【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本開示の蓄熱材をより詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0031】
以下の実施例及び比較例において、蓄熱密度の評価に用いる示差走査熱量測定(DSC)には、示差走査熱量計(TA Instruments製 DSC Q10)を用いた。示差走査熱量評価前及び後の試料の構造解析には、X線回折装置(Rigaku 製 RINT2000)を用いた。試料の重量は、電子天秤(PERKIN ELMER製 AD-6)を用いて測定した値である。なお、蓄熱密度の算出における測定容器による補正に用いる補正データの測定には、固−液相変化に伴う融解熱量が既知であるインジウム(モル融解熱量:3.281kJ/mol、原子量:114.82)を用いた。
【0032】
<比較例1>
リチウム、水素から構成される化合物として、LiHについて、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
【0033】
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:10deg/min、温度範囲:室温〜715℃とした。また、試料として、1.56mgのLiH(Alfa Aesar 製 41596)をステンレス密閉パンに入れて、評価を行った。
【0034】
評価に当たり、示差走査熱量計及びステンレス密閉パンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、
図2に示すように、蓄熱密度の測定値は33kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は0.866であると算出した。
【0035】
図3に、LiHを用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。固−液相変化温度は672℃であり、蓄熱密度は、測定値である2506kJ/kgに装置定数0.866を乗じた2170kJ/kgである。
【0036】
また、
図4及び
図5に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前後の試料は何れもLiHであり、示差走査熱量評価における吸熱ピークは、化学変化ではなく、物理変化(固−液相変化)に起因することが確認された。
【0037】
以上のように、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用するためには、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い材料が必要となるのに対して、LiHは、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であることから、高い蓄熱密度(2170kJ/kg)を有するものの、固−液相変化温度も672℃と高温であった。
【0038】
<実施例1>
リチウム、水素、及び窒素から構成される化合物としてリチウムアミド(LiNH
2)について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
【0039】
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜450℃とした。また、試料として、2.79mgのLiNH
2(Alfa Aesar 製686050)をステンレス圧力パンに入れて、評価を行った。
【0040】
評価に当たり、示差走査熱量計及びステンレス圧力パンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、
図6に示すように、蓄熱密度の測定値は25.93kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は1.102であると算出した。
【0041】
図7に、LiNH
2を用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果から、1、2回目の測定値を平均すると、固−液相変化温度は371℃であり、蓄熱密度は、測定値である588.2kJ/kgに装置定数1.102を乗じた648kJ/kgである。
【0042】
また、
図8及び
図9に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前後の試料は何れもLiNH
2であり、示差走査熱量評価における吸熱ピークは、化学変化ではなく、物理変化(固−液相変化)に起因することが確認された。
【0043】
本開示では、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、15族元素として原子量の小さい第2周期の窒素から構成されるLiNH
2とすることにより、アニオン(NH
2−)サイズの大きいイオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性を高めることができる。
【0044】
このため、LiHの固−液相変化温度:672℃と比較して、固−液相変化温度を低温化(371℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料:NaOH(80)/NaC(20)(固−液相変化温度:370℃、蓄熱密度:370kJ/kg)より高い蓄熱密度:648kJ/kgを実現できた。
【0045】
<実施例2>
リチウム、水素、及びホウ素から構成される化合物としてリチウムボロハイドライ
ド(LiBH
4)について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
【0046】
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜450℃とした。また、試料として、6.32mgのLiBH
4(Alfa Aesar 製686026)をアルミパンに入れて、評価を行った。
【0047】
評価に当たり、示差走査熱量計及びアルミパンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、
図10に示すように、蓄熱密度の測定値は24.85kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は1.150であると算出した。
【0048】
図11に、LiBH
4を用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果から、1、2回目の測定値を平均すると、固−固相転移温度は114℃であり、蓄熱密度(固−固相転移)は192kJ/kgであり、固−液相変化温度は286℃であり、蓄熱密度(固−液相変化)は、測定値である314.1kJ/kgに装置定数1.150を乗じた361kJ/kgである。
【0049】
また、
図12及び
図13に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前後の試料は何れもLiBH
4とアルミパンに起因するアルミニウム(Al)であり、示差走査熱量評価における吸熱ピークは、化学変化ではなく、物理変化(固−固相転移、及び固−液相変化)に起因することが確認された。
【0050】
本開示では、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、13族元素として原子量の小さい第2周期のホウ素から構成されるリチウムボロハイドライト(LiBH
4)とすることにより、更にアニオン(BH
4-)サイズの大きいイオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性が高めることができる。また、114℃にて結晶構造中のリチウムイオン(Li
+)と錯イオン(BH
4-)の位置関係が変わる。
【0051】
このため、LiHの固−液相変化温度:672℃、LiNH
2の固−液相変化温度:371℃と比較して、固−固相転移、及び固−液相変化温度を更に低温化(286℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料:NaNO
2、(固−液相変化温度:282℃、蓄熱密度:216kJ/kg)よりも高い蓄熱密度:361kJ/kgを実現できた。更に、固−液相変化に加えて、固−固相転移による蓄熱利用(温度114℃、蓄熱密度192kJ/kg)も可能となる。
【0052】
<実施例3>
リチウム、水素、及び13族元素としてホウ素から構成される化合物としてLiBH
4と、リチウム、水素、及び15族元素として窒素から構成される化合物としてLiNH
2との混合物について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
【0053】
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜450℃とした。また、試料として、LiBH
4(Alfa Aesar 製686026)、LiNH
2(Alfa Aesar 製 686050)を用い、下記の手順に基づき、ミリング処理を行った。
(1)グローブボックス内にて、モル比でLiBH
4:LiNH
2=1:3になるようにLiBH
4とLiNH
2をミリングポットに入れ、スパチュラで軽く攪拌する。
(2)ミリングポットにFeボール20個を入れ、Ar雰囲気の状態でミリングポットを閉め、グローブボックスから取出す。
(3)粉砕機(FRITSCH製 遊星型ボールミルP-7)に、ミリングポットをセットし、回転数370rpmで60分間ミリング処理を行う。
【0054】
上記ミリング処理を行った試料1.46mgをアルミパンに入れて、評価を行った。
【0055】
評価に当たり、示差走査熱量計及びアルミパンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、
図14に示すように、蓄熱密度の測定値は38.11kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は0.750であると算出した。
【0056】
図15に、LiNH
2とLiBH
4の混合物を用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果から、1、2回目の測定値を平均すると、固−液相変化温度は220℃であり、蓄熱密度(固−液相変化)は、測定値である408.5kJ/kgに装置定数0.750を乗じた306kJ/kgである。
【0057】
また、
図16に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前の試料は、Li
4(BH
4)(NH
2)
3であり、示差走査熱量評価後の試料は、Li
4(BH
4)(NH
2)
3、Li
3(BN
2)、及びアルミパンに起因するアルミニウム(Al)である。示差走査熱量評価前及び後の試料の変化は、350℃前後における水素発生に起因する。
【0058】
本開示では、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、13族元素として原子量の小さい第2周期のホウ素から構成されるLiBH
4と、リチウム及び水素に加えて、15族元素として原子量の小さい第2周期の窒素から構成されるLiNH
2との混合物とすることにより、共晶を形成し、凝固点降下が生じるため、LiH、LiNH
2、及びLiBH
4と比較して、固−液相変化温度を更に低温化(220℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料よりも高い蓄熱密度を実現できる。
【0059】
このため、LiHの固−液相変化温度:672℃、LiNH
2の固−液相変化温度:371℃と比較して、固−固相転移、及び固−液相変化温度を更に低温化(286℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料:NaOH(20)/NaNO
2(80)、(固−液相変化温度:232℃、蓄熱密度:252kJ/kg)よりも高い蓄熱密度:306kJ/kgを実現できた。
【0060】
<比較例2>
リチウム、水素、14族元素として炭素から構成される化合物として、メチルリチウム(CH
3Li)について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
【0061】
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜380℃とした。また、試料は、メチルテトラハイドロフラン(CH
3C
4H
7O)に溶解したCH
3Li(Aldrich製 710873)を再結晶化後、80℃にてベーキング処理を行ったものを、使用した。1.07mgの試料をステンレス圧力パンに入れて、評価を行った。
【0062】
評価に当たり、実施例1と同様に、示差走査熱量計及びステンレス圧力パンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、
図6に示すように、蓄熱密度の測定値は25.93kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は1.102であると算出した。
【0063】
図17に、CH
3Liを用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果、1、2回目ともに、固−液相変化に伴う吸熱ピークではなく、発熱ピークが観察された。
【0064】
また、
図18及び
図19に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前の試料は、CH
3Liであるのに対して、示差走査熱量評価後の試料は、リチウムカーバイド(Li
2C
2)、水素化リチウム(LiH)、酸化リチウム(Li
2O)、塩化リチウム(LiCl)であり、CH
3Liが、Li
2C
2及びLiHに分解する発熱反応が生じていると推定される。
【0065】
このように、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、14族元素として炭素から構成されるCH
3Liとした場合、CH
3Liの分解反応が生じるため、固−液相変化温度の低温化及び同温度範囲の従来材料より高い蓄熱密度を実現することができなかった。
【0066】
以上のことから、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム、水素、及び、13又は15族元素から構成される化合物とすることにより、イオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性が高まるため、LiHと比較して、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度を低温化することができるとともに、同温度範囲の従来材料よりも高い蓄熱密度を実現できる。