特許第6598669号(P6598669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598669半導電性樹脂組成物及びこれを用いた電子写真用シームレスベルト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598669
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】半導電性樹脂組成物及びこれを用いた電子写真用シームレスベルト
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20191021BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20191021BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20191021BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20191021BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20191021BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C08L27/16
   C08L77/00
   C08K3/04
   C08L51/00
   C08L33/14
   G03G15/00 552
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-251292(P2015-251292)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-115011(P2017-115011A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武智 重利
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−191406(JP,A)
【文献】 特開平03−062851(JP,A)
【文献】 特開2011−180206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
G03G13/00− 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を65重量%〜85重量%と、ポリアミド樹脂(B)を35重量%〜15重量%とを含有し、さらに、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100重量部に対して、カーボンブラック(C)を1〜25重量部と、相溶化剤(D)を0.5〜10重量部とを含有し、
前記相溶化剤(D)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体であり、
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の連続相(海)中に前記ポリアミド樹脂(B)の分散相(島)が微分散した海島構造を有し、その分散相の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする半導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記半導電性樹脂組成物は、UL−94の燃焼性評価においてVTM−0を示すことを特徴とする請求項1記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位は、アルキル鎖の炭素数が3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位は、(メタ)アクリル酸グリシジルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項5】
前記相溶化剤(D)は、さらに炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーを含むグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(B)は、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6,12から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか記載の半導電性樹脂組成物から形成された電子写真用シームレスベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる電子写真用シームレスベルト等の分野に好適に使用することができる半導電性樹脂組成物及びこれを用いた電子写真用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン樹脂は、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性、耐摩耗性、非粘着性、成型加工性等の物性に優れているため、電子写真方式を利用した画像形成装置に用いる電子写真用シームレスベルトの分野で好適に使用されている。
【0003】
この電子写真用シームレスベルトは、上記特性に加え、電気抵抗、特に体積抵抗が1×10〜1×1013Ω・cmの半導電性であることが重要であり、従来から、様々な導電性材料を用いてポリフッ化ビニリデン系樹脂に半導電性を付与することが検討されている。
【0004】
熱可塑性樹脂に半導電性を付与するには、カーボンブラック(CB)、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、カーボンファイバ(CF)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等のナノレベルのフィラーからなる電子伝導性材料を熱可塑性樹脂中に配合することが一般的である。これらの電子伝導性材料は、電子伝導性材料同士の接触によって導電性を発現しているため樹脂中への分散が重要である。しかし、このようなフィラーは凝集力が極めて強いため、通常の方法ではこの凝集力を解くことは困難であり、これらのフィラーを均一分散させ、電気抵抗のバラつきを小さくすること(以下、電気抵抗の均一性と称する)は技術的に困難を伴う。
【0005】
このような問題を解決する方法として、特許文献1には、カーボンブラックを微分散したポリアミド(PA)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とをブレンドし、PVDFマトリクス中にPAを分散させた海島構造のポリマーアロイとすることにより、ナノレベルのカーボンブラックに分散性を持たせ、所望の半導電性とすることが記載されている。
【0006】
一方、ポリマーアロイを製造する際、2種以上の熱可塑性樹脂がお互いに非相溶であれば相溶化させる手法が必要である。相溶化がきちんとされていないと物性は低下し、アロイ化による物性向上の効果が薄れてしまう。相溶化させる方法の1つは混練時に剪断速度を上げて相溶化させる手法で、もう一つは2種以上の樹脂間の界面張力を下げるために相溶化剤を用いる手法であるが、特に設備の見直しも要らず容易に検討が進められることなどから、相溶化剤を用いる手法が多く取られている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、PVDFマトリクス中にPAを分散させた海島構造のポリマーアロイが記載されているものの、相溶化剤に関する記載はなく、そのモルフォロジーや機械的強度についても記載されていない。
【0008】
特許文献2には、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂と炭素繊維とを含有する熱可塑性樹脂組成物の機械的特性について記載されているが、熱可塑性フッ素樹脂中へポリアミドを微分散させる方法は記載されていない。
【0009】
特許文献3には、ポリアミドとABS樹脂とフッ素樹脂とを含有するポリマーアロイへ種々の相溶化剤を配合することが記載され、例えば、相溶化剤としてエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体が記載されている。しかし、相溶化剤としてエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体をPVDFとPAとのポリマーアロイに適用しても海島構造における島のサイズは小さくならなかった。
【0010】
このように、ポリフッ化ビニリデン樹脂とポリアミド樹脂とのポリマーアロイにおいて有効な相溶化剤は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−180206
【特許文献2】特開2013−14656
【特許文献3】特開2006−72140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ポリフッ化ビニリデン樹脂とポリアミド樹脂とカーボンブラックとを含む半導電性樹脂組成物において、ポリフッ化ビニリデン樹脂マトリクス中にポリアミド樹脂が微分散した半導電性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、相溶化剤として、ポリフッ化ビニリデン樹脂と相溶性を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、ポリアミド樹脂末端のアミノ基と反応性を示すエポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体を用いることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂マトリクス中にポリアミド樹脂を微分散させることが容易になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明によれば、
(1)ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を65重量%〜85重量%と、ポリアミド樹脂(B)を35重量%〜15重量%とを含有し、さらに、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100重量部に対して、カーボンブラック(C)を1〜25重量部と、相溶化剤(D)を0.5〜10重量部とを含有し、
前記相溶化剤(D)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体であり、
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の連続相(海)中に前記ポリアミド樹脂(B)の分散相(島)が微分散した海島構造を有し、その分散相の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする半導電性樹脂組成物が提供され、
(2)前記半導電性樹脂組成物は、UL−94の燃焼性評価においてVTM−0を示すことを特徴とする請求項1記載の半導電性樹脂組成物が提供され、
(3)前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位は、アルキル鎖の炭素数が3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導電性樹脂組成物が提供され、
(4)前記エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位は、(メタ)アクリル酸グリシジルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の半導電性樹脂組成物が提供され、
(5)前記相溶化剤(D)は、さらに炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーを含むグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の半導電性樹脂組成物が提供され、
(6)前記ポリアミド樹脂(B)は、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6,12から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の半導電性樹脂組成物が提供され、
(7)請求項1乃至のいずれか記載の半導電性樹脂組成物から形成された電子写真用シームレスベルトが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導電性樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂マトリクス中にポリアミド樹脂が微分散した海島構造とすることができ、ポリフッ化ビニリデン樹脂及びポリアミド樹脂の物性を損なうことがなく、電気抵抗の均一性に優れる為、電子写真用シームレスベルトとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】海島構造の一例を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について詳細に説明する。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルの意味で用いる。
【0018】
[半導電性樹脂組成物]
本発明の半導電性樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、カーボンブラック(C)と、相溶化剤(D)とを含有していることを特徴とする。さらに詳しくは、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との相溶化剤として、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と相溶性を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、ポリアミド樹脂(B)末端のアミノ基と反応性を示すエポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体を用いることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)マトリクス中にポリアミド樹脂(B)が微分散した海島構造を呈する半導電性樹脂組成物である。なお、ここでいう半導電性とは、温度23℃、相対湿度50%RH、印可電圧500Vにおける体積抵抗率が1×10〜1×1013Ω・cmの範囲内であることを意味する。
【0019】
ここで、本発明の半導電性樹脂組成物における微分散について説明する。本発明におけるポリフッ化ビニリデン樹脂(A)マトリクス中にポリアミド樹脂(B)が微分散した海島構造とは、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の連続相(海)中のポリアミド樹脂(B)の分散相(島)の平均粒径が10μm以下であることをいう。ポリアミド樹脂(B)の平均粒径は、8μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。ポリアミド樹脂(B)の平均粒径が上記範囲であれば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の物性を損なうことなく、電気抵抗の均一性に優れる半導電性樹脂組成物とすることができる。
【0020】
ポリアミド樹脂(B)の平均粒径は、例えば、成形品の樹脂断面を透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、マイクロスコープ等で観察し、市販の画像解析装置等で解析することにより求めることができる。
【0021】
[ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)]
本発明に用いられるポリフッ化ビニリデン樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、またはその共重合体から選ばれる1種、或いは2種以上の混合物である。フッ化ビニリデン共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体にフッ化ビニリデンの側鎖を有するグラフト共重合体が挙げられ、これらの中から選ばれる1種、或いは2種以上を用いることができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0022】
[ポリアミド樹脂(B)]
本発明に用いられるポリアミド樹脂(B)は、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω−アミノカルボン酸の自己縮合、ラクタム類の開館重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。
【0023】
ポリアミド樹脂(B)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm−キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を表す)などが挙げられる。
【0024】
ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド樹脂(B)の場合、ジアミンの具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどの脂肪族および芳香族ジアミンが挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、シュウ酸、シュウ酸エステル等の脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、吸水率が低いポリアミド樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド樹脂は、カーボンブラックの分散性に優れるとともに、湿潤環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミドは単独、或いは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
[カーボンブラック(C)]
カーボンブラック(C)としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブ等の導電性カーボンブラックを挙げることができ、特に、平均粒子径40nm以下のカーボンブラックが少量の配合で電気抵抗を下げることができるので好ましい。また、本発明においては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、から選ばれる1種以上の官能基を有するポリマーがグラフト付加されたグラフト化カーボンブラック、或いは低分子量化合物で表面処理したカーボンブラックも用いることができる。
【0027】
[相溶化剤(D)]
本発明に用いられる相溶化剤(D)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体であって、1分子中に1個以上のエポキシ基を含有することを特徴とする。1分子中に1個以上のエポキシ基を含有する共重合体を相溶化剤として用いることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂マトリクス中にポリアミド樹脂が微分散した海島構造を呈する半導電性樹脂組成物とすることができる。
【0028】
本発明に用いられる相溶化剤(D)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらは単独、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン樹脂との相溶性の観点から、アルキル鎖の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。さらに、耐熱性の観点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる相溶化剤(D)を構成するエポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エタクリン酸グリシジル、イタコン酸グリシジル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)クリル酸グリシジルが好ましく、工業的に入手し易いことから、メタクリル酸グリシジルを用いることがより好ましい。なお、これらは併用して用いても良い。
【0030】
本発明に用いられる相溶化剤(D)は、さらにアルキル鎖の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーを含むグラフト共重合体であることが好ましい。炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピルである。これらの中でも、耐熱性の観点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0031】
本発明に用いられる相溶化剤(D)は、その他の単量体に由来する構成単位を含んでいても良い。その他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン、スチレン、無水マレイン酸、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、N,N‘−ジエチルアクリルアミド、N,N‘−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。その他の単量体は単独、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。その他の単量体の含有量は、0〜15モル%であり、好ましくは0〜10モル%であり、さらに好ましくは0〜5モル%である。
【0032】
本発明に用いられる相溶化剤(D)の数平均分子量は、3000以上であることが好ましい。相溶化剤(D)の数平均分子量が3000未満であると、未反応の相溶化剤(D)が成形体表面へブリードアウトすることがあり(ブリード現象)、このブリード現象は、電子写真用シームレスベルト等において、転写不良を引き起こす要因となる。
【0033】
本発明の半導電性樹脂組成物には、必要に応じてその特性を損なわない範囲でその他の樹脂や添加剤を配合しても良い。樹脂としては、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。添加剤としては、イオン伝導性材料、カーボンファイバ等の電子伝導性材料、酸化防止剤、熱安定剤、有機フィラーや無機フィラー、アンチブロッキング剤、可塑剤、滑剤、キレート化剤、加工助剤、染料や顔料等の着色剤が挙げられる。これらの樹脂や添加剤は、目的に応じて適量を使用することができる。
【0034】
次に、本発明の半導電性樹脂組成物を構成する各成分の組成比について説明する。本発明の半導電性樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を50重量%〜95重量%と、ポリアミド樹脂(B)を50重量%〜5重量%とを含有してなる。ポリアミド樹脂(B)の含有率は、45重量%〜10重量%が好ましく、35〜15重量%がより好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との組成比を上記範囲とすることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂マトリクス中にポリアミド樹脂が微分散した海島構造を呈し、これにより優れた電気抵抗の均一性を示す。ポリアミド樹脂(B)の含有率が5重量%未満であると、海島構造の中で島の間隔が大きくなるため、電気抵抗の均一性が悪くなる恐れがある。ポリアミド樹脂(B)の含有率が35〜15重量%であれば、得られる半導電性樹脂組成物は優れた難燃性(UL94の燃焼性評価においてVTM−0)を示す。
【0035】
カーボンブラック(C)の配合量は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との合計100重量部に対して、1〜25重量部である。カーボンブラック(C)の配合量は、2〜20重量部が好ましく、3〜15重量部がより好ましい。カーボンブラックの配合量が1重量部未満であると所期の半導電性を示す樹脂組成物が得られず好ましくなく、25重量部を超えると溶融粘度が高くなり、押出しが困難となる。
【0036】
相溶化剤(D)の配合量は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との合計100重量部に対して、0.5〜10重量部である。相溶化剤(D)の配合量は、1〜8重量部が好ましく、2〜6重量部がより好ましい。相溶化剤(D)の配合量を上記範囲とすることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂マトリクス中にポリアミド樹脂が微分散した海島構造を呈し、これにより優れた電気抵抗の均一性を示す。また、相溶化剤(D)の配合量を2〜6重量部とすることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂とポリアミド樹脂との相溶性が良くなるだけでなく、機械的特性(引張弾性率、引張強度、破断伸び等)にも優れる。
【0037】
[半導電性樹脂組成物の製造方法]
本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法には特に制限はないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、カーボンブラック(C)、相溶化剤(D)及び必要に応じて用いられる添加剤を配合してドライブレンドする方法、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)を予め溶融混練し、ここに所定量のカーボンブラック(C)、相溶化剤及び必要に応じて用いられる添加剤を配合する方法、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、カーボンブラック(C)、相溶化剤(D)及び必要に応じて用いられる添加剤を配合してドライブレンドした後に溶融混練する方法、ポリアミド樹脂(B)に所定量のカーボンブラック(C)を配合し、次いで、溶融混練してマスターバッチを作製し、押出成型時にマスターバッチとポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と相溶化剤(D)とを溶融混練する方法等が挙げられる。
【0038】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸もしくは二軸押出機等、公知の種々の押出機が挙げられる。これらの中でも、混練能力や生産性に優れる点から単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0039】
溶融混練時の温度は、使用するポリフッ化ビニリデン樹脂(A)やポリアミド樹脂(B)の種類や溶融粘度等により適宜選択できるが、通常、185〜300℃の範囲であり、樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは190〜280℃である。
【0040】
[成形体]
本発明の成形体は、上記本発明の半導電性樹脂組成物から形成されるものであるが、当該成形体の少なくとも一部に用いられていれば良い。成形体の形態としては、例えば、フィルム状、シート状、チューブ状、ベルト状等が挙げられる。本発明の成形体は、例えば、上述した半導電性樹脂組成物を従来公知の成形方法により成形し、製造することができる。当該方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、プレス成形等の成形法を例示することができる。
【0041】
フィルム又はシート状の成形体を製造する場合、フラットダイを備えた押出成形法が好ましい。フラットダイを備えた押出成形法としては、例えば、押出機と、該押出機の下方に該押出機に連通してフラットダイが配設され、該フラットダイの下方には、該フラットダイから押し出される溶融樹脂を冷却するための冷却ロールとタッチロールとが配設された押出成形装置を用い、半導電性樹脂組成物を押出機に供給して、溶融・加圧された半導電性樹脂組成物をフラットダイの先端からフィルム状に押出し、冷却ロールにて冷却固化することでフィルム又はシート状の成形体とする方法が挙げられる。
【0042】
一方、チューブ状又はベルト状の成形体を製造する場合、インフレーション押出成形法が好ましい。インフレーション押出成形法としては、例えば、押出機と、該押出機の下方に該押出機に連通して環状ダイスが配置され、該環状ダイスの下方には、該環状ダイスから下向きに押し出される溶融樹脂をその外周に担持させて冷却固化するマンドレルが配設された押出成形装置を用い、半導電性樹脂組成物を押出機に供給して、溶融・加圧された半導電性樹脂組成物を環状ダイスからチューブ状に押出し、マンドレルの外周に担持させて冷却固化することによりチューブ状の成形体とする方法が挙げられる。また、その際、チューブ状の成形体を所望の幅に切断することでベルト状の成形体とすることができる。
【0043】
なお、これらの説明は単層に関するものであったが、2層の場合は更に別の押出機を配設し、2層用のダイスにそれぞれの押出機から溶融状態の組成物を供給し、ダイスから2層同時に押し出すことで得ることができる。また、3層以上の時は、層数に応じた押出機及びダイスを準備すれば良い。
【0044】
本発明の成形体は、自動車関連部品、OA機器部品、電子・電気部品、機械部品等の成形品、包装用フィルム、中空容器、パイプ、チューブ、ホース等の各種成形品、繊維等として好適に用いることができる。
【0045】
[電子写真用シームレスベルト]
上記の中でも、本発明の成形体は、電気抵抗の均一性に優れる為、特に電子写真用シームレスベルトとして好適に使用することができる。また、ここでいう電子写真用シームレスベルトとは、電子写真方式の画像形成装置に用いる転写搬送ベルトまたは中間転写ベルトである。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において行った物性の測定方法は次の通りである。
(1)溶融粘度
長さ10mm×直径1mmのダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用いて溶融粘度を測定した。なお、その単位を(poise)として表した。
(2)電気抵抗(体積抵抗率)及び電気抵抗のバラつき
URSプローブを取り付けたハイレスタUP(MCP−HT450、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、460mm×400mmのサンプルについてTD方向に23点、MD方向に20点の体積抵抗率を測定した。次いで、体積抵抗率の測定値の平均値を求め、それをサンプルの体積抵抗率とした。(測定条件:温度23℃、相対湿度50%RH、荷重2kg、印加電圧500V、10秒)また、体積抵抗率の測定値のバラつきを求め、以下の評価基準に基づき評価した。
○:体積抵抗率のバラつきが1桁以内
×:体積抵抗率のバラつきが1桁を超える
(3)分散相サイズ
ロータリミクロトーム(ST−102型、株式会社日本ミクロトーム社製)を用いて厚さ2〜5μmに試験片を切出した後、得られた樹脂組成物の試験片をデジタルマイクロスコープ(VHX−500、株式会社キーエンス社製)を用いて試験片断面の観察を行った。試験片の相分離構造が図1に示すような海島構造であった場合、測定サンプル上のランダムに選択した点を中心に低倍率から徐々に倍率を上げ、ポリアミド樹脂の分散相(島)が50個以上100個未満観察されたときに、分散相の粒径を測定した。(分散相の粒径は、長軸aの長さと短軸bの長さとの平均値とする。)この操作を10点で繰り返し行い、その平均値をポリアミド樹脂の平均粒径とした。
【0047】
原料としては、下記のものを用いた。
<ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)>
・ポリフッ化ビニリデン(A−1)[融点:168℃、溶融粘度:4500poise(測定温度200℃、荷重100kg)、製品名:KYNAR710、アルケマ社製]
・ポリフッ化ビニリデン(A−2)[融点:168℃、溶融粘度:15000poise(測定温度200℃、荷重100kg)、製品名:KYNAR740、アルケマ社製)]
<ポリアミド樹脂(B)>
・ナイロン6,12(B−1)[融点:130℃、製品名:UBEナイロン 7128B、宇部興産社製]
・ナイロン6(B−2)[融点:225℃、溶融粘度:19340poise(測定温度230℃、荷重100kg)、製品名:アラミン CM1046、東レ社製]
・ナイロン6(B−3)[融点:215〜225℃、溶融粘度:1500poise(測定温度230℃、荷重100kg)、製品名:UBEナイロン 1013B、宇部興産社製]
・ナイロン6(B−4)[融点:215〜225℃、溶融粘度:1100poise(測定温度240℃、荷重100kg)、製品名:UBEナイロン 1011FX、宇部興産社製]
・ナイロン12(B−5)[融点:176〜180℃、溶融粘度:1700poise(測定温度200℃、荷重100kg)、製品名:UBEナイロン 3014U、宇部興産社製]
<カーボンブラック(C)>
・カーボンブラック(C−1)配合マスターバッチ[変性ポリオレフィン:ナイロン6,12:カーボンブラック=40:60:28、製品名:リオコンダクト、東洋インキ社製]
・カーボンブラック(C−2)[製品名:デンカブラック(粒状)、電気化学工業社製]
・カーボンブラック(C−3)[製品名:ENSACO 260G、ティムカル社製]
<相溶化剤(D)>
・相溶化剤(D−1)[メタクリル酸メチル−グリシジルメタクリレート共重合体、製品名:ブレンマー CP−50M、日油社製]
・相溶化剤(D−2)[主鎖:メタクリル酸メチル−グリシジルメタクリレート共重合体、側鎖:メタクリル酸メチル重合体、製品名:レゼタ GP−301、東亜合成社製]
・相溶化剤(D−3)[エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、側鎖:メタクリル酸ブチル重合体、製品名:モディパー A4300、日油社製]
・相溶化剤(D−4)[スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、製品名:アルフォン UG−4035、東亜合成社製]
【0048】
参考例1乃至4、比較例1乃至3]
表1に示した配合比となるよう、各原料をドライブレンドし、得られた混合物をラボプラストミルのローラーミキサーR60H[東洋精機製]に仕込み、表1に示す条件にて溶融混練した。得られた組成物を卓上プレス機にて180℃で90秒間予熱し、次いで、180℃×30秒間熱圧プレスして厚さ150μmのフィルムを得た。得られたフィルムの分散相サイズの測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体(D−1)を用いた参考例1及び2の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンのマトリクス中にナイロン6,12が微分散した海島構造を呈し、分散相のサイズが10μm以下となる結果を示した。また、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーとを含むグラフト共重合体(D−2)を用いた参考例3及び4の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンマトリクス中にナイロン6,12が微分散した海島構造を呈し、分散相のサイズが3μm以下となる結果を示した。一方、表1に示すように、相溶化剤(D)として、主鎖がエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であり、側鎖がメタクリル酸ブチル重合体であるグラフト共重合体(D−3)を用いた比較例1及び2の樹脂組成物は、分散相のサイズが10μmを超える結果を示した。また、相溶化剤(D)を配合しなかった比較例3の樹脂組成物も、比較例1及び2と同様、分散相のサイズが10μmを超える結果を示した。
【0051】
参考例5乃至8、比較例4乃至6]
表2に示した配合比となるよう、各原料をドライブレンドし、得られた混合物をラボプラストミルのローラーミキサーR60H[東洋精機製]に仕込み、表2に示す条件にて溶融混練した。得られた組成物を卓上プレス機にて230℃で90秒間予熱し、次いで、230℃×30秒間熱圧プレスして厚さ150μmのフィルムを得た。得られたフィルムの分散相サイズの測定結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示すように、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体(D−1)を用いた参考例5及び6の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンのマトリクス中にナイロン6が微分散した海島構造を呈し、分散相のサイズが8μm以下となる結果を示した。また、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーとを含むグラフト共重合体(D−2)を用いた参考例7及び8の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンマトリクス中にナイロン6が微分散した海島構造を呈し、分散相のサイズが10μm以下となる結果を示した。一方、表2に示すように、相溶化剤(D)として、主鎖がエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であり、側鎖がメタクリル酸ブチル重合体であるグラフト共重合体(D−3)を用いた比較例4及び5の樹脂組成物は、分散相のサイズが10μmを超える結果を示した。また、相溶化剤(D)を配合しなかった比較例6の樹脂組成物も、比較例4及び5と同様、分散相のサイズが10μmを超える結果を示した。
【0054】
[実施例9乃至11、比較例7乃至10]
表3に示した配合比となるよう、各原料をドライブレンドし、得られた混合物をラボプラストミルのローラーミキサーR60H[東洋精機製]に仕込み、表3に示す条件にて溶融混練した。得られた組成物を卓上プレス機にて200℃で90秒間予熱し、次いで、200℃×30秒間熱圧プレスして厚さ150μmのフィルムを得た。得られたフィルムの分散相サイズの測定結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体(D−1)を用いた実施例9及び10の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンのマトリクス中にナイロン12が微分散した海島構造を呈し、分散相のサイズが5μm以下となる結果を示した。また、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーとを含むグラフト共重合体(D−2)を用いた実施例11の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンマトリクス中にナイロン12が微分散した海島構造を呈し、分散相のサイズが5μm以下となる結果を示した。一方、表3に示すように、相溶化剤(D)として、主鎖がエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であり、側鎖がメタクリル酸ブチル重合体であるグラフト共重合体(D−3)を用いた比較例7及び8の樹脂組成物は、分散相のサイズが10μmを超える結果を示した。また、相溶化剤(D)として、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(D−4)を用いた比較例9の樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン相とナイロン12相とが交錯した相互連結構造となっており、ナイロン12相が分散相とならず、分散相のサイズを測定することができなかった。なお、相溶化剤(D)を配合しなかった比較例10の樹脂組成物は、比較例7及び8と同様、分散相のサイズが10μmを超える結果を示した。
【0057】
[実施例12及び13]
表4に示した配合比となるよう、ポリフッ化ビニリデン(A−1)と、ナイロン6,12(B−1)と、カーボンブラック(C−1)配合マスターバッチと、相溶化剤(D−2)とをスクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて溶融混練し、コンパウンドを得た。次いで、得られたコンパウンドを環状ダイス(設定温度:195℃、押出径50φmm)を備えた単軸押出機に供給し、溶融状態でチューブ状に押出す(押出速度:1.0m/min)ことで厚さ100μmのチューブ状の半導電性樹脂組成物からなる成形体を得た。得られたチューブ状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性の測定結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4に示すように、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーとを含むグラフト共重合体(D−2)を用いた樹脂組成物からなる実施例12及び13のチューブ状成形体は、ポリフッ化ビニリデンのマトリクス中にナイロン6,12が微分散した海島構造を呈し、半導電性領域の体積抵抗率のバラつきが小さい結果を示した。
【0060】
[マスターバッチ1及び2の調製]
ナイロン6(B−4)70重量%とカーボンブラック(C−2)30重量%とをスクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて溶融混練し、カーボンブラック(C−2)30重量%のマスターバッチ1を調製した。また、カーボンブラック(C−3)25重量%のマスターバッチ2を同様の方法により調整した。
【0061】
参考例14、実施例15、参考例16及び17]
表5に示した配合比となるよう、上記マスターバッチとポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、相溶化剤(D)とをスクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて溶融混練し、コンパウンドを得た。次いで、得られたコンパウンドを環状ダイス(設定温度:240℃、押出径50φmm)を備えた単軸押出機に供給し、溶融状態でチューブ状に押出す(押出速度:1.5m/min)ことで厚さ100μmのチューブ状の半導電性樹脂組成物からなる成形体を得た。得られたチューブ状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性の測定結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5に示すように、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーとを含むグラフト共重合体(D−2)を用いた樹脂組成物からなる参考例14、実施例15、参考例16及び17のチューブ状成形体は、ポリフッ化ビニリデンのマトリクス中にナイロン6が微分散した海島構造を呈し、半導電性領域の体積抵抗率のバラつきが小さい結果を示した。

【0064】
[マスターバッチ3及び4の調製]
ナイロン12(B−5)75重量%とカーボンブラック(C−3)25重量%とをスクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて溶融混練し、カーボンブラック(C−3)25重量%のマスターバッチ3を調製した。また、カーボンブラック(C−3)20重量%のマスターバッチ4を同様の方法により調整した。
【0065】
[実施例18乃至21]
表6に示した配合比となるよう、上記マスターバッチと、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、相溶化剤(D)とをスクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて溶融混練し、コンパウンドを得た。次いで、得られたコンパウンドを環状ダイス(設定温度:190℃、押出径50φmm)を備えた単軸押出機に供給し、溶融状態でチューブ状に押出す(押出速度:2.0m/min)ことで厚さ100μmのチューブ状の半導電性樹脂組成物からなる成形体を得た。得られたチューブ状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性の測定結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
表6に示すように、相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体(D−1)を用いた実施例18及び19のチューブ状成形体、及び相溶化剤(D)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成要件と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来のマクロモノマーとを含むグラフト共重合体(D−2)を用いた樹脂組成物からなる実施例20及び21のチューブ状成形体は、ポリフッ化ビニリデンのマトリクス中にナイロン12が微分散した海島構造を呈し、半導電性領域の体積抵抗率のバラつきが小さい結果を示した。
【0068】
以上の如く、本発明によれば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との相溶化剤(D)として、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と相溶性を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、ポリアミド樹脂(B)末端のアミノ基と反応性を示すエポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体を用いることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)マトリクス中にポリアミド樹脂(B)が微分散した海島構造を呈する半導電性樹脂組成物を得ることができ、該半導電性樹脂組成物は電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる電子写真用シームレスベルト等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1:ポリアミド樹脂
2:ポリフッ化ビニリデン樹脂


図1