特許第6598972号(P6598972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598972
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20191021BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20191021BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20191021BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20191021BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B01J23/63 AZAB
   B01J37/02 301L
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-501774(P2018-501774)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2017006936
(87)【国際公開番号】WO2017146175
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-34789(P2016-34789)
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】三隅 宝
(72)【発明者】
【氏名】松枝 悟司
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−093267(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/037613(WO,A1)
【文献】 特開2015−085241(JP,A)
【文献】 特開2005−246216(JP,A)
【文献】 特開2011−212641(JP,A)
【文献】 特開2015−112560(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア系酸化物粒子を含む下層と、金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層と、を有する排ガス浄化触媒であって、
前記下層におけるRhの含有量が0.25g/L以下であり、そして、
走査型電子顕微鏡観察によって得られる、前記下層に含まれるセリア系酸化物粒子の粒径分布が、0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のピークと、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のピークとを有することを特徴とする、前記排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記上層における金属酸化物粒子が、平均粒径0.75μm〜5.5μmのセリア系酸化物粒子である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記上層に含まれる貴金属がRhである、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記下層が、更にPdを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
前記Pdが、前記第1のピークに属するセリア系酸化物粒子に担持されている、請求項4に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
前記下層が、基材上に形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項7】
前記下層が基材の一部を構成し、該基材上に前記上層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項8】
基材上に、
走査型電子顕微鏡観察によって得られる粒径分布において0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のセリア系酸化物粒子と、を含む下層を形成する工程と、
金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項9】
基材を形成する工程と、
前記基材上に金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層を形成する工程と、
を含み、
前記基材の一部又は全部が、走査型電子顕微鏡観察によって得られる粒径分布において0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のセリア系酸化物粒子と、を含む下層によって構成されることを特徴とする、排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の排ガスを処理するための排ガス浄化触媒としては、無機酸化物に貴金属を担持させた三元触媒が知られている。三元触媒は、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)、及び一酸化炭素(CO)を同時に効率よく除去できる触媒として、広く用いられている。三元触媒に代表される排ガス浄化触媒は、NOの浄化活性に優れるロジウム(Rh)を含有することが多い。
【0003】
排ガス浄化触媒の排ガス除去性能は、空燃比14.6付近の理論空燃比(所謂「ストイキ」)において最も効率がよい。しかしながら自動車は、常にストイキ付近の空燃比で走行しているわけではない。エンジンの制御によって空燃比が変動し、これに伴って排ガス組成(雰囲気)が変わった場合には、排ガス浄化性能が低下する傾向にあることが知られている。
【0004】
そこで、排ガスの雰囲気変動を緩和するために、排ガス浄化触媒に、酸素を吸蔵して放出する機能を有するセリア成分を含有させることが行われている。特に、セリア−ジルコニア系複合酸化物(CZ)の形態でこのセリア成分を含有する排ガス浄化触媒が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、排ガス浄化触媒に粒径の異なる複数種のCZ粒子上にRhを担持した触媒が記載されている。
【0006】
上記特許文献1の技術は、大小のCZ粒子を併用することにより、大粒子間の間隙に小粒子が入り込む形態をとり、粒子同士及び粒子−基材間の接触面積が大きくなることによって、基材から触媒層が剥離することを防止しようとする技術である(図1)。
【0007】
ところで従来、上記のような排ガス浄化触媒における触媒層は、それ自体は排ガス浄化能を持たない基材、例えばコージェライト製のハニカム基材上に形成されていた。しかし近年、無機酸化物粒子から構成される基材に、貴金属が担持された排ガス浄化触媒が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−212641号公報
【特許文献2】特開2015−85241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
車両には、低燃費を指向する傾向がますます強くなってきている。そこで、アイドリングストップ、燃料遮断等の、低燃費のための車両制御が行われている。一方で、排ガスの規制基準は各国とも年々厳しくなってきている。そのため、低燃費制御の車両において、例えば、アイドリングストップ又は燃料遮断後に再加速する際の、リーン雰囲気からリッチ雰囲気への雰囲気急変に対応し得る排ガス浄化触媒が求められている。
【0010】
しかしながら、車両の排ガスにおける雰囲気変化は、上記のようなリーンからリッチへの変化ばかりではなく、道路状況、交通状況等によって様々な場合が起こり得る。そのため、車両が実際に遭遇し得る種々の状況に応じた雰囲気調整が可能な排ガス浄化触媒が必要である。
【0011】
以上のような現状に鑑みてなされた本発明の目的は、排ガス(特にNO)浄化性能に優れ、様々に変化する排ガス雰囲気に対応することが可能な排ガス浄化触媒、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下のとおりに要約される。
【0013】
[1] セリア系酸化物粒子を含む下層と、金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層と、を有する排ガス浄化触媒であって、
前記下層におけるRhの含有量が0.25g/L以下であり、そして、
走査型電子顕微鏡観察によって得られる、前記下層に含まれるセリア系酸化物粒子の粒径分布が、0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のピークと、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のピークとを有することを特徴とする、前記排ガス浄化触媒。
【0014】
[2] 前記上層における金属酸化物粒子が、平均粒径0.75μm〜5.5μmのセリア系酸化物粒子である、[1]に記載の排ガス浄化触媒。
【0015】
[3] 前記上層に含まれる貴金属がRhである、[1]又は[2]に記載の排ガス浄化触媒。
【0016】
[4] 前記下層が、更にPdを含む、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の排ガス浄化触媒。
【0017】
[5] 前記Pdが、前記第1のピークに属するセリア系酸化物粒子に担持されている、[4]に記載の排ガス浄化触媒。
【0018】
[6] 前記下層が、基材上に形成されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【0019】
[7] 前記下層が基材の一部を構成し、該基材上に前記上層を有する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【0020】
[8] 基材上に、
走査型電子顕微鏡観察によって得られる粒径分布において0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のセリア系酸化物粒子と、を含む下層を形成する工程と、
金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、排ガス浄化触媒の製造方法。
【0021】
[9] 基材を形成する工程と、
前記基材上に金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層を形成する工程と、
を含み、
前記基材の一部又は全部が、走査型電子顕微鏡観察によって得られる粒径分布において0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のセリア系酸化物粒子と、を含む下層によって構成されることを特徴とする、排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、排ガス、特にNOの浄化性能に優れ、様々に変化する排ガス雰囲気に対応することが可能な排ガス浄化触媒、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、特許文献1に記載された触媒の構成を説明するための概略図である。
図2図2は、本発明の排ガス浄化触媒の構成を説明するための概略図である。
図3図3は、本発明の排ガス浄化触媒の実施形態の一例を説明するための概略図である。
図4図4は、本発明の排ガス浄化触媒の実施形態の別の一例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明の排ガス浄化触媒は、セリア系酸化物粒子を含む下層と、金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層と、を有する。下層のセリア系酸化物粒子は、0.90〜6.50μmの領域に粒径分布のピークトップを有する小粒径の第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜34.0μmの領域に粒径分布のピークトップを有する大粒径の第2のセリア系酸化物粒子と、を含む。そして、下層におけるRhの含有量は、0.25g/L以下である。
【0026】
本発明の排ガス浄化触媒は、基材上に上記の下層及び上層を有していてもよく、下層が基材の一部を構成し、該基材上に上層を有していてもよい。下層が基材の一部を構成する場合、該下層は、基材の壁面を構成していてよい。
【0027】
本発明の排ガス浄化触媒において、上層とは、排ガス流が直接接触する面を最も上と考えて上下方向を決定したときに、排ガス浄化触媒の上側に位置する層をいう。下層とは、当該上下関係において、上層よりも下側に位置する層をいう。例えば基材を有する排ガス浄化触媒は、基材の「上」に下層を有し、該下層の「上」に上層を有していてよい。
【0028】
図2図4に、本発明の排ガス浄化触媒の構成を説明するための概念図を示した。
【0029】
図2の排ガス浄化触媒は、セリア系酸化物粒子を含む下層と、金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層と、を有する。下層は、小粒径の第1のセリア系酸化物粒子と、大粒径の第2のセリア系酸化物粒子と、を含む。上層は、貴金属としてのRhが担持された金属酸化物粒子としてのセリア系酸化物粒子を含む。
【0030】
図3は、図2における下層及び上層が、基材上に配置された場合の一例である。この場合の下層及び上層は、それぞれ、コート層であってよい。
【0031】
図4は、図2における下層が、基材の一部を構成する場合の一例である。この場合の上層は、コート層であってよい。
【0032】
本発明の排ガス浄化触媒は、上記のような構成をとることにより、排ガス(特にNO)浄化性能に優れ、様々に変化する排ガス雰囲気に対応することが可能となるのである。本発明は、特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の触媒が有する優れた効果の作用機構は、以下のとおりであると推察される。
【0033】
本発明の排ガス浄化触媒は、上層に存在する金属酸化物粒子(例えばセリア系酸化物粒子)に担持された貴金属が、排ガス浄化の活性点として働く。この上層は、例えば公知の排ガス浄化触媒と類似の構造を取ることができるから、雰囲気がストイキ近傍の通常運転時には、公知の排ガス浄化触媒と同様の機能を発揮する。
【0034】
しかし、リッチ且つ高温条件となる高負荷運転時には、上層のみの公知触媒では酸素供給量が不足して、雰囲気を効果的に緩和することが困難となる。しかし、本発明の排ガス浄化触媒は、下層に大粒径のセリア系酸化物粒子が存在するから、高負荷運転時にも長時間にわたって酸素を放出することができる。この下層で放出された酸素が上層に供給され、上層の雰囲気緩和が可能となるのである。
【0035】
また、例えば、低燃費制御の車両におけるアイドリングストップ、燃料遮断後に再加速する際等の、リーン雰囲気からリッチ雰囲気へと雰囲気が急変する時には、必要量の酸素が速やかに供給される必要があるから、やはり上層触媒のみで対応することは困難である。この点、本発明の排ガス浄化触媒は、下層に小粒径のセリア系酸化物粒子が存在し、雰囲気急変時に速やかに酸素を放出できるから、上層への酸素供給が可能となるのである。
【0036】
しかも本発明の排ガス浄化触媒は、下層のRh量が制限されている。つまり、下層に存在する大粒径及び小粒径のセリア系酸化物粒子には、いずれも、有意量のRhが担持されていない。そのため、例えば、通常運転時には、大粒径のセリア系酸化物粒子からゆっくり放出される酸素によるRhの酸化を回避することが可能となり、高活性の排ガス浄化性能、特にNOx浄化性能を、長時間持続することができることとなる。
【0037】
以下に、本発明の排ガス浄化触媒の各構成要素について、詳説する。
【0038】
<基材>
本発明の排ガス浄化触媒における基材としては、排ガス浄化用触媒の基材として一般に使用されているものを使用することができる。例えば、モノリスハニカム基材を挙げることができる。
【0039】
基材を構成する材料としては、例えばコージェライト、SiC、ステンレス鋼、金属酸化物粒子等を挙げることができる。基材の容量は、例えば1L程度とすることができる。
【0040】
下層が基材の一部を構成する場合には、例えば、下層が金属酸化物粒子によって構成され、該金属酸化物粒子が、小粒径の第1のセリア系酸化物粒子と、大粒径の第2のセリア系酸化物粒子と、を含んでいてよい。
【0041】
<下層>
下層は、セリア系酸化物粒子を含む。
【0042】
[セリア系酸化物粒子]
下層におけるセリア系酸化物粒子を構成する酸化物としては、セリアのみから成る場合であってもよく、セリアと他の金属酸化物とからなる複合酸化物であってもよい。好ましくは、金属元素としてセリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)を含有するセリア−ジルコニア系複合酸化物(CZ)である。
【0043】
上記のセリア系酸化物粒子を構成する酸化物として、
特に好ましくはZr及びCeと、Ceを除く希土類元素(Ln)とを含む複合酸化物であり、
とりわけ好ましくはZr及びCeと、Y、La、Pr、Nd、及びEuから選択される1種以上の希土類元素と、を含む複合酸化物である。
【0044】
下層におけるセリア系酸化物がセリア−ジルコニア系複合酸化物である場合、該複合酸化物に含有される各金属元素の好ましい割合は、該複合酸化物の全質量を100質量%としたときの酸化物換算値として、それぞれ、以下のとおりである。
Zr:ZrO換算値として95質量%以下
Ce:CeO換算値として1質量%以上90質量%以下
Ceを除く希土類元素:Ln換算値として1質量%以上20質量%以下
【0045】
ただし、上記において、ZrO換算のZrの含有量とCeO換算のCeの含有量との合計は、複合酸化物の全質量を100質量%としたときに、80質量%以上である。
【0046】
複合酸化物の全質量を100質量%としたときの、ZrO換算のZrの含有量は、5〜90質量%がより好ましく、10〜85質量%が更に好ましく、特に好ましくは20〜80質量%である。
【0047】
複合酸化物の全質量を100質量%としたときの、CeO換算のCeの含有量は、2〜80質量%がより好ましく、5〜70質量%が更に好ましく、特に好ましくは10〜60質量%である。
【0048】
本発明の排ガス浄化触媒の下層におけるセリア系酸化物粒子は、中実の粒子(例えばパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物)であってもよく、中空の粒子であってもよく、或いは多孔質粒子であってもよい。
【0049】
本発明の排ガス浄化触媒における下層を走査型電子顕微鏡によって観察して得られたセリア系酸化物粒子の粒径分布は、0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のピークと、9.50〜35.0μmの領域にピークトップを有する第2のピークとを有する。
【0050】
換言すると、本発明の排ガス浄化触媒における下層は、粒径の異なる2種類のセリア系酸化物粒子、すなわち、
第1のピークに属する第1のセリア系酸化物粒子(小粒径粒子)と、
第2のピークに属する第2のセリア系酸化物粒子(大粒径粒子)と、
を含有する。
【0051】
(第1のセリア系酸化物粒(小粒径粒子))
上記第1のセリア系酸化物粒子は、過度に小さいと、充填状態が密になりすぎて、ガスの流通が困難となる場合がある。この観点から、第1のセリア系酸化物粒子に帰属される第1のピークのピークトップは、0.90μm以上であり、0.93μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.85μm以上であり、更に好ましくは0.90μm以上であり、特に好ましくは0.95μm以上であり、1.0μm以上であることがとりわけ好ましい。一方で、良好な雰囲気緩和性を確保するとともに、リーンからリッチへの雰囲気急変時に活性な還元Rhを速やかに生成できる程度に、酸素放出が速やかに終了することが望ましいとの観点から、第1のピークのピークトップは、6.50μm以下であり、5.50μm以下であることが好ましく、より好ましくは5.25μm以下であり、更に好ましくは5.00μm以下であり、特に好ましくは4.75μm以下であり、4.50μm以下であることがとりわけ好ましい。
【0052】
この第1のピークトップに属する第1のセリア系酸化物粒子は、多孔質のセリア−ジルコニア系複合酸化物であることが、特に好ましい。
【0053】
(第2のセリア系酸化物粒子(大粒径粒子))
第2のセリア系酸化物粒子に帰属される第2のピークのピークトップは、高負荷運転時に優れた雰囲気緩和性を示すべき要請から、9.50μm以上であり、9.75μm以上であることが好ましく、10.0μm以上であることがより好ましく、12.5μm以上であることが更に好ましく、特に好ましくは15.0μm以上であり、17.5μm以上であることがとりわけ好ましい。一方で、コート層の剥離を抑制すべきとの観点から、第2のピークのピークトップは、34.0μm以下であり、32.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは30.0μm以下であり、更に好ましくは27.5μm以下であり、特に好ましくは25.0μm以下であり、22.5μm以下であることがとりわけ好ましい。
【0054】
この第2のピークトップに属する第2のセリア系酸化物粒子は、パイロクロア型のセリア−ジルコニア系複合酸化物であることが、特に好ましい。
【0055】
(第1及び第2のセリア系酸化物粒子の使用割合)
本発明の排ガス浄化触媒における下層における、上記第1のセリア系酸化物粒子と、上記第2のセリア系酸化物粒子と、の存在割合は任意である。しかしながら、リーンからリッチへの雰囲気急変時におけるRhの還元性を良好にするとの観点から、第1のセリア系酸化物粒子及び上記第2のセリア系酸化物粒子の合計に対する第1のセリア質量割合として、15質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが更に好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。この値は、一方で、高負荷運転時の雰囲気緩和性を良好とする観点から、85質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
【0056】
[その他の酸化物粒子]
本発明の排ガス浄化触媒における下層は、酸化物粒子として、上記の第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子のみを含有していてもよいし、これら以外のその他の酸化物粒子を含有していてもよい。ここで使用可能なその他の酸化物粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、アルカリ土類金属酸化物等を例示することができる。
【0057】
上記その他の酸化物粒子の平均粒径は、好ましくは0.01μm〜30.0μmであり、より好ましくは0.05μm〜25.0μmである。
【0058】
本発明の排ガス浄化触媒の下層におけるその他の酸化物粒子の含有割合は、下層に含有される酸化物粒子の全量に対する質量割合として75質量%以下とすることが、本発明の効果を減殺しない点で好ましい。この値は、上記の基準で、60質量%以下とすることがより好ましく、50質量%以下とすることが更に好ましく、特に好ましくは40質量%以下である。
【0059】
本発明の排ガス浄化触媒の下層が、その他の酸化物粒子としてアルミナを含有すると、耐熱性が高くなるとの利点が得られるため、好ましい。この場合、下層におけるアルミナの含有割合を、上記の基準で10質量%以上とすることが、アルミナを添加することの効果が有効に発現することとなる点で、好ましい。この値は、上記の基準で、15質量%以上とすることがより好ましく、20質量%以下とすることが更に好ましい。
【0060】
[貴金属]
本発明の排ガス浄化触媒における下層は、貴金属を含有する必要はないが、これを含有していてもよい。下層が含有することのできる貴金属としては、例えば、Rh、Pd、Pt等を挙げることができる。ただしこれらのうちのRhの含有量は、下層においては、基材容量1L当たりのRh質量として、0.25g/基材−L以下に留めることが好ましい。下層には、粒径が比較的大きい第2のセリア系酸化物粒子が存在するので、その近傍に有意量のRhが存在すると、リーンからリッチへの急変時にRhの還元性が損なわれるからである。下層におけるRhの含有量は、好ましくは0.20g/基材−L以下であり、より好ましくは0.15g/基材−L以下であり、更に好ましくは0.10g/基材−L以下であり、特に0.05g/基材−L以下であることが好ましく、最も好ましくは下層がRhを含有しないことである。
【0061】
従って下層の貴金属はPd及びPtから選択されることが好ましく、より好ましくはPdである。
【0062】
下層における貴金属の含有量は、HC浄化性及びCO浄化性のうちの少なくとも片方を良好とするため、0.01g/基材−L以上であることが好ましく、0.05g/基材−L以上であることがより好ましく、0.10g/基材−L以上であることが更に好ましく、特に0.15g/基材−L以上であることが好ましい。一方で、過大なコストを回避するため、1.0g/基材−L以下であることが好ましく、0.50g/基材−L以下であることがより好ましく、0.40g/基材−L以下であることが更に好ましく、特に0.35g/基材−L以下であることが好ましい。
【0063】
下層における貴金属は、上記第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子のうちの少なくとも一方に担持されていることが好ましく、第1のセリア系酸化物粒子に担持されていることがより好ましい。
【0064】
[その他の成分]
本発明の排ガス浄化触媒における下層は、技術上の必要に応じて、上記の上記第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子、並びに任意的に使用されるその他の酸化物粒子以外の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分としては、例えば、バインダー、遷移金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、希土類化合物等を挙げることができる。
【0065】
(バインダー)
上記バインダーは、成分同士の間、及び各成分と基材又は他の層との間を接着して、本発明の床下触媒におけるコート層に機械的強度を付与する機能を有する。このようなバインダーとしては、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル、シリカゾル、チタニアゾル等を挙げることができる。
【0066】
本発明の排ガス浄化触媒の下層におけるバインダーの使用割合は、下層の全質量を100質量%としたときに、20質量%以下とすることが好ましく、0.5〜10質量%とすることがより好ましい。
【0067】
(遷移金属、アルカリ金属化合物、及びアルカリ土類金属化合物)
上記遷移金属としては、例えば、ニッケル、銅、マンガン、鉄、コバルト亜鉛等を挙げることができる。これらのうち、ニッケルを併用すると、硫化水素の生成を抑制する効果が得られる。アルカリ金属化合物としては、例えば、カリウム化合物、リチウム化合物等が挙げられ;アルカリ土類金属化合物としては、例えば、カルシウム化合物、バリウム化合物、ストロンチウム化合物等が挙げられ;希土類化合物としては、例えば、酸化ランタン、酸化プラセオジム、酸化ネオジム等が挙げられる。これらは、得られる触媒の耐熱性を向上する効果がある。
【0068】
本発明の排ガス浄化触媒の下層がアルカリ土類金属の硫酸塩を含有することにより、上層Rhの酸化物状態の安定化が抑制される傾向にある。アルカリ土類金属の硫酸塩としては、硫酸バリウム及び硫酸ストロンチウムから選択して使用することが好ましい。下層におけるアルカリ土類金属硫酸塩の含有量は、下層中の酸化物粒子の合計質量に対して、5質量%〜100質量%とすることが好ましく、10質量%〜50質量%とすることがより好ましく、15質量%〜30質量%とすることが更に好ましい。
【0069】
[下層の量]
本発明の排ガス浄化触媒における下層の量は、セリア系複合酸化物の酸素吸放出能を有効に発現する観点から、50g/基材−L以上であることが好ましく、75g/基材−L以上であることがより好ましく、100g/基材−L以上であることが更に好ましく、特に好ましくは125g/基材−L以上である。一方で、圧力損失を低減すべき観点から、下層の量は、500g/基材−L以下であることが好ましく、300g/基材−L以下であることがより好ましく、275g/基材−L以下であることが更に好ましく、特に好ましくは250g/基材−L以下である。下層が基材上に形成されたコート層である場合、上記の量はコート量であってよい。
【0070】
<上層>
上層は、金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む。
【0071】
[貴金属]
上層の貴金属としては、例えば、Rh、Pd、Pt等を挙げることができ、これらのうちから選択して使用することができる。しかしながら、高負荷運転時の雰囲気緩和と、リーンからリッチへの雰囲気急変時の貴金属還元性とが両立された本発明の効果を最大限に発揮するためには、上層の貴金属としてRhを使用することが好ましい。
【0072】
本発明の排ガス浄化触媒の上層における貴金属(特にRh)の含有量としては、良好な排ガス浄化性(特にNO浄化性)を確保するとの観点から、0.01g/基材−L以上であることが好ましく、0.05g/基材−L以上であることがより好ましく、0.10g/基材−L以上であることが更に好ましく、特に好ましくは0.15g/基材−L以上である。一方で過大なコストを回避するために、1.0g/基材−L以下であることが好ましく、0.75g/基材−L以下であることがより好ましく、0.50g/基材−L以下であることが更に好ましく、特に好ましくは0.35g/基材−L以下である。
【0073】
(酸化物粒子)
上層における上記の貴金属は、酸化物粒子に担持されている。この酸化物粒子としては、セリア系酸化物粒子が好ましい。上層において貴金属を担持するセリア系酸化物粒子を構成する酸化物の詳細については、下層におけるセリア系酸化物粒子について上述したところと同様である。上層の貴金属が特にRhである場合には、このようなセリア系酸化物粒子に担持して含有することにより、良好な雰囲気緩和性を得ることができる。
【0074】
上層において、貴金属を担持するセリア系酸化物粒子の粒径は、雰囲気緩和性を良好とすべき要請から、0.5μmを越えることが好ましく、0.75μm以上であることがより好ましく、0.80μm以上であることが更に好ましく、0.85μm以上であることが特に好ましく、とりわけ好ましくは0.90μm以上である。一方で、リーンからリッチへと雰囲気が急変した際の酸素放出が速やかに終了して貴金属の酸化を抑制すべき観点から、上層におけるセリア系酸化物粒子の粒径は、6μm未満であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.3μm以下であることが更に好ましく、5.2μm以下であることが特に好ましく、とりわけ好ましくは5.0μm以下である。
【0075】
[その他の酸化物粒子]
本発明の排ガス浄化触媒における上層は、酸化物粒子として、上記のセリア系酸化物粒子のみを含有していてもよいし、これら以外のその他の酸化物粒子を含有していてもよい。ここで使用可能なその他の酸化物粒子の種類、粒子径、使用割合等については、下層におけるその他の酸化物粒子について上記に説明したところと同じである。
【0076】
[その他の成分]
本発明の排ガス浄化触媒における上層は、技術上の必要に応じて、上記の貴金属及びセリア系酸化物粒子、並びに任意的に使用されるその他の酸化物粒子以外の成分を含有していてもよい。ここで使用可能なその他の成分としては、下層におけるその他の成分について上述したところと同じである。
【0077】
[上層の量]
本発明の排ガス浄化触媒における上層の量は、排ガスとの反応性を十分に高くすべきとの観点から、10g/基材−L以上であることが好ましく、25g/基材−L以上であることがより好ましく、50g/基材−L以上であることが更に好ましく、特に好ましくは75g/基材−L以上である。一方で、圧力損失を低減すべきとの観点から、上層の量は、500g/基材−L以下であることが好ましく、250g/基材−以下であることがより好ましく、200g/基材−L以下であることが更に好ましく、特に好ましくは175g/基材−L以下である。上層の量は、コート量であってよい。
【0078】
<排ガス浄化触媒の製造方法>
本発明の排ガス浄化触媒は、上記のような特徴を備えている限り、その製造方法は特に限定されない。しかしながら、例えば、以下のいずれかの製造方法を例示することができる。
【0079】
[第1の製造方法]
基材上に、
走査型電子顕微鏡観察によって得られる粒径分布において0.95〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜35.0μmの領域にピークトップを有する第2のセリア系酸化物粒子と、を含む下層を形成する工程(下層形成工程)と、
金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層を形成する工程(上層形成工程)と、
を含む方法。
【0080】
[第2の製造方法]
基材を形成する工程(基材形成工程)と、
前記基材上に金属酸化物粒子及び該金属酸化物粒子に担持された貴金属を含む上層を形成する工程(上層形成工程)と、
を含み、
前記基材の一部又は全部が、走査型電子顕微鏡観察によって得られる粒径分布において0.90〜6.50μmの領域にピークトップを有する第1のセリア系酸化物粒子と、9.50〜34.0μmの領域にピークトップを有する第2のセリア系酸化物粒子と、を含む下層によって構成される、方法。
【0081】
本発明の第1の製造方法によると、基材上に下層及び上層を有する排ガス浄化触媒が得られる。第2の製造法によると、下層が基材の一部を構成し、該基材上に上層を有する排ガス浄化触媒が得られる。以下、上記第1及び第2の製造方法について順次に説明する。
【0082】
1.第1の製造方法
[基材]
本発明の第1の製造方法における基材としては、排ガス浄化触媒が有すべき所望の基材を選択して用いることができる。例えば上述したような、コージェライト、金属酸化物粒子等から構成されるモノリスハニカム基材である。
【0083】
[下層形成工程]
下層は、基材上に、下層の材料又はその前駆体を含有する塗工液(下層用スラリー)を塗布し、必要に応じて溶媒を除去した後、加熱・乾燥することにより、形成することができる。
【0084】
下層は、それぞれ特定の粒径を有する第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子を含有するから、下層用スラリーもこれらの粒子を所定の割合で含有する。下層における第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子としては、それぞれ、上記に説明したものから選択して用いることができる。
【0085】
これらのセリア系酸化物粒子に、貴金属、好ましくはPd、を担持させる場合には、これらの酸化物粒子を、Pd前駆体を含有する溶液に浸漬した後、加熱することにより、製造することができる。
【0086】
上記Pd前駆体としては、例えば、水溶性のPd塩を好適に使用することができる。具体的には例えば、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、硫酸パラジウム等を挙げることができるが、分散性の良い金属Pdが形成される点で、硝酸パラジウムが好ましい。Pd前駆体溶液の溶媒としては、水が好ましい。Pd前駆体溶液中のPd濃度は、得られる触媒における所望のPd担持量に応じて適宜に選択されるべきであるが、PdO換算の濃度として、例えば0.1〜20g/Lとすることができ、好ましくは0.15〜15g/Lである。
【0087】
セリア系酸化物粒子をPd前駆体溶液に浸漬するときの液温は、例えば5〜90℃とすることができ、好ましくは25〜60℃である。浸漬時間は、例えば1分〜6時間とすることができ、好ましくは10分〜1時間である。
【0088】
次いで、浸漬後のセリア系酸化物粒子を、好ましくは還元雰囲気下において加熱する。この加熱工程により、Pd前駆体をPd金属に変換することができる。
【0089】
このときの還元雰囲気は、還元性ガス、又は還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスによって形成することができる。還元性ガスとしては、例えば、一酸化炭素(CO)、水素、硫化水素等を;不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等を、それぞれ挙げることができる。
【0090】
上記加熱工程における加熱温度は、好ましくは800〜1,200℃であり、より好ましくは850〜1,100℃であり、更に好ましくは900〜1,050℃である。加熱時間は、好ましくは0.5〜48時間であり、より好ましくは0.75〜36時間であり、特に1〜24時間とすることが好ましい。
【0091】
第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子を含有する下層用スラリーを調製する。これらのセリア系酸化物粒子には、必要に応じて上記のようにして貴金属が担持されていてもよい。
【0092】
この下層用スラリーには、第1のセリア系酸化物粒子及び第2のセリア系酸化物粒子を所定の割合で含む他、上記に説明した下層の任意成分を含有することができる。本発明における下層用スラリーは、任意成分として特にバインダーを所定量含有することが好ましい。下層用スラリーの溶媒は水が好ましい。
【0093】
下層用スラリーの固形分濃度は、例えば5〜60重量%とすることができ、好ましくは10〜40重量%である。
【0094】
下層用スラリーの調製は、上記の各成分を溶媒中に適宜の方法により懸濁することにより、行うことができる。この懸濁工程には、例えば、攪拌翼式又は羽根式の混合装置、ミキサー等の公知の混合装置を用いることができる。
【0095】
上記で調製された下層用スラリーを、基材の表面上に塗布し、必要に応じて溶媒を除去した後、加熱・乾燥することにより、下層を形成することができる。
【0096】
塗布方法としては、例えば、ディップ法、流し込み法等の公知の方法を制限なく採用することができる。塗布量は、所望のコート層量に応じて適宜に選択される。
【0097】
塗布後の溶媒の除去は、例えば60〜200℃、好ましくは120〜150℃の温度において、例えば5〜120分、好ましくは10〜60分加熱する方法によることができる。この加熱の際の雰囲気は、空気中で足りる。
【0098】
[上層形成工程]
上述のとおり、上層における貴金属は酸化物粒子に担持されている。従って、上層形成用の塗工液(上層用スラリー)は、少なくとも貴金属(好ましくはRh)が担持された酸化物粒子(好ましくはセリア系酸化物粒子)を含有する。
【0099】
上層の酸化物粒子としてセリア系酸化物粒子を用いる場合、貴金属が担持されたセリア系酸化物粒子は、所望の貴金属前駆体を用いる他は、下層におけるPdが担持されたセリア系酸化物粒子の調製と同様にして製造することができる。
【0100】
上層における貴金属としてはRhが好ましい。貴金属が担持されたセリア系酸化物粒子の調製に使用されるRh前駆体としては、例えば、水溶性のRh塩を好適に使用することができる。例えば、塩化ロジウム、塩化ロジウムナトリウム、塩化ロジウム五アミン、カルボニルアセチルロジウム等を挙げることができるが、担体中における分散性が高い点で、塩化ロジウムが好ましい。
【0101】
上層形成工程においては、先ず、上記のようにして貴金属が担持されたセリア系酸化物粒子を含有する上層用スラリーを調製する。
【0102】
この上層用スラリーには、貴金属が担持されたセリア系酸化物粒子の他に、上記に説明した上層の任意成分を含有することができる。本発明における上層用スラリーは、任意成分として特にバインダーを所定量含有することが好ましい。
【0103】
上層用スラリーにおける溶媒、固形分濃度、及びスラリーの調製方法については、上記に説明した下層用スラリーの場合と同様である。
【0104】
そして、上記で調製された上層用スラリーを、上記のようにして下層が形成された基材の表面上に塗布し、必要に応じて溶媒を除去した後、加熱・乾燥し、更に焼成することにより、上層が形成され、これらの操作によって本発明の排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【0105】
塗布方法及び塗布後の溶媒の除去方法は、下層形成の場合と同様である。
【0106】
溶媒除去後の焼成は、例えば400℃〜750℃、好ましくは450℃〜600℃の温度において、例えば0.5〜48時間であり、好ましくは0.75〜36時間加熱する方法により、行うことができる。焼成時の周囲雰囲気は空気中で十分である。
【0107】
2.第2の製造方法
[基材形成工程]
本発明の第2の製造方法における基材形成工程は、基材を構成する金属酸化物粒子の一部又は全部として、小粒径の第1のセリア系酸化物粒子、及び大粒径の第2のセリア系酸化物粒子を使用し、例えば特許文献2に記載の方法に準じて行うことができる。
【0108】
下層が基材の一部を構成する場合、該基材は、具体的には例えば、本発明所定の第1のセリア系酸化物粒子及び大粒径の第2のセリア系酸化物粒子を、必要に応じて他の金属酸化物粒子と混合し、更に水及びバインダーを加え、混錬した後に押出成形し、乾燥及び焼成を行うことにより、得ることができる。
【0109】
[上層形成工程]
第2の製造方法における上層形成工程は、例えば、第1の製造方法におけるのと同様に調整された上層用スラリーを用い、該スラリーを上記で得た基材上に塗布、乾燥、及び焼成することにより、行うことができる。
【実施例】
【0110】
以下において、
アルミナとしては、平均粒径14μm、BET比表面積100m/gのアルミナを、
基材としては、容量1Lのモノリスハニカム基材を、
それぞれ使用した。
【0111】
<本発明の構成による効果の検証>
[実施例1]
(1)下層の形成
第1のCZとして、CeO:ZrO=35:65(質量比)、二次粒子径:1μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、第2のCZとして、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:30μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、アルミナ:100g、及び水:300gを混合して下層用スラリーを調製した。
【0112】
この下層用スラリーを基材にコートし、250℃において1時間加熱して、基材上に下層(コート量:200g/L)を形成した。
【0113】
(2)上層の形成
上層用CZとして、CeO:ZrO=20:80(重量比)、二次粒子径:1μm)のセリア−ジルコニア複合酸化物:50gを、0.2g/L相当の硝酸ロジウムを含有する水溶液中に浸漬した後、250℃において1時間加熱し、更に500℃において1時間焼成して、Rh担持CZを得た。
【0114】
上記で得られたRh担持CZ:50g、アルミナ:50g、及び水:100gを混合して上層用スラリーを調製した。
【0115】
この上層用スラリーを、先に下層を形成した基材上に更にコートし、250℃において1時間加熱・乾燥した後、500℃において1時間焼成して、上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0116】
(3)酸化物粒子の粒径の測定(SEM/EDX分析)
上記で調製した触媒の上層及び下層について、それぞれ、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)分析を行い、CZの粒径を調べた。具体的な測定方法は、以下のとおりである:
測定装置:(株)日立ハイテクノロジーズ製、型式「S−4200」
評価方法:上層及び下層のそれぞれについて、加速電圧:15kV及び視野倍率:2,000倍の条件下で100視野の撮影を行い、視野ごとに5つずつ設定した合計500の領域における平均として、粒子個数を基準とする各層の粒径分布曲線を得た。この粒径分布曲線の極大値を粒子径とした。本実施例1では、上層における極大値は1つのみであり、下層においては2つの極大値が観察された。
【0117】
(4)排ガス浄化性能の評価
(4−1)耐久
上記で得られた触媒を、排気量:4,000ccのガソリンエンジンに取り付け、平均エンジン回転数:3,500rpm、触媒入りガス温度:1,000℃の条件で20時間の耐久を行った。
【0118】
(4−2)性能評価
上記耐久後の触媒を、排気量:700ccの車両に取り付け、JC08モードに従って走行して、テールパイプからのHC、CO、及びNOのエミッションを測定した。
【0119】
上記すべての評価結果を表1に示した。
【0120】
[比較例1]
(1)触媒層の形成
アルミナ50gを、0.25g/L相当の硝酸ロジウムを含有する水溶液中に浸漬した後、250℃において1時間加熱し、更に500℃において1時間焼成して、Rh担持アルミナを得た。このRh担持アルミナ:50g、アルミナ(Rhを担持していないもの):50g、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:10μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、及び水:300gを混合して触媒層用スラリーを調製した。
【0121】
この触媒層用スラリーを基材上にコートし、250℃において1時間加熱・乾燥した後、500℃において1時間焼成して触媒層(コート量:150g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0122】
(2)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果を表1に示した。
【0123】
[比較例2]
(1)下層の形成
第1のCZとして、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:3μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、第2のCZとして、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:20μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、アルミナ:100g、及び水:300gを混合して下層用スラリーを調製した。
【0124】
この下層用スラリーを基材にコートし、250℃において1時間加熱して、基材上に下層(コート量:200g/L)を形成した。
【0125】
(2)上層の形成
0.2g/L相当の硝酸ロジウム、アルミナ:50g、及び水:100gを混合して上層用スラリーを調製した。
【0126】
この上層用スラリーを、先に下層を形成した基材上に更にコートし、250℃において1時間加熱・乾燥した後、500℃において1時間焼成して、上層(コート量:50g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0127】
(3)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果を表1に示した。
【0128】
[比較例3〜5]
(1)触媒の調製
第1のCZとして表1に記載の粒径を有するCZを使用した他は実施例1と同様にして、基材上に下層(コート量:200g/L)を形成した。
【0129】
続いて、上層用CZとして表1に記載の粒径を有するCZを使用した他は実施例1と同様にしてRh担持CZを調製し、該Rh担持CZを用いて実施例1と同様に、先に下層を形成した基材上に上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
(2)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果を表1に示した。
【0130】
【表1】
【0131】
[表1の解析]
表1に見られるとおり、本発明の構成を有する実施例1の排ガス浄化触媒は、単層構成の触媒層を有する比較例1及び2の排ガス浄化触媒、並びに下層のCZが1種類である比較例3〜5の排ガス浄化触媒と比較して、実車エミッション特性に優れていた。特に、NOのエミッションが低減されていることから、実施例1の排ガス浄化触媒では、本発明が所期する効果が有効に発現されていることが検証された。
【0132】
また、酸化物粒子の粒径については、触媒層を形成した後にSEM/EDX分析により測定した値は、仕込み時の粒径と良い一致を示した。
【0133】
<第1のCZ及び第2のCZの粒径の影響>
[実施例2〜16及び比較例6〜12]
(1)触媒の調製
第1のCZ及び第2のCZとして、それぞれ、表2又は表3に記載の粒径を有するCZを使用し、両者の使用割合を表2又は表3のとおりとした他は実施例1と同様にして、基材上に下層(コート量:200g/L)を形成した。
【0134】
続いて、上層用CZとして表1に記載の粒径を有するCZを使用した他は実施例1と同様にしてRh担持CZを調製し、該Rh担持CZを用いて実施例1と同様に、先に下層を形成した基材上に上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0135】
(2)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果は、実施例1の結果とともに、表2及び表3に示した。
【0136】
[実施例17]
本実施例では、下層中の第2のCZに少量のRhを担持することの効果を調べた。
【0137】
(1)下層の形成
第2のCZとして、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:30μmのセリア−ジルコニア複合酸化物を使用し、その50gを0.25g/L相当の硝酸ロジウムを含有する水溶液中に浸漬した後、250℃において1時間加熱し、更に500℃において1時間焼成して、Rhを担持した第2のCZを得た。
【0138】
CZ1として、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:1μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、第2のCZとして上記のRhを担持した第2のCZ:50g、アルミナ:50g、及び水:200gを混合して下層用スラリーを調製した。
【0139】
この下層用スラリーを基材にコートし、250℃において1時間加熱して、基材上に下層(コート量:150g/L)を形成した。
【0140】
(2)上層の形成
上層用CZとしてCeO:ZrO=20:80(重量比)、二次粒子径3μmのCZを使用した他は実施例1と同様にしてRh担持CZを調製し、該Rh担持CZを用いて実施例1と同様に、先に下層を形成した基材上に上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0141】
(3)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果を表3に示した。
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
[表2及び表3の解析]
触媒の下層における第1のCZ及び第2の粒径が本発明所定の範囲内にある実施例1〜17の排ガス浄化触媒は、実車エミッション特性、特にNOのエミッション特性に優れていた。下層に少量(0.25g/L)のRhを含有する実施例17の触媒も、優れたエミッション特性を示したことが特筆される。
【0145】
これらに対して、第1のCZの粒径が本発明所定の範囲を外れる比較例6及び13、並びに第2のCZの粒径が本発明所定の範囲を外れる比較例7〜11の触媒は、エミッション特性に劣ることが分かった。
【0146】
<下層が貴金属(Pd)を含有する場合>
[実施例18]
(1)下層の形成
第1のCZとして、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:1μmのセリア−ジルコニア複合酸化物を使用し、その50gを0.25g/L相当の硝酸パラジウムを含有する水溶液中に浸漬した後、250℃において1時間加熱し、更に500℃において1時間焼成して、Pdを担持した第1のCZを得た。
【0147】
第1のCZとして上記のPdを担持した第1のCZ:50g、第2のCZとして、CeO:ZrO=35:65(重量比)、二次粒子径:30μmのセリア−ジルコニア複合酸化物:50g、アルミナ:50g、及び水:200gを混合して下層用スラリーを調製した。
【0148】
この下層用スラリーを基材にコートし、250℃において1時間加熱して、基材上に下層(コート量:150g/L)を形成した。
【0149】
(2)上層の形成
上記で下層を形成した基材上に、実施例1と同様にして上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
(3)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果は、実施例1の結果とともに表4に示した。
【0150】
[実施例19〜31]
(1)下層の調製
第1のCZ及び第2のCZとして、それぞれ、表4に記載の粒径を有するCZを使用し、両者の使用割合を表4のとおりとした他は実施例18と同様にして、基材上に下層(コート量:200g/L)を形成した。
【0151】
(2)上層の形成
上記で下層を形成した基材上に、実施例1と同様にして上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0152】
(3)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果は表4に示した。
【0153】
[比較例13]
(1)下層の形成
0.25g/L相当の硝酸パラジウム、アルミナ:50g、及び水:200gを混合して下層用スラリーを調製した。
【0154】
この下層用スラリーを基材上にコートし、250℃において1時間加熱して、基材上の下層を形成した。
【0155】
(2)上層の形成
上記で下層を形成した基材上に、実施例1と同様にして上層(コート量:100g/L)を形成することにより、排ガス浄化触媒を調製した。
【0156】
(3)評価
上記で調製した排ガス浄化触媒を用い、実施例1と同様にして、酸化物粒子の粒径の測定及び排ガス浄化性能の評価を行った。結果を表4に示した。
【0157】
【表4】
【0158】
[表4の解析]
本発明の排ガス浄化触媒において、下層がPdを含有すると、実車エミッション特性は更に優れることとなった(実施例18〜31)。トータルの貴金属量が増加したことによると考えられる。しかしながら、比較例13は、従来技術の触媒において、貴金属の含有量を増加した例であるが、エミッション特性は改善されず、かえって、貴金属量の少ない実施例1の触媒よりも劣る結果となった。
【0159】
この表4の結果は、本発明の触媒構成が極めて効果的であることの証左といえる。
図1
図2
図3
図4