol/Lとすると、感度、特異度共に100%となり、有効度が100%と極めて信頼性の高い評価法となる。
【0018】
また、後述するように、被験者の疲労度が上昇すると血中のアザライン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度は高くなり、一方、ピメリン酸の濃度は低くなることが見出された。したがって、アザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度は、被験者の疲労の増減を判断する指標となり得る。すなわち、被験者から2回以上生体試料を採取し、これらの濃度の変化を検出することにより、被験者の疲労の上昇又は低下を判定することができる。
より詳しく述べると、被験者の生体試料をあらかじめ採取してアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンから選ばれる少なくとも1種の濃度を測定しておく。そして、疲労の増減を判断したいときに被験者から再び生体試料を採取する。n回目(nは2以上の正の整数)に採取された生体試料中のアザライン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンについては、被験者から採取された生体試料中の濃度が対照とする基準時(1回目〜(n−1)回目)より上昇した場合、被験者の疲労が上昇したと判定され、濃度が低下した場合、被験者の疲労が低下したと判定される。
他方、ピメリン酸については、被験者からn回目に採取された生体試料中の濃度が対照とする基準時より低下した場合、被験者の疲労が上昇したと判定され、濃度が上昇した場合、被験者の疲労が低下したと判定される。
【0019】
更に、本発明の疲労評価マーカー、すなわちアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンを指標とすれば、抗疲労物質がスクリーニングできる。すなわち、in vitro又はin vivoにおいて、ある物質によりアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンから選ばれる少なくとも1種の濃度が変動すれば、その物質は抗疲労物質となり得る。
【0020】
また、本発明の疲労評価マーカーを利用した疲労のメカニズムの解明等が期待できる。
疲労は画一の症状ではなく、疲労の原因や影響も多岐にわたることが知られている。一方、アザライン酸は、β酸化を受けてマロニルCoAとアセチルCoAになりTCAサイクルに入ることが知られている。ピメリン酸もβ酸化に関連する。また2−アミノ酪酸も、TCAサイクルに関連する。シトルリンは、尿素サイクルで生成されるアミノ酸である。これらのことから、疲労、ことに健常者の日常の生活や労働で生じる疲労はβ酸化やTCAサイクル、尿素サイクルに影響すると想像できる。
したがって、本発明の疲労評価マーカー、すなわちアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンを指標とすれば、疲労が影響している代謝系を明らかにできる。すなわち、アザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンから選ばれる少なくとも1種の濃度が変動すれば、疲労が影響する代謝系を解明できる。疲労が影響する代謝系を明らかにすることにより、その疲労のメカニズムの解明等が期待でき、更に、疲労が影響した代謝系が明らかになれば、その疲労改善に有用な代謝系、更には生成系が予測でき、疲労の種類に応じた効果的な疲労改善が期待できる。
【実施例】
【0021】
最初に、閾値の設定に用いた計測、および本発明での計測における化合物の分析方法を示す。
シトルリン、2−アミノ酪酸等の血中(血漿)アミノ酸の分析は以下のアミノ酸分析方法に従った。
[試料の調製(前処理)]
生体試料(血漿)10μLを正確に測り、MassTrak AAA試薬1(ホウ酸バッファ)を70μL添加し、攪拌後、MassTrak AAA試薬2を20μL添加後に攪拌し、ヒートブロック(55℃)で10分加温しアミノ酸分析用試料とした。
【0022】
[アミノ酸分析条件]
システム: Waters ACQUITY UPLCR システム
カラム: MassTrakTM Amino Acid Analysisカラム 内径2.1×長さ150mm
移動相A: MassTrak溶離液A
移動相B: MassTrak溶離液B
流量: 0.4mL/分
カラム温度: 43℃
サンプル温度: 20℃
サンプル注入量: 1μL
検出: UV260nm
【0023】
アザライン酸、ピメリン酸等のアミノ酸以外の化合物の分析は以下のメタボローム解析方法に従った。
[試料の調製(前処理)]
生体試料(血漿)40μLを正確に測り、これに内部標準溶液400μL(メチオニンスルホン、カンファースルホン酸、2−モルホリノエタンスルホン酸をそれぞれ20μmol/L含む)を加える。混合後、クロロホルム400μLと超純水120μLを加えて激しく混和後、遠心分離し水層を分取する。分取した水層を限外濾過(分画分子量 5,000)で除タンパク後、乾固する。乾固した試料を40μLの3−アミノピロリジン,トリメサート水溶液(各200μM/L)に溶解し、メタボローム解析用の試料とした。
【0024】
[メタボローム解析(キャピラリー電気泳動/質量分析装置、CE/MS)条件]
システム: Agilent CE−TOFMS System
陽イオン性代謝物質測定モード
高性能キャピラリー電気泳動(High Performance Capillary Electrophoresis,HPCE)条件
Capillary: Fused−Silica, 内径50μm×長さ100cm
Buffer: 1M Formate
Voltage: Positive, 30kV
Temperature: 20℃
Injection: Pressure injection 50mbar, 5sec(approximately 5nL)
Preconditioning: 4min at run buffer
【0025】
飛行時間型質量分析(Time−of−Flight mass spectrometer, TOF−MS)条件
Polarity: Positive
Capillary voltage: 4,000V
Fragmentor: 75V
Skimmer: 50V
OCT RFV: 500V
Drying gas:N2, 10L/min
Drying gas temp.:300℃
Nebulizer gas press.: 7psig
Sheath liquid: 50%MeOH / Water containing 0.01M Hexakis(2,2−difluoroethoxy) phosphazene
Flow rate: 10L/min
Lock mass: 2MeOH13Cisotope m/z66.063061,
Hexakis(2,2−difluoroethoxy)phosphazene m/z 622.028963
【0026】
陰イオン性代謝物質測定モード
高性能キャピラリー電気泳動(High Performance Capillary Electrophoresis, HPCE)条件
Capillary: COSMO(+),内径50μm×長さ105cm
Buffer: 50mM Ammonium acetate, pH8.5
Voltage: Negative,30kV
Temperature: 20℃
Injection: Pressure injection 50mbar, 30sec(approximately 30nL)
Preconditioning: 2min at 50mM Ammonium acetate, pH3.4 and 5min at run buffer
【0027】
飛行時間型質量分析(Time−of−Flight mass spectrometer, TOF−MS)条件
Polarity: Negative
Capillary voltage: 3,500V
Fragmentor: 100V
Skimmer : 50V
OCT RFV: 200V
Drying gas:N2, 10L/min
Drying gas temp.: 300℃
Nebulizer gas press.: 7psig
Sheath liquid:5mM Ammonium acetate in 50 % MeOH/Water containing 0.1M Hexakis(2,2−difluoroethoxy) phosphazene
Flow rate: 10L/min
Lock mass:2CH3COOH13Cisotope m/z 120.038339,
Hexakis(2,2−difluoroethoxy)phosphazene+CH3COOH m/z 680.035541
【0028】
計測1(閾値設定)
〔対象者〕
週5日(月曜日〜金曜日勤務、週休2日(土曜日と日曜日))の日勤労働者(標準労働時間8:30〜17:00、1時間の昼休み含む)のうち、月曜日から金曜日の5日間の労働により疲労感があり、週末の休息で疲労感がなくなっていた4名の日勤労働者(以下「疲労あり」、43〜54歳、平均年齢48.5±4.9歳)と月曜日から金曜日の5日間の労働により疲労感がない5名の労働者(以下「疲労なし」、25〜49歳、平均年齢36.4±10.5歳)を対象とした。
【0029】
〔疲労評価〕
1.VAS評価
対象者の主観的な疲労の評価は、日本疲労学会の抗疲労臨床評価ガイドライン第5版(http://www.hirougakkai.com/guideline.pdf)の疲労感VAS(Visual Analogue Scale)検査方法(http://www.hirougakkai.com/VAS.pdf)を利用した。
疲労感VAS検査は、100mmの直線の左端(0mm)を「疲れを全く感じない」、右端(100mm)を「何もできないほど疲れきっている」感覚として、今、感じている疲労感を、直線の左右両端に示した感覚を参考に100mmの直線上に示してもらう方法である。
VAS検査は、試験初日の金曜日就寝時から、連続10日間、毎日就寝時に実施し、2回実施した金曜日、土曜日、日曜日の結果は平均値で示した。
その結果、表1に示すように、「疲労あり」では、金曜日就寝時の数値が高く、金曜日に疲労が蓄積している状態と判断した。「疲労なし」では、数値の大きな上昇は認められず疲労が蓄積していない状態と判断した。
【0030】
【表1】
【0031】
2.血中濃度の測定
月曜日と金曜日の早朝の空腹時に採血した。「疲労あり」の金曜日の血液を「疲労」、「疲労あり」の月曜日の血液と「疲労なし」の金曜日の血液を「非疲労」とし、対象者から採取した血液中の表2に示す成分の濃度を測定した。血中(血漿)アミノ酸は、上述のアミノ酸自動分析により測定し、血中(血漿)有機酸は、上述のキャピラリー電気泳動/質量分析装置(CE/MS)により測定した。
【0032】
【表2】
【0033】
その結果、表2に示すように、「疲労」の血液中では、アザライン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンの濃度が増加し、反対にピメリン酸の濃度が減少していることが見出された。
また、「疲労」の血液中では、分岐鎖アミノ酸、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、芳香族アミノ酸、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、アスパラギン、メチオニン、リジンの濃度と2−アミノ酪酸/ロイシン比が増加し、他方、ピルピン酸、乳酸、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、総アミノ酸、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の濃度が減少していることが見出された。
すなわち、これらの化合物は疲労の評価マーカーとして使える可能性がある。なかでもアザライン酸、ピメリン酸、2−アミノ酪酸及びシトルリンは、増加や減少の幅に比べて、測定されている疲労時あるいは非疲労時の数値の範囲が小さいので、適切な閾値を定めれば後述するようにその値をそのまま疲労の有無の判定に使うことができる。
【0034】
3.閾値の設定
「疲労」と「非疲労」の、それぞれの血中成分のROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を作成し、表4に示す閾値を設定した。
この際、前述したように診査の信頼性を図る尺度である感度・特異度・有効度をそれぞれ設定し、それに応じた閾値を表4に示すように設定した。
具体的には疲労感がある被験者を確実に疲労有りとして検出するためには感度が100%であることが好ましいので、感度100%となる閾値を表4に示すように設定した。また、疲労感がない被験者を確実に疲労なしと判定するためには特異度が100%であることが好ましいので特異度100%となる閾値を2−アミノ酪酸及びシトルリンについて設定した。また、誤検出を少なくする閾値として、シトルリンについて37.5μmol/Lを設定した。
なお、感度・特異度・有効度の算出方法は表3のとおりである。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表4に示すように、本発明によれば、的確に疲労を評価できることが確認された。例えば、アザライン酸の閾値を0.96μmol/Lとすると、感度、特異度共に100%となり、疲労度が高いヒト、或いは疲労度が低いヒトを確実に抽出できた。
図2に、表2に示した各疲労評価マーカーの代謝マップを示す。疲労評価マーカーは、解糖系、TCAサイクル、尿素サイクル、β酸化等のエネルギー代謝系と神経伝達物質のカテコールアミン生成系等に関与していた。図2中、「↑」は濃度が増加したことを示し、「↓」は濃度が減少したことを示す。
【0038】
実施例1
〔対象者〕
週5日(月曜日〜金曜日勤務、週休2日(土曜日と日曜日))の日勤労働者(標準労働時間8:30〜17:00、1時間の昼休み含む)のうち、月曜日から金曜日の5日間の労働により疲労感があり、週末の休息で疲労感がなくなっていた4名の日勤労働者(以下、「疲労あり」、43〜54歳、平均年齢48.5±4.9歳)を対象とした。
【0039】
〔疲労評価〕
1.VAS評価
対象者の主観的な疲労の評価は、計測1と同様にVAS評価により行った。
その結果、表5に示すように、「疲労あり」の金曜日就寝時の数値が高く、金曜日に疲労が蓄積している状態と判断した。
【0040】
【表5】
【0041】
2.血中濃度の測定
計測1と同様にして、金曜日の早朝の空腹時に対象者から血液を採取し、計測1で定めた閾値に基づく、疲労評価の感度、特異度、有効度を求め、表6に示した。なお、本発明で用いない化合物についても、表中に、適宜閾値を設定して求めた感度、特異度、有効度を示す。
【0042】
【表6】
【0043】
その結果、良好な感度、特異度、有効度が示され、本発明の頑健性、汎用性が確認された。
【0044】
実施例2
〔対象者〕
週5日勤務(月〜金)、週休2日(土日休日)の日勤労働者(標準労働時間8:30〜17:00、1時間の昼休み含む)のうち、月曜日から金曜日の労働により疲労感がある4名の労働者(以下「疲労あり」、43〜54歳、平均年齢48.5±4.9歳)と、疲労感がない5名の労働者(以下「疲労なし」、25〜49際、平均年齢36.4±10.5歳)を対象とした。
【0045】
〔疲労評価〕
1.VAS評価
対象者の主観的な疲労の評価は、計測1と同様にVAS評価により行った。
その結果、表7に示すように、「疲労あり」の金曜日就寝時の数値が高く、金曜日に疲労が蓄積している状態と判断した。
【0046】
【表7】
【0047】
2.血中濃度の測定
計測1と同様にして、金曜日の早朝の空腹時に対象者から血液を採取し、計測1で定めた閾値に基づく、疲労評価の感度、特異度、有効度を求め、表8に示した。なお、本発明で用いない化合物についても、表中に、適宜閾値を設定して求めた感度、特異度、有効度を示す。
【0048】
【表8】
【0049】
その結果、良好な感度、特異度、有効度が示され、本発明の頑健性、汎用性が確認された。
図1
図2