(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記摺動部材の1つのみが前記カーボンオニオンを前記摺動面に含み、該カーボンオニオンを含む該摺動面がカーボンオニオンを含まない摺動面よりも相対的に硬く形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の摺動構造。
前記母材の前記摺動面を支持する面が表面処理層を備え、該表面処理層が、前記母材の表面に高周波焼入れ、火炎焼入れ、レーザー焼入れ、浸炭焼入れ、ガス軟窒化処理、ショットピーニングおよび超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面改質処理を施すことにより生じた改質層、または、Fe、NiまたはCrの1つ以上を備える金属層であることを特徴とする請求項6に記載の摺動構造。
前記共析めっき膜を形成する工程の前に、前記母材の表面に、高周波焼入れ、火炎焼入れ、レーザー焼入れ、浸炭焼入れ、ガス軟窒化処理、ショットピーニングおよび超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面改質処理を施して改質層を形成する工程、または、前記母材をFe、Ni、Crのうち少なくとも1つを含むめっき浴に浸漬させ、無電解めっき法によって金属層を形成する工程を含む、請求項9に記載の摺動部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲は、この形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、一態様によれば、一方に対し他方が摺動する2つの摺動部材を備えた摺動構造に関し、摺動部材の少なくとも1つが摺動面にカーボンオニオンを含む摺動構造に関する。
図1に、本発明の一実施形態による摺動構造の概念的な断面図を示す。
図1に示す摺動構造1は、2つの摺動部材2A、2Bを、互いの摺動面を対向させる位置で備えている。一方の摺動部材2Aは、カーボンオニオンを含む層3で構成される摺動面と、これを支持する母材6とを備える。
【0014】
摺動部材2Aの母材6は、素地、つまり基体となる材料からなるものであってもよい。素地としては、特に限定されず、金属材料やセラミクス材料、または樹脂材料であってもよい。例えば、鉄板、機械構造用の例えばS15C、S45C、S50C、S55C、S60C等の炭素鋼や各種合金鋼、焼入れ鋼等の鋼材、片状黒鉛鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄等の鋳鉄材料、あるいは、Al合金やMg合金等、または、ポリエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂や、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックや、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチック等を、目的に合わせて好適に用いることができるが、これらには限定されない。特に、剛性(強度)、汎用性およびコストの点から、炭素鋼材を用いることが好ましい。摺動部材2Bは、母材6からなるものであってもよい。2つの摺動部材2A、2Bの母材の素地は、同じ材料であっても異なる材料であってもよい。2つの摺動部材2A、2Bの形状は、特に限定されず、互いに摺動する接触面を形成し得る形状であれば、同じ形状であっても異なる形状であってもよい。
【0015】
他方の摺動部材2Bは、その摺動面において、後述するカーボンオニオンを含む層を構成する材料を含んでいないことが好ましい。摺動部材2Bは、また、摺動面の素地とは別の層を備えていてもよい。その層は、カーボンオニオンを含む層を構成するカーボンオニオン以外の材料と同じ材料を含んでいないことが好ましい。つまり、2つの摺動部材2A、2Bの各々の摺動面は、異なる材料で構成することが好ましい。2つの摺動部材の互いの摺動面を各々異なる材料で構成することで、摺動時に凝着摩耗を生じにくくなる。凝着摩耗は、摺動面における微小な凸部が他方の摺動部材と凝着し、続く滑り運動により凝着している表面が破壊される現象であり、凝着した界面の結合が強い場合、摺動面から凝着した部分がむしりとられ、相手材の摺動面に付着する。場合によって、相手材である摺動部材に付着した凝着物は、さらに、カーボンオニオンを含む層を備える摺動部材側の摺動面に付着し得る。凝着は、摺動面同士の親和性が高いほど起こり易く、摩耗係数が高くなる要因の一つである。
【0016】
2つの摺動部材のうち少なくとも1つは、母材を、素地と、母材の摺動面を支持する面に設けられた表面処理層とで構成してもよい。
図2に、本発明の別の実施形態による摺動部材2Aの概念的な断面図を示す。
図2に示す摺動部材2Aは、素地62と表面処理層61で構成される母材6と、摺動面を備えるカーボンオニオンを含む層3とを備えている。表面処理層61は、素地62の一部を改質した層であってもよいし、母材の素地とは別途形成した層であってもよい。例えば、素地62の表面に高周波焼入れ、火炎焼入れ、レーザー焼入れ、浸炭焼入れ、ガス軟窒化処理、ショットピーニングおよび超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面改質処理を施すことにより生じた改質層であってもよい。あるいは、素地62にFe、NiまたはCrの1つ以上を備える金属層、好ましくはめっき層であってもよい。この場合のもう一方の摺動部材については、上述する態様であってもよい。
【0017】
摺動部材2Aの摺動面は、カーボンオニオンを含む層3により構成される。カーボンオニオンは、複数のグラフェンシートが同心球殻状に閉じた構造をしたナノカーボン粒子である。カーボンオニオンの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡による観察で測定した場合に、好ましくは1〜500
nm、より好ましくは10〜100
nm、さらにより好ましくは10〜50
nmである。カーボンオニオンの製造方法は、例えばグラファイトなどを不活性ガス雰囲気中において約2000℃で加熱することで生成することができるが、市販のものを使用してもよい。具体的には、特開2008−201604号等に記載された公知の方法に基づいて、当事者は製造することができる。
【0018】
カーボンオニオンは、例えばカーボンオニオンを含む層として備えてもよい。カーボンオニオンを含む層は、カーボンオニオン単独からなるものであってもよく、カーボンオニオン以外の成分として、例えば、Ni、Fe、Co、Cu、Cr、Sn、Ag、Au、Al、Pd、Ptからなる群のうち1種または2種以上の組み合わせた金属材料、あるいは、熱可塑性樹脂やエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0019】
カーボンオニオンを含む層は、カーボンオニオン以外の成分によってその物性や製造方法が異なるため、以下、実施形態ごとに説明する。
【0020】
<共析めっき膜>
カーボンオニオンを含む層は、カーボンオニオンと、金属材料、例えばNi、Fe、Co、Cu、Cr、Sn、Ag、Au、Al、Pd、Ptからなる群のうち1種または2種以上の組み合わせとを含む共析めっき膜(複合めっき膜)であることが好ましい。特に、カーボンオニオンを含む層は、カーボンオニオンとNiとPとを含む共析めっき膜であることが好ましい。
【0021】
カーボンオニオンを含む層が共析めっき膜である場合、カーボンオニオンを含む層は、3〜20μmの厚さを有することが好ましい。3μmより薄いと、長期使用による摩耗で摺動部材の母材が露出し、低摩擦が得られない場合がある。50μmより厚いと、めっき膜の残留応力が増すことによる剥離が懸念され、また、対象となる部品の寸法設計の見直しや製造コストが高くなる場合がある。カーボンオニオンを含む層の厚さは、例えば電子顕微鏡を用いた観察によって測定することが可能である。カーボンオニオンを含む層は、Hv500〜950のビッカース硬さを有することが好ましい。Hv500より低いと、めっき膜そのものが摩耗し、カーボンオニオンが過剰に脱離してしまう場合がある。Hv950より高いと、摺動相手をより摩耗しやすくなり、摺動面に摩耗粉が堆積してめっき膜表面のカーボンオニオンを覆ってしまい、摩擦係数の低減効果が得られない場合がある。カーボンオニオンを含む層の硬さは、例えばJIS Z 2244に準拠してビッカース硬さとして測定することが可能である。
【0022】
共析めっき膜において、摺動面に存在するカーボンオニオンの平均粒子間距離は、好ましくは250nm以下、より好ましくは173nm以下である。共析めっき膜の摺動面において、カーボンオニオンが占める面積比率は0.3〜10%であることが好ましい。カーボンオニオンを含む層の表面でのカーボンオニオンの平均粒子間距離および面積比率は、例えば電子顕微鏡を用いた観察によって測定しおよび測定結果から算出することが可能である。
【0023】
次に、このような共析めっき膜を、製造方法の観点から説明する。共析めっき膜は、摺動部材の母材に施される。例えば、母材をカーボンオニオンとNiとPとを含むめっき浴に浸漬させ、無電解めっき法によって共析めっき膜からなる摺動面を形成してもよい。また、任意選択的に、共析めっき膜を大気雰囲気下で240〜500℃で加熱してもよい。摺動部材は、共析めっき膜を形成することによって、共析めっき膜からなる摺動面と該摺動面を支持する母材とを備えることができる。共析めっき膜は、例えば、カーボンオニオンと、Ni、Fe、Co、Cu、Cr、Sn、Ag、Au、Al、Pd、Ptからなる群のうち1種または2種以上の組み合わせと、場合によりさらにPとを含むめっき浴を用いて、無電解めっき法によって、母材の摺動面を支持する面にカーボンオニオンと金属材料等を共析させて作製してもよい。無電解めっき法は、電解めっきと異なり、めっき浴に被めっき物である母材を浸漬するだけで、均一なめっき被膜を容易に形成することができる点で優れている。めっき浴は、摺動面に適した強度、耐食性および平滑性を有するめっき膜を形成し得る点、かつ汎用性が高い点から、カーボンオニオン以外にNiとPとを含むことが好ましい。
【0024】
めっき浴は、例えば塩化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル等のニッケル塩等を用いて、Niを含むめっき浴としてもよい。Niを含むめっき浴に、例えば次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸ニッケル等のリン酸化合物を加えて、NiとPを含むめっき浴としてもよい。また、めっき浴の安定性およびpH緩衝作用を考慮して、めっき浴に、酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸やエチレンジアミン四酢酸等のキレート剤を添加してもよい。さらに、例えばニッケル化合物が自己分解して析出することを防止する目的で、めっき浴に、微量の硝酸鉛、硝酸ビスマス、アンチモン塩、硫黄化合物等を添加してもよい。
【0025】
めっき浴中の金属濃度は、めっき浴の安定性や析出速度等を考慮して決定することができる。例えば、カーボンオニオンとNi−Pを共析させた複合めっき膜とする場合、Pの濃度を2〜16質量%とすることが、めっき処理時の浴安定性、また、所望の強度および耐食性を有するめっき膜を形成し得る点から好ましい。つまり、めっき浴中でのNiとPの質量比は、好ましくは、Ni:P=0.84〜0.98:0.02〜0.16である。カーボンオニオンの添加量は、めっき浴1Lに対して0.1〜2.0gとすることが好ましく、0.3〜1.0gとすることがより好ましい。
【0026】
カーボンオニオンは、めっき浴中に分散されていることが望ましい。このために、カーボンオニオンは、めっき浴中に添加する前に、予め前処理を施してもよい。前処理としては、酸処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面改質処理が挙げられる。前処理によって、カーボンオニオンは、めっき浴中において安定した分散性を有し得る。
【0027】
例えば、酸処理によって、カーボンオニオンの表面を親水化することが可能である。酸処理に用いる酸は、例えば硫酸、硝酸、塩酸、過マンガン酸等が挙げられ、特に、酸処理の後の、例えば共析めっき膜を形成するためのめっき浴に使用される硫酸ニッケルに混在しても問題ない点から、濃硫酸が好ましい。酸処理は、加熱しながら行う熱酸処理であってもよい。加熱する場合、加熱温度は、好ましくは50〜300℃、より好ましくは100〜250℃である。加熱時間は、60〜120分が好ましい。酸処理に用いるカーボンオニオンの量は、酸1L当たりカーボンオニオン0.1〜5.0gとすることが好ましい。また、酸処理は、撹拌しながら行ってもよいし、静置して行ってもよい。例えば、200〜300℃の90〜98%硫酸溶液中にカーボンオニオン0.1〜5.0g/Lを加え、60分間静置してもよい。カーボンオニオンは、酸処理後、例えばろ過によって硫酸溶液からカーボンオニオンを分離し、水洗した後、乾燥してからカーボンオニオンを含む層を形成するために用いることが好ましい。前処理を行うことで、カーボンオニオンの表面に例えばヒドロキシル基、カルボキシル基等が付与され、親水化されたカーボンオニオンがめっき浴中に分散されることで共析され易くなる。
【0028】
めっき浴にカーボンオニオンを添加した後、例えばスターラー等の撹拌機を用いて撹拌して分散させてもよい。また、例えばめっき浴に例えばドデシルアミン、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールモノノニルフェニルエチル、アルキルトリメチルアンモニウムプロミド等の界面活性剤を加えた後に、カーボンオニオンを添加することで、さらにカーボンオニオンの分散性を高めてもよい。
【0029】
被めっき母材の摺動面を支持する面をめっき浴に浸し、その表面(被めっき面)にカーボンオニオンと金属材料を共析させる際、共析めっき膜の均一性およびめっき浴の安定性の点から、めっき浴の温度は60〜95℃の範囲とすることが好ましく、めっき浴のpHは6〜7の範囲とすることが好ましい。共析めっき膜の厚さは、例えばめっき浴の濃度や母材のめっき浴への浸漬時間等を調節することにより、上述の所望の厚さとすることができる。なお、母材は、めっきを施す前に、予め例えば通常のめっき工程で行われる前処理、例えば溶剤またはアルカリ溶液を用いた脱脂、酸浸漬処理等の表面洗浄処理を施してもよい。
【0030】
また、任意選択的な工程として、共析めっき膜を形成した後に、大気雰囲気下で加熱処理をすることが望ましい。加熱温度としては、240〜500℃の範囲が好ましく、より速く結晶化し、かつカーボンオニオンの変質が生じさせない点から400〜450℃の範囲がより好ましい。240℃より低いと、共析めっき膜の結晶化が不十分となり、所望の硬さが得られない場合がある。500℃より高いと、カーボンオニオンが変質することがあり、所望の耐摩耗性を得られない場合がある。加熱時間は、十分な硬化と生産効率を考慮し、5〜180分間が好ましく、30〜90分間がより好ましい。母材上の共析めっき膜は、かかる加熱処理により硬度を向上させることができる。
【0031】
被めっき母材の少なくとも共析めっき膜を支持する面(被めっき面)は、特に高荷重での摺動に用いる場合に、摺動面とのビッカース硬さの差がHv450以内であることが好ましい。また、この場合、母材の共析めっき膜を支持する面は、摺動面よりも硬くないことが好ましい。例えば、母材の共析めっき膜を支持する面がHv500以上のビッカース硬さを有する場合、摺動面はHv950以上のビッカース硬さを有するものとしてもよい。被めっき母材の表面が所望の硬さよりも軟らかいと、高荷重での摺動時に被めっき母材が変形し易く、共析めっき膜が被めっき母材の変形量に対応できず、割れや剥離を生じる場合がある。また、被めっき母材が変形した場合、その変形量に応じて実摺動面積が大きくなるので摩擦力が増大し、見かけ上の摩擦係数が大きくなることがある。このため、被めっき母材の表面は、共析めっき膜の硬さに比較的近い硬さを有することが好ましい。
【0032】
被めっき母材の表面を所望の硬さするために、所定の硬さをもつ材料を母材として選定してもよい。あるいは、母材を素地と所定の硬さの表面処理層で構成してもよい。この場合、表面処理層は、母材の摺動面を支持する面に備えることが好ましい。表面処理層は、素地を表面改質もしくは表面処理することにより形成することができ、例えば、共析めっき膜を形成する工程の前に、母材の表面に、高周波焼入れ、火炎焼入れ、レーザー焼入れ、浸炭焼入れ、ガス軟窒化処理、ショットピーニングおよび超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面改質処理を施して形成する改質層であってもよく、または、母材をFe、Ni、Crのうち少なくとも1つを含むめっき浴に浸漬させ、無電解めっき法によって形成する金属層であってもよい。表面処理層の厚さは、5μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜10μmであることがより好ましい。このようして被めっき母材を表面処理し、もしくは表面改質により高強度の表面処理層を形成することで、母材強度を確保し、摺動時の変形をより軽減することができる。例えば、共析めっき膜を形成する前の被めっき母材に、例えばNi−Pめっきを施して表面処理した後に、大気雰囲気下で例えば240〜500℃の熱処理をして、被めっき母材の表層を所望の硬さとしてもよい。また、例えば、共析めっき膜を形成する前の被めっき母材を、大気雰囲気下または窒素雰囲気下で250〜850℃、1〜4時間加熱してガス軟窒化処理を行うことで表面改質し、被めっき母材の摺動面を支持する面を所望の硬さとしてもよい。
【0033】
共析めっき膜からなるカーボンオニオンを含む層を備える摺動部材の相手材である、他方の摺動部材は、カーボンオニオンを含む層と摺動する面において、カーボンオニオンを含む層を構成する材料と同じ材料を含んでいないことが好ましい。例えばカーボンオニオンを含む層にNiおよびPが含まれている場合、相手材の摺動面はNiおよびPを含まないことが好ましい。また、カーボンオニオンを含む層を備えた摺動部材の摺動面は、カーボンオニオンを含まない摺動部材の摺動面よりも相対的に硬いことが好ましい。例えば、一方の摺動部材がHv500〜950のビッカース硬さを有する、カーボンオニオンとNiとPを含む共析めっき膜からなる層を備える場合には、他方の摺動部材は、カーボンオニオンを含む層との摺動面が、好ましくはHv200〜950、より好ましくはHv250〜700、さらにより好ましくはHv350〜500のビッカース硬さを有する。Hv950より高いと、カーボンオニオンを含む摺動部材の摺動面を摩耗しやすくなる。Hv200より低いと、摺動面の摩耗が顕著になり、摺動面上に摩耗粉が過剰に堆積して摩擦力が増大する。相手材である他方の摺動部材は、摺動面の硬度を調節するために、場合によって、例えば大気雰囲気下または窒素雰囲気下で250〜850℃、1〜4時間加熱してガス軟窒化処理を行ってもよい。
【0034】
カーボンオニオンを含む層は、上述したカーボンオニオンと金属材料を含むめっき浴を用いためっき法で形成する方法の他に、スプレー法、塗布法によっても形成し得る。例えば、エタノール、イソプロパノール等の有機溶液に、カーボンオニオンと、Ni、Fe、Co、Cu、Cr、Sn、Ag、Au、Al、Pd、Ptからなる群のうち1種または2種以上の組み合わせの上記有機溶液に溶解し得る金属前駆体を加えた溶液を用いて、スプレー法または塗布法によってカーボンオニオンを含む層を形成してもよい。
【0035】
<樹脂膜>
カーボンオニオンを含む層は、また、カーボンオニオン以外に、例えば、ポリエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂や、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックや、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチック等の樹脂材料を含んでいてもよい。カーボンオニオンを含む層は、例えば、溶融したあるいは溶媒に溶解した樹脂材料の溶液にカーボンオニオンを添加して、塗布法によって形成した樹脂膜であってもよい。
【0036】
樹脂膜は、好ましくは10〜500μmの厚さを有する。また、樹脂膜は、好ましくはHv20〜200のビッカース硬さを有する。さらに、樹脂膜は、他方の摺動部材と摺動する面において、樹脂膜の表面に存在するカーボンオニオンの平均粒子間距離は、好ましくは173nm以下であり、樹脂膜の表面積の0.3〜10%をカーボンオニオンで構成することが好ましい。また、樹脂膜からなるカーボンオニオンを含む層を備える摺動部材の相手材である、他方の摺動部材は、カーボンオニオンを含む層と摺動する面において、樹脂膜を構成する材料と同じ材料を含んでいないことが好ましい。他方の摺動部材は、カーボンオニオンを含む層との摺動面が、好ましくはHv10〜150のビッカース硬さを有する。
【0037】
<カーボンオニオン単独からなる層>
カーボンオニオンを含む層は、さらに、カーボンオニオン単独からなる層であってもよい。例えば、CVD法、物理蒸着(Physical Vapor Deposition、PVD)法等を用いて、摺動部材上にカーボンオニオン単独からなる層を形成してもよい。
【0038】
カーボンオニオン単独からなる層は、好ましくは2〜50μmの厚さを有する。また、カーボンオニオン単独からなる層は、好ましくはHv2000以上のビッカース硬さを有する。カーボンオニオンを含む層を備える摺動部材の相手材である、他方の摺動部材は、カーボンオニオンを含む層との摺動面が、好ましくはHv500〜4500のビッカース硬さを有する。
【0039】
上述したカーボンオニオンを含む層を備える摺動部材と他方の摺動部材とを備える摺動構造は、両者を摺動させた際に摩擦摩耗特性に優れ、耐摩耗耐久性が向上する。摩擦摩耗特性は、例えばボールオンディスク法による摩擦摩耗試験によって測定される摩擦係数によって評価することができ、本発明によれば、より低い摩擦係数を実現することが可能となる。本発明の摺動構造は、例えばブレーカーやピストン、ベアリング等の用途に好適となる。
【実施例】
【0040】
<参考例1>
カーボンオニオンの表面処理について検討した。カーボンオニオンとして、透過型電子顕微鏡による観察によって測定した平均粒径10nmのものを用いた。98%硫酸溶液中にカーボンオニオンを1.0g/L加え、温度を25℃、100℃または200℃に設定して、60分間静置することにより表面処理を行った。表面処理の後、ろ過によって硫酸溶液からカーボンオニオンを分離して水洗した後、乾燥させた。硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液および次亜リン酸ナトリウムを混合した、P濃度が8〜10wt%となるNi−Pめっき浴に、得られたカーボンオニオンを0.5g/Lとなるように添加した。スターラーを用いて30分間撹拌した後に、めっき浴中でのカーボンオニオンの分散性を評価した。分散性は、めっき浴中でカーボンオニオンが沈降するまでの時間により評価した。カーボンオニオンの沈降は、目視によって確認した。
図3に、カーボンオニオンの酸処理時の処理温度と、めっき浴中におけるカーボンオニオンの沈降する時間の関係を示す。酸処理時の処理温度を200℃とすることで、沈降するまでの時間が飛躍的に延びることから、カーボンオニオンの表面が十分に親水化されたことが確認できた。
【0041】
<参考例2>
酸処理時の温度を200℃に設定して、処理時間を5、30、60または120分とした以外は参考例1と同様にして実施した。
図4に、カーボンオニオンの酸処理時の処理時間と、めっき浴中におけるカーボンオニオンの沈降する時間の関係を示す。酸処理時の処理時間を60分以上とすることで、沈降するまでの時間が飛躍的延びることから、カーボンオニオンの表面が十分に親水化されたことが確認できた。
【0042】
<参考例3>
酸処理時の温度を200℃に設定して、処理時間を60分とした以外は参考例1と同様にして、カーボンオニオンを分散させためっき浴を調製した。めっき浴にアンモニア水を添加してpH5.6に調整した後、恒温槽を用いて85℃としためっき浴に直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状の炭素鋼材S45Cの円板面を25分間浸し、その表面にNi−Pとカーボンオニオンの共析めっき膜を形成した。
図5に、得られた共析めっき膜の断面を走査型電子顕微鏡(日立製、型番:S−4300)によって観察した写真(3万倍率)を示す。
図5において、共析めっき膜中にカーボンオニオン粒子がみられ、界面活性剤を用いなくてもカーボンオニオンを共析させることができることが確認できた。
【0043】
<実施例1>
2つの摺動部材のうち、一方の摺動部材の母材として、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状の炭素鋼材S45Cを用いた。摺動部材の摺動面となる円板面にカーボンオニオンを含む層となる共析めっき膜を、無電解めっき法によって作製した。カーボンオニオンは、平均粒径10nmのものを用い、めっき浴に添加する前に表面処理を行った。表面処理は、200℃の98%硫酸溶液中にカーボンオニオンを1.0g/L加え、60分間静置することにより行った。表面処理の後、ろ過によって硫酸溶液からカーボンオニオンを分離して水洗した後、乾燥させてからめっき浴に添加した。めっき浴は、硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液、次亜リン酸ナトリウム、コハク酸および乳酸を混合して、P濃度が8〜10wt%となるNi−Pめっき浴とした。めっき浴に、カーボンオニオンを0.1g/Lとなるように添加し、スターラーを用いて60分間撹拌して、カーボンオニオンをめっき浴中に分散させた。さらに、めっき浴にアンモニア水を添加してpH5.6に調整した後に、恒温槽を用いて85℃としためっき浴に母材の摺動面を支持する面を50分間浸し、母材の表面に、Ni−Pとカーボンオニオンの共析めっき膜(厚み10μm)を形成した。共析めっき膜の表面に存在するカーボンオニオンの平均粒子間距離を、走査型電子顕微鏡(カールツァイスマイクロスコピー社製、型番:ΣIGMA−VP)を用いて評価したところ、平均粒子間距離は248nmであった。
【0044】
相手材である他方の摺動部材の母材として、直径0.6cmの球状の炭素鋼材S45Cを用いた。上述した2つの摺動部材をボールオンディスク装置(プロメトロンテクニクス社製、型番:TRIBOMETER)に取り付け、室温(25℃)下、荷重を10N、円板回転速度を300rpmとし、共析めっき膜を備えた摺動部材の摺動面と他方の摺動部材とを接触させて摩擦摩耗試験を行い、摩耗係数を評価した。評価結果を表1に示す。
【0045】
<実施例2>
めっき浴にカーボンオニオンを0.5g/Lで添加した以外は実施例1と同様にして行った。共析めっき膜の表面に存在するカーボンオニオンの平均粒子間距離は、170nmであった。評価結果を表1に示す。
【0046】
<実施例3>
めっき浴にカーボンオニオンを0.02g/Lで添加した以外は実施例1と同様にして行った。共析めっき膜の表面に存在するカーボンオニオンの平均粒子間距離は、392nmであった。評価結果を表1に示す。
【0047】
<比較例1>
めっき浴にカーボンオニオンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして行った。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の評価結果から、共析めっき膜上でのカーボンオニオンの平均粒子間距離が小さいほど、摩擦係数が低くなることが確認できた。
【0050】
<実施例4>
2つの摺動部材のうち、一方の摺動部材の母材に、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状の炭素鋼材S45Cを用いた。摺動部材の摺動面となる円板面にカーボンオニオンを含む層を、無電解めっき法および熱処理によって作製した。カーボンオニオンは、平均粒径10nmのものを用い、めっき浴に添加する前に表面処理を行った。表面処理は、200℃の98%硫酸溶液中にカーボンオニオン1.0g/Lを加え、60分間静置することにより表面処理を行った。表面処理の後、ろ過によって硫酸溶液からカーボンオニオンを分離して水洗した後、乾燥してからめっき浴に添加した。めっき浴は、硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液、次亜リン酸ナトリウム、コハク酸および乳酸を混合して、P濃度が8〜10wt%となるNi−Pめっき浴とした。めっき浴にカーボンオニオンを0.5g/Lとなるように添加し、スターラーを用いて60分間撹拌して、カーボンオニオンをめっき浴中に分散した。さらに、めっき浴にアンモニア水を添加してpH5.6に調整した後に、恒温槽を用いて85℃としためっき浴に母材の摺動面を支持する面を50分間浸し、母材の表面に、Ni−Pとカーボンオニオンの共析めっき膜を形成した。共析めっき膜を形成した母材を、加熱炉(デンケン・ハイデンタル社製、型番:KDF−S70)を用いて、大気雰囲気下400℃で1時間加熱し、共析めっき膜を硬化させ、厚さ10μmのカーボンオニオンを含む層とした。なお、層の厚さは、走査型電子顕微鏡(カールツァイスマイクロスコピー社製、型番:ΣIGMA−VP)で評価した。
【0051】
円板状の摺動部材上のカーボンオニオンを含む層のビッカース硬さを、超微小押し込み硬さ試験機(エリオニクス社製、型番:ENT−1100a)を用いて評価したところ、Hv950であった。また、カーボンオニオンを含む層の表面に存在するカーボンオニオンの平均粒子間距離および1mm
2当たりの表面に存在するカーボンオニオン面積比率を、走査型電子顕微鏡(カールツァイスマイクロスコピー社製、型番:ΣIGMA−VP)を用いて評価したところ、平均粒子間距離は215nmであり、1mm
2当たりの面積比率は0.7%であった。
【0052】
相手材である他方の摺動部材の母材として、直径0.6cmの球状の炭素鋼材S45Cを用い、窒素雰囲気下で850℃、4時間加熱してガス軟窒化処理を行った。相手材である球状の摺動部材のビッカース硬さは、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状のS45Cを代用し、窒素雰囲気下で850℃、4時間加熱してガス軟窒化処理した後に、超微小押し込み硬さ試験機を用いて評価したところ、Hv500であった。
【0053】
上述した2つの摺動部材をボールオンディスク装置に取り付け、室温(25℃)下、荷重を10N、円板回転速度を300rpmとし、カーボンオニオンを含む層を備えた摺動部材の摺動面と他方の摺動部材とを接触させて摩擦摩耗試験を行い、摩耗係数を評価した。評価結果を表2に示す。
【0054】
<実施例5>
相手材の摺動部材を窒素雰囲気下での加熱(ガス軟窒化処理)を行わなかった以外は実施例4と同様にして行った。相手材である球状の摺動部材のビッカース硬さは、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状のS45Cを代用して評価したところ、Hv250であった。評価結果を表2に示す。
【0055】
<実施例6>
相手材の摺動部材を窒素雰囲気下での加熱(ガス軟窒化処理)を行わずに、硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液、次亜リン酸ナトリウム、コハク酸、乳酸およびアンモニア水を混合して、pH5.6、P濃度が8〜10wt%となるNi−Pめっき浴に浸漬させ、無電解めっき法により、球状の表面に厚さ10μmのNi−Pめっき膜を形成した以外は実施例4と同様にして行った。相手材である球状の摺動部材のビッカース硬さは、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状のS45Cを代用し、表面に上述したNi−Pめっき膜を同様にして作製した後に評価したところ、Hv500であった。評価結果を表2に示す。
【0056】
<実施例7>
相手材の摺動部材を窒素雰囲気下での加熱(ガス軟窒化処理)を行わずに、硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液、次亜リン酸ナトリウム、コハク酸、乳酸およびアンモニア水を混合して、pH5.6、P濃度が8〜10wt%となるNi−Pめっき浴に浸漬させ、無電解めっき法により、球状の表面にNi−Pめっき膜を形成した後に、大気雰囲気下400℃で1時間加熱し、10μmのNi−Pめっき層とした以外は実施例4と同様にして行った。相手材である球状の摺動部材のビッカース硬さは、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状のS45Cを代用し、表面に上述したNi−Pめっき膜を同様にして作製して加熱処理を行った後に評価したところ、Hv950であった。評価結果を表2に示す。
【0057】
<実施例8>
円板状の摺動部材上に共析めっき膜を形成した後に加熱処理を行わなかった以外は実施例4と同様にして行った。円板状の摺動部材上の共析めっき膜のビッカース硬さを評価したところ、Hv500であった。評価結果を表2に示す。
【0058】
<実施例9>
円板状の摺動部材上に共析めっき膜を形成した後に加熱処理を行わないこと、および、相手材の摺動部材を窒素雰囲気下での加熱(ガス軟窒化処理)を行わずに、硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液、次亜リン酸ナトリウム、コハク酸、乳酸およびアンモニア水を混合して、pH5.6、P濃度が8〜10wt%となるNi−Pめっき浴に浸漬させ、無電解めっき法により、球状の表面にNi−Pめっき膜を形成した後に、大気雰囲気下400℃で1時間加熱し、厚さ10μmのめっき層としたこと以外は実施例4と同様にして行った。円板状の摺動部材上の共析めっき膜のビッカース硬さを評価したところ、Hv500であった。相手材である球状の摺動部材のビッカース硬さは、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状のS45Cを代用し、表面に上述したNi−Pめっき膜を同様にして作製して加熱処理を行った後に評価したところ、Hv950であった。評価結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
摩擦摩耗試験の結果、実施例4および5の摩耗係数は、それぞれ0.18および0.17であった。一方、実施例6〜9の摩耗係数は、それぞれ0.32、0.42、0.44および0.71であった。また、実施例6および実施例9の摩耗量は、それぞれ0.6mgおよび28.5mgであった。なお、摩耗量は、摩擦摩耗試験時に発生した摩耗粉を回収して秤量したものである。
【0061】
実施例6と比較して、実施例4はカーボンオニオンを含む層と相手材のNi−Pめっきとの間で凝着がほとんど生じず、摩擦係数が低くなったと推測される。また、実施例4対比実施例5、および実施例6対比実施例7では、相手材の硬度が低いほど摩擦係数が低いことが確認された。これは、相手材の硬度が低いほどカーボンオニオンを含む層の摩耗が抑制され、相手材による摩耗によって生じるNi摩耗粉の量が少なくなり、該層の表面に存在するカーボンオニオンを被覆することが軽減したためと考えられる。一方、実施例8および9は、共析めっき膜の加熱処理がないため硬度が低い。共析めっき膜の硬度が高い方が、相手材によって摩耗されにくく、カーボンオニオンのNi−P摩耗粉による被覆が起にくく、摩擦係数が低くなると考えられる。
【0062】
また、実施例4の摺動構造体の摩擦摩耗試験後のカーボンオニオンを含む層の表面を電子顕微鏡で観察した写真を
図6に示し、実施例8の摺動構造体の摩擦摩耗試験後のカーボンオニオンを含む層の表面を電子顕微鏡で観察した写真を
図7に示す。なお、
図5および
図6ともに、摩耗面(摺動面)を示す(a)内にXおよびYで示した部分を拡大して(b)に示す。(a)から硬さの高い実施例4は、より摩耗面が少ないことがわかる。(b)は摩耗粉の堆積状態を示しており、実施例8と比較しても実施例4では、カーボンオニオン4を含む層3が相手材によって摩耗されにくく、Ni摩耗粉5がほとんど見られなかった。
【0063】
<実施例10>
2つの摺動部材のうち、一方の摺動部材の母材の素地として、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状の炭素鋼材S45Cを用いた。素地を、窒素雰囲気下で850℃、4時間加熱してガス軟窒化処理を行い、表面処理層を形成した。加熱後の表面処理層のビッカース硬さを評価したところ、Hv500であった。その後、母材の摺動面となる円板面の表面処理層の上に、カーボンオニオンを含む層を作製した。
【0064】
相手材である他方の摺動部材の母材として、直径0.6cmの球状の炭素鋼材S45Cを用いた。相手材である球状の摺動部材のビッカース硬さは、直径5.0cm、厚さ3.0mmの円板状のS45Cを代用して、超微小押し込み硬さ試験機を用いて評価したところ、Hv240であった。
【0065】
上述した2つの摺動部材をボールオンディスク装置に取り付け、室温(25℃)下、荷重を10N、円板回転速度を300rpmとし、カーボンオニオンを含む層を備えた摺動部材の摺動面と他方の摺動部材とを接触させて摩擦摩耗試験を行い、摩耗係数を評価した。評価結果を表3に示す。
【0066】
<実施例11>
炭素鋼材S45C上に、ガス軟窒化処理に代えて、Ni−Pめっき膜からなる表面処理層を施した以外は実施例10と同様にして実施した。表面処理層を形成するためのめっき浴は、硫酸ニッケル溶液、塩化ニッケル溶液、コハク酸および乳酸を混合してP濃度が8〜10wt%となるようにし、さらにアンモニア水を添加してpH5.6に調整し、恒温槽を用いて85℃とした。めっき浴に、母材の摺動面を支持する面を50分間浸して、Ni−P無電解めっき膜を施した。また、Ni−P無電解めっき膜を施した母材を、加熱炉を用いて、大気雰囲気下400℃で1時間加熱し、厚さ10μmのNi−Pめっきからなる表面処理層とした。表面処理層のビッカース硬さを評価したところ、Hv950であった。評価結果を表3に示す。
【0067】
<実施例12>
Ni−Pめっき膜からなる表面処理層の厚みを5μmとした以外は実施例11と同様にして実施した。評価結果を表3に示す。
【0068】
<実施例13>
Ni−Pめっき膜からなる表面処理層の厚みを2μmとした以外は実施例11と同様にして実施した。評価結果を表3に示す。
【0069】
<実施例14>
炭素鋼材S45C上に表面処理層を形成しないこと以外は実施例10と同様にして実施した。評価結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
摩擦摩耗試験の結果、カーボンオニオンを含む層を形成する前にガス軟窒化処理を行った実施例10およびNi−Pめっきを施した実施例11〜13、実施例14の摩耗係数は、それぞれ0.20、0.19、0.22、0.38および0.42であった。実施例10および11は、特に、摩擦係数が低く、優れた摺動特性が確認された。これは被めっき母材の表面が高強度となるため、荷重に対する変形や実摺動面積が小さくなり、また、微小クラックなどが少なくなり、摩耗による摩擦増大が軽減されたことが要因と考えられる。また、実施例11〜13の結果から、母材の表面処理層が厚いほど低摩擦となる傾向を確認した。
【0072】
以上のことから、カーボンオニオンを含む層を備えた摺動部材と、該層とは異なる材料からなる摺動面を有する対の摺動部材とからなる摺動構造とすることにより、摩擦係数を低減できることが確認された。