(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線を入射する第1の側面、前記X線を出射する第2の側面、及び、主面に形成され一対の側壁をそれぞれ有し前記第1の側面から前記第2の側面に達する複数の溝、を有する板状部材と、
少なくとも前記複数の溝の前記一対の側壁上に設けられたX線反射膜と、
を備え、
前記第1の側面を含む第1の領域において前記複数の溝同士の間隔が前記第2の側面に近づくに従い拡大するとともに、前記第2の側面を含む第2の領域において前記複数の溝同士の間隔が前記第2の側面に近づくに従い縮小するように、各溝の前記一対の側壁が湾曲している、X線光学素子。
X線を入射する第1の側面、前記X線を出射する第2の側面、及び、主面に形成され一対の側壁をそれぞれ有し前記第1の側面から前記第2の側面に達する複数の溝、を有する板状部材と、
少なくとも前記複数の溝の前記一対の側壁上に設けられたX線反射膜と、
を備え、
前記第1及び第2の側面のうち一方の側面を含む第1の領域において前記複数の溝同士の間隔が他方の側面に近づくに従い拡大するとともに、前記他方の側面を含む第2の領域において前記複数の溝同士が前記他方の側面に近づくに従い互いに平行になるように、各溝の前記一対の側壁が湾曲している、X線光学素子。
X線を入射する第1の側面、前記X線を出射する第2の側面、及び、主面に形成され一対の側壁をそれぞれ有し前記第1の側面から前記第2の側面に達する複数の溝、を有する板状部材と、
少なくとも前記複数の溝の前記一対の側壁上に設けられたX線反射膜と、
を備え、
前記第1及び第2の側面のうち一方の側面を含む第1の領域、及び他方の側面を含む第2の領域の双方において前記複数の溝同士の間隔が前記他方の側面に近づくに従い拡大するとともに、前記第2の領域における単位長さ当たりの拡大率が前記第1の領域における前記拡大率よりも小さくなるように、各溝の前記一対の側壁が湾曲している、X線光学素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、医療現場での診断や工業製品の検査等においてX線が広く用いられているが、求められる照射形状は様々である。例えば、或る分野では平行化されたX線の照射径を更に拡げたいという要望があり、他の分野ではX線の集光径を出来る限り小さく絞りたいという要望がある。そこで、X線の照射形状を変化させるためのX線光学素子として、例えばX線ポリキャピラリが存在する。X線ポリキャピラリは、細径のガラス線(キャピラリ)が多数束ねられて構成されており、その一端面からX線を入射し、他端面からX線を出射させる。このX線ポリキャピラリの一方の端面の径を絞ることにより、平行X線の集光や放射X線の平行化、放射X線の放射角の変更等が可能となる。
【0007】
しかしながら、X線ポリキャピラリには次のような問題がある。すなわち、X線ポリキャピラリは多数のガラス線を束ねて一体化した母材を引き延ばすことにより作製されるので、全てのキャピラリを一点に精度良く向けることが難しい。そのため、X線を集光する場合にはその集光径が大きくなってしまう。例えば、現在市販されているX線ポリキャピラリでは、直径10mm程度の平行X線を集光する場合、焦点距離100mmで集光径が200μm程度である。また、放射X線を平行化する場合、或いは放射X線の放射角を変更する場合においても、現在市販されているX線ポリキャピラリが出射可能なX線の幅は広くても15mm程度であり、更なる拡幅が求められている。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、X線を集光する用途においては集光径を更に小さくすることができ、X線を平行化する用途或いは放射X線の放射角を変更する用途においては出射されるX線の更なる拡幅が可能なX線光学素子及びX線光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明による第1のX線光学素子は、X線を入射する第1の側面、X線を出射する第2の側面、及び、主面に形成され一対の側壁をそれぞれ有し第1の側面から第2の側面に達する複数の溝、を有する板状部材と、少なくとも複数の溝の一対の側壁上に設けられたX線反射膜と、を備え、第1の側面を含む第1の領域において複数の溝同士の間隔が第2の側面に近づくに従い拡大するとともに、第2の側面を含む第2の領域において複数の溝同士の間隔が第2の側面に近づくに従い縮小するように、各溝の一対の側壁が湾曲している。
【0010】
また、本発明による第2のX線光学素子は、X線を入射する第1の側面、X線を出射する第2の側面、及び、主面に形成され一対の側壁をそれぞれ有し第1の側面から第2の側面に達する複数の溝、を有する板状部材と、少なくとも複数の溝の一対の側壁上に設けられたX線反射膜と、を備え、第1及び第2の側面のうち一方の側面を含む第1の領域において複数の溝同士の間隔が他方の側面に近づくに従い拡大するとともに、他方の側面を含む第2の領域において複数の溝同士が他方の側面に近づくに従い互い
に平行になるように、各溝の一対の側壁が湾曲している。
【0011】
また、本発明による第3のX線光学素子は、X線を入射する第1の側面、X線を出射する第2の側面、及び、主面に形成され一対の側壁をそれぞれ有し第1の側面から第2の側面に達する複数の溝、を有する板状部材と、少なくとも複数の溝の一対の側壁上に設けられたX線反射膜と、を備え、第1及び第2の側面のうち一方の側面を含む第1の領域、及び他方の側面を含む第2の領域の双方において複数の溝同士の間隔が他方の側面に近づくに従い拡大するとともに、第2の領域における単位長さ当たりの拡大率が第1の領域における拡大率よりも小さくなるように、各溝の一対の側壁が湾曲している。
【0012】
上記の各X線光学素子では、板状部材の第1の側面(X線入射面)から第2の側面(X線出射面)に達する複数の溝の一対の側壁上にX線反射膜が設けられている。そして、入射したX線の形状に所望の変更(平行化若しくは集光、或いは放射角の変更)を行う為に、これらの溝の一対の側壁が湾曲している。これらのX線光学素子では、第1の側面にX線が入射すると、このX線は複数の溝の内側を伝搬し、X線反射膜において反射しながらその進行方向を変更する。そして、第2の側面における溝の向きに従ってX線が出射し、その結果、平行化若しくは集光、或いは放射角の変更が行われる。
【0013】
上記の各X線光学素子は、従来のX線ポリキャピラリに対して次の利点を有する。すなわち、上記の各X線光学素子では、板状部材に形成された複数の溝によってX線の集光や平行化等を行うが、X線ポリキャピラリとは異なり各溝の側壁を高い精度で加工することが可能であり、各溝の向きを一点に向けることも容易である。また、板状部材の大きさには制限がないので、各溝の長さや複数の溝全体の幅にも制限がない。従って、上記の各X線光学素子によれば、X線を集光する用途においては、集光径を更に小さくすることができる。また、放射X線を平行化する用途或いは放射X線の放射角を変更する用途においては、平行X線の更なる拡幅が可能となる。
【0014】
上記の各X線光学素子において、X線反射膜が複数の溝の底面上にも設けられており、複数の溝の底面が板状部材の厚さ方向に湾曲してもよい。これにより、板状部材の主面に沿った方向だけでなく、該主面と交差する方向にもX線の進行方向を変化させることができる。
【0015】
上記の各X線光学素子において、複数の溝の延在方向に垂直な断面において一対の側壁が互い
に平行であってもよい。これにより、一対の側壁間での反射を繰り返させながら、X線を好適に伝搬させることができる。
この場合、一対の側壁は、平坦であり、板状部材の厚さ方向に延び、主面に対して垂直であり、複数の溝の底面は、平坦であり、主面に対して平行であってもよい。
また、上記の各X線光学素子において、一対の側壁の間隔は、主面に近づくに従って徐々に狭くなり、複数の溝の底部の断面は半円状であってもよい。
また、上記の各X線光学素子において、一対の側壁は平坦且つ互いに傾斜しており、主面に対してもそれぞれ傾斜し、一対の側壁の間隔は、主面に近づくに従って徐々に広くなっており、複数の溝の底面は、平坦であり、主面に対して平行であってもよい。
【0016】
上記の各X線光学素子において、板状部材のうち少なくとも複数の溝を構成する部分がポリマー製であってもよい。これにより、例えばナノインプリント法などを用いて複数の溝を精度良く且つ容易に形成することができる。
【0017】
また、本発明による第1のX線光学装置は、上記いずれかのX線光学素子を複数備え、複数のX線光学素子の第1の側面が互いに同じ方向を向き、複数のX線光学素子の第2の側面が互いに同じ方向を向いた状態で、複数のX線光学素子が積層されている。このX線光学装置によれば、上記いずれかのX線光学素子を備えることにより、X線を集光する用途においては集光径を更に小さくすることができ、X線を平行化する用途或いは放射X線の放射角を変更する用途においては出射されるX線の更なる拡幅が可能となる。また、複数のX線光学素子が積層されることにより、X線光学素子の厚さ方向に幅を有するX線に対しても集光若しくは平行化、或いは放射角の変更を行うことができる。
【0018】
また、本発明による第2のX線光学装置は、上記いずれかのX線光学素子である第1及び第2のX線光学素子を備え、第1のX線光学素子の複数の溝と、第2のX線光学素子の複数の溝とが互いに対向した状態で、第1及び第2のX線光学素子が互いに接合されている。これにより、各溝内にX線を閉じ込めることができ、伝搬途中の放出による損失を抑制しつつX線を伝搬させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるX線光学素子及びX線光学装置によれば、X線を集光する用途においては集光径を更に小さくすることができ、X線を平行化する用途或いは放射X線の放射角を変更する用途においては出射されるX線の更なる拡幅が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるX線光学素子及びX線光学装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係るX線光学素子1Aの外観を示す斜視図である。また、
図2は、
図1のII−II線に沿った断面図であって、X線の光軸と交差する断面におけるX線光学素子1Aの構成を示している。本実施形態のX線光学素子1Aは、或る平面内において二次元の放射状に発散しながら入射する拡大X線束X1を平行化して、平行X線束X2を出力するものである。
【0023】
図2に示されるように、本実施形態のX線光学素子1Aは、板状部材10Aと、X線反射膜20とを備える。板状部材10Aは、主面10aに形成された複数の溝11を有する。
図2では一例として17本の溝11が示されている。これらの溝11は、板状部材10Aの厚さ方向に凹んでおり、互いに対向する一対の側壁11a及び11bと、底面11cとをそれぞれ有する。X線反射膜20は、少なくとも複数の溝11の側壁11a及び11b上に設けられる。
図2では一例として、X線反射膜20が側壁11a上、側壁11b上、及び底面11c上に設けられている。板状部材10Aのうち少なくとも複数の溝11を構成する部分は、ポリマー製若しくはシリコン(Si)製である。
図2では一例として、板状部材10Aの全体がポリマー製である。X線反射膜20は、例えば金(Au)などの金属膜である。
【0024】
溝11の横幅W1は20μm以下であり、3μm以上15μm以下であることが好ましく、一例では10μmである。溝11の深さD1は1mm以下であり、50μm以上500μm以下であることが好ましく、一例では500μmである。隣り合う溝11同士の間隔H1は0.5μm以上5μm以下であり、1μm以上5μm以下であることが好ましく、一例では5μmである。板状部材10Aの厚さは0.1mm以上であり、0.5mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0025】
図1に示されるように、板状部材10Aは、略四角形状の主面10aと、該四角形において互いに対向する一対の辺のうち一方を含む第1の側面10bと、他方を含む第2の側面10cとを有する。本実施形態では、第1の側面10bと第2の側面10cとは互いに略平行である。主面10aの一辺の長さは、例えば50mmである。第1の側面10bには拡大X線束X1が入射される。第2の側面10cからは平行X線束X2が出射される。
【0026】
複数の溝11は、第1の側面10bから第2の側面10cに達する。具体的には、複数の溝11の延在方向における各一端は第1の側面10bに形成されており、これらの溝11は第1の側面10bから外方へ開放されている。同様に、複数の溝11の延在方向における各他端は第2の側面10cに形成されており、これらの溝11は第2の側面10cから外方へ開放されている。従って、第1の側面10bに入射したX線は、板状部材10Aに遮られることなく複数の溝11の内側に入る。また、複数の溝11の内側を伝搬したX線は、板状部材10Aに遮られることなく第2の側面10cから外部へ出射する。第2の側面10cにおいて、複数の溝11全体の幅(すなわち溝11の延在方向と交差する方向における一端の溝11から他端の溝11までの幅)W2は、15mmよりも大きい。
【0027】
また、主面10aの法線方向(すなわち板状部材10Aの厚さ方向)から見て、各溝11の一対の側壁11a,11bは湾曲している。第1の側面10bを含む領域14a(本実施形態の第1の領域)における複数の溝11同士の間隔は、第2の側面10cに近づくに従い拡大する。そして、この湾曲によって、第2の側面10cを含む領域14b(本実施形態における第2の領域)では、複数の溝11同士が、第2の側面10cに近づくに従い互いに略平行となる。なお、複数の溝11のうち1本(例えば、複数の溝11の並び方向の中央に位置する1本)に関しては、湾曲せず直線状に延在してもよい。また、側壁11a,11bの湾曲は一方向への単調な曲げであり、一例では円弧状である。
【0028】
以上に説明した構成を備えるX線光学素子1Aによる作用効果は、次の通りである。X線光学素子1Aでは、板状部材10Aの第1の側面10b(X線入射面)から第2の側面10c(X線出射面)に達する複数の溝11の一対の側壁11a,11b上にX線反射膜20が設けられている。そして、入射する拡大X線束X1を平行化する為に、これらの溝11の一対の側壁11a,11bが湾曲している。X線光学素子1Aでは、第1の側面10bに拡大X線束X1が入射すると、
図3に示されるように、このX線が複数の溝11の内側を伝搬する。このときX線は、一対の側壁11a,11b上に設けられたX線反射膜20において反射しながらその進行方向を変更する。そしてX線は、第2の側面10cにおける溝11の向きに従って出射する。その結果、拡大X線束X1の平行化が行われて平行X線束X2が第2の側面10cから出力される。
【0029】
このX線光学素子1Aでは、板状部材10Aに形成された複数の溝11によってX線の平行化を行うが、X線ポリキャピラリとは異なり、切削加工やエッチング、或いはナノインプリント技術等によって、各溝11の側壁11a,11bを高い精度で加工することが可能である。従って、第2の側面10cにおける各溝11の平行度を容易に高めることができる。また、板状部材10Aの大きさには制限がないので、各溝11の長さや複数の溝11全体の幅にも制限がない。従って、本実施形態のX線光学素子1Aによれば、X線ポリキャピラリと比較して、平行X線束X2の幅を格段に拡げることができる。なお、本実施形態では、第2の側面10cにおける複数の溝11全体の幅W2が15mmよりも大きいので、平行X線束X2の幅を15mmよりも大きく(例えば30mm〜50mm)することができる。
【0030】
また、このX線光学素子1Aによれば、従来のX線ポリキャピラリとは異なり、溝11の内側にX線反射膜20を容易に形成することができる。そして、X線反射膜20を備えることによって、高エネルギーX線が側壁11a,11bを突き抜けて所期の方向以外へ進行することを効果的に抑制できる。
【0031】
なお、このX線光学素子1Aにおいては、溝11の本数が多いほど、平行X線束X2を連続的なX線束に近づけ得るので好ましい。また、溝11の断面積は大きいほど、第2の側面10cにおける各溝11の開口率を高め得るので好ましい。また、溝11の深さD1は深いほど好ましい。また、一対の側壁11a,11bの表面粗さが小さいほど、X線の反射効率を高め得るので好ましい。また、X線反射膜20の面密度が大きいほど、高エネルギーのX線を反射させ得るので好ましい。この点、本実施形態ではX線反射膜20として金属膜を用いている。このような金属膜を従来のX線ポリキャピラリに成膜することは困難であり、X線反射膜20を設け得ることは本実施形態の有利な点の一つである。また、X線の進行方向におけるX線光学素子1Aの長さ(すなわち第1の側面10bと第2の側面10cとの距離)が短いほど、X線の反射による損失が低減するので好ましい。
【0032】
また、前述したように、板状部材10Aのうち少なくとも複数の溝11を構成する部分がポリマー製であってもよい。これにより、例えばナノインプリント法などを用いて複数の溝11を精度良く且つ容易に形成することができる。
図4及び
図5は、ナノインプリント法を用いてX線光学素子1Aを製造する各工程を示す断面図である。
図4(a)に示されるように、まず、板状部材10Aの裏面10dに加熱プレート31を貼り付け、板状部材10Aをガラス転移温度(Tg)以上の温度まで加熱する。これにより、板状部材10Aのポリマー部分(図では板状部材10Aの全体)を軟化させる。これと並行して、複数の溝11に対応する複数の凸部32を有する金型(モールド)30を用意する。
【0033】
次に、
図4(b)に示されるように、金型30を板状部材10Aの主面10aに押し付ける。これにより、板状部材10Aの主面10aに金型30の複数の凸部32が食い込む。そして、その状態を維持しながら、板状部材10Aを硬化させる。すなわち、板状部材10Aが熱硬化性ポリマーからなる場合には、加熱プレート31によって板状部材10Aを更に高温まで加熱し、架橋反応を生じさせる。また、板状部材10Aが光硬化性ポリマーからなる場合には、板状部材10Aに光を照射することにより架橋反応を生じさせる。
【0034】
続いて、板状部材10Aをガラス転移温度(Tg)未満の温度まで冷却したのち、
図5(a)に示されるように、板状部材10Aから金型30を引き離す。こうして、板状部材10Aの主面10aに、一対の側壁11a,11b及び底面11cを有する複数の溝11が形成される。その後、板状部材10Aから加熱プレート31を取り外し、
図5(b)に示されるように、複数の溝11の内面にX線反射膜20を成膜する。なお、複数の溝11の形成後、X線反射膜20を成膜前に、必要に応じて一対の側壁11a,11bの平滑化処理(例えば研磨など)を行ってもよい。
【0035】
ここで、
図6(a)〜
図6(c)は、板状部材10Aの主面に形成される複数の溝の種々の形状について示す図であって、溝の延在方向に垂直な断面形状を示している。なお、これらの図では、X線反射膜20の図示を省略している。
【0036】
図6(a)は、本実施形態の溝11の形状を示す。前述したように、溝11は一対の側壁11a,11b及び底面11cを有する。側壁11a,11bは平坦且つ互いに平行であって、板状部材10Aの厚さ方向に延び、主面10aに対して略垂直である。このように、複数の溝11の延在方向に垂直な断面において一対の側壁11a,11bが互いに略平行であることにより、一対の側壁11a,11b間での反射を繰り返させながら、X線を好適に伝搬させることができる。底面11cは平坦であって、側壁11a,11bに対して略垂直(すなわち主面10aに対して略平行)である。
【0037】
図6(b)は、一変形例に係る溝12の形状を示す。溝12は、一対の側壁12a,12b及び底部12cを有する。側壁12a,12bの間隔は、主面10aに近づくに従って徐々に狭くなっている。また、底部12cの断面は半円状となっている。
図6(c)は、別の変形例に係る溝13の形状を示す。溝13は、一対の側壁13a,13b及び底面13cを有する。側壁13a,13bは平坦且つ互いに傾斜しており、主面10aに対してもそれぞれ傾斜している。側壁13a,13bの間隔は、主面10aに近づくに従って徐々に広くなっている。底面13cは平坦であって、主面10aに対して略平行である。本実施形態の板状部材10Aは、溝11に代えて、
図6(b)に示される溝12、或いは
図6(c)に示される溝13を有してもよい。そのような場合であっても、上述した本実施形態の効果を好適に得ることができる。但し、X線を効率良く伝搬するために、溝11若しくは溝12の構成がより好ましい。
【0038】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係るX線光学素子1Bの外観を示す斜視図である。本実施形態のX線光学素子1Bは、入射する平行X線束X2を集光することにより、集光X線束X3を出力するものである。なお、X線光学素子1Bの断面構成は第1実施形態(
図2を参照)と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0039】
図7に示されるように、X線光学素子1Bの板状部材10Bは、第1実施形態の板状部材10Aと同様に、主面10a、第1の側面10b、及び第2の側面10cを有する。そして、第1の側面10bには平行X線束X2が入射され、第2の側面10cからは集光X線束X3が出射される。
【0040】
第1実施形態と同様に、複数の溝11は、第1の側面10bから第2の側面10cに達する。また、主面10aの法線方向から見て、各溝11の一対の側壁11a,11bは湾曲している。但し、本実施形態では、第2の側面10cを含む領域14b(本実施形態の第1の領域)における複数の溝11同士の間隔が、第1の側面10bに近づくに従い拡大する。そして、この湾曲によって、第1の側面10bを含む領域14a(本実施形態の第2の領域)では、複数の溝11同士が、第1の側面10bに近づくに従い互いに略平行となる。なお、本実施形態においても、複数の溝11のうち1本(例えば、複数の溝11の並び方向の中央に位置する1本)に関しては、湾曲せず直線状に延在してもよい。
【0041】
このX線光学素子1Bでは、入射する平行X線束X2を集光する為に、複数の溝11の一対の側壁11a,11bが湾曲している。X線光学素子1Bでは、第1の側面10bに平行X線束X2が入射すると、
図3に示されたように、このX線が複数の溝11の内側を伝搬し、一対の側壁11a,11b上に設けられたX線反射膜20(
図2を参照)において反射しながらその進行方向を変更する。そしてX線は、第2の側面10cにおける溝11の向きに従って出射する。その結果、平行X線束X2が集光され、集光X線束X3が第2の側面10cから出力される。
【0042】
このX線光学素子1Bにおいても、各溝11の側壁11a,11bを高い精度で加工することが可能である。故に、第2の側面10cにおける各溝11を精度良く一点に向けることができる。従って、本実施形態のX線光学素子1Bによれば、X線ポリキャピラリと比較して、集光径を格段に小さくすることができる。また、板状部材10Bの大きさには制限がないので、各溝11の長さや複数の溝11全体の幅にも制限がない。従って、平行X線束X2の入射可能な幅を格段に拡げることができる。
【0043】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態に係るX線光学素子1Cの外観を示す斜視図である。本実施形態のX線光学素子1Cは、放射状に発散しながら入射する拡大X線束X1を集光することにより、集光X線束X3を出力するものである。なお、X線光学素子1Cの断面構成は第1実施形態と同様である。
【0044】
図8に示されるように、X線光学素子1Cの板状部材10Cは、第1実施形態の板状部材10Aと同様に、主面10a、第1の側面10b、及び第2の側面10cを有する。そして、第1の側面10bには拡大X線束X1が入射され、第2の側面10cからは集光X線束X3が出射される。
【0045】
第1実施形態と同様に、複数の溝11は、第1の側面10bから第2の側面10cに達する。また、主面10aの法線方向から見て、各溝11の一対の側壁11a,11bは湾曲している。但し、本実施形態では、第1の側面10bを含む領域14a(本実施形態の第1の領域)における複数の溝11同士の間隔が、第2の側面10cに近づくに従い拡大する。そして、この湾曲によって、第2の側面10cを含む領域14b(本実施形態の第2の領域)では、複数の溝11同士の間隔が、第2の側面10cに近づくに従い縮小する。なお、本実施形態においても、複数の溝11のうち1本(例えば、複数の溝11の並び方向の中央に位置する1本)に関しては、湾曲せず直線状に延在してもよい。
【0046】
このX線光学素子1Cでは、入射する拡大X線束X1を集光する為に、複数の溝11の一対の側壁11a,11bが湾曲している。X線光学素子1Cでは、第1の側面10bに拡大X線束X1が入射すると、
図3に示されたように、このX線が複数の溝11の内側を伝搬し、一対の側壁11a,11b上に設けられたX線反射膜20(
図2を参照)において反射しながらその進行方向を変更する。そしてX線は、第2の側面10cにおける溝11の向きに従って出射する。その結果、拡大X線束X1が集光され、集光X線束X3が第2の側面10cから出力される。
【0047】
このX線光学素子1Cにおいても、各溝11の側壁11a,11bを高い精度で加工することが可能である。故に、第2の側面10cにおける各溝11を精度良く一点に向けることができる。従って、本実施形態のX線光学素子1Cによれば、X線ポリキャピラリと比較して、集光径を格段に小さくすることができる。
【0048】
(第4実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態に係るX線光学素子1Dの外観を示す平面図である。本実施形態のX線光学素子1Dは、放射状に発散しながら入射する拡大X線束X1の放射角を小さく変更して、拡大X線束X4を出力するものである。なお、X線光学素子1Dの断面構成は第1実施形態(
図2を参照)と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0049】
図9に示されるように、X線光学素子1Dの板状部材10Dは、第1実施形態の板状部材10Aと同様に、主面10a、第1の側面10b、及び第2の側面10cを有する。そして、第1の側面10bには拡大X線束X1が入射され、第2の側面10cからは拡大X線束X4が出射される。
【0050】
第1実施形態と同様に、複数の溝11は、第1の側面10bから第2の側面10cに達する。また、主面10aの法線方向から見て、各溝11の一対の側壁11a,11bは湾曲している。本実施形態では、第1の側面10bを含む領域14a(本実施形態の第1の領域)、及び第2の側面10cを含む領域14b(本実施形態の第2の領域)の双方において、複数の溝11同士の間隔が、第2の側面10cに近づくに従い拡大する。そして、側壁11a,11bの湾曲によって、領域14bにおける単位長さ当たりの間隔の拡大率が、領域14aにおける間隔の拡大率よりも小さくなっている。なお、本実施形態においても、複数の溝11のうち1本(例えば、複数の溝11の並び方向の中央に位置する1本)に関しては、湾曲せず直線状に延在してもよい。
【0051】
このX線光学素子1Dでは、入射する拡大X線束X1の放射角を変更する為に、複数の溝11の一対の側壁11a,11bが湾曲している。X線光学素子1Dでは、第1の側面10bに拡大X線束X1が入射すると、
図3に示されたように、このX線が複数の溝11の内側を伝搬し、一対の側壁11a,11b上に設けられたX線反射膜20(
図2を参照)において反射しながらその進行方向を変更する。そしてX線は、第2の側面10cにおける溝11の向きに従って出射する。その結果、拡大X線束X1の放射角が変更され、拡大X線束X4が第2の側面10cから出力される。
【0052】
このX線光学素子1Dにおいても、各溝11の側壁11a,11bを高い精度で加工することが可能である。故に、第2の側面10cにおける各溝11の方向を、所望の放射角に合わせて精度良く形成することができる。また、板状部材10Dの大きさには制限がないので、各溝11の長さや複数の溝11全体の幅にも制限がない。従って、本実施形態のX線光学素子1Dによれば、X線ポリキャピラリと比較して、拡大X線束X4の幅を格段に拡げることができる。
【0053】
なお、本実施形態の変形として、第1の側面10bを含む領域14aを第2の領域とし、第2の側面10cを含む領域14bを第1の領域とし、これらの領域の双方において、複数の溝11同士の間隔が、第1の側面10bに近づくに従い拡大してもよい。その場合、側壁11a,11bの湾曲によって、領域14aにおける単位長さ当たりの間隔の拡大率が、領域14bにおける間隔の拡大率よりも小さいと良い。これにより、集光されるX線束の放射角(集光角)を好適に変更することができる。
【0054】
(第5実施形態)
図10は、本発明の第5実施形態に係るX線光学素子1Eの外観を示す斜視図である。本実施形態のX線光学素子1Eは、第1実施形態と同様に、放射状に発散しながら入射する拡大X線束X1を平行化して、平行X線束X2を出力するものである。但し、X線光学素子1Eが備える板状部材10Eは、厚さ方向に湾曲している。これにより、複数の溝11の底面11c(
図2を参照)もまた板状部材10Eの厚さ方向に湾曲する。従って、各溝11の内側に入射したX線は、底面11c上に設けられたX線反射膜20(
図2を参照)によって反射しながら伝搬するので、板状部材10Eの主面10aに沿った方向だけでなく、主面10aと交差する方向にもX線の進行方向が変化する。その結果、このX線光学素子1Eから出射される平行X線束X2の進行方向は、入射する拡大X線束X1の進行方向に対し、板状部材10Eの厚さ方向に或る角度(>0°)を有することとなる。
【0055】
X線反射膜20が複数の溝11の底面11c上にも設けられている場合、本実施形態のように、複数の溝11の底面11cが板状部材10Eの厚さ方向に湾曲してもよい。これにより、板状部材10Eの主面10aに沿った方向だけでなく、主面10aと交差する方向にもX線の進行方向を変化させることができる。
【0056】
(第6実施形態)
図11は、本発明の第6実施形態に係るX線光学装置1Fの外観を示す斜視図である。このX線光学装置1Fは、第1実施形態のX線光学素子1Aが複数積層されて成る。複数のX線光学素子1Aの各第1の側面10bは互いに同じ方向を向いており、好適には全て面一である。これらの第1の側面10bは、X線光学装置1FのX線入射面15を構成する。また、複数のX線光学素子1Aの各第2の側面10cは互いに同じ方向を向いており、好適には全て面一である。これらの第2の側面10cは、X線光学装置1FのX線出射面16を構成する。積層方向に垂直な面内における複数の溝11の位置は、互いに一致している。
【0057】
X線入射面15には、拡大X線束X5が入射する。拡大X線束X5は、X線光学装置1Fの積層方向(X線光学素子1Aの厚さ方向)から見ると、拡大X線束X1(
図1を参照)と同様に放射状に発散しながらX線入射面15に入射するが、該積層方向と垂直な方向から見ると、その幅(積層方向における幅)W3は拡大X線束X1よりも広い。拡大X線束X5の幅W3は、X線光学素子1Aの積層数に対応する。すなわち、X線光学素子1Aの積層数が多いほど、入射可能な拡大X線束X5の幅W3が広くなる。拡大X線束X5は、X線入射面15に入射したのち、各X線光学素子1Aが有する複数の溝11の内側を伝搬し、X線出射面16に達する。その過程で、各溝11を伝搬するX線は各溝11の側壁11a,11bにおいて反射しながら進行方向を変え、平行X線束X6としてX線出射面16から出射される。なお、積層方向における平行X線束X6の幅W3もまた、X線光学素子1Aの積層数に対応する。
【0058】
本実施形態のX線光学装置1Fは複数のX線光学素子1Aにより構成されるので、第1実施形態と同様に、各溝11の側壁11a,11bを高い精度で加工することが可能である。従って、X線出射面16における各溝11の平行度を容易に高めることができる。また、X線光学素子1Aの大きさには制限がないので、各溝11の長さや複数の溝11全体の幅にも制限がない。勿論、X線光学素子1Aの積層数にも制限がない。従って、本実施形態のX線光学装置1Fによれば、X線ポリキャピラリと比較して、平行X線束X6の断面積を格段に大きくすることができる。
【0059】
(第7実施形態)
図12は、本発明の第7実施形態に係るX線光学装置1Gを部分的に拡大して示す切欠斜視図である。なお、
図12ではX線反射膜20の図示を省略している。このX線光学装置1Gは、第1実施形態のX線光学素子1Aが2枚重ねられて成る。具体的には、一方のX線光学素子1A(第1のX線光学素子)の複数の溝11と、他方のX線光学素子1A(第2のX線光学素子)の複数の溝11とは互いに対向しており、その状態でこれらのX線光学素子1Aが互いに接合されている。
【0060】
本実施形態のX線光学装置1Gによれば、各溝11内にX線を閉じ込めることができる。従って、伝搬途中の放出による損失を抑制しつつX線を伝搬させることができる。
【0061】
(第8実施形態)
図13は、本発明の第8実施形態に係るX線光学装置1Hの構成を概略的に示す側面図である。
図13に示されるように、本実施形態のX線光学装置1Hは、第1実施形態のX線光学素子1Aと、湾曲ミラー33と、X線発生源34とを備える。X線発生源34は、湾曲ミラー33を介してX線光学素子1Aの第1の側面10bと光学的に結合されている。
【0062】
X線発生源34は、放射状に発散する拡大X線束X7を出射する。拡大X線束X7は、拡大X線束X1とは異なり、三次元の放射状に発散しながら進むX線束である。拡大X線束X7は、湾曲ミラー33において反射する際、湾曲ミラー33の湾曲する反射面によって或る方向(X線光学素子1Aの厚さ方向)に平行化され、拡大X線束X1となる。この拡大X線束X1は、X線光学素子1Aの第1の側面10bに入射する。
【0063】
本実施形態のX線光学装置1Hによれば、或る平面内において二次元の放射状に発散しながら入射する拡大X線束X1を好適に生成し、X線光学素子1Aに入射させることができる。なお、湾曲ミラー33に代えて、湾曲分光結晶が設けられてもよい。その場合、拡大X線束X1の単色化も併せて行うことができる。
【0064】
(実施例)
第1実施形態のX線光学素子1Aを実際に作製する際の設計値の例を以下に示す。
平行X線束X2の幅W2を30mm、第1の側面10bと第2の側面10cとの間隔を50mm、溝11の横幅W1を10μm、X線反射膜20の材料をAu(密度19.3g/cm
3)、拡大X線束X1のエネルギーを10keV(全反射臨界角0.50°)とするとき、点状のX線発生源と第1の側面10bとの好適な距離は51mm、最も外側に位置する溝11の側壁11a,11bの好適な曲率半径は259mmである。
【0065】
本発明によるX線光学素子及びX線光学装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、第2の側面における溝の間隔や横幅は一定でなくてもよく、望まれるX線束の幅方向の強度分布(プロファイル)に応じて適宜変化してもよい。
【0066】
例えば
図14の断面図に示されるように、中央部近傍では溝11の横幅W1を狭く且つ間隔(壁幅)H1を広くしてX線の取り込み量を少なくし、周縁部近傍では溝11の横幅W1を広く且つ間隔H1を狭くしてX線の取り込み量を多くしてもよい。言い換えれば、板状部材の幅方向において溝11が占める割合を、周縁部において大きく、中央部において小さくしてもよい。これにより、第2の側面から出射されるX線束の幅方向の強度分布(プロファイル)を平坦化することが可能である。すなわち、横幅W1及び間隔H1が中央部から周縁部に亘って一定である場合には、
図15(a)に示されるように出射されるX線束の強度分布は山型となるが、横幅W1及び間隔H1が
図14のような形態である場合には、
図15(b)に示されるように中央部近傍の強度が抑えられ、X線束の強度分布を平坦化できる。
【0067】
また、溝内に充填する材料を変更することによっても、強度分布を変化させることができる。すなわち、上記各実施形態では溝11の内部は空隙となっており、X線光学素子の外部環境に応じて、大気や何らかのガスで満たされるか或いは真空状態となる。これに対し、例えば
図16に示されるように、溝11の内部に樹脂等の充填材17を設けるとともに、充填材17の分布を溝11毎に設定することによって、X線伝搬効率を各溝11毎に調整し、X線束の強度分布を自在に制御することができる。
【0068】
また、第2の側面において、複数の溝の向きが互いに独立していることにより、出射されるX線束の方位を自在にパターン化することができる。例えば、
図17に示されるように、複数の溝11を2以上の群に分け、各群毎に異なる点へ溝11を向けることにより、1つのX線束から2以上の集光点を形成することができる。