(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598587
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】超音波診断装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-165369(P2015-165369)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-42248(P2017-42248A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆士
(72)【発明者】
【氏名】亀和田 靖
【審査官】
奥田 雄介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0215892(US,A1)
【文献】
特開平03−155844(JP,A)
【文献】
特開2012−019804(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/089221(WO,A1)
【文献】
特開2007−313199(JP,A)
【文献】
特表2006−504931(JP,A)
【文献】
特開2005−198761(JP,A)
【文献】
特開2010−000198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に封入される音響放射部と、前記液体を攪拌する攪拌機構とを有するプローブと、
前記液体を攪拌するタイミングを決定する決定手段と、
前記決定されたタイミングで前記攪拌機構を駆動して前記液体を攪拌させる制御手段と
を具備し、
前記攪拌機構は、前記音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構であり、
前記制御手段は、モニタに表示される領域に対応する角度よりも広い、モニタに表示されない領域に対応する角度を含む角度まで前記音響放射部を揺動させることを特徴とする、超音波診断装置。
【請求項2】
液体中に封入される音響放射部と、前記液体を攪拌する攪拌機構とを有するプローブと、
前記液体を攪拌するタイミングを決定する決定手段と、
前記決定されたタイミングで前記攪拌機構を駆動して前記液体を攪拌させる制御手段と
を具備し、
前記攪拌機構は、前記音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構であり、
前記制御手段は、スキャン領域に対応する角度よりも広い、スキャンをしない領域に対応する角度を含む角度まで前記音響放射部を揺動させることを特徴とする、超音波診断装置。
【請求項3】
液体中に封入される音響放射部と、前記液体を攪拌する攪拌機構とを有するプローブと、
前記液体を攪拌するタイミングを決定する決定手段と、
前記決定されたタイミングで前記攪拌機構を駆動して前記液体を攪拌させる制御手段と
を具備し、
前記攪拌機構は、前記音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構であり、
前記制御手段は、前記プローブの温度が規定値を超過したことを契機として、前記音響放射部を揺動させる角度を広げることを特徴とする、超音波診断装置。
【請求項4】
さらに、診断の時間的な間隙を検出する検出手段を具備し、
前記決定手段は、前記検出された間隙を前記タイミングとして決定することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
電源投入直後の所定期間を時間的な間隙として検出する検出手段を具備し、
前記決定手段は、前記検出された間隙を前記タイミングとして決定することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
さらに、前記プローブの動きを検出する動きセンサを具備し、
前記検出手段は、前記動きセンサにより前記プローブの停止を検知された状態が既定時間以上継続した後の所定期間を前記間隙として検出することを特徴とする、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
さらに、ユーザの操作を受け付けるユーザインタフェースを具備し、
前記検出手段は、前記ユーザインタフェースへのユーザの操作の無い状態が既定時間以上継続した後の所定期間を前記間隙として検出することを特徴とする、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
さらに、ユーザの操作を受け付けるユーザインタフェースを具備し、
前記検出手段は、前記ユーザインタフェースを介してフリーズ状態への移行を指示された後の所定期間を前記間隙として検出することを特徴とする、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
さらに、前記プローブを介して収集された音響データを処理して超音波画像を作成する作成手段と、
前記超音波画像の特徴に基づいて前記プローブの空中放置を検知する検知手段とを具備し、
前記検出手段は、前記検知手段により前記空中放置の検知された状態が既定時間以上継続した後の所定期間を前記間隙として検出することを特徴とする、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
さらに、前記プローブの温度を検出する温度センサを具備し、
前記決定手段は、前記検出された温度に基づいて前記タイミングを決定することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
さらに、前記攪拌機構が駆動中であることをユーザに報知する報知手段を具備することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記音響放射部の揺動角度および揺動速度の少なくともいずれか一方を最大にして前記液体を攪拌することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記スキャンをしない領域において、前記スキャン領域よりも速い速度で前記音響放射部を揺動させることを特徴とする、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
磁気を帯びた攪拌子を変動電磁場により非接触で運動させる非接触型攪拌機構をさらに具備する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項15】
超音波診断に用いられるコンピュータにより実行されるプログラムであって、
液体中に封入される音響放射部と前記液体を攪拌する攪拌機構とを有するプローブの、前記液体を攪拌するタイミングを決定する決定手段、および
前記決定されたタイミングで前記攪拌機構を駆動して前記液体を攪拌させる制御手段、として前記コンピュータを動作させ、
前記攪拌機構は、前記音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構であり、
前記制御手段は、モニタに表示される領域に対応する角度よりも広い、モニタに表示されない領域に対応する角度を含む角度まで前記音響放射部を揺動させることを特徴とするプログラム。
【請求項16】
超音波診断に用いられるコンピュータにより実行されるプログラムであって、
液体中に封入される音響放射部と前記液体を攪拌する攪拌機構とを有するプローブの、前記液体を攪拌するタイミングを決定する決定手段、および
前記決定されたタイミングで前記攪拌機構を駆動して前記液体を攪拌させる制御手段、として前記コンピュータを動作させ、
前記攪拌機構は、前記音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構であり、
前記制御手段は、スキャン領域に対応する角度よりも広い、スキャンをしない領域に対応する角度を含む角度まで前記音響放射部を揺動させることを特徴とするプログラム。
【請求項17】
超音波診断に用いられるコンピュータにより実行されるプログラムであって、
液体中に封入される音響放射部と前記液体を攪拌する攪拌機構とを有するプローブの、前記液体を攪拌するタイミングを決定する決定手段、および
前記決定されたタイミングで前記攪拌機構を駆動して前記液体を攪拌させる制御手段、として前記コンピュータを動作させ、
前記攪拌機構は、前記音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構であり、
前記制御手段は、前記プローブの温度が規定値を超過したことを契機として、前記音響放射部を揺動させる角度を広げることを特徴とするプログラム。
【請求項18】
さらに、診断の時間的な間隙を検出する検出手段として前記コンピュータを動作させ、
前記決定手段は、前記検出された間隙を前記タイミングとして決定することを特徴とする、請求項15乃至17のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項19】
さらに、前記プローブを介して収集された音響データを処理して超音波画像を作成する作成手段、および
前記超音波画像の特徴に基づいて前記プローブの空中放置を検知する検知手段、
として前記コンピュータを動作させ
前記検出手段は、前記空中放置の検知された状態が既定時間以上継続した後の所定期間を前記間隙として検出することを特徴とする、請求項18に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置と、超音波診断装置を制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、被検体の体内を非侵襲に、かつ放射線被ばく無しで画像化することができるので、健康な人、病気やけがをしている人、あるいは妊婦などを診断するのに広く用いられている。X線、CT、MRIなどの他の診断機器に比べて格段に小さいので、超音波診断装置をベッドサイドに移動して患者を検査することも容易である。
【0003】
超音波診断装置は、被検体に当接して超音波を送受信する超音波プローブ(プローブ)と、画像処理部などを備える本体とを備える。近年では専用のソフトウェアをインストールしたパーソナルコンピュータにプローブを接続した形態の装置や、主要な機能をプローブに一体化した形態の装置も知られている。
【0004】
プローブは、1次元アレイ状に配列される複数の超音波振動子(音響放射部)を備える。各振動子を既定のパターンで動作させると超音波ビームが電子的にスキャンされ、被検体の特定の断面の2次元断層画像を得ることができる。近年では音響放射部を機械的に揺動させる(メカニカルスキャン)ことで被検体内部を空間的にスキャンし、3次元の生体情報(ボリュームデータ)を収集することも可能になってきている。
【0005】
音響放射部は超音波エネルギーの漏れ出しにより熱を発生するので、これを放置するとプローブの温度が上がりすぎて被検体を火傷させる虞がある。そこで、音響放射部を熱容量の大きい液体(オイルなど)に封入し、液体を物理的に攪拌することで熱の滞留を防止するという技術がある。音響放射部を揺動させると液体は攪拌されるし、あるいは別途設けたかき混ぜ機構で液体を攪拌しても良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-321377号公報
【特許文献2】特開2003-93387号公報
【特許文献3】特開2005-21475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メカニカルスキャンは被検体内の3次元ボリュームデータを得るだけでなく、プローブ温度の過度の上昇を防止するためにも役立っている。しかしながらこのことを積極的に利用した技術は知られていない。つまり液体は、3次元スキャンのついでに、予期せぬ結果として攪拌されるに留まっており、例えばボリュームデータの不要な検査プロトコルでは攪拌されることが無い。このためプローブの温度が上がりすぎないようにするためには診断を中断したり、超音波の放射エネルギーを抑制せざるを得ないので、診断効率が悪化したり、画像の分解能が低下したりする。プローブの温度を効果的に管理して診断能の低下を防止し得る技術が要望されている。
【0008】
目的は、プローブの温度を効果的に管理できるようにし、これにより診断能の向上を図り得る超音波診断装置およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、超音波診断装置は、プローブと、決定手段と、制御手段とを具備する。プローブは、液体中に封入される音響放射部と、液体を攪拌する攪拌機構とを有する。決定手段は、液体を攪拌するタイミングを決定する。制御手段は、決定されたタイミングで攪拌機構を駆動して液体を攪拌させる。
攪拌機構は、音響放射部を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構である。制御手段は、モニタに表示される領域に対応する角度よりも広い、モニタに表示されない領域に対応する角度を含む角度まで前記音響放射部を揺動させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される本体100およびプローブ10の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、プローブ10の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る超音波診断装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図4のステップS8においてモニタ62に表示されるメッセージの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4のステップS2における振動子部11の揺動の一例を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、
図4のステップS2における振動子部11の揺動の他の例を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、振動子部11の揺動角度および揺動速度と冷却効果との関係を示す模式図である。
【
図9】
図9は、振動子部11の揺動による冷却効果を定量的に示す実験結果の一例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、例えば温度が飽和している状態のプローブにおける熱分布の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、
図10に示される状態から振動子部11を揺動させた状態でのプローブの熱分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置の一例を示す斜視図である。
図1に示される超音波診断装置は、本体100と、本体100に接続されるプローブ(超音波プローブ)10と、表示部60とを備える。本体100はCPU(Central Processing Unit)およびメモリを備える、いわゆるコンピュータである。専用のプログラムを、コンピュータとしての本体100にあらかじめエンベデッドに組み込むか、CD−ROMなどのメディアを用いてインストールすることで超音波診断装置の諸機能を実現することが可能である。
【0012】
図2は、
図1に示される本体100およびプローブ10の一例を示す機能ブロック図である。プローブ10は、振動子部11、揺動部12、加速度センサ13および温度センサ14を備える。振動子部11は、液体を満たした空洞状の封入部15に封入される。液体としてはオイルなどの熱容量(比熱)の大きい物質が好ましい。
【0013】
振動子部11は、被検体Pに超音波を放射しそのエコーを受信する。揺動部12は、振動子部11を機械的に揺動させるメカニカルスキャン機構である。加速度センサ13はプローブ10の加速度、すなわちプローブ10の動きを検出する。温度センサ14はプローブ10の温度を検出する。
【0014】
本体100は、温度検知部16、加速度検知部17、送受信部20、信号処理部30、画像データ生成部31、スピーカ40、メモリ50、表示部60、操作部70および処理回路80を備える。温度検知部16は、プローブ10の温度センサ14で検知された温度をディジタルデータに変換し、処理回路80に渡す。加速度検知部17は、プローブ10の加速度センサ13で検知された加速度をディジタルデータに変換し、処理回路80に渡す。
【0015】
送受信部20は、プローブ10の振動子部11に給電して超音波を発生させる。この超音波は送受信部20により電子的にスキャンされ、これにより被検体Pの内部を扇状にスキャンする超音波ビームが形成される。被検体Pから反射された超音波エコーは振動子部11に戻り、電気信号として送受信部20により受信される。
【0016】
信号処理部30は、送受信部20から出力される電気信号に各種の信号処理(フィルタ処理、ノイズ除去処理、アナログ/ディジタル変換など)を施し、Bモードデータ等のデータを生成する。画像データ生成部31は、信号処理部30で生成されたデータに基づいて超音波画像データを生成する。超音波画像データは表示部60の合成部61に渡され、他の各種の情報を重畳されてモニタ62に表示される。モニタ62は、CRTや液晶パネルなどを備え、合成部61から出力される超音波画像データを表示する。
【0017】
メモリ50は、各種のプログラム51や、モニタ62に表示すべき各種の表示メッセージ52を記憶する。操作部70は、各種スイッチ、キーボード、トラックボール、マウス等の入力デバイス、およびタッチコマンドスクリーンなどを備え、ユーザの操作を受け付けるユーザインタフェースである。ユーザは超音波の放射利得(出力ゲイン)、ダイナミックレンジ、送信周波数、パルス繰り返し周波数、視野深度、視野角、フレームレート、揺動角度、揺動範囲θr等の撮像条件を操作部70から入力する。スピーカ40もユーザインタフェースであり、処理回路80の制御に基づいて音や音声メッセージなどでユーザに種々の情報を報知する。
【0018】
処理回路80は、実施形態に係る処理機能として決定部81、揺動制御部82、検出部83、報知制御部84および検知部85を備える。
決定部81は、封入部15内の液体を攪拌するタイミングを決定する。このタイミングは、例えば温度センサ14で検知されたプローブ10の温度が規定値(例えば40°C)を超えたか、あるいは超えることが見込まれる場合に、その判断のなされた時点から所定期間(例えば数ミリ秒〜数10秒)であって良い。
【0019】
揺動制御部82は、決定部81により決定されたタイミングにおいて揺動部12を駆動し、振動子部11を揺動させて液体を攪拌する。検査プロトコルに基づいて、振動子部11を揺動させている状態、または停止させている状態の2通りの状態がある。揺動制御部82は、どのような検査プロトコルが選択されているかに拘わらず、決定部81により決定されたタイミングで揺動部12を駆動し、振動子部11をいわば強制的に揺動させる。
【0020】
報知制御部84は、表示メッセージあるいは音声メッセージなどにより、揺動部12が駆動中であることをユーザ(医師や技師など)に報知する。検知部85は、画像データ生成部31により生成された超音波画像データの特徴を解析し、その結果に基づいて、プローブ10が空中放置状態であるか否かを検知する。
【0021】
検出部83は、超音波診断装置を用いた診断において生じ得る、いわばすきま時間を検出する。すなわち検出部83は、一連の手順の中で生じ得る時間的な間隙(time interval)を検出する。決定部81は、検出部83により検出された間隙を、封入部15内の液体を攪拌するタイミングとして決定する。
【0022】
間隙は、例えば超音波診断装置の電源投入直後の所定期間であってよい。または、間隙は、加速度センサ13によりプローブ10の停止を検知された状態が既定時間(例えば数10秒)以上継続した後の所定期間であってよい。または、間隙は、操作部70へのユーザの操作の無い状態が既定時間以上継続した後の所定期間であってよい。
【0023】
または、間隙は、操作部70を介してフリーズ状態への移行を指示された後の所定期間であってよい。または、間隙は、検知部85によりプローブ10の空中放置が検知され、その状態が既定時間以上継続した後の所定期間であってよい。
【0024】
決定部81、揺動制御部82、検出部83、報知制御部84および検知部85の各機能は、コンピュータにより実行可能なプログラム51としてメモリ50に記憶される。処理回路80はプログラム51をメモリ50から読み出し、実行することで、プログラムの各ルーチンに対応する機能を実現する。言い換えれば、プログラム51を読み出した状態の処理回路80は、
図2に示される機能を有することになる。
【0025】
なお
図2においては、共通の処理回路80により決定部81、揺動制御部82、検出部83、報知制御部84および検知部85の各機能の実現されることが示される。これに限らず複数のプロセッサの組み合わせで形成される処理回路により、決定部81、揺動制御部82、検出部83、報知制御部84および検知部85の各機能を実現することも可能である。
【0026】
図3は、プローブ10の一例を示す図である。
図3(a)は、プローブ10の振動子部11の揺動する方向を示す。
図3(b)は、
図3(a)に示されるプローブ10を、中心軸10aに対して90°回転した視点から見た状態を示す。封入部15および揺動部12は、ケース18内に納められて衝撃から保護される。
【0027】
図3(a)において、揺動部12は、振動子部11を揺動する動力の発生源であるモータ121と、このモータ121の回転軸に固定された第1ギヤ122と、この第1ギヤ122に係合する第2ギヤ123と、第2ギヤ123の回動中心に貫設固定された揺動軸124と、揺動軸124に一端部が接合され、他端部で振動子部11を保持するアーム125とを含む。プローブ10の中心軸10a上にアーム125が位置する状態での振動子部11の揺動角を、基準角度θ0とする。
【0028】
揺動部12は、モータ121の回転によりアーム125を往復運動させて、矢印R1方向、及びR1方向とは反対の矢印R2方向に振動子部11を揺動させる。振動子部11は、揺動軸124を中心としアーム125の長さを半径とする円弧状の軌道を描き、基準角度θ0からR1方向に回転した揺動角度θLと、基準角度θ0からR2方向に回転した揺動角度θRの範囲を揺動範囲θrとして揺動する。
【0029】
振動子部11は、揺動方向に直交する方向に配列される複数個(N個)の振動子を有する。振動子は駆動電力を供給されて超音波を発生する。振動子部11の停止している状態では、
図3(b)に示されるように、被検体P内の2次元の撮像領域(斜線ハッチングで示す)が電子スキャンされる。振動子部11が揺動している状態では、2次元撮像領域がさらに連続的にスキャン(メカニカルスキャン)されるので、3次元のボリュームデータを得ることができる。この処理は、時間の1次元を加えて4Dスキャンと称されることもある。次に、上記構成における作用を説明する。
【0030】
図4は、実施形態に係る超音波診断装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。処理手順が開始(START)されると、超音波診断装置の処理回路80は、その時点が電源投入の直後であるか否かを判断する(ステップS1)。Yesであれば、決定部81は揺動部12を駆動するタイミングであると判断し、揺動制御部82は揺動部12を駆動して振動子部11を強制的に揺動させる(ステップS2)。
【0031】
電源投入直後でなければ(ステップS1でNo)、処理回路80は、プローブ10が停止しているか否かを判断する(ステップS3)。Yesであれば、決定部81は間隙の発生を認識し、揺動部12を駆動するタイミングであることを判断する。これに応じて揺動制御部82は振動子部11を強制的に揺動させる(ステップS2)。
【0032】
プローブ10が動いていれば(ステップS3でNo)、処理回路80は、操作部70の操作の有無を判断する(ステップS4)。既定期間にわたってユーザの操作が無ければYesと判断され、揺動制御部82は振動子部11を強制的に揺動させる(ステップS2)。
【0033】
ステップS3でNoであれば、処理回路80は、フリーズ操作の有無を判断する(ステップS5)。例えばフリーズボタンが押されれば(Yes)、決定部81は間隙の発生を揺動制御部82に通知し、揺動制御部82は振動子部11を強制的に揺動させる(ステップS2)。
【0034】
フリーズ操作が無ければ(ステップS5でNo)、処理回路80はプローブ10の空中放置の有無を判断する(ステップS6)。空中放置状態(Yes)と判断されれば、揺動制御部82は振動子部11を強制的に揺動させる(ステップS2)。
【0035】
ステップS6でNoであれば、処理回路80は、プローブ10の温度が既定値を超過したか否かを判定する(ステップS7)。温度が超過していれば(Yes)、報知制御部84は振動子部11の揺動、つまり液体を攪拌中であることを示すメッセージをモニタ62に表示し(ステップS8)、揺動制御部82は振動子部11を強制的に揺動させる(ステップS2)。
【0036】
図5は、
図4のステップS8においてモニタ62に表示されるメッセージの一例を示す図である。間隙でないタイミングで振動子部11を揺動させるのは、プローブ10の過度の温度上昇などのため、いわばやむを得ず実施されることである。このような場合には例えば
図5に示されるようなメッセージ(例えばAUTO COOLING)を超音波画像とともに表示して、振動子部11が駆動中であること(つまり冷却中であること)をユーザに報知する。
【0037】
ステップS2における、振動子部11を強制的に揺動させる処理が終了すると、処理手順は再びステップS1から繰り返される。また、ステップS1およびS3〜S8での判断の結果が全てNoであれば、処理手順はステップS1に戻って繰り返される。
【0038】
図6および
図7は、
図4のステップS2における振動子部11の揺動の一例を模式的に示す図である。
図6において、プローブ10の中心軸を含む角度θaのエリアを診断対象としてスキャンしている状態で間隙が発生すると、揺動制御部82は、対象エリアの外側の例えば角度θbのエリア(非対象エリア)に振動子部11を振る。好ましくは診断対象エリアにおける揺動速度よりも高速で、さらに好ましくは、最も早い速度で揺動させることで最も高い冷却効果を得ることができる。
【0039】
なお揺動速度は単位時間におけるメカニカルスキャンの回数に相当する指標である。通常検査時では1秒あたり5回のスキャンであったところ、揺動タイミングでは例えば倍の10回/秒の回数で揺動させれば、冷却効果の高まることは容易に理解されるであろう。
【0040】
条件が許せば、θb+θa+θbで示される全てのエリアを検査時よりも高速にメカニカルスキャンすることで、最も高い冷却効果を得られる。揺動の回数を増やすことも効果的である。もちろん、揺動角度および揺動速度の少なくともいずれか一方を最大にすることでも十分な冷却効果を得られるし、要するに検査で設定された揺動角度および揺動速度を超えることで、検査時には得られない、プローブの冷却効果を得ることができる。
【0041】
図7に示されるように、θcの角度範囲を対象エリアとしてスキャンしているとき、例えば10回に1回の割合で非対象エリア(θd)をスキャンすることでも、プローブの冷却効果を得ることができる。もちろん、回数の割合はこの例に縛られるものではないし、非対象エリア(θd)のスキャン速度を高速にすれば効果はさらに高まる。
【0042】
図8は、振動子部11の揺動角度および揺動速度と冷却効果との関係を示す模式図である。揺動角度が狭く揺動速度が遅い場合には冷却効果は最低であるが、揺動角度が広がるほど、また、揺動速度が速くなるほどプローブ10の冷却効果は高くなる。揺動角度を広くすることだけ、あるいは揺動速度を早くすることだけでも、中程度の冷却効果を見込めるであろう。
【0043】
図9は、振動子部11の揺動による冷却効果を定量的に示す実験結果の一例を示すグラフである。振動子部11に給電して超音波を発生させると温度は急速に上昇し、やがて飽和する。この状態から振動子部11を揺動させると、温度は一気に15°C程度低下することが分かる。
【0044】
図10は、例えば温度が飽和している状態のプローブにおける熱分布の一例を示す図で、
図10(a)の上面図および
図10(b)の側面図に示されるように、特にプローブの先端部の温度が高温になっている(色が薄くなっている)ことが示される。この状態から振動子部11を揺動させると、
図11(a)、
図11(b)に示されるように、温度分布はほぼ均一になることが分かる。
【0045】
以上述べたように実施形態では、超音波診断のシーケンスの中で生じ得る時間的な間隙(すきま時間)を検出部83により検出し、この間隙において振動子部11を揺動させるようにしている。実際の検査において振動子部11が既に揺動されている状態であっても、検査には影響のない範囲で振動子部11を揺動させるようにしている。このように振動子部11を自動的に、検査に影響のない範囲で積極的に揺動することでプローブ10の温度を均一化した状態を保つことができる。
【0046】
従ってプローブの温度を効果的に管理できるようになるので、プローブから放射される超音波の放射エネルギーを抑制しなくても良くなる。これにより高い感度を保ったまま診断を継続でき、診断能の向上を図り得る超音波診断装置およびプログラムを提供することが可能になる。
【0047】
また、やむを得ず検査中にイレギュラーな揺動を実施する場合にはその旨をモニタ62に表示してユーザに報知する。これによりフレームレートのミスマッチなどを生じて画像が乱れても、ユーザはその原因を知ることができる。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば以下に示すようなものがある。
【0049】
(1)例えば実施形態では、振動子部11の揺動により液体を攪拌するようにした。これに代えて、振動子部11とは別途設けられる攪拌機構により液体を攪拌するようにしても良い。攪拌機構としては電気的に振動する攪拌器が考えられる。このほか、非接触型の攪拌機構を用いることも可能である。つまり、磁気を帯びた攪拌子を封入部15に封入し、変動する電磁場の作用により撹拌子を運動させることによっても、液体を攪拌することができる。
【0050】
(2)振動子部11を揺動させるタイミングとしては、
図4に示される諸条件のほか、超音波の送受信周波数の切り替え時、診断モードの切り替え時、設定条件の切り替え時など、診断に影響の少ないわずかなタイミングであってよい。また、ユーザが各種のデータを装置に入力している作業中であったり、患者と操作者の意思伝達時間などであってもよい。
【0051】
(3)振動子部11が揺動中であることをユーザに報知する方法は、例えば
図5に示されるようなメッセージに限られない。例えば操作部70やプローブ10に設けられたLED(発光ダイオード)を点灯させるといった形態でもよい。あるいは、スピーカ40から音声メッセージまたはビープ音などを発生させても良い。さらには、プローブ10を物理的に振動させても良い。
【0052】
(4)実施形態では、振動子部11を揺動させてプローブ10の温度を均一化した状態を保つことで、超音波の放射エネルギーを抑制しなくともよくなることを述べた。しかし何らかの原因により温度を十分に均一化できないケースでは、放射エネルギーを自動的に抑制することももちろん可能である。あくまで、被検体に過度の熱を与えないことが大前提である。
【0053】
(5)
図2に示される温度検知部16および加速度検知部17は、必ずしも無くてもよい。また、スピーカ40も必ずしも必要ない。
【0054】
上記各実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0055】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…プローブ、11…振動子部、12…揺動部、13…加速度センサ、14…温度センサ、15…封入部、16…温度検知部、17…加速度検知部、18…ケース、20…送受信部、30…信号処理部、31…画像データ生成部、40…スピーカ、50…メモリ、51…プログラム、52…表示メッセージ、60…表示部、61…合成部、62…モニタ、70…操作部、80…処理回路、81…決定部、82…揺動制御部、83…検出部、84…報知制御部、85…検知部、100…本体、121…モータ、122…ギヤ、123…ギヤ、124…揺動軸、125…アーム