(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、C:≦0.015%、N:≦0.015%、Cr:13.0〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S:≦0.010%、Mo:≦1.5%、Al:0.010〜0.100%、を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としためっきを有しない部材と、前記部材に取り付けられる鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下の犠牲防食作用のあるめっきが施され、かつ、全面に塗装しない自動車用給油管であって、
前記金具部品に成型されるめっき鋼板の母材はCr含有量が10.5〜18.0質量%であり、それ以外の成分については部材と同じ成分範囲であることを特徴とする自動車用給油管。
めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用給油管。
めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにCu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用給油管。
めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項5に記載の自動車用給油管。
めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにCu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の自動車用給油管。
前記金具部品に成型されるめっき鋼板の母材はCr含有量が10.5〜18.0質量%であり、それ以外の成分については部材と同じ成分範囲であることを特徴とする請求項5〜請求項8のいずれか1項に記載の自動車用給油管。
【背景技術】
【0002】
自動車用の給油管には、米国の法規制で15年間もしくは15万マイル走行の寿命保証が義務付けられており、ステンレス鋼(SUS436L:17Cr−1.2Mo)を素材とした給油管が既に実用化されている。
【0003】
北米や欧州地区を走行する自動車は融雪塩環境に曝されるので給油管に適用される素材には優れた塩害耐食性が求められ、従来SUS436Lが適用されてきたが、昨今の資源価格高騰を背景として素材コスト低減の要求が生じてきている。SUS436Lは高価なMoを1%程度含有しているので、SUS436LからMoを含まないAISI439鋼(17Cr)に代替するだけでも大きなコスト低減効果が得られる。また、北米や欧州地域以外の地域、例えばインド、中国、中南米など、においては、北米や欧州並みの塩害耐食性は必要なくSUS436Lでは過剰品質であり、より低級の廉価素材が求められるようになってきている。
【0004】
しかしながら、廉価性を追求するあまり過度に合金元素を削減すれば耐食性劣化を招来する。そこで、素材の低級化による弱点を別の方法で補う技術が重要となる。
【0005】
給油管における腐食懸念部位は、塩害環境に曝される給油管外面側の隙間部に発生する隙間腐食である。従来、隙間部の塩害耐食性を向上させる手段としてカチオン電着塗装などの塗装が用いられてきた。
【0006】
例えば、特許文献1では、SUS436パイプを素材としてプロジェクション溶接を用いて組み立てた給油管にカチオン電着塗装を施す製造方法が開示されている。しかしながら、この技術ではSUS436を素材としたものであり、発明者らの知見によればSUS436においても防錆が完全とはいえない。従って、より低級な素材を用いた場合に、この技術で充分な防錆効果が得られるとは推認できない。
【0007】
また、特許文献2では、SUS436を素材として組み立てた給油管に静電塗装を施して隙間腐食を防止する技術が開示されている。あるいは、特許文献3では、ステンレス鋼製給油管に耐チップ塗装を施し、チッピングを受けても十分な防錆性を確保する技術が示されている。しかしながら、これらの技術は電着塗装の場合よりも塗装コストがかかる。一方、隙間内部には塗装できないため、隙間部の十分な防錆効果が得られる保証はない。
【0008】
特許文献4では、隙間内部を電着塗装で被覆するために、隙間形成部品に突起をつけ、隙間の開口量を0.2mm以上に制御する技術が開示されている。
【0009】
しかしながら、一方、塗装以外の防錆方法についても提示されている。例えば、特許文献5では、ステンレス鋼製給油管の組み立てにおける溶接、ロウ付け、塑性加工などによって不働態皮膜が損なわれた部位や隙間部位に亜鉛の犠牲陽極を配して犠牲防食する技術が開示されている。しかしながら、腐食懸念部位の全てに亜鉛を配するのは煩雑であるし手間がかかる。さらに、特許文献6には、インレットパイプに亜鉛メッキ鋼板を用い、隙間部を溶融させた亜鉛で埋めることで、隙間部を無くしている。しかしながら、給油口がインレットパイプの中に入り込んでいる構造上、溶解した亜鉛はインレットパイプ内に侵入しやすく、水分と反応することで、水酸化亜鉛等の腐食生成物を形成し、燃料噴射装置の目詰まりの原因となる可能性がある。
【0010】
特許文献7では犠牲防食による隙間腐食の抑制を狙った給油管が開示されている。しかしながら、ステンレス素材の成分やめっき素材の成分の記載が無いため、具体的な環境を想定しているとは言い難く、外観の劣化についても考慮されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、SUS436Lより低級な素材を用いることを前提とし、ステンレス鋼の弱点である塩害耐食性、特に隙間部における耐食性を確保することを目的とする。オーステナイト系ステンレスを適用した場合、溶接部近傍で応力腐食割れが生じる可能性があるため、本発明はフェライト系ステンレス鋼の適用を対象とする。
【0013】
特許文献7の技術では、ステンレス鋼からなる鋼管部材と取り付けられたZnめっき鋼板製の部品からなる給油管において、隙間部の腐食を抑制するためZnめっきの犠牲防食作用を適用するとともに電着塗装で被覆している。このような犠牲防食かつ塗装による耐食性の確保を狙った構造では、所謂カソード膨れにより電着塗装が膨れ、新たな隙間構造を生み出し、隙間腐食を生じる問題があることが判明した。カソード膨れは、被犠牲防食材料であるステンレス製給油管本体と塗装界面で酸素の還元反応(カソード反応)が生じ、反応によりpHが上昇することで、塗装の密着性が低下し膨れに至る。すなわち、鋼管部材と部品の材料が異種の材料であり、通常の条件の塗装で覆われた構造の場合、カソード膨れによる外観の劣化および新たな隙間腐食の発生は避けられない。本発明では、めっきの犠牲防食を利用し、隙間部の耐食性を確保するとともに、材料の成分や構造を適正化することで、塗装を省略しても実用に耐えられる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、隙間部の耐食性を確保するための手段として、塩害環境におけるめっきの犠牲防食作用の有用性を想起した。しかしながら、特許文献6のインレットパイプのような燃料に接する部材にめっき鋼板を使用した場合、溶解しためっき成分はインレットパイプ内に侵入しやすく、水分と反応することで、めっき成分の水酸化物等の腐食生成物を形成し、燃料噴射装置の目詰まりの原因となる可能性がある。そこで、燃料の付着の可能性が低い金具部品にめっき鋼板を用い、インレットパイプのような燃料に接する鋼管部材にステンレス鋼板を用いる構造を想起し、鋼管部材の腐食の抑制を図った。そして、その構造を前提にして、犠牲防食の有用性の検討をすすめた。まず、Al、Zn、Zn−Snめっき鋼板とステンレス鋼板を接触させた隙間試験片を作製して塩害耐食性を調査した。その結果、めっき層の犠牲防食作用によって隙間腐食が抑制されることを知見し、所定の耐食寿命を得るための鋼管部材成分、金具部品の素材成分および金具部品のめっき付着量の必要条件を解明した。
【0015】
しかしながら、上記の手法ではめっきの犠牲防食効果を利用するため、ステンレスよりもめっき部の溶解が早いため、溶解しためっき元素が問題を引き起こす可能性がある。例えば、給油口のようなインレットパイプの端部と金具部品とで形成される隙間部を対象にした場合、特許文献6のようなインレットパイプに金具部品が入り込む構造では、ステンレス鋼板に穴あきが生じなくても、インレットパイプ内に溶解しためっき元素が侵入し、水分と反応して溶解度の低い腐食生成物が生成し燃料タンク底部に沈殿する。腐食生成物は燃料タンクに蓄積され、最終的には燃料噴射口で目詰まりを生じ、重大な事故を引き起こす可能性がある。そこで本発明者らは、めっき鋼板製の金具部品の取り付け方法を検討した。その結果、めっきが消耗するにも関わらず、鋼管部材の外部かつ金具部品を所定の位置に取り付けることで、鋼管部材内部にめっき元素が入らない構造を見出した。
【0016】
本発明は前記知見に基づいて構成したものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、C:≦0.015%、N:≦0.015%、Cr:13.0〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S:≦0.010%、Mo:≦1.5%、Al:0.010〜0.100%、を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としためっきを有しない部材と、前記部材に取り付けられる鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のめっき付着量が20g/m
2以上150g/m
2以下の犠牲防食作用のあるめっきが施され、かつ、全面に塗装しない自動車用給油管であって、
前記金具部品に成型されるめっき鋼板の母材はCr含有量が10.5〜18.0質量%であり、それ以外の成分については部材と同じ成分範囲であることを特徴とする自動車用給油管。
(2)めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする(1)に記載の自動車用給油管。
(3)めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにCu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の自動車用給油管。
(4)前記金具部品に施されるめっきの種類がAl、Zn、Sn−Znめっきのいずれかであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の自動車用給油管。
(5)質量%で、C:≦0.015%、N:≦0.015%、Cr:13.0〜18.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.050%、S:≦0.010%、Mo:≦1.5%、Al:0.010〜0.100%、を含有し、更に、Ti≦0.30%、Nb≦0.30%であって0.03%≦Tiと0.03%≦Nbの一方又は両方を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材としためっきを有しない
鋼管部材と、前記
鋼管部材に取り付けられる鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成し、前記隙間構造部の隙間部に当たる面における前記金具部品のめっき付着量が20g/m
2以上150g/m
2以下の犠牲防食作用のあるめっきが施され、かつ、全面に塗装しない自動車用給油管であって、
前記鋼管部材はインレットパイプであり、前記金具部品は、円錐台形状であって、円錐の小さい円周部において前記鋼管部材の外周に取り付けられ、当該取り付け位置はインレットパイプの端部から5mm以上離れた位置の外周部にある給油口構造を持つことを特徴とする自動車用給油管。
(6)めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにB:0.0002〜0.0050%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする(5)に記載の自動車用給油管。
(7)めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材の成分が、質量%で、さらにCu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%の1種または2種以上を含有することを特徴とする(5)又は(6)に記載の自動車用給油管。
(8)前記金具部品に施されるめっきの種類がAl、Zn、Sn−Znめっきのいずれかであることを特徴とする(5)〜(7)のいずれか1項に記載の自動車用給油管。
(9)前記金具部品に成型されるめっき鋼板の母材はCr含有量が10.5〜18.0質量%であり、それ以外の成分については部材と同じ成分範囲であることを特徴とする(5)〜(8)のいずれか1項に記載の自動車用給油管。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、塩害耐食性を安定的に確保しつつ廉価な給油管が提供できるので、産業上の効果は大きい。
【0018】
すなわち、本発明の技術によって、SUS436Lより低級な素材からなる鋼管部材とめっき鋼板からなる金具部品からなり、無塗装の給油管において、適切な成分のフェライト系ステンレスを用い、めっき条件、給油管の構造を適正化することで、応力腐食割れおよび犠牲防食作用に起因するカソード剥離を懸念することなく、必要な耐食性を確保することができる。さらに、めっき素材を適切な成分のフェライト系ステンレスを用いることで、めっき鋼板端面の腐食も抑制することができる。以上より、塗装のカソード剥離による新たな隙間腐食発生を懸念することなく、めっきの犠牲防食効果により、必要な耐食性を確保することができる。
【0019】
隙間構造部の隙間部において、塩害環境に曝される隙間部に当たる金具部品の表面がめっきとすることにより、耐食性が確保できる。さらに、給油口部に使用する場合は、消耗しためっき元素のインレットパイプ内への侵入を防止するため、インレットパイプの外側にめっき鋼板製の金属部品を取り付けることで、腐食生成物によるエンジンの燃料噴射口のつまりを防止し、事故を防ぐことを可能にした。以上より、安定的に耐食性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明で言う部材とは、その内面が燃料環境に曝され外面が塩害環境に曝される部材の総称である。当該部材のうちで鋼管を成型したパイプ形状の部材を鋼管部材と称し、メインパイプ、ブリーザー、燃料配管などの部材が含まれる。メインパイプはインレットパイプとも呼ばれ、給油口から燃料タンクへ燃料を導入するパイプである。また、金具部品とは、塩害環境のみに曝され、部材あるいは鋼管部材との間に隙間部を構成する部品の総称であり、配管支持部材や例えばステー、ブラケットと称される金具やキャッププロテクターやリテーナーと称される部材などが含まれる。
【0023】
本発明の自動車用給油管には、例えば
図1、
図2に示すような隙間部が含まれる。
図1は給油管の中央部を示す事例であり、
図1(a)メインパイプ1a(鋼管部材1)とブリーザーチューブ1b(鋼管部材1)を結束して車体に固定するための金具部品2が溶接によって溶接部4で取り付けられている様子を示す斜視概念図であり、
図1(b)はメインパイプ1aへの金具部品2取り付け部分の断面模式図である。いずれも、金具部品2と鋼管部材1であるメインパイプ1aあるいはブリーザーチューブ1bの溶接部4近傍に隙間部3が形成されている様子を示す。また、
図2は給油管の給油口部を示す事例であり、ここではメインパイプをインレットパイプと呼ぶ。
図2(a)はインレットパイプ11(鋼管部材11)にキャッププロテクター12(金具部品12)が溶接によって溶接部14で取り付けられている様子を示す斜視概念図であり、
図2(b)はインレットパイプ11への金具部品12取り付け部分の断面模式図である。いずれも、金具部品12と鋼管部材11であるインレットパイプ11の溶接部14近傍に隙間部13が形成されている様子を示す。隙間部3や隙間部13を含む部分を本発明では隙間構造部とよぶ。
【0024】
本発明は、塩害環境に曝される隙間構造部を対象とする。
【0025】
このような隙間部の隙間内部に、塩水が充填されて乾湿サイクルが付与されると隙間腐食が発生し、成長して鋼管部材を穴明きに至らしめる。これを防止するには隙間腐食の成長を抑制することもさることながら、隙間腐食の発生自体を抑制するのが重要であり、このための手段として犠牲防食を用いるのが常套である。
【0026】
隙間腐食の抑制のため犠牲防食を利用する場合、特許文献6のインレットパイプのような燃料に接する部材にめっき鋼板を使用し、めっき鋼板がインレットパイプの内部に入り込む構造の場合、犠牲防食により消耗しためっき成分の腐食生成物により、エンジンの燃料噴射口のつまりが助長される。そこで、燃料の付着の可能性が低い金具部品にめっき鋼板を用い、インレットパイプのような燃料に接する部材にめっきを有しないステンレス鋼板を用いる構造を用いることにより、部材の腐食の抑制を図ることが可能となる。さらに、鋼管部材に使用するステンレス鋼は、応力腐食割れを生じるオーステナイト系ステンレスではなく、フェライト系ステンレスとする。
【0027】
またさらに、金具部品の素材として普通鋼を適用した場合、金具部品の端面はめっきに覆われない面が露出するため、塩化物が生じる環境では厳しい環境下であれば、簡単に発銹が生じてしまい外観の劣化を引き起こす。そのため、金具部品の耐食性の確保のために、素材にステンレス鋼を適用することが好ましい。
【0028】
そこでまず、鋼管部材に相当するステンレス鋼板とめっき鋼板を素材とした隙間試験片を作製して塩害耐食性を調査した。
【0029】
隙間試験片は、t0.8×70×150mmサイズの大板にt0.8×40×40mmサイズの小板を重ねて中央部をスポット溶接して作製した。大板は、鋼管部材に相当するものであり、フェライト系ステンレス鋼板を用いた。小板は、金具部品に相当するものであり、めっき付着量を変化させためっき鋼板を用いた。大板は表1記載の本発明例の含有成分、小板は表2記載の含有成分の鋼板に、種々の付着量でAl、Zn、Sn−Znめっきしたものを使用した。大板と小板との対面部分が隙間部を構成する。
【0030】
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))の塩水噴霧を5%NaCl噴霧から2%NaClに変更した試験条件を用いた。本発明は、融雪塩を使用する頻度が低い地域を対象としているため、JASOの規定よりもNaCl濃度を低く設定した。試験期間は200サイクルとした。試験終了後、隙間部内部の腐食深さを顕微鏡焦点深度法によって測定した。
【0031】
試験結果を
図3に示す。これより、小板のめっき鋼板のめっき元素の犠牲防食効果によって隙間腐食が大幅に抑制できることがわかる。すなわち、犠牲防食効果を長期にわたって維持するにはめっき元素の絶対量が多いほど有利であることが分かる。
図3は、初期の絶対量はめっき付着量で管理できることを示唆している。
図3の結果より、めっき付着量は20g/m
2以上が必要である。めっき付着量は多いほど望ましいことは自明であるが、廉価性に配慮すれば、めっき付着量は150g/m
2を上限とするのが順当である。
【0032】
このように、本発明における金具部品としては犠牲防食作用のあるめっき鋼板を素材とするものであり、隙間部に当たる面におけるめっき付着量が20g/m
2以上を必要とする。めっき付着量がこれを下回ると満足すべき耐食性が得られないためである。一方、めっき付着量が多くなれば耐食寿命は延長されるが、コストも考慮して150g/m
2をめっき付着量の上限とする。ここにおいて、「隙間部に当たる面」とは、金具部品が部材又は鋼管部材と接近又は当接して隙間部を構成する面を意味する。
【0033】
めっき鋼板のめっき種は、犠牲防食型のめっきとする。犠牲防食型のめっきには、Znめっき、Alめっきなどがあり、Znめっき中にはNi、Mg、Al、Co、Fe、Snが含まれる場合があり、Alめっきには、SiやFeが含まれる場合がある。金具部品にNi、Cu、Ag、Auめっきなどのバリヤー型のめっきを採用した場合、優先的に部材又は鋼管部材の腐食が生じる可能性があるため、適用できない。
【0034】
めっき鋼板は、電気めっき、蒸着めっき法、溶融めっき法によって製造されたものを用いることができる。めっき鋼板の素材としては、少なくとも鋼管部材よりも合金含有量が多い高耐食性材料である必要はなく、めっき鋼板端面の発銹を抑制する観点からフェライト系ステンレスを用いることが好ましい。
【0035】
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、上記と同様JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))の塩水噴霧を5%NaCl噴霧から2%NaClに変更した試験条件を用いた。試験期間は200サイクルとした。なお、試験中は
図4に示すように鋼管の上下2カ所にシリコン栓25でふたをし、溶出しためっきの液がフェライト系ステンレス鋼管21内部へ自然に流入しないようにした。
【0036】
試験終了後、フェライト系ステンレス鋼管21内部への腐食生成物の侵入の有無を評価した。
【0037】
試験結果を表4に示す。いずれも腐食による穴あきは見られなかったが、構造IIでは消耗しためっき部からフェライト系ステンレス鋼管内へ腐食生成物が侵入していた。さらに、構造Iかつ取り付け位置が5mm未満の場合、鋼管の端面が腐食し、端部とシリコン栓との隙間からフェライト系ステンレス鋼管内へ腐食生成物が侵入していた。したがって、構造Iかつ取り付け位置がフェライト系ステンレス鋼管から5mm以上の場合、フェライト系ステンレス鋼管に腐食生成物が侵入しないことが分かる。
【0038】
以上、まとめると、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、部材に取り付けられるめっき鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、隙間構造部の隙間部に当たる面における金具部品のめっき付着量が20g/m
2以上150g/m
2以下であることを特徴とする自動車用給油管とすることにより、塗装を省略しても、隙間腐食を有効に防止することを可能にする。部材と金具部品との取り付けについては、両者が相互に電気伝導性を有する程度に固着していれば足りる。さらに、本発明を給油口部に適用する場合は、インレットパイプ(鋼管部材)の外面かつ端面から5mm以上離れた位置に金具部品を溶接すると好ましい。これにより、インレットパイプ内に腐食生成物の侵入を防止できるという効果をも発揮することができる。
【0039】
次に、上記本発明の自動車用給油管の製造方法について説明する。まず、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材へ、めっき付着量が20g/m
2以上150g/m
2以下のめっき鋼板から成型された金具部品を取り付ける。部材と金具部品との取り付けを溶接、ロウ付けあるいは塑性加工によって行うと好ましい。部材と金具部品との取り付け部近傍には隙間部が形成される。この隙間部は塩害環境に曝される場所に位置する。また、隙間部を含む部分を隙間構造部という。これにより、部材に取り付けられるめっき鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成する。めっきを付着した金具部品を部材に取り付けるので、取り付け部付近に形成される隙間部の当たる面における金具部品のめっき付着量が20g/m
2以上150g/m
2以下となる。 上記部材として鋼管を成型した鋼管部材を用いることにより、本発明の自動車用給油管として好適に用いることができる。
【0040】
次に、部材、鋼管部材の素材について説明する。ここで言う鋼管部材とは、内部に燃料ガスが充満するメインパイプ(インレットパイプ)やブリーザーチューブ等のパイプ形状の部材を意味する。また金具部品についても、下記で説明する素材を用いることとすると好ましい。
【0041】
本発明では、SUS436Lより合金元素含有量が少なく、廉価な素材であることに特長を持たせる。具体的には、以下の組成より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とする。オーステナイト系ステンレスを使用した場合、溶接部近傍では応力腐食割れが発生し、穴あきが助長されてしまうため、フェライト系ステンレスの適用が必須である。以下、含有量の%は質量%を意味する。
【0042】
C、N:CおよびNは、溶接熱影響部における粒界腐食の原因となる元素であり、耐食性を劣化させる。また、冷間加工性を劣化させる。このため、C、Nの含有量は可及的低レベルに制限すべきであり、C、Nの上限は0.015%とするのが望ましく、より望ましくは0.010%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、C:0.0010%、N:0.0050%とするのが良い。
【0043】
Cr:Crは加熱後耐食性を確保する基本的元素であり適量の含有が必須であり、Cr含有量の下限を13.0%とする必要がある。一方、加工性を劣化させる元素であることと合金コスト抑制の観点から上限含有量を18.0%に設定するのがよい。Cr含有量の好ましい範囲は13.0%〜17.5%であり、より好ましくは16.0%〜17.5%である。本発明においては、より低級な素材を追究する観点からは、Crは13.0%〜15.0%がよい。
【0044】
Ti、Nb:TiおよびNbはC、Nを炭窒化物として固定して粒界腐食を抑制する作用を有する。このため、TiとNbの一方又は両方を含有させるが、過剰に含有させても効果は飽和するため、各々の含有量の上限を0.30%とする。ここにおいて、TiとNbの少なくとも一方の含有量が0.03%以上であれば効果を発揮することができる。なお、Ti、Nbの適正含有量としては、両元素の合計量がC、N合計含有量の5倍量以上かつ30倍量以下がよい。好ましくは、Ti、Nb合計含有量がC、N合計含有量の10倍〜25倍とするのが良い。
【0045】
Si:Siは精錬工程における脱酸元素として有用であり0.01%を下限として含有させる。一方、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.80%に制限するのがよい。好ましい範囲は、0.10〜0.50%である。
【0046】
Mn:Mnも脱酸元素、S固定元素として0.01%以上を含有させるが、Mnも加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.80%に制限するのがよい。好ましい範囲は、0.10〜0.50%である。
【0047】
P:Pは加工性を著しく劣化させる元素であり不純物元素である。このため、Pの含有量は可及的低レベルが望ましい。許容可能な含有量の上限を0.050%とする。望ましいPの上限値は0.030%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、0.010%とするのが良い。
【0048】
S:Sは耐食性を劣化させる元素であり不純物元素である。このためSの含有量は可及的低レベルが望ましい。許容可能なS含有量の上限を0.010%とする。望ましいS含有量の上限値は0.0050%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、0.0005%とするのが良い。
【0049】
Mo:Moは不働態皮膜の補修に効果があり、耐発銹性と耐腐食進展性を向上させるのに非常に有効な元素で特にCrとの組み合わせで耐孔食性を向上させる効果がある。Moを増加させると耐食性は向上するが、加工性を低下させ、またコストが高くなるため、上限を1.5%とする。また、さらなるコスト低減の観点から、望ましくは0.005〜0.6%である。Moは含有しなくても良い。
【0050】
Al:Alは脱酸元素として有用であり、0.010%以上を含有させるが、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.100%に制限するのがよい。好ましくは、含有量の上限を0.080%とするのが良い。
【0051】
前記元素に加えて、鋼の諸特性を調整する目的で以下の合金元素が含有されていても良い。
【0052】
B:Bは2次加工脆化や熱間加工性劣化を防止するのに有用な元素であり、耐食性には影響を与えない元素である。このため0.0002%を下限としてBを含有させるが、0.0050%を超えるとかえって熱間加工性が劣化するので、上限を0.0050%とするのが良い。好ましくは、B含有量の上限を0.0020%とするのが良い。
【0053】
Sn:Snは微量の含有で耐食性を向上させるのに有用な元素であり、廉価性を損なわない範囲で含有させる。Sn含有量0.01%未満では耐食性向上効果は発現されず、0.50%を超えるとコスト増が顕在化すると共に加工性も低下するので、含有量0.01〜0.50%を適正範囲とする。好ましくは0.05%から0.30%とするのが良い。
【0054】
以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で下記の元素を含有させることができる。
【0055】
Cu、Ni:Cu、Niは腐食が進行した際の腐食速度を抑制する効果があり、0.01〜0.5%が望ましい。ただし過剰な添加は加工性を低減させるので望ましくは、0.01から0.3%である。
【0056】
Sb、Zr、Co、W:Sb、Zr、Co、Wも、耐食性を向上させるために必要に応じて添加させることができる。これらは腐食速度を抑制するのに重要な元素であるが、過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、その範囲をいずれも0.005〜0.5%とした。より望ましくは0.05〜0.4%である。
【0057】
V:Vは耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて添加することができる。ただしVの過度の添加は加工性を低下させる上、耐食性向上効果も飽和するため、Vの下限を0.03%、上限を0.5%とする。より望ましくは0.05〜0.30%である。
【0058】
Ga:Gaは耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.05%の範囲で含有させることができる。
【0059】
一般的な不純物元素である前述のP、Sを始め、Zn、Bi、Pb、Se、H、Ta、Ca、Mg、REM(希土類金属)、Hf、As等は可能な限り低減することが好ましい。これらの元素は、本発明の課題を解決する限度において、その含有割合が制御され、必要に応じて、Zn≦100ppm、Bi≦100ppm、Pb≦100ppm、Se≦100ppm、H≦100ppm、Ta≦500ppm、Ca≦120ppm、Mg≦120ppm、REM(希土類金属)≦500ppm、Hf≦500ppm、As≦500ppmの1種以上を含有する。なお、「ppm」は質量基準である。
【0060】
前記組成より成るステンレス鋼は、転炉や電気炉などで溶製、精錬された鋼片を熱間圧延、酸洗、冷延、焼鈍、仕上酸洗等を施す通常のステンレス鋼板の製造方法によって鋼板として製造され、さらに、この鋼板を素材として電気抵抗溶接、TIG溶接、レーザー溶接などの通常のステンレス鋼管の製造方法によって溶接管として製造される。
【0061】
このステンレス鋼管は、曲げ加工、拡管加工、絞り加工といった冷間での塑性加工やスポット溶接、プロジェクション溶接、MIG溶接、TIG溶接といった溶接やろう付け、あるいはボルトナットによる種々の金具の取り付けなどの通常の成型、組立工程を経て給油管に成型される。
【0062】
なお、金具部品の素材であるめっき鋼板としては、普通鋼板を用いることもできるが、より好ましくはステンレス鋼板を用いる。ステンレス鋼板としては、端面の発銹を抑制する観点から、Cr:10.5〜18.0%であり、Cr以外の成分については鋼管部材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であるのが望ましく、少なくとも鋼管部材よりも合金含有量が多い高耐食性材料である必要はない。
【0063】
金具部品の素材中に含有するCrは不働態皮膜の補修に効果があり、耐発銹性を向上させるのに非常に有効な元素である。めっきの素材として適用する場合、めっきによる防食効果が加わるため、めっきを有しないフェライト系ステンレス製部材に比べて下限値が小さく、10.5%以上必要である。しかしながら、過度の添加は、加工性を低下させ、コストが高くなるため、上限を18.0%とする。コストを考えた場合、望ましくは、10.5〜15.0%である。
【0064】
金具部品の素材中に含有するCr以外の成分含有量の限定理由については、前記鋼管部材の成分限定理由と同一である。
【0065】
犠牲防食を利用するには、めっき材料として被防食材料のステンレスよりも浸漬電位が卑である(低い)材料を採用する必要があり、浸漬電位の差が大きいほど犠牲防食効果は高い。しかしながら、浸漬電位の差が高いほど、犠牲防食材料の消耗速度が上昇し、耐食寿命が短くなる。入手性および寿命を考慮すると、Alめっき、Znめっき、Sn−Znめっきが好ましい。より好ましくは、Alめっきである。
【実施例】
【0066】
実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。まずは、ステンレス鋼の成分、めっき鋼板のめっき付着量について説明する。
【0067】
表1に示す組成のステンレス鋼を150kg真空溶解炉で溶製し、50kg鋼塊に鋳造した後、熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗の工程を通して板厚0.8mmの鋼板を作製した。この鋼板素材より、t0.8×70×150mmサイズの大板を採取した。大板は部材、又は鋼管部材(給油管本体)を模擬したものである。なお、表1の中で、No.a3、a5、a6、a8、a9、a11〜a14は、Si、Mn、P、A1、Cr、Mo、Ti、Nbが過多であり、a2、a4は脱酸不足のため、冷延時に耳割れが生じたため、加工性が不十分であると判断し、以後の耐食性試験には供していない。
【0068】
また、表2に示す組成のフェライト系ステンレス鋼、および普通鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗−溶融めっきの工程を通して板厚0.8mmのAlめっき鋼板、Sn−Znめっき鋼板、Znめっき鋼板を製造した。板厚0.8mmのめっき鋼板素材より、t0.8×40×40mmサイズの小板を採取した。小板は、金具部品を模擬したものである。
【0069】
大板の上に小板を重ねて、中央部に1点スポット溶接を施して隙間試験片を作製した。大板と小板が接して対面する部分が隙間部を構成する。
【0070】
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))の塩水噴霧を5%NaCl噴霧から2%NaClに変更した試験条件を用いた。試験期間は200サイクルとした。試験終了後、溶接ナゲットを穿孔して隙間試験片を解体し、除錆処理を施した後、大板の隙間部内部の腐食深さを顕微鏡焦点深度法によって測定した。1試験片あたり10点の測定を行い、その最大値をサンプルの代表値とした。満足すべき耐食性としては、最大腐食深さが板厚の1/2未満(400μm)であることを目標とした。なお、応力腐食割れが生じた試験片は、実際の腐食深さが表面から観察できないため、割れ部以外の部分の最大腐食深さを測定値としたが、割れによる進展速度が腐食による進展よりも早いためNGとした。
【0071】
試験水準と試験結果を表3に示す。表1、3において、本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
【0072】
【表1-1】
【表1-2】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
本発明例のNo.C1〜C37は何れも最大腐食深さが400μm以下であり良好であった。発明例No.C35〜C37は、金具部材が普通鋼であり、金具部品端面に赤さびが発生したが、最大浸食深さは400μm以下であった例である。参考例No.C29〜C34は、金具部材がフェライト系ステンレス鋼であり、最大浸食深さは400μm以下の必要特性を満たすが、素材のC、S、Nが多過およびCr不足のため、金具部品端面に赤さびが発生した例である。発明例No.C29〜C37のいずれも、隙間部内部の最大腐食深さは400μm以下であり、本発明の効果を発揮している。
【0076】
このような腐食試験においても、本発明No.C1〜C31は、めっきの犠牲防食作用によって満足すべき耐食性が得られた。
【0077】
一方、比較例No.c1は金具部品がめっきされておらず、また、c2はめっき付着量が不十分であるため、満足すべき耐食性が得られていない。c3はめっき付着量が多過であるが顕著な耐食性抑制効果は得られていない。また、比較例No.c4〜c7は、大板の組成がC、S、Nが多過およびCr不足のため、最大腐食深さが400μmを超えた。さらに、比較例No.c8は、大板がオーステナイト系ステンレスであるため、応力腐食割れを生じた。
【0078】
さらに、フェライト系ステンレス製鋼管部材へAlめっきステンレス鋼製金具部品への取り付け構造について
図4に基づいて説明する。
【0079】
表1のA23に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を150kg真空溶解炉で溶製し、50kg鋼塊に鋳造した後、熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗の工程を通して板厚0.8mmの鋼板を作製した。この鋼板素材より、φ50×50×t0.8mmサイズの鋼管をシーム溶接により、フェライト系ステンレス製鋼管21を作製した。フェライト系ステンレス製鋼管21は、インレットパイプを模擬したものである。また、表2のB18に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗−溶融Alめっきの工程を通して板厚0.8mmのAlめっきステンレス鋼板を製造した。Alめっき付着量は49g/cm
2とした。このAlめっきステンレス鋼板素材より、φ48×50×t0.8mmおよびφ52×50×t0.8mmサイズの部品を打ち抜き加工とプレス成型により、Alめっきステンレス製鋼管22を作製した。Alめっきステンレス製鋼管22は、金具部品を模擬したものである。
【0080】
作製した3種類の鋼管を
図4のように、フェライト系ステンレス製鋼管21の外部および内部にAlめっきステンレス製鋼管22をフェライト系ステンレス製鋼管21の端部26から0〜20mmの位置の外周に沿った取り付け位置27において4点のスポット溶接(溶接部24)により隙間付き試験片を作製した。フェライト系ステンレス製鋼管21とAlめっきステンレス製鋼管22が接して対面する部分が隙間部23を構成する。
【0081】
フェライト系ステンレス製鋼管21の隙間部内部についてはステンレス鋼の素地が露出しており、Alめっきステンレス製鋼管22の隙間部内部についてはAlめっき膜が露出した状況である。
【0082】
これら隙間試験片に
図4に示すように鋼管の上下2カ所にシリコン栓25にて内部を密閉し、45°に傾けた姿勢で塩害腐食性試験に供した。塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))の塩水噴霧を5%NaCl噴霧から2%NaClに変更した試験条件を用いた。試験期間は200サイクルとした。試験終了後、シリコン栓を外し、フェライト系ステンレス製鋼管内部へのAl腐食生成物の侵入の有無を確認した。
【0083】
試験水準と試験結果を表4に示す。いずれの試験片もフェライト系ステンレス鋼管に穴あきは見られなかった。即ち、表4に示すすべての本発明例、参考例ともに、本発明の効果を発揮している。
【0084】
【表4】
【0085】
本発明例のNo.a〜dは、構造Iかつ取り付け位置27がフェライト系ステンレス鋼管の端部26から5mm以上であり、何れもフェライト系ステンレス製鋼管内部へAlの腐食生成物の侵入が確認できなかった。
【0086】
No.1a、1b(参考例)は構造Iだが取り付け位置27がフェライト系ステンレス鋼管の端部26から5mm未満であり、液だまりにより、鋼管の端面が腐食し、端部とシリコン栓との隙間からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。比較例1c〜1gは構造IIであり、消耗したAlめっき部からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。
【0087】
このような腐食試験において、本発明No.a〜dは、めっきの犠牲防食作用によって満足すべき耐食性が得られ、フェライト系ステンレス鋼管内へのAl腐食生成物の侵入がないことを確認できた。