(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
地盤が凍結する際に、未凍土から凍結土へ間隙水が吸水され、アイスレンズ(0℃等温面に平行な氷層)が成長し、土の体積が増加する、いわゆる凍上現象が土木建築等の分野で問題となっている。例えば、八戸周辺では高舘ローム(火山灰質粘性土)が広く堆積しており、これらは凍上しやすい土として有名である。
地盤の凍上は土質、温度、水分および荷重の4つの因子がそろったときに発生する。特に前者の3つの因子は従来から凍上の3要素と言われており、したがって、凍上現象を抑制するには、この要素のうちどれか一つ以上に対し対策をおこなえばよい。
すなわち、従来より凍上を抑制するため、以下のような方法がとられてきた。
【0003】
まず土質条件に対する対策として、凍結時に凍上を生じないような材料で凍結深さの範囲内を置き換える置換工法が挙げられる。次に、温度条件に対する対策として、断熱材などによって地表面からの寒気の浸入を防ぐいわゆる断熱工法が挙げられる。そして、水分条件に対する対策として、最大凍結深さよりも下の位置に凍上発生に必要な毛細管上昇水を遮断する層を設ける遮水工法が挙げられる。
道路舗装分野では凍上対策工法がある程度確立されており、北海道の国道歩道部では全道一律で置換え厚30cmの置換工法が採用されている。しかしながら、法面部における凍上対策は研究も含め未解決な部分が多い。
【0004】
法面などの斜面では表層が凍上すると、土は斜面に対して垂直に隆起する。そして融解したときには、土は重力で鉛直下向きに移動する。このように土は凍上するたびに移動を繰り返す。切土部での凍上により、表層劣化が急速に進展し、降雨による斜面崩壊が発生し、切土のコンクリート構造物が損傷する例もある。
【0005】
従来、土木建築等の分野では、道路の路盤材、歩道の基礎材、仮設道路、擁壁、堤防斜面又は法面等の土木用途の地盤補強材として、重荷重の支持、浸食防止等のために、ハニカム状のセルを多数有する3次元立体セル構造体が使用されている。
【0006】
このようなハニカム状3次元立体セル構造体は、そのセル構造により、軽量で、強度が優れるという特徴がある。かかるハニカム状3次元立体セル構造体は、通常、一定の大きさのブロックとして、折り畳まれた状態で、敷設現場に運ばれ、現場で展張されて使用される。そして、一般に、略平面又は法面の地表面に複数のブロックとして敷設され、各ブロックを互いに連結し、ハニカム状の各セル内に、1つの塊でなく、多数の塊、粒状物、粉体、固化物の形状である、砂、砕石、又は現地発生土の充填材を、立体セル構造体の天端まで充填し、転圧して、地盤補強材としての機能を発揮しうるものとされる。
例えば特許文献1には、成形した法面上に、ハニカム状立体補強材を展張して設置し、セルに火山灰を充填することにより、凍上によって崩壊せず、法面が植生可能で、簡単に施工できるハニカム補強法面が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、凍上抑制工事を施したい現場近隣で火山灰を入手することが困難である、という問題があった。遠方から火山灰を運搬するとなると、輸送費などのコストがかかってしまう。また、火山灰をセルの中詰め材に用いた場合、雨などによりセルの隙間から流出するおそれもある。
【0009】
本発明は、上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり、施工が容易であるとともに、より確実に凍上を抑制できる法面凍上抑制構造体および法面凍上抑制工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、ハニカム状3次元立体セル構造体と後方の法面との間に透水性を有する断熱層を設けることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
法面を覆うように配される法面凍上抑制構造体であって、
複数の長片状の樹脂又は繊維シートが幅方向に並設され互いに所定の間隔で千鳥状に繰り返し部分的に接合されてなり、これが前記幅方向と直交する方向に展張されたハニカム状のセルを有するハニカム状3次元立体セル構造体と、該各セル内に充填された中詰め材とを有するブロックと、
前記ブロックと該ブロックの後方の法面との間に配された、透水性を有する断熱層を有
し、該断熱層の厚みが50mm以上、200mm以下であることを特徴とする、法面凍上抑制構造体。
[2]
前記断熱層が発泡ポリスチレンから成る、[1]に記載の法面凍上抑制構造体。
[
3]
以下の工程:
(1)幅方向に並設された複数の長辺状の樹脂又は繊維シートを互いに所定の間隔で繰り返し部分的に接合し、これを前記幅方向と直交する方向に展張することによってハニカム状のセルを形成するハニカム状3次元立体セル構造体のブロックを用意し、
(3)法面における所定の設置箇所に、透水性を有する断熱層を
50mm以上、200mm以下の厚みに設け、
(4)前記断熱層上に、前記ハニカム状3次元立体セル構造体のブロックを、補助枠を用いて展張しつつ敷設し、
(5)該展張されたセル構造体の各セル内に、
中詰め材を充填し、前記補助枠を外し、次いで転圧する、
を含むことを特徴とする法面凍上抑制工法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ハニカム状3次元立体セル構造体と後方の法面との間に透水性を有する断熱層を設けることにより、断熱効果により地中の温度低下が抑えられて凍上が効果的に抑制される。さらに、断熱層が透水性(排水性)を有することで、水が溜まらないため、凍上が起こりにくい。ひいては、凍上および融解による地面表層の変位を防止できる。また、断熱層を敷設するだけなので施工も容易である。したがって本発明では、施工が容易であるとともに、より確実に凍上を抑制できる法面の凍上抑制構造体および凍上抑制工法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の法面凍上抑制構造体の一構成例を模式的に示す図である。
本発明の法面凍上抑制構造体(法面構造体10)は、法面20を覆うように配される法面凍上抑制構造体であって、幅方向に並設された複数の長片状の樹脂又は繊維シート2を互いに所定の間隔で千鳥状に繰り返し部分的に接合し、これを幅方向と直交する方向に展張することによってハニカム状のセル3を形成するハニカム状3次元立体セル構造体1の各セル3内に、中詰め材4が充填されてなる。そして本発明の法面構造体10は、ブロックと後方の法面20との間に配された、透水性を有する断熱層11を有する。
【0015】
本発明に係る法面凍上抑制構造体10を構成する、ハニカム状3次元立体セル構造体1(立体セル構造体1)とは、
図2及び
図3に示すように、幅方向に並設された複数の長片状の樹脂又は繊維シート2を互いに所定の間隔で千鳥状に繰り返し部分的に接合し、これを前記幅方向と直交する方向に展張することによってハニカム状のセル3を形成する。このようなハニカム状3次元立体セル構造体1としては、一般に、土木建築等の分野で、道路の路盤材、歩道の基礎材、仮設道路や擁壁等の土木用途の地盤補強材として、重荷重の支持や浸食防止等のために使用されている、
図2に示すような、ハニカム状3次元立体セル構造体1であることができるが、これに限定されるものではない。該立体セル構造体1は、例えば、ジオウェブ(登録商標)であることができる。
【0016】
前記樹脂又は繊維シート2の材質は特に限定されないが、耐候性の観点から、ポリエチレンが好ましい。樹脂又は繊維シート2の接合の間隔(ピッチ)は400〜800mmが好ましい。前記接合は、例えば、熱融着等の手段によって行われる。接合部の幅は通常10〜20mmであり、かかる接合部の一定幅の存在により、展張時に略菱形となるセル形状において、対抗する2つの角はセルの内側に向かって潰れたものとなる(
図2参照)。
【0017】
図2に示すように、前記立体セル構造体1の長片状の樹脂又は繊維シート2として、予め大小複数の孔2aが設けられた有孔シートを用いてもよい。これらの孔2aは、例えば、各ブロックを連結するための孔、立体セル構造体自体を軽量化するための孔としても機能する。
【0018】
かかる立体セル構造体1は、ブロック毎に、折り畳んで現場に搬入され、施工地表面上で展張され、ブロック同士を連結し、形成された各セル3に、中詰め材4を、樹脂又は繊維シート2の高さ(立体セル構造体1の天端)まで充填(中詰め)し、転圧し、締め固めることにより、法面20に敷設される。
【0019】
本発明に係る法面構造体10に使用されるハニカム状3次元立体セル構造体1の樹脂又は繊維シート2の高さは75〜300mmであり、セル3の一辺の長さ(内寸)Lは200〜500mmであることができる。セル3の大きさを上記範囲にすることで、敷設作業が容易となる。セル3の一辺の長さが500mmを超えると、中詰め材が流出しやすくなり、また、セル3の一辺の長さが200mmよりも小さいとセル内部に人工軽量骨材を充填する作業が困難となり、全体としての法面構造体10の構築速度が低下する。
【0020】
中詰め材4としては特に限定されるものではないが、例えば砕石、栗石、砂利、砂、土の1以上が挙げられる。
本発明において使用される自然石は、砕石、玉石等であることができ、特に制限されない。また、本発明において、自然石に代えて、人工物、例えばコンクリート塊を用いることもできる。セル構造体との間に充分な摩擦力を生じさせるという観点、及び洪水時に流されないという観点、入手容易性、経済性、施工作業容易性、無害性等の観点から、一定の質量をもち、表面に摩擦抵抗があり、安価である、例えば、平均粒径2cm乃至4cm程度のコンクリート用砕石が好ましい。
当然、中詰め材4として砕石、栗石、砂利、砂、土の1つ以上が組み合わせて使用される場合もある。また、同時に植栽したり、種を蒔いたりすることもある。また、砕石、栗石等の最大径が250〜100mm程度のものは、それ単独で中詰め材4とすることもある。通常、大小の石により、充填密度を上げている。
【0021】
図1に示すように、本発明の法面構造体10は、ブロックと後方の法面20との間に配された、透水性を有する断熱層11を有する。断熱層11を設けることで、断熱効果が高まり、凍上をより確実に抑制することができる。また、断熱層11が透水性(排水性)を有することで、水が溜まらないため、凍上が起こりにくい。
断熱層11は、発泡ポリスチレンから成ることが好ましい。断熱層11に、発泡ポリスチレンを用いることで、高い断熱効果を有するものとなり、凍上をより確実に抑制することができる。
【0022】
このような発泡ポリスチレンとしては、例えば株式会社JSPのチップドレン(登録商標)等が挙げられる。
チップドレン(登録商標)は、連続した空孔を有する構造体をしているので、透水性に加えて振動防止効果を有している。この連続した空孔構造体によって、交通振動の伝播防止が期待できる。これにより、例えば道路脇の擁壁斜面など、交通振動があるような場所であっても、振動によるブロックの剥離や変位を防止できる。
【0023】
断熱層11の厚みとしては、特に限定されるものではないが、例えば50mm以上200mm以下とすることが好ましい。断熱層を50mm以上とすることにより、十分な断熱効果を得ることができる。
【0024】
つぎに、このような法面構造の敷設方法について説明する。
(1)法面上に断熱層として、透水性を有する発泡ポリスチレンから成るシートを敷設し、
(2)ブロックの幅方向が斜面方向と略直交するように、ブロックの一端を斜面(法面)の上部に固定し、
(3)斜面上部から下部に向かって、ブロックを展張する。
(4)2以上のブロックを敷設する場合、ブロックの他端に、次のブロックの一端を連結した後、前記ステップ(1)〜(2)を繰り返し、そして
(5)各セルの内部に、中詰め材を充填して、転圧する。
(2)におけるブロックの固定には、例えば、ブロックの幅方向の上端列のセル内部に杭を打つ方法が好ましく用いられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。なお、以下の説明では、具体的な数値等を挙げているが、本発明はこれらに限定されるものではない。
凍上抑制の効果を確認するために行った実施例および比較例について説明する。
なお、この実験は、2014年12月下旬〜2015年5月中旬にかけて、青森県八戸市の傾斜地(斜面勾配1:1.5)において行われた。
図4に模式的に示すように、施工平面としては、斜面を横方向に並んだ区画30に分け、それぞれの区画に、以下に示すように異なる施工を行った。1つの区画30の大きさは幅2.5m×高さ2.5mとした。
図4に示すように、地表面及び地中に温度計31を配し、ブロック部分、断熱層を配した場合は該断熱層部分、および、地表面から略垂直に350mm、700mm、1400mmの各地中深さにおける温度を測定した。
また、各区画毎に、位置を示す変位基準杭32を立てた。該基準杭32の位置を測定することにより、地面表層の変位を評価した。位置測定は、2014年12月25日、2015年2月23日、2015年5月18日の3回行い、それらを比較することにより、斜面の変位を評価した。
この期間の日射量の変化を
図5に示し、外気温の変化を
図6に示す。
【0026】
<実施例1>
実施例1では法面上にブロックを展張し、中詰め材として砕石を充填した。セル構造体の厚みは100mmとした。
このとき、法面とセル構造体との間に、断熱層として50mm厚さのチップドレン(登録商標)を配した。
【0027】
<実施例2>
実施例1と同様にして法面上にブロックを展張し、中詰め材として砕石を充填した。セル構造体の厚みは100mmとした。
このとき、法面とセル構造体との間に、断熱層として100mm厚さのチップドレン(登録商標)を配した。
【0028】
<実施例3>
実施例1と同様にして法面上にブロックを展張し、中詰め材として発生土(山砂)を充填した。セル構造体の厚みは100mmとした。
このとき、法面とセル構造体との間に、断熱層として50mm厚さのチップドレン(登録商標)を配した。
【0029】
<実施例4>
実施例1と同様にして法面上にブロックを展張し、中詰め材として発生土(山砂)を充填した。セル構造体の厚みは100mmとした。
このとき、法面とセル構造体との間に、断熱層として100mm厚さのチップドレン(登録商標)を配した。
【0030】
<比較例1>
実施例1と同様にして法面上にブロックを展張し、中詰め材として砕石を充填した。セル構造体の厚みは100mmとした。
【0031】
<比較例2>
セル構造体、及び断熱層のいずれの対策も施さず、法面がむき出しの状態とした。
【0032】
実施例1〜4、比較例1及び2について、地中の温度変化を
図7〜
図12にそれぞれ示す。また、実施例4,比較例1,2について、変位基準杭のY方向(水平方向)及びZ方向(高さ方向)の変位を
図13〜
図15にそれぞれ示す。
【0033】
まず、地中温度について、無対策の比較例2(
図12)では、地表温度地中温度ともに低いが、これに対し、対策を施した比較例1、実施例1〜4(
図7〜
図11)では、温度低下が抑えられている。
ブロック部分の温度についてみると、中詰め材として砕石を用いた比較例1では、外気温が低い時期には0℃以下になっていることが多いが、実施例1及び2では、断熱層を配することによって、断熱層部分では0℃以上を維持することができている。すなわち、断熱層を配することによって、断熱性能が向上していることがわかる。
【0034】
砕石を中詰めし、断熱層を配した実施例1,2において、断熱層厚みを50mmとした実施例1(
図7)と、100mmとした実施例2(
図8)とを比較すると、断熱層が厚い実施例2のほうが、浅い部分(地表面に近い部分)で温度が高く保たれていることがわかる。すなわち、断熱効果が高い。
同様に、発生土を中詰めし、断熱層を配した実施例3,4において、断熱層厚みを50mmとした実施例3(
図9)と、100mmとした実施例4(
図10)とを比較すると、断熱層が厚い実施例4のほうが、地中温度が高く保たれていることがわかる。
【0035】
地面の変位について、比較例2(無対策)では、
図12において12月と2月とを比較することにより、凍上によって地面表層が持ち上がっており、また、2月と5月とを比較すると、融解することによって地面が沈下していることがわかる。このとき、沈下した地面表層は、初めと同じ位置には戻らず、より低い位置に移動していることがわかる。
中詰め材として砕石を用いた比較例1(
図14)では、無対策の比較例2に比べてその変位量が小さくなってはいるものの、凍上が発生しており、凍上及び融解により地面が変位していることがわかる。
【0036】
実施例4(
図13)のように、法面とセル構造体との間に断熱層を配することで、凍上及び融解による地面の変位が抑えられている。
【0037】
以上の結果から明らかなように、本発明の法面凍上抑制構造を採用することで、断熱効果により地中の温度低下が抑えられて凍上が効果的に抑制され、ひいては、凍上および融解による地面の変位を防止できることがわかった。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。