特許第6599186号(P6599186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6599186
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】微生物による浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20191021BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20191021BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B09C1/10ZAB
   C02F3/34 Z
   C02F3/00 D
   C02F3/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-180536(P2015-180536)
(22)【出願日】2015年9月14日
(65)【公開番号】特開2017-56373(P2017-56373A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年7月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、経済産業省、産業技術実用化開発事業(土壌汚染対策のための技術開発(原位置処理重金属等土壌汚染対策技術開発))、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】萩野 芳章
(72)【発明者】
【氏名】今安 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 和久
(72)【発明者】
【氏名】山下 信彦
(72)【発明者】
【氏名】新村 知也
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235796(JP,A)
【文献】 特開2011−005371(JP,A)
【文献】 特開2008−238027(JP,A)
【文献】 特開2003−071430(JP,A)
【文献】 特開2012−040476(JP,A)
【文献】 特開平11−216457(JP,A)
【文献】 特開2004−066193(JP,A)
【文献】 特開2010−051930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
B09B 3/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化合物で汚染された汚染地下領域に栄養源を投入し、且つ該汚染地下水の酸化還元電位(ORP)を−250mV以上、100mV以下とし、生息するシアン化合物分解微生物を原位置で増殖させて汚染地下領域を浄化する工程を行い、
該工程途中に、汚染領域に設置された揚水井戸から地下水を汲み上げ、地上にて該地下水のORPを−250mV以上、100mV以下として微生物の増殖培養を行い、増殖培養された培養液を汚染領域の地下水に注入することを特徴とする微生物による浄化方法。
【請求項2】
該汚染地下水の溶存酸素濃度(DO)を0〜1.0mg/lとすることを特徴とする請求項1記載の微生物による浄化方法。
【請求項3】
該汚染地下領域に酸素水を投入することを特徴とする請求項1又は2記載の微生物による浄化方法。
【請求項4】
該ORPが−200mV以上、100mV以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物による浄化方法。
【請求項5】
前記培養液の注入は、汚染領域に設置された注入井戸に注入するものであることを特徴とする請求項に記載の微生物による浄化方法。
【請求項6】
前記培養液の注入は、地盤攪拌混合装置を用いて、地盤を攪拌しつつ添加注入するものであることを特徴とする請求項に記載の微生物による浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化合物の有害物質で汚染された地下水又は地盤などの地下領域を、原位置に生息する微生物を利用して浄化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シアン化合物は、高い反応性を有し、医薬、農薬、プラスチック製造、電気メッキなどの化学製造工場、金属加工工場あるいはガス製造工場等において大量に使用され、あるいは副生成物として発生することから、これらの工場から不可避に地盤中に漏洩することがある。シアン化合物は毒性が高いことから、地下水中には検出されないことが法により定められている。すなわち、環境中に排出されたシアン化合物は、微生物等により速やかに分解除去されることが望ましい。
【0003】
シアン化合物は高い水溶性を示すため、一度地下水中に放出されるとその流れによって汚染が短時間で広範囲に拡散する。このような場合、原位置での対策が、コスト面及び環境面から適切なものとなる。すなわち、シアン化合物の浄化方法としては、バイオレメディエーション手法を利用した方法が有効である。
【0004】
一方、特開2005−21759号公報には、硝酸イオンを含んだ淡水を汚染土壌に添加した後の汚染土壌に含まれる水中のORP(酸化還元電位・銀/塩化銀電極基準)を測定し、測定されたORPを−100mV以上+300mV以下に維持するように、淡水の添加量を制御する汚染土壌の浄化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−21759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2005−21759号公報の汚染土壌の浄化方法は、油分、芳香族系炭化水素、含ハロゲン炭化水素を含有する汚染土壌の浄化であり、シアン化合物を対象としたものではない。
【0007】
従って、本発明の目的は、シアン化合物で汚染された地下領域を微生物により浄化する改良されたバイオスティミュレーション手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、シアン化合物分解微生物は、酸化還元電位(ORP)が−250mV以上、100mV以下の条件下において、増殖し易いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、上記課題を解決したものであり、シアン化合物で汚染された汚染地下領域に栄養源を投入し、且つ該汚染地下水の酸化還元電位(ORP)を−250mV以上、100mV以下とし、生息するシアン化合物分解微生物を原位置で増殖させて汚染地下領域を浄化する工程を行うことを特徴とする微生物による浄化方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、該汚染地下水の溶存酸素濃度(DO)を0〜1.0mg/lとすることを特徴とする前記微生物による浄化方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、該汚染地下領域に酸素水を投入することを特徴とする前記微生物による浄化方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、該ORPが−200mV以上、100mV以下であることを特徴とする前記微生物による浄化方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、汚染領域に設置された揚水井戸から地下水を汲み上げ、地上にて該地下水のORPを−250mV以上、100mV以下として微生物の増殖培養を行い、増殖培養された培養液を汚染領域の地下水に注入することを特徴とする前記微生物による浄化方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記培養液の注入は、汚染領域に設置された注入井戸に注入するものであることを特徴とする前記微生物による浄化方法提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記培養液の注入は、地盤攪拌混合装置を用いて、地盤を攪拌しつつ添加注入するものであることを特徴とする前記微生物による浄化方法提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地下水中のシアン化合物の分解が進む。このため、浄化期間が短縮され、施工コストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、シアン化合物としては、無機シアン化合物及び有機シアン化合物が挙げられる。これらのシアン化合物には、ニトリル化合物、金属シアノ錯体等が含まれる。ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、ジニトリル類及びトリニトリル類が挙げられる。また、金属シアノ錯体としては、例えば、鉄シアノ錯体、銅シアノ錯体、銀シアノ錯体及びニッケルシアノ錯体が挙げられる。これら例示されたシアン化合物は、1種単独又は2種以上を含むものである。
【0018】
本発明において、汚染された地下領域としては、汚染された地下水及び汚染された地下地盤が挙げられる。また、地下地盤としては、砂地盤、シルト地盤、粘土地盤あるいは砂分を含むシルト地盤又は粘土地盤である。砂分を含むシルト地盤又は粘土地盤としては、砂層とシルト・粘土層の互層地盤が挙げられる。互層地盤としては、砂層とシルト・粘土層の2層構造を含む地盤、特に、砂層とシルト・粘土層と砂層の3層構造を含む地盤が例示される。
【0019】
本発明の微生物の浄化方法においては、先ず、汚染地下領域に栄養源を投入し、且つ該汚染地下水の酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀基準)を特定範囲内とし、生息するシアン化合物分解微生物を原位置で増殖させて汚染地下領域を浄化する工程(I工程)を行う。栄養源としては、公知のものでよく、例えば、酸素、空気、窒素源やリン源等の栄養塩、グルコース、フルクトース、スクロース等の糖類等が挙げられる。これらの添加により、汚染地下領域(汚染サイト)に存在する有害物質分解微生物を増殖、活性化することができる。栄養源の添加は、適宜の間隔で複数回行ってもよい。また、I工程において、栄養源の他に、pH調整剤を投入してもよい。
【0020】
I工程において、汚染領域に分散して設置された揚水井戸(観測井戸)から地下水を採取し、揚水井戸毎に採取された地下水の酸化還元電位を測定し、必要により浄化レベルを測定する。揚水井戸の設置は、汚染領域において注入井戸近傍又はそれよりやや下流で、均等に分散して設置するのが好ましい。地下水の酸化還元電位は、公知の酸化還元電位計で測定できる。また、浄化レベルは、公知の方法で測定でき、地下水中の微生物濃度又は有害物質の濃度で判断する方法が好ましい。
【0021】
I工程において、地下水の酸化還元電位は、−250mV以上、100mV以下、好ましくは−200mV以上、100mV以下であり、特に−200mV以上、80mV以下である。汚染地下水の酸化還元電位が、この範囲にあれば、シアン化合物分解微生物の増殖が進む。このような酸化還元電位は、地下水に酸素水を投入することで、制御することができる。一般的に地下水の酸化還元電位は、−400mV〜−300mVであり、これに酸素水を投入することで、酸化還元電位を高めることができる。本発明において、汚染地下水の酸化還元電位を−250mV以上、100mV以下とするには、酸素水を汚染地下水の対象領域に注入し、あわせて観測井戸で酸化還元電位を測定し、上記酸化還元電位の値となったところで酸素水の注入を停止すればよい。なお、酸素水の注入速度は、0.5〜3.0リットル/分の範囲で行うことが好ましい。また、継続して、地下水の酸化還元電位を−250mV以上、100mV以下とするには、例えば1週間毎あるいは1ヶ月毎に酸素水の再注入を開始すればよい。
【0022】
酸素水は、公知の酸素水を使用すればよい。すなわち、空気中に置いた水には平衡状態20℃で1リットル当たりおよそ9.3ミリグラムの酸素が溶解しているが、酸素水は、その2〜4倍の酸素が含まれているものである。また、I工程において、汚染地下水の溶存酸素濃度(DO)は、0〜1.0mg/lが好ましい。汚染地下水のDOが、当該範囲であれば、シアン化合物分解微生物の増殖は進む。
【0023】
本発明のI工程において、汚染地下領域に栄養源や酸素水を投入する方法としては、汚染領域に分散して設置された注入井戸から栄養源や酸素水を投入する方法および汚染領域に対して地盤攪拌混合装置を使用し、地盤を攪拌しつつ栄養源や酸素水を投入する方法が挙げられる。
【0024】
汚染領域に分散して設置された注入井戸としては、例えば、汚染領域に対してブロック毎に分け、該ブロック毎に均等に設置すること好ましい。すなわち、注入井戸の設置は、汚染領域全体に対して幾つかのブロックに平面視面積が略同じになるように分け、該ブロック内において、均等に設置することが好ましい。なお、一つのブロック内における注入井戸の設置ピッチは、8〜12m、好適には約10mである。一つのブロックは、注入井戸を結ぶことで形成される三角形以上の多角形又は円形であり、且つ平面視での面積が、概ね50〜300m、特に70〜150m程度のものである。すなわち、ブロックを形成する多角形状の各角又は円形の中心には、少なくとも注入井戸が設置されるか、あるいは地盤攪拌混合する位置である。
【0025】
汚染領域に対して地盤攪拌混合装置を使用し、地盤を攪拌しつつ栄養源や酸素水を投入する方法において、地盤攪拌混合装置としては、地盤改良分野における公知の装置を使用することができ、例えば、回転軸駆動手段により回転される中空の回転軸と、該回転軸の下方に放射状に設けた1以上の攪拌翼と、前記回転軸の中空部に配設され、一端が地上の供給手段に接続され他端が攪拌翼近傍の吐出口に接続される栄養源等供給管とを備える装置が挙げられる。また、地盤攪拌混合装置は、注入井戸の設置位置と同じ位置に設置して使用される。なお、地盤攪拌混合装置を使用する場合、注入井戸は設置しなくともよい。地盤攪拌混合装置は、汚染地盤に粘土層を含む砂層とシルト・粘土層の互層地盤において効果を発揮する。すなわち、互層地盤においては、粘土層に有害物質が溜まり易いが、この有害物質を含む部分を深さ方向に攪拌混合することで、帯水層を形成して浄化を促進することができる。I工程は、汚染地下領域の有害物質を微生物で分解浄化する所定の期間行う。
【0026】
また、I工程において、酸素水の投入を行い、酸化還元電位を上記範囲としても、経過時間と共に、地下環境は変化するため、定期的に、酸素水を投入することが好ましい。そして、揚水井戸毎に採取された地下水の酸化還元電位が−250mV以下の場合、酸素水の投入回数を増やすなどの方法を採り、100mVを超える場合、酸素水の投入を暫く中止するなどの方法を採ればよい。酸素水の投入は、例えば数ヶ月間の浄化期間であれば、その期間中の4日間〜1週間程度の特定の期間であってもよく、この特定の期間は浄化期間中、1回又は複数回であってもよい。すなわち、長い浄化期間全般に亘り、地下水の酸化還元電位が上記範囲にあることが好ましいが、地下水の酸化還元電位が上記範囲から外れる期間が存在してもよい。
【0027】
本発明において、I工程途中、汚染領域に設置された揚水井戸から地下水を汲み上げ、地上にて該地下水のORPを−250mV以上、100mV以下、好ましくは−200mV以上、100mV以下、特に好ましくは−200mV以上、80mV以下として微生物の増殖培養を行い、増殖培養された培養液を汚染領域の地下水に注入する工程を行うことが好ましい。この増殖培養工程を行うことで、シアン化合物分解微生物の増殖は一層進む。また、I工程と同様に、増殖培養工程においても、DOを0〜1.0mg/lとするのがよい。
【0028】
汲み上げられた地下水中の微生物の増殖培養方法としては、例えば、反応槽を備える培養プラントで行う方法が挙げられる。図1は、汲み上げられた地下水中の微生物を培養プラント20で増殖培養する方法の一例を示す。培養プラント10は、反応槽12、一端が汲み上げポンプ13に接続し、他端が反応槽12に接続する地下水供給配管16、栄養源貯留槽11、栄養源を反応槽12に供給する栄養源供給配管17、酸素水貯留槽21、酸素水を反応槽12に供給する酸素水供給配管23、増殖培養された微生物を含む地下水を注入井戸1に供給する吐出配管18、栄養源供給ポンプ14、酸素水供給ポンプ22および吐出ポンプ15から構成される。なお、増殖培養液を注入井戸ではなく、地盤攪拌混合装置を用いる場合、吐出配管18は、I工程で説明した地盤攪拌混合装置の栄養源等供給配管に接続される。
【0029】
汚染領域の地下水は、揚水井戸2から汲み上げポンプ13および地下水供給配管16を介して反応槽12に供給される。一方、栄養源貯留槽11に貯留された栄養源は栄養源供給ポンプ14および栄養源供給配管17から反応槽12に供給される。また、酸素水貯留槽21に貯留された酸素水は酸素水供給ポンプ22および酸素水供給配管17から反応槽12に供給される。反応槽12では、酸化還元電位及びDOを上記範囲とし、pH調整剤を添加してpH9.0に調整し、25℃の温度で反応槽内の地下水表面が静かに揺れる程度に穏やかに攪拌して所定期間培養すればよい。ORP値及び微生物の増殖培養の判定は、反応槽12から適宜の時期にサンプリングを行い決定又は判定される。
【0030】
増殖培養工程において、所定濃度まで微生物の増殖培養が行われた後、増殖培養された微生物を含む地下水を汚染地下領域に注入する工程を行う。増殖培養液中の分解微生物はシアン化合物の分解に適した微生物群であり、シアン化合物の浄化に有効である。増殖培養された微生物を含む地下水を汚染地下領域に注入する方法としては、注入井戸から注入する方法および地盤攪拌混合装置を使用し、地盤を攪拌しつつ添加、投入する方法が挙げられる。
【0031】
I工程又はI工程と増殖培養工程の併用工程において、汚染地下領域は、増殖培養された微生物によるシアン化合物の分解浄化が行われる。なお、I工程途中、増殖培養された微生物を含む培養液は適宜の時期に複数回に分けて添加を行ってもよい。増殖培養工程後の分解浄化において、増殖培養された微生物は、原位置で生息する有害物質分解能を有する微生物であり、シアン化合物の分解浄化が期待できる。
【0032】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0033】
(実施例1)
図2に示すように、地下水がシアン濃度4〜6mg/lのシアン化合物で汚染されている地下領域Xに、注入井戸を3箇所設け(IW-1〜IW-3)、注入井戸の11m又は22m下流にそれぞれ揚水井戸を設けた(OW-1〜OW-4)。矢板20で囲まれた汚染領域Xに対する浄化は、8月18日から開始し、10月15日に終了した。この期間中、表1に示すように、8月18日から連続して毎日4日間、10月9日から10月15日の間の4日間、酸素水を注入井戸(IW-1〜IW-3)から注入した。酸素水の注入量は、1本の井戸に対して、700リットルであり、一日約8時間継続して注入した。栄養源は浄化期間中、適宜の時期で添加した。酸素水の添加量は、予め実験室試験において求めておいた。また、揚水井戸(OW-1〜OW-4)から汲み上げられた地下水の酸化還元電位(mV)と地下水中のシアン濃度(mg/l)を常法により測定した。その結果をそれぞれ表1と表2に示した。なお、地下水中のシアン濃度は表2に示す月日に測定した。また、当該月日に溶存酸素(DO)を測定したが、OW-1〜OW-4から汲み上げられた地下水中のDOは0〜1.0mg/lの範囲であった。なお、符号「-」は「測定せず」である。
【0034】
(比較例1)
図2中、符号PW1〜3で示す位置にバリア井戸を設け、バリア井戸から酸素水の投入をしなかった以外は、実施例1と同様の方法で行い、地下水の酸化還元電位(mV)と地下水中のシアン濃度(mg/l)を測定した。すなわち、比較例1は浄化の対象外であるバリア井戸から汲み上げられた地下水のORP等を測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1及び表2の結果から、汲み上げられた地下水の酸化還元電位が−250mV以上、100mV以下、DOが0〜1.0mg/lの井戸においては、地下水のシアン濃度が、4〜6mg/lのものが、0.8〜1.8mg/lまで減少した。これは、上記のORP条件下において、シアン化合物分解微生物の増殖が進んだものである。一方、汲み上げられた地下水の酸化還元電位が−325mV以下の井戸においては、地下水のシアン濃度の減少は認められなかった。
【0038】
(参考例)
<室内試験(集積培養)>
シアン化合物で汚染された汚染領域に設置された4地点の揚水井戸からそれぞれ地下水を揚水し、該地下水を混合して試験水として、下記に示すA、B及びCの各条件において、シアン分解微生物の活性を評価した。評価は、7日目、14日目、21日目及び28日目とし、それぞれシアン濃度及びORPを測定した。結果を表3に示した。なお、地下水の性状は表4に示した。4地点の揚水井戸から汲み上げられた地下水は原位置において浄化中のものであり、その混合地下水のシアン濃度は、1.0mg/lであった。そして、この室内試験の28日間の試験結果において、ORPが−250mV以上、100mV以下のA条件は、ORPが100mVを超えるB条件や、ORPが−250mVを下回るC条件に比べて、シアン分解微生物の活性は高く、シアン濃度は40%減少できた。
【0039】
(A条件)
三角フラスコに、揚水した地下水300ml、栄養剤を0.5%、pH調整剤を0.7%添加し密封した。次いで、三角フラスコを100回転/分で振とうし混合液を攪拌した。混合液の表面は僅かに揺れていた。なお、栄養剤は1週間毎に同量を逐次添加し、25℃で養生した。この混合液の毎週のORPは、−250mV以上、100mV以下であった。
【0040】
(B条件)
三角フラスコに、揚水した地下水150ml、栄養剤を0.5%、pH調整剤を0.7%添加し密封した。次いで、三角フラスコを100回転/分で振とうし混合液を攪拌した。混合液の表面は大きく揺れていた。なお、栄養剤は1週間毎に同量を逐次添加し、25℃で養生した。この混合液の毎週のORPは、100mVを超えたものであった。
【0041】
(C条件)
三角フラスコに、揚水した地下水500ml、栄養剤を0.5%、pH調整剤を0.7%添加し密封し、静置した。なお、栄養剤は1週間毎に同量を逐次添加し、25℃で養生した。この混合液の毎週のORPは、−400mV〜−300mVであった。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、原位置に生息するシアン化合物分解能を有する微生物の増殖が進み、地下水のシアン化合物が微生物分解される。このため、汚染領域全体の浄化期間が短縮され、施工コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の浄化方法における増殖培養プラントを示す図である。
図2】本発明の浄化方法において、実施例及び比較例が行われた汚染領域を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 注水井戸
2 揚水井戸
10 培養プラント
11 栄養源貯留槽
12 反応槽
18 吐出配管
20 矢板
21 酸素水貯留槽
OW-1〜4 揚水井戸
IW-1〜3 注入井戸
PW-1〜3 バリア井戸
X 汚染領域
図1
図2