特許第6598573号(P6598573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598573新規なベンゾインデノフルオレノピラン類及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598573
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】新規なベンゾインデノフルオレノピラン類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/02 20060101AFI20191021BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20191021BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20191021BHJP
【FI】
   C09K9/02 B
   C07C39/17CSP
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-159615(P2015-159615)
(22)【出願日】2015年8月12日
(65)【公開番号】特開2017-36248(P2017-36248A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】竒藤 玄
(72)【発明者】
【氏名】萩原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】曽我 真一
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−535971(JP,A)
【文献】 特表2008−537762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
[式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基又はハロゲン原子を表し、a及びbは1〜5の整数を表し、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアリール基を表す。]
で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類を含む、発色濃度や消色速度の面において優れた発色特性を有し、良好な退色速度が維持されているフォトクロミック材料。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】
[式(2)中、R、R、R、R、R、R、a及びbはそれぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類を含む、請求項1記載のフォトクロミック材料。
【請求項3】
下記一般式(3)
【化3】
[式(3)中、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアリール基を表す。]
で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン類であって、請求項1記載のベンゾインデノフルオレノピラン類を製造するための材料。
【請求項4】
下記一般式(4)
【化4】
[式(4)中、R、R、R及びRは、それぞれ前記式(3)と同じ。]
で示される請求項3記載のヒドロキシベンゾインデノフルオレン類であって、請求項1記載のベンゾインデノフルオレノピラン類を製造するための材料。
【請求項5】
下記一般式(1)
【化1】
[式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表し、a及びbは1〜5の整数を表し、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアリール基を表す。]
で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類を製造する方法であって、
下記一般式(6)
【化5】
[式(6)中、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるブロモベンゾインデノフルオレン誘導体を、
遷移金属触媒存在下、アルカリ金属tert−ブトキシドと反応させて、
下記一般式(7)
【化6】
[式(7)中、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、前記式(1)と同じ。]
で示されるtert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体(7)を得た後、
tert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体(7)と、酸性化合物と、を反応させ、下記一般式(3)
【化3】
[式(3)中、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン類を得、
さらに酸触媒存在下、ヒドロキシベンゾインデノフルオレン類と、下記一般式(5)
【化7】
[式(5)中、R、R、a及びbは、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるプロパルギルアルコール誘導体(1,1−ビス(4−メトキシフェニル)プロピ−2−イル−1−オル)と、を反応させる、ベンゾインデノフルオレノピラン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック特性を有する新規なベンゾインデノフルオレノピラン類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、一つの分子が光を受けると化学結合を組み換え、電子状態の異なる異性体へ可逆的に変換する現象であり、この特性を有するものをフォトクロミック化合物と呼ぶ。フォトクロミック化合物はその特性から調光材料や記録材料としての展開が進んでいる。その際、発色時の着色濃度、着色後の退色速度、繰り返し耐久性などの性質が重要とされる。
【0003】
フォトクロミック化合物としては、アゾベンゼン類、スピロピラン類、ナフトピラン類、フルギド類やジアリールエテン類等、数多くの化合物が知られ、特性によって様々な材料に使用される(例えば、非特許文献1参照)。
中でも、ナフトピラン類は、着消色の繰返し耐久性が高いことや消色速度が速いことから、調光材料として主にサングラス等のレンズに使用される。
【0004】
ナフトピラン類の製造方法としてはナフトール類とプロパルギルアルコール誘導体の縮合反応が知られている。そのため、ナフトール類の骨格によってフォトクロミック特性を変化させることができ、近年ではインデノナフトール由来のナフトピラン類が優れた特性を持つことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、発色濃度や消色速度といった面で改良の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−535971号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高分子学会編集、「フォトクロミズム」、協立出版、2012年5月10日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、発色濃度や消色速度の面において優れた発色特性を有する、特に従来の退色速度を維持したまま高い発色濃度を示す、新規なベンゾインデノフルオレノピラン類、及びその製造方法を提供することにある。
さらに本発明の目的は、新規なベンゾインデノフルオレノピラン類を製造するための有用な中間体である新規ヒドロキシベンゾインデノフルオレン類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討した結果、新規なベンゾインデノフルオレノピラン類が良好な退色速度を維持しつつ、発色濃度を向上させるフォトクロミック化合物であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表し、a及びbは1〜5の整数を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアリール基を表す。]
で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類を、さらに下記一般式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
[式(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、a及びbは、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類を提供するものである。
本発明はさらに、本発明化合物である上記一般式(1)を製造する際に、反応中間体として有用な下記一般式(3)
【0013】
【化3】
【0014】
[式(3)中、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン類を、さらに下記一般式(4)
【0015】
【化4】
【0016】
[式(4)中、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン類を提供するものである。
さらに本発明は、下記一般式(1)
【0017】
【化1】
【0018】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表し、a及びbは1〜5の整数を表し、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアリール基を表す。]
で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類を製造する方法であって、
下記一般式(6)
【0019】
【化5】
【0020】
[式(6)中、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるブロモベンゾインデノフルオレン誘導体(6)を、
遷移金属触媒存在下、アルカリ金属tert−ブトキシドと反応させて、
下記一般式(7)
【0021】
【化6】
【0022】
[式(7)中、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、前記式(1)と同じ。]
で示されるtert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体(7)を得た後、
tert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体(7)と、酸性化合物と、を反応させ、下記一般式(3)
【0023】
【化3】
【0024】
[式(3)中、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン類を得、
さらに酸触媒存在下、ヒドロキシベンゾインデノフルオレン類と、下記一般式(5)
【0025】
【化7】
【0026】
[式(5)中、R1及びR2は、それぞれ前記式(1)と同じ。]
で示されるプロパルギルアルコール誘導体と、を反応させる、ベンゾインデノフルオレノピラン類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明のベンゾインデノフルオレノピラン類は、溶液中において紫外光を照射することにより直ちに発色し、照射を停止すると無色へ戻る。この際、対応するインデノナフトピラン類と比較して、従来の退色速度を維持したまま高い発色濃度を示す。このような特性により、フォトクロミック特性の向上した新規なベンゾインデノフルオレノピラン類を提供でき、産業上有益である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一般式(1)で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類において、一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。また、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアリール基を表す。
【0029】
これらの内、R1〜R16のいずれかまたは全部が「炭素数3〜6の直鎖状若しくは分岐状若しくは環状のアルキル基」である場合としては、特に限定するものではないが、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0030】
アルコキシ基としては、特に限定するものではないが、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
【0031】
アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、o−キシリル基などが挙げられる。
<ベンゾインデノフルオレノピラン類の製造方法>
一般式(1)で示されるフォトクロミック化合物は、特に限定するものではないが、ブロモベンゾインデノフルオレン誘導体(6)から以下に示す工程にて製造することが可能である。即ち、工程1(tert−ブトキシ化工程)、工程2(ヒドロキシル化工程)及び工程3(縮合工程)の実施により、該フォトクロミック化合物を合成できる。
【0032】
(工程1:tert−ブトキシ化工程)
一般式(7)で示されるtert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体は一般式(6)で示されるブロモベンゾインデノフルオレン誘導体を遷移金属触媒の存在下、アルカリ金属tert−ブトキシドと反応させることによって製造することができる。
本発明にかかる反応において、アルカリ金属tert−ブトキシドとしては、リチウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドが用いられ、その使用量は、特に制限するものではないが、通常、ブロモベンゾインデノフルオレン誘導体に対して1.0モル当量〜3.0モル当量が好ましく、さらに好ましくは1.5モル当量〜2.0モル当量である。
【0033】
本発明にかかる反応において、遷移金属触媒を構成する遷移金属化合物としては、パラジウム化合物やニッケル化合物や銅化合物または鉄化合物であればよく、例えば、ヘキサクロロパラジウム酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロテトラアンミンパラジウム、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム、パラジウムトリフルオロアセテート、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ニッケルアセチルアセトナート、塩化ニッケル、銅アセチルアセトナート、塩化銅、鉄アセチルアセトナート、塩化鉄等が挙げられる。また、この遷移金属化合物は、各種配位子を併用してもよく、配位子の添加方法としては、遷移金属化合物と配位子を予め系外で反応させてから添加する方法でも、反応系に遷移金属化合物と配位子を添加し、系内で調製する方法でもよい。
【0034】
遷移金属化合物の添加量は、ブロモベンゾインデノフルオレン誘導体(6)に対して、0.01モル%〜100モル%の範囲が好ましい。さらに好ましくは、0.1モル%〜5モル%の範囲である。
配位子としては、遷移金属化合物に配位するものであれば何でもよく、ホスフィン化合物、窒素系化合物、オレフィン系化合物等が挙げられる。例えば、トリエチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィンなどのアルキルホスフィン類や、トリフェニルホスフィン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[dppf]、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ザンテン[Xantphos]などのアリールホスフィン類、そのほか1,5−シクロオクタジエン〔COD〕、2,2‘−ビピリジル等が挙げられる。また、それら配位子は塩の状態で添加してもよい。
【0035】
配位子の添加量は、遷移金属化合物に対して、0.01モル当量〜100モル当量の範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1モル当量〜15モル当量の範囲である。
本発明にかかる反応において、反応温度としては、80℃〜140℃が好ましく、さらに好ましくは100℃〜120℃である。
本発明にかかる反応において、反応時間としては、基質の種類及び反応温度の違いにより異なるため、特に限定するものではないが、通常、1時間〜24時間の範囲内で反応は完結できる。
【0036】
生成したtert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体は、一般に公知の精製手法を用いることができ、例えば、分液操作で有機層を分離し、得られた有機層を水または食塩水またはアルカリ水溶液等で洗浄した後、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離精製することができる。
(工程2:ヒドロキシル化工程)
一般式(3)で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン誘導体は一般式(7)で示されるtert−ブトキシベンゾインデノフルオレン誘導体を酸性化合物と反応させることによって製造することができる。
【0037】
本発明にかかる反応において、酸性化合物としては例えば濃硫酸、リン酸、酸性アルミナ等が用いられ、その使用量は、特に制限するものではないが、ヒドロキシベンゾインデノフルオレン誘導体に対して1.0モル当量〜20.0モル当量が好ましく、さらに好ましくは5.0モル当量〜10.0モル当量である。
本発明にかかる反応において、反応温度としては、15℃〜50℃が好ましく、さらに好ましくは20℃〜35℃である。
【0038】
本発明にかかる反応において、反応時間としては、基質の種類及び反応温度の違いにより異なるため、特に限定するものではないが、通常、1時間〜12時間の範囲内で反応は完結できる。
生成したヒドロキシベンゾインデノフルオレン誘導体は、一般に公知の精製手法を用いることができ、例えば、分液操作で有機層を分離し、得られた有機層を水または食塩水またはアルカリ水溶液等で洗浄した後、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離精製することができる。
【0039】
(工程3:縮合工程)
一般式(1)で示されるベンゾインデノフルオレノピラン類は一般式(3)で示されるヒドロキシベンゾインデノフルオレン類と一般式(5)で示されるプロパルギルアルコール誘導体を酸触媒の存在下にて反応させることによって製造することができる。
本発明にかかる反応において、プロパルギルアルコール誘導体の使用量は、特に制限するものではないが、通常、ヒドロキシベンゾインデノフルオレン誘導体に対して0.8モル当量〜2.0モル当量が好ましく、さらに好ましくは1.0モル当量〜1.2モル当量である。
【0040】
本発明にかかる反応において、酸触媒としては例えば硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酸性アルミナ等が用いられ、その使用量は、特に制限するものではないが、ヒドロキシベンゾインデノフルオレン誘導体に対して1.0モル%〜5.0モル%が好ましく、さらに好ましくは3.0モル%〜4.0モル%である。
本発明にかかる反応において、反応温度としては、80℃〜110℃が好ましく、さらに好ましくは100℃〜110℃である。
【0041】
本発明にかかる反応において、反応時間としては、基質の種類及び反応温度の違いにより異なるため、特に限定するものではないが、通常、3時間〜24時間の範囲内で反応は完結できる。
生成したベンゾインデノフルオレノピラン類は、一般に公知の精製手法を用いることができ、例えば、分液操作で有機層を分離し、得られた有機層を水または食塩水またはアルカリ水溶液等で洗浄した後、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離精製することができる。
【0042】
本発明のベンゾインデノフルオレノピラン類は、フォトクロミズムの特性を有しており、溶媒中において高い発色濃度を示し、トルエン、クロロホルム、アセトン等の一般的な有機溶媒の使用が可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、生成物の分析はいずれもプロトン核磁気共鳴スペクトル(以下、「1H NMR分析」という)によって行った。
装置:日本電子株式会社製 EX―270(270 MHz for 1H)
【0044】
実施例1
<手順1>
二ロナスフラスコに酢酸パラジウム(II)(5.4mg,0.024mmol)、トリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(20.9mg,0.072mmol)及び5−ブロモ−7,7,13,13−テトラメチル−7H,13H−ベンゾ[g]インデノ[3,2−b]フルオレン(527mg,1.2mmol),ナトリウム−tert−ブトキシド(231mg,2.4mmol)を入れて窒素置換をした後にo−キシレン(12mL)を加え、120℃で12時間撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)で確認し、反応終了確認後、水により反応を停止させ、酢酸エチルを用いて抽出を行った。抽出した有機層は硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1)によって単離精製し、494mg(収率:95%)の5−tert−ブトキシ−7,7,13,13−テトラメチル−7H,13H−ベンゾ[g]インデノ[3,2−b]フルオレンを黄色の固体として得た。生成物は1HNMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.54(s,9H),1.62(s,6H),1.65(s,6H),7.26(s,1H),7.35(q,J=7.6Hz,2H),7.45(dd,J=7.6,165 Hz,2H),7.74(t,J=7.6Hz,1H),7.78(d,J=7.3 Hz,lH),7.82(s,1H),8.62(s,1H),8.37(d,J=8.6 Hz,1H),8.76(d,J =8.6 Hz,1H)
【0045】
<手順2>
バイアル管に5−tert−ブトキシ−7,7,13,13−テトラメチル−7H,13H−ベンゾ[g]インデノ[3,2−b]フルオレン(130mg,0.30mmol)を入れ、テトラヒドロフラン(2.0mL)を加え、濃硫酸(0.16mL,3.0mmol)を滴下して室温で3時間撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン/酢酸エチル=9/1)で確認し、反応終了確認後、20%水酸化ナトリウム水溶液で反応を停止させて酢酸エチルを用いて抽出を行った。抽出した有機層は硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=9/1to4/1)によって単離精製して、95mg(84%)の5−ヒドロキシ−7,7,13,13−テトラメチル−7H,13H−ベンゾ[g]インデノ[3,2−b]フルオレン(8)を薄赤色の固体として得た。生成物は1H NMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.43(s,6H),1.49(s,6H),7.04(s,1H),7.19(quin,J=7.2Hz,2H),7.39(t,J=7.6Hz,2H),7.55(t,J=7.6Hz,1H),7.71(d,J=6.8Hz,1H),7.88(s,1H),8.26(d,J=8.4Hz,1H),8.32(s,1H),8.78(d,J=8.6Hz,1H),9.11(br,1H)
【0046】
【化8】
【0047】
【化9】
【0048】
<手順3>
バイアル管に5−ヒドロキシ−7,7,13,13−テトラメチル−7H,13H−ベンゾ[g]インデノ[3,2−b]フルオレン(8)(50mg,0.13mmol)、1,1−ビス(4−メトキシフェニル)プロピ−2−イル−1−オル(9)(35mg,0.13mmol)、p−トルエンスルホン酸1水和物(1.0mg,0.0053mmol)を入れ、テフロン(登録商標)製セプタムキャップで密閉して窒素置換をしてトルエン(1.3mL)を加えた後、0℃で12時間撹拌した。反応の進行をTLC(ヘキサン/酢酸エチル=9/1)で確認し、反応終了確認後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させ、酢酸エチルを用いて抽出を行った。抽出した有機層は硫酸マグネシウムにて乾燥し、濾過後、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1〜9/1)によって単離精製して64mg(77%)の3,3−ジ(4−メトキシフェニル)−10,10,16,16−テトラメチル−3H,10H,16H−ベンゾ[3,4]インデノ[2',3’:6,7]フルオレノ[1,2−b]ピラン(10)を深緑色の固体として得た。生成物は1H NMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.59(s,6H),1.72(s,6H),3.75(s,6H),6.23(d,J=10.0Hz,1H),6.82(d,J=8.6Hz,1H),7.25−7.35(m,3H),7.44(d,J=8.6Hz,5H),7.51(d,J=7.6Hz,1H),7.63(t,J=7.6Hz),7.75−7.77(m,2H),8.19(s,1H),8.46(d,J=8.1Hz,1H),8.71(d,J=8.1Hz,1H)
【0049】
【化10】
【0050】
実施例2
実施例1における<手順3>の基質である、1,1−ビス(4−メトキシフェニル)プロピ−2−イル−1−オル(9)(35mg,0.13mmol)(プロパルギルアルコール誘導体)を下記1,1−ビスフェニルプロピ−2−イル−1−オル(11)(27mg,0.13mmol)に変更した以外は、実施例1と同じ条件下で反応を行った。
【0051】
【化11】
【0052】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1〜9/1)によって単離精製して38mg(収率:51%)の3,3−ジフェニル−10,10,16,16−テトラメチル−3H,10H,16H−ベンゾ[3,4]インデノ[2',3’:6,7]フルオレノ[1,2−b]ピラン(12)を黄色の固体として得た。
【0053】
生成物は1H NMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.59(s,6H),1.72(s,6H),6.30(d,J=10.0Hz,1H),7.20−7.70(m,9H),7.45(d,J=14.9Hz,1H),7.53−7.62(m,5H),7.64(t,J=7.4Hz),7.75−7.77(m,2H),8.19(s,1H),8.51(d,J=8.1Hz),8.72(d,J=8.6Hz)
【0054】
【化12】
【0055】
実施例3
実施例1における<手順3>の基質である、1,1−ビス(4−メトキシフェニル)プロピ−2−イル−1−オル(9)(35mg,0.13mmol)(プロパルギルアルコール誘導体)を1,1−ビス(4−フルオロフェニル)プロピ−2−イル−1−オル(13)(32mg,0.13mmol)に変更した以外は、実施例1と同じ条件下で反応を行った。
【0056】
【化13】
【0057】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1〜9/1)によって単離精製して66mg(収率:84%)の3,3−ジ(4−フルオロフェニル)−10,10,16,16−テトラメチル−3H,10H,16H−ベンゾ[3,4]インデノ[2',3’:6,7]フルオレノ[1,2−b]ピラン(14)を黄色の固体として得た。
【0058】
生成物は1H NMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.59(s,6H),1.71(s,6H),6.21(d,J=10.0Hz,1H),6.99(t,J= 8.6Hz,4H),7.30−7.38(m,3H),7.44−7.56(m,6H),7.67(t,J=7.7Hz,1H),7.76−7.78(m,2H),8.20(s,1H),8.43(d,J=8.1Hz,1H),8.73(d,J=8.4Hz,1H)
【0059】
【化14】
【0060】
実施例4
実施例1における<手順3>の基質である、1,1−ビス(4−メトキシフェニル)プロピ−2−イル−1−オル(9)(35mg,0.13mmol)(プロパルギルアルコール誘導体)を下記1,1−ビス(4−tert−ブチルフェニル)プロピ−2−イル−1−オル(15)(40mg,0.13mmol)に変更した以外は、実施例1と同じ条件下で反応を行った。
【0061】
【化15】
【0062】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1〜9/1)によって単離精製して67mg(収率:76%)の3,3−ジ(4−tert−ブチルフェニル)−10,10,16,16−テトラメチル−3H,10H,16H−ベンゾ[3,4]インデノ[2',3’:6,7]フルオレノ[1,2−b]ピラン(16)を黄色の固体として得た。
【0063】
生成物は1H NMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.27(s,18H),1.59(s,3H),1.72(s,3H),6.23(d,J=10.3Hz,1H),7.30−7.38(m,7H),7.45(d,J=8.4Hz,5H),7.53(d,J=7.8Hz,1H),7.66(t,J=7.3Hz,1H),7.75−7.77(m,2H),8.20(s,1H),8.52(d,J=8.1Hz,1H),8.72(d,J=8.6Hz,1H)
【0064】
【化16】
【0065】
比較例1
実施例1における<手順3>の基質である、5−ヒドロキシ−7,7,13,13−テトラメチル−7H,13H−ベンゾ[g]インデノ[3,2−b]フルオレン(8)(50mg,0.13mmol)(ヒドロキシフルオレン誘導体)を下記5−ヒドロキシ−7,7−ジメチル−7H−ベンゾ[c]フルオレン(17)(34mg,0.13mmol)に変更した以外は、実施例1と同じ条件下で反応を行った。
【0066】
【化17】
【0067】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=19/1〜9/1)によって単離精製して54mg(収率:82%)の3,3−ジ(4−メトキシフェニル)−13,13−ジメチル−3H,13H−インデノ[2',3’:3,4]ナフト[1,2−b]ピラン(18)を深紫色の固体として得た。
生成物は1H NMR分析によって確認した。
1H NMR:δ1.67(s,6H),3.77(s,6H),6.30(d,J=10.0Hz,1H),6.85−6.88(m,4H),7.30−7.55(m,9H),7.63(dt,J=1.2Hz,8.0Hz,1H),8.22(d,J=8.0Hz,1H),8.46(d,J=8.4Hz,1H),8.67(d,J=8.4Hz,1H)
【0068】
【化18】
【0069】
以上の実施例、比較例の結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
<フォトクロミック特性の評価>
実施例1〜4及び比較例1で得られた化合物をクロロホルムに溶解させ、0.05mMの濃度に調製し、この溶液を光路長1mmの石英セルに入れて試料とした。これにオプトコード株式会社製のUVライトを60秒間照射し発色させ、株式会社島津製作所製の分光光度計(紫外可視近赤外分光光度計UV−3100)により、前記試料の可視光領域(400nm〜750nm)における極大吸収波長(λmax)を測定した。
【0072】
その後、前記極大吸収波長においてUVライトを60秒間照射した後の吸光度(ABS)及び退色速度を測定し、その吸光度よりモル吸光係数を算出した。
退色速度(T1/2)とはUVライトの照射を止めたときに、試料の前記極大吸収波長において最も高い吸光度の2分の1に達するまでの時間を秒で表すものである。
以上の結果を表2に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2のデータは、本発明の実施例が対応する比較例に対して、一定の退色速度を保ちつつ発色濃度を向上させていることを示す。