(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明の実施の形態に係る減速機は、ケース内で回転する歯車を回転自在に保持するキャリアと、キャリアに連結された出力軸とを備えた減速機として、広く適用することができるものである。
【0019】
本実施の形態に係る偏心型減速機1は、例えば、風車のタワーに対してナセルを回転させるようにヨー駆動するヨー駆動装置、又は、ナセル側のハブに対してブレードの軸部を回転させるようにピッチ駆動するピッチ駆動装置に用いる減速機として好適である。なお、本実施の形態に係る偏心型減速機1は、風車用に限らず、各種産業用機械又は建設機械等において用いることもできる。
【0020】
[全体構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る偏心型減速機1の正面図であり、切欠き断面を含む図である。偏心型減速機1は、モータ(図示せず)から入力された回転を減速して伝達して出力するように構成されている。偏心型減速機1は、ケース11、入力ギア12、減速部13、出力軸14、ピン内歯16等を備えている。
【0021】
図1に示すように、偏心型減速機1は、下側に配置された一端側においてケース11から突出するように位置する出力軸14にピニオン15が一体に形成され、上側に配置された他端側においてケース11に対してモータ(図示省略)が取り付けられる。そして、偏心型減速機1においては、上側に配置されたモータから入力された回転力を、減速部13等を介して減速して伝達し、出力軸14のピニオン15に出力する。尚、以下の説明においては、
図1に示すように、偏心型減速機1にて、出力軸14が配置される下側である出力側を一端側として、モータが取り付けられる上側である入力側を他端側として説明する。
【0022】
図1に示すように、ケース11は、筒状の第1ケース部11aと、第1ケース部11aの他端側に配置される第2ケース部11bとで構成され、これらの縁部同士がボルト(図示省略)で連結されている。ケース11は、内周に複数のピン内歯16が配置され、内部には減速部13等が配置されている。尚、入力ギア12、減速部13、及び出力軸14は、偏心型減速機1の回転中心線P(
図1において一点鎖線で図示)の方向である軸方向に沿って直列に配置されている。ケース11は、一端側(第1ケース部11aの端部側)が開口形成され、他端側(第2ケース部11bの端部側)には前述のようにモータ(図示せず)が固定される。
【0023】
ピン内歯16は、複数設けられており、第1ケース部11aの内周に形成されたピン溝17に嵌め込まれて取り付けられた状態でケース11の内周に配置されている。ピン内歯16(外形を図示)は、ピン状の部材(丸棒状の部材)として形成され、その長手方向が回転中心線Pと平行に位置するように配置されている。そして、ピン内歯16は、ケース11の内周において周方向に沿って等間隔に配列され、後述する外歯歯車24と噛み合うように構成されている。
【0024】
入力ギア12は、短軸状の歯車部材として設けられ、回転中心線P上に配置されている。入力ギア12の外周面には、スパーギア18に噛み合う歯車部分が形成されている。入力ギア12は、モータからの回転駆動力をスパーギア18に入力するように構成されている。以下では、単に「軸方向」と記す場合、この方向は、回転中心線P上を延びる方向又は回転中心線Pに平行な方向を意味する。また、回転中心線Pに直交する方向を「径方向」と呼び、回転中心線P周りの方向を「周方向」と呼ぶ。
【0025】
減速部13は、スパーギア18、クランク軸19、キャリア20、外歯歯車24等を備えて構成されている。スパーギア18は、入力ギア12の歯車部分と噛み合うように入力ギア12の周囲に複数個(本実施の形態では3個)配置されており、入力ギア12に対して偏心型減速機1の径方向に位置している。スパーギア18は、中央部分に貫通する孔が形成され、この孔においてクランク軸19の他端側に対してスプライン結合により固定されている。
【0026】
クランク軸19は、ケース11の内周の周方向に沿った均等角度の位置に複数(本実施の形態では3つ)配置されており、その軸方向が回転中心線Pと平行になるように配置されている。各クランク軸19(外形を図示)は、外歯歯車24に形成されたクランク用孔(図示省略)をそれぞれ貫通するように配置されており、回転することで外歯歯車24を偏心させて回転させる軸部材として設けられている。そして、クランク軸19は、自らの回転(自転)に伴う外歯歯車24の回転とともに、公転動作を行うことになる。
【0027】
外歯歯車24は、互いに平行となるようにケース11内に複数(例えば2つ)、収納されている。各外歯歯車24の中央部分には貫通孔26が形成され、該貫通孔26には、出力軸14のスプライン軸部39が挿通している。また、各外歯歯車24には、周方向に等間隔となるように、各クランク軸19が挿通している。
【0028】
各外歯歯車24の外周には、ピン内歯16に噛み合う外歯24aが形成されている。すなわち、外歯歯車24は、ピン内歯16に噛み合う外歯24aを有する歯車を構成している。各外歯歯車24の外歯24aの歯数は、ピン内歯16の歯数よりも1個或いは複数個少なくなるように設けられている。このため、クランク軸19が回転するごとに、噛み合う外歯24aとピン内歯16との噛み合いがずれ、外歯歯車24が偏心して揺動回転するように構成されている。外歯歯車24は、外歯用軸受(図示省略)を介してクランク軸19を回転自在に保持している。
【0029】
キャリア20は、ケース11内に配置され、基部キャリア21及び端部キャリア22を備え、複数のクランク軸19の一端側及び他端側を回転自在に保持するように構成されている。
【0030】
基部キャリア21は、やや肉厚な略円環状に形成された基部側円環部21aと、略円筒状に形成された基部側円筒部21bとを有し、これらが一体に形成されている。基部側円環部21a及び基部側円筒部21bは、それぞれの中心軸が同軸となるように、且つ基部側円環部21aが一端側となるように、配置されている。基部側円筒部21bの貫通孔は、基部キャリア21の中心に配置され、回転中心線Pを中心とした円周方向に沿ってスプライン溝(キャリア側スプライン部)が形成されたスプライン孔33として設けられている。
【0031】
基部キャリア21には、複数のクランク保持孔34が形成されている。クランク保持孔34は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成された貫通孔として設けられている。基部キャリア21は、このクランク保持孔34によって各クランク軸19の一端側を、クランク軸軸受29を介して回転自在に保持している。また、基部側円環部21aにおける一端側の面の内周側の部分には、他端側へ向かって凹む基部側段差部21cが形成されている。
【0032】
端部キャリア22は、やや肉厚な略円環状に形成された端部側円環部22aと、略円筒状に形成された端部側円筒部22bとを有し、これらが一体に形成されている。端部側円環部22a及び端部側円筒部22bは、それぞれの中心軸が同軸となるように、且つ端部側円環部22aが他端側となるように、配置されている。端部側円筒部22bの貫通孔は、基部キャリア21の中心に配置され、回転中心線Pを中心とした円周方向に沿ってスプライン溝(キャリア側スプライン部)が形成されたスプライン孔35として設けられている。
【0033】
端部キャリア22には、複数のクランク保持孔36が形成されている。クランク保持孔36は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成された貫通孔として設けられている。端部キャリア22は、このクランク保持孔36によって各クランク軸19の他端側を、クランク軸軸受30を介して回転自在に保持している。
【0034】
また、端部側円環部22aにおける他端側の面の内周側の部分には、一端側へ向かって凹む端部側段差部25が形成されている。端部側段差部25には、固定ナット45(固定部材)が収容されている。すなわち、端部側段差部25は、固定ナット45が収容される座ぐり部を形成している。この固定ナット45は、出力軸14に固定される固定用部材を構成している。
【0035】
基部キャリア21及び端部キャリア22は、軸方向に重ねられた状態で、互いに連結されている。詳しくは、基部側円筒部21bの端部と端部側円筒部22bの端部とが接触し、且つ基部キャリア21の一端側の部分がケース11に保持された第1主軸受41に支持された状態で、端部側段差部25に配置された固定ナット45がキャリア20側に押し付けられるように締め込まれる。これにより、固定ナット45と第1主軸受41との間で、基部キャリア21及び端部キャリア22が挟まれて保持される。
【0036】
図2は、
図1の一部を拡大して示す図である。
図2に示すように、キャリア20は、キャリア20における出力軸14と連結されている出力軸側部分20aと、キャリア20における前記出力軸側部分20aよりも径方向外側の部分である外側部分20bと、を有している。
【0037】
出力軸側部分20aは、基部キャリア21におけるスプライン溝が形成されている部分、及び端部キャリア22におけるスプライン溝が形成されている部分、で構成されている。本実施の形態では、出力軸側部分20aは、基部側円筒部21b及び端部側円筒部22bで構成されている。また、外側部分20bは、基部側円環部21a及び端部側円環部22aにおける内周縁付近の部分を除いた部分で構成されている。
【0038】
出力軸14は、
図1に示すように、ピニオン15が一体に形成された一端側においてケース11から突出し、ケース11内に配置された他端側においてキャリア20に連結されている。出力軸14は、その回転中心線が回転中心線Pと重なって配置されており、一端側から他端側にかけて軸方向に沿って、ピニオン15、出力軸部38、及びスプライン軸部39が直列に設けられている。
【0039】
ピニオン15は、ケース11の一端側の開口から突出した出力軸14の一端側の端部において一体に形成されている。出力軸部38は、一対の円錐ころ軸受として設けられた一対の主軸受41,42によって、ケース11に対して回転自在に支持されている。
【0040】
スプライン軸部39は、外歯歯車24の貫通孔26に向かって突出するように配置されており、キャリア20に連結されるスプライン部40(出力軸側スプライン部)が形成されている。スプライン部40は、スプライン軸部39の軸方向に沿って全体的にそれぞれ連続して延びる複数のスプライン歯として形成され、スプライン軸部39の全周に亘って設けられている。スプライン部40は、端部キャリア22における固定ナット45によって保持されている部分と、基部キャリア21における第1主軸受41によって保持されている部分との間を、出力軸14の軸方向に延びるように形成されている。
【0041】
また、スプライン軸部39のスプライン部40のスプライン歯の一端側の部分は、基部キャリア21のスプライン孔33のスプライン溝と嵌まり合っている。一方、スプライン部40のスプライン歯の他端側の部分は、端部キャリア22のスプライン孔35のスプライン溝と嵌まり合っている。これにより、スプライン部40が基部キャリア21と端部キャリア22とに連結され、出力軸14とキャリア20とがスプライン結合により結合されている。また、スプライン軸部39の半径寸法は、クランク軸19の直径寸法よりも大きくなるように形成されている。
【0042】
偏心型減速機1は、一対の主軸受41,42を備えている。一対の主軸受41,42は、上述のように、出力軸14をケース11に対して回転自在に支持している。一対の主軸受41,42は、軸方向におけるキャリア20側に配置された第1主軸受41と、軸方向におけるキャリア20と反対側に配置された第2主軸受42とを有している。
【0043】
第1主軸受41は、出力軸14におけるキャリア20の一端側の部分に配置されている。第1主軸受41は、内輪が出力軸14に取り付けられる一方、外輪が第1ケース部11aに形成された第1段差部51に取り付けられている。第1主軸受41は、径方向については、出力軸14と第1段差部51との間で挟まれている。一方、第1主軸受41は、軸方向については、第1段差部51に形成された第1支持面52(第1支持部)と基部キャリア21の一端側の端部との間で挟まれている。第1支持面52は、法線方向がキャリア20側(他端側)に向かうように形成されている。
【0044】
第2主軸受42は、出力軸14におけるキャリア20と反対側の部分、具体的には、出力軸14におけるピニオン15付近に配置されている。第2主軸受42は、内輪が出力軸14に取り付けられる一方、外輪が第1ケース部11aに形成された第2段差部55に取り付けられている。第2主軸受42は、径方向については、出力軸14と第2段差部55との間で挟まれている。一方、第2主軸受42は、軸方向については、出力軸14の出力軸段差部14aに形成された出力軸側支持面14b(出力軸側支持部)と、第2段差部55に形成された第2支持面56(第2支持部)との間で挟まれている。出力軸側支持面14bは、法線方向がキャリア20側(他端側)に向かうように形成されている。第2支持面56は、法線方向がキャリア20と反対側(一端側)に向かうように、すなわち、軸方向において出力軸側支持面14bと対向するように、形成されている。
【0045】
本実施の形態では、一対の主軸受41,42には、予圧が加えられている。この予圧は、固定ナット45を出力軸14に対して締め込むことにより、一対の主軸受41,42に対して加えることができる。なお、予圧とは、一対の軸受を押し付け合うように組み付けることにより両方の軸受に付与される圧力のことである。
【0046】
具体的には、固定ナット45を出力軸14に対して締め込むことで、キャリア20及び一対の主軸受41,42が、固定ナット45と出力軸側支持面14bとの間で挟まれる。これにより、第1主軸受41には、第1支持面52と基部キャリア21との間で挟まれることによる予圧が作用する。一方、第2主軸受42には、第2支持面56と出力軸側支持面14bとの間で挟まれることによる予圧が作用する。
【0047】
すなわち、上述のように固定ナット45を出力軸14に対して締め込むことで、基部キャリア21及び端部キャリア22を互いに連結し出力軸14に対して軸方向に位置決めすること、及び、一対の主軸受41,42の双方に対して予圧を付与すること、の両方を同時に行うことができる。
【0048】
[潤滑油供給溝]
本実施の形態において、ケース11(第1ケース部11a)の他端側には、ケース11内に潤滑油を供給するための給油口48が設けられている。給油口48には給油口キャップ48aが螺合により取り付けられている。一方、ケース11(第1ケース部11a)のうち減速部13の周辺には、給油口48aから供給されてケース11内に封入された潤滑油を排出するための排油口49が設けられている。この排油口49には排油口キャップ49aが螺合により取り付けられている。キャップ48a、49aのケース11への着脱操作用に、給油口キャップ48a及び排油口キャップ49aにはケース11の外側に向かって開口する六角穴が形成されている。
【0049】
図2に示すように、固定ナット45、キャリア20および第1主軸受41には、給油口48aから供給されてケース11内に封入された潤滑油を供給する(通過させる)ための潤滑油供給溝81a〜81fがそれぞれ形成されている。潤滑油供給溝81a〜81fは、それぞれキャリア20と出力軸14との間の内部空間83に連通している。なお、内部空間83は、より詳細には、スプライン孔33、35のスプライン溝とスプライン部40のスプライン歯との間に生じるわずかな空間である。
【0050】
この場合、潤滑油供給溝81a〜81fは、それぞれ径方向に延びているが、これに限らず、回転中心線Pに直交する平面上に設けられていれば良い。また、潤滑油供給溝81a〜81fは、それぞれ周方向に沿って均等な間隔で4箇所設けられているが、潤滑油供給溝81a〜81fの数や位置はこれに限るものではない。さらに、潤滑油供給溝81a〜81fは、それぞれ直線状に延びているが、これに限らず、径方向に対して斜めに延びていても良く、または曲線状又はクランク状であっても良い。
【0051】
図2に示すように、潤滑油供給溝81aおよび潤滑油供給溝81bは、それぞれ端部側段差部25の内側に位置する内部空間82と、キャリア20と出力軸14との間の内部空間83とを互いに連通させている。このうち潤滑油供給溝81aは固定ナット45に形成され、潤滑油供給溝81bはキャリア20の端部キャリア22に形成されている。潤滑油供給溝81aおよび潤滑油供給溝81bを設けたことにより、内部空間82と内部空間83との間で潤滑油を互いに円滑に流通させることができる。
【0052】
図3は、固定ナット45を一端側(下側)から見た斜視図である。
図3に示すように、潤滑油供給溝81aは、固定ナット45のうちキャリア20に接触する面45a(一端側の面)に複数(
図3では4つ)形成されている。
図3において、キャリア20に接触する面45aを斜線で示している。この場合、潤滑油供給溝81aは、固定ナット45を構成する環の径方向全体にわたって設けられているが、これに限らず、固定ナット45を構成する環の径方向の一部のみに設けられていても良い。
【0053】
図4は、端部キャリア22を他端側(上側)から見た斜視図である。
図4に示すように、潤滑油供給溝81bは、端部キャリア22のうち固定ナット45に接触する面22c(端部側段差部25の底面)に複数(
図4では4つ)形成されている。
図4において、固定ナット45に接触する面22cを斜線で示している。
【0054】
図2を参照すると、潤滑油供給溝81cおよび潤滑油供給溝81dは、それぞれキャリア20と出力軸14との間の内部空間83と、キャリア20と外歯歯車24との間の内部空間84とを互いに連通させている。このうち潤滑油供給溝81cは、キャリア20の端部キャリア22に形成され、潤滑油供給溝81dは、キャリア20の基部キャリア21に形成されている。潤滑油供給溝81cおよび潤滑油供給溝81dを設けたことにより、内部空間83と内部空間84との間で潤滑油を互いに円滑に流通させることができる。
【0055】
図5は、基部キャリア21を他端側(上側)から見た斜視図である。
図5に示すように、潤滑油供給溝81dは、基部キャリア21のうち端部キャリア22に接触する面21d(基部側円筒部21bの上端面)に複数(
図5では4つ)形成されている。
図5において、端部キャリア22に接触する面21dを斜線で示している。この場合、潤滑油供給溝81dは、基部側円筒部21bの上端面を構成する環の径方向全体にわたって形成されている。
【0056】
潤滑油供給溝81cは、潤滑油供給溝81dと同様に、端部キャリア22のうち基部キャリア21に接触する面(端部側円筒部22bの下端面)に複数形成されている。
【0057】
再度
図2を参照すると、潤滑油供給溝81eおよび潤滑油供給溝81fは、それぞれ基部側段差部21cの内側に位置する内部空間85と、基部キャリア21の下方空間86とを互いに連通させている。このうち潤滑油供給溝81eは、キャリア20の基部キャリア21に形成され、潤滑油供給溝81fは、第1主軸受41のレースに形成されている。潤滑油供給溝81eおよび潤滑油供給溝81fを設けたことにより、内部空間85と下方空間86との間で潤滑油を互いに円滑に流通させることができる。
【0058】
図6は、基部キャリア21を一端側(下側)から見た斜視図である。
図6に示すように、潤滑油供給溝81eは、基部キャリア21のうち第1主軸受41に接触する面21e(一端側の面)に複数(
図6では4つ)形成されている。
図6において、第1主軸受41に接触する面21eを斜線で示している。この場合、潤滑油供給溝81eは、基部側段差部21cからクランク保持孔34まで延びている。
【0059】
潤滑油供給溝81fは、第1主軸受41のうち基部キャリア21に接触する面(第1主軸受41のレースの上面)に複数形成されている。
【0060】
上記においては、潤滑油供給溝81a〜81fの全てが設けられている場合を例にとって説明した。しかしながら、必ずしも潤滑油供給溝81a〜81fの全てが設けられていなくても良く、潤滑油供給溝81a〜81fのいずれか1つ又は複数が設けられていれば良い。
【0061】
[動作]
次に、上述した偏心型減速機1の動作について説明する。偏心型減速機1は、図示しないモータの運転が行われることにより動作する。モータの運転が開始されると、入力ギア12が回転する。入力ギア12が回転すると、入力ギア12に噛み合う各スパーギア18が回転し、各スパーギア18が固定された各クランク軸19が回転する。この回転に伴って、外歯歯車24がピン内歯16と噛み合いをずらしながら揺動するように偏心して回転する。そして、外歯歯車24の偏心回転に伴って、外歯歯車24に対して回転保持されたクランク軸19が自転しながら回転中心線Pを中心として公転動作を行う。このクランク軸19の公転動作により、クランク軸19の一端側及び他端側を基部キャリア21及び端部キャリア22にて回転自在に保持するキャリア20が回転する。そして、キャリア20の基部キャリア21及び端部キャリア22に対してスプライン軸部39のスプライン部40にてスプライン結合された出力軸14が回転し、大きなトルクがピニオン15から出力されることになる。そして、上述のように、一対の主軸受41,42に対して予圧が加えられているため、回転精度を向上すること、振動及び騒音を抑制することができる。
【0062】
また、上述した作動の際においては、クランク軸19、基部キャリア21、端部キャリア22等の動作に伴い、ケース11内において潤滑油が流動する。そして、端部側段差部25の内側に位置する内部空間82に存在する潤滑油は、潤滑油供給溝81aおよび潤滑油供給溝81bを通過してキャリア20と出力軸14との間の内部空間83に向かって流動する。これにより、スプライン孔35のスプライン溝とスプライン部40のスプライン歯との間へ潤滑油が円滑に供給される。
【0063】
そして、内部空間83に流入した潤滑油は、さらに潤滑油供給溝81cおよび潤滑油供給溝81dを通過してキャリア20と外歯歯車24との間の内部空間84へと流動する。これにより、キャリア20と外歯歯車24との間の内部空間84へ潤滑油が供給される。
【0064】
また、内部空間84に流入した潤滑油は、スプライン軸部39の軸方向に沿って、スプライン孔33のスプライン溝とスプライン部40のスプライン歯との間へも流動していく。その後、潤滑油は、潤滑油供給溝81eおよび潤滑油供給溝81fを通過して、基部側段差部21cの内側に位置する内部空間85から基部キャリア21の下方空間86へと流動する。このようにして、スプライン軸部39の軸方向に沿って十分な潤滑油が循環供給される。
【0065】
[効果]
以上説明したように、本実施の形態によれば、固定ナット45、キャリア20および第1主軸受41に、潤滑油を供給するための潤滑油供給溝81a〜81fを形成している。これにより、スプライン軸部39の軸方向に沿って、キャリア20と出力軸14との間の内部空間83に潤滑油を供給することができる。この結果、キャリア20と出力軸14との潤滑性を良好にし、スプライン部(スプライン孔33、35のスプライン溝とスプライン部40のスプライン歯)の寿命が短くなる不具合を防止することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、次のような変形例を実施してもよい。
【0067】
(変形例)
上記実施の形態では、本発明の適用例として、偏心型減速機1を挙げて説明したが、これに限らず、本発明は、遊星型減速機2に適用することもできる。
【0068】
図7は、変形例に係る遊星型減速機2の正面図であり、切欠き断面を含む図である。本変形例に係る遊星型減速機2は、上記実施の形態に係る偏心型減速機1と比べて、主に減速部の構成が異なる。以下、上記実施の形態と異なる点について主に説明し、上記実施の形態と同様の構成の説明については、図面において同一の符号を付すことで又は同一の符号を引用して説明することで、省略する。
【0069】
変形例に係る遊星型減速機2の減速部60は、
図7に示すように、太陽ギア61、遊星ギア62、遊星ギア軸部63、リングギア64、及び遊星キャリア(キャリア)65等を備えている。減速部60では、モータからの回転駆動力を入力ギアとしての太陽ギア61に入力することにより太陽ギア61が回転し、太陽ギア61と噛み合う遊星ギア62が太陽ギア61の周囲を自転しながら公転する。これにより、遊星ギア軸部63を介して遊星ギア62を回転自在に支持する遊星キャリア65が回転するため、該遊星キャリア65とスプライン結合する出力軸14が回転する。これにより、出力軸14から大きなトルクを得ることができる。
【0070】
遊星キャリア65は、基部キャリア66及び端部キャリア67を有し、これらが一体に形成されている。遊星キャリア65は、ケース11内に配置され、複数の遊星ギア軸部63の一端側及び他端側を回転自在に保持するように構成されている。遊星キャリア65では、基部キャリア66及び端部キャリア67が、軸方向に互いに間隔をおいて配置された状態で、両者の外縁部同士が連結されている。基部キャリア66と端部キャリア67との間には、太陽ギア61及び複数の遊星ギア62が配置されている。
【0071】
基部キャリア66は、遊星キャリア65における一端側の部分を構成する略円板状の部分である。基部キャリア66には、貫通孔、及び複数の軸保持孔69が形成されている。貫通孔は、基部キャリア66の中央部分に形成され、回転中心線Pを中心とした円周方向に沿ってスプライン溝(キャリア側スプライン部)が形成されたスプライン孔68として設けられている。軸保持孔69は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成されている。軸保持孔69には、遊星ギア軸部63の一端側が挿通している。
【0072】
また、基部キャリア66における他端側の面の内周側の部分には、一端側へ向かって凹むキャリア段差部70が形成されている。キャリア段差部70には、固定ナット46(固定部材)が収容されている。すなわち、キャリア段差部70は、固定ナット46が収容される座ぐり部として設けられている。この固定ナット46は、出力軸14に固定される固定用部材を構成している。
【0073】
図8は、
図7の一部を拡大して示す図である。
図8に示すように、基部キャリア66は、基部キャリア66における出力軸14と連結されている出力軸側部分71と、基部キャリア66における出力軸側部分71よりも径方向外側の部分である外側部分72と、を有している。
【0074】
図8に示すように、出力軸側部分71は、基部キャリア66におけるスプライン溝が形成されている部分で構成されている。外側部分72は、基部キャリア66における内周縁付近の部分を除いた部分で構成されている。
【0075】
端部キャリア67は、遊星キャリア65における他端側の部分を構成する略円板状の部分である。端部キャリア67には、複数の軸保持孔74が形成されている。軸保持孔74は、回転中心線Pを中心とした周方向に沿った均等角度の位置に形成されている。軸保持孔74には、遊星ギア軸部63の他端側が挿通している。
【0076】
遊星キャリア65は、固定ナット46によって、軸方向において出力軸14に位置決めされる。具体的には、基部キャリア66の一端側の部分が第1主軸受41に支持された状態で、キャリア段差部70に配置された固定ナット46が締め込まれる。これにより、固定ナット46と第1主軸受41との間で遊星キャリア65が挟まれて位置決めされる。
【0077】
出力軸14は、上記実施の形態の場合と同様、一端側から他端側にかけて軸方向に沿って、ピニオン15、出力軸部38、及びスプライン軸部39が直列に設けられ、その回転中心線が回転中心線Pと重なって配置されている。また、出力軸14は、上記実施の形態の場合と同様、一対の円錐ころ軸受として設けられた一対の主軸受41,42によって、ケース11に対して回転自在に支持されている。
【0078】
スプライン軸部39には、遊星キャリア65に連結されるスプライン部40が形成されている。スプライン部40のスプライン歯は、スプライン軸部39の全周に亘って設けられている。スプライン部40は、基部キャリア66における固定ナット46によって保持されている部分と、基部キャリア66における第1主軸受41によって保持されている部分との間を、出力軸14の軸方向に延びるように形成されている。スプライン部40は、基部キャリア66のスプライン孔68に形成されたスプライン溝と嵌まり合う。これにより、出力軸14と遊星キャリア65とがスプライン結合により結合される。
【0079】
本変形例にかかる遊星型減速機2も、上記実施の形態に係る偏心型減速機1と同様、一対の主軸受41,42として、軸方向における遊星キャリア65側に配置された第1主軸受41と、軸方向における遊星キャリア65と反対側に配置された第2主軸受42とを有している。第1主軸受41は、出力軸14における遊星キャリア65の一端側の部分に配置され、径方向については、出力軸14と第1段差部51との間で挟まれる一方、軸方向については、第1支持面52と基部キャリア66の一端側の端部との間で挟まれている。第2主軸受42は、出力軸14におけるピニオン15付近に配置され、径方向については、出力軸14と第2段差部55との間で挟まれる一方、軸方向については、出力軸側支持面14bと第2支持面56との間で挟まれている。
【0080】
そして、本変形例に係る遊星型減速機2でも、固定ナット46が出力軸14に対して締め込まれる。これにより、上記実施の形態の場合と同様、遊星キャリア65を出力軸14に対して軸方向に位置決めすること、及び、一対の主軸受41,42の双方に対して予圧を付与すること、の両方を同時に行うことができる。
【0081】
図8に示すように、固定ナット46、遊星キャリア65および第1主軸受41には、ケース11内に封入された潤滑油を供給(通過)するための潤滑油供給溝91a〜91dがそれぞれ形成されている。潤滑油供給溝91a〜91dは、それぞれ遊星キャリア65と出力軸14との間の内部空間93に連通している。内部空間93は、スプライン孔68のスプライン溝とスプライン部40のスプライン歯との間の空間である。
【0082】
潤滑油供給溝91aおよび潤滑油供給溝91bは、それぞれキャリア段差部70の内側に位置する内部空間92と、遊星キャリア65と出力軸14との間の内部空間93とを互いに連通させている。このうち潤滑油供給溝91aは、固定ナット46のうち遊星キャリア65に接触する面に形成されている。また、潤滑油供給溝91bは、端部キャリア67のうち固定ナット46に接触する面に形成されている。潤滑油供給溝91aおよび潤滑油供給溝91bを設けたことにより、内部空間92と内部空間93との間で潤滑油を互いに円滑に流通させることができる。
【0083】
潤滑油供給溝91cおよび潤滑油供給溝91dは、それぞれ遊星キャリア65と出力軸14との間の内部空間93と、遊星キャリア65の下方空間94とを互いに連通させている。このうち潤滑油供給溝91cは、基部キャリア66のうち第1主軸受41に接触する面に形成され、潤滑油供給溝91dは、第1主軸受41のうち基部キャリア66に接触する面に形成されている。潤滑油供給溝91cおよび潤滑油供給溝91dを設けたことにより、内部空間93と下方空間94との間で潤滑油を互いに円滑に流通させることができる。
【0084】
上記においては、潤滑油供給溝91a〜91dの全てが設けられている場合を例にとって説明したが、これに限らず、潤滑油供給溝91a〜91dのいずれか1つ又は複数が設けられていても良い。
【0085】
本変形例においても、上記実施の形態の場合と同様、固定ナット46、遊星キャリア65および第1主軸受41に、潤滑油を供給するための潤滑油供給溝91a〜91dを形成したことにより、スプライン軸部39の軸方向に沿って、遊星キャリア65と出力軸14との間の内部空間93に潤滑油を供給することができる。これにより、遊星キャリア65と出力軸14との潤滑性を良好にし、スプライン部(スプライン孔68のスプライン溝およびスプライン部40のスプライン歯)の寿命が短くなる不具合を防止することができる。