特許第6598770号(P6598770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6598770-炭化水素の重合 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598770
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】炭化水素の重合
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/48 20060101AFI20191021BHJP
   C08F 2/01 20060101ALI20191021BHJP
   C08G 65/10 20060101ALI20191021BHJP
   C08G 69/20 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C08F2/48
   C08F2/01
   C08G65/10
   C08G69/20
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-524464(P2016-524464)
(86)(22)【出願日】2014年10月16日
(65)【公表番号】特表2016-533419(P2016-533419A)
(43)【公表日】2016年10月27日
(86)【国際出願番号】IN2014000655
(87)【国際公開番号】WO2015075733
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年10月12日
(31)【優先権主張番号】3272/MUM/2013
(32)【優先日】2013年10月18日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】511269587
【氏名又は名称】リライアンス、インダストリーズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RELIANCE INDUSTRIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】ジャスラ、ラクシュ ヴィール
(72)【発明者】
【氏名】イングル、ニナド ディーパク
(72)【発明者】
【氏名】カパディア、プラディープ パレシュ
(72)【発明者】
【氏名】ムンシ、プラディープ
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−040307(JP,B1)
【文献】 特公昭47−040314(JP,B1)
【文献】 特公昭51−005436(JP,B1)
【文献】 特開平07−070287(JP,A)
【文献】 特開平11−130945(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/162333(WO,A1)
【文献】 Photopolymerization in a Continuous Stirred-Tank Reactor,AIChE Journal,vol.26,no.4,1980年 7月,672-675
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/46−2/50
C08F2/01
C08G65/10
C08G69/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸素の含有量が0.65%未満の雰囲気を有する反応容器に、炭化水素またはエポキシド、および、ラクタムからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを導入する工程と、
(2)前記反応容器に、光開始剤を導入する工程と、
(3)前記反応容器において前記炭化水素または前記モノマーと光開始剤を、所定時間撹拌する工程と、
(4)光源から発せられる波長が390〜780nmの可視光を、所定時間前記反応容器を通過させて、重合された炭化水素または重合されたモノマーを得る工程と、
を有する前記炭化水素または前記モノマーの重合方法であって、
前記光開始剤は、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド、過安息香酸、および、過酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の過酸化物であり、
前記光源は、発光ダイオード(LEDs)、レーザー、有機エレクトロルミネセンス材料、および、無機エレクトロルミネセンスからなる群より選択される少なくとも1種の固体発光装置であり、
前記光を発する光源は、前記反応容器の外壁から0.2〜12cmの距離を置いた反応容器の外側に設置され、
前記可視光を通過させる工程は、前記光線を、前記反応が行われている反応容器における反応領域へ導くことを含む、前記炭化水素または前記モノマーの重合方法。
【請求項2】
前記炭化水素は、少なくとも1種のビニルモノマーである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭化水素または前記モノマーは、スラリー状または溶液状で前記反応容器に導入される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記撹拌工程は、回転型撹拌子を用いて200〜850rpmの速度で5〜60分間行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記光開始剤の使用量が、20〜800ppmである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記可視光は、前記反応容器を2〜12時間通過させる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記可視光を前記反応容器に通過させる前に、さらに、前記撹拌中の炭化水素または前記モノマーを40〜90℃の温度で加熱する工程を有する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ガラス製の壁を有する透明な反応容器、前記反応容器内に流体をパージするパージ手段、中央に取り付けられる攪拌子、少なくとも1つの光源、および、前記反応容器の反応領域へ光を導くガイド手段を備える炭化水素またはエポキシド、および、ラクタムからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーの重合装置であって、
前記光源は、波長が390〜780nmの光を発するものであり、前記反応容器の外側、前記反応容器の内側、および、前記反応容器の壁への埋め込みからなる群より選択される少なくとも1つの箇所に設置される、炭化水素またはエポキシド、および、ラクタムからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーの重合装置。
【請求項9】
前記光源は、発光ダイオード(LEDs)、レーザー、有機エレクトロルミネセンス材料、および、無機エレクトロルミネセンスからなる群より選択される少なくとも1種の固体発光装置である請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記光源は、前記反応容器の外壁から0.2〜12cm離れる箇所に設置される請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記ビニルモノマーは、イソプレン、および、アクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2012年10月18日に出願されたインド特許出願番号3049/MUM/2012号の分割出願であり、その全ての内容が参照によって本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、炭化水素を重合する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
重合とは、化学反応においてモノマー分子同士を反応させて、直鎖状または三次元網状のポリマー鎖を形成する方法である。従来の重合方法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、光照射重合および配位触媒重合などの方法が挙げられる。
【0004】
通常、光照射重合方法では、フィラメント系ランプや蒸気/気体系ランプなど様々な光源から発せられる紫外線を利用している。しかし、紫外線光源として利用されるフィラメント系または蒸気/気相系ランプは、距離に伴って輝度減衰が高い拡散型または多方向紫外線を放つ。従って、これらのランプは効果的反応を誘発せず電力を多く消費する。また、これらのランプは嵩張り、耐用期間が短い(8000〜15000時間)。
【0005】
さらに、このような光源を使用すると、近接した環境へ紫外線照射をまき散らすことにより短期的および長期的健康危害を引き起こす可能性がある。さらに、クォーツ製の反応容器は化学方法およびその装置を高価なものにする。
【0006】
従って、新規で経済的な炭化水素の重合方法が求められている。また、低輝度固体光源を利用して炭化水素を重合する装置も求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示のシステムの目的のいくつかは、ここで議論されている少なくとも一つの実施形態が満足するものであるが、下記の通りである。
【0008】
本開示の目的は、技術水準の1つ以上の問題を改善するまたは少なくとも有用な代替手段を提供することである。
【0009】
本開示の目的は、経済的な炭化水素の重合方法を提供することである。
【0010】
本開示の別の目的は、環境面で安全な炭化水素の重合方法を提供することである。
【0011】
本開示の別の目的は、発光ダイオード(LED)を可視光光源とする炭化水素の重合方法を提供することである。
【0012】
本開示の別の目的は、膨潤剤や分散剤などの添加剤を使用しない炭化水素の重合方法を提供することである。
【0013】
本開示のさらなる目的は、炭化水素の重合装置を提供することである。
【0014】
本開示のさらなる目的は、エネルギー高効率、経済的な炭化水素の重合装置を提供することである。
【0015】
本開示のさらなる目的は、取扱いやすい炭化水素の重合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示は、少なくとも1つの光源から発せられる波長が390〜780nmの可視光を、所定時間反応容器を通過させることにより、反応容器において酸素の含有量が0.65%未満の雰囲気中、撹拌下で炭化水素と光開始剤を反応させ、重合された炭化水素を得ることを有する炭化水素の重合方法を提供する。
【0017】
本開示の別の面は、炭化水素の重合装置を提供する。本開示の装置は、反応容器、前記反応容器内に流体をパージするパージ手段、前記反応容器の反応領域へ光を導くガイド手段、中央に取り付けられる撹拌子、および、少なくも1つの光源を備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)および1(b)は、それぞれ光源が反応容器の内側および外側に設置された、炭化水素の重合に使用される装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示によれば、炭化水素の重合方法が提供される。この方法は、以下の工程を有する。
【0020】
第一工程では、少なくとも1種の炭化水素と少なくとも1種の光開始剤とが、酸素の含有量が0.65%未満の雰囲気中、反応容器に導入され、得られた混合物が、所定時間撹拌される。
【0021】
本開示で使用される炭化水素は、限定されないが、イソプレン、アクリル酸アルコール、エポキシド、ヒドロキシ酸、ラクタム、および、ビニルモノマーなどが挙げられる。前記炭化水素は、スラリー状または溶液状で反応容器に導入される。本開示の1つの形態では、前記炭化水素はスラリー状である。
【0022】
本開示によれば、可視光を反応容器に通過させる前に、前記炭化水素は、40〜90℃の温度で加熱される。
【0023】
本開示で使用する光開始剤は、限定されないが、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド、過安息香酸、および、過酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の過酸化物が挙げられる。本発明の方法では、前記光開始剤の使用量は、20〜800ppmである。
【0024】
反応容器において低い酸素濃度が、維持される。本開示の方法では、反応容器における酸素は0.65%未満である。酸素は、炭化水素を反応容器に導入する際または反応容器における炭化水素と光開始剤の混合物を撹拌する工程において取り除かれる。酸素は光重合反応を防げることから、反応容器から取り除かなければならない。
【0025】
本開示によれば、前記撹拌工程は、回転型撹拌子を用いて200〜850rpmの速度で5〜60分間行われる。
【0026】
典型的に、不活性ガスをパージすることによって反応容器において酸素の含有量が0.65%未満の雰囲気を作った後、可視光を2〜12時間反応容器を通過させ、重合された炭化水素を得る。
【0027】
波長が390〜780nmの可視光を発する前記光源は、一群の固体発光装置である。前記固体発光装置の非限定例としては、限定されないが、発光ダイオード(LEDs)、レーザー、有機エレクトロルミネセンス材料、無機エレクトロルミネセンス、有機発光ダイオード、および、無機発光ダイオードなどが挙げられる。
【0028】
前記光源は、反応容器の外側(outside)、反応容器の内側(inside)、および、反応容器の壁への埋め込み(embedded on the walls)からなる群より選択される少なくとも1つの箇所に設置される。
【0029】
前記反応容器の外壁と、前記反応容器の外側に設置される光源との距離は、0.2〜12cmであり、好ましくは0.5〜4cmである。
【0030】
前記反応容器の外側に設置される光源からの光を通過させる工程は、前記光線を、反応が行われている反応容器における反応領域へ導くことを含む。
【0031】
本開示によれば、炭化水素の重合装置も提供される。1つの実施形態における図1(a)に示すように、前記装置は、反応容器1、前記反応容器内に流体をパージするパージ手段3,4、中央に取り付けられる撹拌子2、および、前記反応容器の内側に設置される少なくも1つの光源6を備える。前記反応容器内の温度は、それぞれ温度計8および加熱浴5を用いて測定・維持される。本開示の装置は、前記光源から発せられる光を前記反応容器の反応領域へ導くガイド手段も備える。前記ガイド手段は、限定されないが、導波管、レンズおよびレンズセットなどが挙げられる。組み立て全体は、クランプ装置7を用いて支持される。
【0032】
図1(b)に示す第2の実施形態では、光源6を反応容器の外側に設置する以外、装置のほかの部分は、第1の実施形態と同様である。
【0033】
波長が390〜780nmの可視光を発する前記光源は、固体発光装置である。前記固体発光装置は、限定されないが、発光ダイオード(LEDs)、レーザー、有機エレクトロルミネセンス材料、無機エレクトロルミネセンス、有機発光ダイオード、無機発光ダイオード、および、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0034】
本開示によれば、前記光源は、反応容器の外側、反応容器の内側、および、反応容器の壁への埋め込みからなる群より選択される少なくとも1つの箇所に設置される。
【0035】
前記反応容器の外壁と、前記反応容器の外側に設置される一群のLEDとの距離は、0.2〜12cmであり、好ましくは0.5〜4cmである。典型的に、前記反応容器はガラス製の壁を有する透明なものである。
【0036】
以下、本発明を下記実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は、実施形態が実施可能であることを理解させ、そして、当業者に実施形態の実施を可能にさせるためにのみ設けられているものである。よって、これらの実施例は、実施形態の範囲を限定するものではない。
【0037】
実施例1 モノマーのラジカル重合
部分中和されたアクリル酸の水溶液10mlと過酸化ベンゾイル1.6gを丸底フラスコに添加し、マグネチックスターラーを用いて連続撹拌した。混合物の温度を50℃に維持した。その後、前記丸底フラスコに窒素ガスをパージし、反応容器において酸素の含有量が0.60%未満の雰囲気を維持した。続いて、前記混合物を1つ以上の発光装置から発せられる光に暴露した。前記混合物を波長405nmのLED光に暴露した時点から反応開始時間を記録した。4時間反応終了後、核磁気共鳴法(NMR)およびゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により、ポリアクリル酸の形成が確認された。
【0038】
実施例2 不飽和炭化水素のラジカル重合
イソプレン10ml、トルエン50mlおよび過酸化水素1mlを丸底フラスコに添加し、マグネチックスターラーを用いて連続撹拌した。混合物の温度を50℃に維持した。その後、前記丸底フラスコに窒素ガスをパージし、反応容器において酸素の含有量が0.65%未満の雰囲気を維持した。前記混合物を1つ以上の発光装置から発せられる光に暴露した。前記混合物を波長405nmのLED光に暴露した時点から反応開始時間を記録した。4時間反応終了後、ポリイソプレンの形成が確認された。
【0039】
実施例3 不活性ガスをパージしない場合の不飽和炭化水素のラジカル重合
イソプレン10ml、トルエン50mlおよび過酸化水素1mlを丸底フラスコに添加し、マグネチックスターラーを用いて連続撹拌した。混合物の温度を50℃に維持した。前記混合物を1つ以上の発光装置から発せられる光に暴露した。前記混合物を波長405nmのLED光に暴露した時点から反応開始時間を記録した。8時間反応終了後、微量のポリイソプレンの形成が認められたが、実施例2より著しく低下していた。
【0040】
発明の効果
本開示は、添加剤を添加せずに行われる炭化水素の重合方法を提供する。
前記炭化水素の重合方法は、固体発光装置を用いて行われる。
前記炭化水素の重合方法は、簡便、安価であり、且つ環境面で安全である。
本開示は、炭化水素の重合装置も提供する。
【0041】
前記例示的な実施形態は、本開示から生ずる利点を数値化するものであり、その様々な性質および有益な詳細を明細書における非限定的実施形態を参照しながら説明した。その実施形態を必要以上に不明瞭させないように、公知の成分および処理技術に関する記載を省略している。これらの実施例は、その実施形態が実施可能であることを理解させ、そして、当業者にその実施形態の実施を可能にさせるためにのみ設けられているものである。よって、これらの実施例は、その実施形態の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0042】
前記具体的な実施形態に関する記載は、その実施形態の一般的本質を十分明らかにしているから、他の人が、現在の知識を利用することで、本発明の総括的な概念を逸脱しない範囲で、このような具体的な実施形態を変更したり、および/または、様々な応用へ適用したりすることができる。よって、このような適用および変更は、開示されている実施形態の等価形態の意味および範囲内に含まれると解されるべきである。使用されている用語または術語は、限定のためではなく、説明のためのものであると理解されるべきである。よって、実施形態を好ましい実施形態によって説明したが、当業者は、これらの実施形態を記載されている実施形態の趣旨範囲内において変更した上で実施可能であることを認識する。
【0043】
本明細書に含まれている文書、行為、原料、装置、商品などに関する任意の議論は、本発明の文脈を提供するためのものに過ぎない。それが、本出願の優先日より前に任意の場所に存在していたという理由で、これらのいずれか或いはすべてが、先行技術の基礎の一部を形成し、または、本開示に関連する分野における公知常識であるということを認めたものと解釈されてはならない。
【0044】
本開示の特別な特徴についてかなり強調がなされたが、本開示の主旨を逸脱しない範囲で、様々な変更が可能であること、および、好ましい実施形態に対して多くの変更が可能であることが認められる。本開示の本質範囲内におけるまたは好ましい実施形態に対するこれらのおよびその他の変更は、本開示に基づいて、当業者にとって明白なものである。よって、前記の記載事項が、本開示を説明するものに過ぎず、限定するものではないと理解されるべきである。
図1