【文献】
血管透過性アッセイキット,フナコシニュース,2011年 9月15日,2011年9月15日号,p.4,URL,http://www.funakoshi.co.jp/news/110915spdf/110915s_p04.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0016】
本発明の一側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に、標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、シート状細胞培養物の品質評価のための方法(以下、「品質評価方法」と略す場合がある)に関する。
【0017】
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が細胞間接着などにより互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層の積層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外基質などが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
【0018】
シート状細胞培養物を形成し得る細胞は、限定されずに、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いる標識は、細胞間接着により細胞間の通過が阻害される任意のものを含む。シート状細胞培養物において、細胞同士は細胞間接着により結合しており、細胞間隙は狭くなっているため、サイズの小さな分子であればかかる細胞間隙(すなわち、細胞間経路)を介して、シート状細胞培養物を自由に通過することができるが、ある程度のサイズを超えると、細胞間接着を担う細胞間接着装置(例えば、密着結合、接着結合、デスモゾーム結合、ギャップ結合など)により、細胞間の通過が阻害されるようになる。一方、何らかの原因で、シート状細胞培養物における細胞間隙が拡大すると、通常であれば細胞間の通過が阻害される分子の細胞間の通過が容易となり、所定時間内にシート状細胞培養物を通過する分子の量が増大する。したがって、細胞間接着により細胞間の通過が阻害される標識を用いることで、シート状細胞培養物の細胞間隙を通過する標識の量を、細胞間隙の大きさの指標とすることができる。
【0020】
細胞間接着により細胞間の通過が阻害される標識の非限定的な例としては、例えば、所定の範囲の分子量を有する標識が挙げられる。かかる分子量の範囲としては、限定されずに、例えば、約100〜約1500000、約300〜約1000000、約1000〜約500000、約5000〜約200000、約10000〜約100000、約30000〜約90000、約40000〜約80000等が挙げられる。また、標識は陽性電荷または陰性電荷を有していてもよい。かかる標識の非限定例としては、例えば、フルオレセインナトリウム(Na−F)などが挙げられる
【0021】
ある標識が、細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであるかどうかは、例えば、次のようにして判定することができる。シート状細胞培養物は、通常、培養容器にシート状細胞培養物を形成し得る細胞を播種し、所定の期間細胞同士を相互作用させることにより、細胞同士を連結させて形成するが(本明細書では、この過程を「シート化」と呼ぶことがある)、実施例5の結果が示すとおり、このシート化の過程で、播種時の細胞間隙は、細胞同士の細胞間接着により徐々に縮小し、シート化の完了によりある一定の大きさで安定すると考えられる。したがって、シート化が不十分なシート状細胞培養物を通過する標識の量より、シート化が完了したシート状細胞培養物を通過する標識の量が少なければ、その標識は細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであるということができる。また、実施例4の結果が示すとおり、シート状細胞培養物は、これを構成する細胞のバイアビリティが低下すると、細胞同士の連結が弱くなり、細胞間隙が拡大すると考えられる。したがって、細胞のバイアビリティを低下させたシート状細胞培養物を通過する標識の量より、細胞のバイアビリティを低下させていないシート状細胞培養物を通過する標識の量が少なければ、その標識は細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであるということができる。
【0022】
本発明に用いる標識は、既知の測定方法により定量可能な任意のものを含み、非限定例としては、例えば、蛍光標識、酵素標識、発光標識、放射性標識、磁気標識および比色標識などが挙げられる。標識は、既知の検出可能な標識物質、例えば、蛍光物質、酵素、発光物質、放射性同位体、磁気粒子、色素などからなっても、標識物質を他の物質(例えば、デキストランなどの担体)と結合し、細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるようにした標識化物質であってもよい。また、核酸やタンパク質など、特定の波長の電磁波を吸収する物質や、抗体やその抗原結合性断片、抗体が認識する抗原(例えば、DIGなど)、可溶化受容体、受容体に対するリガンド、レクチン、レクチンが認識する糖鎖、ビオチンおよびその誘導体、アビジンおよびその誘導体などを標識として用いてもよい。抗体やその抗原結合性断片、可溶化受容体、レクチン、ビオチンおよびその誘導体などを標識として利用した場合は、標識物質が結合した抗原、リガンド、糖鎖、アビジンおよびその誘導体などでそれぞれ検出することができ、抗体が認識する抗原、受容体に対するリガンド、レクチンが認識する糖鎖、アビジンおよびその誘導体などを標識として利用した場合は、標識物質が結合した抗体やその抗原結合性断片、可溶化受容体、レクチン、ビオチンおよびその誘導体などでそれぞれ検出することができる。
【0023】
本発明に用いる標識のさらなる例としては、酵素反応によって呈色または発光する物質などが挙げられる。
【0024】
標識に用いることができる蛍光物質としては、例えば、Cy
TMシリーズ(例えば、Cy
TM2、3、5、5.5、7など)、DyLight
TMシリーズ(例えば、DyLight
TM 405、488、549、594、633、649、680、750、800など)、Alexa Fluor
(R)シリーズ(例えば、Alexa Fluor
(R) 405、488、549、594、633、647、680、750など)、HiLyte Fluor
TMシリーズ(例えば、HiLyte Fluor
TM 488、555、647、680、750など)、ATTOシリーズ(例えば、ATTO488、550、633、647N、655、740など)、FAM、FITC、テキサスレッド、ローダミン、GFP、RFP、Qdot、ルシファーイエロー、フルオレセイン、DRAQ7
TMなどが、酵素としては、HRP、βガラクトシダーゼなどが、発光物質としては、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン、イクオリンなどが、放射性同位体としては、テクネチウム−99m(
99mTc)、インジウム−111(
111In)、ヨウ素−123(
123I)、ヨウ素−124(
124I)、ヨウ素−125(
125I)、ヨウ素−131(
131I)、タリウム−201(
201Tl)、炭素−11(
11C)、窒素−13(
13N)、酸素−15(
15O)、フッ素−18(
18F)、銅−64(
64Cu)、ガリウム−67(
67Ga)、クリプトン−81m(
81mKr)、キセノン−133(
133Xe)、ストロンチウム−89(
89Sr)、イットリウム−90(
90Y)などが、色素としては、ナイルブルー、ニュートラルレッド、ヤヌスグリーン、カルセイン、プロピジウムイオダイドなどの生体染色用色素などが挙げられる。
【0025】
さらなる蛍光物質の例としては、YFP、CFP、OFPなどの蛍光タンパク質が挙げられる。さらなる酵素の例としては、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルクロニダーゼ、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。酵素反応によって呈色または発光する物質としては、限定されずに、例えば、ルシフェラーゼ基質、アルカリホスファターゼ基質、βガラクトシダーゼ基質、グルクロニダーゼ基質、ペルオキシダーゼ基質などが挙げられる。
【0026】
標識は、細胞による取り込み、吸着、分解などが少なく、毒性の低いものが好ましい。かかる標識としては、例えば、細胞膜不透過性の標識などが挙げられる。一態様において、標識は、生体適合性である。生体適合性の標識を用いることにより、シート状培養物に標識が付着していても、移植などに安全に使用することができる。一態様において、標識は、検出可能な物質と結合した担体を含む。担体の例としては、限定されずに、例えば、デキストラン、ビオチン、アルブミン、アガロース、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリリジン(例えば、ポリ−L−リジン(PLL))などのポリマーや、ポリスチレン、シリカ、アクリル、石英、キトサン、金、銀、アルブミン、アガロース、ポリ乳酸、ポリエチレンイミン、白金、酸化アルミニウム、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、PLA、PLGA、酸化鉄、パラジウムなどで構成された微粒子、マンニトール、エリストールなどの糖アルコールなどが挙げられる。
【0027】
特定の態様において、標識は、蛍光物質と結合したデキストランを含む。デキストランの分子量は、約1000〜約1000000、約5000〜約500000、約10000〜約200000、約20000〜約100000、約30000〜約90000、約40000〜約80000等であってよい。別の特定の態様において、標識は、[
3H]マンニトール、[
14C]マンニトール、フルオレセインナトリウム(Na−F)、ルシファーイエローCH(例えば、二リチウム塩、二カリウム塩等)などを含む。
【0028】
第1の容器は、細胞がその内部でシート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の細胞培養容器を含む。第1の容器は、半透過性部分を除き培養液などの液体を透過させない構造・材料のものが好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、第1の容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。第1の容器は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。第1の容器は、ディッシュの形態であっても、複数のウェルを備えたマルチウェルプレートの形態であってもよく、不透明、半透明または透明であってもよい。また、第1の容器内で標識を検出する場合、第1の容器は、標識の検出に適した材質で構成されるか、少なくともかかる材質で構成された部分を有することが好ましい。例えば、標識が蛍光標識である場合、第1の容器は無色透明であるか、蛍光の検出に適した無色透明の部分を少なくとも有することが好ましい。
【0029】
第1の容器は、シート状細胞培養物を形成するためのシート状細胞培養物形成表面を備えている。該表面は、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面、例えば、限定されずに、親水性の表面、例えば、血清を表面にコーティングした表面、コロナ放電処理したポリスチレン、ゼラチンやコラーゲンゲル、マトリゲルをコーティングした表面、親水性ポリマーなどの親水性化合物をコーティングした表面、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外基質や、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などをコーティングした表面などであってよい。かかる表面を有する細胞培養容器は市販されており(例えば、Corning
(R) TC-Treated Culture Dish、Corning製など)、既知の方法に従い作製することもできる。
【0030】
シート状細胞培養物形成表面は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。また、上記のような刺激応答材料によるコーティング上に、血清などの成分をさらにコーティングすることもできる。
【0031】
第1の容器は、標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する。半透過性部分は、標識は通過するが、細胞は通過しない性質を有していれば特に限定されず、例えば、所定の大きさの細孔を有する培養基材などで構成されていてもよい。細孔のサイズ(孔径)は、標識は通過するが、細胞は通過しないものであれば特に限定されず、例えば、約0.01μm〜約50.0μm、約0.01μm〜約20.0μm、約0.01μm〜約10.0μm、約0.02μm〜約5.0μm、約0.03μm〜約4.0μm、約0.05μm〜約3.5μm、約0.1μm〜約3.0μm等であってよい。当業者であれば、使用する標識や細胞のサイズに適合した細孔を適切に選択することができる。また、細孔の密度は、細孔の孔径によって異なり得るが、例えば、孔径が3.0μmであれば、約1×10
3個/cm
2〜約1×10
8個/cm
2、約1×10
4個/cm
2〜約1×10
7個/cm
2、約2.5×10
4個/cm
2〜約8×10
6個/cm
2、約5×10
5個/cm
2〜約5×10
6個/cm
2、約8×10
5個/cm
2〜約2.5×10
6個/cm
2等であってよい。また、細孔の密度は、開孔率で表した場合、例えば、半透過性部分の面積の約0.1%〜約95%、約0.5%〜約90%、約1%〜約90%、約2%〜約90%、約3%〜約85%等であってよい
【0032】
半透過性部分は、第1の容器のシート状細胞培養物形成表面の一部または全部を構成してもよい。シート状細胞培養物形成表面の一部を構成する場合、その割合は、シート状細胞培養物形成表面の表面積の約1%〜約99%の範囲の任意の割合、例えば、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%等であってよい。また、半透過性部分は、シート状細胞培養物形成表面上の1ヶ所に存在していても、複数の箇所に分かれて存在していてもよい。半透過性部分の材料や厚さは、第1の容器の他の部分と同じであっても異なっていてもよい。具体的には、例えば、第1の容器は、シート状細胞培養物形成表面の一部または全部に細孔処理を施したものであってもよいし、細孔を有する培養基材を底部に取り付けたものであってもよい。
【0033】
半透過性部分を構成する培養基材は、細胞がその上でシート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質のプレートやフィルムなどを含む。培養基材は、培養液などの液体を透過させない材料で構成されてもよい。かかる材料の非限定例としては、第1の容器について記載したもののほか、ウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不織布、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース混合エステル(例えば、セルロースアセテートとニトロセルロースとの混合物)など、細孔処理に適したものなどが挙げられる。培養基材は、これらの材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。かかる表面の非限定例は、シート状細胞培養物形成について上記したとおりである。また、培養基材として、多孔質構造体を用いることもできる。例えば、コラーゲンスポンジなどの生物由来物質などで構成された多孔質構造体の培養基材上でシート状細胞培養物を形成すれば、シート状培養物を培養基材から剥離することなく、培養基材ごとそのまま移植などに使用することもできる。この場合、半透過性部分は、多孔質構造体のみで構成されても、多孔質構造体と、第1の容器に固定された、多孔質構造体を分離可能に保持する支持体とで構成されてもよい。
【0034】
第2の容器は、第1の容器の半透過性部分を収容可能な形態を有し、液体不透過性である。したがって、第2の容器は、液体不透過性の任意の材料で構成することができる。第2の容器は、不透明、半透明または透明であってもよい。第2の容器内で標識を検出する場合、第2の容器は、標識の検出に適した材質で構成されるか、少なくともかかる材質で構成された部分を有することが好ましい。例えば、標識が蛍光標識である場合、第2の容器は無色透明であるか、蛍光の検出に適した無色透明の部分を少なくとも有することが好ましい。第2の容器は、第1の容器と分離可能に構成されていても、一体となっていてもよい。第2の容器内で標識を検出する場合、第2の容器は、第1の容器により標識の検出が阻害されないように構成された標識検出部を備えていてもよい。標識検出部は、標識の検出に適した材質で構成されるか、少なくともかかる材質で構成された部分を有する。第2の容器は、第1の容器の形態に合わせて、ディッシュやプレートの形態を有してもよい。第2の容器に標識を移行させる場合、第2の容器は、標識物質の褪色や変色を防ぐための部材、限定されずに、例えば、着脱可能なカバー等を備えていてもよい。例えば、標識物質として蛍光物質や色素などの光劣化性物質を用いる場合は遮光カバー等を備えていてもよい。また、第1の容器に標識を移行させる場合でも、第2の容器に標識を移行させる場合でも、標識物質の褪色や変色を防ぐための部材、限定されずに、例えば、着脱可能なカバー等で、第1の容器およびこれを収容する第2の容器の全体を覆うことができる。
【0035】
第2の容器は、当該容器内の液体を採取するためのポートを備えていてもよい。かかる構成は、第2の容器内の液体に含まれ得る標識を当該容器外で検出する場合に有利である。ポートは、第2の容器からの液体の採取を可能にするものであれば特に限定されず、第1の容器と第2の容器との間に設けられた、第2の容器に含まれる液体へのアクセスを可能にする開口であっても、第2の容器内の液体の吸引を可能にする、一方の開口部が第2の容器内の液体に接触する位置に設けられた導管であってもよい。ポートは、第1の容器と第2の容器とを分離することなく、第2の容器からの液体の採取を可能にするものが好ましい。
【0036】
本発明における細胞の播種は、既知の任意の手法および条件で行うことができる。細胞の播種は、例えば、細胞をシート化媒体に懸濁した細胞懸濁液を第1の容器に注入することにより行ってもよい。細胞懸濁液の注入には、スポイトやピペットなど、細胞懸濁液の注入操作に適した器具を用いることができる。
【0037】
播種した細胞をシート化するステップも、既知の任意の手法および条件で行うことができる。かかる手法の非限定例は、例えば、特許文献1、特開2010-081829、特開2010-226962、特開2010-226991、特開2011-110368、特開2011-115058、特開2011-172925などに記載されている。シート化するステップは、例えば、細胞を、細胞間接着を形成する条件下で培養することにより達成することができる。かかる条件は、細胞間接着を形成することができればいかなるものであってもよいが、通常は一般的な細胞培養条件と同様の条件であれば細胞間接着を形成することができる。当業者であれば、播種する細胞の種類に応じて最適な条件を選択することができる。本明細書において、播種した細胞をシート化するための培養を、「シート化培養」と呼ぶ場合もある。
【0038】
シート化は、半透過性部分の全てまたは一部を被覆するように行うことができる。複数のサンプル間の比較など、実験条件を揃えることが求められる場合は、半透過性部分の全てを被覆するようにシート化を行うことが好ましいことがある。一方、同一のシート状細胞培養物の経時変化などを評価する場合(例えば、後述のシート化完了判定のための方法、移植用シート状細胞培養物の製造方法、シート状細胞培養物の製造過程におけるシートの剥離を検出する方法など)、シート化を半透過性部分の一部を被覆するように行っても良好な評価が可能である。
【0039】
シート化に用いるシート化媒体としては、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなどを使用してもよい。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
【0040】
シート化媒体は、血清(例えば、ウシ胎仔血清などのウシ血清、ウマ血清、ヒト血清等)、種々の成長因子(例えば、FGF、EGF、VEGF、HGF等)などの添加物を含んでもよい。
【0041】
標識を添加するステップも、既知の任意の手法および条件で行うことができる。
第1の容器への標識の添加は、例えば、第1の容器に含まれるシート化媒体に直接標識を添加して行ってもよいし、シート化媒体を標識を添加した別の媒体に置換して行ってもよいし、シート化媒体を別の媒体に置換し、置換後の媒体に標識を添加して行ってもよい。シート化媒体を、例えば低栄養の媒体(例えば、HBSS等)などに置換すると、シート状細胞培養物の状態をそのまま維持することができるため、完成したシート状細胞培養物の状態の確認に適している。また、シート状細胞培養物を低酸素条件(例えば、酸素濃度約0.1〜約10%など)におくことにより、細胞の増殖を止め、シート状細胞培養物の状態をそのまま維持することができる。
【0042】
第2の容器への標識の添加は、例えば、第1の容器と半透過性部分を介して液体連通した状態の第2の容器に直接標識を添加して行ってもよいし、標識が添加された媒体を含む第2の容器に第1の容器を半透過性部分を介して液体連通させて行ってもよい。
第1の容器または第2の容器への標識の添加は、第1の容器への細胞の播種と同時、播種より前、および/または、播種より後に行ってもよい。標識の添加は、1回のみ行っても、複数回行ってもよい。
添加する標識の量は、使用する標識や、容器に含まれる媒体の量、移行させる期間などにより変動し得るが、当業者であれば、ルーチンの実験で適切な添加量を見出すことができる。
【0043】
半透過性部分を介した第1の容器と第2の容器との液体連通は、例えば、第1の容器を、半透過性部分が、第2の容器に含まれる液体媒体により完全に浸漬されるように、第2の容器に対して配置することなどにより行うことができる。半透過性部分を介して第1の容器と第2の容器とを液体連通させることにより、第1の容器または第2の容器に添加された標識が、半透過性部分を介して、拡散などにより第2の容器または第1の容器に移行することが可能となる。第2の容器中の媒体は、シート化媒体と同じであっても異なっていてもよい。第2の容器中の媒体がシート化媒体と異なる場合は、半透過性部分を第2の容器中の媒体に浸漬する前に、第1の容器に含まれるシート化媒体を除去、または、第2の容器中の媒体と同じ媒体に置換してもよい。また、第2の容器中の媒体がシート化媒体と異なる場合は、シート化媒体との浸透圧差が小さい媒体を用いることが好ましい。標識を移行させる容器に含まれる媒体(以下、標識検出媒体と称する場合がある)は、標識の検出に悪影響を与えないものが好ましい。例えば、標識が蛍光標識や比色標識である場合、当該媒体は色素や自家蛍光を有しないものが好ましい。
【0044】
標識として標識化物質を用いる場合、第1の容器または第2の容器に標識を添加する際に、標識を移行させる第2の容器または第1の容器に、標識物質を含まない以外は標識化物質と同じ非標識物質(例えば、標識として蛍光標識デキストランを用いる場合は、非標識デキストラン)を添加することにより、浸透圧の影響を排除し、より正確な評価を行うことができる。
【0045】
標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に半透過性部分を介して移行させるステップは、例えば、標識を第1の容器または第2の容器に添加後、半透過性部分を介して第1の容器と第2の容器とを液体連通させた状態で、第1の容器および第2の容器を所定の期間インキュベートすることにより行うことができる。第1の容器と第2の容器との液体連通は、標識を添加する前に行っても、標識添加後に行っても、標識の添加と同時に行ってもよい。標識の移行は、標識の拡散などにより生じる。移行期間は特に限定されず、例えば、1分〜72時間、5分〜48時間、10分〜36時間、15分〜24時間等であってよい。インキュベーション温度は、標識の拡散を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、約2℃〜約45℃、約4℃〜約40℃、約8℃〜約38℃、約10℃〜約38℃、約15℃〜約30℃等であってよい。
【0046】
上記移行ステップは、第1の容器に収容された液体の液面と、第2の容器に収容された液体の液面との高低差が小さい状態で行われることが、浸透圧による影響の排除などの観点から好ましい。第1の容器に収容された液体の液面と、第2の容器に収容された液体の液面との間に高低差が存在する状況は、第1の容器に収容された液体の液面が第2の容器に収容された液体の液面より高い場合、および、第1の容器に収容された液体の液面が第2の容器に収容された液体の液面より低い場合を含む。上記高低差は、小さければ小さいほど好ましく、限定されずに、例えば、20mm以下、15mm以下、12mm以下、10mm以下、8mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下、1mm以下、0.5mm以下などであってよい。高低差は、実質的に存在しないことが好ましく、全く存在しないこと(すなわち高低差が0mmであること)が最も好ましい。一態様において、上記高低差は0〜10mmの範囲内である。上記高低差の調節は、例えば、第1の容器および/または第2の容器に添加する液体の量を調節することなどにより行うことができる。
【0047】
標識が添加されていない第1の容器または第2の容器に移行した標識を検出するステップは、標識の検出が可能な既知の任意の手法で行うことができる。例えば、標識が蛍光標識であれば、移行した標識を含み得る第1の容器または第2の容器に所定の波長の光を照射し、発生した蛍光の強度を測定することで、移行した標識を定量することができる。標識の検出は、上記のように、第1の容器または第2の容器に含まれ得る移行した標識を、当該容器内で検出してもよいし、当該容器に含まれる媒体を取り出して、当該容器外で検出してもよい。標識を第1の容器内で検出する場合、媒体の漏出を防ぐために、半透過性部分を適切な部材、例えば、フィルムやキャップなどでシールしてもよい。
【0048】
標識を、他の物質(検出剤)で検出する場合(例えば、酵素反応によって呈色または発光する物質を標識として用い、これを酵素と反応させて検出する場合、酵素を標識として用い、これを当該酵素の基質(例えば、酵素反応によって呈色または発光する物質)と反応させて検出する場合など)、検出剤は、移行した標識を検出するステップにおいて標識と反応させてもよいし、標識が移行する容器に、検出するステップより前に予め検出剤を入れておき、検出するステップにおいて、標識と検出剤との反応で生じたシグナル(例えば、呈色、発光など)を検出してもよい。
【0049】
本発明の方法により、測定した標識の量から、形成されたシート状細胞培養物の品質を評価することができる。ここで、シート状細胞培養物の品質としては、シート状細胞培養物の強度、シート化の程度、細胞密度、細胞のバイアビリティ、細胞の活力、細胞同士の接着状態などが挙げられる。シート状細胞培養物に存在する細胞間隙が大きい程、移行する標識の量が多くなるが、細胞間隙が大きい程、シート状細胞培養物の強度は低下する。また、下記の実施例が示すとおり、シート化が不十分であるほど、細胞密度が少ないほど、そして、細胞のバイアビリティや活力が低いほど、移行する標識の量は多くなる。
【0050】
品質の評価は、例えば、検出された標識の量と、所定の基準値とを比較することにより行うことができる。より具体的には、例えば、検出された標識の量が、所定の基準値以下の場合に、品質が良好であると評価し、基準値を超える場合に、品質が不良であると評価することができる。前記基準値は、実験などにより求めることができる。なお、標識の量は、標識の質量や濃度のほか、これに関連する数値、例えば、標識の性質に応じて、吸光度、蛍光強度、発光強度、RFU、放射線量等の数値を含む。
【0051】
本発明の品質評価方法は、移植などに実際に使用するシート状細胞培養物に適用しても、同一条件で作製される複数のシート状細胞培養物からなるロットを代表するシート状細胞培養物に適用してもよい。後者の場合、本方法による品質評価の結果を、当該培養物が属するロット全体に適用することができる。
【0052】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ、
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、シート化完了判定のための方法(以下、「シート化完了判定方法」と略す場合がある)に関する。
【0053】
本発明のシート化完了判定方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。実施例5が示すとおり、単位時間当たりの移行標識量は、シート化の進行に伴い徐々に減少し、シート化が完了するとほぼ一定の量に維持される。したがって、移行した標識の量を定期的に測定すること、または、モニターすることにより、シート化の完了を検出することができる。移行標識量等の測定は、ステップ(4)のみを定期的に繰り返しても、ステップ(2)〜(4)を定期的に繰り返しても、ステップ(3)〜(4)を定期的に繰り返してもよい。ステップ(4)のみを定期的に繰り返す場合、標識は、標識が添加されていない容器に継続的に移行し、蓄積されていくため、標識の量は時間の経過とともに増加するが、シート化の進行に伴い単位時間当たりの増加量は徐々に低下していき、シート化が完了するとほぼ一定となる。したがって、例えば、定期的に測定した標識の量から、標識の増加量を算出し、増加量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったときに、シート化が完了したと判定することができる。ステップ(2)〜(4)を定期的に繰り返す場合、例えば、移行した標識をステップ(4)の後に除去すれば、次のサイクルのステップ(2)で標識が新たに添加され、ステップ(3)で移行してくるため、検出される標識の量は時間の経過とともに徐々に減少し、シート化が完了するとほぼ一定となる。したがって、定期的に測定した標識の量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったときに、シート化が完了したと判定することができる。また、ステップ(3)〜(4)を定期的に繰り返す場合、例えば、移行した標識をステップ(4)の後に除去すれば、次のサイクルのステップ(3)で標識が新たに移行してくるため、検出される標識の量は時間の経過とともに徐々に減少し、シート化が完了するとほぼ一定となる。したがって、定期的に測定した標識の量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったときに、シート化が完了したと判定することができる。
【0054】
「標識の量または増加量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったとき」は、シート化培養初期の第1の容器または第2の容器に移行する標識の量または増加量の急速な減少が終わり、時間が経過しても大幅に変化しなくなったときを意味する。このときの複数の連続する測定における標識の量または増加量の変動幅は、限定されずに、例えば、約±20%/時間、約±10%/時間以内、約±8%/時間以内、約±6%/時間以内、約±5%/時間以内、約±4%/時間以内、約±3%/時間以内、約±2%/時間以内等であってよい。
【0055】
シート化完了の判定は、平均変化率や微分係数を基準に行うこともできる。検出される標識の量(例えば、積算移行量や単位時間当たりの移行量など)の経時的な変化率の絶対値は、シート化の進行に伴い小さくなるため、複数の時点で検出した標識の量を時間の関数として表し、変化率や微分係数の絶対値が所定の値より小さくなったときに、シート化が完了したと判定することができる。標識の単位時間当たりの移行量と時間との関数における微分係数を基準としてシート化の完了を判定する場合、微分係数の絶対値は、限定されずに、例えば、約1.0以下、約0.9以下、約0.8以下、約0.7以下、約0.6以下、約0.5以下、約0.4以下、約0.3以下、約0.2以下、約0.1以下などであってよい。
【0056】
したがって、本発明のシート化完了判定方法は、移行した標識の量を定期的に測定またはモニターするステップ、および/または、標識の量または増加量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったとき、もしくは、標識の量の経時的な変化率の絶対値が基準値以下となったときに、シート化が完了したと判定するステップを、さらに含んでもよい。
【0057】
本発明のシート化完了判定方法は、移植などに実際に使用するシート状細胞培養物に適用しても、同一条件で作製される複数のシート状細胞培養物からなるロットを代表するシート状細胞培養物に適用してもよい。後者の場合、本方法による判定結果を、当該培養物が属するロット全体に適用し、シート状細胞培養物を培養基材から剥離するタイミングを最適化することができる。
【0058】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ、
(5)標識の量もしくは増加量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったとき、または、標識の量の経時的な変化率の絶対値が基準値以下となったときに、シート化培養を終了し、シート状細胞培養物を第1の容器から回収するステップ
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、移植用シート状細胞培養物の製造方法(以下、「製造方法」と略す場合がある)に関する。
【0059】
本発明のシート化完了判定方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。また、ステップ(5)における「標識の量もしくは増加量が複数の連続する測定においてほぼ一定になったとき」および「標識の量の経時的な変化率の絶対値が基準値以下となったとき」は、本発明のシート化完了判定方法について上記したとおりである。
【0060】
ステップ(5)における第1の容器からのシート状細胞培養物の回収は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている培養基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養表面上で培養して細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。
【0061】
本発明の製造方法は、ステップ(5)の最中、前または後に、シート状細胞培養物を洗浄するステップをさらに含んでもよい。当該ステップにより、シート状細胞培養物に付着した標識を除去することができる。
【0062】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ、
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、細胞のシート形成能を評価する方法(以下、「シート形成能評価方法」と略す場合がある)に関する。
【0063】
本発明のシート形成能評価方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。実施例6に示すとおり、シート形成中に剥離を生じるなど、シート形成に異常をきたす細胞は、シート形成後の標識の移行量が多いことが明らかとなった。したがって、ステップ(1)〜(4)を行うことにより、ある対象(例えば患者)の細胞が、移植などに用いる臨床用のシート状細胞培養物の作製に適したシート形成能を有するか否かを、検出した標識の量に基づいて事前に評価することができる。これにより、不完全なシート状細胞培養物の製造への着手を回避することが可能となる。シート形成能は、細胞がシートを形成する能力を意味する。特定の理論に拘束されることは望まないが、シートの形成には、細胞の、培養基材と接着する能力、細胞同士で接着する能力、細胞外基質の分泌能力、伸展能力、移動能力などの様々な能力や、細胞の活力などが関与していると考えられる。シート形成能の評価は、例えば、検出された標識の量と、所定の基準値とを比較することにより行うことができる。より具体的には、例えば、検出された標識の量が、所定の基準値以下の場合に、細胞のシート形成能が十分であると評価し、基準値を超える場合に、細胞のシート形成能が不十分であると評価することができる。前記基準値は、実験などにより求めることができる。また、本発明のシート形成能評価方法による、シート形成能が不十分であるとする評価結果を、ある対象が、シート状細胞培養物を用いた処置に適しているかを判断する材料とすることができる。
【0064】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ、
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、シート状細胞培養物の製造過程におけるシートの剥離を検出する方法(以下、「剥離検出方法」と略す場合がある)に関する。
【0065】
本発明の剥離検出方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。シート状細胞培養物の製造過程において、シート形成中に剥離が生じると、正常なシート化が行われず、品質の低いシート状細胞培養物となる。したがって、シート状細胞培養物の製造過程の複数の時点で標識の移行量を測定し、シート化の進行に伴い移行量が次第に減少する中、移行量が増加(または減少率が鈍化)したときに、剥離が生じたと判定することができる。剥離が生じたシート状細胞培養物については、剥離が検出され次第製造を中止し、新たな細胞で製造をやり直すなどの措置をいち早く講じることができ、製造の最終段階で品質チェックを行う場合に比べ、時間などのロスを回避することが可能となる。
【0066】
本発明の別の側面は、
(1)細胞間接着により細胞間の通過が阻害される標識、
(2)前記標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器、および
(3)前記半透過性部分を収容可能な液体不透過性の第2の容器
を含む、シート状細胞培養物の製造、シート状細胞培養物の品質評価、シート状細胞培養物のシート化完了の判定、細胞のシート形成能の評価、および/または、シート状細胞培養物の製造過程における剥離の検出のためのキットに関する。
【0067】
本発明のキットの構成要素(1)〜(3)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。また、本発明のキットは、上記の1または2以上の用途に適した任意の構成、例えば、各容器に添加する媒体、発色試薬、遮光カバー、各用途に関する使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどをさらに含んでもよい。
【0068】
本発明の別の側面は、
(1)細胞間接着により細胞間の通過が阻害される標識、
(2)前記標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器、
(3)前記半透過性部分を収容可能な液体不透過性の第2の容器、および
(4)標識を検出する検出器
を備えた、シート状細胞培養物の製造、シート状細胞培養物の品質評価、シート状細胞培養物のシート化完了の判定、細胞のシート形成能の評価、および/または、シート状細胞培養物の製造過程における剥離の検出のためのシステムに関する。
【0069】
本発明のシステムの構成要素(1)〜(3)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。また、構成要素(4)の検出器は、標識を検出することができれば特に限定されず、例えば、分光光度計などの光度計、吸光度計、濁度計、色度計、シンチレーションカウンターなどの放射線検出器などを含む。当業者であれば、使用する標識に適した検出器を選択することができる。本発明のシステムは、検出器を1種のみ備えていても、複数種備えていてもよい。本発明のシステムは、上記の1または2以上の用途に適した任意の構成、例えば、検出器からの信号の処理や、アクチュエータの制御などを行うプロセッサ、表示装置や入力装置などのインターフェース、標識を容器に添加するためのインジェクタ、各容器を移動させるマニピュレータ、細胞培養用インキュベータ、撹拌器などをさらに備えていてもよい。
【0070】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に、単離シート状細胞培養物を、該半透過性部分を被覆するように配置するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に、標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、単離シート状細胞培養物の品質評価のための方法(以下、「単離シート状細胞培養物の品質評価方法」と略す場合がある)に関する。
【0071】
本発明の、単離シート状細胞培養物の品質評価方法の各ステップは、細胞を第1の容器に播種し、半透過性部分を被覆するようにシート化する代わりに、単離されたシート状細胞培養物を、第1の容器に半透過性部分を被覆するように配置する点が異なる以外は、本発明の品質評価方法と同様であり、同様のシート状細胞培養物の品質、例えば、シート状細胞培養物の強度、シート化の程度、細胞密度、細胞のバイアビリティ、細胞の活力、細胞同士の接着状態などを評価することができる。「単離シート状細胞培養物」は、典型的には、シート化後に、培養基材から遊離(剥離)されたシート状細胞培養物を指す。
【0072】
単離シート状細胞培養物の配置は、単離シート状細胞培養物が半透過性部分に接着するよう、所定の期間にわたって行うことができる。単離シート状細胞培養物の半透過性部分への接着は、例えば、単離シート状細胞培養物を半透過性部分に接触させた状態で所定の期間培養することなどにより達成することができる。配置期間(例えば、培養期間)は、単離シート状細胞培養物の半透過性部分への接着を可能にするものであれば特に限定されず、例えば、5分〜24時間、10分〜12時間、15分〜6時間、30分〜3時間などであってよい。
【0073】
単離シート状細胞培養物は、本発明の品質評価方法について上記したとおり、1の細胞層からなるもの(単層シート状細胞培養物)であっても、2以上の細胞層の積層から構成されるもの(積層シート状細胞培養物)であってもよい。積層シート状細胞培養物は、例えば、2以上のシート状細胞培養物を直接、または、介在物質を介して重ね合わせ、1枚のシート状細胞培養物とすることなどによって作製される。介在物質としては、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物同士の接着を促進および/または強化する物質などが挙げられ、その非限定例としては、例えば、細胞外基質構成成分またはこれを含む組成物(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、ハイドロゲル、ゼラチン等)、接着タンパク質(例えば、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリー等)などが挙げられる。評価対象の単離シート状細胞培養物が積層シート状細胞培養物である場合は、上記の品質項目に加え、シート状細胞培養物の積層枚数や、積層の欠陥(例えば、積層時のシート状細胞培養物の折れ曲がり、皺形成、破れなど)などを評価することも可能である。
【0074】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に、複数のシート状細胞培養物を、該半透過性部分を被覆するように積層するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に、標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、積層シート状細胞培養物の品質評価のための方法(以下、「積層シート状細胞培養物の品質評価方法」と略す場合がある)に関する。
【0075】
本発明の積層シート状細胞培養物の品質評価方法におけるステップ(2)〜(4)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。
ステップ(1)における、複数のシート状細胞培養物の積層は、本発明の品質評価方法と同様、まず第1の容器に細胞を播種し、半透過性部分を被覆するようにシート化させてから、別途作製した単離シート状細胞培養物を、シート化したシート状細胞培養物上に積層することにより達成しても、まず第1の容器に第1の単離シート状細胞培養物を半透過性部分を被覆するように配置してから、別途作製した第2の単離シート状細胞培養物を、第1の単離シート状細胞培養物に上に積層することにより達成してもよい。単離シート状細胞培養物は、単層のものであっても積層されたものであってもよく、第1の容器に積層した単離シート状細胞培養物上に、1または2以上の単離シート状細胞培養物をさらに積層してもよい。積層するシート状細胞培養物の枚数は特に限定されず、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10枚または11枚以上などであってよい。
【0076】
シート状細胞培養物の積層は、限定されずに、例えば、第1の容器内のシート状細胞培養物上に、単離シート状細胞培養物を配置することなどにより達成することができる。前記配置は、限定されずに、例えば、2枚以上のシート状細胞培養物を直接、または、介在物質を介して重ね合わせることなどによって達成することができる。介在物質については、本発明の単離シート状細胞培養物の品質評価方法について上記したとおりである。シート状細胞培養物同士を接着させるため、単離シート状細胞培養物を配置後、重なり合ったシート状細胞培養物を所定の期間培養してもよい。培養期間は、重なり合ったシート状細胞培養物同士の接着を可能にするものであれば特に限定されず、例えば、5分〜24時間、10分〜12時間、15分〜6時間、30分〜3時間などであってよい。培養は、単離シート状細胞培養物を1枚積層するごとに行っても、所望の枚数の単離シート状細胞培養物を全て積層した後に行ってもよい。評価後の積層シート状細胞培養物は、第1の容器から剥離し、移植などに用いてもよい。
【0077】
本発明の積層シート状細胞培養物の品質評価方法により、積層シート状細胞培養物の強度、シート化の程度、細胞密度、細胞のバイアビリティ、細胞の活力、細胞同士の接着状態、シート状細胞培養物の積層枚数、積層の欠陥(例えば、積層時のシート状細胞培養物の折れ曲がり、皺形成、破れなど)などを評価することができる。
【0078】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化する、または、前記第1の容器に、単離シート状細胞培養物を、該半透過性部分を被覆するように配置するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識を検出するステップ、
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、シート状細胞培養物の細胞純度または細胞構成比を評価する方法(以下、「細胞純度評価方法」と略す場合がある)に関する。
【0079】
本発明の細胞純度評価方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の品質評価方法および単離シート状細胞培養物の品質評価方法について上記したとおりである。
実施例8が示すとおり、単位時間当たりの移行標識量は、シート状細胞培養物を構成する細胞の種類によって異なることが今回明らかとなった。したがって、細胞純度または細胞構成比が未知のシート状細胞培養物における移行標識量を検出し、これを同じ条件で測定した細胞純度または細胞構成比が既知のシート状細胞培養物における移行標識量と比較することにより、評価対象のシート状細胞培養物の細胞純度または細胞構成比を推定することや、細胞純度または細胞構成比の異常を検出することなどが可能である。
【0080】
本発明の細胞純度評価方法において、播種する細胞は複数の細胞種を含んでもよく、典型的には、細胞純度および/または細胞構成比は未知である。本発明の細胞純度評価方法は、検出された移行した標識の量と、基準値とを比較するステップをさらに含んでもよい。基準値は、限定されずに、例えば、評価対象のシート状細胞培養物と同じ条件で測定した、細胞純度または細胞構成比が既知のシート状細胞培養物における移行標識量であってもよい。比較対象となる基準値は、1種または2種以上存在してよい。例えば、基準値は、1種類の所望の細胞純度を有するシート状細胞培養物に関する移行標識量であってもよいし、許容範囲の上限および下限の細胞純度を有する2種類のシート状細胞培養物のぞれぞれに関する移行標識量であってもよいし、検量線が作成できる程度の、既知の異なる細胞純度を有する複数のシート状細胞培養物のぞれぞれに関する移行標識量であってもよい。比較の結果、検出された移行標識量と基準値との乖離が所定の程度より大きい場合、または、検出された移行標識量が、複数の基準値で構成される所定の範囲に含まれない場合、評価対象のシート状細胞培養物の細胞純度または細胞構成比に異常があると評価することができる。また、検出された移行標識量と基準値との乖離が所定の程度より小さい場合、または、検出された移行標識量が、複数の基準値で構成される所定の範囲に含まれる場合、評価対象のシート状細胞培養物の細胞純度または細胞構成比が正常であると評価することができる。さらに、複数の基準値を基に、細胞純度または細胞構成比と、移行標識量との関係を示す検量線を作成することにより、検出された移行標識量から、評価対象のシート状細胞培養物の細胞純度または細胞構成比を推定することができる。
【0081】
一態様において、細胞純度は、骨格筋芽細胞の純度である。一態様において、細胞純度は、線維芽細胞の純度である。一態様において、細胞構成比は、骨格筋芽細胞と線維芽細胞との構成比である。
【0082】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識の量を検出するステップ、
(5)検出された移行標識量と基準値とを比較するステップ、
(6)比較結果に基づいてシート状細胞培養物の製造過程における異常を検出するステップ
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、シート状細胞培養物の製造過程における異常を検出する方法(以下、「異常検出方法」と略す場合がある)に関する。
【0083】
本発明の異常検出方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。
ステップ(5)における基準値は、製造中のシート状細胞培養物の種々のパラメーターの異常、例えば、シート状細胞培養物の強度、シート化の程度、細胞密度、細胞のバイアビリティ、細胞の活力、細胞同士の接着状態などの異常に関連するものを含む。基準値の非限定例としては、例えば、シート化が完了した標準的なシート状細胞培養物における移行標識量(例えば、シート化が完了した複数のシート状細胞培養物における移行標識量の平均値等)、シート化開始から所定期間経過後の標準的なシート状細胞培養物における移行標識量(例えば、シート化開始から所定期間経過後の複数のシート状細胞培養物における移行標識量の平均値等)、シート化開始から所定期間経過後の標準的なシート状細胞培養物における移行標識量の時間に対する微分係数(例えば、シート化開始から所定期間経過後の複数のシート状細胞培養物における移行標識量の移行標識量の時間に対する微分係数の平均値等)、シート化開始後の所定期間内における移行標識の経時的な変化量、変化率(例えば、平均変化率等)、シート化開始後の異なる2時点間における移行標識量の変化量、変化率(例えば、平均変化率等)などが挙げられる。上記基準値は、例えば、実施例3〜6に記載の実験などにより適宜求めることができる。基準値は単一の数値であっても、数値範囲であってもよい。
【0084】
ステップ(5)においては、検出された移行標識量と基準値とを比較し、例えば、基準値が単一の数値である場合は、検出された移行標識量が基準値より大きいか、小さいかまたは同じであるか、基準値が数値範囲である場合は、検出された移行標識量が基準値に含まれるか、基準値の上限より大きいか、基準値の下限より小さいかなどの結果を出力する。
【0085】
ステップ(6)においては、ステップ(5)の比較結果を受けて、シート状細胞培養物の製造過程における異常(例えば、異常の有無、異常の可能性の有無等)を検出する。例えば、実施例3の結果が示すとおり、細胞密度が低いほど所定期間経過後の移行標識量は多くなるため、シート化開始から所定期間経過後の移行標識量が基準値より大きければ、細胞密度が低いという異常またはその可能性の存在を検出できる。また、実施例4が示すとおり、細胞のバイアビリティが低いほど所定期間経過後の移行標識量は多くなるため、シート化開始から所定期間経過後の移行標識量が基準値より大きければ、細胞のバイアビリティが低いという異常またはその可能性の存在を検出できる。さらに、実施例5が示すとおり、シート状細胞培養物のシート化の進行に伴い、単位時間当たりの移行標識量は減少して徐々に0に近づき、移行標識の積算量は徐々に一定の値に近づき、また、移行標識量の単位時間当たりの変化量または変化率は、シート化開始の初期が最も大きく、時間経過とともに徐々に小さくなる。したがって、シート化開始から所定期間経過後の移行標識量の時間に対する微分係数、シート化開始後の所定期間内における移行標識の経時的な変化量や変化率、シート化開始後の異なる2時点間における移行標識量の変化量や変化率が基準値より大きい場合は、シート化の不良という異常またはその可能性の存在を検出できる。また、実施例6が示すとおり、シート化の最中に細胞の剥離が生じると移行標識量が増大するため、シート化開始から所定期間経過後の移行標識量が基準値より大きければ、細胞の剥離が生じたという異常またはその可能性の存在を検出できる。
【0086】
シート状細胞培養物の製造過程における異常またはその可能性を検出することにより、シート状細胞培養物の製造過程を制御することが可能となり、製造の効率化(例えば、製造時間の短縮等)、不良発生の防止、品質の改善、細胞の有効利用、歩留まりの向上などを図ることができる。移行標識量の検出を製造過程の比較的早期(限定されずに、例えば、細胞播種後1時間以内、2時間以内、3時間以内、4時間以内、5時間以内、6時間以内、7時間以内、8時間以内、9時間以内または10時間以内等)に行うことにより、早期に異常を検出し、必要な措置を講じることが可能となる。
【0087】
本発明の別の側面は、(1)標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器に細胞を播種し、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養するステップ、
(2)第1の容器、または、前記半透過性部分を介して第1の容器と液体連通し得る液体不透過性の第2の容器に標識を添加するステップ、
(3)第1の容器と第2の容器とが前記半透過性部分を介して液体連通した状態で、標識を、第1の容器および第2の容器のうち、標識が添加されていない容器に、半透過性部分を介して移行させるステップ、
(4)前記標識が添加されていない容器に移行した標識の量を検出するステップ、
(5)検出された移行標識量と基準値とを比較するステップ、
(6)比較結果に基づいてシート状細胞培養物の製造過程を制御するステップ
を含み、標識が細胞間接着により細胞間の通過が阻害されるものであり、ステップ(2)は、ステップ(1)と同時、ステップ(1)より前またはステップ(1)より後に行ってもよい、シート状細胞培養物の製造方法(以下、「制御製造方法」と略す場合がある)に関する。
【0088】
本発明の制御製造方法におけるステップ(1)〜(5)は、本発明の品質評価方法および異常検出方法について上記したとおりである。
ステップ(6)においては、ステップ(5)の比較結果に基づいてシート状細胞培養物の製造過程を様々に制御する。例えば、ステップ(5)の比較結果に基づいて、本発明の異常検出方法のステップ(5)と同様にシート状細胞培養物の製造過程における異常またはその可能性の有無を検出し、異常またはその可能性が検出されない場合は製造を続行し、異常またはその可能性が検出された場合は製造を中止したり、製造を中断して異常を調査し、その解消のための措置を講じたりすることができる。異常解消のための措置の非限定例としては、例えば、異常が細胞密度の不足であれば、製造を中止し、より多くの細胞を播種してシート化をやり直すことなどが、異常が培地の異常であれば、培地を交換することなどが、異常が細胞の剥離であれば、製造を中止し、シート化をやり直すことなどが、異常がシート化の不良であれば、シート化期間を延長することや、製造を中止し、シート化をやり直すことなどが挙げられる。
【0089】
本発明の制御製造方法の特定の態様の非限定例を、
図1〜3に示すアルゴリズムを参照してより詳細に説明する。
図1に示すアルゴリズム(アルゴリズム1)においては、処理の開始(Start)後に、まず第1の容器に細胞を播種し(Plating)、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養(Incubation 1)を開始する。所定の期間経過後、第1の移行標識量Xを検出し(Detection 1)、Xを第1の基準値(Reference value 1)と比較する。Xが第1の基準値より大きければ(「No」の場合)、細胞の播種に問題があった(例えば、細胞数の不足など)と判定し、播種をやり直す。播種のやり直しは、限定されずに、例えば、シート化培養中の細胞培養物を含む容器に追加の細胞を播種することにより行っても、シート化培養中の細胞培養物を酵素処理などにより単細胞懸濁液としてから、追加の細胞を加えることなどにより細胞数を調整した後、容器に播種することにより行っても、シート化培養中の細胞培養物を廃棄し、新たな細胞を播種することにより行ってもよい。シート化培養の比較的早期に移行標識量を検出することにより、細胞の異常をいち早く検出でき、そのままシート化培養を続けることによる時間のロスを回避することが可能となる。Xが第1の基準値以下であれば(「Yes」の場合)、シート化培養を継続する(Incubation 2)。所定の期間経過後、第2の移行標識量Yを検出し(Detection 2)、Yを第2の基準値(Reference value 2)と比較する。Yが第2の基準値より大きければ(「No」の場合)、シート化培養時間が不足していると判定し、所定期間シート化培養を行う。所定期間後に再度第2の移行標識量Yを検出し、これを第2の基準値と比較する。この処理をYが第2の基準値以下となるまで繰り返す。Yが第2の基準値以下であれば(「Yes」の場合)、シート化が完了したと判定して、外観検査を行う。外観検査で異常がなければ(「Yes」の場合)、シート状細胞培養物を培養基材から剥離し(Detachment)、処理を終了する(End)。外観検査で異常を認めたら(「No」の場合)、培地交換を行い(Medium replacement)、シート化培養を再開する。培地交換後のシート化培養でも外観検査で異常を認める場合は、さらなる培地交換を行うことなく、処理を終了してもよい。
【0090】
また、
図2に示すように、Xおよび/またはYの値が基準値より大きい場合、外観検査でシート状細胞培養物が培養基材から剥離している(Detached)か否かを調査し、一部剥離している場合(「Partially」の場合)は剥離(Detachment)に進み、完全に剥離している場合(「Fully」の場合)は終了(End)に進む態様も可能である。シート状細胞培養物の培養基材からの剥離状態の判定は、シート状細胞培養物の一部が、シート状細胞培養物としての一体性を保ったまま培養基材から剥離していれば一部剥離(Partially)、シート状細胞培養物の全体が、シート状細胞培養物としての一体性を保ったまま培養基材から剥離していれば完全剥離(Fully)、前記のいずれでもなければ剥離していない(No)とすることができる。なお、シート状細胞培養物が剥離後ある程度時間が経過して塊状になっている場合は、シート状細胞培養物を使用に供さず、廃棄してもよい。
【0091】
上記アルゴリズムに従って処理することで、シート化の完了をいち早く検出でき、不要な培養時間をカットすることが可能となる。また、異常が検出された場合、細胞を廃棄するのではなく、培地交換や細胞の追加などにより異常を修正して培養を継続することで細胞を有効利用できるため、使用する細胞数を全体として減らすことができ、歩留まりを高めることができる。
【0092】
図2に示すアルゴリズム(アルゴリズム2)においては、処理の開始(Start)後に、まず第1の容器に細胞を播種し(Plating)、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養(Incubation)を開始する。所定の期間経過後、移行標識量Xを検出し(Detection)、Xを基準値(Reference value)と比較する。Xが基準値より大きければ(「No」の場合)、細胞数を細胞培養物の外観(肉眼で確認できる程の空隙や剥離細胞の有無)などから検査し、異常があれば(「No」の場合)、播種をやり直す。異常がなければ(「Yes」の場合)、培地の状態を検査し、異常(例えば、変色、混濁、pHの異常等)が認められたら(「No」の場合)、培地交換を行い(Medium replacement)、シート化培養を再開する。Xが基準値以下であれば(「Yes」の場合)、外観検査を行い、異常がなければ(「Yes」の場合)、シート状細胞培養物を培養基材から剥離し(Detachment)、処理を終了する(End)。外観検査で異常(例えば、肉眼で確認できる程の空隙や剥離細胞の存在、異物の混入等)を認めたら(「No」の場合)、シート化培養を中止し(Stop incubation)、処理を終了する(End)。このアルゴリズムでは、移行標識量Xが基準値より大きい場合に、細胞数の異常と培地の異常とを区別し、それぞれに適した措置を行うことなどで、製造の効率化を図るとともに、細胞を有効利用し、使用する細胞数を全体として減らすことができ、歩留まりを高めることができる。
【0093】
図3に示すアルゴリズム(アルゴリズム3)においては、処理の開始(Start)後に、まず第1の容器に細胞を播種し(Plating)、該半透過性部分を被覆するようにシート化培養(Incubation 1)を開始する。所定の期間経過後、第1の移行標識量Xを検出し(Detection 1)、Xを第1の基準値(Reference value 1)と比較する。Xが第1の基準値より大きければ(「No」の場合)、培養期間が不足していると判定し、シート化培養(Incubation 1)を繰り返す。Xが第1の基準値以下であれば(「Yes」の場合)、シート化培養を継続する(Incubation 2)。所定の期間経過後、移行標識量を検出し(Detection 2)、直前に検出した(Detection 1またはDetection 2)移行標識量との変化量または変化率の絶対値Yを算出し、Yを第2の基準値(Reference value 2)と比較する。Yが第2の基準値より大きければ(「No」の場合)、合計シート化培養期間(すなわち、シート化培養(Incubation 1)の開始からの経過時間)「t」が基準範囲A〜Bに含まれるかを判定し、tが下限値Aより小さければ(「t < A」の場合)、培養期間が不足していると判定し、シート化培養(Incubation 2)を繰り返し、tが基準範囲A〜B以内であれば(「A ≦ t ≦ B」の場合)、培地に異常があると判定し、培地交換(Medium replacement)を行ってからシート化培養(Incubation 2)を繰り返し、tが上限値Bより大きければ(「t > B」の場合)、シート化に異常があったと判定し、培養を中止し(Stop incubation)、処理を終了する(End)。一方、Yが第2の基準値より以下であれば(「Yes」の場合)、シート状細胞培養物を培養基材から剥離し(Detachment)、処理を終了する(End)。基準範囲A〜Bは特に限定されないが、例えば、24時間〜72時間等であってよい。剥離の前に、外観検査を行い、外観的な異常をさらに検出することもできる。このアルゴリズムでは、シート化の完了が遅い場合に、合計シート化培養期間の長さに応じて適した措置を取ることなどが可能であり、製造の効率化を図ることができる。
【0094】
上記のアルゴリズムは、本発明の制御製造方法の特定の態様を表したものであり、本発明の制御製造方法はこれらの態様のみならず、他の様々な態様を包含することはいうまでもない。また、本発明の制御製造方法に係る上記または他のアルゴリズムを、後述のシート状細胞培養物の制御製造のためのシステムに実装してもよい。
【0095】
本発明の別の側面は、
(1)細胞間接着により細胞間の通過が阻害される標識、
(2)前記標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器、および
(3)前記半透過性部分を収容可能な液体不透過性の第2の容器
を含む、単離シート状細胞培養物の品質評価、積層シート状細胞培養物の品質評価、シート状細胞培養物の細胞純度もしくは細胞構成比の評価、シート状細胞培養物の製造過程における異常の検出、および/または、シート状細胞培養物の制御製造のためのキットに関する。
【0096】
本発明のキットの構成要素(1)〜(3)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。また、本発明のキットは、上記の1または2以上の用途に適した任意の構成、例えば、各容器に添加する媒体、発色試薬、遮光カバー、各用途に関する使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどをさらに含んでもよい。
【0097】
本発明の別の側面は、
(1)細胞間接着により細胞間の通過が阻害される標識、
(2)前記標識は通過するが、細胞は通過しない半透過性部分を有する第1の容器、
(3)前記半透過性部分を収容可能な液体不透過性の第2の容器、および
(4)標識を検出する検出器
を備えた、単離シート状細胞培養物の品質評価、積層シート状細胞培養物の品質評価、シート状細胞培養物の細胞純度もしくは細胞構成比の評価、シート状細胞培養物の製造過程における異常の検出、および/または、シート状細胞培養物の制御製造のためのシステムに関する。
【0098】
本発明のシステムの構成要素(1)〜(3)は、本発明の品質評価方法について上記したとおりである。また、構成要素(4)の検出器は、本発明の標識を検出することができれば特に限定されず、例えば、分光光度計などの光度計、吸光度計、濁度計、色度計、シンチレーションカウンターなどの放射線検出器などを含む。当業者であれば、使用する標識に適した検出器を選択することができる。本発明のシステムは、検出器を1種のみ備えていても、複数種備えていてもよい。本発明のシステムは、上記の1または2以上の用途に適した任意の構成、例えば、検出器からの信号の処理や、アクチュエータの制御などを行うプロセッサ、表示装置や入力装置などのインターフェース、標識を容器に添加するためのインジェクタ、各容器を移動させるマニピュレータ、細胞培養用インキュベータ、撹拌器などをさらに備えていてもよい。シート状細胞培養物の制御製造のためのシステムにおいて、上記プロセッサには、本発明の制御製造方法に係る上記または他のアルゴリズムが実施されていてもよい。
【実施例】
【0099】
以下に、本発明を実施例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0100】
実施例1 半透過性部分の細孔密度の検討
第1の容器として孔径3μm、細孔密度8.0±2×10
5個/cm
2(低密度)または2.0±0.2×10
5個/cm
2(高密度)の半透明のPET製6ウェルカルチャーインサート(BD)を、第2の容器として無色透明のポリスチレン製6ウェルプレート(BD)を用いた。カルチャーインサートを20%ヒト血清を含むDMEM−F12培地(Life Technologies)が2.7ml入ったプレートウェルに挿入し、ヒト筋組織から定法により調製した骨格筋芽細胞を4.4×10
6個/カルチャーインサートの密度でプレートウェル内と同様の培地1.5mlに懸濁して播種した。37℃、5%CO
2にて約17時間シート化培養を行った。シート化培養後、インサート内の培地を、50μg/mlのFITC標識デキストラン(SIGMA、平均分子量3000〜5000)を含むHBSS(+)溶液に、プレートウェル内の培地を、50μg/mlの非標識デキストラン(SIGMA、分子量〜6000)を含むHBSS(+)溶液にそれぞれ置換することにより標識を添加し、25℃で1時間インキュベートした。次いで、インサートを取り出し、プレート側のウェルに含まれるFITCの吸光度をプレートリーダーで読み取った(485nm/538nm)。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
上記のとおり、シート状細胞培養物の存在により、プレート側に移行するFITC標識デキストランの量が顕著に減少することが分かる。また、インサートの細孔密度の違いによる差はほとんど見られなかったが、密度が高い方が良好な感度が得られる傾向が見られた。
【0102】
実施例2 標識の拡散時間の検討
第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の6ウェルカルチャーインサート(BD)を用い、標識添加後のインキュベーション時間を20分、6時間または23時間とした以外は、実施例1と同様の実験を行った。結果を表2に示す。
【表2】
【0103】
実施例1と同様、シート状細胞培養物の存在により、プレート側に移行するFITC標識デキストランの量が顕著に減少することが確認された。このことから、プレート側に移行するFITC標識デキストランの量を測定することにより、シート状細胞培養物がどの程度FITC標識デキストランを透過させるか、すなわち、シート状細胞培養物内にどの程度の細胞間隙が存在するかを評価することができる。また、標識が添加後23時間にわたってプレート側に移行し続けることから、当該方法により透過性の変化を比較的長時間モニターできることが分かる。
【0104】
実施例3 細胞密度による影響の検討
第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の6ウェルカルチャーインサート(BD)を用い、播種する細胞密度を4.4×10
6個/ウェル(Normal)、2.2×10
6個/ウェル(1/2 density)、8.8×10
5個/ウェル(1/5 density)または4.4×10
5個/ウェル(1/10 density)とし、標識添加後のインキュベーション時間を3時間とした以外は、実施例1と同様の実験を行った。インサートのみでの測定をControlとした。結果は、Controlを100とした相対蛍光単位(RFU)で示した。
図1に示す結果から、FITC標識デキストランの移行量が、細胞密度が低くなるほど多くなることが分かる。したがって、本方法により、シート状細胞培養物の細胞密度をも評価することができる。
【0105】
実施例4 細胞のバイアビリティによる影響の検討
第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の6ウェルカルチャーインサート(BD)を用い、播種密度を2.2×10
6個/ウェルとした以外は、実施例1と同様に骨格筋芽細胞を播種し、シート化培養を行い、シート状細胞培養物を形成させた後、細胞のバイアビリティが低下する条件(室温保存:HBSS(+)、27℃にて24時間保管)または低下しない条件(冷蔵保存:HBSS(+)、約4℃(2〜8℃)にて24時間保管)に供した。次いで、実施例1と同様にFITC標識デキストランを添加し、2時間インキュベートした後、プレート側への移行量を測定した。インサートのみでの測定をControlとした。結果は、Controlを100とした相対蛍光単位(RFU)で示した。
図2に示す結果から、FITC標識デキストランのプレート側への移行量が、細胞のバイアビリティが低くなるほど多くなることが分かる。したがって、本方法により、シート状細胞培養物を構成する細胞のバイアビリティをも評価することができる。
【0106】
別な実験で、室温保存または冷蔵保存で細胞のバイアビリティがどのように変化するのかを確認した。実施例1と同様の細胞密度と培地の組み合わせで骨格筋芽細胞を3.5cm温度応答性培養皿(UpCell
(R)、3.5cmディッシュ、CellSeed)に播種し、シート化培養を行い、シート状細胞培養物を形成させた後、培地をHBSS(+)に置換し、27℃または2℃にて24時間または48時間保管した。保管期間終了後、細胞を酵素的に乖離させ、トリパンブルー染色後にセルカウントでバイアビリティを測定した。コントロールとして、保管を行わないシート状細胞培養物(未保管群)のバイアビリティも測定した。実験は、異なる4つのロットの細胞について行った。結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
各数値は、未保管群のバイアビリティ(%)に対する変化量±標準誤差(%ポイント)を表している。保管温度によるバイアビリティの差は時間の経過とともに拡大するが、保管後24時間の時点では比較的小さい。にもかかわらず、本発明の品質評価方法では、保管後24時間の時点で、室温保存と冷蔵保存との間で移行量に大きな差が生じていることから、本発明の方法により、バイアビリティの違いをより高感度に評価できることが分かる。
【0108】
実施例5 シート化完了の判定
標識の第2の容器への移行量が、シート化の進行に伴いどのように変化するのかを検証するために以下の実験を行った。第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の6ウェルカルチャーインサート(BD)を用い、実施例1と同様に骨格筋芽細胞を4.4×10
6個/ウェルの密度で播種した。4個のウェルに同時に細胞を播種してシート化培養を行い、播種の3時間後、6時間後、21時間後および28時間後に、それぞれ異なるウェルに、実施例1と同様に標識を添加し、25℃で2時間インキュベートした後、プレート側のウェルに含まれるFITCの吸光度をプレートリーダーで読み取った(485nm/538nm)。結果は、インサートのみの測定を100とした相対蛍光単位(RFU)で示した。
図3に示す結果から、RFU(すなわち、FITC標識デキストランのプレート側への移行量)が、シート化培養の時間経過とともに急速に低下し、その後一定のレベルで維持されることが分かる。したがって、RFUの急速な低下が止まり、ほぼ一定のレベルで維持されるようになったときに、シート化が完了したと判定することができる。したがって、本発明の方法により、従来は判定が困難であった、シート状細胞培養物のシート化の完了を判定することが可能となる。
【0109】
実施例6 シート形成の異常の検出
本発明の方法によりシート形成の異常が検出できるかを検討するために、以下の実験を行った。第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の6ウェルカルチャーインサート(BD)を用い、シート化培養時間を21〜27時間とし、標識添加後のインキュベーション時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にして、第2の容器への標識の移行量を測定した。また、標識移行実験と同時に、同じロットの細胞を、同じ密度で温度応答性培養容器(UpCell
(R)、3.5cmディッシュ、CellSeed)に播種し、シート化培養を行い、その過程でシートの剥離が生じるかを観察した。細胞は、異なる5つのロットについて行った。
図4に示す結果から、温度応答性培養容器でのシート化培養の過程で剥離が生じたロットと同ロットの細胞でカルチャーインサート上に作製したシート状細胞培養物における標識の移行量(Detached)が、剥離が生じなかったロットのもの(Normal)より顕著に多いことが分かる。シート化培養におけるシートの剥離は、シートを構成する細胞の活力や、シート形成能が不十分であることによるものと考えられることから、本発明の方法により、細胞のシート形成能を評価し、シート状細胞培養物製造への使用に適しているか否かを、実際にシート状細胞培養物を製造する前に判断することが可能となる。
【0110】
実施例7 積層シート状細胞培養物の積層枚数の検出
本発明の方法により積層シート状細胞培養物の積層枚数が検出できるかを検討するために、以下の実験を行った。
第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の半透明のPET製24ウェルカルチャーインサート(BD)を、第2の容器として無色透明のポリスチレン製24ウェルプレート(BD)を用いた。
温度応答性培養容器(UpCell
(R)、48穴マルチウェル、CellSeed)に、ヒト筋組織から定法により調製した骨格筋芽細胞を1.3×10
6個/ウェルの密度で播種し、20%ヒト血清を含むDMEM−F12培地(Life Technologies)中、37℃、5%CO
2にてシート化培養を行った。形成されたシート状細胞培養物を、室温への温度処理で剥離し、HBSS+で洗浄後、第1の容器に移した。上記と同じ培地中、37℃、5%CO
2で1時間培養して、シート状細胞培養物を容器に接着させ、さらに一晩培養した。積層シート状細胞培養物は、容器に接着させたシート状細胞培養物上に、形成されたシート状細胞培養物を載せ、一晩培養して作製した。培養後、インサート内の培地を、100μg/mlのFITC標識デキストラン(SIGMA、平均分子量3000〜5000)を含むHBSS(+)溶液に、プレートウェル内の培地を、100μg/mlの非標識デキストラン(SIGMA、分子量〜6000)を含むHBSS(+)溶液にそれぞれ置換することにより標識を添加し、室温で2時間インキュベートした。次いで、インサートを取り出し、プレート側のウェルに含まれるFITCの吸光度をプレートリーダーで読み取った(485nm/538nm)。結果を表4に示す。
【0111】
【表4】
表中、RFUは、シート状細胞培養物を含まないインサートを用いたコントロール実験における測定値を100とした相対蛍光単位を表す。上記結果から、既に形成されたシート状細胞培養物についても、本発明の方法で品質評価が可能であることが分かる。また、シート状細胞培養物を2枚重ねた積層シート状細胞培養物の方が、シート状細胞培養物1枚のみの場合よりRFUが小さいことから、RFUがシート状細胞培養物の積層枚数に依存して小さくなること、そして、本発明の方法により積層シート状細胞培養物の積層枚数を判定できることが分かる。
【0112】
実施例8 細胞純度の検出
本発明の方法により、シート状細胞培養物を構成する細胞の純度が検出できるかを検討するために、以下の実験を行った。
第1の容器として孔径3μm、細孔密度2.0±0.2×10
5個/cm
2の半透明のPET製24ウェルカルチャーインサート(BD)を、第2の容器として無色透明のポリスチレン製24ウェルプレート(BD)を用いた。
ヒト筋組織から定法により調製した骨格筋芽細胞と、線維芽細胞(TIG-2M-30、ヒューマンサイエンス振興財団)とを混合し、骨格筋芽細胞のマーカーであるCD56陽性の細胞の比率が69%、32%または0%の検体を調製した。なお、CD56陽性細胞の比率は、PE標識抗CD56抗体(BD、555516)を用いたフローサイトメトリー法で測定した(BD、FACS Calibur)。それぞれの検体を7.93×10
4個/ウェルの密度で第1の容器に播種し、20%ヒト血清を含むDMEM−F12培地(Life Technologies)中、37℃、5%CO
2にて6時間シート化培養を行った。培養後、実施例7と同様にしてプレート側のウェルに含まれるFITCの吸光度を測定した。結果を
図9に示す。なお、図中のRFUは、シート状細胞培養物を含まないインサートを用いたコントロール実験における測定値を100とした相対蛍光単位を表す。前記結果から、骨格筋芽細胞の比率が高くなるにつれて、RFUが大きくなること、すなわち、骨格筋芽細胞の比率が高くなるほど、標識の移行量が増大し、線維芽細胞の比率が高くなるほど標識の移行量が減少すること、そして、シート状細胞培養物の標識透過性は、構成細胞の種類や構成比によって変化することが分かる。
【0113】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。