(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている従来の巻線装置では、ニードル駆動装置が、主軸に対して相対的に回転し、螺旋状のカム溝が形成されているカムと、一方端側がニードルに連結され、他方端側がカムのカム溝に移動可能に嵌合されているピンにより構成されている。
このようなニードル駆動装置では、固定子コア回転軸と交差する交差方向(径方向)に沿ったニードルの移動量は、カム面におけるカム溝を形成するスペースによって制限される。例えば、ニードルを3個設ける場合には、カム面の約120度の範囲内に螺旋状のカム溝が形成される。
ここで、カムの内径は、カムの内側空間に主軸が挿入可能な値に定められている(例えば、22mm)。このため、カム面におけるカム溝を形成するスペースは、カムの外径、すなわち、巻線装置が配置される固定子コアの内側空間(回転子挿入空間)を形成する固定子コアの内径によって制限される。
したがって、固定子コアの内径が小さく、スロットの深さが深い固定子コアに対しては、ニードルが届かないスロットの奥に導線を整列して巻き付けることができず、導線の占積率が低下する。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、ニードルの移動量を拡大することができる巻線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の巻線装置を用いて導線を巻き付ける対象である固定子コアは、典型的には、周方向に沿って延在するヨークと、ヨークから固定子コア中心軸の方向に径方向に沿って延在する複数のティースと、周方向に隣接するティースによって形成される複数のスロットと、ティースの固定子コア中心側のティース先端面により構成される固定子コア内周面によって形成される内側空間(回転子挿入空間)を有している。導線は、スロット内を通ってティースに巻き付けられる。なお、本発明の巻線装置は、固定子コアの軸方向両側に、絶縁特性を有する樹脂製のボビンを配置し、ボビンを介して導線をティースに巻き付ける場合にも用いることができる。
本発明の巻線装置は、導線を供給するニードルと、ニードルを支持する支持部材を備えている。支持部材は、固定子コア中心軸に沿って移動するとともに、固定子コア中心軸を中心に回転する。好適には、支持部材を固定子コア中心軸に沿って移動させる第1の駆動手段と、支持部材を固定子コア中心軸を中心として回転させる第2の駆動手段が設けられる。第1の駆動手段および第2の駆動手段としては、公知の種々の駆動手段を用いることができる。また、支持部材は、ニードルを固定子コア中心軸と交差する交差方向に沿って移動可能に支持している。固定子コア中心軸と交差する交差方向としては、典型的には、固定子コア中心軸と直交(「略直交」を含む)する方向(径方向)が設定される。交差方向に沿って移動可能に支持する手法としては、例えば、交差方向に沿って延在するニードルガイド溝を支持部材に形成し、ニードルを、ニードルガイド溝内に、ニードルガイド溝に沿って移動可能に配置する手法を用いることができる。ニードルの数は、適宜の数を選択することができる。好適には、3個あるいは6個が選択される。
また、ニードルを交差方向に沿って移動させるニードル駆動装置を備えている。ニードル駆動装置は、支持部材に対して相対的に回転する第1の部材と、第1の部材の回転運動をニードルの、交差方向に沿った移動運動に変換する運動変換装置を有している。「支持部材に対して相対的に回転する」という記載は、支持部材の固定子コア中心軸に沿った移動や固定子コア中心軸を中心とする回転に関係なく、支持部材に対して回転する構成を意味する。好適には、第1の部材を支持部材に対して相対的に回転させる第3の駆動手段が設けられる。第3の駆動手段としては、公知の種々の駆動手段を用いることができる。
また、運動変換装置は、第1の部材の、支持部材に対する相対的な回転運動を、固定子コア中心軸と異なる回転軸を中心とする回転運動に変換する第1の運動変換装置と、第1の運動変換装置により変換した回転運動をニードルの、交差方向に沿った移動運動に変換する第2の運動変換装置を有している。
典型的には、巻線装置は、ニードルが交差方向に沿って固定子コア中心軸側の端部位置に位置している状態において、支持部材とニードル駆動装置が、固定子コアの内部空間に挿入可能に構成される。
本発明では、第1の部材の、支持部材に対する相対的な回転運動を、固定子コア中心軸と異なる中心軸を中心とする回転運動に変換した後、ニードルの、固定子コア中心軸と交差する交差方向に沿った移動運動に変換しているため、従来の巻線装置に較べて、ニードルの交差方向に沿った移動量を拡大することができる。これにより、従来の巻線装置では届かなかったスロットの奥までニードルを挿入することができ、スロットの奥まで導線を整列して配置することができる。したがって、スロット内における導線の占積率を高めることができる。
本発明の異なる形態では、第1の運動変換装置は、固定子コア中心軸と異なる回転軸を支点とし、支点から第1の距離R1の位置に力点を有し、支点から第2の距離R2(>R1)の位置に作用点を有する第2の部材を有している。そして、第1の部材の、支持部材に対する相対的な回転運動が第2の部材の力点に伝達されるように構成されている。
また、第2の運動変換装置は、第2の部材の作用点の回転運動をニードルの、交差方向に沿った移動運動に変換するように構成されている。
第2の部材としては、好適には、力点を有する短片と作用点を有する長片により構成され、支点を中心に回転するレバーを用いることができる。また、レバーの形状は、短片と長辺をL字状に配置したL字形状、短片と長片をV字状に配置したV字形状、短片と長辺を重ね合わせた重ね合わせ形状等、ニードルの数やレバーを配置するスペースの形状、面積等に応じて適宜選択される。
本形態では、第1の部材の、支持部材に対する相対的な回転運動を、固定子コア中心軸と異なる回転軸を中心とする回転運動に簡単な構成で、容易に変換することができる。また、支点から力点までの距離R1と支点から作用点までの距離R2の比を選択することによって、ニードルの、交差方向に沿った移動量を容易に設定することができる。
本発明の他の異なる形態では、第1の部材は、螺旋状の溝を有する板状部材により構成されている。また、第1の運動変換装置は、第1の部材と第2の部材との間に設けられた第1の連結部材を有している。第1の連結部材は、一方端側が第2の部材の力点に連結され、他方端側が第1の部材の螺旋溝に沿って移動可能に設けられている。
本形態では、簡単な構成で、第1の部材の回転運動を第2の部材に伝達することができる。
本発明の他の異なる形態では、第2の部材は、固定子コア中心軸と異なり、固定子コア中心軸と平行な回転軸を支点として回転するように構成されている。
本形態では、第1の部材と第2の部材との連結および第2の部材とニードルとの連結を簡単に行うことができる。
本発明の他の異なる形態では、第2の部材は、最大外径が固定子コアの内径より小さい板状部材に配置されている。
本形態では、巻線装置の支持部材とニードル駆動装置を固定子コアの内側空間に配置することができる。
本発明の他の異なる形態では、ニードルは、交差方向と交差する方向に沿って延在する溝を有している。また、第2の運動変換装置は、ニードルの溝内に、溝に沿って移動可能に挿入される第3の部材と、第2の部材と第3の部材との間に設けられた第2の連結部材を有している。第2の連結部材は、一方端側が第2の部材の作用点に連結され、他方端側が第3の部材に連結されている。
好適には、ニードルの溝は、交差方向と直角(「略直角」を含む)な方向に延在するように形成される。また、好適には、第2の部材が回転する際における作用点の円弧軌跡が、ニードルの溝の延在方向に沿うように第2の部材とニードルの配置位置が設定される。
ニードルに形成する溝および溝に挿入される第3の部材の形状は適宜設定可能であるが、好適には、第3の部材が溝から抜け出るのを防止することができる形状に設定される。例えば、ニードルの溝は、交差方向に沿った断面形状が、第2の連結部材が創通される開口部の幅が底壁の幅より狭い台形状となるように形成される。第3の部材の断面形状も同様の台形状に形成される。
本形態では、第2の部材の作用点の回転運動をニードルの、交差方向に沿った移動運動に変換する際に発生する、交差方向と交差する方向にニードルを移動させる力を第3の部材の移動により吸収することができる。これにより、ニードルを交差方向に沿って直線状に移動させることができ、ニードルの、交差方向に沿った位置を正確に設定することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ニードルの移動量を拡大することができ、スロットの奥まで導線を整列して巻き付けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、本明細書では、「軸方向」という記載は、固定子コア中心点を通る固定子コア中心軸Pに沿った方向を示し、「周方向」という記載は、固定子コア中心軸Pを中心とする円に沿った方向を示し、「径方向」という記載は、固定子コア中心軸Pと直角な方向を示す。
【0009】
先ず、本発明の巻線装置の概略動作を、
図1を参照して説明する。
図1には、回転機の固定子10の一例が示されている。
図1は、軸方向に直角な方向から見た断面図である。
図1に示されている固定子10は、固定子コア20、スロット絶縁部材30、導線50により構成されている。
固定子コア10は、複数の電磁鋼板を積層した積層体により構成されている。固定子10は、周方向に沿って延在するヨーク21と、ヨーク21から径方向に沿って固定子コア中心軸P方向に延在するティース22を有している。ティース22は、径方向に沿って延在するティース基部23と、ティース基部23の固定子コア中心軸P側に設けられ、周方向に沿って延在するティース先端部24を有している。ティース先端部24の固定子コア中心軸P側には円弧状のティース先端面24aが形成されている。ティース先端面24aは、固定子コア内周面に対応する。ティース先端面24a(固定子コア内周面)によって、固定子コア20の内側空間20aが形成されている。内側空間20aは、図示していない回転子が挿入される回転子挿入空間を形成する。
周方向に隣接するティース22によってスロット25が形成されている。また、周方向に隣接するティース22(ティース先端部24)間には、スロット開口部25aが形成されている。
【0010】
後述する巻線装置100は、固定子コア20の内側空間(回転子挿入空間)20a内に固定子コア中心軸Pと同軸に配置される。そして、導線50を供給するニードル120をスロット開口部25aからスロット25内に挿入した状態で、固定子コア中心軸Pに沿って(
図2に示されている矢印x方向に沿って)移動させるとともに、固定子コア中心軸Pを中心に(
図1、
図3に示されている矢印y方向に沿って)回転させることにより、ニードル120をティース22の回りに旋回させてティース22に導線50を巻き付ける。また、ニードル120を径方向に沿って(
図1、
図3に示されている矢印z方向に沿って)移動させることにより、導線50を径方向に沿って整列して巻き付ける。
なお、以下で説明する実施形態では、固定子コア20の軸方向両側にボビン40(
図2参照)を配置した状態で、ティース22に導線50を巻き付けている。ボビン40は、例えば、絶縁特性を有する樹脂により形成される。ボビン40は、周方向に沿って延在する外壁41と、外壁41より内側に配置され、周方向に沿って延在する内壁44と、外壁41と内壁44を連結する連結部43を有している。ボビン40の外壁41、連結部43および内壁44は、それぞれ固定子コア20のヨーク21、ティース基部23、ティース先端部24に対向する位置に配置される。
【0011】
次に、本発明の巻線装置の一実施形態を
図2〜
図10を参照して説明する。
なお、
図2は、本実施形態の巻線装置100を軸方向に沿った方向から見た断面図であり、
図3は、
図2のIII−III線に沿った断面図である。
図4は、ニードル120を移動させる際の動作を説明する図である。
図5は、本実施形態の巻線装置100の組立図である。
図6は、ニードルガイド113の構成を示す図であり、
図7は、ニードル120とニードルガイドプレート250の構成を示す図であり、
図8は、レバー240の構成を示す図であり、
図9は、レバーガイド230の構成を示す図であり、
図10は、カム220の構成を示す図である。
【0012】
本実施形態の巻線装置100は、中心軸がステータコア中心軸Pと同軸に配置される主軸110を有している。主軸110の内側には、下方から導線50が挿入される孔110aが形成されている。
主軸110の上部には、ソケット111が配置されている。ソケット111は、ボルト等によって主軸110に固定されている。なお、主軸110とソケット111を一体に形成することもできる。
主軸110は、中心軸が延在する矢印x方向(ステータコア中心軸Pに沿った方向)に移動する。図示は省略しているが、主軸110を矢印x方向に移動させる第1の駆動手段が設けられている。第1の駆動手段としては、公知の種々の駆動手段を用いることができるため、説明は省略する。
また、主軸110は、中心軸(ステータコア中心軸P)を中心に
図1に示す矢印y方向に回転する。図示は省略しているが、主軸110を矢印y方向に回転させる第2の駆動手段が設けられている。第2の駆動手段としては、公知の種々の駆動手段を用いることができるため、説明は省略する。
【0013】
ソケット111の上部には、ニードルガイド113が配置されている。ニードルガイド113は、ボルト114によってソケット111に固定されている。ニードルガイド113には、ニードルガイド溝113aが形成されている。
ニードルガイド溝113a内には、導線50を供給するニードル120がニードルガイド溝113aに沿って移動可能に挿入されている。
本実施形態では、ニードル120が3個設けられている。このため、ニードルガイド113には、
図6に示されているように、3つのニードルガイド溝113aが放射状に形成されている。ニードルガイド溝113aは、ニードル120がニードルガイド溝113a内を径方向(ステータコア中心軸Pと直交する方向)に沿って移動可能に形成されている。ニードルガイド113の下面には、ニードル120を径方向に沿って移動させるためのローラピン280(詳しくは後述する)が径方向に沿って移動可能なスリットが形成されている。なお、
図6(a)は、ニードルガイド113を上方(軸方向と直角な方向)から見た平面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の矢印VI方向から見た側面図である。
ニードル120には、主軸110の孔110aに挿入された導線50を供給するための、後端面(ニードルガイド溝113a側の端面)および先端面(ニードルガイド溝113aと反対側の端面)を連通する導線ガイド孔120aが形成されている。
なお、主軸110の孔110aの上端部には、ブッシュ(「ガイドブッシュ」とも呼ばれる)115が配置されている。ブッシュ115は、導線50をガイドするために内側が曲面状に形成されている。
主軸110、ソケット111、ニードルガイド113等により、本発明の「支持部材」が構成されている。
【0014】
主軸110の外周には、差動軸210が配置されている。差動軸210は、主軸110に対して相対的に回転する。図示は省略しているが、差動軸210を主軸110に対して相対的に回転させる第3の駆動手段が設けられている。第3の駆動手段としては、公知の種々の駆動手段を用いることができるため、説明は省略する。
【0015】
差動軸210の上部には、カム220が配置されている。カム220は、ソケット111に対して相対的に回転可能であり、また、ボルト211により差動軸210に固定されている。カム220は、板状部材として形成されている。
カム220には、
図10に示されているように、上面側が開口している螺旋状のカム溝221が形成されている。本実施形態では、ニードル120が3個設けられているため、カム溝221も3つ形成されている。以下では、特に断りがない限り、ニードル120を駆動する構成要素は、ニードル120の数に対応する個数設けられている。なお、
図10(a)は、カム220を上方(軸方向と直角な方向)から見た平面図であり、
図10(b)は、
図10(a)のX−X線に沿った断面図である。
カム220が、本発明の「第1の部材」に対応する。
【0016】
カム220の上部には、レバーガイド230が配置されている。レバーガイド230は、ソケット111に固定されている。レバーガイド230は、板状部材として形成されている。
レバーガイド230には、
図9に示されているように、上面側に、レバー240が回転可能なスペースを有する凹部231が形成されている。そして、レバーガイド230の凹部231に対応する領域には、上面と下面を連通する孔232とガイド溝233が形成されている。なお、孔232は、上面が開口していればよい。ガイド溝233は、軸方向と直角な断面で見て、孔232の中心点を中心とする円弧に沿って延在するように形成されている。なお、
図9(a)は、レバーガイド230を上方(軸方向と直角な方向)から見た平面図であり、
図9(b)は、
図9(a)の矢印IX方向から見た側面図である。
【0017】
本実施形態では、レバーガイド230の凹部231に配置されるレバー240は、
図8に示されているように、短片241と長辺242をL字状に配置したL字形状を有している。また、レバー240には、上面と下面を連通する孔243〜245が形成されている。
図8は、レバー240を上方(軸方向と直角な方向)から見た平面図である。なお、孔244は下面が開口し、孔245は上面が開口していればよい。
孔243(支点孔)は、レバー240の回転中心である支点に対応する箇所に形成されている。孔244(力点孔)は、短片241の、レバー240の力点に対応する箇所に形成されている。孔245(作用点孔)は、長辺242の、作用点に対応する箇所に形成されている。支点と作用点との間の距離R2は、支点と力点との間の距離R1より長く設定されている(R2>R1)。
詳しくは後述するが、レバー240は、支点に対応する箇所に形成されている孔243に挿入されるノックピン248により回転可能に支持される。また、孔244に挿入されるローラピン260を介してカム220の回転力が伝達されてレバー240が回転子し、孔245に挿入されるローラピン280を介してレバー240の回転力がニードル120に伝達される。
レバーガイド230のガイド溝233は、カム220のカム溝221に沿った移動をレバー240の回転に変換する動作を容易とするために設けられている。
孔243(支点孔)、孔244(力点孔)、孔245(作用点孔)は、それぞれ「第1の孔」、「第2の孔、「第3の孔」と表すこともできる。
レバー240が、本発明の「第2の部材」に対応する。
【0018】
レバーガイド230(レバー240)の上部には、ニードルガイドプレート250が配置されている。ニードルガイドプレート250は、ソケット111に固定されている。ニードルガイドプレート250は、
図7に示されているように、上面と下面を連通する孔251とガイド溝252が形成されている。なお、孔251は、下面側が開口していればよい。ガイド溝252は、軸方向と直角な断面で見て、孔251の中心点を中心とする円弧に沿って延在するように形成されている。
図7には、レバーガイド250を上方(軸方向と直角な方向)から見た平面図が示されている。
ニードルガイドプレート250のガイド溝252は、レバー240の回転をニードル120のニードルガイド溝113aに沿った移動に変換する動作を容易とするために設けられている。
【0019】
ニードル120には、
図7に示されているように、下面側(ニードルガイドプレート250側)が開口し、径方向(矢印z方向)と交差する方向(矢印w方向)(好適には、直交する方向)に沿って延在するコマガイド溝121が形成されている。
コマガイド溝121内には、コマ290が、コマガイド溝121に沿って矢印w方向に移動可能に挿入されている。
本実施形態では、コマガイド溝121の、径方向(矢印z方向)に沿った断面形状が、開口部の幅が底面の幅より小さい台形状に形成されている。コマ290の、移動方向(矢印w方向)と交差方向(矢印z方向)に沿った断面形状も、コマガイド溝121の断面形状と同様に台形状に形成されている。これにより、コマガイド溝121内に挿入されたコマ290が、コマガイド溝121の下面に形成されている開口部から抜け出るのを防止することができる。コマ290の下面には、後述するローラピン280が挿入される孔291が形成されている。なお、
図7には、ニードル120およびコマ290の斜視図が示されている。
【0020】
次に、各構成要素の結合関係を説明する。
ここで、差動軸210、カム220、レバーガイド230、ニードルガイドプレート250は、内側空間に主軸110が挿入されている。そして、前述したように、レバーガイド230、ニードルガイドプレート250、ニードルガイド113は主軸110と一体化され、カム220は差動軸210と一体化されている。また、カム220と差動軸210は、主軸110と共に矢印x方向に沿って(ステータコア中心軸Pに沿って)移動するとともに、矢印y方向(ステータコア中心軸Pを中心とする円周方向)に沿って回転する一方、主軸110に対して相対的に回転する。
【0021】
レバー240がレバーガイド230の凹部231に配置された状態で、レバー240の孔(支点孔)243にノックピン248が挿入されている。ノックピン248の一方端は、レバーガイド230の孔232に打ち込まれ、ノックピン248の他方端はニードルガイドプレート250の孔251に打ち込まれている。
これにより、レバー240は、レバーガイド230上において、孔(支点孔)243に挿入され、主軸110に固定されているレバーガイド230とニードルガイドプレート230間に配置されているノックピン248を回転軸として回転可能である。すなわち、レバー240は、支点を中心として回転可能である。
【0022】
レバー240の孔(力点孔)244には、ローラピン260の一方端が打ち込まれている。ローラピン260の他方端は、レバーガイド230に形成されているガイド溝233を通された後、カムローラ270が取り付けられる。そして、カムローラ270は、カム220に形成されているカム溝221内に、カム溝221に沿って移動可能に挿入される。
差動軸210およびカム220が主軸110に対して相対的に回転する(ステータコア中心軸Pの回りに回転)と、カムローラ270がカム溝221に沿って移動する。カム溝221に沿ってカムローラ270が移動すると、カムローラ270に連結されているローラピン260が、レバーガイド230に形成されているガイド溝233にガイドされながら移動する。これにより、カム220の回転が、ローラピン260を介してレバー240の力点(孔244)に伝達され、レバー240は、支点(ノックピン248)を中心として回転する。
【0023】
レバー240の孔(作用点孔)245には、ローラピン280の一方端が打ち込まれている。ローラピン280の他方端は、ニードルガイドプレート250に形成されているガイド溝252を通された後、コマ290の孔291に差し込まれている。
カム220の回転によりレバー240が支点(ノックピン248)を中心として回転すると、レバー240の作用点(孔245)も支点(ノックピン248)を中心として回転する。レバー240の作用点(孔245)が回転すると、レバー240の作用点(孔245)に連結されているローラピン280が、ニードルガイドプレート250に形成されているガイド溝252にガイドされながら移動する。ローラピン280がガイド溝252にガイドされながら移動すると、コマ291にガイド溝252に沿った力が作用する。これにより、コマ291に作用する力によって、ニードル120が、径方向(矢印z方向)に沿って移動する。
【0024】
ここで、レバー240の作用点(孔245)、すなわち、レバー240の作用点に連結されたローラピン280は、レバー240の支点(ノックピン248)を中心とする円弧状に回転し、ニードル120が挿入されているニードルガイド溝113aは、径方向に沿って直線状に形成されている。このため、コマ290が設けられていない場合(ローラピン280の他方端をニードル120に直接連結した場合)には、ローラピン280の円弧軌跡(ガイド溝252の円弧形状)の延在方向をニードルガイド溝113aの延在方向と合わせても、ニードル120に、径方向と交差する方向(矢印w方向)に移動する力が作用する。
本実施形態では、ローラピン280に連結されたコマ290が、ニードル120に、径方向に交差する方向(矢印w方向)に延在するコマガイド溝121を形成している。そして、コマ290を、コマガイド溝121内に、コマガイド溝121に沿って移動可能に挿入するとともに、ローラピン280の他方端をコマ290に連結している。
これにより、コマ290に作用する、径方向(矢印z方向)と交差する方向(矢印w方向)に移動させる力は、コマ290がコマガイド溝121に沿って移動することによって吸収される。
したがって、レバー240の作用点の回転運動を、確実に、ニードル120の径方向に沿った直線移動に変換することができ、ニードル120の径方向に沿って位置を正確に調整することができる。
【0025】
ニードル120を径方向に沿って移動させる際の動作の概略が
図4に示されている。
図4において、レバー240の短片241に設けられている力点(孔244)および長辺242に設けられている作用点(孔245)は、支点(孔243)から距離R1の円弧軌跡Mおよび距離R2(>R1)の円弧軌跡Nに沿って回転する。レバー240は、鎖線で示す位置(ニードル120が径方向に沿ってスロット開口部25a側の位置)から、一点鎖線で示す中間位置を経て、実線で示す位置(ニードル120が径方向に沿ってスロット25の奥側の位置)の間を移動する。
【0026】
ニードル120をスロット25の奥まで移動させた場合の、スロット開口部からニードルの最大到達位置までの距離すなわち、スロット内の奥行深さL(
図1、
図2参照))と固定子コアの内径D(
図1参照)の関係を
図11のグラフに示す。
図11において、横軸は、固定子コアの内径L(mm)を示し、縦軸は、スロット内の奥行深さL(mm)を示している。
実線(1)は、本発明の巻線装置を用いた場合のグラフであり、鎖線(2)は、従来の巻線装置を用いた場合のグラフである。なお、カムの内径は同じ値に設定されている。
図11から、本発明の巻線装置を用いることにより、従来の巻線装置を用いた場合と較べて、ニードルの移動量を拡大することができることが理解できる。
【0027】
以上のように、本実施形態では、ニードルを支持し、ステータコア中心軸Pと同軸に配置される主軸210に対して相対的に回転するカム111の回転運動を、ステータコア中心軸Pと異なり、ステータコア中心軸Pと平行な中心軸を支点とし、支点から距離R1の力点と支点から距離R2(>R1)の作用点を有するレバー240の回転運動に変換し、レバー240の回転運動をニードルの径方向に沿った移動運動に変換している。これにより、ニードルの移動量を拡大することができ、スロットの奥まで整列して導線をティースに巻きつけることができる。したがって、スロット内の導線の占積率を高めることができる。
【0028】
本発明は、実施形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
導線を供給するニードルの数は、3個に限定されない。例えば、6個設けることもできる。この場合、ニードルの数に対応してニードルに関連する構成要素や溝等の数も変更される。
支持部材(主軸)に対して相対的に回転する第1の部材は、支持部材に対して相対的に回転するカム以外の構成要素を用いることもできる。
第1の部材(カム)の回転運動を支持部材(主軸)の中心軸(固定子コア中心軸)と異なる回転軸を中心とする回転運動に変換する第1の運動変換装置としては、螺旋状のカム溝が形成された板状のカムと支持部材(主軸)の中心軸(固定子コア中心軸)と平行な回転軸を支点とするレバーにより構成される運動変換装置に限定されず、種々の構成の運動変換装置を用いることができる。
第1の運動変換装置を構成する第2の部材として用いるレバーの形状は、短片と長辺をL字状に配置したL字形状に限定されず、レバーを配置するスペースの形状や大きさ等に応じて適宜選択される。例えば、短片と長辺をV字状に配置したV字形状や、短片と長辺を重ね合わせて配置した重ね合わせ形状を選択することができる。
第1の運動変換装置を構成する第2の部材としては、レバーに限定されず、種々の構成要素を用いることができる。
支持部材(主軸)の中心軸(固定子コア中心軸)と異なる回転軸を中心とする回転運動をニードルの径方向に沿った移動運動に変換する第2の運動変換装置としては、ニードルに形成された、径方向と交差する方向に延在するコマガイド溝と、コマガイド溝内に移動可能に挿入されるコマにより構成される運動変換装置に限定されず、種々の構成の運動変換装置を用いることができる。また、コマガイド溝とコマは省略可能である。
本発明の巻線装置は、種々の巻線方式でティースに巻き付ける際に用いることができる。