特許第6598601号(P6598601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598601自動車用灯具用前面カバーおよび金型装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598601
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】自動車用灯具用前面カバーおよび金型装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/37 20060101AFI20191021BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B29C45/37
   B29C45/27
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-175635(P2015-175635)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-52105(P2017-52105A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(72)【発明者】
【氏名】大石 直志
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−006361(JP,A)
【文献】 特開2008−058120(JP,A)
【文献】 実開昭64−027218(JP,U)
【文献】 特開2010−214749(JP,A)
【文献】 特開平10−175232(JP,A)
【文献】 特開平07−201091(JP,A)
【文献】 特開平06−000892(JP,A)
【文献】 特開昭57−137129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠面領域である前面部の外周後方に連成された非意匠面領域である環状の周縁部の裏面に該周縁部を非素通し形態にするローレット状凹凸が設けられた、バルブゲート式金型によって射出成形された透光性の自動車用灯具用前面カバーにおいて、
前記周縁部の表面の所定位置にゲート痕が設けられるとともに、前記周縁部の裏面の前記ゲート痕に正対する位置に、前記ローレット状凹凸を設けない連続面が設けられたことを特徴とする自動車用灯具用前面カバー。
【請求項2】
前記ローレット状凹凸を設けない連続面は、前記ゲート痕の直径dの3〜5倍の直径の同心円で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用灯具用前面カバー。
【請求項3】
前記ローレット状凹凸は、前記前面部の外周方向にローレット山が等ピッチで連続する平目ローレットであって、前記平目ローレットを構成する山のピッチは、1〜2mm、山の高さ(溝の深さ)は、0.1〜0.3mmの範囲に構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用灯具用前面カバー。
【請求項4】
意匠面領域である前面部の外周後方に連成された非意匠面領域である環状の周縁部の裏面に該周縁部を非素通し形態にするローレット状凹凸が設けられた透光性の自動車用灯具用前面カバーを射出成形する金型装置であって、
接近離反方向に移動可能なキャビ側金型とコア側金型で画成される前面カバー成形用のキャビティと、前記キャビ側金型に配設されて、前記キャビティにおける前記前面カバーの周縁部に対応する所定位置に開口するホットランナと、前記ホットランナの前記キャビティへの開口部に設けられたバルブゲートと、を備え、
前記キャビティを画成する前記コア側金型の成形面における前記前面カバーの周縁部に対応する領域には、前記ローレット状凹凸成形用の凹凸が形成されるが、前記バルブゲートに正対する所定領域には、前記ローレット状凹凸成形用の凹凸を形成しない連続面が形成されたことを特徴とする金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用灯具構成部材である透光性の前面カバーおよび同前面カバーを成形する金型装置に係り、特に、意匠面領域である前面部の外周後方に連成された非意匠面領域である環状の周縁部の裏面に該周縁部を非素通し形態にするローレット状凹凸が設けられている前面カバーおよび同前面カバー成形用の金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透光性の前面カバーは、容器状のランプボディと協働して、光源を収容する灯室を画成する自動車用灯具構成部材で、軽量にして強度にも優れる合成樹脂(例えば、ポリカーボネイト樹脂)で構成されており、射出成形により量産される。
【0003】
発明者は、図10に示す前面カバーの設計を考えた。即ち、前面カバー1は、意匠面領域である前面部2の外周後方に非意匠面領域である環状の周縁部3が連成され、周縁部3は、立壁4とフランジ部5で構成され、フランジ部5には、シール脚6が形成されている。前面カバー1は、そのシール脚6がランプボディ8の前面開口部周縁に形成されたシール溝9に係合するように組み付けられて、灯具として一体化される。
【0004】
前面カバー1の立壁4は、自動車のボンネットB1やバンパーB2で隠れて外部からは見えにくいが、ボンネットB1を開けたときに上方の立壁4を通して、あるいはバンパーB2との隙間から下方の立壁4やフランジ部5を通して、灯室S内が透けて見えるおそれがある。これを防ぐため、立壁4の裏面および灯室を覆うフランジ部5の裏面に、ローレット状凹凸(具体的には、前面部2の周方向に蒲鉾型の山が等ピッチで連続する平目ローレット)7を設けて、立壁4やフランジ部5が素通し状態とならない(非素通し形態となる)ように構成されている。図10における符号Aは、ローレット状凹凸7を設けた範囲を示す。
【0005】
一方、下記特許文献1には、意匠面領域である前面部の外周後方に非意匠面領域である環状の周縁部である脚部が連成され、脚部の裏面に該脚部を非素通し形態にするローレットが形成されたカバーレンズおよび同カバーレンズを射出成形するバルブゲート式金型装置が記載されている。
【0006】
詳しくは、金型装置のカバーレンズ成形用のキャビティの、カバーレンズにおける脚部のローレットを成形するローレット成形部と反対側に、バルブゲートを設けた構造とすることで、成形されたカバーレンズにおける脚部の表面に付いたゲート痕は、カバーレンズの前面部を通して灯具の灯室内を見たときに、脚部の裏面に形成されているローレットによって光学的に遮られて見えず、灯具の見栄えが良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-140953号(請求項1、段落0013、0017、0029、図4,12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したような背景の下、発明者は、図11に示すように、裏面にローレット状凹凸7を設けた下方のフランジ部5の表面所定位置P(図10参照)にバルブゲート12がくるように試作したバルブゲート式金型装置を用いて、前面カバー1を射出成形したところ、前面部2にシルバーストリークが発生した。
【0009】
発明者が考察したところ、前面カバー1のキャビティを画成するコア側金型10Aの成形面11におけるバルブゲート12に正対する領域11aであって、特に、溶融樹脂の流れが速いゲート12近傍ほど、シルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生し易いことがわかった。
【0010】
詳しくは、コア側金型10Aの成形面11におけるバルブゲート12に正対する領域11aを含む所定の範囲A’には、前面カバー1のフランジ部5裏面側のローレット状凹凸7を成形するための凹凸14が形成されており、ゲート12から射出された樹脂はキャビティに沿って流動するが、ゲート12近傍の流速の大きい樹脂は、凹凸14に対しスムーズに流動できず、この凹凸14に樹脂の未充填部分ができる。この樹脂の未充填部分には、溶融樹脂に含まれていた水分や揮発成分がガスとして存在し、樹脂の射出が進むと未充填部分が圧縮されて、ガスが成形面に沿って金型外に抜け出るが、このガスが抜け出る際の痕跡が、シルバーストリーク(銀条の筋)として成形品(前面カバー1)の前面部2に出現し、外観性を低下させる。
【0011】
そこで、発明者は、コア側金型10Aの成形面11における樹脂の流れの速いゲート12近傍領域に凹凸14を設けないようにすれば、即ち、成形面11における樹脂の流れが速いゲート12近傍領域だけを滑らかな連続面で形成してやれば、ゲート12に正対する領域11aにシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生しないし、成形された前面カバー1に設けたローレット状凹凸7の非素通し機能が損なわれることもない、と考えた。
【0012】
そして、試作した結果、有効であることが確認されたので、この度の特許出願に至ったものである。
【0013】
本発明は、前記した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、非意匠面領域である後方周縁部の裏面に設けたローレット状凹凸の非素通し機能を損なうことなく、意匠面領域である前面部にシルバーストリークが出現しない前面カバーおよび同前面カバー成形用の金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
意匠面領域である前面部の外周後方に連成された非意匠面領域である環状の周縁部の裏面に該周縁部を非素通し形態にするローレット状凹凸が設けられた、バルブゲート式金型によって射出成形された透光性の前面カバーにおいて、
前記周縁部の表面の所定位置にゲート痕が設けられるとともに、前記周縁部の裏面の前記ゲート痕に正対する位置に、前記ローレット状凹凸を設けない連続面が設けられたことを特徴とする。
【0015】
前記目的を達成するために、請求項4に係る発明は、
意匠面領域である前面部の外周後方に連成された非意匠面領域である環状の周縁部の裏面に該周縁部を非素通し形態にするローレット状凹凸が設けられた透光性の前面カバーを射出成形する金型装置であって、
接近離反方向に移動可能なキャビ側金型とコア側金型で画成される前面カバー成形用のキャビティと、前記キャビ側金型に配設されて、前記キャビティにおける前記前面カバーの周縁部に対応する所定位置に開口するホットランナと、前記ホットランナの前記キャビティへの開口部に設けられたバルブゲートと、を備え、
前記キャビティを画成する前記コア側金型の成形面における前記前面カバーの周縁部に対応する領域には、前記ローレット状凹凸成形用の凹凸が形成されるが、前記バルブゲートに正対する所定領域には、前記ローレット状凹凸成形用の凹凸を形成しない連続面が形成されたことを特徴とする。
(作用)バルブゲートからキャビティに射出された溶融樹脂は、バルブゲートに正対するコア側金型の成形面に沿ってキャビティ内を拡散するように流動するが、ゲート近傍の溶融樹脂の流速が速い領域では、ゲートに正対するコア側金型の成形面にローレット状凹凸成形用の凹凸が形成されていると、樹脂が凹凸に対しスムーズに流動できず、この凹凸にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生する。
【0016】
然るに、本願発明では、コア側金型の成形面におけるバルブゲートに正対する領域は、ローレット状凹凸成形用の凹凸を形成しない連続面で形成されているので、バルブゲートから射出された直後の流速の速い樹脂の流れは、ローレット状凹凸成形用の凹凸を形成しない連続面に沿ってスムーズに流れるため、コア側金型の成形面のゲートに正対する領域にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生することはない。
【0017】
一方、コア側金型の成形面におけるローレット状凹凸成形用の凹凸を形成しない連続面の外側には、ローレット状凹凸成形用の凹凸が形成されているが、この凹凸が形成された領域を流れる樹脂の流速は、連続面における樹脂の流速に比べると十分に低下しているため、この凹凸が形成された領域に樹脂の未充填部分が発生することもない。
【0018】
また、コア側金型の成形面におけるローレット状凹凸成形用の凹凸を形成しない連続面の領域は、バルブゲートに正対する所定領域だけであるため、成形された前面カバーのゲート痕に正対する所定の領域だけがローレット状凹凸を設けない連続面で構成される。したがって、成形された前面カバーの非意匠面領域である周縁部裏面のローレット状凹凸の非素通し部としての機能が損なわれるものではない。
【0019】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の前面カバーにおいて、前記ローレット状凹凸を設けない連続面は、前記ゲート痕の直径dの3〜5倍の直径の同心円状に形成されたことを特徴とする。
(作用)シルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分は、溶融樹脂の流れの速いゲート近傍領域において発生し易いことから、シルバーストリークの発生を抑制するには、ローレット状凹凸を設けない連続面の大きさは大きい方がよい。しかし、大きすぎると、ローレット状凹凸の非素通し部としての機能が損なわれる。
【0020】
一般的に、バルブゲート式金型で射出成形する際のゲート痕は、最大10mmであり、ローレット状凹凸を設けない連続面(素通し領域)の大きさが直径50mmを超えると、素通し領域を透して灯室内が透けて見える、即ち、ローレット状凹凸の非素通し部としての機能が損なわれるので、前面カバーの周縁部の裏面のローレット状凹凸を設けない連続面(素通し領域)の大きさは、最大でもゲート痕の直径dの5倍以下が望ましい。
【0021】
一方、ゲート痕の最小値は、5mmで、ローレット状凹凸を設けない連続面(素通し領域)の大きさが直径15mm未満では、バルブゲート痕とローレット状凹凸が設けられた領域との距離(バルブゲートと、コア側金型の成形面に形成されたローレット状凹凸成形用の凹凸との距離)が5mm未満と短いため、コア側金型の成形面における凹凸を流れる樹脂の流速は十分に低下しておらず、射出成形の際、キャビティを画成するコア側金型の成形面における凹凸にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生する。
【0022】
したがって、前面カバーの非意匠面領域である周縁部の裏面に形成する、ローレット状凹凸を設けない連続面は、コア側金型の成形面におけるゲートに正対する位置に、シルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生しない、ゲート痕の直径dの3〜5倍の直径の同心円状に形成することが望ましい。
【0023】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の前面カバーにおいて、前記ローレット状凹凸は、前記前面部の外周方向にローレット山が等ピッチで連続する平目ローレットであって、前記平目ローレットを構成する山のピッチは、1〜2mm、山の高さ(溝の深さ)は、0.1〜0.3mmの範囲に構成されたことを特徴とする。
(作用)バルブゲートからキャビティに射出された樹脂は、ゲートに正対するコア側金型の成形面(凹凸を形成しない連続面)に沿って流れて拡散し、その流速が徐々に低下するが、凹凸を形成しない連続面の外側に設けられているローレット状凹凸成形用の凹凸に沿って流れる際に、ローレット山のピッチおよびローレット山の高さ(ローレット溝の深さ)によっては、シルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生するおそれがある。
【0024】
即ち、ローレット山のピッチが1mm未満、ローレット山の高さが0.3mmを越えると、樹脂の流速によっては、樹脂の未充填部分が発生するおそれがあるし、金型の成形面の凹凸加工が難しい。一方、ローレット山のピッチが2mmを越え、ローレット山の高さが0.1mm未満では、後方周縁側のフランジ部を通して背後が透けて見えて、ローレット状凹凸の非素通し部としての機能が損なわれる。
【0025】
そのため、周縁部の裏面に設けるローレット状凹凸は、ローレット山のピッチ1〜2mm、ローレット山の高さ(ローレット溝の深さ)0.1〜0.3mmの範囲が望ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る前面カバーによれば、意匠面領域である前面部の外周後方に連成されている非意匠面領域である環状の周縁部の非素通し部としての機能が損なわれず、前面部にシルバーストリークが出現しない前面カバーを提供できる。
【0027】
また、本発明に係る金型装置によれば、意匠面領域である前面部の外周後方に連成されている非意匠面領域である環状の周縁部が非素通し部として機能するとともに、前面部にシルバーストリークが出現しない前面カバーを成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施例である前面カバーの正面図である。
図2】同前面カバーの縦断面図(図1に示す線II−IIに沿う断面図)である。
図3】前面カバーの要部である下フランジ部の拡大断面図である。
図4】前面カバーの要部である下フランジ部の拡大背面図である。
図5】前面カバーの下フランジ部の裏面に設けられたローレット状凹凸を示す拡大断面図(図4に示す線V-Vに沿う断面図)である。
図6】同前面カバーを射出成形する金型装置の縦断面図である。
図7】バルブゲートからキャビティに射出された樹脂の流れを示す拡大水平断面図(図6に示す線VII-VIIに沿う断面図)である。
図8】本発明の第2の実施例である前面カバーの縦断面図である。
図9】同前面カバーを射出成形する金型装置の縦断面図である。
図10】発明者が設計した前面カバーの縦断面図である。
図11】発明者が試作した射出成形用の金型装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0030】
図1図5は、本発明の第1の実施例に係る射出成形品である透光性の前面カバー20を示す。
【0031】
前面カバー20は、軽量にして強度にも優れる合成樹脂(例えば、ポリカーボネイト樹脂)で構成されており、後述する金型装置(図6参照)によって成形されたもので、図1,2に示すように、意匠面領域である前面部21の外周後方に非意匠面領域である環状の周縁部30が連成されている。周縁部30は、前面部21の外周から後方に屈曲して延出する環状の立壁23と、立壁23の後端部において外方に屈曲して延在するフランジ部25で構成され、フランジ部25には、ランプボディ8のシール溝9に係合できるシール脚26が形成されている。
【0032】
フランジ部25は、前面カバー20の左右の側面および上面での幅(立壁23からの延出長さ)が狭く、下面での幅が広く形成されて、前面カバー20が灯室の前面全体を覆うようにランプボディ8に組み付けられる。
【0033】
また、立壁23の裏面および下方のフランジ部25aの裏面には、図2の符号Dで示す範囲に、ローレット状凹凸(具体的には、前面部21の周方向に蒲鉾型のローレット山32aが等ピッチで連続する平目ローレット)32(図4,5参照)が設けられて、立壁23やフランジ部25が素通し状態とならない(非素通し形態となる)ように構成されている。
【0034】
図2〜5に示すように、前面カバー20を正面視して、下方のフランジ部25aの表面の左右方向中央部には、後述する金型(図6参照)によって前面カバー20を成形する際に付着したゲート痕36が設けられている。
【0035】
前記したように、下方のフランジ部25aの裏面には、下方の立壁23まで連続して延びるローレット状凹凸32が設けられているが、下方のフランジ部25aの表面に設けられたゲート痕36に正対する位置には、図3,4,5に示すように、ローレット状凹凸32を設けない平坦な連続面34が設けられている。連続面34は、円形のゲート痕36と同心円形状に形成され、その大きさ(直径)は、後で詳しく説明するが、意匠面領域である前面部21にシルバーストリークが出現しない上で有効な大きさ(大きいほどよい)であって、ローレット状凹凸32の非素通し部としての機能が損なわれない大きさ(小さいほどよい)に設定されている。具体的には、前面部21にシルバーストリークが出現せず、かつ連続面34を通して灯室内が透けて見えることのない、ゲート痕36の直径dの3〜5倍の直径の同心円状に形成することが望ましい。
【0036】
即ち、一般的に、後述するバルブゲート式金型(図6参照)で射出成形する際のゲート痕36は、バルブゲート44の大きさに等しく、最大10mm〜最小5mmの範囲である。そして、ローレット状凹凸32を設けない連続面(素通し領域)34の大きさが直径50mmを超えると、素通し領域34を透して灯室内が透けて見えてしまう、即ち、ローレット状凹凸32の非素通し部としての機能が損なわれる。したがって、フランジ部26aの裏面のローレット状凹凸32を設けない連続面(素通し領域)34の大きさは、最大でもゲート痕36の直径dの5倍以下が望ましい。一方、ローレット状凹凸32を設けない連続面(素通し領域)34の大きさが直径15mm未満では、後に詳しく説明するが、前面部21にシルバーストリークが出現してしまう。
【0037】
また、ローレット状凹凸32のローレット山32aのピッチは、「1〜2mm」、ローレット山32aの高さ(溝の深さ)は、「0.1〜0.3mm」の範囲に設定されている。
【0038】
後で詳しく説明するが、「1〜2mm」、「0.1〜0.3mm」は、前面部21にシルバーストリークが出現しない上で有効なローレット山32aのピッチおよび高さ(深さ)であって、ローレット状凹凸32を成形し易くかつローレット状凹凸32の非素通し部としての機能が損なわれないピッチおよび高さ(深さ)に設定されている。
【0039】
次に、図6,7を参照して、本発明の第1の実施例に係る射出成形品である前面カバー20を成形する金型装置40を説明する。
【0040】
金型装置40は、固定側のキャビ側金型41と、キャビ側金型41に対し接近離反方向に移動可能な可動側のコア側金型45で構成され、キャビ側金型41とコア側金型45が型閉めされることで、金型41,45の成形面42,46によって前面カバー20に対応するキャビティCが画成される。
【0041】
キャビ側金型41には、キャビティCにおける前面カバー20の所定位置(下方のフランジ部25aの左右方向中央部に対応する位置)に開口するホットランナ43が配設され、ホットランナ43のキャビティCへの開口部には、バルブゲート44が設けられている。バルブゲート44は、ホットランナ43内に挿通された軸方向に進退動作可能なバルブピン44aを備え、バルブピン44aを進退させることで、バルブゲート44が開閉する。
【0042】
キャビティCを画成するコア側金型45の成形面46における、前面カバー20の立壁23および下方のフランジ25aの裏面に対応する領域(図6の符号D’で示す領域)には、図7に拡大して示すように、ローレット状凹凸32(32a)成形用の凹凸47(47a)が形成されているが、成形面46におけるバルブゲート44に正対する位置には、凹凸47(47a)を形成しない連続面48が円形状のバルブゲート44と同心円形状に形成されている。なお、符号47aは、ローレット山32aに対応する凹溝で、凹溝47aのピッチおよび深さは、ローレット山32aのピッチpおよび深さhに対応している。
【0043】
即ち、成形面46における下方のフランジ25の裏面に対応する領域全体にローレット状凹凸32(32a)成形用の凹凸47(47a)が形成されていると、ゲート44からキャビティCに射出された樹脂が凹凸47(47a)に対しスムーズに流動できず、この凹凸47(47a)にシルバーストリークにつながる樹脂の未充填部分ができる。
【0044】
一方、本実施例では、キャビティCを画成するコア側金型45の成形面46における、バルブゲート44に正対する位置に所定の大きさの直径をもつ円形状の連続面48が形成されることで、ゲート44からキャビティCに射出された樹脂が凹凸47(47a)を形成しない連続面48に沿ってスムーズに流動し、コア側金型45の成形面46のゲート44に正対する領域にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生することはない。
【0045】
また、コア側金型45の成形面46における、ローレット状凹凸32成形用の凹凸47(47a)を形成しない連続面48の外側には、図6に示すように、ローレット状凹凸32成形用の凹凸47(47a)が形成されているが、この凹凸47(47a)が形成された領域を流れる樹脂の流速は、ゲート44に正対する領域における樹脂の流速に比べると十分に低下しているため、この凹凸47(47a)が形成された領域に樹脂の未充填部分が発生することもない。
【0046】
そして、発明者が確認したところ、シルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分は、溶融樹脂の流れの速いゲート44近傍領域において発生しやすいことから、シルバーストリークの発生を抑制するには、ローレット状凹凸32成形用の凹凸47を設けない連続面48の大きさは大きい方がよい。しかし、大きすぎると、成形された前面カバー20の下フランジ部25aの裏面に形成される、ローレット状凹凸32が形成されない連続面(素通し領域)34を透して灯室内が透けて見え、ローレット状凹凸32の非素通し部としての機能が損なわれる。
【0047】
一般的に、バルブゲート式金型で射出成形する際のゲート44の直径は、最大10mmであり、凹凸47を設けない連続面(素通し領域)48の大きさが直径50mmを超えると、素通し領域34を透して灯室内が透けて見える、即ち、ローレット状凹凸32の非素通し部としての機能が損なわれるので、凹凸47を設けない連続面(素通し領域)48の大きさは、最大でもゲート痕36の直径dの5倍以下が望ましい。
【0048】
一方、ゲート44の直径の最小値は、5mmで、凹凸47を設けない連続面(素通し領域)48の大きさが直径15mm未満では、バルブゲート44から凹凸47が設けられた領域までの距離が5mm未満と短いため、凹凸47を流れる樹脂の流速は十分に低下しておらず、凹凸47に対しスムーズに流動できず、凹凸47にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生する。
【0049】
したがって、コア側金型45の成形面46におけるゲート44に正対する位置に設ける、凹凸47を設けない連続面48は、ローレット状凹凸32の非素通し部としての機能を損なわず、かつ連続面48の外側の凹凸47にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生しない、ゲート44の直径dの3〜5倍の直径の同心円状に形成することが望ましい。
【0050】
また、バルブゲート44からキャビティCに射出された樹脂は、ゲート44に正対するコア側金型45の成形面46の凹凸47を形成しない連続面48に沿って流れて拡散し、その流速が徐々に低下するが、凹凸47を形成しない連続面48の外側に設けられている凹凸47に沿って流れる際に、凹溝47aのピッチおよび凹溝47aの深さによっては、凹凸47にシルバーストリークに繋がる樹脂の未充填部分が発生するおそれがある。
【0051】
即ち、凹溝47aのピッチが1mm未満、凹溝47aの深さが0.3mmを越えると、樹脂の流速によっては、凹凸47に樹脂の未充填部分が発生するおそれがあるし、凹凸47の加工が難しい。一方、凹溝47aのピッチが2mmを越え、凹溝47aの深さが0.1mm未満では、成形されたローレット状凹凸32形成領域を通して灯室内が透けて見えて、ローレット状凹凸32の非素通し部としての機能が損なわれる。
【0052】
そのため、コア側金型45の成形面46に形成するローレット状凹凸32成形用の凹凸47(47a)は、凹溝47aのピッチ1〜2mm、凹溝47aの深さ0.1〜0.3mmの範囲が望ましい。
【0053】
図8,9は、本発明の第2の実施例を示す。
【0054】
前面カバー20Aは、図9に示す金型装置40Aによって成形されたもので、意匠面領域である前面部21Aの外周後方に非意匠面領域である環状の周縁部30Aが連成されている。周縁部30Aは、前面部21Aの外周から後方に屈曲して延出する環状の立壁23Aと、立壁23Aの後端部において外方に屈曲して延在するフランジ部25で構成され、フランジ部25にはシール脚26が形成されている。
【0055】
また、立壁23Aの裏面には、符号Eで示す範囲に、ローレット状凹凸32が設けられて、立壁23Aが素通し状態とならない(非素通し形態となる)ように構成されている。
【0056】
前面カバー20Aを正面視して、下面側の立壁23Aの左右方向中央部には、金型装置40Aによって前面カバー20Aを成形する際に付着したゲート痕36が設けられている。
【0057】
前記したように、下面側の立壁23Aの裏面には、ローレット状凹凸32が設けられているが、立壁23Aの表面に設けられたゲート痕36に正対する位置には、ローレット状凹凸32を設けない平坦な連続面34が設けられている。連続面34は、円形のゲート痕36と同心円形状に所定の大きさ(例えば、ゲート痕36の直径の3〜5倍の直径の円形状)に形成されている。
【0058】
図9に示す金型装置40Aは、上方に配置された固定側のキャビ側金型41Aと、キャビ側金型41Aの下方に配置され、キャビ側金型41Aに対し接近離反方向(上下方向)に移動可能な可動側のコア側金型45Aで構成され、キャビ側金型41Aとコア側金型45Aが型閉めされることで、金型41A,45Aの成形面42A,46Aによって前面カバー20Aに対応するキャビティC1が画成される。
【0059】
キャビ側金型41Aには、キャビティC1における前面カバー20Aの所定位置(下面側の立壁25Aの左右方向中央部に対応する位置)に開口するホットランナ43が配設され、ホットランナ43のキャビティC1への開口部には、バルブゲート44が設けられている。バルブゲート44は、ホットランナ43内に挿通された軸方向に進退動作可能なバルブピン44aを備え、バルブピン44aを進退させることで、バルブゲート44が開閉する。
【0060】
キャビティC1を画成するコア側金型45Aの成形面46Aにおける、前面カバー20Aの立壁23の裏面に対応する領域には、符号E’に示す範囲に、ローレット状凹凸32(32a)成形用の凹凸47が形成されているが、成形面46Aにおけるバルブゲート44に正対する位置46A1には、凹凸47を形成しない所定の大きさ(例えば、ゲート44の直径の3〜5倍の直径の円形状)の連続面48が円形状のバルブゲート44と同心円形状に形成されている。
その他は、前記した第1の実施例と同一であるので、同一の符号を付すことで、その重複する説明は省略する。
【符号の説明】
【0061】
20,20A 前面カバー
21,21A 意匠面領域である前面部
23,23A 立壁
25 フランジ部
26 シール脚
30,30A 非意匠面領域である環状の周縁部
32 ローレット状凹凸
32a ローレット山
34 ローレット状凹凸を設けない平坦な連続面
36 ゲート痕
d ゲート痕の直径
40,40A 金型装置
41,41A キャビ側金型
42,42A キャビ側金型の成形面
C,C1 キャビティ
43 ホットランナ
44 バルブゲート
44a バルブピン
45,45A コア側金型
46,46A コア側金型の成形面
47 ローレット状凹凸成形用の凹凸
47a ローレット山に対応する凹溝
48 ローレット状凹凸成形用の凹凸を設けない連続面
D,E ローレット状凹凸成形範囲
D’,E’ ローレット状凹凸成形用の凹凸形成範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
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図11