(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記入力部によって入力が受け付けられた前記情報に基づき、前記記憶部から前記処理条件ライブラリを読み出し、前記処理条件ライブラリを用いて前記加熱処理による核酸の断片化の速度に関する定数を出力する、請求項5に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[核酸断片化システムの全体構成]
図1に基づき、核酸断片化システムを説明する。
図1に示されるように、核酸断片化システム1は、推定装置2と、推定装置2と通信可能に接続された加熱装置3とを含んでいる。本実施形態において、推定装置2は、コンピュータ本体2aと、入力デバイス2bと、モニタ2cとを含むコンピュータシステムである。また、加熱装置3は、核酸を含む試料にマイクロ波を照射することによって試料を加熱するマイクロ波照射装置である。入力デバイス2bは、推定装置2の入力部として機能する。モニタ2cは、推定装置2の表示部として機能する。
【0013】
入力デバイス2bとしては、キーボードなどが挙げられる。また、モニタ2cは、タッチパネルであってもよい。この場合、モニタ2cが入力デバイス2bと兼用される。また、入力デバイス2bとして、タッチペンをさらに用いてもよい。入力デバイス2bを介して、情報が入力される。入力される情報としては、加熱時間、加熱温度、核酸を含む試料の緩衝剤の種類および試料の塩濃度からなる群より選ばれた1乃至3の加熱処理条件ならびに所望の平均ヌクレオチド長の情報が挙げられる。
【0014】
[推定装置の構成]
推定装置2のコンピュータ本体2aは、
図2に示されるように、CPU(Central Processing Unit)20と、ROM(Read Only Memory)21と、RAM(Random Access Memory)22と、ハードディスク23と、入出力インターフェイス24と、読出装置25と、通信インターフェイス26と、画像出力インターフェイス27とを備えている。CPU20、ROM21、RAM22、ハードディスク23、入出力インターフェイス24、読出装置25、通信インターフェイス26および画像出力インターフェイス27は、バス28によってデータ通信可能に接続されている。CPU20は、コンピュータ本体2aの制御部として機能する。ハードディスク23は、コンピュータ本体2aの記憶部として機能する。
【0015】
CPU20は、ROM21に記憶されているコンピュータプログラムおよびROM22にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。CPU20がアプリケーションプログラムを実行することにより、コンピュータシステムにおいて、表示部、入力部、制御部および記憶部が実現される。これにより、コンピュータシステムが、加熱処理条件の推定装置として機能する。
【0016】
CPU20は、処理条件ライブラリ、関係式などを記憶している。関係式には、下記関係式が含まれる。
(I) 所望のヌクレオチド長と、最小ヌクレオチド長と、加熱処理前の核酸のヌクレオチド長と、加熱処理による核酸の断片化エネルギーと、加熱温度と、加熱処理の開始温度との相関関係を示す関係式
(II)所望のヌクレオチド長と最小ヌクレオチド長と加熱処理前の核酸のヌクレオチド長と加熱処理による核酸の断片化速度と加熱時間との相関関係を示す関係式
【0017】
(I)の関係式は、式(I):
M=A+B×exp{−H(T−D)} (I)
(式中、Mは所望のヌクレオチド長、Aは最小ヌクレオチド長、Bは加熱処理前の核酸のヌクレオチド長、Hは加熱処理による核酸の断片化エネルギー定数、Tは加熱温度、Dは加熱処理の開始温度を示す)
で表わされる関係式である。(II)の関係式は、式(II):
M=A+B×exp{−Kt} (II)
(式中、Mは所望のヌクレオチド長、Aは最小ヌクレオチド長、Bは加熱処理前の核酸のヌクレオチド長、Kは加熱処理による核酸の断片化速度定数、tは加熱時間を示す)
であらわされる関係式である。かかる関係式を用いることにより、加熱処理によって核酸の断片化を行なう際の加熱処理条件を簡便に推定することができる。
【0018】
CPU20は、入力デバイス2bで取得された情報と、ハードディスク23に記憶された関係式とに基づき、演算結果を得る。また、CPU20は、演算結果と、必要により、ハードディスク23に記憶された処理条件ライブラリとに基づいて加熱処理条件を推定する。
【0019】
ROM21は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM21には、CPU20によって実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータが記録されている。
【0020】
RAM22は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM22は、ROM21およびハードディスク23それぞれに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM22は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU20の作業領域として利用される。
【0021】
ハードディスク23は、CPU20に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(加熱処理条件の推定のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0022】
読出装置25は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブなどによって構成されている。読出装置25は、可搬型の記録媒体40に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
入出力インターフェイス24は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス24には、キーボード、マウスなどの入力デバイス2bが接続されている。操作者は、入力デバイス2bを使用することにより、コンピュータ本体2aにデータを入力することが可能である。
【0023】
通信インターフェイス26は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。推定装置2は、通信インターフェイス26により、CPU20による推定結果などをモニタ2cおよび加熱装置3の少なくとも一方に出力する。推定装置2は、通信インターフェイス26により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。
【0024】
画像出力インターフェイス27は、LCD、CRTなどで構成されるモニタ2cに接続されている。これにより、モニタ2cは、CPU20から与えられた画像データに応じた映像信号を出力することができる。モニタ2cは、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。モニタ2cは、CPU20による推定結果などを表示する。
【0025】
[核酸断片化システムによる処理手順の概略]
つぎに、
図3および4に基づき、核酸断片化システム1による処理手順の概要を説明する。
図3に示されるように、まず、ステップS11において、推定装置2のCPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、モード選択画面をモニタ2cに表示させる。このモード選択画面は、実用モードおよび条件提案モードのいずれかの選択をユーザに促すための画面である。
【0026】
「実用モード」は、ユーザが、ユーザが予め設定した加熱処理条件を基に、核酸断片化システム1に加熱処理を実行させて核酸の断片化を実際に行なうためのモードである。実用モードでは、核酸断片化システム1により、ユーザが予め設定した加熱処理条件を補助する情報または助言などがユーザに提供される。しかし、実用モードでは、ユーザは、ユーザ自身の意図、知識などを考慮し、必要に応じて核酸断片化システム1からの情報または助言を適宜採用することができる。実用モードのユーザとして、例えば、加熱処理による核酸の断片化に精通している熟練者などが想定される。
【0027】
「条件提案モード」は、核酸断片化システム1に、所望の平均ヌクレオチド長を有する核酸断片を得るための加熱処理条件などを下調べおよび提案させるためのモードである。具体的には、「条件提案モード」は、核酸断片化システム1から提供される情報または助言に従いながら、ユーザが、加熱処理条件などをその場で構築するためのモードである。条件提案モードのユーザとして、例えば、加熱処理による核酸の断片化に精通していない初心者などが想定される。条件提案モードでは、ユーザが、提案された条件を受け入れる場合には、核酸断片化システム1に加熱処理を適宜実行させることができる。
【0028】
ステップS11において、ユーザは、入力デバイス2bを操作することによって、モード選択画面に示されたモードから所望のモードを指示することができる。本明細書において、「ヌクレオチド長」の用語には、一本鎖の核酸の長さおよび二本鎖の核酸の長さの両方の概念が含まれる。二本鎖の核酸の長さは、通常、「bp」または「kb」が用いられる。
【0029】
ステップS12において、CPU20は、ユーザによって選択されたモードが実用モードであるか否かの判断を行なう。CPU20は、実用モードが選択されたと判断した場合(Yes)にはステップS13へ処理を進める。また、CPU20は、実用モードが選択されていないと判断した場合(No)にはステップS14へ処理を進める。
【0030】
ステップS13では、CPU20は、実用モードの処理を進める。実用モードでは、CPU20は、
図4に示される処理手順で、温度一定モードまたは時間一定モードの処理を進める。
図4のステップS21において、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、モード選択画面をモニタ2cに表示させる。このモード選択画面は、温度一定モードおよび時間一定モードのいずれかの選択をユーザに促すための画面である。ここで、実用モードにおける「温度一定モード」は、ユーザによって予め設定された加熱温度での加熱処理を行なうためのモードである。また、実用モードにおける「時間一定モード」は、ユーザによって予め設定された加熱時間での加熱処理を行なうためのモードである。ステップS13において、ユーザは、入力デバイス2bを操作することによって、モード選択画面に示されたモードから所望のモードを指示することができる。
つぎに、ステップS22において、CPU20は、ユーザによって選択されたモードが温度一定モードであるか否かの判断を行なう。CPU20は、温度一定モードが選択されたと判断した場合(Yes)にはステップS23へ処理を進める。また、CPU20は、温度一定モードが選択されていないと判断した場合(No)にはステップS24へ処理を進める。
ステップS23では、CPU20は、後述の温度一定モードの処理を進める。また、ステップS24では、CPU20は、後述の時間一定モードの処理を進める。
【0031】
一方、ステップS14では、CPU20は、条件提案モードの処理を進める。
条件提案モードでは、CPU20は、実用モードと同様に、
図4に示される処理手順で、温度一定モードまたは時間一定モードの処理を進める。
条件提案モードにおける「温度一定モード」は、ユーザによって予め設定された加熱温度での加熱処理を行なうための加熱処理条件を推定装置2に提案させるモードである。また、条件提案モードにおける「時間一定モード」は、ユーザによって予め設定された加熱時間での加熱処理を行なうための加熱処理条件を推定装置2に提案させるモードである。
【0032】
ステップS13またはS14の処理の後、ステップS15において、CPU20は、ユーザによる加熱処理実行の指示が行なわれたか否かの判断を行なう。CPU20は、加熱処理実行の指示が行なわれたと判断した場合(Yes)にはステップS16へ処理を進める。また、CPU20は、加熱処理実行の指示が行なわれていないと判断した場合(No)には処理を終了する。
【0033】
ステップS16において、CPU20は、通信インターフェイス26を介して、加熱装置3に加熱処理条件および加熱処理の実行の指示を出力する。また、加熱装置3は、CPU20から受け取った加熱処理条件にしたがって加熱処理を進める。
【0034】
[実用モードの処理手順]
(1)温度一定モードの処理手順
つぎに、
図5乃至
図9に基づき、推定装置2による実用モードの温度一定モードの処理手順を説明する。
図5に示されるように、まず、ステップS101において、CPU20は、ハードディスク23から式(II)を取得する。
【0035】
つぎに、ステップS102において、CPU20は、ユーザに加熱処理時の設定温度情報の入力を求める。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、ユーザに設定温度情報の入力を促すための画面をモニタ2cに表示させる。ステップS102において、ユーザは、入力デバイス2bを操作することによって、設定温度情報を入力することができる。
【0036】
ついで、ステップS103において、CPU20は、入力デバイス2bから入力された設定温度情報を取得する。また、CPU20は、必要に応じ、取得された設定温度情報をハードディスク23に送信し、一時的に記憶させることができる。
【0037】
ついで、ステップS104において、CPU20は、ユーザに対象核酸、緩衝剤の情報および試料の情報の入力を求める。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、ユーザに対象核酸の情報、緩衝剤の情報および試料の情報の入力を促すための画面をモニタ2cに表示させる。ステップS104において、ユーザは、入力デバイス2bを操作することによって、対象核酸の情報、緩衝剤の情報および試料の情報を入力することができる。具体的には、ユーザは、対象核酸の情報として、対象核酸の種類の情報を入力することができる。また、ユーザは、緩衝剤の情報として、試料に含まれる緩衝剤の種類の情報を入力することができる。さらに、ユーザは、試料の情報として、試料の導電率の情報を入力することができる。ここで、対象核酸は、DNAまたはRNAである。緩衝剤の種類の情報としては、例えば、緩衝剤の成分の情報などが挙げられる。緩衝剤の成分としては、例えば、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(以下、「ADA」ともいう)、リン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(以下、「トリス」ともいう)などが挙げられる。
【0038】
ついで、ステップS105において、CPU20は、入力デバイス2bから入力された対象核酸の情報、緩衝剤の情報および試料の情報を取得する。また、CPU20は、必要に応じ、取得された対象核酸の情報、緩衝剤の情報および試料の情報をハードディスク23に送信し、一時的に記憶させることができる。
【0039】
ついで、ステップS106において、CPU20は、式(II)のパラメータ値を決定する。具体的には、CPU20は、ハードディスク23から、
図6に示される処理条件ライブラリ500を取得する。つぎに、CPU20は、設定温度情報、対象核酸の情報、緩衝剤の情報および試料の情報と、処理条件ライブラリ500とに基づき、式(II)のパラメータ値を決定する。
【0040】
処理条件ライブラリ500は、
図6に示されるように、加熱温度情報501、対象核酸情報502、緩衝剤情報503、試料導電率情報504およびこれらに対応するパラメータ値情報505を含む。加熱温度情報501、対象核酸情報502、緩衝剤情報503、試料導電率情報504およびパラメータ値情報505は、実験などで予め決定された情報である。これらの予め決められた情報は、ユーザによる情報の入力、電磁的方法による情報の提供などによって更新することができる。電磁的方法による情報の提供としては、例えば、インターネットウェブサイトを通じた情報の配信、メールへの添付などが挙げられる。なお、試料導電率情報504は、試料の導電率の値を、試料の抵抗率、試料の塩濃度、試料のイオン強度などの他の物理量に換算した情報であってもよい。試料の導電率を他の物理量で表わす場合、ユーザが、利便性に応じて適宜選択してもよい。
【0041】
図6に示される処理条件ライブラリ500では、加熱処理条件およびパラメータ値が、加熱温度情報501、対象核酸情報502、緩衝剤情報503、試料導電率情報504およびパラメータ値情報505の順に階層的に体系づけられている。この場合、CPU20は、まず、設定温度情報に基づき、加熱処理条件およびパラメータ値の大まかな絞り込みを行なうことができる。つぎに、CPU20は、絞り込まれた加熱処理条件およびパラメータ値を、対象核酸情報502、緩衝剤情報503および試料導電率情報504により、さらに絞り込むことができる。これにより、CPU20は、式(II)のパラメータ値を決定することができる。ステップS106で決定されるパラメータ値としては、例えば、最小ヌクレオチド長A、加熱処理による核酸の断片化速度定数Kなどが挙げられる。
【0042】
ついで、
図7のステップS107において、CPU20は、ユーザに対象核酸の長さの情報の入力を求める。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、ユーザに対象核酸の長さの情報の入力を促すための画面をモニタ2cに表示させる。ステップS107において、ユーザは、入力デバイス2bを操作することによって、対象核酸の長さの情報を入力することができる。ここで、「対象核酸の長さ」は、式(II)における「加熱処理前の核酸のヌクレオチド長B」に相当する。
【0043】
ついで、ステップS108において、CPU20は、入力デバイス2bから入力された対象核酸の長さの情報を取得する。また、CPU20は、必要に応じ、取得された対象核酸の長さの情報をハードディスク23に送信し、一時的に記憶させることができる。
【0044】
ついで、ステップS109において、CPU20は、対象核酸の長さの情報、式(II)およびステップS106で決定されたパラメータ値に基づいて推定される加熱時間と核酸断片長との対応関係(以下、「推定対応関係」ともいう)の出力を行なう。その後、ステップS110において、CPU20は、ユーザに所望の核酸断片長の入力を求める。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、例えば、
図8に示される画面601をモニタ2cに表示させる。
図8に示される画面601は、推定対応関係を示すグラフ611と、ユーザへのコメント612,613を含む。グラフ611は、加熱時間をX軸とし、核酸断片長をY軸とするグラフである。コメント612は、提示されたグラフ611に関するコメントである。また、コメント613は、ユーザへの所望の核酸断片長の入力を求めるためのコメントである。ここで、「所望の核酸断片長」は、式(II)における「所望のヌクレオチド長M」に相当する。
【0045】
ついで、ステップS111において、CPU20は、入力デバイス2bから入力された所望の核酸断片長の情報を取得する。また、CPU20は、必要に応じ、取得された所望の核酸断片長の情報をハードディスク23に送信し、一時的に記憶させることができる。ステップS111において、ユーザは、入力デバイス2bを操作して画面601のグラフ611中の所望の核酸断片長の位置にデータ点をプロットする。これにより、ユーザは、所望の核酸断片長の情報を入力することができる。
【0046】
ついで、ステップS112において、CPU20は、ステップS111で入力された所望の核酸断片長の情報、式(II)およびステップS106で決定された式(II)のパラメータ値に基づき、加熱時間を推定する。
【0047】
ついで、ステップS113において、CPU20は、ステップS112で推定された加熱時間の情報を出力する。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、
図9に示される画面602をモニタ2cに表示させる。画面602は、グラフ611およびユーザへのコメント615を含む。画面602では、グラフ611上に、ステップS111でユーザが入力した所望の核酸断片長を示すデータ点614が表示されている。コメント615は、推定された加熱時間をユーザに提示するコメントである。コメント615には、
図9に示されるように、ユーザに加熱処理を行なうかどうかを問い合わせるための文言を含んでいてもよい。
【0048】
ついで、
図7のステップS114において、CPU20は、ユーザが推定処理の再実行を求めているか否かを判断する。ステップS114では、まず、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、ユーザに推定処理の再実行の要否に関する情報の入力を促すための画面をモニタ2cに表示させる。つぎに、CPU20は、入力デバイス2bから入力された推定処理の再実行の要否に関する情報を取得する。その後、CPU20は、入力された情報に基づき、ユーザが推定処理の再実行を求めているか否かを判断する。CPU20は、ユーザが推定処理の再実行を求めていると判断した場合(Yes)には
図5のステップS102へ処理を進める。また、CPU20は、ユーザが推定処理の再実行を求めていないと判断した場合(No)には処理を終了する。
【0049】
(2)時間一定モードの処理手順
つぎに、
図10および
図11に基づき、推定装置2による実用モードの時間一定モードの処理手順を説明する。実用モードの時間一定モードでは、CPU20は、ユーザによる設定時間情報に基づき、加熱温度を推定する。
実用モードの時間一定モードの処理手順は、以下の点を除き、実用モードの温度一定モードの処理手順と同様である。
(A)
図10のステップS201において、CPU20が、式(I)を取得すること。
(B)
図10のステップS202において、CPU20が、ユーザに加熱処理時の設定時間情報の入力を求めること。
(C)
図10のステップS203において、CPU20が、入力デバイス2bから入力された設定時間情報を取得すること。
(D)
図10のステップS206において、CPU20が、式(I)のパラメータ値を決定すること。
(E)
図11のステップS209において、CPU20が、対象核酸の長さの情報、式(II)および
図10のステップS206で決定されたパラメータ値に基づき、加熱温度と核酸断片長との対応関係(推定対応関係)の出力を行なうこと。
(F)
図11のステップS212において、CPU20が、ステップS211で入力された所望の核酸断片長の情報、式(I)およびステップ206で決定された式(I)のパラメータ値に基づき、加熱温度を推定すること。
(G)
図11のステップS213において、CPU20が、ステップS212で推定された加熱温度の情報を出力すること。
【0050】
ここで、ステップS206で決定されるパラメータ値としては、例えば、最小ヌクレオチド長A、加熱処理による核酸の断片化エネルギー定数Hなどが挙げられる。また、「対象核酸の長さ」は、式(I)における「加熱処理前の核酸のヌクレオチド長B」に相当する。「所望の核酸断片長」は、式(I)における「所望のヌクレオチド長M」に相当する。
【0051】
[実用モードの処理手順の変形例]
図5乃至
図11に示される実用モードの処理手順では、設定温度情報、対象核酸の情報、緩衝剤の情報、試料の情報、対象核酸の長さの情報などに基づく推定対応関係の提示後、ユーザに所望の核酸断片長の入力を求めている。しかし、推定対応関係を提示せずに、ユーザに所望の核酸断片長の入力を求めるように、実用モードの処理が進められてもよい。
【0052】
[条件提案モードの処理手順]
(1)温度一定モードの処理手順
つぎに、
図12乃至
図16に基づき、推定装置2による条件提案モードの温度一定モードの処理手順を説明する。
図12に示されるように、まず、ステップS301において、CPU20は、ハードディスク23から式(II)を取得する。式(II)は、以下のステップにおいて、回帰直線の式として用いられる。
【0053】
つぎに、ステップS302において、CPU20は、ユーザに所望の断片化曲線および許容誤差の情報の入力を求める。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、ユーザに所望の断片化曲線および許容誤差の情報の入力を促すための画面801をモニタ2cに表示させる。画面801は、
図13に示されるように、描画領域811およびコメント812を含む。描画領域811は、ユーザが所望の断片化曲線を描くための領域である。描画領域811は、加熱時間をX軸、核酸断片長をY軸として有する。コメント812は、ユーザに所望の断片化曲線および許容誤差の情報の入力を促すためのコメントである。ステップS302において、
図14に示されるように、ユーザは、入力デバイス2bを操作することによって、画面802の描画領域811上に、所望の断片化曲線813および許容誤差情報814を入力することができる。
【0054】
ついで、
図12のステップS303において、CPU20は、入力デバイス2bから入力された所望の断片化曲線の情報および許容誤差の情報を取得する。また、CPU20は、必要に応じ、取得された所望の断片化曲線の情報および許容誤差の情報をハードディスク23に送信し、一時的に記憶させることができる。
【0055】
ついで、ステップS304において、CPU20は、式(II)に対し、ステップS303で取得された断片化曲線を許容誤差範囲内でフィッティングさせる。
ステップS304では、フィッティングに際し、式(II)において入力されていない情報が存在する場合、CPU20により、ハードディスク23に記憶された処理条件ライブラリに含まれる加熱処理条件およびパラメータ値から、不足情報が補完される。CPU20は、式(II)において、入力されていない情報があると判断した場合、ハードディスク23から
図15に示される処理条件ライブラリ700から不足情報を取得する。処理条件ライブラリ700は、
図15に示されるように、対象核酸情報701、式(II)のパラメータ値情報702、試料導電率情報703、緩衝剤情報704および加熱温度情報705を含む。対象核酸情報701、パラメータ値情報702、試料導電率情報703、緩衝剤情報704および加熱温度情報705は、実験などで予め決定された情報である。対象核酸情報701、パラメータ値情報702、試料導電率情報703、緩衝剤情報704および加熱温度情報705は、それぞれ、対象核酸情報502、パラメータ値情報505、試料導電率情報504、緩衝剤情報503および加熱温度情報501と同様である。
図15に示される処理条件ライブラリ700では、加熱処理条件およびパラメータ値が、対象核酸の種類に応じて大別されている。
フィッティングは、例えば、最小二乗法などにしたがって行なわれる。
【0056】
ついで、
図12のステップS305において、CPU20は、式(II)に対し、ステップS303で取得された断片化曲線をフィッティングさせることができるか否かを判断する。ステップS305では、式(II)に対して断片化曲線をフィッティングさせて処理条件ライブラリ中のパラメータ値と同一または近似する値が得られた場合、フィッティングができると判断することができる。CPU20は、式(II)に対し、ステップS303で取得された断片化曲線をフィッティングさせることができると判断した場合(Yes)にはステップS306へ処理を進める。この場合、CPU20は、加熱処理条件を推定することができる。これにより、式(II)を満たす加熱処理条件を示す断片化曲線が得られる。また、CPU20は、式(II)に対し、ステップS303で取得された断片化曲線をフィッティングさせることができないと判断した場合(No)には処理をステップS302に進める。この場合、CPU20は、再度、ユーザに所望の断片化曲線および許容誤差の情報の入力を求める。
【0057】
ついで、ステップS306において、CPU20は、加熱処理条件の出力を行なう。具体的には、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、
図16に示される画面803をモニタ2cに表示させる。画面803は、描画領域811上に描画された推定断片化曲線816と、ユーザへのコメント817,818とを含む。推定断片化曲線816は、推定された加熱処理条件に基づく断片化の過程を示す。また、コメント817は、推定された加熱処理条件をユーザに提示するコメントである。コメント818は、ユーザに条件提案モードの温度一定モードを再実行するか否かを問い合わせるためのコメントである。
ステップS306では、推定された加熱処理条件を、処理条件ライブラリ中のパラメータ値に近い順に推奨度のランク付けすることができる。この場合、ユーザに対し、パラメータ値に近い順に、推奨度の高い加熱処理条件を提案することができる。
【0058】
ついで、ステップS307において、CPU20は、ユーザが条件提案モードの再実行を求めているか否かを判断する。ステップS307では、まず、CPU20は、画像出力インターフェイス27を介して、ユーザに条件提案モードの再実行の要否に関する情報の入力を促すための画面をモニタ2cに表示させる。つぎに、CPU20は、入力デバイス2bから入力された再実行の要否に関する情報を取得する。その後、CPU20は、入力された情報に基づき、ユーザが条件提案モードの再実行を求めているか否かを判断する。CPU20は、ユーザが条件提案モードの再実行を求めていると判断した場合(Yes)にはステップS302へ処理を進める。また、CPU20は、ユーザが条件提案モードの再実行を求めていないと判断した場合(No)には処理を終了する。
【0059】
(2)時間一定モードの処理手順
つぎに、
図17に基づき、推定装置2による条件提案モードの時間一定モードの処理手順を説明する。
条件提案モードの時間一定モードの処理手順は、以下の点を除き、条件提案モードの温度一定モードと同様である。
(a)
図17のステップS401において、CPU20が、式(I)を取得すること。
(b)
図17のステップS404において、CPU20が、式(I)に対し、ステップS403で取得された断片化曲線をフィッティングさせること。
(c)
図17のステップS405において、CPU20が、式(I)に対し、
図17のステップS403で取得された断片化曲線をフィッティングさせることができるか否かを判断すること。
【0060】
[変形例]
上記と同様に、加熱処理条件のうちのいずれか1つの条件または複数の条件を一定とするモードを採用することもできる。この場合、推定装置2によれば、一定とされなかった加熱処理条件を推定結果として出力することができる。
【実施例】
【0061】
以下において、各略語の意味は、以下のとおりである。
<略語>
PBS: リン酸緩衝生理的食塩水〔組成:10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.8)および150mM塩化ナトリウム〕
10×PBS: 10倍濃度のリン酸緩衝生理的食塩水
1×PBS: 1倍濃度のリン酸緩衝生理的食塩水〔組成:10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.8)および150mM塩化ナトリウム〕
PB: リン酸カリウム緩衝液〔組成:62mMリン酸一水素二カリウムおよび38mMリン酸二水素カリウム、pH7.0〕
TE: 組成:10mMトリスおよび1mMエチレンジアミン四酢酸、pH7.5を有する緩衝液
STE: 組成:10mMトリス、1mMエチレンジアミン四酢酸および50mM塩化ナトリウム、pH7.5を有する緩衝液
【0062】
(実施例1)
(1)種々の加熱温度での加熱処理によるλDNAの断片化処理
10倍濃度のリン酸緩衝生理的食塩水(10×PBS)〔バイオラッド社製〕を滅菌水で希釈して1倍濃度のPBS(1×PBS)を得た。PBS 1500μLと、λDNA〔タカラバイオ(株)製、0.3μg/μL〕50μLとを水熱処理用ガラス容器中で混合した。得られた混合液のうち100μLの混合液を未処理試料(20℃でのλDNA含有試料)として分取した。つぎに、混合液が入った水熱処理用ガラス容器をマイクロ波合成反応装置〔マイルストーンゼネラル社製、商品名:MultiSYNTH〕にセットした。その後、120℃、140℃、160℃または180℃の加熱温度で10秒間の加熱処理を行ない、試料を得た。なお、加熱処理のサーマルプロファイルを、以下のように設定した。
<サーマルプロファイル>
下記(i−1)乃至(i−4)のステップ:
(i−1)30秒間で常温(20℃)から100℃までの昇温
(i−2)60秒間で100℃から所定の加熱温度までの昇温
(i−3)所定の加熱温度で10秒間の加熱
(i−4)20℃での冷却
【0063】
(2)加熱処理によるλDNAの断片化の評価
実施例1の(1)で得られた試料15μLに電気泳動用緩衝液〔タカラバイオ(株)製、商品名:×6 Loading buffer〕3μLを添加し、電気泳動試料を得た。電気泳動装置〔インビトロジェン社製、商品名:垂直型ミニ電気泳動システム〕と、泳動ゲル〔インビトロジェン社製、商品名:6% TBE GEL、1.0mm、12ウェル〕と、ランニングバッファー〔1倍濃度のTBE(1×TBE)〕とを用い、電圧:200V下で23分間、各電気泳動試料およびマーカーの電気泳動を行なった。なお、マーカーとして、タカラバイオ(株)製、商品名:Wide−Range DNA Ladder(50−10000bp)およびタカラバイオ(株)製、商品名:λ−HindIII digestを用いた。また、1×TBEは、10倍濃度の核酸電気泳動用プレミックスバッファー(バイオラッド社製、商品名:10×TBE)を10倍希釈することによって調製した。
【0064】
得られた泳動ゲルを、核酸染色液〔ロンザ社製、商品名:Gel Starを1×TBEで10000倍希釈した希釈液〕に30分間浸漬させて染色した。染色後の泳動ゲルを画像解析システム〔バイオラッド社製、商品名:パーソナル分子画像装置〕に供し、G励起での画像を取得した。その結果を
図18に示す。図中、レーンM1およびM3はマーカー〔タカラバイオ(株)製、商品名:λ−Hind III digest〕の電気泳動パターン、レーンM2はマーカー〔タカラバイオ(株)製、商品名:Wide−Range DNA Ladder(50−10000bp)〕の電気泳動パターン、レーン1および5は未処理試料の電気泳動パターン、レーン2は120℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン3および6は140℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン4および7は160℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン8は180℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターンを示す。
【0065】
図18に示された結果から、加熱処理時の加熱温度が高いほど、得られた断片の平均長が低下していることがわかった。
【0066】
図18の画像データに対して、画像処理ソフトウェア〔アメリカ国立衛生研究所提供、商品名:Image J〕に搭載のゲルデンシトメトリー機能を適用した。これにより、各レーンのバンドの濃淡の強度とバンドの移動度との関係を示す移動度スペクトルを求めた。その結果を
図19に示す。図中、(A)は未処理試料の移動度スペクトル、(B)は120℃での加熱処理後の試料の移動度スペクトル、(C)は140℃での加熱処理後の試料の移動度スペクトル、(D)は160℃での加熱処理後の試料の移動度スペクトル、(E)は180℃での加熱処理後の試料の移動度スペクトル、(F)はマーカーの移動度スペクトルを示す。
図19中の移動度は、泳動ゲル中のバンドの移動距離を測定および規格化した値である。
【0067】
さらに、
図19(F)のマーカーの移動度スペクトルから、マーカーの核酸断片長Mおよび移動度を求めた。核酸断片長Mから、logMを求めた。なお、「logM」は、10を底とする核酸断片長Mの対数である。x軸がマーカーにおける核酸断片のバンドの移動度であり、かつy軸がlogMである二次元座標上にプロットすることによって
図20の検量線を得た。
【0068】
図20の検量線上のマーカーに由来するデータ点群を、下記基準に基づき、高分子量領域のデータ点群と低分子量領域のデータ点群とに分類した。
<分類基準>
高分子量領域のデータ点群:核酸断片長が30000bp以上のデータ点群
低分子量領域のデータ点群:核酸断片長が30000bp未満のデータ点群
【0069】
高分子量領域のデータ点群および低分子量領域のデータ点群それぞれについて、データ解析・グラグ作成ソフトウェア〔ヒューリンクス(Hulinks)製、商品名:KaleidaGraph〕を用いて近似直線を求めた。
【0070】
その結果、
図20の近似直線(A)は、式(III):
logM=9.85−52.539×μ (III)
(式中、Mは核酸断片長、μは移動度を示す)
で表わされる直線(R値=0.98677)であることがわかった。また、
図20の近似直線(B)は、式(IV):
logM=3.5962−1.9725×μ (IV)
で表わされる直線(相関係数R値=0.96802)であることがわかった。式(III)および(IV)中の各係数は、用いられる泳動ゲルの固さ、大きさなどによって変動すると考えられた。そこで、式(III)および(IV)を一般化し、式(V):
logM=a−b×μ (V)
(式中、Mは核酸断片長、μは移動度、aおよびbはカーブフィッテングで定まる任意の数を示す)
が得られた。
【0071】
(3)加熱処理時の加熱温度と核酸断片長との関係の検証
加熱温度を40℃、60℃、100℃、150℃、170℃または190℃に設定したことを除き、実施例1の(1)および(2)と同様の操作を行ない、各温度での移動度スペクトルを得た。なお、加熱温度が100℃付近である場合、核酸が凝集することがわかった。つぎに、各温度での移動度スペクトル中のピークのうち、最も高いピークを示すバンドの移動度を泳動ゲル中のバンドの移動距離を測定および規格化することによって求めた。得られた移動度を式(III)または式(IV)に代入することにより、核酸断片長Mを算出した。核酸断片長Mから、logMを求めた。加熱時間およびlogMを、x軸が加熱温度であり、かつy軸がlogMである二次元座標上にプロットした。その結果を
図21に示す。
【0072】
図21に示された結果から、加熱温度が20乃至60℃の低温度域である場合、核酸断片長Mに顕著な変化が認められなかった。また、加熱温度が100℃付近である場合、logMの値が上昇したことがわかった。さらに、加熱温度が130℃以上の高温度域である場合、昇温に伴って核酸の断片化が生じていることが定量的に確認された。なお、加熱温度が100℃付近である場合、logMの値が上昇していることが確認された。また、加熱温度が100℃付近である場合、核酸の凝集が観察された。したがって、logMの値の上昇は、核酸の凝集に起因することが推測された。
【0073】
つぎに、
図21のグラフのデータ点のなかから、断片化が生じる加熱温度のデータ点と、断片化が生じない加熱温度のデータ点を抽出した。抽出されたデータ点を用い、加熱温度および核酸断片長を、温度をx軸および核酸断片長をy軸とする二次元座標上に再プロットした。その結果を
図22に示す。なお、50℃付近の加熱温度で加熱された核酸は、断片化されていないと推測された。そこで、50℃付近の加熱温度で加熱された核酸の核酸断片長Mを0と定義した。
図22において、プロットされたデータ点群のうち、加熱温度が100℃以上であるデータ点群について、データ解析・グラグ作成ソフトウェア〔ヒューリンクス(Hulinks)社製、商品名:KaleidaGraph〕を用いて近似曲線を求めた。
【0074】
図22の近似曲線は、式(I)
M=A+B×exp{−H(T−D)} (I)
(式中、Mは核酸断片長(所望のヌクレオチド長)、Aは最小ヌクレオチド長、Bは加熱処理前の核酸のヌクレオチド長、Hは加熱処理による核酸の断片化エネルギー定数、Tは加熱温度、Dは加熱処理の開始温度を示す)
で表わされることがわかった。
図22に示された近似曲線は、温度Tの関数である。そこで、x軸の変数であるTの値を式(I)に適用することにより、式(I)におけるA、B、H、およびDを求めた。その結果、以下の通りであった。A=50、B=7.94×10
8、H=0.147およびD=100。得られたA、B、HおよびDは、79400bpのDNAを10秒間加熱する加熱処理が反映された値であった。したがって、式(I)への所望のヌクレオチド長の代入により、10秒間の加熱処理における加熱温度が求められることがわかった。よって、式(I)によれば、一定加熱時間での加熱処理において、所望のヌクレオチド長が得られる加熱温度が求められることがわかった。
【0075】
(実施例2)
核酸の種類および緩衝液を表1のように変更したことを除き、実施例1と同様の操作を行なった。その後、式(I)を用い、各条件に対する加熱処理による核酸の断片化エネルギー定数を算出した。その結果を表1に示す。
【0076】
表1に示された結果から、対象核酸の種類、試料に含まれる緩衝剤の種類および試料の伝導度によって、加熱処理による核酸の断片化エネルギー定数Hの値が異なることがわかった。
【0077】
【表1】
【0078】
(実施例3)
加熱温度を140℃に固定し、加熱時間を種々の時間に設定したことを除き、実施例1の(1)および(2)と同様の操作を行ない、泳動ゲルのG励起での画像を得た。その結果を
図23に示す。図中、レーンM1はマーカー〔タカラバイオ(株)製、商品名:λ−Hind III digest〕の電気泳動パターン、レーン1は未処理試料の電気泳動パターン、レーン2は120℃で0.15分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン3は120℃で3分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン4は120℃で10分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン5、7および8は140℃で0.15分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン6は140℃で3分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン7は140℃で10分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターンを示す。なお、加熱処理のサーマルプロファイルを、以下のように設定した。ここで、加熱時間とは、下記(ii−3)の加熱時間をいう。なお、(ii−4)における冷却を、試料への空気の吹き付けに伴う試料の放熱によって行なった。
<サーマルプロファイル>
下記(ii−1)乃至(ii−4)のステップ:
(ii−1)30秒間で常温(20℃)から100℃までの昇温
(ii−2)60秒間で100℃から120℃または140℃までの昇温
(ii−3)140℃で0.15乃至10分間の加熱
(ii−4)120℃または140℃から20℃への冷却
【0079】
図23に示された結果から、加熱処理時の加熱時間が長いほど、得られた断片の平均長が低下していることがわかった。
【0080】
図23に示された結果のうち、加熱温度:140℃の場合の電気泳動パターンに対して、画像処理ソフトウェア〔アメリカ国立衛生研究所提供、商品名:Image J〕を用い、各レーンのバンドの濃淡の強度とバンドの移動度との関係を示す移動度スペクトルを求めた。つぎに、各加熱時間での移動度スペクトル中のピークのうち、最も高いピークを示すバンドの移動度を算出した。マーカーの移動度スペクトルを参照して核酸断片のバンドの移動度と核酸断片長の関係を調べた。加熱時間および核酸断片長を、加熱時間をx軸および核酸断片長をy軸とする二次元座標上にプロットした。つぎに、プロットされたデータ点群について、データ解析・グラグ作成ソフトウェア〔ヒューリンクス(Hulinks)社製、商品名:KaleidaGraph〕を用いて近似曲線を求めた。その結果を
図24に示す。なお、
図24中、加熱時間は、サーマルプロファイルのステップ(ii−1)、ステップ(ii−2)およびステップ(ii−3)の加熱時間の合計とした。
【0081】
図24の近似曲線は、式(II)
M=A+B×exp{−Kt} (II)
(式中、Mは核酸断片長(所望のヌクレオチド長)、Aは最小ヌクレオチド長、Bは加熱処理前の核酸のヌクレオチド長、Kは加熱処理による核酸の断片化速度定数、tは加熱時間を示す)
で表わされることがわかった。
図24に示された近似曲線は、時間tの関数であった。そこで、tの値を式(II)に代入することにより、式(II)におけるA、BおよびKを求めた。その結果、以下の通りであった。A=50、B=4.85×10
4およびK=2.5。得られたA、BおよびKは、48500bpのDNAを140℃で加熱する加熱処理が反映された値であった。したがって、式(II)への所望のヌクレオチド長の代入により、140℃での加熱処理における加熱時間が求められることがわかった。よって、式(II)によれば、一定加熱温度での加熱処理において、所望のヌクレオチド長が得られる加熱時間が求められることがわかった。
【0082】
(実施例4)
核酸の種類および緩衝液を表2のように変更したことを除き、実施例3と同様の操作を行なった。その後、式(II)を用い、各条件に対する加熱処理による核酸の断片化速度定数Kを算出した。その結果を表2に示す。
【0083】
表2に示された結果から、対象核酸の種類、試料に含まれる緩衝剤の種類および試料の伝導度によって、加熱処理による核酸の断片化速度定数Kの値が異なることがわかった。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例5)
(1)種々の加熱温度での加熱処理によるλDNAの断片化処理
PB1.5mLにλDNA〔タカラバイオ(株)製、0.3μg/μL〕25μLを添加して混合液を得た。得られた混合液をオートクレーブ〔アズワン社製、商品名:サイエンスオートクレーブ NCC−1701〕に供し、95℃、121℃または132℃で20分間の加熱処理を行なった。
【0086】
(2)加熱処理によるλDNAの断片化の評価
実施例5の(1)で得られた試料10μLを用いたことを除き、実施例1の(2)と同様の操作を行ない、泳動ゲルを得た。
【0087】
得られた泳動ゲルを、核酸染色液〔SYBR Green IIを1×TBEで10000倍希釈した希釈液〕に30分間浸漬させて染色した。核酸染色後の泳動ゲルを画像解析システム〔バイオラッド社製、商品名:パーソナル分子画像装置〕に供し、蛍光画像を取得した。その結果を
図25に示す。図中、レーンM1はマーカー〔タカラバイオ(株)製、商品名:λ−Hind III digest〕の電気泳動パターン、レーン1は未処理試料の電気泳動パターン、レーン2は95℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン3は121℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン4は132℃での加熱処理後の試料の電気泳動パターンを示す。また、図中、レーンM1の左側の数値は上から順に、300bp、200bp、100bpおよび50bpを示す。
【0088】
図25に示された結果から、オートクレーブを用いた伝熱法によって加熱処理を行なった場合でも、加熱処理時の加熱温度が高いほど、得られた断片の平均長が低下していることがわかった。
【0089】
図25と、画像処理ソフトウェア〔アメリカ国立衛生研究所提供、商品名:Image J〕とを用い、各レーンのバンドの濃淡の強度とバンドの移動度との関係を示す移動度スペクトルを求めた。つぎに、各加熱温度での移動度スペクトル中のピークのうち、最も高いピークを示すバンドの移動度を算出した。マーカーの移動度スペクトルを参照して核酸断片のバンドの移動度と核酸断片長の関係を調べた。加熱温度および核酸断片長を、加熱温度をx軸および核酸断片長をy軸とする二次元座標上にプロットした。つぎに、プロットされたデータ点群について、データ解析・グラグ作成ソフトウェア〔ヒューリンクス(Hulinks)社製、商品名:KaleidaGraph〕を用い、式(I)に対してフィッティングした。その結果を
図26に示す。
【0090】
図26に示された曲線は、式(I)に示される温度Tの関数であった。そこで、Tの値を式(I)に代入することにより、式(I)におけるA、B、HおよびDを求めた。その結果、以下の通りであった。A=14.677、B=5.41×10
4、H=0.36、D=94.693。得られたA、BおよびDは、48500bpのDNAを20分間加熱する加熱処理が反映された値であった。したがって、式(I)への所望のヌクレオチド長の代入により、20分間の加熱処理における加熱温度が求められることがわかった。よって、式(I)によれば、加熱手段を問わず、一定加熱時間での加熱処理において、所望のヌクレオチド長が得られる加熱温度が求められることがわかった。
【0091】
(実施例6)
(1)種々の加熱時間での加熱処理によるλDNAの断片化処理
リン酸緩衝液1.5mLにλDNA〔タカラバイオ(株)製、0.3μg/μL〕25μLを添加して混合液を得た。得られた混合液をオートクレーブ〔アズワン社製、商品名:サイエンスオートクレーブ NCC−1701〕に供し、132℃で5分間、10分間、15分間または30分間の加熱処理を行なった。
【0092】
(2)加熱処理によるλDNAの断片化の評価
実施例6(1)で得られた試料10μLを用いたことを除き、実施例5の(2)と同様の操作を行ない、泳動ゲルの蛍光画像を取得した。その結果を
図27に示す。図中、レーンM1はマーカー〔タカラバイオ(株)製、商品名:Wide−Range DNA Ladder(50−10000bp)〕の電気泳動パターン、レーンM2はマーカー〔タカラバイオ(株)製、商品名:λ−Hind III digest〕の電気泳動パターン、レーン1は未処理試料の電気泳動パターン、レーン2は5分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン3は10分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン4は15分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターン、レーン5は30分間の加熱処理後の試料の電気泳動パターンを示す。
【0093】
図27に示された結果から、オートクレーブを用いた伝熱法によって加熱処理を行なった場合でも、加熱処理時の加熱時間が高いほど、得られた核酸断片の平均ヌクレオチド長が低下していることがわかった。
【0094】
図27と、画像処理ソフトウェア〔アメリカ国立衛生研究所提供、商品名:Image J〕とを用い、各レーンのバンドの濃淡の強度とバンドの移動度との関係を示す移動度スペクトルを求めた。つぎに、各加熱時間での移動度スペクトル中のピークのうち、最も高いピークを示すバンドの移動度を算出した。マーカーの移動度スペクトルを参照して核酸断片のバンドの移動度と核酸断片長の関係を調べた。加熱時間および核酸断片長を、x軸が加熱時間であり、かつy軸が核酸断片長である二次元座標上にプロットした。つぎに、プロットされたデータ点群について、データ解析・グラグ作成ソフトウェア〔ヒューリンクス(Hulinks)社製、商品名:KaleidaGraph〕を用い、式(II)に対してフィッティングした。その結果を
図28に示す。
【0095】
図28に示された曲線は、式(II)に示される時間tの関数であった。そこで、tの値を式(II)に代入することにより、式(II)におけるA、BおよびKを求めた。その結果、以下の通りであった。A=78.5、B=7.94×10
4、K=2.5。得られたA、BおよびKは、79400bpのDNAを132℃で加熱する加熱処理が反映された値であった。したがって、式(II)への所望のヌクレオチド長の代入により、132℃の加熱処理における加熱時間が求められることがわかった。よって、式(II)によれば、加熱手段を問わず、一定加熱温度での加熱処理において、所望のヌクレオチド長が得られる加熱時間が求められることがわかった。
【0096】
以上の結果から、本実施形態に係る推定方法および推定装置2によれば、加熱処理条件のうちのいずれか1つの条件または複数の条件を一定とした場合、一定とされなかった加熱処理条件を推定できることがわかった。