特許第6599279号(P6599279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6599279超音波検査治具、および、超音波検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6599279
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】超音波検査治具、および、超音波検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/26 20060101AFI20191021BHJP
   G01N 29/28 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G01N29/26
   G01N29/28
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-81170(P2016-81170)
(22)【出願日】2016年4月14日
(65)【公開番号】特開2017-191030(P2017-191030A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2018年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】竹本 浩
(72)【発明者】
【氏名】久瀬 善治
(72)【発明者】
【氏名】植松 充良
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠治
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−142858(JP,U)
【文献】 特開2014−149241(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0057844(US,A1)
【文献】 実開昭63−126859(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0220018(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の穴に挿入される挿入部と、
前記挿入部に接続され、前記検査対象物に接触するフランジ部と
を備え、
前記フランジ部は、
前記検査対象物に接触する側の表面であるフランジ部第1表面と、
探触子に接触する側の表面であるフランジ部第2表面と
を有し、
前記フランジ部第2表面には、前記探触子の位置が前記穴の中心軸から離間した位置に維持されるように、前記探触子の位置を規制する位置規制部が設けられており、
前記位置規制部は、前記探触子の移動をガイドする第1環状壁面を有する
超音波検査治具。
【請求項2】
前記第1環状壁面は、前記探触子が前記中心軸から離れる方向に移動することを防止するか、あるいは、前記探触子が前記中心軸に近づく方向に移動することを防止するように構成されている
請求項に記載の超音波検査治具。
【請求項3】
前記中心軸と前記第1環状壁面との間の距離は、前記中心軸と前記挿入部の外周面との間の距離よりも小さい
請求項1又は2に記載の超音波検査治具。
【請求項4】
前記位置規制部は、前記第1環状壁面を含む複数の壁面によって規定される第1環状凹部を含み、
前記位置規制部は、前記第1環状凹部とは異なる第2の位置規制部を含む
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波検査治具。
【請求項5】
前記フランジ部は、前記フランジ部と前記検査対象物との間にカップリング剤を供給するように構成された供給流路を備える
請求項1乃至のいずれか一項に記載の超音波検査治具。
【請求項6】
検査対象物の穴に挿入される挿入部と、
前記挿入部に接続され、前記検査対象物に接触するフランジ部と
を備え、
前記フランジ部は、
前記検査対象物に接触する側の表面であるフランジ部第1表面と、
探触子に接触する側の表面であるフランジ部第2表面と
を有し、
前記フランジ部第2表面には、前記探触子の位置が前記穴の中心軸から離間した位置に維持されるように、前記探触子の位置を規制する位置規制部が設けられ、
前記フランジ部は、前記フランジ部と前記検査対象物との間にカップリング剤を供給するように構成された供給流路を備え、
前記フランジ部は、
前記検査対象物に接触配置される内周側部分と、
前記内周側部分よりも外側に配置され、前記検査対象物に対して離間配置される外周側部分と
を備える
音波検査治具。
【請求項7】
前記挿入部の外側に配置され、前記穴に挿入される部分の外径の大きさを調整する第1アタッチメント部材を更に備える
請求項1乃至のいずれか一項に記載の超音波検査治具。
【請求項8】
前記フランジ部第1表面上に配置され、前記探触子がガイドされる領域を調整する第2アタッチメント部材を更に備える
請求項1乃至のいずれか一項に記載の超音波検査治具。
【請求項9】
前記位置規制部は、前記フランジ部に対する前記探触子の相対位置を第1位置に維持する第1機構を備え、
前記フランジ部は、前記探触子とともに、前記中心軸まわりを回転するように構成されている
請求項1乃至のいずれか一項に記載の超音波検査治具。
【請求項10】
検査対象物の穴に挿入される挿入部と、
前記挿入部に接続され、前記検査対象物に接触するフランジ部と
を備え、
前記フランジ部は、
前記検査対象物に接触する側の表面であるフランジ部第1表面と、
探触子に接触する側の表面であるフランジ部第2表面と
を有し、
前記フランジ部第2表面には、前記探触子の位置が前記穴の中心軸から離間した位置に維持されるように、前記探触子の位置を規制する位置規制部が設けられ、
前記位置規制部は、前記フランジ部に対する前記探触子の相対位置を第1位置に維持する第1機構を備え、
前記フランジ部は、前記探触子とともに、前記中心軸まわりを回転するように構成され、
前記位置規制部は、前記フランジ部に対する前記探触子の相対位置を第2位置に維持する第2機構を備え、
前記第1機構によって位置決めされた前記探触子がとおる軌道と、前記第2機構によって位置決めされた前記探触子がとおる軌道とは、一部分が互いにオーバーラップし、他の一部分が互いにオーバーラップしていない
音波検査治具。
【請求項11】
超音波検査治具の挿入部を検査対象物の穴に挿入する工程と、
前記超音波検査治具のフランジ部の第1表面が前記検査対象物に接触するように、前記フランジ部を配置する工程と、
前記フランジ部の第2表面に、探触子を配置する工程と、
前記探触子を用いて、前記検査対象物のうち前記穴の回りの領域を検査する検査工程と
を具備し、
前記検査工程において、前記探触子は、前記第2表面に設けられた位置規制部によって、前記探触子の位置が前記穴の中心軸から離間した位置に維持され
前記位置規制部は、前記探触子の移動をガイドする第1環状壁面を有し、
前記検査工程において、前記探触子は、前記第1環状壁面に沿って、前記中心軸のまわりを回転移動する
超音波検査方法。
【請求項12】
前記検査工程において、前記探触子の超音波出射面と前記穴との間のオーバーラップ領域に対応する幅は、0.1mm以上2mm以下に維持される
請求項11に記載の超音波検査方法。
【請求項13】
超音波検査治具の挿入部を検査対象物の穴に挿入する工程と、
前記超音波検査治具のフランジ部の第1表面が前記検査対象物に接触するように、前記フランジ部を配置する工程と、
前記フランジ部の第2表面に、探触子を配置する工程と、
前記探触子を用いて、前記検査対象物のうち前記穴の回りの領域を検査する検査工程と
を具備し、
前記検査工程において、前記探触子は、前記第2表面に設けられた位置規制部によって、前記探触子の位置が前記穴の中心軸から離間した位置に維持され、
前記検査工程において、前記探触子は、前記フランジ部とともに、前記中心軸のまわりを回転移動し、
前記検査工程において、前記探触子の超音波出射面と前記穴との間のオーバーラップ領域に対応する幅は、0.1mm以上2mm以下に維持される
音波検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査治具、および、超音波検査方法、特に、超音波検査で用いる穴回りの検査治具、および、穴回りの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子を用いて穴を有する検査対象物を検査することを想定する。探触子の超音波出射面の位置と穴の位置とが重なる時に探触子が検出する超音波検出信号と、探触子の超音波出射面の位置と穴の位置とが重ならない時に探触子が検出する超音波検出信号とは、互いに大きく異なる。このため、探触子の位置と穴の位置とが重ならない状態と、探触子の位置と穴の位置とが重なる状態との間で状態が頻繁に変化する場合には、検出信号が安定しない。もちろん、穴に近づかないように探触子を操作すれば、検出信号は安定化する。しかし、この場合には、穴の周辺部分の検査が不十分となるおそれがある。
【0003】
以上のとおり、超音波探触子を用いて穴を有する検査対象物を検査する場合、作業者には、熟練度が要求される。
【0004】
関連する技術として、特許文献1(特開2014−149241号公報)には、検査対象穴を検査する超音波探傷用治具が記載されている。しかし、特許文献1に記載の超音波探傷用治具を用いた場合であっても、探触子の位置と穴の位置とが重ならない状態から、探触子の位置と穴の位置とが重なる状態に、状態が変化し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−149241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、穴回りの検査を容易に実行可能にするための超音波検査治具、および、超音波検査方法を提供することにある。
【0007】
この発明のこれらの目的とそれ以外の目的と利益とは以下の説明と添付図面とによって容易に確認することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。よって、括弧付きの記載により、特許請求の範囲は、限定的に解釈されるべきではない。
【0009】
いくつかの実施形態における超音波検査治具は、検査対象物(1)の穴(10)に挿入される挿入部(22)と、前記挿入部(22)に接続され、前記検査対象物(1)に接触するフランジ部(23)とを備える。前記フランジ部(23)は、前記検査対象物(1)に接触する側の表面であるフランジ部第1表面(231)と、探触子(41)に接触する側の表面であるフランジ部第2表面(232)とを有する。前記フランジ部第2表面(232)には、前記探触子(41)の位置が前記穴(10)の中心軸(C)から離間した位置に維持されるように、前記探触子(41)の位置を規制する位置規制部(26)が設けられている。
【0010】
上記超音波検査治具において、前記位置規制部(26)は、前記探触子(41)の移動をガイドする第1環状壁面(260)を有していてもよい。
【0011】
上記超音波検査治具において、前記第1環状壁面(260)は、前記探触子(41)が前記中心軸(C)から離れる方向に移動することを防止するか、あるいは、前記探触子(41)が前記中心軸(C)に近づく方向に移動することを防止するように構成されていてもよい。
【0012】
上記超音波検査治具において、前記中心軸(C)と前記第1環状壁面(260a)との間の距離(L1)は、前記中心軸(C)と前記挿入部(22)の外周面との間の距離(L2)よりも小さくてもよい。
【0013】
上記超音波検査治具において、前記位置規制部(26)は、前記第1環状壁面(260a)を含む複数の壁面によって規定される第1環状凹部(D1)を含んでいてもよい。また、前記位置規制部(26)は、前記第1環状凹部(D1)とは異なる第2の位置規制部(261)を含んでいてもよい。
【0014】
上記超音波検査治具において、前記フランジ部(23)は、前記フランジ部(23)と前記検査対象物(1)との間にカップリング剤を供給するように構成された供給流路(28)を備えていてもよい。
【0015】
上記超音波検査治具において、前記フランジ部(23)は、前記検査対象物(2)に接触配置される内周側部分(234a)と、前記内周側部分(234a)よりも外側に配置され、前記検査対象物(2)に対して離間配置される外周側部分(234b)とを備えていてもよい。
【0016】
上記超音波検査治具において、前記挿入部(22)の外側に配置され、前記穴(10)に挿入される部分の外径の大きさを調整する第1アタッチメント部材(6)を更に備えていてもよい。
【0017】
上記超音波検査治具において、前記フランジ部第1表面(232)上に配置され、前記探触子(41)がガイドされる領域を調整する第2アタッチメント部材(7)を更に備えていてもよい。
【0018】
上記超音波検査治具において、前記位置規制部(26)は、前記フランジ部(23)に対する前記探触子(41)の相対位置を第1位置に維持する第1機構(264)を備えていてもよい。また、前記フランジ部(23)は、前記探触子(41)とともに、前記中心軸(C)まわりを回転するように構成されていてもよい。
【0019】
上記超音波検査治具において、前記位置規制部(26)は、前記フランジ部(23)に対する前記探触子(41)の相対位置を第2位置に維持する第2機構(265)を備えていてもよい。前記第1機構(264)によって位置決めされた前記探触子(41)がとおる軌道と、前記第2機構(265)によって位置決めされた前記探触子(41)がとおる軌道とは、一部分が互いにオーバーラップし、他の一部分が互いにオーバーラップしていなくてもよい。
【0020】
いくつかの実施形態における超音波検査方法は、超音波検査治具(2)の挿入部(22)を検査対象物(1)の穴(10)に挿入する工程と、前記超音波検査治具(2)のフランジ部(23)の第1表面(231)が前記検査対象物(1)に接触するように、前記フランジ部(23)を配置する工程と、前記フランジ部(23)の第2表面(232)に、探触子(41)を配置する工程と、前記探触子(41)を用いて、前記検査対象物(1)のうち前記穴(10)の回りの領域を検査する検査工程とを具備する。前記検査工程において、前記探触子(41)は、前記第2表面(232)に設けられた位置規制部(26)によって、前記探触子(41)の位置が前記穴(10)の中心軸(C)から離間した位置に維持される。
【0021】
上記超音波検査方法において、前記位置規制部(26)は、前記探触子(41)の移動をガイドする第1環状壁面(260)を有していてもよい。前記検査工程において、前記探触子(41)は、前記第1環状壁面(260)に沿って、前記中心軸(C)のまわりを回転移動してもよい。
【0022】
上記超音波検査方法において、前記検査工程において、前記探触子(41)は、前記フランジ部(23)とともに、前記中心軸(C)のまわりを回転移動してもよい。
【0023】
上記超音波検査方法において、前記検査工程において、前記探触子(41)の超音波出射面と前記穴(10)との間のオーバーラップ領域に対応する幅は、0.1mm以上2mm以下に維持されてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、穴回りの検査を容易に実行可能にするための超音波検査治具、および、超音波検査方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態における超音波検査治具の一例を示す2面図である。図1の上側には、平面図が記載され、図1の下側には、側面図が記載されている。
図2A図2Aは、第1変形例における超音波検査治具を示す概略平面図である。
図2B図2Bは、図2AのA−A矢視断面図である。
図3図3は、第2変形例における超音波検査治具を示す概略断面図である。
図4図4は、第3変形例における超音波検査治具を示す概略断面図である。
図5図5は、第2アタッチメント部材の一例を示す概略側面図である。
図6図6は、第4変形例における超音波検査治具を示す概略断面図である。
図7A図7Aは、第5変形例における超音波検査治具を示す概略平面図である。
図7B図7Bは、図7AのB−B矢視断面図である。
図8A図8Aは、第6変形例における超音波検査治具を示す概略平面図である。
図8B図8Bは、図8AのE−E矢視断面図である。
図8C図8Cは、探触子の移動軌跡を模式的に示す概略平面図である。
図9図9は、超音波検査方法の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、オーバーラップ領域およびオーバーラップ幅について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態に係る超音波検査治具、および、超音波検査方法に関して、添付図面を参照して説明する。なお、添付図面において、同一の機能を有する構成要素には、同一の符号が付与されている。同一の符号が付された構成要素についての繰り返しとなる説明は省略される。
【0027】
(実施形態における超音波検査治具)
図1を参照して、実施形態における超音波検査治具2について説明する。図1の上側には、平面図が記載され、図1の下側には、側面図が記載されている。
【0028】
超音波検査治具2は、検査対象物1の穴回り、すなわち、穴10の近傍領域を検査するための治具である。穴10の近傍領域は、例えば、穴10の外縁からの距離が0mm以上100mm以下の領域である。検査対象物1は、例えば、穴10を有するFRP製(繊維強化プラスチック製)の板である。穴10は、例えば、締結用ファスナーが挿入される穴である。図1に記載の例では、穴の断面形状(穴の中心軸Cに垂直な断面の形状)は、真円である。しかし、穴の断面形状は、真円とは異なる形状、例えば、長円あるいは楕円であってもよい。また、図1に記載の例では、穴10の中心軸Cに垂直な断面の形状は、中心軸Cに沿って変化していない。しかし、穴10の中心軸Cに垂直な断面の形状は、中心軸Cに沿って変化してもよい。例えば、穴10は、皿穴付きの穴であってもよい。
【0029】
超音波検査治具2は、検査用超音波を透過可能あるいは伝達可能な材料によって構成される。超音波検査治具2の材質は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂を含む。なお、超音波検査治具2中において、超音波の伝播速度は、空気中における超音波の伝播速度よりも遅い。すなわち、超音波検査治具2は、超音波の伝播速度を低下させる遅延材として機能する。超音波出射面から出射された直後の超音波は不安定である場合があるが、遅延材の存在により、超音波が安定化する。
【0030】
超音波検査治具2は、穴10に挿入される挿入部22を備える。挿入部22の中心軸と、穴10の中心軸Cとは、互いに一致している。挿入部22の外周面の形状は、穴10を規定する壁面の形状に相補的な形状を有する。すなわち、挿入部22の外周面と穴を規定する壁面との間の隙間は、極力小さい値に設定される。穴10が円柱状のストレート穴である場合には、挿入部22の形状は、円柱形状を有する。なお、円柱形状には略円柱形状も含まれる。図1に記載の例では、挿入部22の下端は、検査対象物1の下面11bよりも下方に突出している。代替的に、挿入部22の下端は、検査対象物1の下面11bよりも上側に位置していてもよい。
【0031】
超音波検査治具2は、検査対象物1に接触するフランジ部23を備える。フランジ部23と挿入部22とは、互いに接続されている。なお、図1に記載の例では、フランジ部23と挿入部22とは、一体に形成されているが、フランジ部23と挿入部22とは、別体であってもよい。この場合、挿入部22は、フランジ部23に対して、着脱自在であってもよい。挿入部22が、フランジ部23に対して着脱自在である場合には、穴10のサイズに応じて、適切なサイズの挿入部22がフランジ部23に取り付けられる。
【0032】
フランジ部23は、第1表面231と、第2表面232とを備える。第1表面231は、検査対象物1の表面(例えば、検査対象物の上面11a)に接触する側の面である。第2表面232は、探触子41に接触する側の面である。
【0033】
第2表面232には、位置規制部26が設けられている。位置規制部26は、探触子41の位置が穴10の中心軸Cから離間した位置に維持されるように、探触子41の位置を規制する部分である。なお、図1に記載の例では、位置規制部26は、第1突出部25の側面である。第1突出部25は、フランジ部23から、挿入部22の突出方向とは反対側の方向に突出する突出部である。図1に記載の例では、位置規制部26は、探触子41が中心軸Cに近づく方向に移動することを防止する規制部材である。位置規制部26の存在により、中心軸Cに沿う方向に見て、探触子41と穴10とが互いにオーバーラップすることが抑制される。特に、中心軸Cに沿う方向に見て、探触子41と穴10の中心軸Cとが互いにオーバーラップすることはない。その結果、探触子41によって検出される信号の不安定化が抑制される。また、検出信号中のノイズの量が低減される。また、ノイズの量が低減される結果、検査対象物中の欠陥を検出する際のエラーの発生が低減される。また、位置規制部26の存在により、オペレーターに依存して検査結果がバラつくことが抑制される。また、位置規制部26の存在により、穴を避けるための極度に慎重な操作が不要となる。その結果、検査の効率化および検査時間の短縮が実現される。
【0034】
図1に記載の例では、位置規制部26は、探触子41の移動をガイドする環状の壁面、すなわち、第1環状壁面260である。第1環状壁面260は、探触子41の側面が接触する壁面である。オペレーターは、単に、第1環状壁面260に沿って、探触子41を移動させるだけで、穴10の回りを、漏れなく、安定的に検査することが可能となる。図1に記載の例では、穴10の回りの環状の領域(図1の斜線によって示される領域)を、安定的に検査することが可能となる。図1に記載の例では、第1環状壁面260の半径は、穴10の半径よりも僅かに(例えば、0mm〜2mmの範囲のうちの任意の値だけ)小さいが、第1環状壁面260の半径は、穴10の半径と等しくてもよい。なお、本明細書において、「環状」は、「円環状」に限定されない。例えば、穴10の断面形状が長円形状である場合には、第1環状壁面260は、長円形状の断面を有する壁面となる。
【0035】
図1に記載の例では、位置規制部26が、第1突出部25の側面によって構成されているが、位置規制部26の具体的な構造または形状は、図1に記載の例に限定されない。本明細書では、位置規制部26について、様々な変形例が説明される。
【0036】
(第1変形例)
図2Aおよび図2Bを参照して、第1変形例における超音波検査治具2について説明する。図2Aは、第1変形例における超音波検査治具を示す概略平面図である。また、図2Bは、図2AにおけるA−A矢視断面図である。
【0037】
(第1環状凹部D1)
第1変形例における超音波検査治具2では、位置規制部26が、第1環状凹部D1である。第1環状凹部D1は、第1環状壁面260aと、凹部底面232aと、第2環状壁面260bとによって規定される凹部である。
【0038】
第1環状凹部D1は、探触子41が移動可能な環状の軌道を規定する。第1環状壁面260aは、第1突出部25の外周面であり、探触子41が穴10aの中心軸Cに近づく方向に移動することを防止する壁面である。
【0039】
凹部底面232aは、探触子41の超音波出射面が接触する面である。他方、超音波検査治具2の第2表面232のうち、第1突出部25の上面および第2突出部25bの上面232bは、探触子41の超音波出射面が接触しない面である。
【0040】
第2環状壁面260bは、第2突出部25bの内周面であり、探触子41が中心軸Cから離れる方向に移動することを防止する壁面である。なお、第2突出部25bは、フランジ部23から、挿入部22の突出方向とは反対側の方向に突出する部分であり、第1突出部25よりも外側に位置する部分である。
【0041】
第1変形例では、超音波検査治具2が、第1環状凹部D1を備える。このため、探触子41の移動軌跡が安定する。よって、第1変形例では、穴10aの回りの検査を、より安定的に行うことが可能である。なお、第1環状凹部D1の幅W1、すなわち、第1環状壁面260aと第2環状壁面260bとの間の距離が、探触子41の直径よりも大きい場合には、第1環状壁面260aおよび第2環状壁面260bのうちの一方を、探触子41をガイドするためのガイド面として用いればよい。代替的に、第1環状壁面260aをガイド面として用いて、第1回目の検査を行い、第2環状壁面260bをガイド面として用いて、第2回目の検査を行ってもよい。この場合、検査が2回行われることにより、検査の信頼性が向上する。なお、図2Bに記載の例では、第1環状壁面260aの半径は、穴10aの半径よりも僅かに(例えば、0mm〜2mmの範囲のうちの任意の値だけ)小さいが、第1環状壁面260aの半径は、穴10aの半径と等しくてもよい。
【0042】
図2Bに示されるように、穴10aの中心軸Cと第1環状壁面260aとの間の距離L1は、穴10aの中心軸Cと挿入部22の外周面との間の距離L2よりも小さくてもよい。この場合、第1環状壁面260aによってガイドされる探触子41の超音波出射面と、穴10aとが、中心軸Cに沿う方向に見て、わずかにオーバーラップすることとなる。その結果、穴10の回りが、穴10に接する領域を含めて、漏れなく検査されることとなる。なお、距離L2と距離L1との間の差は、例えば、0.1mm以上2mm以下である。
【0043】
(カップリング剤の供給)
第1変形例では、超音波検査治具2は、液体のカップリング剤を供給する供給流路28を備える。液体のカップリング剤は、例えば、水である。探触子41の超音波出射面と検査対象物1との間に空気が介在すると、検査対象物1への超音波の伝達が阻害される。このため、探触子41の超音波出射面と検査対象物1との間に存在する空気は、液体のカップリング剤で置換されることが望ましい。図2Aおよび図2Bに記載の例では、供給流路28を用いて、フランジ部23と検査対象物1との間にカップリング剤が供給される。なお、図2Aに記載の例では、複数の供給流路28が、中心軸Cの回りに等間隔に配置されている。図2Aおよび図2Bに記載の例では、供給流路28の存在により、カップリング剤を継続的に供給することが可能となる。
【0044】
なお、供給流路28を介して供給されるカップリング剤には、気泡が混入している場合がある。フランジ部23と検査対象物1との間に気泡が介在すると、検査対象物1への超音波の伝達が阻害されるおそれがある。このため、図2Bに記載の例では、フランジ部23と、検査対象物1との間の接触面積を低減することにより、フランジ部23と検査対象物1との間に存在する気泡が容易に除去されるようにしている。すなわち、供給流路28の出口から空間236までの距離が短いため、気泡が除去され易い。また、フランジ部23と検査対象物1との間の接触面積を低減することにより、フランジ部23から検査対象物1に向けて作用する圧力が大きくなる。その結果、フランジ部23と検査対象物1との間の気泡が除去され易くなる。
【0045】
図2Bに記載の例では、フランジ部23と検査対象物1との間の接触面積を低減するために、第1表面231の一部が、第1表面231の他の部分よりも後退した位置にある。図2Bに記載の例では、後退した位置に対応する部分が、外周側部分234bであり、検査対象物に接触する位置に対応する部分が、内周側部分234aである。換言すれば、フランジ部23は、検査対象物1に接触配置される内周側部分234aと、内周側部分234aよりも外側に配置され、検査対象物1に対して離間配置される外周側部分234bとを備える。その結果、外周側部分234bと検査対象物1との間に空間236が形成される。なお、図2Bに記載の例では、内周側部分234aと外周側部分234bとの間の段差部が、中心軸Cに平行な面237を含むが、当該段差部は、傾斜面を含んでいてもよい。すなわち、段差部は、中心軸Cから離れるに従って検査対象物1との間の距離が大きくなる傾斜面を含んでいてもよい。なお、図2Bに記載の例では、外周側部分234bの幅W2は、5mm以上50mm以下である。
【0046】
なお、供給流路28の構成、および/または、フランジ部23と検査対象物1との間の接触面積を低減する構成は、上述の実施形態、あるいは、後述の他の変形例にも適用可能である。
【0047】
(超音波探触装置)
図2Bに記載の例では、超音波探触装置4は、探触子41と、ディスプレイ44を備えたコンピュータシステムと、検出信号伝達線42とを備える。検出信号伝達線42は、探触子41によって検出された信号を、コンピュータシステムに伝達する。ディスプレイ44は、探触子41による検出結果を表示する。なお、探触子41は、無線によって、検出信号を、コンピュータシステムに伝達してもよい。この場合には、検出信号伝達線42を、省略することが可能である。検出信号伝達線42が無い場合には、探触子41を中心軸C回りに回転させた時、検出信号伝達線42が絡まるリスクがない。
【0048】
(第2変形例)
図3を参照して、第2変形例における超音波検査治具2について説明する。図3は、第2変形例における超音波検査治具2を示す概略断面図である。
【0049】
(第2の位置規制部)
第2変形例における超音波検査治具2は、第1環状凹部D1とは異なる第2の位置規制部261を備えている。
【0050】
第2の位置規制部261は、第1の位置規制部である第1環状凹部D1とは異なる位置規制部である。第2の位置規制部261を用いてガイドされる探触子41の移動軌跡は、第1環状凹部D1を用いてガイドされる探触子41の移動軌跡とは異なる。図3に記載の例では、第2の位置規制部261が、第1環状凹部D1よりも外周側にある。よって、相対的に小さな穴10aの回りを検査する時には、第1環状凹部D1を用いて探触子41をガイドすればよく、また、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時には、第2の位置規制部261を用いて探触子41をガイドすればよい。代替的に、第2の位置規制部261は、第1環状凹部D1よりも内周側にあってもよい。
【0051】
図3に記載の例では、第2の位置規制部261は、第2環状凹部D2を含む。第2環状凹部D2と第1環状凹部D1とは、環状の第3突出部25cを介して、互いに隣接している。第2環状凹部D2は、第3環状壁面261aと、凹部底面232aと、第4環状壁面261bとによって規定される凹部である。第3環状壁面261aおよび/または第4環状壁面261bが、第2の位置規制部261として機能する。
【0052】
(第1アタッチメント部材)
第2変形例における超音波検査治具2は、挿入部22の外側(外周側)に配置され、穴10bに挿入される部分の外径の大きさを調整する第1アタッチメント部材6を備える。第1アタッチメント部材6は、挿入部22に対して、着脱自在に構成される。相対的に小さな穴10aの回りを検査する時には、第1アタッチメント部材6は使用されない。この場合、挿入部22の外周面が、穴10aに直接面することとなる。他方、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時には、第1アタッチメント部材6が使用される。この場合、第1アタッチメント部材6の外周面が、穴10bに直接面することとなる。第1アタッチメント部材6の外周面は、穴10bを規定する壁面に相補的な形状を有する。図3に記載の例では、第1アタッチメント部材6の外周面の形状は、仮想的な円筒の外周面に一致する形状を含む。図3に記載の例では、第1アタッチメント部材6は、リング形状を有する部材である。
【0053】
なお、穴10bよりも更に大きな穴の回りを検査する場合には、挿入部22の外側に第1アタッチメント部材6を配置し、当該第1アタッチメント部材6の外側に、更に別のアタッチメント部材を配置すればよい。また、第1の位置規制部および第2の位置規制部に加えて、他の位置規制部を設ければよい。
【0054】
第2変形例における超音波検査治具2は、様々なサイズの穴の回りを検査するために使用することが可能である。
【0055】
(第3変形例)
図4を参照して、第3変形例における超音波検査治具2について説明する。図4は、第3変形例における超音波検査治具を示す概略断面図である。
【0056】
(第2アタッチメント部材)
第3変形例における超音波検査治具2は、第2表面232上に配置される第2アタッチメント部材7を備える。第2アタッチメント部材7は、探触子41がガイドされる領域を調整する。
【0057】
図4に記載の例では、第2アタッチメント部材7は、第1環状凹部D3内に配置されている。図4に記載の例における第1環状凹部D3の幅は、図2Aに記載の例における第1環状凹部D1の幅よりも大きい。
【0058】
第2アタッチメント部材7は、その内周面が、第1突出部25の第1環状壁面260aに接するように配置される。そして、第2アタッチメント部材7の外周面7a(環状壁面)が、位置規制部として機能する。相対的に小さな穴10aの回りを検査する時には、第2アタッチメント部材7は使用されない。この場合、第1環状壁面260aが位置規制部として機能し、探触子41は、第1環状壁面260aに沿って案内される。他方、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時には、第2アタッチメント部材7が使用される。この場合、第2アタッチメント部材7の外周面7aが位置規制部として機能し、探触子41は、外周面7aに沿って案内される。
【0059】
なお、図4に記載の例では、第1アタッチメント部材6と第2アタッチメント部材7とが用いられている。中心軸Cと外周面7aとの間の距離L3(すなわち、第2アタッチメント部材7の半径)は、中心軸Cと第1アタッチメント部材6の外周面との間の距離L4(すなわち、第1アタッチメント部材6の半径)よりも小さくてもよい。この場合、探触子41を外周面7aに沿って案内すると、探触子41の超音波出射面と、穴10bとが、中心軸Cに沿う方向に見て、わずかにオーバーラップすることとなる。その結果、穴10bの回りが、穴10bに接する領域を含めて、漏れなく検査されることとなる。なお、距離L4と距離L3との間の差は、例えば、0.1mm以上2mm以下である。
【0060】
図4に記載の例では、第2アタッチメント部材7の外周面7aの形状は、仮想的な円筒の外周面に一致する形状を含む。図4に記載の例では、第2アタッチメント部材7は、リング形状を有する部材である。代替的に、図5に示されるように、第2アタッチメント部材7は、第1突出部25の形状に相補的な形状を有する凹部7bを備えた部材であってもよい。
【0061】
なお、穴10bよりも更に大きな穴の回りを検査する場合には、第1突出部25の外側に第2アタッチメント部材7を配置し、当該第2アタッチメント部材7の外側に、更に別のアタッチメント部材を配置すればよい。
【0062】
第3変形例における超音波検査治具2は、様々なサイズの穴の回りを検査するために使用することが可能である。
【0063】
(第4変形例)
図6を参照して、第4変形例における超音波検査治具2について説明する。図6は、第4変形例における超音波検査治具を示す概略断面図である。
【0064】
(第2アタッチメント部材)
第4変形例における超音波検査治具2は、第2表面232上に配置される第2アタッチメント部材7を備える。第2アタッチメント部材7は、探触子41がガイドされる領域を調整する。
【0065】
図6に記載の例では、第2アタッチメント部材7は、仮想的な円板に相補的な形状を有する凹部D4内に配置されている。代替的に、第2アタッチメント部材7は、図4に示されるような第1環状凹部D3内に配置されてもよい。
【0066】
第2アタッチメント部材7は、その外周面が、第2突出部25bの第2環状壁面260bに接するように配置される。そして、第2アタッチメント部材7の内周面7c(環状壁面)が、位置規制部として機能する。相対的に小さな穴10aの回りを検査する時には、第2アタッチメント部材7が使用される。この場合、内周面7cが位置規制部として機能し、探触子41は、内周面7cに沿って案内される。他方、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時には、第2アタッチメント部材7は使用されない。この場合、第2環状壁面260bが位置規制部として機能し、探触子41は、第2環状壁面260bに沿って案内される。
【0067】
なお、図6に記載の例では、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時に、挿入部22の外側に第1アタッチメント部材6が配置されてもよい。
【0068】
図6に記載の例では、第2アタッチメント部材7の内周面7cの形状は、仮想的な円筒の外周面に一致する形状を含む。図6に記載の例では、第2アタッチメント部材7は、リング形状を有する部材である。
【0069】
なお、穴10aよりも更に小さな穴の回りを検査する場合には、第2突出部25bの内側に第2アタッチメント部材7を配置し、当該第2アタッチメント部材7の内側に、更に別のアタッチメント部材を配置すればよい。
【0070】
第4変形例における超音波検査治具2は、様々なサイズの穴の回りを検査するために使用することが可能である。
【0071】
(第5変形例)
図7Aおよび図7Bを参照して、第5変形例における超音波検査治具2について説明する。図7Aは、第5変形例における超音波検査治具2を示す概略平面図である。また、図7Bは、図7AのB−B矢視断面図である。
【0072】
図7Aおよび図7Bに記載の例では、フランジ部23が探触子41とともに、中心軸Cまわりを回転する。
【0073】
図7Aおよび図7Bに記載の例では、フランジ部23が、フランジ部23に対する探触子41の相対位置を第1位置に維持する第1機構264を備える。本変形例では、第1機構264が、位置規制部26として機能する。図7Aおよび図7Bに記載の例では、第1機構264は、探触子41を受け入れる凹部である。より具体的には、第1機構264は、探触子41を受け入れる凹部を構成する内周面である。代替的に、第1機構264は、探触子41を、フランジ部23に着脱自在に固定する任意の係合部であってもよい。
【0074】
図7Aおよび図7Bに記載の例では、探触子41またはフランジ部23をR方向に回転させることにより、フランジ部23が、探触子41とともに、中心軸Cのまわりを回転する。探触子41が中心軸Cのまわりを回転することにより、穴10aの回りが検査される。なお、第1機構264によって位置決めされた探触子41に関し、探触子41の超音波出射面上の任意の一点と中心軸Cとの間の最小距離L7(換言すれば、探触子41を受け入れる凹部を構成する内周面と中心軸Cとの間の最小距離L7)は、挿入部22の外周面と中心軸Cとの間の距離L8よりも短い。この場合、第1機構264によって位置決めされた探触子41を中心軸Cまわりに移動させると、探触子41の超音波出射面と、穴10aとが、中心軸Cに沿う方向に見て、わずかにオーバーラップすることとなる。その結果、穴10aの回りが、穴10aに接する領域を含めて、漏れなく検査されることとなる。なお、距離L8と距離L7との間の差は、例えば、0.1mm以上2mm以下である。
【0075】
図7Aおよび図7Bに記載の例では、単に、フランジ部23を中心軸Cのまわりに回転させるだけで、穴10aの回りを安定的に検査することが可能である。なお、図7Aおよび図7Bに記載の例では、挿入部22とフランジ部23とが一体的に回転するが、挿入部22とフランジ部23とが回転自在に連結されている場合には、挿入部22の回転を抑制しつつ、フランジ部23のみを回転させることも可能である。また、図7Aおよび図7Bに記載の例では、位置規制部26である第1環状壁面260の代わりに、位置規制部26である第1機構264が設けられている。代替的に、第1環状壁面260に加えて、第1機構264が設けられてもよい。
【0076】
(第6変形例)
図8A乃至図8Cを参照して、第6変形例における超音波検査治具2について説明する。図8Aは、第6変形例における超音波検査治具2を示す概略平面図である。また、図8Bは、図8AのE−E矢視断面図である。図8Cは、探触子の移動軌跡を模式的に示す概略平面図である。
【0077】
図8Aおよび図8Bに記載の例では、フランジ部23が、第1機構264に加えて、フランジ部23に対する探触子41の相対位置を第2位置に維持する第2機構265を備える。本変形例では、第1機構264または第2機構265が、位置規制部26として機能する。図8Aおよび図8Bに記載の例では、第2機構265は、探触子41を受け入れる凹部である。より具体的には、第2機構265は、探触子41を受け入れる凹部を構成する内周面である。代替的に、第2機構265は、探触子41を、フランジ部23に着脱自在に固定する任意の係合部であってもよい。
【0078】
図8Aおよび図8Bに記載の例では、探触子41またはフランジ部23をR方向に回転させることにより、フランジ部23が、探触子41とともに、中心軸Cのまわりを回転する。また、図8Aおよび図8Bに記載の例では、超音波検査治具2を、様々なサイズの穴の回りを検査するために使用することが可能である。すなわち、相対的に小さな穴10aの回りを検査する時には、探触子41を第1機構264によって第1位置に位置決めすればよいし、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時には、探触子41を第2機構265によって第2位置に位置決めすればよい。なお、図8Bに示されるように、第2機構265によって第2位置に位置決めされた探触子41を用いて、相対的に大きな穴10bの回りを検査する時には、第1アタッチメント部材6を挿入部22の外側に配置すればよい。
【0079】
図8Cを参照して、フランジ部23を回転させることによって、探触子41がとおる軌跡について説明する。図8Cに記載の例では、フランジ部23を回転させることによって、第1機構264によって位置決めされた探触子41がとおる軌道P1と、フランジ部23を回転させることによって、第2機構265によって位置決めされた探触子41がとおる軌道P2とは、一部分が互いにオーバーラップし(斜線部分を参照)、他の一部分が互いにオーバーラップしていない。このような場合、超音波検査治具2を、穴10aの回りの検査に用いるとともに、穴10aよりもわずかに大きな穴10bの検査に用いることが可能となる。
【0080】
(超音波検査方法)
図1等と、図9および図10を参照して、超音波検査方法について説明する。図9は、超音波検査方法の一例を示すフローチャートである。また、図10は、オーバーラップ領域およびオーバーラップ幅について説明するための図である。超音波検査方法は、上述の実施形態における超音波検査治具2または上述の変形例のいずれかにおける超音波検査治具2を用いて実行される。
【0081】
図1等および図9を参照して、第1ステップS1において、超音波検査治具2の挿入部22が検査対象物1の穴10に挿入される。なお、第1ステップS1の前に、超音波検査治具2の挿入部22の外側に第1アタッチメント部材6が配置されてもよい。この時、第1アタッチメント部材6が、挿入部22から外れないように、第1アタッチメント部材6と挿入部22とが互いに係合されてもよい。
【0082】
第2ステップS2において、超音波検査治具2のフランジ部23の第1表面231が検査対象物1に接触するように、フランジ部23が配置される。なお、第2ステップS2の前に、検査対象物1の表面に液体のカップリング剤が適用されてもよい。代替的に、第2ステップS2の後に、供給流路28を介して、フランジ部23と検査対象物1との間にカップリング剤が供給されてもよい。供給流路28へのカップリング剤の供給は、供給流路28に連結された管を介して行われてもよいし、あるいは、供給流路28に連結された注射器を介して行われてもよい。
【0083】
第3ステップS3において、フランジ部23の第2表面232に、探触子41が配置される。なお、第3ステップS3より前に、第2表面232上に、上述のいずれかの変形例における第2アタッチメント部材7が配置されてもよい。代替的に、あるいは、付加的に、探触子41の超音波出射面と第2表面232との間に、液体のカップリング剤が適用されてもよい。
【0084】
第4ステップS4において、探触子41を用いて、検査対象物1のうち穴10の回りの領域が検査される。なお、第4ステップS4においては、探触子41は、第2表面232に設けられた位置規制部26によって、探触子41の位置が穴10の中心軸Cから離間した位置に維持されている。
【0085】
実施形態における超音波検査方法では、位置規制部26を利用しながら、探触子41が、穴10の中心軸Cのまわりを回転移動する。その結果、探触子41によって検出される検出信号に、穴10の存在に起因して発生するノイズが含まれるリスクが低減される。その結果、安定的な超音波検査が実現される。
【0086】
第2表面232に設けられた位置規制部26は、探触子41の移動をガイドする第1環状壁面260を有していてもよい。この場合、第4ステップS4において、探触子41は、第1環状壁面260に沿って、中心軸Cまわりを回転移動することとなる。なお、第1環状壁面260は、探触子41の側面との接触により、探触子41をガイドする面である。
【0087】
図7Aおよび図7Bを参照して、フランジ部23は、フランジ部23に対する探触子41の相対位置を第1位置に維持する第1機構264を備えていてもよい。第1機構264は、位置規制部26として機能する。この場合、第4ステップS4において、探触子41は、フランジ部23とともに、中心軸Cのまわりを回転移動することとなる。
【0088】
実施形態における超音波検査方法では、位置規制部26によって、探触子41と穴10の中心軸Cとの間の距離が一定に維持される。その結果、探触子41が回転移動する際に、中心軸Cに沿う方向に見て、探触子41の超音波出射面と穴10とがオーバーラップする領域の面積が、時間と共に、ほとんど変動しない。なお、オーバーラップ領域は、図10において斜線で示される領域である。なお、本明細書において、「オーバーラップ領域」とは、中心軸Cに沿う方向に見て、探触子41の超音波出射面と、穴10とが互いにオーバーラップする領域を意味する。穴10の断面が中心軸Cに沿って変化する場合には、「オーバーラップ領域」とは、中心軸Cに沿う方向に見て、探触子41の超音波出射面と、穴の中心軸Cに垂直な断面のうち面積が最小となる部分の断面とが互いにオーバーラップする領域を意味する。なお、探触子41が回転移動する際に、オーバーラップ領域に対応する幅は、0.1mm以上2mm以下に維持されるようにしてもよい。なお、本明細書において、「オーバーラップ領域に対応する幅」とは、穴の中心軸Cに垂直な直線であって、穴の中心軸Cと探触子41の長手方向中心軸C2とを結ぶ直線が、オーバーラップ領域を横切る部分の長さW3を意味する。
【0089】
本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。また、各実施形態又は変形例で用いられる種々の技術は、技術的矛盾が生じない限り、他の実施形態又は変形例にも適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 :検査対象物
2 :超音波検査治具
4 :超音波探触装置
6 :第1アタッチメント部材
7 :第2アタッチメント部材
7a :外周面
7b :凹部
7c :内周面
10、10a、10b:穴
11a :上面
11b :下面
22 :挿入部
23 :フランジ部
25 :第1突出部
25b :第2突出部
25c :第3突出部
26 :位置規制部
28 :供給流路
41 :探触子
42 :検出信号伝達線
44 :ディスプレイ
231 :第1表面
232 :第2表面
232a :凹部底面
232b :上面
234a :内周側部分
234b :外周側部分
236 :空間
260、260a:第1環状壁面
260b :第2環状壁面
261 :第2の位置規制部
261a :第3環状壁面
261b :第4環状壁面
264 :第1機構
265 :第2機構
C :中心軸
D1、D3:第1環状凹部
D2 :第2環状凹部
D4 :凹部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10