【文献】
保健師ゆみちゃんが伝えたい高血圧に関する10のこと,全国健康保険協会(協会けんぽ)鳥取支部 企画総務グループ,2014年 5月,p.1-11
【文献】
European Heart Journal-Cardiovascular Pharmacology,2015年 7月 8日,Vol.1,p.260-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記患者がまた、50mgHgを超える、好ましくは55mgHgを超える、より一層好ましくは60mgHgを超える、中心大動脈脈圧(CPP)と定義されるCPPの増加も有している、請求項1から4のいずれかに記載の医薬組成物。
前記サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達される、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの前記治療有効量または予防有効量が、1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの個別用量で前記患者に投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度を低減するための方法および医薬組成物であって、前記患者への、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せ、特にサクビトリルまたはその薬学的に許容される塩とバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩とのモル比1:1での組合せの治療有効量または予防有効量の投与を含む、方法および医薬組成物に関する。
【0002】
発明の背景
心血管疾患
高血圧症は、世界で年間940万例にのぼる心血管系(CV)死亡の原因であり、世界的に増大している年齢群である65歳以上の2/3を超える人々を冒している。高血圧症を処置すると、脳卒中、虚血性心疾患、心不全、慢性腎疾患およびおそらく認知低下を含む、血圧(BP)の上昇に関連する病的状態および死亡のリスクが低減されることがわかっている。作用機序の異なる複数の薬物クラスが利用可能であるにもかかわらず、高血圧症、特に収縮期血圧(SBP)は、依然として制御が不十分である。
【0003】
SBPは通常、小児期から生涯にわたって増加するが、一方、拡張期BP(DBP)は比較的一定のままであるか、または50〜60歳を超えると減少する。生涯にわたるBPの変化パターンは異なる病理を反映する。若年層では、高血圧症の主な原因は、心拍出量が相対的に増加および/または末梢血管抵抗が増加する結果として、DBPおよび平均動脈圧(MAP)が増加することである。他方で、中年を過ぎた高年層では、大弾性動脈、特に大動脈の硬化度の増大に関連している。
【0004】
動脈の硬化は大動脈の特性インピーダンスに悪影響を与え、心仕事量の増加を必要とし、脈波伝播速度(PWV)が増加するせいで収縮期に送り出される一回拍出量が増えるため、SBPが上昇する。DBPもまた、弾性収縮力が低下するため減少し、血流の減少を招き、このためMAPにおけるいずれの変化からも独立して、脈圧(PP)が増加する。PWVは、死亡、心筋梗塞(MI)、脳卒中、心房細動、認知低下および腎機能障害を含むCV転帰の独立予測因子であることがわかっており、より特定すると、大動脈硬化度のロバストな尺度である大動脈PWV(aPWV)は、有害なCV転帰を予測することがわかっている。
【0005】
動脈が加齢および硬化すると、その結果として他に、大動脈基部から末梢動脈にかけてSBPおよびPPの増幅が減少する。健常な動脈系では、中心大動脈収縮期圧(CASP)およびPPは、これらが末梢に向かって移動するにつれて増幅され、それにより、上腕収縮期圧の測定値は、通常、対応する大動脈基部圧より10〜12mmHg高い。加齢に伴い、この増幅が減少し、上腕SBPおよびPPの測定値は対応する大動脈基部圧に徐々に近くなる。一部の研究は、中心圧の方が末梢BPより、末端器官損傷およびCVリスク(例えば冠状動脈アテローム性硬化症、頚動脈内膜中膜厚、左室(LV)肥大および左室(LV)拡張機能の広がり)と近い相関性をもち得ることを示している。
【0006】
これらの所見は、血圧を降下させるために使用される処置が、上腕圧に比べて大動脈圧に、および動脈硬化度それ自体にも特異的に影響し得るのかどうかという興味深い問題を提起する。BP降下薬物は、中心大動脈圧(CAP)および上腕BPに顕著な特異的効果をもち得ることが実証されている。これらの効果は、波形形態に対するその効果の影響、および上腕圧に比べて中心圧の方での大幅な低減という点で、機能的抗加齢効果を模倣するものである。興味深いことに、大動脈圧を降下させる点で最低効果の薬物クラスであるβ遮断薬は、高齢患者の脳卒中のリスクを低減する点で最低効果のクラスでもあるようであった。このことは、上腕圧に比べて大動脈圧をより効果的に降下させることが臨床的に重要であり得るという概念の裏付けとなる。
【0007】
上記に引用した知見があるにもかかわらず、SBPを制御することは、依然として、高血圧症の臨床管理において最も重要な未対処のニーズである。加齢に伴うSBPおよびPPの上昇は、動脈の硬化および硬化した大動脈を通過するインピーダンスの増加に強く関係しているようである。これにより、大動脈の硬化を標的とし、特性インピーダンスを減少させる処置は、特に収縮期圧を減少させるのに有効であろうことが示唆される。この概念を初期に証明したのは、ネプリライシンとアンジオテンシン変換酵素(ACE)とを同時に阻害するバソペプチダーゼ阻害薬であるオマパトリラトを用いた試験であった。ネプリライシンを阻害すると、ナトリウム利尿ペプチド(NP)の分解が遮断されることによって、NPのレベルが高くなる。NPは血管拡張作用を有し、大動脈硬化度を低減し、特性インピーダンスを改善し、それにより、SBPおよびPPを減少させることが可能である。オマパトリラトを用いた試験では、12週間の治療の後、BP低下の効果に加えて、エナラプリルと比較して大動脈の特性インピーダンスの大幅な改善が示されている。大動脈の機能に対するこの有益性はまた、高血圧症の患者のSBPおよびPPの低下についての印象的なデータにもつながっていた。
【0008】
オマパトリラトは安全性に対する懸念のため取り下げられたが、ネプリライシンとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の同時阻害についての概念実証が確立され、それは大動脈の血行動態を改善するための魅力ある処置戦略になり得る可能性があった。NPレベルの増加はまた、ナトリウム利尿を促進し、交感神経緊張を低減し、抗増殖性効果および抗肥大性効果を伴い、アルドステロン分泌も阻害する。同時に、RAASの抑制はネプリライシン阻害を補完するであろうし、これにより、血管収縮が弱められ、ナトリウムおよび水の滞留が減少し、またCV肥大および有害なリモデリングの発症も抑制される。
【0009】
したがって、高血圧症の処置における大きな課題はSBPを減少させることであり、利用可能な証拠は、加齢した大動脈の血行動態性能を改善することによってこれを実現することが可能であることを示唆している。
【0010】
サクビトリルおよびバルサルタン(LCZ696)
LCZ696は、高血圧症および/または心不全などの心血管疾患の処置のために開発された、ファースト・イン・クラスのアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)である。LCZ696を摂取すると、サクビトリル(AHU377;活性型LBQ657(2R,4S)−5−ビフェニル−4−イル−4−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸に変換されるネプリライシン(中性エンドペプチダーゼ24.11、NEP)阻害薬(NEPi)プロドラッグである、(2R,4S)−5−ビフェニル−4−イル−4−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸エチルエステル、別名N−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−(p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−2R−メチルブタン酸エチルエステル)と、アンジオテンシンII 1型(AT1)受容体を阻害するバルサルタンとに、モル比1:1で全身性曝露される。
【0011】
軽度から中等度の本態性高血圧症の患者にLCZ696を1日1回100、200および400mg使用すると、対応する用量のバルサルタン単独(160および320mg)よりBPの減少が大きく、忍容性が高かったことが示されている[Ruilope LM, Dukat A, Bohm M, et al. Lancet 2010; 375: 1255-66]。LCZ696は、バルサルタンと比較して特に上腕SBPおよびPPの減少において有効であった。さらに、駆出率が保持されている心不全の患者において、LCZ696は、左室(LV)壁張力のバイオマーカーであるN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT−プロBNP)を、12週時点でバルサルタン単独より大幅に減少させることが示され、忍容性が高かった[Solomon SD, Zile M, Pieske B, et al. Lancet 2012; 380: 1387-95]。
【0012】
本明細書に開示している化合物および医薬組成物は、サクビトリルとバルサルタンとの組合せを含み、その化合物または医薬組成物は、国際公開第2003/059345号パンフレット、同第2007/056546号パンフレット、同第2009/061713号パンフレットおよび同第2014/029848号パンフレットに既に開示されており、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0013】
ニーズ
全般的に見て、加齢している大動脈の血行動態性能を改善し、動脈硬化度および脈波伝播速度(PWV)を改善すなわち減少させ、それにより心血管イベントのリスクを減少させ、CV転帰を改善し、認知低下のリスクの減少および認知的な有益性の付与をそれぞれ行い、および/または脳血管イベントのリスクを減少させるニーズが依然として大きい。
【0014】
発明の概要
高齢者における動脈硬化度の測定による、アンジオテンシン受容体遮断薬を伴うアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬の前向き比較(PARAMETER)試験をデザインし、上腕SBPが上昇し、PPが広がっている高齢患者における、CASP、中心大動脈の血行動態および動脈硬化度の他の測定値、ならびに自由行動下血圧によって、LCZ696の効果を、ARBであるオルメサルタンと比較した。PPの広がりは、大動脈の硬化および大動脈加齢の進行を示すものであるため、登録基準として選んだ。その目的は、ARNIであるLCZ696が、収縮期高血圧症の高齢患者における動脈加齢の影響の一部を元に戻し、それにより大動脈圧および血行動態を改善することができるかどうかを判定することであった。
【0015】
驚くべきことに、この試験により、収縮期高血圧症であり、脈圧が増加している高リスク高齢患者において、LCZ696がARBより効果的に中心BPおよびPPを減少させる能力が示された。特に、動脈硬化度が最も進んだ患者において、LCZ696レジメンはまた、ARBより大幅にPWVを減少させる傾向にもあった。これらの結果により、LCZ696が中心大動脈の血行動態および機能に有益な効果をもたらし、RAS遮断単独で観察されるものを超える治療上の利点をもたらし得ることが示唆されている。
【0016】
したがって、本開示は、第1の態様において、脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度を低減する方法であって、前記患者に、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せの治療有効量または予防有効量を投与するステップを含む方法を対象とする。特に、本方法は、認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患を処置、予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための方法である。
【0017】
このようなアンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せは、例えば、本明細書に定義しているアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)、または本明細書に定義している、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)バルサルタンと中性エンドペプチダーゼ阻害薬(NEPi)サクビトリルとのモル比1:1での組合せの、治療有効量または予防有効量を含む医薬組成物である。
【0018】
前記医薬組成物は、
(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と、
(ii)サクビトリルまたはその薬学的に許容される塩との
モル比1:1の組合せの治療有効量または予防有効量を含む。
【0019】
一実施形態では、前記組合せは式(I)
[(A
1)(A
2)](Na
+)
y・xH
2O(I)
(式中、
A
1はアニオン型のバルサルタンであり、
A
2はアニオン型のサクビトリルであり、
Na
+はナトリウムイオンであり、
yは1〜3であり、および
xは0〜3である)
の化合物の形態で提供される。
【0020】
その一実施形態では、式(I)の化合物は、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)である。
【0021】
一実施形態では、医薬組成物は1種または複数の薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0022】
第2の態様において、本発明は、脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度の低減のための医薬品を製造するための、上記に定義した医薬組成物の使用を対象とする。
【0023】
第3の態様において、本発明は、脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度の低減における使用のための、上記に定義した医薬組成物を対象とする。
【0024】
第4の態様において、本発明は、脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度を低減するための、上記に定義した医薬組成物の使用を対象とする。
【0025】
本開示のさらなる特徴および利点は、以下の本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】主要評価項目および副次評価項目:12週目の平均CASPおよびCPPのベースラインからの変化を示すグラフである。略語:BP、血圧;CASP、中心大動脈収縮期圧;CPP、中心脈圧。
【
図2】12週目の上腕SBPおよびPPの変化を示すグラフである。略語:BP、血圧;PP、脈圧;SBP、収縮期血圧。
【
図3】12週目および52週目のPWVのベースラインからの変化を示すグラフである。略語:
#レジメンでは追加のBP制御のために追加のアムロジピン/HCTZを認めた;ANCOVAモデルには、処置、地域、および共変数としてベースラインPWVを含めた;各時点で、ベースラインと当該時点の両方で値を有する対象のみが含まれる;PWV、脈波伝播速度。
【
図4】:52週目のPWVおよび上腕SBPの変化−PWV四分位解析を示すグラフである。注記および略語:PWV四分位群:Q1<8.8m/秒;Q2<10.2m/秒;Q3<11.4m/秒;Q4≧11.4m/秒;処置間比較には、ベースラインおよび52週目に有効なPWVを有する患者の一対解析を利用する;ANCOVAモデルには、予測因子として、処置、地域、ベースラインPWVを含めた;PWV、脈波伝播速度;SBP、収縮期血圧。
【
図5】12週目対52週目のPWVおよびSBPの上位四分位数の変化を示すグラフである。注記および略語:PWV Q4四分位群:≧11.4m/秒;処置間比較には、ベースラインおよび52週目に有効なPWVを有する患者の一対解析を利用する;ANCOVAモデルには、予測因子として、処置、地域、ベースラインPWVを含めた。PWV、脈波伝播速度;SBP、収縮期血圧。
【0027】
定義
本明細書を通して、および続く特許請求の範囲において、以下の用語は、別の意味が明確に述べられない限り、以下の意味で定義される。
【0028】
「予防」という用語は、本明細書に記載の状態の発症を予防するための、健常な対象への予防投与を指す。さらに、「予防」という用語は、処置されるべき状態の前段階にある患者への予防投与を意味する。
【0029】
「処置」という用語は、疾患、状態または障害と闘う目的での患者の管理およびケアと理解される。
【0030】
「治療有効量」という用語は、研究者または臨床医が求めている、組織、系または動物(ヒトを含む)の望ましい生物学的および/または医学的応答を引き出す薬物または治療薬の量を指す。
【0031】
「患者」という用語には、以下に限定されるものではないが、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、ウサギおよびマウスが含まれる。好ましい患者はヒトである。
【0032】
化合物「の投与」および/または化合物「を投与すること」という用語は、本発明の化合物もしくはその薬学的に許容される塩もしくはエステル、またはそのプロドラッグを、処置を必要とする対象に提供することを意味するものと理解されるべきである。本治療方法を行うための本発明の組成物の投与は、組成物中の化合物の治療有効量を、このような処置または予防を必要とする対象に投与することによって実現される。本発明の方法による予防投与の必要性は、よく知られている危険因子を使用して判定される。個々の化合物の有効量は、症例を担当する医師によって最終解析で決定されるが、処置されるべき正確な疾患、疾患の重症度および患者が罹患している他の疾患または状態、選ばれる投与経路、患者が同時に必要とする場合がある他の薬物および処置、ならびに医師の判断における他の因子などの因子によって決定される。
【0033】
「予防有効量」という用語は、本明細書で使用する場合、心房拡大および/または心房リモデリングによって特徴づけられ、および/または顕在化する、疾患の発症を予防するために、研究者、獣医師、医師または他の臨床医が求めている、組織、系、対象またはヒトの生物学的または医学的応答を引き出す組成物中の活性化合物の量を意味する。
【0034】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、値の+/−20%、+/−10%または+/−5%を指す。
【0035】
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書で使用する場合、健全な医学的判断の範囲にあり、哺乳動物、特にヒトの組織に接触するのに好適で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、および適正なリスク・ベネフィット比に応じて他に問題となる合併症のない、化合物、物質、組成物および/または剤形を指す。
【0036】
本発明の一実施形態では、「モル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタン」という用語は、治療有効量の、モル比1:1の、
(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と、
(ii)サクビトリルまたはその薬学的に許容される塩と
を含む組合せであり、特に、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)である、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)を指す。
【0037】
さらに、「アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せは、サクビトリルとバルサルタンとをモル比1:1で含む」という表現は、バルサルタンおよびサクビトリルを含み、非共有結合または共有結合で、任意選択によりリンカーでそれらを結合している代替の複合体または化合物も指すことができる。
【0038】
「脈波伝播速度」(PWV)という用語は、動脈硬化度の尺度である。脈波伝播速度(PWV)は、圧力波が特定の距離を移動するのにかかる時間の簡単な尺度である。メーンズ・コルテベークの式(PWV=√(Eh/2)Rρ;式中、Eは動脈壁のヤング率であり、hは壁厚であり、Rは拡張終期半径であり、ρは血液の密度である)による動脈の力学的性質への、その固有の関係、および様々な集団における心血管イベントおよび死亡についてのPWV測定の独立予測値に関して報告された複数の高水準の縦断研究のお陰で、PWVは現在、動脈硬化度の「至適基準」尺度として広く受け入れられている。
【0039】
本発明に関しては、PWVは大動脈PWV=aPWVとして測定される。aPWVを測定する1つのシステムはSphygmoCor X−CELシステムであり、これは、同時に測定される頚動脈および大腿動脈の拍動から検出される、下行大動脈を通り大腿動脈へと移動する際の動脈の圧力波形の速度として、頚動脈大腿動脈間aPWVを測定する。頚動脈波は、扁平トノメトリ法(applanation tonometry)により、高精度圧力変換器(Millar Instruments、Houston、TX)を使用して検出するが、大腿動脈波は、一部を膨張させた血圧測定用カフを大腿上部に巻き付けて使用して検出する。脈波が移動する距離は、製造元の推奨に従い、体表上で物理的測定を行うことによって捉えられる。個別化した拡張期カフ圧より下を用いるこの新規な上腕カフをベースにしたデバイスは、古典的な橈骨動脈トノメトリ(radial tonometry)をベースにした方法を使用するSphygmoCorデバイス(AtCor Medical)に対して最近有効性が認められ、有効性が認められている既存のトノメトリベースの方法に匹敵する、収縮期圧および大動脈の波形を評価するための操作者に依存しない方法を提供する[Butlin M, Qasem A, Avolio AP. Estimation of central aortic pressure waveform features derived from the brachial cuff volume displacement waveform. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc 2012;2012:2591-4]。
【0040】
「脈圧」(PP)という用語は、収縮期圧の読み取り値と拡張期圧の読み取り値の差を指す。これは水銀柱ミリメートル(mmHg)で測定される。これは心臓が収縮する度に発生させる力を表す。安静時血圧が(収縮期/拡張期)である場合。
【0041】
CAPPという用語は、中心大動脈PPを指す。本発明に関しては、CAPPはSphygmoCor X−CELシステム(AtCor Medical、Sydney、Australia)で測定され、有効性が認められている一般化伝達関数(GTF)を使用して、上行大動脈圧の波形が上腕の波形から非侵襲的に導き出される。適切な大きさに作られたBPカフがコンピュータおよびソフトウェアに連結され、CASP、CAPP、圧増大(augmentation pressure)およびAIxが、システムソフトウェアによる波形の解析から決定される。
【0042】
発明の詳細な記載
本発明は、実施例の項に一層詳細に説明されている臨床試験に基づき、LCZ696(すなわちモル比1:1のサクビトリルおよびバルサルタン)が、収縮期高血圧症であり、脈圧が増加している高リスク高齢患者において、ARB(例えばオルメサルタン)より効果的に中心BPおよびPPを減少させることができることを示すものである。特に、動脈硬化度が最も進んだ患者において、LCZ696レジメンはまた、ARB単独より大幅にPWVを減少させる傾向にもあった。
【0043】
これらの結果は、LCZ696で処置すると、中心大動脈の血行動態および機能に有益な効果をもたらすことを示し、それにより、RAS遮断単独で観察されるものを超えるARNIの処置の治療上の利点を初めて裏付けるものである。
【0044】
これらの結果は、LCZ696が、収縮期高血圧症の高齢患者における動脈加齢の影響の一部を元に戻し、それにより大動脈圧および血行動態を改善することができることを含意している。
【0045】
加えて、観察されたこれらの効果と、PWV、より特定すると大動脈PWV(aPWV)が、死亡、心筋梗塞(MI)、脳卒中、心房細動、認知低下および腎機能障害を含むCV転帰の独立予測因子であることがわかっているという事実とに基づいて、LCZ696が、認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患に有益な効果を有すると結論づけることができる。
【0046】
結果として、LCZ696は特に本態性高血圧症の高齢患者における認知機能の低下を改善または減少させることに有益であり得、これにより、LCZ696は現在利用可能な心血管の薬物とは差別化される。
【0047】
したがって、本発明は以下に関する。
【0048】
処置の方法
したがって、本発明は、脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度を低減する方法であって、前記患者に、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せの治療有効量または予防有効量を投与するステップを含む方法を包含する。
【0049】
その一実施形態では、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せは、サクビトリルとバルサルタンとをモル比1:1で含む。
【0050】
好ましい実施形態では、本方法は、認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患を処置、予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための方法である。
【0051】
一実施形態では、前記認知障害は、軽度認知障害、加齢性認知機能低下およびアルツハイマー病からなる群から選択される。
【0052】
一実施形態では、前記心血管イベントは、心血管系死亡、心筋梗塞(MI)、心房細動、不安定狭心症による入院、急性冠症候群、他の非冠状動脈虚血性イベント(一過性脳虚血発作または虚血肢)、任意の血管再建術(冠状動脈および非冠状動脈)、心不全による入院または入院延長、および冠状動脈血管再建術からなる群から選択される。
【0053】
別の実施形態では、前記脳血管イベントは脳卒中である。
【0054】
その一実施形態では、脈波伝播速度(PWV)の増加とは、10m/秒を超える、10.5m/秒を超える、好ましくは11m/秒を超える、11.5m/秒を超える、より一層好ましくは12m/秒を超える、頚動脈大腿動脈間大動脈PWVと定義される。
【0055】
その一実施形態では、脈圧(PP)の増加とは、60mmHgを超える、好ましくは65mmHgを超える、一層好ましくは70mgHgを超える、上腕の脈圧の広がりと定義される。
【0056】
別のその実施形態では、前記患者はまた、50mgHgを超える、好ましくは55mgHgを超える、より一層好ましくは60mgHgを超える、またはそれより多いCPPと定義される中心大動脈脈圧(CAPPまたはCPP)の増加も有している。
【0057】
前述の別の実施形態では、前記患者は60歳以上、61歳以上、62歳以上、63歳以上、64歳以上、65歳以上である。好ましくは、当該患者は60歳以上である。
【0058】
一実施形態では、前記患者は本態性高血圧症の診断を受けており、特に、前記患者の平均座位収縮期血圧(msSBP)は≧150および<180mmHgである。
【0059】
別の実施形態では、モル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達される。
【0060】
本発明は、治療有効量のサクビトリルとバルサルタンとをモル比1:1で含む医薬組成物が、患者の動脈硬化度の低減をもたらすのに有効であることを規定する。
【0061】
本発明はまた、本医薬組成物が、対応する量のアンジオテンシン受容体遮断薬(例えばオルメサルタン)単独より良好に患者の動脈硬化度の低減をもたらすことも規定する。
【0062】
一実施形態では、ヒト患者はまた、心血管疾患にも、特に本態性高血圧症にも罹患している。
【0063】
上記の処置選択肢のすべてに当てはまる本発明の一態様において、医薬組成物が投与されて、1日の総用量が約50mgから約1000mgまで、特に約800mgまで、または約400mgまでのサクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが送達される。
【0064】
特に、医薬組成物は投与されて、サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの用量で送達される。言い換えると、サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せは、1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの個別用量で患者に投与される。
【0065】
その一実施形態では、
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、サクビトリル24mgおよびバルサルタン26mgに相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、サクビトリル49mgおよびバルサルタン51mgに相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、サクビトリル97mgおよびバルサルタン103mgに相当する。
【0066】
本医薬組成物の特定の実施形態では、サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せは、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達され、ここで、
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、ほぼ56.6mgのLCZ696に相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、ほぼ113.1mgのLCZ696に相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンは、ほぼ226.2mgのLCZ696に相当する。
【0067】
上記の実施形態のうち一実施形態では、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せは、1種または複数の薬学的に許容される担体をさらに含む医薬組成物の形態で送達される。
【0068】
別の実施形態では、前記患者は、再発性の心血管イベントを予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための標準治療処置を同時に受けている。
【0069】
さらなる実施形態では、前記標準治療処置は、固定用量のβ遮断薬、アルドステロン拮抗薬、および/または利尿薬による処置を含む。
【0070】
別の実施形態では、前記標準治療処置は、固定用量のβ遮断薬および任意選択によりアルドステロン拮抗薬による処置を含む。
【0071】
本発明による保護および処置の方法のための上記の実施形態はすべて、
− 本発明による使用のための医薬品を製造するための、本明細書に定義しているモル比1:1のサクビトリルおよびバルサルタンを含む医薬組成物の使用、
− 本発明による、本明細書に定義しているモル比1:1のサクビトリルおよびバルサルタンを含む医薬組成物の使用、
− 本発明による使用のための本明細書に定義しているモル比1:1のサクビトリルおよびバルサルタンを含む医薬組成物
に、等しく適用可能である。
【0072】
特に、本発明による保護および処置の方法のための上記の実施形態はすべて、本発明によるヒト患者の動脈硬化度の低減における使用のための医薬組成物、本発明によるヒト患者の動脈硬化度を低減するための医薬組成物の使用、および本発明によるヒト患者の動脈硬化度の低減のための医薬品を製造するための医薬組成物の使用に、等しく適用可能である。
【0073】
これらの選択肢の一部が特許請求の範囲に記載されており、それらは本開示の一部を形成するものと考えられるべきである。
【0074】
これらの態様の一部を以下に一層詳細にさらに説明するが、この説明は限定するものと解釈されてはならない。
【0075】
本発明による使用のための化合物および組成物
本発明に関しては、「モル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタン」という用語は、治療有効量のモル比1:1の
(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と、
(ii)サクビトリルまたはその薬学的に許容される塩と
を含む組合せを指す。
【0076】
サクビトリルは、N−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−(p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−2R−メチルブタン酸エチルエステルとしてのINNである。これは(2R,4S)−5−ビフェニル−4−イル−4−(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸としてのプロドラッグである。
【0077】
バルサルタンは、S−N−バレリル−N−{[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イル]−メチル}−バリンである。
【0078】
その一実施形態では、本組合せは、モル比1:1の
(i)バルサルタンと、
(ii)N−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−(p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−2R−メチルブタン酸エチルエステルまたはその薬学的に許容される塩、例えばナトリウム塩またはカルシウム塩と
を含む。
【0079】
その別の実施形態では、前記組合せは、式(I)
[(A
1)(A
2)](Na
+)
y・xH
2O(I)
(式中、
A
1はアニオン型のバルサルタンであり、
A
2はアニオン型のサクビトリルであり、
Na
+はナトリウムイオンであり、
yは1〜3であり、好ましくは1、2または3であり、および
xは0〜3であり、好ましくは0、0.5、1、1.5、2、2.5または3である)
の化合物の形態で提供される。
【0080】
一実施形態では、yは3であり、xは2.5である。
【0081】
特に、化合物は三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)である。
【0082】
好ましい実施形態では、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物の化合物は結晶形態で存在する。
【0083】
好ましい実施形態では、本発明は、治療有効量の三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(化合物LCZ696)を含む、使用のための医薬組成物を包含する。このような化合物および医薬組成物は、国際公開第2007/056546号パンフレットおよび同第2009/061713号パンフレットに既に開示されており、その調製の教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0084】
本発明のさらなる実施形態では、本発明による使用のための医薬組成物は、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)を含み、投与されると、NEP阻害薬プロドラッグおよびアンジオテンシン受容体遮断薬を一緒に患者に送達する。
【0085】
本発明の一実施形態では、その使用のすべてについて、医薬組成物は、NEP阻害薬プロドラッグであるサクビトリル、すなわちN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−(2R)−メチルブタン酸エチルエステル、もしくはNEP阻害薬であるN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−(2R)−メチルブタン酸、またはそれらの薬学的に許容される塩と、アンジオテンシン受容体遮断薬であるバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩とを含む。このような組合せは、例えば国際特許出願、国際公開第2003/059345号パンフレットに開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
一実施形態では、医薬組成物は、NEP阻害薬プロドラッグであるサクビトリル、すなわちN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−(2R)−メチルブタン酸エチルエステル、もしくはNEP阻害薬であるN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−(2R)−メチルブタン酸、またはそれらの薬学的に許容される塩と、アンジオテンシン受容体遮断薬であるバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩とを、モル比1:1で含む。
【0087】
(i)市販の供給源から購入することができる、または既知の方法、例えば米国特許第5,399,578号明細書および欧州特許第0443983号明細書(これらの調製の教示は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている方法に従って調製することができる、バルサルタンもしくは(S)−N−バレリル−N−{[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イル]−メチル}−バリン)またはその薬学的に許容される塩。バルサルタンは、本発明の一定の実施形態において、その遊離酸形態でも、任意の好適な塩形態でも使用することができる。環境によっては、カルボキシルの分類のエステルまたは他の誘導体も、テトラゾールの分類の塩および誘導体も、使用してもよい。
【0088】
(ii)サクビトリル、すなわちN−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−(p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−2R−メチルブタン酸エチルエステルまたは(2R,4S)−5−ビフェニル−4−イル−4(3−カルボキシ−プロピオニルアミノ)−2−メチル−ペンタン酸は、既知の方法、例えば米国特許第5,217,996号明細書(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている方法によって調製することができる。
【0089】
対応する活性成分またはその薬学的に許容される塩はまた、水和物形態で使用することもでき、または結晶化のために使用される他の溶媒を含んでもよい。
【0090】
好ましくは、化合物、サクビトリルもしくはその塩、バルサルタンもしくはその塩、またはLCZ696は、実質的に純粋である、または実質的に純粋な形態である。本明細書で使用する場合、「実質的に純粋」とは、少なくとも約90%の純度、一層好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約98%の純度を指す。
【0091】
これらの化合物は、固体または固体形態または固体状態であることも好ましい。固体、固体形態または固体状態は、結晶性、部分的に結晶性、アモルファスまたはポリ−アモルファス、好ましくは結晶形態とすることができる。
【0092】
本発明による医薬組成物は、それ自体が知られている方法で調製することができ、ヒトを含む哺乳動物(温血動物)への経腸投与、例えば経口または経直腸、および非経腸投与に好適なものであり、治療有効量の薬理学的に活性な化合物を、単独で、または経腸適用もしくは非経腸適用に特に好適な1種または複数の薬学的に許容される担体と組み合わせて含む。
【0093】
本発明の医薬製剤は、例えば約0.1%〜約100%、例えば80%もしくは90%、または約1%〜約60%の活性成分を含有する。「約」または「およそ」という用語は、本明細書で使用する場合、どの場合も、所与の値または範囲の10%以内、一層好ましくは5%以内の意味を有するものとする。
【0094】
経腸投与または非経腸投与のための本発明による医薬製剤は、例えば単位用量形態のもの、例えば、糖衣錠、錠剤、カプセル剤、バー剤、サシェ剤、顆粒剤、シロップ剤、水性もしくは油性の懸濁剤または坐剤およびさらにはアンプル剤である。これらはそれ自体が知られている方法で、例えば従来の、混合、造粒、糖衣、溶解または凍結乾燥の各工程を用いて調製される。したがって、経口使用のための医薬製剤は、活性成分を固体担体と組み合わせ、所望の場合、得られた混合物を造粒し、その混合物または顆粒を加工することによって、所望の場合または必要に応じて、好適な添加剤を添加して錠剤または糖衣錠のコアを得た後で、得ることができる。
【0095】
錠剤は、充填剤、例えばリン酸カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;結合剤、例えば微結晶セルロースまたはポリビニルピロリドン、および既知の方法で混合物を錠剤化するのを可能にする当技術分野において公知の他の任意選択の成分と一緒に、活性化合物から形成することができる。同様に、カプセル剤、例えば、活性化合物を含有し、追加の添加剤を含む、または含まない、硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセルは、既知の方法で調製することができる。カプセル剤の内容物は、既知の方法を使用して、活性化合物の徐放性を付与するように製剤することができる。
【0096】
経口投与のための他の剤形には、例えば、無毒性の懸濁剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムの存在下で活性化合物を水性媒体中に含有する水性懸濁液、および活性化合物を好適な植物油、例えばラッカセイ油中に含有する油性懸濁液が含まれる。
【0097】
活性化合物は、追加の添加剤を含む、または含まない顆粒剤に製剤化してもよい。顆粒剤は、患者が直接摂取してもよく、または摂取前に好適な液体担体(例えば水)に添加されてもよい。顆粒剤は、崩壊剤、例えば酸と、炭酸塩または炭酸水素塩とから形成される発泡性のペア(effervescent pair)を含有して、液状媒体中での分散を容易にすることができる。
【0098】
組成物の活性成分の投与量は、当然ながら、処置されるべき状態の重症度の性質、ならびに組成物中の特定の化合物およびその投与経路によって変化するであろう。投与量は、個々の患者の年齢、体重および応答によっても変化するであろう。
【0099】
医薬組成物が、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)を、本発明の内容における使用のための医薬組成物中に含む実施形態では、治療薬サクビトリルとバルサルタンとを一緒にした単位用量は、1日当たり約1〜約1000mg、例えば40mg〜400mgの範囲(例えば、50mg、100mg、200mg、400mg)であろう。または、もっと低い用量、例えば1日当たり0.5〜100mg、0.5〜50mg、または0.5〜20mgの用量が与えられてもよい。注記として、サクビトリルおよびバルサルタンの2種の薬剤の100mgを送達する単位用量100mgのLCZ696は、113.1mgの三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物に相当する。これに応じて、単位用量50mgは56.6mgの、単位用量200mgは226.2mgの、単位用量400mgは452.4mgの、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物をそれぞれ必要とする。
【0100】
医薬組成物の組合せ中の個々の化合物であるサクビトリルおよびバルサルタン、またはこれらのそれぞれの塩の合計の投与量は、約1〜約1000mg、例えば40mg〜400mgの範囲であり、以下に限定されるものではないが、5mg、20mg、25mg、40mg、50mg、80mg、100mg、200mg、400mg、800mgおよび1000mgを含むことになる。個々の化合物であるサクビトリルおよびバルサルタンについてのこのような投与量は、治療有効量または投与量強度と考えることができる。医薬組成物中の各化合物の量の比は、動脈硬化度の最適な低減を実現するために好ましくはモル比約1:1である。医薬組成物中の各化合物の量の比は、動脈硬化度の低減に治療効果を実現するために、好ましくはモル比約1:1である。好ましい実施形態では、個々の化合物であるサクビトリルおよびバルサルタンの投与量は、50mg、100mg、200mgまたは400mg用量のLCZ696を含む医薬組成物中と同じ分子量に相当する。例えば、200mg用量のLCZ696は、およそ103mgのバルサルタンおよび97mgのサクビトリルに相当する。
【0101】
本発明に使用される医薬組成物は、1日何回でも、すなわち速放性構造で1日1回(q.d.)、2回(b.i.d.)、3回、4回などで、または持続放出または徐放性構造で頻度を下げて、投与することができる。好ましくは、医薬組成物は1日2回(b.i.d.)投与される。対応する用量を、例えば、朝、昼または夕に摂取してもよい。
【0102】
本発明の実施形態:
特に、本発明は以下の実施形態に関する。
【0103】
実施形態1:脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度を低減する方法であって、前記患者に、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せの治療有効量または予防有効量を投与するステップを含む方法。
【0104】
実施形態2:アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せがサクビトリルとバルサルタンとをモル比1:1で含む、請求項1に記載の方法。
【0105】
実施形態3:認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患を処置、予防またはそれに見舞われるリスクを低減するためである、請求項1または2に記載の方法。
【0106】
実施形態4:前記認知障害が、軽度認知障害、加齢性認知機能低下およびアルツハイマー病からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【0107】
実施形態5:前記心血管イベントが、心血管系死亡、心筋梗塞(MI)、心房細動、不安定狭心症による入院、急性冠症候群、他の非冠状動脈虚血性イベント(一過性脳虚血発作または虚血肢)、任意の血管再建術(冠状動脈および非冠状動脈)、心不全による入院または入院延長、および冠状動脈血管再建術からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【0108】
実施形態6:前記脳血管イベントが脳卒中である、請求項3に記載の方法。
【0109】
実施形態7:脈波伝播速度(PWV)の増加が、10m/秒を超える、好ましくは11m/秒を超える、より一層好ましくは12m/秒を超える、頚動脈大腿動脈間大動脈PWVと定義される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【0110】
実施形態8:脈圧(PP)の増加が、60mmHgを超える、好ましくは65mmHgを超える、一層好ましくは70mgHgを超える、上腕の脈圧の広がりと定義される、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【0111】
実施形態9:前記患者がまた、50mgHgを超える、好ましくは55mgHgを超える、より一層好ましくは60mgHgを超える、中心大動脈脈圧(CPP)と定義されるCPPの増加も有している、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【0112】
実施形態10:前記患者が60歳以上である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【0113】
実施形態11:前記患者が本態性高血圧症の診断を受けており、特に、前記患者の平均座位収縮期血圧(msSBP)が≧150および<180mmHgである、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【0114】
実施形態12:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達される、請求項2から11のいずれか一項に記載の方法。
【0115】
実施形態13:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの治療有効量または予防有効量が、サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの1日の総用量約50mg〜約1000mgを含む、請求項2から12のいずれか一項に記載の方法。
【0116】
実施形態14:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの個別用量で患者に投与される、請求項13に記載の方法。
【0117】
実施形態15:
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル24mgおよびバルサルタン26mgに相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル49mgおよびバルサルタン51mgに相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル97mgおよびバルサルタン103mgに相当する、
請求項14に記載の方法。
【0118】
実施形態16:モル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達され、ここで、
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ56.6mgのLCZ696に相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ113.1mgのLCZ696に相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ226.2mgのLCZ696に相当する、
請求項15に記載の方法。
【0119】
実施形態17:アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せが、1種または複数の薬学的に許容される担体をさらに含む医薬組成物の形態で送達される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【0120】
実施形態18:前記患者が、再発性の心血管イベントを予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための標準治療処置を同時に受けている、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【0121】
実施形態19:前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬、アルドステロン拮抗薬、および/または利尿薬による処置を含む、請求項18に記載の方法。
【0122】
実施形態20:前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬および任意選択によりアルドステロン拮抗薬による処置を含む、請求項18に記載の方法。
【0123】
実施形態21:脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度の低減における使用のための、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せの治療有効量または予防有効量を含む医薬組成物。
【0124】
実施形態22:アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せが、サクビトリルとバルサルタンとをモル比1:1で含む、請求項21に記載の使用のための医薬組成物。
【0125】
実施形態23:前記使用が、認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患を処置、予防またはそれに見舞われるリスクを低減するためである、請求項21または22に記載の使用のための医薬組成物。
【0126】
実施形態24:前記認知障害が、軽度認知障害、加齢性認知機能低下およびアルツハイマー病からなる群から選択される、請求項23に記載の使用のための医薬組成物。
【0127】
実施形態25:前記心血管イベントが、心血管系死亡、心筋梗塞(MI)、心房細動、不安定狭心症による入院、急性冠症候群、他の非冠状動脈虚血性イベント(一過性脳虚血発作または虚血肢)、任意の血管再建術(冠状動脈および非冠状動脈)、心不全による入院または入院延長、および冠状動脈血管再建術からなる群から選択される、請求項23に記載の使用のための医薬組成物。
【0128】
実施形態26:前記脳血管イベントが脳卒中である、請求項23に記載の使用のための医薬組成物。
【0129】
実施形態27:脈波伝播速度(PWV)の増加が、10m/秒を超える、好ましくは11m/秒を超える、より一層好ましくは12m/秒を超える、頚動脈大腿動脈間大動脈PWVと定義される、請求項21から26のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【0130】
実施形態28:脈圧(PP)の増加が、60mmHgを超える、好ましくは65mmHgを超える、一層好ましくは70mgHgを超える、上腕の脈圧の広がりと定義される、請求項21から27のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【0131】
実施形態29:前記患者がまた、50mgHgを超える、好ましくは55mgHgを超える、より一層好ましくは60mgHgを超える、中心大動脈脈圧(CPP)と定義されるCPPの増加も有している、請求項21から28のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【0132】
実施形態30:前記患者が60歳以上である、請求項21から29のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【0133】
実施形態31:前記患者が本態性高血圧症の診断を受けており、特に、前記患者の平均座位収縮期血圧(msSBP)が≧150および<180mmHgである、請求項21から30のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
【0134】
実施形態32:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達される、請求項22から31のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【0135】
実施形態33:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの治療有効量または予防有効量が、サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの1日の総用量約50mg〜約1000mgを含む、請求項22から32のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【0136】
実施形態34:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの個別用量で患者に投与される、請求項33に記載の使用のための医薬組成物。
【0137】
実施形態35:
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル24mgおよびバルサルタン26mgに相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル49mgおよびバルサルタン51mgに相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル97mgおよびバルサルタン103mgに相当する、
請求項34に記載の使用のための医薬組成物。
【0138】
実施形態36:モル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達され、ここで、
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ56.6mgのLCZ696に相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ113.1mgのLCZ696に相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ226.2mgのLCZ696に相当する、
請求項35に記載の使用のための医薬組成物。
【0139】
実施形態37:1種または複数の薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項21から36のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【0140】
実施形態38:前記患者が、再発性の心血管イベントを予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための標準治療処置を同時に受けている、請求項21から37のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【0141】
実施形態39:前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬、アルドステロン拮抗薬、および/または利尿薬による処置を含む、請求項38に記載の使用のための医薬組成物。
【0142】
実施形態40:前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬および任意選択によりアルドステロン拮抗薬による処置を含む、請求項38に記載の使用のための医薬組成物。
【0143】
実施形態41:脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度の低減のための医薬品を製造するための、アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せの治療有効量または予防有効量を含む医薬組成物の使用。
【0144】
実施形態42:アンジオテンシン受容体を遮断する治療薬とNEP酵素を阻害する治療薬との組合せが、サクビトリルとバルサルタンとをモル比1:1で含む、請求項41に記載の医薬組成物の使用。
【0145】
実施形態43:前記医薬品が、認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患を処置、予防またはそれに見舞われるリスクを低減するためのものである、請求項41または42に記載の医薬組成物の使用。
【0146】
実施形態44:前記認知障害が、軽度認知障害、加齢性認知機能低下およびアルツハイマー病からなる群から選択される、請求項43に記載の医薬組成物の使用。
【0147】
実施形態45:前記心血管イベントが、心血管系死亡、心筋梗塞(MI)、心房細動、不安定狭心症による入院、急性冠症候群、他の非冠状動脈虚血性イベント(一過性脳虚血発作または虚血肢)、任意の血管再建術(冠状動脈および非冠状動脈)、心不全による入院または入院延長、および冠状動脈血管再建術からなる群から選択される、請求項43に記載の医薬組成物の使用。
【0148】
実施形態46:前記脳血管イベントが脳卒中である、請求項43に記載の医薬組成物の使用。
【0149】
実施形態47:脈波伝播速度(PWV)の増加が、10m/秒を超える、好ましくは11m/秒を超える、より一層好ましくは12m/秒を超える、頚動脈大腿動脈間大動脈PWVと定義される、請求項41から46のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【0150】
実施形態48:脈圧(PP)の増加が、60mmHgを超える、好ましくは65mmHgを超える、一層好ましくは70mgHgを超える、上腕の脈圧の広がりと定義される、請求項41から47のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【0151】
実施形態49:前記患者がまた、50mgHgを超える、好ましくは55mgHgを超える、より一層好ましくは60mgHgを超える、中心大動脈脈圧(CPP)と定義されるCPPの増加も有している、請求項41から48のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【0152】
実施形態50:前記患者が60歳以上である、請求項41から49のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【0153】
実施形態51:前記患者が本態性高血圧症の診断を受けており、特に、前記患者の平均座位収縮期血圧(msSBP)が≧150および<180mmHgである、請求項41から50のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【0154】
実施形態52:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達される、請求項42から51のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【0155】
実施形態53:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの治療有効量または予防有効量が、サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの1日の総用量約50mg〜約1000mgを含む、請求項42から52のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【0156】
実施形態54:サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの個別用量で患者に投与される、請求項53に記載の医薬組成物の使用。
【0157】
実施形態55:
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル24mgおよびバルサルタン26mgに相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル49mgおよびバルサルタン51mgに相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル97mgおよびバルサルタン103mgに相当する、
請求項54に記載の医薬組成物の使用。
【0158】
実施形態56:モル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達され、ここで、
a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ56.6mgのLCZ696に相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ113.1mgのLCZ696に相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、ほぼ226.2mgのLCZ696に相当する、
請求項55に記載の医薬組成物の使用。
【0159】
実施形態57:前記医薬組成物が1種または複数の薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項41から56のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【0160】
実施形態58:前記患者が、再発性の心血管イベントを予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための標準治療処置を同時に受けている、請求項41から57のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【0161】
実施形態59:前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬、アルドステロン拮抗薬、および/または利尿薬による処置を含む、請求項58に記載の医薬組成物の使用。
【0162】
実施形態60:前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬および任意選択によりアルドステロン拮抗薬による処置を含む、請求項58に記載の医薬組成物の使用。
【0163】
以下の実施例は例示となるものであるが、本明細書に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0164】
本態性高血圧症(平均座位収縮期血圧[msSBP]≧150mmHgおよび<180mmHgならびに脈圧[PP]>60mmHg)の高齢患者(60歳以上)において、オルメサルタンと比較した際のLCZ696の有効性および安全性を評価するための、第2相、多施設、無作為化、二重盲検、実薬対照、平行群間試験。試験の組み入れ基準は、収縮期高血圧症であり、大きな動脈(大動脈の)硬化度を反映する特性である脈圧の広がりを有する高齢患者のプロファイルに合致する患者を登録するように指定した。この試験は、高齢の高血圧患者において末梢BPを低下させるLCZ696の効果以外に、中心血圧(BP)および動脈硬化度の測定値に対するLCZ696の短期および長期の影響を評価するために、2回、すなわち12週および52週の測定時点から構成されるものとした。この試験には、2012年12月5日から2015年4月8日まで、患者を登録した。これらの最初の解釈可能な結果(first interpretable results)(FIR)には、ベースラインの統計、主要エンドポイントおよび副次エンドポイント、ならびに安全性エンドポイントを記載している(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01692301)。
【0165】
試験薬LCZ696:
LCZ696は、超分子複合体である三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物を指す。この化合物およびその医薬組成物は、国際公開第2007/056546号パンフレットおよび同第2009/061713号パンフレットに既に開示されており、これらの調製の教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0166】
LCZ696は、NEP(中性エンドペプチダーゼEC 3.4.24.11)阻害薬プロドラッグであるAHU377(N−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−(2R)−メチルブタン酸エチルエステル)の分子部分と、アンジオテンシン受容体遮断薬であるバルサルタンの分子部分とを、単一化合物として含むファースト・イン・クラスのアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬である。AHU377は酵素的切断により代謝されて、心房性ナトリウム利尿ペプチドの分解を担う主要な酵素である中性エンドペプチダーゼの、活性な阻害薬であるLBQ657(N−(3−カルボキシ−1−オキソプロピル)−(4S)−p−フェニルフェニルメチル)−4−アミノ−(2R)−メチルブタン酸)になる。
【0167】
比較薬物オルメサルタン:
オルメサルタンは市販の供給源から購入することができる。オルメサルタンは高血圧症の処置用に認可されている。
【0168】
全体的な試験デザイン:
これは、12カ国(欧州、南米、アジアおよび米国にわたる)の50施設が関与する52週間の試験であった。この試験には、スクリーニング期、プラセボ導入期、およびLCZ696単剤治療での12週間の初期二重盲検処置期、次いで40週間の二重盲検拡大期を含めた。患者を無作為化して、4週間、1日1回LCZ696を200mgまたはオルメサルタンを20mg投与し、次いで次の8週間は、初期用量を2倍まで強制漸増した。12週間後、BPを制御していない患者(msSBP>140mmHgおよび/または平均座位拡張期血圧[msDBP]>90mmHg)には、追加の降圧薬(アムロジピン[2.5〜5.0mg]、およびその後必要に応じてヒドロクロロチアジド[6.25〜25.0mg])の使用を、4週間の間隔で24週目まで認めた。
【0169】
主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは、12週目の、中心大動脈収縮期圧(CASP)および中心大動脈PP(CAPP)におけるベースラインからのそれぞれの変化である。他の副次エンドポイントは、CASPおよびCAPPの52週目の変化である。無作為化した患者432名という症例数が、12週目の平均CASPのベースラインからの変化におけるオルメサルタンに対するLCZ696の優位性を評価するために、SD19mmHg、差6.5mmHgおよび脱落率15%と仮定して、検出力90%を確保するものと推定される。主要変数は二元配置共分散解析を使用して解析することになる。
【0170】
試験対象患者
無作為時に、本態性高血圧症(未処置または降圧薬で処置)の高齢患者(60歳以上)ならびにmsSBPが≧150mmHgおよび<180mmHgである患者を、試験の組み入れに適格とする。未処置の患者(新たに診断された場合またはスクリーニング前の4週間に降圧薬で処置されていない場合)は、スクリーニングおよび無作為化時にmsSBPが≧150mmHgおよび<180mmHgでなければならないが、その一方で、スクリーニング前の4週間に降圧薬で処置されている患者は、ウォッシュアウト/プラセボ導入から1週間または2週間後にmsSBPが≧140mmHgおよび<180mmHg、ならびに無作為化時に≧150mmHgおよび<180mmHgでなければならない。患者全員が、無作為化時にPPが>60mmHgでなければならない。悪性または重度の高血圧症、高血圧症の副因、スクリーニング前3カ月間の心房細動もしくは心房粗動の既往歴、または心電図での活発な心房細動もしくは心房粗動、スクリーニング前12カ月間のCV疾患(例えば心筋梗塞)の既往歴、および重度の腎障害のエビデンス(例えば、推定糸球体濾過量[eGFR]<30ml/分/1.73m2)がある患者は除外される−ボックス1および2に組み入れ基準および除外基準をそれぞれまとめている。いずれの試験関連手順を開始するにしても、その前に、患者はインフォームドコンセントを書面で提出しなければならない。
【0171】
試験手順:
試験デザインの詳細はWilliams B, Cockcroft JR, Kario K, Zappe DH, et al. BMJ Open. 2014 Feb 4;4(2)の中で公開された。この文献の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0172】
試験の目的およびエンドポイント
試験の主要目的は、12週間の処置後に平均CASPを減少させることにおける、オルメサルタンベースの処置レジメンに対するLCZ696ベースの処置レジメンの優位性を実証することであった。優位性試験はまた、重要な副次有効性評価、すなわち12週間の処置後の平均中心大動脈PP(CAPP)の減少、および他の副次有効性評価、例えば52週間の処置後の平均CASPおよびCAPPのためにも計画される。平均aPWV、msSBP、msDBP、msPP、平均自由行動下(ma)BP、maPP、およびMAPもまた、12週間の処置後および52週間の処置後に測定されることになる。
【0173】
2つの処置を、12週間および52週間の処置後に比較する探索評価には、脈波解析(PWA)変数、例えば、脈波増大係数(augmentation index)(AIx)、圧増大、PP増幅比、左室(LV)駆出時間、および波反射までの時間;ma中心(mac)BP、macMAP、およびmacPPの減少;NT−プロBNPおよび尿中環状グアノシン一リン酸(cGMP)/クレアチニン比を含む血漿バイオマーカーならびに高血圧症に関する他のバイオマーカーが含まれる。
【0174】
血行動態の測定
SphygmoCor X−CELシステム(AtCor Medical、Sydney、Australia)が使用されており、有効性が認められている一般化伝達関数(GTF)を使用して、上行大動脈圧の波形が上腕の波形から非侵襲的に導き出される。22 適切な大きさに作られたBPカフがコンピュータおよびソフトウェアに連結され、CASP、CAPP、圧増大およびAIxが、システムソフトウェアによる波形の解析から決定される。
【0175】
SphygmoCor X−CELシステムはまた、同時に測定される頚動脈および大腿動脈の拍動から検出される、下行大動脈を通り大腿動脈へと移動する際の動脈の圧力波形の速度として、頚動脈大腿動脈間aPWVも測定する。頚動脈波は、扁平トノメトリ法により、高精度圧力変換器(Millar Instruments、Houston、TX)を使用して検出するが、大腿動脈波は、一部を膨張させた血圧測定用カフを大腿上部に巻き付けて使用して検出する。脈波が移動する距離は、製造元の推奨に従い、体表上で物理的測定を行うことによって捉えられる。この新規な、個別化した拡張期カフ圧より下を用いる上腕カフをベースにしたデバイスは、古典的な橈骨動脈トノメトリをベースにした方法を使用するSphygmoCorデバイス(AtCor Medical)に対して最近有効性が認められ、有効性が認められている既存のトノメトリベースの方法に匹敵する、収縮期圧および大動脈の波形を評価するための操作者に依存しない方法を提供する。23 SphygmoCor X−CELシステムを使用する測定は、ベースライン、無作為化時、12週目、もしくは12、52週目より前の早期中止時点、または12週目と52週目の間の早期中止時点で実施されることになる。
【0176】
24時間のmaCAPおよびmaPWAは、統合型ARCソルバアルゴリズム(Austrian Institute of Technology、Vienna、Austria)を備えたオシロメトリックデバイスであるMobil−O−Graph(IEM、Stolberg、Germany)を使用してモニターすることになる。従来のMobil−O−Graph自由行動下血圧モニタリング(ABPM)デバイスは、10年より長期にわたって利用可能であったし、いくつかの製品世代を経てきている。24〜27 その実際の血圧測定装置はBritish Hypertension Society(BHS)およびEuropean Society of Hypertension(ESH)の推奨によって有効性が認められた。24、26 大動脈圧波形28を導き出すためのGTFを備えた方法は、拡張期レベルでの従来の圧力測定中に得られる上腕の読み取り値に基づいている。
【0177】
信号取得手順の間に、受信された生信号は単一波に分離され、相互相関手法を使用して、極値および対応する波長によって、その信憑性がチェックされる。正確さに欠ける波形はさらなる処理から除去される。各単一波形にGTFを適用した後で、手順が繰り返される。最終的なコヒーレンス検証の後、品質判定のグレード「1」は、波形の少なくとも80%がさらなる処理に適格であるとわかったことを意味し、グレード「2」および「3」は、それぞれa≧50%および<50%が適正な波形であることを表す。29
【0178】
この技術に由来する代替値は、ソリッドステートカテーテル(solid-state catheter)測定値に対して、および/または大動脈圧、29〜32 波反射、33またはaPWVの非侵襲的読み取り値(例えば、トノメトリ法、心エコー検査法)と比較して、有効性が認められている。34、35 しかしながら、有望な臨床的有用性が最近実証された。36〜38 さらに、カフをベースにしたmaPWA測定の実行可能性35および再現性39が報告されている。法的問題に関しては、統合型ARCソルバアルゴリズムを備えたMobil−O−Graph maPWAモニターは、CE、FDAおよびJPAL(数ある中でも特に)の認可を保有している。
【0179】
安全性の評価
安全性および忍容性の評価には、全有害事象(AE)および併用薬または重要な非薬物治療の定期的なモニタリングおよび記録が含まれる。日常的な血液化学検査、白血球百分率を伴う血球数、および尿解析の評価、身体検査、心電図(ECG)、ならびにバイタルサインのモニタリングが一定間隔で実施されることになる。
【0180】
統計解析計画
1群当たり183名の試験終了者という症例数を目標とする。これは有効性の主要変数である12週目の平均CASPのベースラインからの変化に基づいて、標準偏差を19mmHgと仮定して計算される。症例数は、12週目のエンドポイントで、LCZ696をベースにした処置レジメンとオルメサルタンをベースにした処置レジメンとを優位性の評価において比較する際に統計的有意性を検出するために、検出力90%を確保するように計算される。15%脱落率を仮定すると、無作為化されるべき全目標症例数は患者数432名となる(1群当たり216名)。12週目のエンドポイントでの主要変数は、処置および地域を因子とし、ベースラインを共変数とする、二元配置共分散解析(ANCOVA)を使用して解析することになる。12週目のエンドポイントでの平均CAPPは、主要有効性解析に使用される同タイプのANCOVAモデルを使用して解析することになる。この解析には0.05レベルの両側有意性が使用され、処置の差には95%信頼区間が付与されることになる。
【0181】
結果:
対象
合計454名の患者を無作為化して試験を行い、そのうち367名(80.8%)が初期および拡大の二重盲検処置期(52週間)を終了した。52週間の試験期間中に中止した患者のパーセンテージは処置群間でほぼ同等であった。概して、中止の主因は、患者または保護者が試験からの脱落を決定したことによるもの(6.8%)、およびいずれかの有害事象によるもの(AE、5.9%)であった。
【0182】
無作為化された対象集団(RAN)は、二重盲検の試験薬の投薬には関係なく、無作為化番号を受け取った患者と定義した。無作為化された患者全員を、安全性解析対象集団(SAF)および最大の解析対象集団(FAS)に含めた。12週目の解析に影響する主要なPDが一切ない患者を、試験計画書に適合した対象集団(PPS)として定義し、使用した。この追加の有効性集団を、主要解析の結果のロバスト性を評価するために使用した。全体で83%の患者(LCZ696:82.5%;オルメサルタン:83.6%)は12週目の主要なPDがなく、12週間のPPSに含めた(表1)。
【0183】
【表1】
【0184】
ベースラインの統計およびバックグラウンド特性:2つの処置群は、ベースラインの統計およびバックグラウンド特性に関して類似していた。患者の過半数は白人であった(64.3%)。全体で65%の患者が65歳を超えており、13.0%が75歳を超えていた。患者を性別により等しく分配した。高血圧症の既往歴のない患者を除くと、高血圧症の平均期間は11.9年間であった。概して、13.7%の患者はベースラインeGFRが<60ml/分/1.73m2であり、28.6%に糖尿病の既往歴があった。
【0185】
ベースラインの、外来、24時間自由行動下(ABPM)および中心血圧の変数を表2に示している。2つの処置群はベースライン血圧変数に関してほぼ同等であった。
【0186】
【表2-1】
【0187】
【表2-2】
【0188】
主要目的:12週目の中心大動脈収縮期圧(CASP)
主要目的は、本態性高血圧症の高齢患者におけるLCZ696レジメンの有効性を、12週間の処置後に、平均CASPの減少が、対応するオルメサルタンレジメンの平均CASPの減少より優れているという仮説を検証することによって評価することであった。
【0189】
12週目のエンドポイントで、主要変数を、処置および地域を2因子とし、ベースラインを共変数とする、二元配置共分散解析(ANCOVA)モデルを使用して解析した。LCZ696がオルメサルタンより優れているかどうかを評価するために、このモデルに基づいて一対処置比較を行った。試験した帰無仮説は、LCZ696レジメンによる平均減少幅はオルメサルタンレジメンによる平均減少幅に等しいというものとし、それに対して対立仮説は、それらは等しくないというものとした。
【0190】
オルメサルタンレジメンに対するLCZ696の優位性は、12週目のエンドポイントでの平均CASPにおけるベースラインからの変化が、オルメサルタン群では−8.90mmHgであったのと比較して、LCZ696群では−12.57mmHgであったため、実現された(表3および
図1左側)。処置群間の差は、LCZ696に有利なように統計的に有意であった(LSMの差:−3.66mmHg;p=0.010)。
【0191】
【表3】
【0192】
副次的目的:12週目の中心脈圧(CPP)
オルメサルタンレジメンに対するLCZ696の優位性は、12週目のエンドポイントでの平均CPPにおけるベースラインからの変化が、オルメサルタン群では−3.96mmHgであったのと比較して、LCZ696群では−6.41mmHgであったため、実現された(表4および
図1右側)。処置群間の差は、LCZ696に有利なように統計的に有意であった(LSMの差:−2.45mmHg;p=0.012)。
【0193】
【表4】
【0194】
副次的目的:52週目の中心大動脈収縮期圧(CASP)
52週目のエンドポイントでの平均CASPにおけるベースラインからの変化は、LCZ696群(−16.18mmHg)の方がオルメサルタン群(−14.70mmHg)と比較して数値的に高かった(表5)。しかしながら、処置群間の差はLCZ696に対して統計的に有意ではなかった。
【0195】
【表5】
【0196】
副次的目的:52週目の中心脈圧(CPP)
52週目のエンドポイントでの平均CPPにおけるベースラインからの変化は、LCZ696群(−7.16mmHg)の方がオルメサルタン群(−6.65mmHg)と比較して数値的に高かった(表6)。しかしながら、処置群間の差はLCZ696に対して統計的に有意ではなかった。
【0197】
【表6】
【0198】
さらなる評価項目の測定−血行動態の変化
12週目および52週目のベースラインからの血行動態の変化をすべて表7に要約している。
図2は12週目の上腕SBPおよびPPの変化を示す。さらに
図3は12週目および52週目のPWVのベースラインからの変化を示す。
【0199】
詳細解析:PWVおよびSBPについて、四分位解析を実施した。
図4は、52週目のPWVおよび上腕SBPの変化−PWV四分位解析を示す。PWV四分位群:Q1<8.8m/秒;Q2<10.2m/秒;Q3<11.4m/秒;Q4≧11.4m/秒;処置間比較には、ベースラインおよび52週目に有効なPWVを有する患者の一対解析を利用する;ANCOVAモデルには、予測因子として、処置、地域、ベースラインPWVを含めた;PWV、脈波伝播速度;SBP、収縮期血圧。
【0200】
図5は、12週目対52週目のPWVおよびSBPの上位四分位数の変化を示す。PWV Q4四分位群:≧11.4m/秒;処置間比較には、ベースラインおよび52週目に有効なPWVを有する患者の一対解析を利用する;ANCOVAモデルには、予測因子として、処置、地域、ベースラインPWVを含めた。PWV、脈波伝播速度;SBP、収縮期血圧。
【0201】
【表7】
【0202】
要約
試験は、12週間の単剤治療後に、LCZ696 400mg/日がオルメサルタン40mg/日より大幅にCASPおよびCPPを低下させる優位性を実証するというその主要目的に合致した。
【0203】
LCZ696はまた、12週間の単剤治療後に、オルメサルタンと比較して24時間自由行動下SBPも低下させ、夜間に一層顕著なBPの低下が観察された。
【0204】
12週目からBPを制御するために非盲検で追加の降圧薬を認め、52週間の治療の後、52週目の平均CASPおよびCPPの全体的な減少は、LCZ696群の方がオルメサルタン群より数値的に大きかったが、処置の差は統計的有意性には届かなかった。追加の降圧薬治療を認めたため、52週目の中心および上腕のBPプロファイルでは、2つのレジメン間で差はなかった。しかしながら、追加のアムロジピンおよび/またはHCTZを必要とした患者は、オルメサルタン群の方のパーセンテージが高かった。
【0205】
12週目および52週目の両方で、2つのレジメン間の頚動脈大腿動脈間PWVにおける有意差はなかったが、ベースラインPWVが高かった患者の亜群でこの目的に限る解析を行い、LCZ696レジメンは、12週目および52週目の両方で、オルメサルタンレジメンより大幅にPWVを減少させる傾向にあることが示され、その効果は、中心および上腕のBPの減少は類似しているにもかかわらず、より長く観察された。
【0206】
試験はまた、両処置群で52週間の試験を終了した患者が80%を超え、LCZ696レジメンは忍容性が高いことも実証した。試験を中止した患者のパーセンテージは、LCZ696処置群(19.7%)とオルメサルタン処置群(18.7%)の間で均衡していた。AEが理由で試験を中止した患者のパーセンテージもまた、LCZ696処置群(6.6%)とオルメサルタン処置群(5.3%)の間でほぼ同等であった。
【0207】
AEまたはSAEの患者のパーセンテージは、LCZ696(それぞれ57.6%および7.0%)とオルメサルタン(それぞれ53.8%および5.8%)の間でほぼ同程度であった。死亡は3例が報告された(LCZ696でn=1およびオルメサルタンでn=2)。
【0208】
LCZ696は、高齢の高血圧患者の収縮期のBPおよびPPを低下させることにおける有効性が以前に示されている。収縮期高血圧症であり、大動脈の硬化を示すベースラインPPが広い高齢患者集団の試験において、LCZ696は中心大動脈のBPおよびPPを効果的に低下させることが初めて実証された。これらの結果は、LCZ696が高齢の高血圧患者の中心血行動態に有益な効果をもたらすことを示唆している。
【0209】
結論
PARAMETER試験は、収縮期高血圧症であり、脈圧が増加している高リスク高齢患者において、LCZ696がARBより効果的に中心BPおよびPPを減少させる能力を実証した初の無作為化試験となった。
【0210】
動脈硬化度が最も進んだ患者において、LCZ696レジメンはまた、ARBより大幅にPWVを減少させる傾向にもあった。
【0211】
これらの結果により、LCZ696が中心大動脈の血行動態および機能に有益な効果をもたらし、RAS遮断単独で観察されるものを超える治療上の利点をもたらし得ることが示唆されている。
本発明は以下の態様を包含し得る。
[1] 脈波伝播速度(PWV)の増加および脈圧(PP)の増加から選択される少なくとも1つの症状を示すヒト患者の動脈硬化度の低減における使用のための、バルサルタンとサクビトリルとのモル比1:1での組合せの治療有効量または予防有効量を含む医薬組成物。
[2] 前記使用が、認知障害、心血管イベント、脳血管イベントおよびこれらの組合せから選択される障害または疾患を処置、予防またはそれに見舞われるリスクを低減するためである、上記[1]に記載の使用のための医薬組成物。
[3] (a)前記認知障害が、軽度認知障害、加齢性認知機能低下およびアルツハイマー病からなる群から選択され、
(b)前記心血管イベントが、心血管系死亡、心筋梗塞(MI)、心房細動、不安定狭心症による入院、急性冠症候群、他の非冠状動脈虚血性イベント(一過性脳虚血発作または虚血肢)、任意の血管再建術(冠状動脈および非冠状動脈)、心不全による入院または入院延長、および冠状動脈血管再建術からなる群から選択され、
(c)前記脳血管イベントが脳卒中である、
上記[2]に記載の使用のための医薬組成物。
[4] 脈波伝播速度(PWV)の増加が、10m/秒を超える、好ましくは11m/秒を超える、より一層好ましくは12m/秒を超える、頚動脈大腿動脈間大動脈PWVと定義される、上記[1]から[3]のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
[5] 脈圧(PP)の増加が、60mmHgを超える、好ましくは65mmHgを超える、一層好ましくは70mgHgを超える、上腕の脈圧の広がりと定義される、上記[1]から[4]のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
[6] 前記患者がまた、50mgHgを超える、好ましくは55mgHgを超える、より一層好ましくは60mgHgを超える、中心大動脈脈圧(CPP)と定義されるCPPの増加も有している、上記[1]から[5]のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
[7] 前記患者が60歳以上である、上記[1]から[6]のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
[8] 前記患者が本態性高血圧症の診断を受けており、特に、前記患者の平均座位収縮期血圧(msSBP)が≧150および<180mmHgである、上記[1]から[7]のいずれかに記載の使用のための医薬組成物。
[9] 前記サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せが、三ナトリウム[3−((1S,3R)−1−ビフェニル−4−イルメチル−3−エトキシカルボニル−1−ブチルカルバモイル)プロピオネート−(S)−3’−メチル−2’−(ペンタノイル{2”−(テトラゾール−5−イルエート)ビフェニル−4’−イルメチル}アミノ)ブチレート]ヘミ五水和物(LCZ696)の化合物の形態で送達される、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
[10] サクビトリルとバルサルタンとのモル比1:1での組合せの前記治療有効量または予防有効量が、1日1回または2回、50mg、100mgまたは200mgの個別用量で前記患者に投与される、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
[11] a)50mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル24mgおよびバルサルタン26mgに相当し、
b)100mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル49mgおよびバルサルタン51mgに相当し、および
c)200mg用量のモル比1:1でのサクビトリルおよびバルサルタンが、サクビトリル97mgおよびバルサルタン103mgに相当する、
上記[10]に記載の使用のための医薬組成物。
[12] 前記医薬組成物が、1種または複数の薬学的に許容される担体をさらに含む、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
[13] 前記患者が、再発性の心血管イベントを予防またはそれに見舞われるリスクを低減するための標準治療処置を同時に受けている、上記[1]から[12]のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
[14] 前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬、アルドステロン拮抗薬、および/または利尿薬による処置を含む、上記[13]に記載の使用のための医薬組成物。
[15] 前記標準治療処置が、固定用量のβ遮断薬および任意選択によりアルドステロン拮抗薬による処置を含む、上記[14]に記載の使用のための医薬組成物。