特許第6598443号(P6598443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598443Al含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスおよびAl含有鋼の連続鋳造方法
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  • 特許6598443-Al含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスおよびAl含有鋼の連続鋳造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598443
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】Al含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスおよびAl含有鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20191021BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20191021BHJP
   B22D 11/07 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B22D11/108 F
   B22D11/00 A
   B22D11/07
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-190913(P2014-190913)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-59948(P2016-59948A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年5月10日
【審判番号】不服2018-14394(P2018-14394/J1)
【審判請求日】2018年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花尾 方史
(72)【発明者】
【氏名】石神 宏樹
【合議体】
【審判長】 刈間 宏信
【審判官】 大山 健
【審判官】 青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−346708(JP,A)
【文献】 特開2006−289383(JP,A)
【文献】 特開2004−358485(JP,A)
【文献】 特開2001−179408(JP,A)
【文献】 特開平8−197214(JP,A)
【文献】 特開2013−66913(JP,A)
【文献】 特開2015−186813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
B22D 11/07
B22D 11/108
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO、SiO、Li、Na、Kの1種又は2種以上からなるアルカリ金属の酸化物およびフッ化合物を基本成分とし、連続鋳造の鋳型内へ添加される前のフラックス初期組成が下記(1)、(2)および(3)式を満足したAl含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスを用い、鋳造中の鋳型内の0.1質量%以上のAlを含有する溶鋼上に供給された後、該溶鋼と反応した後のフィルム組成において、下記(4)、 (5)および(6)式を満足し、溶鋼表層のフィルムに縦割れが発生しないように当該溶鋼フィルム中にCaSiが単独で結晶化させることを特徴とするAl含有鋼の連続鋳造方法。
0.9≦f(1)≦1.90 ・・・(1)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(2)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(3)
1.30≦f(1)≦3.50 ・・・(4)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(5)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(6)
ここで、f(1)およびf(2)、f(3)は
f(1)=(CaO)/(SiO ・・・(イ)
f(2)=(CaF/{(CaO)+(SiO+(CaF} ・・・(ロ)
f(3)={(アルカリ金属のフッ化物)+(Al}/
{(CaO)+(SiO+(アルカリ金属のフッ化物)+(Al} ・・・(ハ)

(CaO)=(WCaO−(CaF×0.718) ・・・(A)
(SiO=WSiO2 ・・・(B)
(CaF)
=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613−WK2O×0.403)×2.05
・・・(C)
(アルカリ金属のフッ化物)
=WLi2O×1.74+WNa2O×1.35+WK2O×1.23
・・・(D)
(Al=WAl2O3 ・・・(E)

iは、添字iに示されるモールドフラックス中の成分(CaO、SiO、F、LiO、NaO、KO、Al)の質量濃度(質量%)を示す。
【請求項2】
CaO、SiO、Li、Na、Kの1種又は2種以上からなるアルカリ金属の酸化物およびフッ化合物を基本成分とし、連続鋳造の鋳型内へ添加される前のフラックス初期組成が下記(1)、(2)および(3)式を満足したAl含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスを用い、鋳造中の鋳型内の0.1質量%以上のAlを含有する溶鋼上に供給された後、該溶鋼と反応した後のフィルム組成において、下記(4)、 (5)および(6)式を満足し、溶鋼表層のフィルムに縦割れが発生しないように当該溶鋼フィルム中にCaSiおよびCaAlSiが結晶化させることを特徴とするAl含有鋼の連続鋳造方法。
0.9≦f(1)≦1.90 ・・・(1)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(2)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(3)
1.30≦f(1)≦3.50 ・・・(4)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(5)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(6)
ここで、f(1)およびf(2)、f(3)は
f(1)=(CaO)/(SiO ・・・(イ)
f(2)=(CaF/{(CaO)+(SiO+(CaF} ・・・(ロ)
f(3)={(アルカリ金属のフッ化物)+(Al}/
{(CaO)+(SiO+(アルカリ金属のフッ化物)+(Al} ・・・(ハ)

(CaO)=(WCaO−(CaF×0.718) ・・・(A)
(SiO=WSiO2 ・・・(B)
(CaF)
=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613−WK2O×0.403)×2.05
・・・(C)
(アルカリ金属のフッ化物)
=WLi2O×1.74+WNa2O×1.35+WK2O×1.23
・・・(D)
(Al=WAl2O3 ・・・(E)

iは、添字iに示されるモールドフラックス中の成分(CaO、SiO、F、LiO、NaO、KO、Al)の質量濃度(質量%)を示す。
【請求項3】
前記の溶鋼が亜包晶鋼であることを特徴とする請求項またはに記載のAl含有鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片表面に発生する縦割れを防止するための、Al含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスおよびAl含有鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳片表面に縦割れが発生しやすい鋼に、C濃度が0.08〜0.18質量%である亜包晶鋼又は中炭素鋼がある。前記鋼は、鋳型内で溶鋼が凝固して形成する凝固殻の厚みが不均一になりやすく、このことに起因して、鋳片表面に縦割れが発生しやすい。
【0003】
鋳片表面の縦割れ防止するには、鋳型内の凝固殻の厚みを均一にすること、即ち、凝固殻の先端部を緩やかに冷却すること(以下、緩冷却)が有効であり、この緩冷却の為に、モールドフラックスが利用されてきた。モールドフラックスは、鋳型内の溶鋼上へ供給され、溶鋼からの熱供給により溶融して、鋳型に沿って凝固殻との間隙を流入し、溶鋼成分を含み溶融フラックスからなるフィルムを形成する。このフィルムは、鋳造開始直後、鋳型による冷却によりガラス(非晶質)状に凝固するが、時間の経過とともにガラス(非晶質)中から結晶が析出する。このフィルムの結晶化を促進させると、フィルムの鋳型側表面の粗度が増大するため、鋳型とフィルムの界面熱抵抗が増大する。あるいはフィルム中の輻射伝熱も抑制されるため、これらの効果により、フィルムに接した溶鋼および凝固殻が緩冷却される。
【0004】
フィルム中に析出する一般的な結晶の組成はCaSi(cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)である。フィルムの結晶化を促進する手段としては、これまでに以下の方法が考えられている。
【0005】
モールドフラックスの融体物性のコントロールとして、凝固点を高めることが結晶化の有効な促進方法である。特許文献1には、凝固点を1150〜1250℃に高めて、結晶性を強める方法が開示されている。ただし、1250℃以上に凝固点を高めると、潤滑性が阻害されてブレイクアウトが防止できない、という問題があるとされている。但し、特許文献1では、Al含有量が低い鋼(特許文献1、表3、Al=0.02質量%)の場合のCaSiを活用したフィルムの結晶化である。
【0006】
また、モールドフラックス中の成分をコントロールすることにより結晶化を促進する方法として、モールドフラックス中の塩基度(CaOとSiOの質量比)上昇やMgO含有率の低減が有効である。特許文献2には、主成分がCaOとSiOであり、塩基度を1.2〜1.6とし、MgO含有率を1.5質量%以下である鋼の連続鋳造用パウダーが、フィルムの結晶化に有効であると開示されている。ただし、この発明に開示されているモールドフラックスの結晶生成温度は最も高い例でも1145℃程度と低く、これでは十分な緩冷却効果が得られない。
【0007】
一方、特許文献3には、モールドフラックス中に鉄あるいは遷移金属の酸化物を添加することにより、フィルム中の輻射伝熱を抑制する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に開示された方法では、前記の酸化物を添加することにより、モールドフラックス中CaO、SiO、CaFが希釈される。特に、この方法において、輻射伝熱の抑制効果を十分に得るためには、同文献中の実施例に示されるとおり、鉄あるいは遷移金属を合計で10質量%以上も含有させる必要がある。また、塩基度が1.0付近の組成においては、CaSiが析出し難くなり、モールドフラックスの凝固点は低下する。同文献の実施例の表1に示された適用例によればモールドフラックスの凝固点は1050℃程度以下である。
【0008】
亜包晶鋼の縦割れを防止するのに効果的なモールドフラックスの凝固点が、前記の特許文献1に記載されるとおり、1150〜1250℃程度であることを考慮すると、特許文献3に記載された凝固点は、亜包晶鋼の縦割れを防止するのに効果的なモールドフラックスの凝固点より100℃以上も低い。つまり、同文献に示された実施例の結果は、フィルムの結晶化が阻害される結果、鋳型とフィルムとの界面における熱抵抗の増大が阻害され、結晶化による緩冷却効果が損なわれていることを示している。また、同文献には、Al含有の示唆・開示がないので、フラックスの融体が溶鋼中Alによる酸化反応によってCaSiのフィルム中での晶出が抑制される示唆もない。
【0009】
本発明者の特許文献4には、CaSiの析出しやすいモールドフラックスの組成範囲CaO-SiO-CaF-NaFの四元系において開示されている。この組成範囲は、その後の報告(例えば、非特許文献1)によるCaSiの初晶領域と実質的に一致するものである。特許文献4の(0024)に記載の通り、同文献のモールドパウダ(モールドパウダは本発明のモールドフラックスと同様に鋳型内の溶鋼上に供給するもの)は、アルカリ金属とFとの親和性を考慮した上で、CaSiを活用してフィルムを結晶化して緩冷却効果を得る。この効果によって、特許文献4のモールドパウダは、C含有率が0.065〜0,18質量%である鋼を、生産性向上の為に、2m/分以上の高速鋳造を行っても、鋳片表面の縦割れを完全に防止することが出来る。しかしながら、同文献の表1に記載の通り、鋼中のAl含有量が少なく、0.035〜0.045%であるので、鋳型内の溶鋼上に供給されたモールドフラックスの融体が溶鋼中Alにより酸化反応を受けて、フィルム中でCaSiの結晶化阻害は無視することができた。
【0010】
本発明者の特許文献5には、特許文献4の範囲内に調整された基本組成に対して、遷移金属酸化物を添加することにより、緩冷却効果を損なうことなく凝固点を低下させる方法が開示されている。同文献の課題は、溶鋼中のMn濃度(質量%)が高い場合に、Mnの酸化反応によりフィルム中のMnO濃度が高くなるためにCaSiの結晶化が阻害され、十分な緩冷却効果が得られないことである。この課題を解決するために、必要な濃度のMnOを鋳型に供給前のフラックスに予め配合しておき、その酸化反応を抑制した上で、凝固点を望ましいレベルに高めておくというものである。この発明により、Mn濃度の高い高強度鋼の縦割れを防止することが可能になった。特許文献5の発明もAl含有量は、同文献の表3に示すように0.02質量%で少なく、特許文献4と同様に、鋳型内の溶鋼上に供給されたモールドフラックスの溶鋼中Alによる酸化反応に基づく、フィルム中でCaSiの結晶化の阻害は無視することができた。
【0011】
一方、鋼の高強度化、高耐食性などの性能向上の観点から、近年、Alを0.1質量%以上含有するAl含有鋼が求められている。しかしながら、このAl含有鋼を連続鋳造する場合には、溶鋼中のAlによってモールドフラックスの融体がフィルム内で酸化反応を受け、生じたAlによりCaSiが希釈されるので、CaSiの結晶化が阻害されるために、十分な緩冷却効果が得られなくなり、連続鋳造鋳片の表面に縦割れが発生するという問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−197214号公報
【特許文献2】特開平8−141713号公報
【特許文献3】特開平7−185755号公報
【特許文献4】特開2001−179408号公報
【特許文献5】特開2006−289383号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ISIJ International、vol.42(2002)No.5 p489〜497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は前記問題を解決し、Alを0.1質量%以上含有するAl含有鋼の製造過程において、連続鋳造鋳片の表面縦割れを防止するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項記載の発明は、CaO、SiO、Li、Na、Kの1種又は2種以上からなるアルカリ金属の酸化物およびフッ化合物を基本成分とし、連続鋳造の鋳型内へ添加される前のフラックス初期組成が下記(1)、(2)および(3)式を満足したAl含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスを用い、鋳造中の鋳型内の0.1質量%以上のAlを含有する溶鋼上に供給された後、該溶鋼と反応した後のフィルム組成において、下記(4)、 (5)および(6)式を満足し、溶鋼表層のフィルムに縦割れが発生しないように当該溶鋼フィルム中にCaSiが単独で結晶化させることを特徴とするAl含有鋼の連続鋳造方法である。
0.9≦f(1)≦1.90 ・・・(1)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(2)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(3)
1.30≦f(1)≦3.50 ・・・(4)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(5)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(6)
ここで、f(1)およびf(2)、f(3)は
f(1)=(CaO)/(SiO ・・・(イ)
f(2)=(CaF/{(CaO)+(SiO+(CaF} ・・・(ロ)
f(3)={(アルカリ金属のフッ化物)+(Al}/
{(CaO)+(SiO+(アルカリ金属のフッ化物)+(Al} ・・・(ハ)
(CaO)=(WCaO−(CaF×0.718) ・・・(A)
(SiO=WSiO2 ・・・(B)
(CaF)
=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613−WK2O×0.403)×2.05 ・・・(C)
(アルカリ金属のフッ化物)
=WLi2O×1.74+WNa2O×1.35+WK2O×1.23 ・・・(D)
(Al=WAl2O3 ・・・(E)
iは、添字iに示されるモールドフラックス中の成分(CaO、SiO、F、LiO、NaO、KO、Al)の質量濃度(質量%)を示す。
また請求項の発明は、CaO、SiO、Li、Na、Kの1種又は2種以上からなるアルカリ金属の酸化物およびフッ化合物を基本成分とし、連続鋳造の鋳型内へ添加される前のフラックス初期組成が下記(1)、(2)および(3)式を満足したAl含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスを用い、鋳造中の鋳型内の0.1質量%以上のAlを含有する溶鋼上に供給された後、該溶鋼と反応した後のフィルム組成において、下記(4)、 (5)および(6)式を満足し、溶鋼表層のフィルムに縦割れが発生しないように当該溶鋼フィルム中にCaSiおよびCaAlSiが結晶化させることを特徴とするAl含有鋼の連続鋳造方法である。
0.9≦f(1)≦1.90 ・・・(1)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(2)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(3)
1.30≦f(1)≦3.50 ・・・(4)
0.18≦f(2)≦0.40 ・・・(5)
0.21≦f(3)≦0.40 ・・・(6)
ここで、f(1)およびf(2)、f(3)は
f(1)=(CaO)/(SiO ・・・(イ)
f(2)=(CaF/{(CaO)+(SiO+(CaF} ・・・(ロ)
f(3)={(アルカリ金属のフッ化物)+(Al}/
{(CaO)+(SiO+(アルカリ金属のフッ化物)+(Al} ・・・(ハ)
(CaO)=(WCaO−(CaF×0.718) ・・・(A)
(SiO=WSiO2 ・・・(B)
(CaF)
=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613−WK2O×0.403)×2.05 ・・・(C)
(アルカリ金属のフッ化物)
=WLi2O×1.74+WNa2O×1.35+WK2O×1.23 ・・・(D)
(Al=WAl2O3 ・・・(E)
iは、添字iに示されるモールドフラックス中の成分(CaO、SiO、F、LiO、NaO、KO、Al)の質量濃度(質量%)を示す。
また、請求項記載の発明のように、前記の溶鋼は、亜包晶鋼とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、、Al含有鋼の連続鋳造用モールドフラックスにおいて、初期組成を上記(1)〜(3)式の範囲内に調整した上で、鋳造中の鋳型内に形成されるフィルムの組成が上記(4)〜(6)式を満たすようにすることにより、Al含有量が0.1%以上のAl含有鋼との反応によりフィルム組成が変化しても、フィルム中にCaSiの結晶化が維持される。
【0018】
ここで、本来は、CaSiが単一相として結晶化することが望ましいことはいうまでも無いが、本発明者らは、溶鋼中のAlの反応により、CaSiの初晶範囲が高塩基度側に外れて、CaAlSiOの結晶化が生じ始める組成となっても、実際には、鋳型内における冷却が不安定になることなく、緩冷却が維持されることを新しく見出して本発明を成し遂げた。これは、CaSiおよびCaAlSiOの両方がフィルム中で結晶化し得る組成のフラックスを、溶融状態から急冷却した場合、CaSiの方が結晶化速度がより大きいために、連続鋳造中の鋳型内で形成されたフィルム中では、CaSiの方が優位に結晶化して、鋳型内の冷却状態が安定化することによるものである。
【0019】
鋳造中の鋳型内において、供給されたモールドフラックスが、Alを0.1質量%以上含有するAl含有溶鋼中のAlによる反応により、前記のフィルム組成が変化しても、(4)〜(6)式の範囲を満たすことができる。これにより、フィルム中においてCaAlSiOの結晶化を許容しながらCaSiの結晶化を維持し、総合的に緩冷却の効果を得ることを可能にした。
【0020】
このため、本発明によれば、Al含有鋼又はAl含有亜包晶鋼の連続鋳造鋳片の表面縦割れを確実に防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】モールドフラックスの塩基度とX線回折強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明のAl含有鋼は、鋼中にAlを0.1質量%以上含有するものである。特に含有範囲の上限はないが、前記の性能向上では、3.0質量%まで含有する可能性がある。また、前記のフィルム中でのCaSiおよびCaAlSiOの2つの結晶相の晶出は、鋼中のAl含有量が3.0質量%でも起きると本発明者らは考えている。
【0023】
f(1)は、CaOとSiOとの質量比であるが、通常の塩基度でなく、CaF2の生成を考慮した(CaO)を分子とする修正塩基度であり、CaSiの結晶化を促進するための重要な指標である。溶鋼中Al([Al]≧0.1質量%)との反応により、SiOが還元されて減少するため、溶鋼中のAl濃度に応じて予めf(1)を低くしておき、上記の溶鋼中Alとの反応後、適正な値になるように設定することが望ましい。従って、(1)式は、溶鋼中Al濃度を反映させたf(1)の適正範囲である。f(1)の望ましい範囲は、溶鋼との反応前で0.9〜1.9、反応後で1.3〜3.5である。反応後のf(1)が1.3より小さいと、CaSiの結晶相が必要なだけ得られず、3.5より大きいと、鋳型内の冷却が不安定になり、鋳型銅板温度の変動が大きくなる等の問題が生じ始める。
【0024】
f(2)はCaFの濃度比であり、これもCaSiの結晶化を促進するために適正な範囲に調整することが必要である。f(2)の望ましい範囲は、0.18〜0.4であり、この範囲よりも小さくても大きくても、CaSiの結晶化が十分に得られない。
【0025】
f(3)は、CaSiに対する溶剤的な成分の比率を示す。特に、溶鋼中Al([Al]≧0.1質量%)の酸化によりAl濃度が上昇するため、f(3)は増大するが、この増大はCaSiの結晶化を阻害するため、初期組成での(3)式とフィルム組成での(6)式の両方とも0.21以上、0.40以下に抑える必要がある。0.40より大きいと、CaSiの結晶化が十分に得られない。
【0026】
本発明のモールドフラックスの凝固点は1150〜1400℃が望ましい。この温度範囲よりも低いとCaSiの結晶化が十分に得られない場合があり得る。また、1400℃以上に高めることは実質的に困難である。該フラックスの凝固点は、回転式や振動片式の粘度測定装置により測定すればよい。
【0027】
本発明のモールドフラックスの粘度は、1300℃において2poise以下が望ましい。2poiseよりも高いと、結晶化速度が低下し、効果的な緩冷却効果が得られない可能性があり好ましくない。鋳型内の溶鋼との反応によるフィルム組成の変化に伴い、鋳造中の粘度は初期の状態よりも高くなるので、添加前の粘度として、2poise以下が望ましい。粘度は、凝固点と同様、粘度測定装置により測定することができる。
【0028】
アルカリ金属はFなどのハロゲン化物との親和性が強い。CaO、SiOおよびフッ素化合物を基本成分とするモールドフラックス中に、Li、Na,Kから選択されたアルカリ金属の酸化物、例えば、NaO、LiO、KOが存在する場合には、溶融状態で、特許文献4の段落(0019)の(い)(ろ)(は)式で表される反応が起きると考えることが出来る。従って、例えば、CaO、SiOおよびフッ素化合物を基本成分とし、NaOを配合したモールドフラックスの場合には、溶融状態におけるCaF及びNaOは、前記(ろ)式の反応を考慮して、CaO及びNaFとして扱いうべきである。LiOやKOを含む場合も同様に扱うべきである。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Frがあるが、Li、Na、Kの1種又は2種以上が、現時点では該金属酸化物を入手し易いので好ましい。
【0029】
また、鋳型添加前のフラックスの初期組成として、基本成分以外に、Al:0.1〜10.0質量%、MgO:0.1〜10.0質量%、MnO:0.1〜4.0質量%を含有するとしても、本発明の構成要件を満足する場合には、本発明を逸脱するものではない。
【0030】
高強度鋼を得るには、Al含有鋼のC含有量が0.08〜0.18質量%である亜包晶鋼又は中炭素鋼にすることが好ましい。Al含有亜包晶鋼の連続鋳造鋳片の表面縦われについても、前記のAl含有鋼と同様の作用によって、フィルム中の結晶化による緩冷却を活用して、表面縦割れを防止することが出来る。
【0031】
鋼の組成としては、Al,C以外の組成に関しては、鋼の要求性能に応じて適宜含有しても、本発明の連続鋳造方法を逸脱するものではない。
【実施例1】
【0032】
Al含有鋼の溶鋼上にフラックスを供給した際の溶融フラックスの組成変更とその組成変更のフィルム中に晶出する結晶相に及ぼす影響を調査した。表1および表2に示す各組成からなるモールドフラックス8種類(F1〜F8)を作製し、各種類について、重量1kgを黒鉛坩堝内へ挿入し、Ar雰囲気下、温度1400℃で溶融させた後、2℃/minの速度で冷却した。冷却過程で粘度および凝固点を測定した後の凝固したモールドフラックスを乳鉢で粉砕し、X線回折試験に供して、結晶相を同定するとともに、その第一ピークの回折強度を評価した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
モールドフラックスの塩基度とX線回折強度との関係を図1に示す。F1では結晶相としてCaSi(以下、結晶相A)が同定され、その回折強度は8000cps以上と高かった。F2〜F5では、塩基度の上昇とともに結晶相Aの強度は低下していき、同時にCaAlSiO(以下、結晶相B)の強度が上昇していったが、両者を比較すると、結晶相Aの強度の方が同等以上に高かった。F6およびF7では、結晶相Aおよび結晶相Bの強度が互いに同等であった。また、Ca12Al1432 (以下、結晶相C)の強度が認められた。F8では、結晶相Cの強度が最大となった。尚、表1の塩基度は、CaO/SiOの質量%の比であり、凝固点および1300℃の粘度は、振動片式粘度計により測定した値である。F1のように、本来は、CaSiが単一相として結晶化することが望ましが、F2〜F5のように本発明の要件を満足する場合には、溶鋼中のAlの反応によってCaSiの初晶範囲が高塩基度側に外れて、CaAlSiOの結晶化が生じ始める組成となっても、実際には、鋳型内における冷却が不安定になることなく、緩冷却が維持されることが確認された。
【実施例2】
【0036】
表3および表4に示すモールドフラックスF9を用いて、表5に組成を示す溶鋼2.5tonを連続鋳造し、幅500mmおよび厚み85mm、長さ7000mmのスラブを得た。鋳造試験は、試験番号C1〜C5の合計5回、溶鋼中のAl濃度を変えて行った。鋳造試験の結果を表6、表7に示す。試験番号C1〜C4については、鋳型内で溶融層は組成変化したが、それらのf(1)及びf(2)、f(3)は、いずれも本発明の範囲内を維持したが、C5については、f(1)及びf(3)が本発明の範囲よりも高く外れた。試験番号C1〜C4については、鋳型内の熱流束は1.46〜1.53MW/mの範囲内であり、鋳型銅板温度の変動は±5℃以内と安定した。試験番号C1〜C3では鋳片表面に縦割れの発生は無く、C4については長さ10mmの軽微な縦割れが1本発生した。これに対して、試験番号C5では、熱流速が1.71MW/mと試験番号C1〜C4と比較して高くなり、鋳型銅板温度の変動が±15℃以上と大きく不安定な状態になった。この様に鋳型内の冷却が不安定な状態になったため、鋳片表面には長さ30〜100mmの縦割れが合計10個発生した。
【0037】
なお下記の各表に関し、表3の塩基度は、CaO/SiOであり、各成分の質量比である。表3の凝固点は、振動片式粘度測定装置により測定した。表3の粘度は、1300℃の粘度であり、振動片式粘度測定装置により測定した。表4のf(1)、f(2)、f(3)は、表3の成分濃度(質量%)の分析値から算出した。表5の溶鋼の成分は、鋳型内の溶鋼中に分析サンプラーを装入して、サンプリングした溶鋼を凝固させ発光分光分析で求めた。表6のフィルム成分は、鋳型内の溶鋼上に表1のモールドフラックスを供給し、鋳型と溶鋼の界面のフィルム部に分析サンプラーを装入して、サンプリングした溶鋼を凝固させ発光分光分析で求めた。表7のX線回折強度は、フィルム部からサンプリングした融体を2℃/minの速度で冷却して、凝固した試料を乳鉢で粉砕し、X線回折試験に供して、結晶相を同定するとともに、その第一ピークの回折強度を測定した。表7の鋳型内熱流束は、緩冷却を示す指標であり、鋳造中に計測した鋳型銅板および冷却水の温度から計算により求めた。また、表7の鋳型銅板温度は、銅板の背面の熱電対温度計の測定値の時間変化から求めた。表7のスラブ表面割れは、鋳片の幅500mm、長さ7000mmの表裏面の全面を目視により確認した。10mm以上の長さ方向の割れを縦割れとして、その長さと個数を記録した。但し、10mmの微小な割れが数個以内の場合は、縦割れは合格と評価した。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
図1