(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6599413
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】薄ガラス長尺体
(51)【国際特許分類】
C03C 17/32 20060101AFI20191021BHJP
C03C 17/06 20060101ALI20191021BHJP
B32B 3/04 20060101ALI20191021BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20191021BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20191021BHJP
B65H 19/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
C03C17/32 C
C03C17/06 Z
B32B3/04
B32B15/04 B
B32B17/06
B65H19/00
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-180166(P2017-180166)
(22)【出願日】2017年9月20日
(62)【分割の表示】特願2013-217713(P2013-217713)の分割
【原出願日】2013年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-27892(P2018-27892A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2017年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-231998(P2012-231998)
(32)【優先日】2012年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】村重 毅
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 淳一
(72)【発明者】
【氏名】柳 成鎮
(72)【発明者】
【氏名】武本 博之
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/038761(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/008529(WO,A1)
【文献】
特開2012−051186(JP,A)
【文献】
特開2009−282509(JP,A)
【文献】
特開2008−100361(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/174006(WO,A1)
【文献】
特開2014−097923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/06 − 23/00
B65H 18/00
B65H 19/00
B65H 39/00
B32B 3/04
B32B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の薄ガラスから構成される本体部と、
該本体部の長さ方向両端に連結された靱性フィルムから構成されるハンドリング部とを備え、
該薄ガラスの幅と、該靱性フィルムの幅との差の絶対値が、20mm以下であり、
該靭性フィルムが、樹脂から構成され、
該靭性フィルムの幅方向の線膨張係数が、50ppm以下であり、
該靭性フィルムの長さ方向の線膨張係数が、50ppm以下であり、
該靭性フィルムにおける150℃で30分間加熱した際の幅方向の熱収縮率が、10%以下であり、
該靭性フィルムにおける150℃で30分間加熱した際の長さ方向の熱収縮率が、10%以下であり、
該靱性フィルムにおけるヤング率と厚みとの積(GPa・μm)が、該薄ガラスにおけるヤング率と厚みとの積(GPa・μm)に対して、90%以下であり、
該靭性フィルムが、延伸されたフィルムである、
薄ガラス長尺体。
【請求項2】
複数の前記本体部と、複数の前記ハンドリング部とを備え、
該本体部と該ハンドリング部とが、長さ方向で交互に配置されている、
請求項1に記載の薄ガラス長尺体。
【請求項3】
前記本体部の間隔が、50cm以上である、請求項2に記載の薄ガラス長尺体。
【請求項4】
前記薄ガラスの厚みが、10μm〜150μmである、請求項1から3のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項5】
前記薄ガラスの幅が、300mm以上である、請求項1から4のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項6】
前記薄ガラスと前記靭性フィルムとの連結部において、該薄ガラスと該靭性フィルムとが重ね合わされ、該重なり合う部分の長さxと該薄ガラスの幅yとの関係が、0.01y≦x≦yである、請求項1から5のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項7】
前記靭性フィルムの破壊靭性値が、2MPa・m1/2〜20MPa・m1/2である、請求項1から6のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項8】
前記靱性フィルムの幅方向の線膨張係数が、前記薄ガラスの線膨張係数に対して、1倍〜10倍である、請求項1から7のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項9】
ロール状とされている、請求項1から8のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項10】
前記薄ガラスの厚みが、10μm〜150μmであり、
前記靭性フィルムの厚みが、5μm〜500μmであり、
前記靭性フィルムを構成する材料が、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびシクロオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、
請求項1から9のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【請求項11】
前記靱性フィルムの長さ方向の線膨張係数が、50ppm以下であり、
該靱性フィルムの150℃で30分間加熱した際の幅方向の熱収縮率が、10%以下である、
請求項1から10のいずれかに記載の薄ガラス長尺体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄ガラス長尺体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、搬送性、収納性およびデザイン性等の観点から、表示装置、照明装置および太陽電池の軽量、薄型化が進んでいる。また、これらの装置に用いられるフィルム状の部材を、ロール・ツー・ロールプロセスにより、連続生産することも行われている。例えば、ロール・ツー・ロールプロセスにより加工または処理することが可能な可撓性材料として、薄ガラスの使用が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
薄ガラスは非常に脆く、ハンドリング性に劣る。上記装置に用いられる部材としては、例えば、薄ガラス表面に樹脂フィルムを貼り付けて補強し、ハンドリング性を向上させた可撓性基板が提案されている(例えば、特許文献3)。しかし、このような部材を製造するまでの工程において、材料としての薄ガラスを単体で破損させずに取り扱うことは非常に困難である。具体的には、薄ガラス単体をロール・ツー・ロールプロセスにより加工または処理する場合において、開始段階で装置にセッティングする際に薄ガラスが破損しやすくハンドリング性が悪い、終了段階で薄ガラスが破損しやすい、巻き取り部で切断して分割する際に薄ガラスが破損しやすい等の問題がある。また、薄ガラスの脆弱性に起因して、該薄ガラスを長尺化および/または広幅化して加工等することが難しく、生産性の向上が図れないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平1−500990号公報
【特許文献2】特開平8−283041号公報
【特許文献3】特開2007−010834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ロール・ツー・ロールプロセスによる加工または処理の際に、薄ガラスの破損を防止し得る薄ガラス長尺体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の薄ガラス長尺体は、長尺状の薄ガラスから構成される本体部と、該本体部の長さ方向両端に連結された靱性フィルムから構成されるハンドリング部とを備える。
好ましい実施形態においては、本発明の薄ガラス長尺体は、複数の上記本体部と、複数の上記ハンドリング部とを備え、該本体部と該ハンドリング部とが、長さ方向で交互に配置されている。
好ましい実施形態においては、上記本体部の間隔が、50cm以上である。
好ましい実施形態においては、上記薄ガラスの厚みが、10μm〜150μmである。
好ましい実施形態においては、上記薄ガラスの幅が、300mm以上である。
好ましい実施形態においては、上記薄ガラスと上記靭性フィルムとの連結部において、該薄ガラスと該靭性フィルムとが重ね合わされ、該重なり合う部分の長さxと該薄ガラスの幅yとの関係が、0.01y≦x≦yである。
好ましい実施形態においては、上記靱性フィルムにおけるヤング率と厚みとの積が、上記薄ガラスにおけるヤング率と厚みとの積よりも小さい。
好ましい実施形態においては、上記靭性フィルムを構成する材料が、金属または樹脂である。
好ましい実施形態においては、上記靭性フィルムの破壊靭性値が、2MPa・m
1/2〜20MPa・m
1/2である。
好ましい実施形態においては、上記靱性フィルムの幅方向の線膨張係数が、上記薄ガラスの線膨張係数に対して、1倍〜10倍である。
好ましい実施形態においては、本発明の薄ガラス長尺体は、ロール状とされている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長尺状の薄ガラスの長さ方向両端に靱性フィルムを備えることにより、連続的に加工または処理する際に薄ガラスが破損しがたい薄ガラス長尺体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の好ましい実施形態による薄ガラス長尺体の概略平面図である。
【
図2】本発明の薄ガラス長尺体の使用形態の一例を説明する図である。
【
図3】本発明の別の好ましい実施形態による薄ガラス長尺体の概略平面図である。
【
図4】本発明の薄ガラス長尺体の使用形態の一例を説明する図である。
【
図5】本発明の薄ガラス長尺体において、薄ガラスと靱性フィルムとを重ねて連結する場合の該連結部の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の好ましい実施形態による薄ガラス長尺体の概略平面図である。この薄ガラス長尺体100は、長尺状の薄ガラス10から構成される本体部と、該薄ガラスの長さ方向両端に連結された靱性フィルム20、20’から構成されるハンドリング部とを備える。
【0010】
実用的には、薄ガラス長尺体はロール状に巻き取られた状態で提供され得る。ロール状の薄ガラス長尺体は、ロール・ツー・ロールプロセスによる加工または処理に供される。なお、本明細書において、巻回された薄ガラス長尺体を、加工・処理装置に備えられる加工ロール(例えば、搬送ロール、加熱ロール)と区別して、単にロールと称する。
【0011】
図2は、本発明の薄ガラス長尺体の使用形態の一例を説明する図であり、薄ガラス長尺体の薄ガラスをロール・ツー・ロールプロセスの処理装置に供する工程を示す。
図2(a)は、薄ガラス10の処理(例えば、塗工、スパッタリング、熱処理)が定常状態になる前の段階(開始段階)を示す。開始段階においては、繰り出し側1のロールから薄ガラス長尺体100を繰り出す作業、繰り出した該長尺体を処理装置に通紙する作業、巻き取り側2で該長尺体を巻き付ける作業等の作業を経て、薄ガラス長尺体100が処理装置にセッティングされる。本発明の薄ガラス長尺体100を用いれば、処理の開始段階において、作業者が薄ガラス10ではなくハンドリング部(靱性フィルム20)を持って作業し得るため、薄ガラス10の破損を防止することができる。また、靱性フィルム20によりアライメントを調整し得るので、該調整による薄ガラス10の破損を防止することもできる。さらに、加工・処理が定常状態に移る際に加工条件(例えば、加工速度)が変化する場合においては、薄ガラス10に変化による負荷がかかることを防止することができる。
【0012】
その後、薄ガラス10の処理を行う(
図2(b))。薄ガラス10の処理が終了した後、巻き取り側2で長尺体を切断してロールを取り外す(
図2(c))。本発明の薄ガラス長尺体を用いれば、この際、薄ガラス10ではなく靱性フィルム20’を切断することができるので、切断による薄ガラスの破損を防止することができる。切断後、装置上に残った靱性フィルム20’の終端は次に処理するロールの始端に連結してもよい。このようにすれば、通紙の作業性がよい。また、靭性フィルム20’を切断せずに、薄ガラス長尺体100のすべてを処理装置に通過させてもよい(
図2(c)’、(d))。本発明の薄ガラス長尺体は、最後方にも靱性フィルムを備えるため、該長尺体のすべてを処理装置に通過させることができ、作業性に優れ、かつ、製造ロスが低減される。
【0013】
本発明の薄ガラス長尺体は、長さ方向の両端に靱性フィルムから構成されるハンドリング部を備えるため、上記のとおり、加工または処理の開始段階および終了段階の両方において、薄ガラスの破損が防止され得る。さらに、本発明の薄ガラス長尺体は、長さ方向の両端に靱性フィルムを備えるため、1つの工程が終了した後、該工程終了後のロールをそのまま次工程に供することができ、作業性に優れる。次工程においても、加工または処理の開始段階および終了段階の両方において、薄ガラスの破損が防止され得る。
【0014】
図3は、本発明の別の好ましい実施形態による薄ガラス長尺体の概略平面図である。 本発明の薄ガラス長尺体100’は、長さ方向両端に上記薄ガラス10が連結された靭性フィルム20’’を備えていてもよい。すなわち、1つの実施形態においては、本発明の薄ガラス長尺体は、複数の本体部(薄ガラス10)を有し、複数ある本体部(薄ガラス10)のすべてにおいて、本体部(薄ガラス10)の長さ方向両端にハンドリング部(靭性フィルム)が連結して、一体化されている。より具体的には、この実施形態における薄ガラス長尺体は、ハンドリング部(靭性フィルム)/本体部(薄ガラス)/ハンドリング部(靭性フィルム)/本体部(薄ガラス)/ハンドリング部(靭性フィルム)というように、ハンドリング部(靭性フィルム)と本体部(薄ガラス)とが長さ方向で交互に配置され、ハンドリング部(靭性フィルム)と本体部(薄ガラス)とが長さ方向に連続する部分、すなわち、ハンドリング部(靭性フィルム)/本体部(薄ガラス)を繰り返し単位とした連続部分を含む。このように連続部分を含む場合も、薄ガラス長尺体の長さ方向両端部は、ハンドリング部(靭性フィルム)から構成される。上記のように連続部分を含んでいれば、複数あるハンドリング部(靭性フィルム)を切断して、薄ガラス長尺体を分割することができる。上記繰り返し単位の数は、所望の分割数に応じて設定することができる。上記繰り返し単位の数は、例えば、2〜30に設定され得る。以下、薄ガラス長尺体の長さ方向両端部に位置する靭性フィルム20、20’以外の靭性フィルム20’’を「中間の靭性フィルム」とも称する。
【0015】
上記のように、ハンドリング部(靭性フィルム)と本体部(薄ガラス)とが長さ方向で交互に配置される場合、本体部の間隔は、好ましくは50cm以上である。
【0016】
図4は、本発明の薄ガラス長尺体の使用形態の一例を説明する図であり、薄ガラス長尺体の薄ガラスをロール・ツー・ロールプロセスの処理装置に供する工程を示す。なお、
図4中の薄ガラス長尺体において、斜線を付している部分は靭性フィルムを表し、斜線を付していない部分は薄ガラスを表す。この実施形態においては、上記のようにハンドリング部(靭性フィルム)/本体部(薄ガラス)を繰り返し単位とした連続部分を含む薄ガラス長尺体を繰り出し側1にセットする。この実施形態では、該連続部分を含む薄ガラス長尺体の薄ガラスを処理する処理工程と、該処理後に中間の靭性フィルムを切断する切断工程とを含む。処理工程と切断工程とを繰り返すことにより、大径で準備された処理前の薄ガラス長尺体を、処理済み薄ガラス長尺体に分割することができる。より詳細には、最初に処理に供される薄ガラス(第1の薄ガラス)の処理が終了した後、巻き取り側2で中間の靭性フィルム20’’を切断し(
図4(a))、その後、巻き取り側2のロールを装置から取り出す。次いで、装置上に残った中間の靭性フィルム20’’を巻き付け、第2の薄ガラス10の処理を行う(
図4(b))。薄ガラスの枚数に応じて、
図4(a)〜
図4(b)の操作を繰り返すことにより、大径で準備された処理前の薄ガラス長尺体を、処理済み薄ガラス長尺体に分割することができる。ハンドリング部(靭性フィルム)/本体部(薄ガラス)を繰り返し単位とした連続部分を含む薄ガラス長尺体は、分割する際の巻き替え作業の作業性に優れる。なお、
図4では処理の開始段階および終了段階の操作を図示していないが、該操作は
図2を用いて説明した操作と同様であり得る。
【0017】
ハンドリング部(靭性フィルム)/本体部(薄ガラス)を繰り返し単位とした連続部分を含む薄ガラス長尺体は、樹脂フィルムの積層、易接着処理、塗工、スパッタリング、熱処理等の任意の適切な処理に供され得る。該連続を含む薄ガラス長尺体を用いれば、比較的長さの短い薄ガラスであっても、これを長尺化して加工または処理の工程(ロール・ツー・ロールプロセス)に供することができ、生産効率を図ることができる。また、加工または処理後のロールを分割することが要される場合など、従来であれば薄ガラス自体を切断している工程において、上記薄ガラス長尺体を用いれば、切断時の煩雑さが軽減される。さらに、切断後の次工程に進む際の作業性も向上する。
【0018】
<薄ガラス>
上記薄ガラスは、板状のものであれば、任意の適切なものが採用され得る。上記薄ガラスは、組成による分類によれば、例えば、ソーダライムガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスが挙げられる。好ましくは、無アルカリガラスが用いられる。強度および化学的耐久性に優れるからである。上記薄ガラス長尺体が複数の薄ガラスを備える場合、複数の薄ガラスは同分類の薄ガラスであってもよく、異なる分類の薄ガラスであってもよい。
【0019】
上記薄ガラスの成形方法は、任意の適切な方法が採用され得る。代表的には、上記薄ガラスは、シリカやアルミナ等の主原料と、芒硝や酸化アンチモン等の消泡剤と、カーボン等の還元剤とを含む混合物を、1400℃〜1600℃の温度で溶融し、薄板状に成形した後、冷却して作製される。上記薄ガラスの薄板成形方法としては、例えば、スロットダウンドロー法、フュージョン法、フロート法等が挙げられる。これらの方法によって板状に成形された薄ガラスは、薄板化したり、表面と端部との平滑性を高めたりするために、必要に応じて、フッ酸等の溶剤により化学研磨されてもよい。
【0020】
上記薄ガラスの厚みは、好ましくは10μm〜150μmであり、より好ましくは20μm〜120μmであり、さらに好ましくは30μm〜100μmである。薄ガラスの厚みが150μmより厚い場合、十分な可撓性を有さずロール状に巻き取ることが困難となるおそれがある。また、薄ガラスの厚みが10μm未満の場合、ハンドリングが困難となるおそれがある。上記薄ガラス長尺体が複数の薄ガラスを備える場合、複数の薄ガラスのサイズ(厚み、長さ)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
上記薄ガラスの幅は、好ましくは300mm以上であり、より好ましくは400mm以上である。一般に、広幅の薄ガラスは、ひねられた場合の負荷および自重たわみによる負荷が大きく、ハンドリングが難しい。本発明は、通常ではハンドリングが難しい広幅の薄ガラスの加工または処理において、その効果が顕著に発現される。上記薄ガラスの幅の上限は、好ましくは2000mmであり、より好ましくは1500mm以下であり、さらに好ましくは1200mm以下である。
【0022】
上記薄ガラスの長さは、所望の処理量または加工量に応じて、任意の適切な長さに設定され得る。例えば、長さ5m〜1000mの薄ガラスが用いられ得る。上記薄ガラス長尺体が薄ガラスを1枚備える場合、該薄ガラスの長さは、例えば、30m〜1000mである。上記薄ガラス長尺体が複数の薄ガラスを備える場合、個々の薄ガラスの長さは、例えば、5m〜500mである。
【0023】
上記薄ガラスは、樹脂フィルム等で表面が保護されていてもよい。表面が保護されていることにより、搬送時に薄ガラスが破断した場合にも薄ガラス長尺体の搬送を止めることなく装置の運転を継続することができる。
【0024】
<靱性フィルム>
上記靱性フィルムを構成する材料としては、本発明の効果が得られる限り、任意の適切な材料が選択され得る。靱性フィルムを構成する材料としては、薄ガラスよりも高靱性の材料が用いられ、例えば、樹脂、金属等が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。金属としては、アルミニウム、ステンレス、銅、鉄、鉛等が挙げられる。なかでも、アルミニウムまたはステンレスが好ましく用いられる。本発明の薄ガラス長尺体は複数の靱性フィルムを備えるが、複数の靱性フィルムは同じ材料から構成されていてもよく、異なる材料から構成されていてもよい。
【0025】
上記靱性フィルムの破壊靭性値は、好ましくは2MPa・m
1/2〜20MPa・m
1/2であり、さらに好ましくは5MPa・m
1/2〜20MPa・m
1/2であり、特に好ましくは10MPa・m
1/2〜20MPa・m
1/2である。
【0026】
上記靱性フィルムの厚みは、好ましくは5μm〜500μmである。上記靱性フィルムが樹脂から構成される場合、該靱性フィルムの厚みは、より好ましくは10μm〜200μmであり、さらに好ましくは30μm〜100μmである。上記靱性フィルムが金属から構成される場合、該靱性フィルムの厚みは、より好ましくは5μm〜200μmであり、さらに好ましくは10μm〜100μmであり、特に好ましく30μm〜50μmである。厚みがこのような範囲の靱性フィルムは、重量の面から取り扱い性に優れ、切断しやすく、かつ、しわの発生および破断を防止できるので、本発明の薄ガラス長尺体の靱性フィルムとして好適である。複数の靭性フィルムのサイズ(厚み、長さ)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
上記靱性フィルムの材料および厚みは、薄ガラス長尺体を巻き取った際に発生する靱性フィルムの表面(凸側)の曲げ応力が、薄ガラスの表面(凸側)の曲げ応力よりも小さくなるように選択することが好ましい。より具体的には、靱性フィルムにおけるヤング率と厚みとの積が、薄ガラスにおけるヤング率と厚みとの積よりも、小さいことが好ましい。靱性フィルムにおけるヤング率と厚みとの積(GPa・μm)は、薄ガラスにおけるヤング率と厚みとの積(GPa・μm)に対して、好ましくは90%以下であり、より好ましくは80%以下であり、さらに好ましくは70%以下であり、特に好ましくは60%以下であり、最も好ましくは50%以下である。このような靱性フィルムは、薄ガラスよりも曲げによる負荷がかかりにくいので好ましい。また、このように薄ガラスよりも曲がりやすい靱性フィルムを用いれば、薄ガラスと靱性フィルムとの連結部においても十分な可撓性が発現され、該連結部における薄ガラスの破損を防止することができる。なお、本明細書において、ヤング率とは、幅10mmの短冊状の試料を23℃においてチャック間50mm、速度300mm/minで引張り、得られる応力−ひずみ(S−S)曲線において最大接線の傾きより算出される値をいう。
【0028】
上記靱性フィルムの幅は、好ましくは300mm〜2000mmであり、より好ましくは300mm〜1500mmであり、より好ましくは400mm〜1200mmである。上記薄ガラスの幅と、靱性フィルムの幅との差の絶対値は、好ましくは20mm以下であり、より好ましくは10mm以下であり、さらに好ましくは5mm以下であり、特に好ましくは1mm以下であり、最も好ましくは0mmである。上記薄ガラスの幅と靱性フィルムの幅との差の絶対値が小さいほど、加工または処理の際にアライメントの調整がしやすくなる。
【0029】
上記靱性フィルムの幅方向の線膨張係数は、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは10ppm〜30ppmである。また、靱性フィルムの幅方向の線膨張係数は、薄ガラスの線膨張係数に対して、好ましくは1倍〜10倍であり、より好ましくは2倍〜10倍である。靱性フィルムの幅方向の線膨張係数がこのような範囲であれば、薄ガラス長尺体を熱処理工程に供した場合でも、上記薄ガラスの幅と靱性フィルムの幅との差の絶対値を小さく保つことができ、カールの発生および薄ガラスの破損を防止することができる。
【0030】
上記靱性フィルムの長さ方向の線膨張係数は、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは10ppm〜30ppmである。また、靱性フィルムの長さ方向の線膨張係数は、薄ガラスの線膨張係数に対して、好ましくは1倍〜10倍であり、より好ましくは2倍〜10倍である。靱性フィルムの長さ方向の線膨張係数がこのような範囲であれば、薄ガラス長尺体を熱処理工程に供した場合でも、薄ガラスの破損を防止することができる。
【0031】
上記靱性フィルムは、150℃で30分間加熱した際の幅方向の熱収縮率は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。靱性フィルムの熱収縮率がこのような範囲であれば、薄ガラス長尺体を熱処理工程に供した場合でも、上記薄ガラスの幅と靱性フィルムの幅との差の絶対値を小さく保つことができ、カールの発生および薄ガラスの破損を防止することができる。
【0032】
上記靱性フィルムは、150℃で30分間加熱した際の長さ方向の熱収縮率は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。靱性フィルムの熱収縮率がこのような範囲であれば、薄ガラス長尺体を熱処理工程に供した場合でも、薄ガラスの破損を防止することができる。
【0033】
上記のように線膨張係数および/または熱収縮率の小さい靱性フィルムは、例えば、延伸処理を施した樹脂を構成材料とすることにより得ることができる。例えば、靱性フィルムとしてPETフィルムを用いる場合、該PETフィルムとしては、横(TD)方向に2倍〜20倍、縦(MD)方向に2倍〜20倍の延伸がされたフィルムが好ましい。
【0034】
上記薄ガラス長尺体の長さ方向両端部に位置する靱性フィルムの長さは、薄ガラス長尺体が供される装置の長さ(繰り出しから巻き取りまでの長さ)以上であることが好ましい。薄ガラス長尺体の長さ方向両端部に位置する靱性フィルムの長さが装置の長さ以上であれば、加工または処理の開始段階および終了段階における作業性に優れる薄ガラス長尺体を得ることができる。薄ガラス長尺体の長さ方向両端部に位置する靱性フィルムの長さは、例えば、5m〜200mである。
【0035】
上記中間の靭性フィルムの長さは、好ましくは50cm〜200mである。中間の靭性フィルムの長さは、処理後の薄ガラス長尺体が供される後工程の有無、種類に応じて、設定され得る。
【0036】
上記薄ガラスと靱性フィルムとは、例えば、任意の適切な粘着テープ、両面テープ、接着剤等を用いて連結することができる。薄ガラスと靱性フィルムとの連結は、例えば、薄ガラスと靱性フィルムとを重ね合わせて行うことができる。
【0037】
図5は、薄ガラス(本体部)と靱性フィルム(ハンドリング部)とを重ねて連結する場合の該連結部の一例を示す概略平面図である。なお、
図5においては、一方の端部について図示しているが、もう一方の端部も同様の構成をとりうる。薄ガラス10と靱性フィルム20とを重ね合わせて連結する場合、薄ガラス10と靱性フィルム20とが重なり合う部分の長さxは、好ましくは20mm〜2000mmであり、より好ましくは100mm〜2000mmであり、より好ましくは150mm〜2000mmであり、さらに好ましくは150mm〜1000mmであり、特に好ましくは300mm〜1000mmである。1つの実施形態においては、薄ガラス10と靱性フィルム20とが重なり合う部分の長さxは、薄ガラス10の幅yに応じて設定され得る。薄ガラス10と靱性フィルム20とが重なり合う部分の長さxと薄ガラス10の幅yとは、0.01y≦x≦yの関係を満足することが好ましく、0.05y≦x≦yの関係を満足することがより好ましく、0.1y≦x≦yの関係を満足することがさらに好ましく、0.3y≦x≦yの関係を満足することが特に好ましい。薄ガラス10と靱性フィルム20とが重なり合う部分の長さxは、薄ガラス10の長さ方向の両端で同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
薄ガラス10の長さ方向の中心軸aと靱性フィルム20の長さ方向の中心軸bとの交差角は、好ましくは5°以下であり、より好ましくは3°以下であり、さらに好ましくは1°以下であり、特に好ましくは図示例のように0°である。該交差角が5°より大きい場合、薄ガラスをロール・ツー・ロールプロセスにより処理または加工する際に、薄ガラスの走行が直進性を欠き、加工精度が低下するおそれがある。また、巻き取りにズレおよびシワが発生しやすく、ズレまたはシワを起因として薄ガラスが破損するおそれがある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の薄ガラス長尺体は、例えば、ディスプレイ用基板、センサカバー、素子カバー等のロール・ツー・ロールプロセスに供される薄ガラス材料として好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0040】
10 薄ガラス
20、20’ 靭性フィルム
100 薄ガラス長尺体