【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるセーリングストップ制御方法及び制御装置は、副変速機付き無段変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1におけるエンジン車のセーリングストップ制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」、「油圧制御系の回路構成」、「セーリングストップ制御処理構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のセーリングストップ制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載されたエンジン車の全体構成を示し、
図2は、変速機コントローラの内部構成を示す。以下、
図1及び
図2に基づき、全体システム構成を説明する。
なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最ロー変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最ハイ変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0014】
図1に示すエンジン車は、走行駆動源として、エンジン始動用のスタータモータ15を有するエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ9を有するトルクコンバータ2、リダクションギア対3、副変速機付き無段変速機4(以下、「自動変速機4」という。)、ファイナルギア対5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。ファイナルギア対5には、駐車時に自動変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。油圧源として、エンジン1の動力により駆動されるメカオイルポンプ10と、モータ51の動力により駆動される電動オイルポンプ50と、を備える。そして、メカオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50からの吐出圧を調圧して自動変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12と、統合コントローラ13と、エンジンコントローラ14と、が設けられている。以下、各構成について説明する。
【0015】
前記自動変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。ここで、「直列に設けられる」とは、動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギア列)を介して接続されていてもよい。ここで、「バリエータ20」は、請求項における「変速機」に対応する。
【0016】
前記バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21,22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21,22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され、固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させるプライマリ油圧シリンダ23aとセカンダリ油圧シリンダ23bを備える。プライマリ油圧シリンダ23aとセカンダリ油圧シリンダ23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21,22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0017】
前記副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)とを備える。
【0018】
前記副変速機構30の変速段は、各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・開放状態を変更すると変更される。例えば、ローブレーキ32を締結し、ハイクラッチ33とリバースブレーキ34を開放すれば副変速機構30の変速段は前進1速段(以下、「低速モード」という。)となる。ハイクラッチ33を締結し、ローブレーキ32とリバースブレーキ34を開放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな前進2速段(以下、「高速モード」という。)となる。また、リバースブレーキ34を締結し、ローブレーキ32とハイクラッチ33を開放すれば副変速機構30の変速段は後進段となる。なお、副変速機構30のローブレーキ32とハイクラッチ33とリバースブレーキ34の全てを開放すれば、駆動輪7への駆動力伝達経路が遮断される。なお、ローブレーキ32とハイクラッチ33を、以下、「フォワードクラッチFwd/C」という。ここで、「ロックアップクラッチ9」と「フォワードクラッチFwd/C」は、請求項における「締結要素」に対応する。
【0019】
前記変速機コントローラ12は、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。この変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比を制御すると共に、副変速機構30の複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)を架け替えることで所定の変速段を達成する。
【0020】
前記入力インターフェース123には、アクセルペダルの踏み込み開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、自動変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、自動変速機4のライン圧(以下、「ライン圧PL」という。)を検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ状態を検出するブレーキスイッチ46の出力信号、などが入力される。さらに、自動変速機4の作動油の油温を検出するCVT油温センサ48の出力信号が入力される。
【0021】
前記記憶装置122には、自動変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(
図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を、出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0022】
前記油圧制御回路11は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り替える。詳しくは後述する。
【0023】
前記統合コントローラ13は、変速機コントローラ12による変速機制御やエンジンコントローラ14によるエンジン制御などが適切に担保されるように、複数の車載コントローラの統合管理を行う。この統合コントローラ13は、変速機コントローラ12やエンジンコントローラ14などの車載コントローラとCAN通信線25を介して情報交換が可能に接続される。そして、惰性走行中にエンジン1を停止するセーリングストップ制御、などを行う。
【0024】
前記エンジンコントローラ14は、エンジン1へのフューエルカットによるエンジン停止制御、スタータモータ15を用いてエンジン1を始動するエンジン始動制御、などを行う。このエンジンコントローラ14には、エンジン1の回転数(以下、「エンジン回転数Ne」という。)を検出するエンジン回転数センサ47の出力信号、などが入力される。
【0025】
[変速マップによる変速制御構成]
図3は、変速機コントローラの記憶装置に格納される変速マップの一例を示す。以下、
図3に基づき、変速マップによる変速制御構成を説明する。
【0026】
前記自動変速機4の動作点は、
図3に示す変速マップ上で車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。自動変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが自動変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに、副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。
この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、自動変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線F/L(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線P/L(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線C/L(アクセル開度APO=0/8のときの変速線)のみが示されている。
【0027】
前記自動変速機4が低速モードのときには、自動変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最ロー線LL/Lと、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最ハイ線LH/Lと、の間で変速することができる。このとき、自動変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、自動変速機4が高速モードのときには、自動変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最ロー線HL/Lと、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最ハイ線HH/Lと、の間で変速することができる。このとき、自動変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0028】
前記副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最ハイ線LH/Lに対応する変速比(低速モード最ハイ変速比)が高速モード最ロー線HL/Lに対応する変速比(高速モード最ロー変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとり得る自動変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲LREと、高速モードでとり得る自動変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲HREと、が部分的に重複する。自動変速機4の動作点が高速モード最ロー線HL/Lと低速モード最ハイ線LH/Lで挟まれるB領域(重複領域)にあるときは、自動変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0029】
前記変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0030】
前記変速マップ上には、副変速機構30のアップ変速を行うモード切替アップ変速線MU/L(副変速機構30の1→2アップ変速線)が、低速モード最ハイ線LH/L上に略重なるように設定されている。モード切替アップ変速線MU/Lに対応するスルー変速比Ratioは、低速モード最ハイ線LH/L(低速モード最ハイ変速比)に略等しい。また、変速マップ上には、副変速機構30のダウン変速を行うモード切替ダウン変速線MD/L(副変速機構30の2→1ダウン変速線)が、高速モード最ロー線HL/L上に略重なるように設定されている。モード切替ダウン変速線MD/Lに対応するスルー変速比Ratioは、高速モード最ロー変速比(高速モード最ロー線HL/L)に略等しい。
【0031】
そして、自動変速機4の動作点がモード切替アップ変速線MU/L又はモード切替ダウン変速線MD/Lを横切った場合、すなわち、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替変速比mRatioを跨いで変化した場合やモード切替変速比mRatioと一致した場合には、変速機コントローラ12はモード切替変速制御を行う。このモード切替変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させるというように2つの変速を協調させる「協調制御」を行う。
【0032】
前記「協調制御」では、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替アップ変速線MU/LをB領域側からC領域側に向かって横切ったときや、B領域側からモード切替アップ変速線MU/Lと一致した場合に、変速機コントローラ12は、1→2アップ変速判定を出し、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最ハイ変速比からロー変速比に変化させる。逆に、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替ダウン変速線MD/LをB領域側からA領域側に向かって横切ったときや、B領域側からモード切替ダウン変速線MD/Lと一致した場合、変速機コントローラ12は、2→1ダウン変速判定を出し、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最ロー変速比からハイ変速比側に変化させる。
【0033】
前記モード切替アップ変速時又はモード切替ダウン変速時において、バリエータ20の変速比vRatioを変化させる「協調制御」を行う理由は、自動変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転数の変化に伴う運転者の違和感を抑えることができるとともに、副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0034】
[油圧制御系の回路構成]
図4は、実施例1の自動変速機4における油圧制御系の回路構成を示す。以下、
図4に基づき、油圧制御回路11を中心とする油圧制御系構成を説明する。
【0035】
前記プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22への油圧制御回路として、
図4に示すように、ライン圧レギュレータ弁211と、プライマリプーリ圧制御弁212と、ソレノイド213と、パイロット弁214と、を備えている。
即ち、メカオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50から吐出される作動油を油圧源とし、ライン圧レギュレータ弁211でライン圧PLが調圧される。プライマリプーリ21のプライマリ油圧シリンダ23aへは、ライン圧PLを元圧とし、ソレノイド213からの作動信号圧に基づきプライマリプーリ圧制御弁212により調圧した油圧が供給される。セカンダリプーリ22のセカンダリ油圧シリンダ23bへは、ライン圧PLが供給される。なお、ソレノイド213からの作動信号圧は、パイロットA圧ベースになり、以下に述べるソレノイドからの作動信号圧も同様である。
【0036】
前記副変速機構30への油圧回路として、
図4に示すように、ソレノイド215と、ローブレーキ圧制御弁216と、ソレノイド217と、ハイクラッチ圧制御弁218と、ソレノイド219と、リバースブレーキ圧制御弁220と、を備えている。
即ち、ローブレーキ32へは、ライン圧PLを元圧とし、ソレノイド215からの作動信号圧に基づきローブレーキ圧制御弁216により調圧した油圧が供給される。ハイクラッチ33へは、ライン圧PLを元圧とし、ソレノイド217からの作動信号圧に基づきハイクラッチ圧制御弁218により調圧した油圧が供給される。リバースブレーキ34へは、ライン圧PLを元圧とし、ソレノイド219からの作動信号圧に基づきリバースブレーキ圧制御弁220により調圧した油圧が供給される。
【0037】
前記トルクコンバータ2への油圧回路として、
図4に示すように、トルクコンバータ圧レギュレータ弁221と、ソレノイド222と、ロックアップ制御弁223と、を備えている。
即ち、トルクコンバータ圧レギュレータ弁221では、ライン圧レギュレータ弁211及びパイロット弁214からバイパス回路を介して導かれるドレーン作動油を元圧とし、トルクコンバータ圧を調圧する。ロックアップ制御弁223では、トルクコンバータ圧レギュレータ弁221からのトルクコンバータ圧を元圧とし、ソレノイド222からの作動信号圧に基づいてトルクコンバータ2のアプライ室とリリース室の油圧を制御する。ここで、アプライ室とリリース室とは、ロックアップクラッチ9を介して画成されるトルクコンバータ2の内部室である。そして、ロックアップクラッチ9を締結するときは、アプライ室に油圧を供給し、リリース室の作動油をドレーンする流れで差圧締結する。締結状態のロックアップクラッチ9を開放するときは、油の流れの方向を切り替え、リリース室に油圧を供給し、アプライ室を介して戻す作動油の流れで開放する。なお、ロックアップクラッチ9のロックアップ圧(L/U圧)は、L/U圧=(アプライ圧−リリース圧)の式であらわされる。
【0038】
[セーリングストップ制御処理構成]
図5は、実施例1の統合コントローラ13で実行されるセーリングストップ制御処理構成の流れを示す(セーリングストップ制御部)。以下、セーリングストップ制御処理構成をあらわす
図5の各ステップについて説明する。なお、ブレーキペダルは、ペダル足放し状態であるとする。
【0039】
ステップS1では、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を締結しての走行中、セーリングストップ入り条件が成立したか否かを判断する。YES(セーリングストップ入り条件成立)の場合はステップS2へ進み、NO(セーリングストップ入り条件不成立)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
ここで、「セーリングストップ入り条件」とは、
(a)エンジン駆動による前進走行中(レンジ位置信号や車速信号などにより判断)
(b)ブレーキOFF(ブレーキスイッチ信号により判断)
(c)アクセルOFF(開度=0のアクセル開度信号により判断)
をいい、上記(a)〜(c)の条件を全て満足する状態が所定時間(ディレー時間:例えば、1秒〜2秒)経過すると、セーリングストップ入り条件成立とする。即ち、運転者が加速や停止を意図しておらず、惰性走行を行うことを検知する条件に設定している。
【0040】
ステップS2では、ステップS1でのセーリングストップ入り条件成立であるとの判断に続き、CVT油温が閾値を超えているか否かを判断する。YES(CVT油温>閾値)の場合はステップS3へ進み、NO(CVT油温≦閾値)の場合はステップS8へ進む。
ここで、「CVT油温」の情報は、CVT油温センサ48からの出力信号に基づき取得する。「閾値」は、変速機作動油のリーク量が増える油温判定値(固定値)として設定される。つまり、CVT油温>閾値では、油のリーク量が増えるため、摩擦締結要素の締結に時間を要し、動力伝達状態とするまでのタイムラグがあることによる。
【0041】
ステップS3では、ステップS2でのCVT油温>閾値であるとの判断に続き、エンジン1の押しがけ再始動ができない押しがけ不可判定を出し、セーリング制御中の待機油圧を上昇させる油圧アップ制御を実施せず、ステップS4へ進む。
【0042】
ステップS4では、ステップS3での押しがけ不可判定及び油圧アップを実施しない処理に続き、電動オイルポンプ50のモータ51を起動し、締結状態であるフォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を開放し、エンジン1を停止することで、油圧通常制御によるセーリングストップ制御を実施し、ステップS5へ進む。
ここで、電動オイルポンプ50のモータ起動により、エンジン1が停止しているセーリングストップ制御中、油圧源が確保される。
【0043】
ステップS5では、ステップS4での油圧通常制御によるセーリングストップ制御の実施に続き、セーリング制御による惰性走行中、セーリングストップ抜け条件が成立したか否かを判断する。YES(セーリングストップ抜け条件成立)の場合はステップS6へ進み、NO(セーリングストップ抜け条件不成立)の場合はステップS4へ戻る。
ここで、「セーリングストップ抜け条件」とは、アクセルON(開度>0のアクセル開度信号により判断)、又は、ブレーキON(ブレーキスイッチ信号により判断)をいう。つまり、アクセル足放しからアクセル踏み込みに移行すると、セーリングストップ抜け条件成立とする。又、ブレーキ足放しからブレーキ踏み込みに移行すると、セーリングストップ抜け条件成立とする。
【0044】
ステップS6では、ステップS5でのセーリングストップ抜け条件成立との判断、或いは、ステップS12での押しがけ不可判定に続き、スタータモータ15によるエンジン始動制御を行い、ステップS7へ進む。
【0045】
ステップS7では、ステップS6でのエンジン1のスタータ始動、或いは、ステップS13での押しがけ可判定に続き、ステップS4にて開放したフォワードクラッチFwd/Cを締結し、終了へ進む。
ここで、フォワードクラッチFwd/Cの締結では、滑り締結状態で締結容量を増大させ、クラッチ入出力回転数が同期回転状態になったとき完全締結させる。
【0046】
ステップS8では、ステップS2でのCVT油温≦閾値であるとの判断に続き、エンジン1の押しがけ再始動ができる押しがけ可判定を出し、セーリング制御中の待機油圧を上昇させる油圧アップ制御を実施し、ステップS9へ進む。
【0047】
ステップS9では、ステップS8での押しがけ可判定及び油圧アップの実施処理に続き、電動オイルポンプ50のモータ51を起動し、締結状態であるフォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を開放し、エンジン1を停止することで、油圧アップ制御によるセーリングストップ制御を実施し、ステップS10へ進む。
ここで、電動オイルポンプ50のモータ起動により、エンジン1が停止しているセーリングストップ制御中、油圧源が確保される。そして、油圧アップ制御により、バリエータ20のプライマリ圧(Pri圧)とセカンダリ圧(Sec圧)が確保されると共に、ロックアップクラッチ9の締結圧が確保される。つまり、エンジン1を押しがけ再始動する際、駆動輪7からバリエータ20に入力される動力を伝達可能な所定伝達容量(エンジン1の押しがけ再始動可能な伝達容量のうち、最小の伝達容量値)とした状態でセーリングストップ制御による惰性走行が行われる。なお、フォワードクラッチFwd/Cを開放しているセーリングストップ制御中は、油圧アップ制御の実害はない。
【0048】
ステップS10では、ステップS9での油圧アップ制御によるセーリングストップ制御の実施に続き、セーリング制御による惰性走行中、セーリングストップ抜け条件が成立したか否かを判断する。YES(セーリングストップ抜け条件成立)の場合はステップS11へ進み、NO(セーリングストップ抜け条件不成立)の場合はステップS9へ戻る。
ここで、「セーリングストップ抜け条件」は、ステップS5と同様である。
【0049】
ステップS11では、ステップS10でのセーリングストップ抜け条件成立との判断に続き、バリエータ20の変速比(Ratio)が閾値を超えているか否かを判断する。YES(バリエータ変速比>閾値:閾値よりロー変速比側)の場合はステップS12へ進み、NO(バリエータ変速比≦閾値:閾値以下のハイ変速比側)の場合はステップS13へ進む。
ここで、「バリエータ変速比の閾値」は、電動オイルポンプ50の最大吐出出力に基づき決まる値である。即ち、エンジン1を再始動するために駆動輪7からエンジン1に入力すべき最低動力は固定値として決まる。このとき、フォワードクラッチFwd/Cにて伝達すべき動力はバリエータ20の変速比によって異なる。エンジン1に最低動力を伝達するためにフォワードクラッチFwd/Cに必要な動力伝達量は、バリエータ20の変速比がLow変速比であるほど大きくなる。このフォワードクラッチFwd/Cに必要な動力伝達量を、現在の電動オイルポンプ50で達成可能なバリエータ変速比を閾値(所定変速比)とする。
【0050】
ステップS12では、ステップS11でのバリエータ変速比>閾値(閾値よりロー変速比側)であるとの判断に続き、エンジン1の押しがけ再始動ができない押しがけ不可判定をし、ステップS6(スタータ再始動)へ進む。
【0051】
ステップS13では、ステップS11でのバリエータ変速比≦閾値(閾値以下のハイ変速比側)であるとの判断に続き、エンジン1の押しがけ再始動ができる押しがけ可判定をし、ステップS7(クラッチ締結)へ進む。
【0052】
次に、作用を説明する。
実施例1のエンジン車のセーリングストップ制御装置における作用を、「比較例でのセーリングストップ制御作用」、「セーリングストップ制御処理作用」、「セーリングストップ制御動作」、「セーリングストップ制御方法の特徴作用」、「他の特徴作用」に分けて説明する。
【0053】
[比較例でのセーリングストップ制御作用]
セーリングストップ制御中、フォワードクラッチFwd/CとロックアップクラッチLU/Cとを共に開放状態にし、油圧通常制御によるセーリングストップ制御を実施し、エンジンの押しがけ再始動を行うものを比較例とする。
【0054】
上記比較例のように、セーリングストップ制御中、フォワードクラッチFwd/CとロックアップクラッチLU/Cとを共に開放状態とする理由として、次のような点が考えられる。セーリングストップ制御に際して、ロックアップクラッチLU/Cを開放するのみでは、トルクコンバータ内の流体により駆動輪からのトルクがエンジンに入力され、エンジンが引きずり負荷となりセーリングストップ走行距離が低下する。これを防ぐべく、ロックアップクラッチLU/CではなくフォワードクラッチFwd/Cを開放する。
ここで、セーリングストップ制御を終了する際は、エンジンから駆動輪へ動力伝達すべく、フォワードクラッチFwd/Cを締結する必要があり、差回転状態にあるフォワードクラッチFwd/Cを締結する際、締結ショックが発生する。なお、締結ショック防ぐべく、ゆっくり締結すると駆動力応答性ラグがある。この締結ショックを緩和すべく、セーリングストップ制御中、ロックアップクラッチLU/Cを開放状態とする。
このような点から、セーリングストップ制御中、フォワードクラッチFwd/C及びロックアップクラッチLU/Cを開放状態とすることが考えられる。
【0055】
しかしながら、比較例において、アクセル踏み込み操作がなされ、セーリングストップ制御から復帰する場合、プーリ圧の上昇やフォワードクラッチFwd/Cの締結が遅れ、前後G発生までのラグが生じ、運転性が悪化してしまう。
【0056】
その理由は、
・セーリングストップ制御中、エンジンが完全停止するため、CVTのオイルポンプ(エンジン駆動)からの油の供給がされない。
・エンジン始動からフォワードクラッチFwd/Cを締結するまでの時間が短いため、オイルポンプ供給流量が限られる。
・電動オイルポンプを搭載しているが、プーリ圧を上昇させながら、フォワードクラッチFwd/Cを締結するだけの必要な吐出出力を備えていない。
などによる。
ここで、“吐出出力”とは、吐出圧と吐出流量の積であって、吐出出力を低くすることは、吐出圧又は/及び吐出流量を低下させることを意味する。
【0057】
この比較例では、セーリングストップ制御中、フォワードクラッチFwd/CとロックアップクラッチLU/Cを共に開放状態としている。このため、セーリングストップ制御を終了して押しがけを行うに際して、電動オイルポンプにより、フォワードクラッチFwd/CとロックアップクラッチLU/Cとを所定伝達容量まで増大させる必要がある。よって、小型の電動オイルポンプを用いた場合、両者の伝達容量を増大させるのに時間を要し、押しがけによりエンジンが再始動されるまでにタイムラグが長くなる。例えば、アクセル踏み込み操作による再加速要求に基づくエンジン再始動である場合、駆動力の発生までに時間を要し、再加速性が悪化する。この問題を解決すべく、吐出出力の大きな電動オイルポンプを用いることが考えられるが、電動オイルポンプの大型化に伴い、コスト増大や搭載性が悪化する。
【0058】
[セーリングストップ制御処理作用]
実施例1のセーリングストップ制御処理作用を、
図5に示すフローチャートに基づき説明する。
まず、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/Cを締結しての走行中、セーリングストップ入り条件が成立すると、
図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2へと進む。ステップS2では、CVT油温が閾値を超えているか否かが判断され、
CVT油温>閾値であると判断されると、ステップS2からステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む。ステップS3では、エンジン1の押しがけ再始動ができない押しがけ不可判定が出され、セーリング制御中の待機油圧を上昇させる油圧アップ制御が実施されない。ステップS4では、電動オイルポンプ50のモータ51が起動され、締結状態であるフォワードクラッチFwd/Cが開放され、エンジン1を停止させることで、油圧通常制御によるセーリングストップ制御が実施される。この油圧通常制御によるセーリングストップ制御の実施は、ステップS5において、セーリングストップ抜け条件不成立であると判断されている限り継続される。ステップS5において、セーリングストップ抜け条件成立であると判断されると、ステップS6へ進み、ステップS6では、スタータモータ15によるエンジン始動制御が行われる。次のステップS7では、ステップS4にて開放したフォワードクラッチFwd/Cが締結され、終了へ進む。
このように、CVT油温>閾値であると判断されると、油圧通常制御によるセーリングストップ制御が実施され、セーリングストップ制御を抜けた後は、スタータモータ15によるエンジン始動制御が行われる。
【0059】
一方、ステップS2において、CVT油温≦閾値であると判断されると、ステップS2からステップS8→ステップS9→ステップS10へと進む。ステップS8では、エンジン1の押しがけ再始動ができる押しがけ可判定が出され、セーリング制御中の待機油圧を上昇させる油圧アップ制御が実施される。ステップS9では、電動オイルポンプ50のモータ51が起動され、締結状態であるフォワードクラッチFwd/Cが開放され、エンジン1を停止させることで、油圧アップ制御によるセーリングストップ制御が実施される。この油圧アップ制御によるセーリングストップ制御の実施は、ステップS10において、セーリングストップ抜け条件不成立であると判断されている限り継続される。ステップS10において、セーリングストップ抜け条件成立であると判断されると、ステップS11へ進み、ステップS11では、バリエータ20の変速比(Ratio)が閾値を超えているか否かが判断される。そして、ステップS11でバリエータ変速比>閾値(閾値よりロー変速比側)であると判断されると、ステップS12へ進み、エンジン1の押しがけ再始動ができない押しがけ不可判定がなされ、ステップS6(スタータ再始動)→ステップS7(クラッチ締結)→終了へ進む。また、ステップS11でバリエータ変速比≦閾値(閾値以下のハイ変速比側)であると判断されると、エンジン1の押しがけ再始動ができる押しがけ可判定がなされ、ステップS7(クラッチ締結)→終了へ進む。
このように、CVT油温≦閾値であると判断されると、油圧アップ制御によるセーリングストップ制御が実施される。そして、セーリングストップ制御を抜けた後は、そのときのバリエータ変速比により分かれ、バリエータ変速比>閾値の場合は、スタータモータ15によりエンジン1を始動するスタータ再始動が行われる。一方、バリエータ変速比≦閾値の場合は、フォワードクラッチFwd/Cの締結容量を上昇しながら駆動輪7からの駆動力を伝達することにより、エンジン1をクランキングする押しがけ再始動が行われる。
【0060】
[セーリングストップ制御動作」
セーリングストップ制御の狙いは、走行中車速域にかかわらず、アクセル足放し操作時にCVT(動力伝達機構)のエンジン1からの動力を伝達するフォワードクラッチFwd/Cを開放する。これによりエンジン1と駆動輪7が切り離され、エンジンブレーキによる減速を防止することで、アクセル足放し操作時の空走距離が伸び、その結果、燃費が向上する。さらに、エンジン1を停止させアイドリング維持のための燃料も節約することにある。
【0061】
上記セーリングストップ制御の狙いを実現する実施例1でのセーリングストップ制御動作を、
図6に示すタイムチャートに基づき説明する。
図6において、時刻t1はアクセルOff/ブレーキOffの条件成立時刻、時刻t2はセーリングストップ入り条件成立時刻、時刻t3はセーリングストップ中判定開始時刻、時刻t4はセーリングストップ抜け条件成立時刻である。時刻t5は押しがけフェーズ開始時刻、時刻t6は押しがけフェーズ終了時刻、時刻t7は変速フェーズ終了時刻である。また、時刻t1〜t2はディレー区間、時刻t2〜t3はセーリングストップ入りフェーズ区間、時刻t3〜t4はセーリングストップ中区間である。時刻t4〜t5は押しがけフェーズ準備区間、時刻t5〜t6は押しがけフェーズ区間、時刻t6〜t7は変速フェーズ区間である。
【0062】
時刻t1にてアクセルOff/ブレーキOffの条件が成立すると、時刻t1〜t2のディレー区間において、前後Gは加速から減速に移行し、エンジン回転数は低下を開始し、目標変速比は低下する。このディレー区間での「セーリング判定」は、スタンバイ判定であり、電動オイルポンプ50の作動準備が行われる。
【0063】
時刻t2にてセーリングストップ入り条件が成立すると、時刻t2にて電動オイルポンプ50が実作動を開始し、ハイクラッチ圧(H/C圧)の低下を開始してハイクラッチ33を開放して惰性走行に入る準備をする。これと同時に、バリエータ20のプライマリ圧(Pri圧)とセカンダリ圧(Sec圧)を保つ制御を開始すると共に、ロックアップクラッチ9のロックアップ圧(L/U圧)を保つ制御を開始する。そして、時刻t2〜t3のセーリングストップ入りフェーズ区間において、ハイクラッチ33の開放が確認されるとエンジン1のフューエルカットを開始する。この時刻t2〜t3のセーリングストップ入りフェーズ区間での「セーリング判定」は、実行判定であり、電動オイルポンプ50の実作動を維持する。
【0064】
時刻t3にてセーリングストップ中判定が開始されると、エンジン回転数及びセカンダリプーリ回転数は停止状態で推移し、ハイクラッチ33は開放を維持し、プライマリ圧(Pri圧)とセカンダリ圧(Sec圧)とロックアップ圧(L/U圧)は一定圧に保たれる。この時刻t3〜t4のセーリングストップ中区間での「セーリング判定」は、セーリングストップ中判定であり、電動オイルポンプ50の実作動を維持する。
【0065】
時刻t4にてセーリングストップ抜け条件が成立すると、エンジン1のフューエルカットを停止し、ハイクラッチ圧(H/C圧)の初期圧指令の出力を開始する。この時刻t4〜t5の押しがけフェーズ準備区間での「セーリング判定」は、セーリングストップ抜け判定であり、電動オイルポンプ50の実作動を維持する。
【0066】
時刻t5にて押しがけフェーズ準備区間が終了すると、電動オイルポンプ50の必要出力を上昇しながらハイクラッチ圧(H/C圧)を上昇させ、トルク伝達容量を高めるハイクラッチ33の締結制御を行う。そして、エンジン回転数(ENG回転)を上昇させ、エンジン1を押しがけ再始動する。この時刻t5〜t6の押しがけフェーズ区間での「セーリング判定」は、セーリングストップ抜け判定であり、電動オイルポンプ50の実作動を時刻t6まで維持する。
【0067】
時刻t6にて押しがけフェーズが終了すると、油圧源を、電動オイルポンプ50からメカオイルポンプ10へ切り替え、バリエータ20の実変速比を目標変速比に一致させる制御を行う変速フェーズに入り、時刻t7にて変速フェーズを終了する。この時刻t6〜t7の変速フェーズ区間での「セーリング判定」は、ノーマル制御であり、プライマリ圧とセカンダリ圧を上昇させると共に、ロックアップ圧(L/U圧)を徐々に上昇させる。なお、セーリングストップ制御からの抜け時、ロックアップクラッチ9の締結ショック等が問題となる場合は、スリップ締結状態を経過させて完全締結状態に移行させる。
【0068】
[セーリングストップ制御方法の特徴作用]
実施例1では、セーリングストップ制御中、セーリングストップ抜け条件が成立するまで、電動オイルポンプ50によりバリエータ20の伝達容量が、エンジン1を押しがけ再始動可能な所定伝達容量に維持する。そして、セーリングストップ抜け条件が成立すると、ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/Cを動力伝達状態とすることで、駆動輪7の動力をエンジン1に伝達して押しがけ再始動する。
【0069】
即ち、オイルポンプの吐出出力を増大して動力伝達が遮断されている動力伝達部材の伝達容量を増大させるには、非常に高い吐出出力が必要となるが、動力伝達状態の動力伝達部材における伝達容量の低下を防止するために必要な吐出出力は低い。
【0070】
従って、2つの動力伝達部材であるバリエータ20とフォワードクラッチFwd/Cのうち、バリエータ20を惰性走行開始前に電動オイルポンプ50により所定伝達容量として惰性走行を開始し、所定伝達容量をエンジン1の再始動を開始するまで維持する。これにより、押しがけ再始動時に電動オイルポンプ50に対して必要とされる吐出出力は、フォワードクラッチFwd/Cを所定伝達容量まで上昇させるのみでよく、バリエータ20を所定伝達容量まで上昇させる分の吐出出力は不要となる。よって、セーリングストップ入り条件が不成立となってから押しがけによりエンジン1が再始動されるまでの時間(時刻t4〜時刻t6)を短くすることができる。これにより、アクセル踏み込み操作によりセーリングストップ入り条件が不成立となったとき、再加速性の悪化を抑制することができる。
【0071】
また、電動オイルポンプ50に求められる最大吐出出力を低くすることができるため、電動オイルポンプ50を大型化する必要がなく、コスト増大や搭載性の悪化となることを防止することができる。
【0072】
さらに、実施例1では、フォワードクラッチFwd/Cの動力伝達を遮断すると共にエンジン1を停止するセーリングストップ制御での惰性走行中、ロックアップクラッチ9は締結状態を維持するようにした。
即ち、ロックアップクラッチ9の締結状態とした場合には、ロックアップクラッチ9を開放状態とする場合に比べ、トルクコンバータ2への必要流量が低減する(
図4参照)。
従って、セーリングストップ制御中は、電動オイルポンプ50の必要出力を低減し、セーリングストップ制御を抜ける場合、ロックアップクラッチ9に食われる流量を低減し、フォワードクラッチFwd/Cを締結するための流量を増大させることができる。このため、セーリングストップ制御による惰性走行の終了に際して、フォワードクラッチFwd/Cが早期に動力伝達され、エンジン1が押しがけ再始動されるまでの時間を短くすることができる理由の一つになる。
【0073】
なお、電動オイルポンプ50に求められる最大吐出出力を低くすることができるのは、エンジン1の押しがけ再始動域における電動オイルポンプ50の最大流量を低減できることによる。即ち、
図6の矢印Dで示す一点鎖線で囲まれた破線特性(比較例)と実線特性(実施例1)に示すように、セーリングストップ制御中は待機油圧をアップすることで、セーリングストップ制御中における電動オイルポンプ50の必要出力はアップする。しかし、
図6の矢印Eで示す一点鎖線で囲まれた破線特性(比較例)と実線特性(実施例1)に示すように、押しがけフェーズでは、セーリングストップ制御中に待機油圧アップしたことで、電動オイルポンプ50の最大必要流量がダウンすることによる(
図6の矢印F)。
【0074】
[他の特徴作用]
実施例1では、エンジン1を押しがけ再始動可能な所定伝達容量を、エンジン1の押しがけ再始動可能な伝達容量のうち、最小の伝達容量値に設定する。
即ち、セーリングストップ制御中の伝達容量を、闇雲に高くすると、フォワードクラッチFwd/Cにおいて押しがけのために必要な伝達容量に対して伝達容量が大きくなる。よって、電動オイルポンプに要求される吐出出力を増大させることとなり、小型化された電動オイルポンプ50では対応不可となる。
従って、エンジン1の押しがけ再始動を行うことができると共に、不要に伝達容量を増大させることがなく、電動オイルポンプ50の大型化を抑制する。
【0075】
実施例1では、第2動力伝達部材がバリエータ20であり、第1動力伝達部材がバリエータ20と直列に配置されるフォワードクラッチFwd/Cであって、バリエータ20の変速比が、閾値よりロー側である場合、エンジン1の押しがけ再始動を禁止する。
即ち、バリエータ変速比が閾値よりロー側である場合、押しがけのためにフォワードクラッチFwd/Cに必要とされる伝達容量が大きくなる。よって、小型化された電動オイルポンプ50では対応不可となる。
従って、バリエータ変速比が閾値よりロー側である場合、押しがけ再始動を禁止することで、電動オイルポンプ50が大型化することが防止される。
【0076】
実施例1では、セーリングストップ入り条件が成立したとき、CVT油温が閾値を超えていると、エンジン1の押しがけ再始動を禁止し、スタータモータ15によるエンジン1のスタータ再始動を行う。
即ち、CVT油温>閾値のときは、油圧制御回路11での油のリーク量が増えるため、フォワードクラッチFwd/Cの締結に時間を要し、動力伝達状態とするまでのタイムラグが生じる。このため、CVT油温を監視し、エンジン1の押しがけ再始動するとタイムラグが生じる場合は、押しがけ再始動に代え、スタータ再始動を行う。
従って、CVT油温にかかわらず、エンジン再始動のタイムラグが短くされる。
【0077】
次に、効果を説明する。
実施例1のエンジン車のセーリングストップ制御方法及び制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0078】
(1) エンジン1と駆動輪7との間に直列に配置され、油圧により動力伝達が制御される締結要素(ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/C)及び変速機(バリエータ20)と、
エンジン1の停止中に油圧を供給可能なオイルポンプ(電動オイルポンプ50)と、を備え、
セーリングストップ入り条件の成立に基づき、締結要素(ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/C)による動力伝達を遮断すると共にエンジン1を停止するセーリングストップ制御による惰性走行を行う車両(エンジン車)において、
セーリングストップ制御中に、オイルポンプ(電動オイルポンプ50)から供給される油圧により変速機(バリエータ20)の伝達容量を、セーリングストップ抜け条件が成立となるまでエンジン1を押しがけ再始動可能な所定伝達容量とした状態とし、
セーリングストップ抜け条件が成立すると、締結要素(ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/C)を動力伝達状態とすることで駆動輪7の動力をエンジン1に伝達して押しがけ再始動する。
このため、オイルポンプ(電動オイルポンプ50)の吐出出力を低く抑えながら、セーリングストップ制御を抜ける際、押しがけによるエンジン再始動までのタイムラグを短くする車両(エンジン車)のセーリングストップ制御方法を提供することができる。
【0079】
(2) 所定伝達容量を、エンジン1の押しがけ再始動可能な伝達容量のうち、最小の伝達容量値に設定する。
このため、(1)の効果に加え、エンジン1の押しがけ再始動を行うことができると共に、不要に伝達容量を増大させることがなく、オイルポンプ(電動オイルポンプ50)の大型化を抑制することができる。
【0080】
(3) 変速機がバリエータ20であり、締結要素がバリエータ20と直列に配置されるロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/Cであって、
バリエータ20の変速比が、所定変速比(閾値)よりロー側である場合、エンジン1の押しがけ再始動を禁止する(
図4のS11→S12)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、バリエータ20の変速比が所定変速比(閾値)よりロー側である場合、押しがけ再始動を禁止することで、オイルポンプ(電動オイルポンプ50)が大型化することを防止することができる。
【0081】
(4) セーリングストップ入り条件が成立したとき、油温(CVT油温)が所定値(閾値)を超えていると、エンジン1の押しがけ再始動を禁止し、スタータモータ15によるエンジン1のスタータ再始動を行う。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、油温(CVT油温)にかかわらず、エンジン再始動のタイムラグを短くすることができる。
【0082】
(5) エンジン1と駆動輪7との間に直列に配置され、油圧により動力伝達が制御される締結要素(ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/C)及び変速機(バリエータ20)と、
エンジン1の停止中に油圧を供給可能なオイルポンプ(電動オイルポンプ50)と、
セーリングストップ入り条件の成立に基づき、締結要素(ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/C)による動力伝達を遮断すると共にエンジン1を停止して惰性走行を行うセーリングストップ制御部(統合コントローラ13)と、を備える車両(エンジン車)において、
セーリングストップ制御部(統合コントローラ13)は、セーリングストップ制御中に、オイルポンプ(電動オイルポンプ50)から供給される油圧により変速機(バリエータ20)の伝達容量を、セーリングストップ抜け条件が成立となるまでエンジン1を押しがけ再始動可能な所定伝達容量とした状態とし、
セーリングストップ抜け条件が成立すると、締結要素(ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFwd/C)を動力伝達状態とすることで駆動輪7の動力をエンジン1に伝達して押しがけ再始動する処理を行う。
このため、オイルポンプ(電動オイルポンプ50)の吐出出力を低く抑えながら、セーリングストップ制御を抜ける際、押しがけによるエンジン再始動までのタイムラグを短くする車両(エンジン車)のセーリングストップ制御装置を提供することができる。
【0083】
以上、本発明の車両のセーリングストップ制御方法及び制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0084】
実施例1では、
図5のステップS2でCVT油温>閾値であるか否かを判断するとき、閾値として、変速機作動油のリーク量が増える油温判定値として固定値で与える例を示した。しかし、
図5のステップS2でCVT油温>閾値であるか否かを判断するとき、閾値として、GPSを用いた地図情報等を活用し、セーリングストップ制御を抜けた後の要求が加速要求か減速要求かを予測し、要求予測に基づき、閾値を可変値により与える例としても良い。つまり、加速要求に基づくエンジン再始動では、駆動力を早く駆動輪に伝達する必要があり、タイムラグは違和感となる。一方、減速要求に基づくエンジン再始動では、加速要求時に比べてエンジン再始動のタイムラグによる違和感は少ない。従って、セーリングストップ入り判定成立時に加速要求(アクセルON)に基づくエンジン再始動が予測されるときは、閾値を減速要求(ブレーキON)に基づくエンジン再始動が予測されるときに比べ、小さくする。この場合、加速要求時の違和感を低減することができる。
【0085】
実施例1では、変速機がバリエータ20であり、締結要素がバリエータ20の上流に配置されるロックアップクラッチ9とバリエータ20の下流に配置されるフォワードクラッチFwd/Cであって、バリエータ20の変速比が閾値よりロー側である場合、エンジン1の押しがけ再始動を禁止する例を示した。しかしながら、締結要素がバリエータ20の上流に配置されるフォワードクラッチFwd/Cの場合、バリエータ変速比にかかわらず、エンジンの押しがけ再始動を許可する例としても良い。
【0086】
実施例1では、セーリングストップ制御を抜けた後、バリエータ20の変速比が閾値よりロー側である場合、エンジン1の押しがけ再始動を禁止する例を示した。しかしながら、セーリングストップ制御を抜けた後、アクセルペダルが大きく踏み込まれる(例えば、アクセル開度APO>7/8)場合、押しがけ再始動をやめて、スタータモータによるエンジン再始動とする例としても良い。即ち、スタータモータによるエンジン再始動のほうが再始動までの時間が短いため、駆動力要求が大きい場合は、時間の短いスタータ再始動を行うことで、駆動力要求に対する応答性を満足させることができることによる。
【0087】
実施例1では、本発明の車両のセーリングストップ制御方法及び制御装置を、副変速機付き無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明のセーリングストップ制御方法及び制御装置は、無段変速機を搭載したエンジン車や有段変速機を搭載したエンジン車や変速機を搭載していないエンジン車に適用しても良い。要するに、エンジンと、駆動輪と、2つの動力伝達要素と、オイルポンプと、を備え、セーリングストップ制御を行う車両であれば適用できる。