(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記形鋼が一対のフランジの間をウェブで連結した断面H形を呈していて、前記形鋼のウェブが切梁材のウェブと平行な関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の切梁材の切替金物。
前記形鋼が一対のフランジの間をウェブで連結した断面H形を呈していて、前記形鋼のウェブが切梁材のウェブと直交する関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の切梁材の切替金物。
前記形鋼のウェブの両側であって、前記大形端板と小形端板との間に複数のスチフナーが取り付けられていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の切梁材の切替金物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
<1>切梁式支保工
図1に山留壁10を支保する切梁式支保工の一例を示す。
山留壁10は図示した鋼矢板や地中壁等の公知の土留構造体である。
図示した切梁式支保工では、腹起材20の直交方向に切梁材30が水平に配設され、腹起材20と切梁材30の間には斜めに火打材40が配設され、切梁材30の端部と腹起材20の間には切替金物50とジャッキ60が介装されている。
【0013】
<2>切梁材
図2,3を参照して説明すると、切梁材30は長手方向に沿って連続した方形の閉鎖空間S1を画成できるように断面H形を呈する一対の形鋼30A,30Bを横方向に並設して固定した切梁本体35と、切梁本体35の端部に固着した端板38とにより構成されている。
切梁材30は、H形鋼単独、又は角形鋼管単独と比べて断面性能が大きくなるので、従来と比べて切梁材30の配置間隔を大幅に拡張できる。
【0014】
<2.1>切梁本体
切梁本体35は一対の形鋼30A,30Bを接合して形成されている。
各形鋼30A,30Bは一対の第1、第2フランジ31,32と、両フランジ31,32の間を接続するウェブ33とを具備した同一形状、同一寸法を呈する鋼材であって、市販のH形鋼が使用可能である。
一対の形鋼30A,30Bは第1フランジ31,31と第2フランジ32,32がそれぞれ同一平面上に位置し、かつ一対のウェブ33,33が相対向するように隣接して位置する。
一対の形鋼30A,30Bの第1、第2フランジ31,32の外側の部位には長手方向に沿って複数のボルト孔37が穿設されている。第1、第2フランジ31,32の内側の部位にはボルト孔が穿設されていない。
切梁本体35は従来のH形鋼単独、又は角形鋼管単独と比べて大きい断面性能(曲げや座屈に強い)を有し、強度面で優れる。
【0015】
<2.1.1>閉鎖空間と開放空間
切梁本体35はその中心部には断面形状が方形を呈する連続した閉鎖空間S
1が形成され、その両側部に連続した溝状(断面コ字形)の開放空間S
2,S
2が形成されている。
閉鎖空間S
1は、相対向する上下一対の第1、第2フランジ31,32の内側の部位と、相対向する左右一対のウェブ33,33とにより画成される。
開放空間S
2,S
2は、上下一対の第1、第2フランジ31,32の外側の部位と、左右の各ウェブ33,33との間に画成される。
切梁本体35の中心部を一対の形鋼30A,30Bを構成する第1、第2フランジ31,32と、ウェブ33,33で囲って角形鋼管状に形成したのは、切梁材30の断面性能を高めるためである。
切梁本体35の両側部に一対の形鋼30A,30Bを構成する第1、第2フランジ31,32を水平に張り出させたのは、閉鎖空間S
1に影響を与えずに水平に張り出させた第1、第2フランジ31,32の外側の部位にボルト孔37を穿設するためである。
【0016】
<2.1.2>形鋼の固定手段
隣接させた形鋼30A,30Bの間を固定する手段としては、両形鋼30A,30Bの第1フランジ31,31間と第2フランジ32,32間に跨って被覆可能な添え板を使用してボルト接合することも考えられるが、添え板と多数のボルト類を使用すると鋼材使用量が増えて重量増加とコスト高の問題が生じる。
【0017】
そこで本例では、隣接させた両形鋼30A,30Bの第1フランジ31,31の当接部間と第2フランジ32,32の当接部間を部分溶接36により固定するようにした。
各形鋼30A,30Bの第1フランジ31と第2フランジ32に所定の間隔(例えば0.5m間隔)で開先加工を施して部分溶け込み溶接を行うことで部分溶接36を形成できる。
添え板と多数のボルト類を使用せずに両形鋼30A,30Bを接合できるので、重量増加とコスト高の問題が生じない。
【0018】
<2.1.3>部分溶接を採用した理由
本例では両形鋼30A,30Bの連結手段として連続溶接ではなく、部分溶接36を採用した。
部分溶接36を採用したのは、両形鋼30A,30Bの溶接時間を短くするためと、ガス切断等により形鋼30A,30B間の切離しを簡単に行えるようにするためである。
部分溶接36により形鋼30A,30Bを切り離し可能に構成したのは、切梁本体35の内部のメンテナンスをし易くするためと、損傷した形鋼30A,30Bの交換作業を容易にするためである。
【0019】
<2.1.4>ボルト孔
閉鎖空間S
1に面しない形鋼30A,30Bの第1フランジ31の外側の部位と、第2フランジ32の外側の部位には、その長手方向に沿って複数のボルト孔37が形成されている。
換言すれば閉鎖空間S
1に面した第1、第2フランジ31,32の内側の部位にボルト孔37は形成せずに、開放空間S
2に面した第1、第2フランジ31,32の外側の部位にボルト孔37を形成する。
【0020】
<2.2>端板
端板38は切梁本体35の全断面を封鎖可能な寸法を有する矩形の板体であり、切梁本体35の端部に溶接により付設されている。
本例では端板38の縦横寸法が、切梁本体35の断面寸法と等しい形態について説明するが、端板38の縦横寸法は切梁本体35の断面寸法より大きい寸法関係であってもよい。
【0021】
<2.2.1>端板の機能
隣接した形鋼30A,30Bの端部に跨って固着した端板38は、切梁本体35の閉鎖空間S
1を完全密封構造にするだけでなく、端板38を通じて一対の形鋼30A,30Bに対して均等に軸力を伝達できる。
さらに端板38は、切梁材30の閉鎖空間S
1を完全密封化して、切梁材30の内部の腐食防止にも役立つ。
【0022】
<2.2.2>ボルト孔
開放空間S
2に面した端板38には複数のボルト孔39が形成され、閉鎖空間S
1に面した端板38にはボルト孔39が形成されていない。
【0023】
<3>火打材
図1を参照して説明すると、火打材40は公知のH形鋼製の火打本体41と、火打本体41の端部にボルトで接合する公知の火打受金具42とを具備する。
火打本体41と火打受金具42は複数のボルト孔が形成されている。ボルト、ナットを介して連結可能である。
【0024】
腹起材20と切梁材30の側面との間に公知の火打材40を配設し、火打受金具43を介して切梁材30の側面にボルトで連結できる。
本例の切梁式支保工では、従来の火打ブロックを使用せずに、公知の火打材40を使用して切梁材30を補強することができる。
【0025】
図3を参照して火打材40と切梁材30との連結構造について詳しく説明すると、切梁本体35の側方の開放空間S
2内に断面コ字形の火打受金具42を収容し、切梁本体35の外側の第1及び第2フランジ31,32のボルト孔37と火打受金具42のボルト孔43との間を従来と同様にボルト44とナット45で連結できる。
【0026】
<4>切替金物
図2,4を参照して説明すると、切替金物50は切梁材30の断面を小さく切り替えるための金物であり、断面H形を呈する形鋼51と、形鋼51の一端に固着した矩形を呈する大形端板55と、形鋼51の他端に固着した矩形を呈する小形端板56とを組み合せて構成されている。
形鋼51のH形を呈する側端面が各端板55,56の側面と溶接等により一体に固着されている。
【0027】
<4.1>形鋼
形鋼51は大形端板55と小形端板56との間で軸力を伝達し合うための鋼材であり、矩形を呈する一対のフランジ52,53の中央をウェブ54で接合した鋼材である。形鋼51に市販のH形鋼を使用すれば、切替金物50を低コストに製作できる。
各フランジ52,53にはその長手方向に沿って複数のボルト孔52a,53aが形成されている。
【0028】
<4.2>大形端板
大形端板55は切替金物50と切梁材30との間で軸力を伝達し合うための板材であり、切梁本体35の一端に溶接して一体に固着されている。
形鋼51の左右両側からはみ出た大形端板55の左右両側部には複数のボルト孔55aが形成されている。
【0029】
<4.3>小形端板
小形端板56は切替金物50と付帯資材であるジャッキ60との間で軸力を伝達し合うための板材であり、切梁本体35の他端に溶接して一体に固着されている。
小形端板56の左右両側部には複数のボルト孔56aが形成されている。
小形端板56はその縦横方向の各寸法(高さと横幅)は、形鋼51と同一である。
【0030】
<4.4>形鋼の向き
応力伝達部材である形鋼51の断面性能を最大限に発揮させるため、形鋼51の一対のフランジ52,53とウェブ54の端面を各端板56に当接させて使用する。
すなわち、本例では形鋼51のウェブ54が切梁材30のウェブ33と平行な関係にある。
【0031】
<4.5>切梁材と切替金物の寸法関係
切梁材30と切替金物50の高さは同一である。
すなわち、切梁材30の端板38の高さと、切替金物50を構成する形鋼51、大形端板55、および小形端板56の高さはそれぞれ等しい。
【0032】
切替金物50の大形端板55の横幅は切梁材30の端板38の横幅と同一である。
切替金物50の形鋼51と小形端板56の横幅は共に等しい。
形鋼51と小形端板56の横幅は共に大形端板55の横幅より小さい寸法関係にある。
要は、切替金物50を構成する大形端板55の受圧面積が切梁材30の端面の受圧面積と等しく、小形端板56の受圧面積が大形端板55の受圧面積より小さい関係にあればよい。
【0033】
<4.6>切替金物の補強構造
切替金物50には大きな軸力が作用するため、切替金物50を補強しておくこととよい。
図5を参照して切替金物50の補強構造について説明すると、同図の(A)はウェブ54の両側にフランジ52,53と平行に補強用のスチフナー57を一体に付設して形鋼51を補強した構造を示し、同図の(B),(C)は大形端板55と各フランジ52,53の接合部間を補強した構造を示している。
同図の(A)のスチフナー57両端は大形端板55と小形端板56の対向面にも接合している。
同図の(B)は大形端板55と各フランジ52,53の一部の間に略三角形状の補強板58を取り付けて補強した構造を示し、同図の(C)は各フランジ52,53の全長に亘って細長三角形状の補強板59を取り付けて補強した構造を示している。
これらの補強構造は必須ではなく省略してもよいし、複数の補強構造を組み合せてもよい。
【0034】
<5>ジャッキ
本例では付帯資材がジャッキ60である場合について説明する。
ジャッキ60は圧式又はネジ式のジャッキであり、例えば腹起材20と切替金物50との間に介装される。
【0035】
<6>切梁式支保工の配設例
切梁材30と切替金物50を併用した切梁式支保工の一例について説明する。
【0036】
<6.1>切替金物の設置
図5を参照して説明すると、断面横長の切梁材30の一端に切替金物50を取り付けるには、切梁材30の端板38に切替金物50の大形端板55側を接面させて両板38,55の間を複数のボルトで連結する。
切梁材30の一端に切替金物50を連結することで、切梁材30の中心線上に切替金物50が位置する。
【0037】
<6.2>ジャッキの設置
図6を参照して説明すると、腹起材20と切替金物50の小形端板56との間に公知のジャッキ60を介装する。
切梁材30の端面に切替金物50を取り付けて切梁材30の断面積を小さく切り替えられるから、切替金物50の中心に1台の公知のジャッキ60を配設することで大断面の切梁材30にプレロードを導入できる。換言すれば、各形鋼30A,30Bに対応して合計2台のジャッキを介装する必要がなくなり、1台のジャッキ60で以て切梁材30に圧縮力を付与できる。
【0038】
切替金物50による軸力(圧縮力)の伝達効率について検討すると、切梁材30の軸方向に対して切替金物50を構成する形鋼51を同一方向に向けて配設されている。
切替金物50が抵抗する断面は、形鋼51の全断面(フランジ52,53と、ウェブ54)となるため、形鋼51全体で効率よく軸力を伝達できるだけでなく、切替金物50の圧縮耐力が格段に高くなる。
殊に、切替金物50が
図5に示したスチフナー57や補強板58,59を有している場合は切替金物50による軸力の伝達効率がさらに向上する。
【0039】
<6.3>火打材の設置
腹起材20と切梁材30の側面との間に公知の火打材40を配設し、火打受金具42を介して切梁材30の側面にボルトで連結できる。
図3を参照して詳しく説明すると、切梁本体35の側方の開放空間S
2内に断面コ字形の火打受金具42を収容し、切梁本体35の外側の第1及び第2フランジ31,32に開設したボルト孔37と、火打受金具42に形成したボルト孔43の位置合わせを行って、切梁本体35と火打受金具42の間をボルト止めにより連結できる。
本例の切梁式支保工では、従来の火打ブロックを使用することなく、公知の火打材40を使用して切梁材30を補強することができる。
【0040】
<7>その他の付帯資材との組み合せ
以上は切替金物50を介して切梁材30にジャッキ60を配設した形態について説明したが、付帯資材はジャッキ60に限定されるものではない。
図7,8に他の付帯資材を例示する。
図7は腹起材20と切梁材30が非直角の関係にある場合を示していて、このような場合には腹起材20と切替金物50との間に公知の延長鋼材61と公知の自在火打受ピース62を介装している。切梁材30と自在火打受ピース62の間に大きな寸法差が生じていても、切替金物50を介装することでこの寸法差を解消できて、公知の自在火打受ピース62を使用することができる。
図8は大断面の切梁材30の延長線上に従来の小断面の切梁材63を配設した場合を示していて、従来の切梁材63は一般的に使用されているH形鋼製または角形鋼管製の切梁材である。
両切梁材30,63の断面に差が生じていても、その間の断面差を解消するために切替金物50を介装することで、断面寸法の異なる切梁材30と公知の切梁材63とを併用することができる。
なお、切断面寸法の異なる梁材30,63を併用する場合、断面性能の大きな切梁材30は座屈長が長い支間で使用し、従来の切梁材63は対応可能な座屈長の区間で使用する。
【0041】
<8>他の切替金物
切替金物50は形鋼51の軸心を中心に90°回転させて構成することも可能である。
図9を参照して説明すると、本例の切替金物50は、大きさの異なる一対の端板55,56の間に、断面H形の形鋼51を寝かせて配置して構成されている。
すなわち、本例では形鋼51のウェブ54が切梁材30のウェブ33と直交する関係にある。
本例の切替金物50にあっても、一対のフランジ52,53とウェブ54が一体で軸力の伝達部材として機能する。
本例では付帯資材として従来の切梁材63を適用した形態を示すが、既述した各種の付帯資材を適用することが可能である。