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特許6599764原子力発電プラント監視システム、プログラム及びその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6599764
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】原子力発電プラント監視システム、プログラム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G21D 3/04 20060101AFI20191021BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20191021BHJP
   G08B 27/00 20060101ALI20191021BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20191021BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G21D3/04 U
   G08B21/10
   G08B27/00 A
   G05B23/02 V
   G21C17/00 100
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-257255(P2015-257255)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120231(P2017-120231A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100202429
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 信人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健介
(72)【発明者】
【氏名】林 洋介
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 正俊
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−170430(JP,A)
【文献】 特開2014−173381(JP,A)
【文献】 特開2012−230524(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0270034(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21D 3/04
G21C 17/00
G05B 23/02
G08B 21/10
G08B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラント内の水密扉の配置情報を含む建築レイアウト情報を格納する、プラントレイアウト記憶部と、
前記原子力発電プラント周辺の海洋に津波が発生したことと、その津波の規模とを検知する、津波検知部と、
前記原子力発電プラント内に設置される複数の水密扉の開閉状態を検知する、水密扉開閉検知部と、
前記津波検知部が津波の発生を検知した場合に、当該津波検知部により検知された津波の規模の情報と、前記水密扉開閉検知部により検知された水密扉の開閉状態の情報と、前記プラントレイアウト記憶部が格納している前記建築レイアウト情報とを照合し、開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定される前記原子力発電プラント内の浸水予測範囲の評価をする、演算処理部と、
を備えることを特徴とする原子力発電プラント監視システム。
【請求項2】
前記原子力発電プラントにおいて事故が発生した場合に使用する複数の事故対応設備の配置情報と、各設備が有する事故対応上の機能情報とを格納する、事故対応設備情報記憶部をさらに備え、
前記演算処理部は、前記原子力発電プラント内の浸水範囲の評価結果と、前記事故対応設備情報記憶部が格納する前記事故対応設備の配置情報とを照合し、前記浸水予測範囲外に位置する前記事故対応設備を抽出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項3】
前記事故対応設備の人員による運転手順を含む事故対応手順の情報を格納する、事故対応手順記憶部をさらに備え、
前記演算処理部は、前記浸水予測範囲外に位置する設備の抽出結果と、前記事故対応手順記憶部が格納する前記事故対応手順の情報とを照合し、前記浸水予測範囲外に位置する前記事故対応設備が正常に機能する場合における事故対応手順を生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項4】
前記演算処理部は、津波が到来し、かつ、前記浸水予測範囲内にある前記事故対応設備の機能が喪失した、と想定した場合における事故対応に関する影響の度合いに応じて各水密扉の閉止の優先度を評価することを特徴とする請求項3に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項5】
前記浸水予測範囲の情報と、前記浸水予測範囲外に位置する前記事故対応設備の情報と、前記事故対応手順の情報と、前記水密扉の閉止の優先度の情報のうち少なくとも1つの情報を出力する、監視操作装置部をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項6】
前記監視操作装置部は、
前記原子力発電プラント内に存在する人員から津波発生のタイミングにおける原子力発電プラント内の人員配置情報の入力を受け付ける、操作装置部、
をさらに備え、
前記演算処理部は、前記水密扉の開閉状態の情報と、前記建築レイアウト情報と、前記人員配置情報とを照合し、人員が存在する場所から開放状態にある水密扉までのアクセス経路及びアクセス時間を算出し、
前記監視操作装置部は、前記原子力発電プラント内の人員に、前記アクセス経路及び前記アクセス時間に関する情報を出力する、
ことを特徴とする請求項5に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項7】
前記浸水予測範囲に基づき、浸水範囲となることが想定される各エリアに対し警報を通知する、エリア警報発生部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項8】
津波が到来した場合に、前記原子力発電プラント内の各エリアの浸水を検知し、前記演算処理部へ出力する、エリア浸水検知部をさらに備え、
前記演算処理部は、前記エリア浸水検知部から入力された各エリアの浸水情報と、前記建築レイアウト情報とを照合し、前記原子力発電プラント内の浸水範囲を特定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項9】
前記原子力発電プラントにおいて事故が発生した場合に使用する複数の事故対応設備の配置情報と、各設備が有する事故対応上の機能情報とを格納する、事故対応設備情報記憶部をさらに備え、
前記演算処理部は、前記原子力発電プラント内の浸水範囲の特定結果と、前記事故対応設備情報記憶部が格納する前記事故対応設備の配置情報とを照合し、前記浸水範囲外に位置する前記事故対応設備を抽出することを特徴とする請求項8に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項10】
前記事故対応設備の人員による運転手順を含む事故対応手順の情報を格納する、事故対応手順記憶部をさらに備え、
前記演算処理部は、前記浸水範囲外に位置する設備の抽出結果と、前記事故対応手順記憶部が格納する前記事故対応手順の情報とを照合し、前記浸水範囲外に位置する前記事故対応設備が正常に機能する場合における事故対応手順を生成する、
ことを特徴とする請求項9に記載の原子力発電プラント監視システム。
【請求項11】
原子力発電プラント周辺の海洋に津波が発生したことを検知し、その津波の規模を検知する、津波検知部と、
前記原子力発電プラント内に設置される複数の水密扉の開閉状態を検知する、水密扉開閉検知部と、
前記原子力発電プラント内の水密扉の配置情報を含む建築レイアウト情報を格納する、プラントレイアウト記憶部と、
を備える原子力発電プラント監視システムに、
前記津波検知部が津波の発生を検知した場合、
当該津波検知部により検知された津波の規模と、前記水密扉の開閉状態と、前記建築レイアウト情報とを照合する、照合ステップと、
前記照合ステップの照合結果に基づき開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定される前記原子力発電プラント内の浸水予測範囲の評価をする、評価ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項12】
子力発電プラント周辺の海洋に津波が発生したことを津波検知部により検知し、その津波の規模を検知する、津波検知ステップと、
前記原子力発電プラント内に設置される複数の水密扉の開閉状態を水密扉開閉検知部により検知する、水密扉開閉検知ステップと、
前記津波検知ステップにおいて津波の発生を検知した場合に、
検知された津波の規模と、前記水密扉の開閉状態と、プラントレイアウト記憶部に格納されている建築レイアウト情報とを照合する、照合ステップと、
前記照合ステップの照合結果に基づき開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定される前記原子力発電プラント内の浸水予測範囲を演算処理部により評価する、浸水予測範囲評価ステップと、
を備える原子力発電プラント監視システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子力発電プラント監視システム、プログラム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(以下、「新規制基準」と呼ぶ)の施行を受け、原子力発電所においては、自然災害等に起因するプラント設備の共通要因故障を防止するための設備を設置することが要求されている。新規制基準第5条(津波による損傷の防止)によれば、津波による設計基準対象設備の影響防止が要求されており、その対策の一つとして、各原子力発電プラントには、建屋内等の浸水経路となり得る箇所に水密扉が設置されている。
【0003】
津波による設計基準対象設備の影響を防止するため、水密扉は常に確実な閉止運用を行う必要がある。しかしながら、例えば、プラントの定期検査時等、人員の出入りがある際には、全ての水密扉の閉止状態を維持することが難しい場合がある。水密扉が閉止状態にない場合に津波が発生すると、プラント内への浸水によりプラントの設備の健全性が損なわれ、その後の事故対応を困難とする可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「実用発電原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」、原子力規制委員会、2014年7月8日施行
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−230524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の実施形態の解決しようとする課題は、水密扉の開閉状態を監視するとともに、プラント近傍の海洋において津波が発生した場合における、適切かつ迅速な情報の提供をすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る原子力発電プラント監視システムは、
原子力発電プラント内の水密扉の配置情報を含む建築レイアウト情報を格納する、プラントレイアウト記憶部と、
前記原子力発電プラント周辺の海洋に津波が発生したことと、その津波の規模とを検知する、津波検知部と、
前記原子力発電プラント内に設置される複数の水密扉の開閉状態を検知する、水密扉開閉検知部と、
前記津波検知部が津波の発生を検知した場合に、当該津波検知部により検知された津波の規模の情報と、前記水密扉開閉検知部により検知された水密扉の開閉状態の情報と、前記プラントレイアウト記憶部が格納している前記建築レイアウト情報とを照合し、開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定される前記原子力発電プラント内の浸水予測範囲の評価をする、演算処理部と、
を備える。
【0008】
また、本発明の実施形態に係るプログラムは、
原子力発電プラント周辺の海洋に津波が発生したことを検知し、その津波の規模を検知する、津波検知部と、
前記原子力発電プラント内に設置される複数の水密扉の開閉状態を検知する、水密扉開閉検知部と、
前記原子力発電プラント内の水密扉の配置情報を含む建築レイアウト情報を格納する、プラントレイアウト記憶部と、
を備える原子力発電プラント監視システムに、
前記津波検知部が津波の発生を検知した場合、
当該津波検知部により検知された津波の規模と、前記水密扉の開閉状態と、前記建築レイアウト情報とを照合する、照合ステップと、
前記照合ステップの照合結果に基づき開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定される前記原子力発電プラント内の浸水予測範囲の評価をする、評価ステップと、
を実行させる。
【0009】
さらに、本発明の実施形態に係る原子力発電プラントの制御方法は、
前記原子力発電プラント周辺の海洋に津波が発生したことを津波検知部により検知し、その津波の規模を検知する、津波検知ステップと、
前記原子力発電プラント内に設置される複数の水密扉の開閉状態を水密扉開閉検知部により検知する、水密扉開閉検知ステップと、
前記津波検知ステップにおいて津波の発生を検知した場合に、
検知された津波の規模と、前記水密扉の開閉状態と、プラントレイアウト記憶部に格納されている建築レイアウト情報とを照合する、照合ステップと、
前記照合ステップの照合結果に基づき開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定される前記原子力発電プラント内の浸水予測範囲を演算処理部により評価する、浸水予測範囲評価ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、水密扉の開閉状態を監視し、プラント近傍の海洋において津波が発生した場合に、適切かつ迅速な情報の提供をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る原子力発電プラント監視システムの概略を示す構成図。
図2】本実施形態に係る待機監視プロセスのフローを示すフローチャート。
図3】本実施形態に係る浸水未検知時プロセスのフローを示すフローチャート。
図4】本実施形態に係る扉閉止支援サブプロセスのフローを示すフローチャート。
図5】本実施形態に係る扉閉止優先度評価のフローを示すフローチャート。
図6】本実施形態に係る扉閉止優先度評価の別の例を示す図。
図7】本実施形態に係る浸水検知時プロセスのフローを示すフローチャート。
図8】本実施形態の別の例に係る待機監視プロセスのフローを示すフローチャート。
図9】本実施形態の別の例に係る待機監視プロセスのフローを示すフローチャート。
図10】本実施形態の別の例に係る浸水未検知時プロセスのフローを示すフローチャート。
図11】本実施形態の別の例に係る浸水検知時プロセスのフローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0013】
本実施形態に係る原子力発電プラント監視システムは、津波が発生した後に、プラントに津波が到達する前後において、水密扉の開閉状態や、浸水予測、又は実際に浸水したエリアの情報に基づいて、所定の演算処理を行うことにより、閉止を優先すべき水密扉の情報や、退避経路の情報、浸水による事故対処設備の損傷を考慮した事故対応手順の情報等を、適切かつ迅速にプラント内の人員へ伝えることを図るものである。より詳しくを以下に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る原子力発電プラント監視システムの概略を示す構成図である。この図1に示すように、原子力発電プラント監視システム1は、津波検知部2と、水密扉開閉検知部3と、エリア浸水検知部4と、演算処理部5と、プラントデータベース6と、監視操作装置部7と、エリア警報発生部8と、信号伝送路9と、を備えて構成される。この原子力発電プラント監視システム1は、例えば、沿岸部に設置される原子力発電プラントに用いられる。
【0015】
津波検知部2は、プラント近郊の海洋における津波の発生を検知し、津波が発生した場合にはその津波の規模を検知し、津波の発生や津波の規模の情報を出力する検知部である。津波を検知する手段は、どのような形態をとっていてもよく、例えば、海洋沖合に設置する波高計測ブイや、衛星などによる計測の他、プラント内及び周辺地域に設置する地震動の計測による推定や、公共の気象情報に基づく方法であってもよい。また、これらの組み合わせによる方法も適用することが可能である。上述したように、この津波検知部2が検知のために用いる手段は、プラント内部のものであってもよいし、プラント外部のものであってもよい。
【0016】
水密扉開閉検知部3は、プラント内に設置される各水密扉の開閉状態を検知し、検知した開閉状態の情報を出力する検知部である。開閉状態を検知する手段としては、例えば、水密扉に備えつけられるリミットスイッチなどの検出器類を用いることができる。水密扉開閉検知部3は、原子力発電プラント監視システム1の監視対象となる水密扉ごとに備えられる、第1扉開閉検知部3a、第2扉開閉検知部3b、・・・、第N扉開閉検知部3nの複数個の開閉検知部を備えて構成される。
【0017】
エリア浸水検知部4は、津波到来によりプラント内の各エリアが実際に浸水した場合に、浸水したことを検知し、浸水したエリアの情報を出力する検知部である。浸水を検知する手段としては、例えば、プラント内の各エリアに設置される水位計や、各エリアに設置されるセンサー等の検出器類を用いることができる。エリア浸水検知部4は、監視対象とするプラント内のエリアごとに備えられる、第1エリア浸水検知部4a、第2エリア浸水検知部4b、・・・、第Mエリア浸水検知部4mの複数個の浸水検知部を備えて構成される。
【0018】
演算処理部5は、津波検知部2から出力される津波発生及び津波の規模に関する情報と、水密扉開閉検知部3から出力される水密扉の開閉状態の情報と、エリア浸水検知部4から出力されるプラント内の各エリアの浸水状況の情報と、プラントデータベース6に格納されているプラントの設備情報とに基づいて、プラント内の浸水範囲の予測評価、浸水時の使用可能な事故対応設備の予測抽出、水密扉の閉止に関する支援情報の提供、プラント内の浸水範囲評価に基づく使用可能な事故対応設備による事故対応手順の抽出に関する演算処理を行う。
【0019】
プラントデータベース6は、プラントの設備情報を格納するデータベースである。このプラントデータベース6は、プラントレイアウト記憶部6aと、事故対応設備情報記憶部6bと、事故対応手順記憶部6cと、を備えて構成される。
【0020】
プラントレイアウト記憶部6aは、プラント内の各水密扉の位置情報を含む建築レイアウト情報を格納する。事故対応設備情報記憶部6bは、プラントの安全な運転を阻害する事故が発生した場合において使用が期待される複数の事故対応設備、例えば、非常用原子炉冷却系のポンプや弁類等、の配置情報と、各設備の機能情報とを格納する。事故対応手順記憶部6cは、事故対応設備の運転手順を含むプラント運転員等の人員による事故対応手順の情報を格納する。
【0021】
監視操作装置部7は、プラント運転員等の人員により本システムの監視操作を行う装置部であり、監視操作部7aと、操作装置部7bとを備えて構成される。監視操作部7aは、演算処理部5において演算、評価等された処理の結果に基づいて、プラント運転員等の人員に情報提供をする装置である。操作装置部7bは、プラント運転員等の人員の操作により、演算処理部5における演算、評価等の処理を実施するための条件を入力したり、監視操作部7aの表示情報の選択指示を入力したりする装置である。なお、監視操作装置部7は、中央制御室等、事故対応を含むプラントの運転・監視を行う人員がアクセス可能な場所に設置される他、事業者によるプラントの運用に応じてプラント内外に複数個存在していてもよい。
【0022】
エリア警報発生部8は、演算処理部5におけるプラント内の浸水範囲の予測評価に基づき、浸水範囲となる各エリアの人員に対し、避難等の対処を行うことを警報にて通知する。このエリア警報発生部8は、プラント内のエリアごとに備えられる、第1エリア警報発生部8a、第2エリア警報発生部8b、・・・、第Lエリア警報発生部8lの複数個の警報発生部を備えて構成される。
【0023】
信号伝送路9は、津波検知部2と、水密扉開閉検知部3と、エリア浸水検知部4と、演算処理部5と、プラントデータベース6と、監視操作装置部7と、エリア警報発生部8と、の間に接続され、信号伝送を行う。例えば、Ethernet(登録商標)等のデジタル信号伝送方式であれば、一般的に用いられるメタルケーブルや光ケーブル等を用いることが可能である。
【0024】
本実施形態に係る原子力発電プラント監視システム1を構成するにあたっては、専用の独立したシステムとして構成してもよいし、演算処理部5を実装する演算処理装置や信号伝送路9等の設備を他の原子力発電プラントの監視制御システムや計算機システム等の設備と共用してもよい。
【0025】
以上が本実施形態に係る原子力発電プラント監視システム1の構成についての説明であるが、次に、原子力発電プラント監視システム1の動作について説明する。まず、津波の発生前後における原子力発電プラント監視システム1において実行される待機監視プロセスについて説明する。
【0026】
図2は、待機監視プロセスの処理フローを示すフローチャートである。この待機監視プロセスは、津波が発生する前には津波の発生を検知するために待機し、津波が発生した後には建屋内の浸水を検知するために待機し、建屋内の浸水状況に応じて原子力発電プラント監視システム1が行う処理の内容を切り替えるプロセスである。以下、各プロセスについて詳しく説明する。
【0027】
まず、津波が発生していない状態である場合、津波検知部2は、津波が発生したか否か、又は、津波が発生しているか否かを検知する(ステップS100)。例えば、上述したように海洋沖合に設置されている波高計測ブイの監視を行うことにより、直接的に津波情報を取得することにより検知をしてもよいし、公共の気象情報を監視、又は、公共の気象関連施設からの通知を受けることにより、間接的に津波情報を取得することにより検知をしてもよい。津波検知部2の津波の検出結果の情報が入力された演算処理部5は、原子力発電プラント監視システム1の処理を分岐させる(ステップS102)。津波の発生を検知していない場合、津波検知部2は、津波の発生の検知を反復実行する(ステップS102:No)。
【0028】
一方で、津波検知部2が津波の発生を検知した場合、津波検知部2は、さらに、津波の規模の検知を行う。この津波の発生の検知と津波の規模の検知は、同時に行ってもよいし、津波の発生から少し遅れたタイミングで津波の規模の検知をおこなってもよい。この津波の規模の検知も、上記と同様に、直接的、間接的に検知をすることが可能である。そして、津波検知部2は、これらの検知した津波の発生状況の情報及び津波の規模の情報を演算処理部5へと通知し、原子力発電プラント監視システム1は、建屋内の浸水情報の取得処理を行う(ステップS102:Yes)。
【0029】
次に、建屋内浸水情報検知ステップへと移行する(ステップS104)。建屋内の浸水情報は、エリア浸水検知部4により建屋内の各エリアが浸水しているか否かの検知を行うことにより取得される。なお、エリア浸水検知部4は、津波検知部2が津波到達情報を演算処理部5へ出力した後にエリア浸水の検知を開始してもよいし、津波検知部2の検知結果に拘わらず、常時エリア浸水の検知をするようにしていてもよい。
【0030】
次に、浸水検知部4の検知結果が入力された演算処理部5は、原子力発電プラント監視システム1の処理を分岐させる(ステップS106)。エリア浸水検知部4の検知結果により、全てのエリアにおいて浸水が検知できなかった場合(ステップS106:No)は、まだ津波がプラントまで到達していない、または津波がプラントまで到達したがプラントの水密性が保たれている状況と判断し、原子力発電プラント監視システム1は、浸水未検知時プロセスを実行する(ステップS108)。
【0031】
一方で、いずれかのエリアにおいて浸水が確認された場合(ステップS106:Yes)、原子力発電プラント監視システム1は、津波が到達したと判断し、浸水検知時プロセスを実行する(ステップS110)。なお、以下の記載では、津波が到達していないとは、津波がプラントに到達しているがプラント内部で浸水が検知されていない場合を含むものとする。
【0032】
次に、津波到達前と、津波到達後のプロセスについて各々詳しく説明する。まず、浸水が未検知である場合における、浸水未検知時プロセスについて説明する。
【0033】
図3は、浸水未検知時プロセスの処理フローを示すフローチャートである。この浸水未検知時プロセスは、津波が到達していないと判断される場合に、仮にそのタイミングの水密扉の開閉状態において津波が到達し、浸水が始まったと想定した際に、どのエリアが浸水し、その結果事故対応に問題が起きると考えられるのであれば、その問題を無くす、又は、その問題を最小限に抑えるように、どの水密扉を開閉すればよいかを判断し、かつ浸水を考慮した場合の事故対応手順を判断することを支援するプロセスである。
【0034】
まず、水密扉開閉検知部3は、プラント内の各水密扉の開閉状態を検知し、この検知した情報を演算処理部5へと出力する。演算処理部5は、水密扉開閉検知部3から出力された検知結果に基づき、各水密扉の開閉状態の情報を取得する(ステップS200)。そして、その取得した情報から、演算処理部5は、水密扉の開閉状況により、処理を分岐させる(ステップS202)。津波が到来していない時点において、開放状態の水密扉が存在しない場合には、浸水未検知時プロセスは終了する(ステップS202:No)。
【0035】
一方で、開放状態の水密扉が存在する場合には、原子力発電プラント監視システム1は、建屋内の浸水の予測に基づいた処理へと移行する(ステップS202:Yes)。この処理においては、まず、演算処理部5は、建屋内浸水予測範囲の評価を行う(ステップS204)。この建屋内浸水予測範囲の評価において、演算処理部5は、津波検知部2により検知された津波の規模の情報と、水密扉開閉検知部3により検知された開放状態となっている水密扉の情報と、プラントデータベース6内のプラントレイアウト記憶部6aが格納している建築レイアウト情報とを照合し、開放状態にある水密扉を介して、津波が到来した際に浸水すると想定されるプラント内の範囲を予測し、浸水予測範囲の評価をする。
【0036】
次に、演算処理部5は、使用可能な事故対応設備の予測抽出を行う(ステップS206)。この処理においては、演算処理部5は、ステップS204で評価されたプラント内の浸水予測範囲の評価結果と、プラントデータベース6内の事故対応設備情報記憶部6bに格納されている事故対応設備の位置情報とを照合することにより、プラント内において浸水予測範囲外に位置する事故対応設備を抽出する。本ステップにより事故対応設備が抽出されると、次に、警報を通知する処理と、扉の閉止を支援する処理と、事故対応手順を出力する処理との並列処理へと移行する。
【0037】
警報を通知する処理においては、まず、建屋内浸水マップ出力の処理を行う(ステップS208)。この処理は、ステップS204で評価されたプラント内の浸水予測範囲内の評価結果に基づいて、浸水予測範囲を示すプラント内浸水マップが演算処理部5により生成され、生成された浸水マップを監視装置部7aに出力する処理である。浸水マップとは、中央制御室等にてプラントの監視人員が、プラントの浸水予測範囲を把握するためのマップであり、実際にプラント内の地図の形式として視覚的に表現したマップであってもよいし、異なる表現方法であってもよい。
【0038】
次に、浸水予測範囲の評価結果に基づき、エリア警報発生部8は、浸水予測範囲に含まれる各エリアにおいて、現場人員に退避を促す退避ルート等を示す警報の発報を行う(ステップS210)。
【0039】
扉の閉止を支援する処理は、ステップS204において評価されたプラント内の浸水予測範囲、及び、ステップS206において抽出された、使用可能な事故対応設備の抽出結果に基づいて、プラント運転員または作業員等の人員が、開放状態にある水密扉に赴き、閉止操作を行うための支援に関する、扉閉止支援サブプロセスからなる(ステップS212)。扉閉止支援サブプロセスについては、後述する。
【0040】
事故対応手順を出力する処理は、使用可能な事故対応設備による事故対応手順を出力する処理からなる(ステップS214)。本処理において、演算処理部5は、まず、ステップS204において評価されたプラント内の浸水予測範囲と、ステップS206において抽出された、使用可能な事故対応設備の抽出結果と、プラントデータベース6内の事故対応手順記憶部6cに格納されている事故対応手順情報とを照合する。そして、演算処理部5は、この照合結果に基づいて、浸水予測範囲に含まれない場所に位置する事故対応設備の正常動作を期待し、これらの設備の利用に関する事故対応手順を監視操作部7aに出力する。この出力結果により、プラント内の人員が出力された手順を参照することにより、事故対応の処理を行うことが可能となる。
【0041】
図4は、上述した扉閉止支援サブプロセスの処理フローを示すフローチャートである。この扉閉止支援サブプロセスは、単一又は複数の開放状態にある扉が津波到来までに閉止が可能な場所に位置している場合に、事故対応をする際の障害となる状況をなるべく回避するように、プラント運転員又は作業員等の人員が、開放状態にある水密扉に赴き、閉止操作を行うための支援情報を出力するものである。この扉閉止支援サブプロセスは、閉止すべき水密扉の優先度評価を出力するプロセスと、各水密扉へのアクセス情報を出力するプロセスが並列に実行される。
【0042】
閉止すべき水密扉の優先度評価を出力するプロセスは、扉閉止優先度評価処理と、扉閉止優先度情報出力処理と、から構成される。本プロセスは、まず、扉閉止優先度評価サブプロセスにより処理が行われ、この扉閉止優先度評価サブプロセスにより、閉止すべき水密扉の優先度が評価される(ステップS300)。扉閉止優先度評価サブプロセスについては、後述する。ステップS300において評価された優先度に基づいて、演算処理部5は、扉閉止優先度情報を監視装置部7aへ出力する(ステップS302)。
【0043】
一方の各水密扉へのアクセス情報を出力するプロセスは、プラント内の人員配置情報取得処理と、開放状態の扉へのアクセスルート算出及び時間算出処理と、扉へのアクセス情報を出力する処理とから構成される。まず、プラント内の人員配置情報を取得する(ステップS304)。人員配置情報の取得は、操作装置部7bが、プラント運転員等の人員による人員配置情報の入力を受け付けることにより行われる。ここで人員配置情報とは、プラント内のどの場所に、現場にアクセス可能な人員が配置されているかを表す情報であり、本処理を実行するタイミングでの実際の人員配置情報を入力してもよいし、例えば通常運転時やメンテナンス時等の各状況において標準的に定められる各事業者の運用体制等に基づき設定されるものでもよい。
【0044】
また、津波が発生したタイミングで操作装置部7bから入力されるものであってもよいし、通常運転をしている場合でも何らかの作業を行う際に、操作装置部7bを介して入力されるものであってもよい。事前に人員の入力をしている場合には、このステップS304を省略することもできる。
【0045】
次に、操作装置部7bから取得した中央制御室やその他人員の配置場所の情報に基づき、人員配置場所から開放状態にある水密扉へのアクセスルート(以下、アクセス経路と呼ぶ)及びそのアクセスルートを利用する場合の所要時間(以下、アクセス時間と呼ぶ)が演算処理部5によって算出される(ステップS306)。そして、演算処理部5により算出されたアクセス経路及びアクセス時間、すなわち、水密扉へのアクセス情報を、監視操作部7aへと出力する(ステップS308)。
【0046】
プラント内の人員は、この監視操作部7aに出力されたステップS302の処理による優先度の情報及びステップS308の処理によるアクセス経路とアクセス時間の情報を参照することにより、速やかに優先度の高い水密扉の閉止に向かうための判断を行うことが可能となる。なお、上記では、優先度評価とアクセス情報は、別々に出力されているが、ステップS306において、優先度評価に基づいたアクセス情報を算出することも可能である。この場合、プラント内の人員が非常事態において優先度の判断とアクセス情報との両方の情報を見て判断するのではなく、優先度の高い水密扉から順にアクセスできるような出力をすることも可能であるし、また違う処理としては、優先度とアクセス情報とから最適な水密扉へアクセスできるような出力をすることも可能である。
【0047】
図5は、上述した扉閉止支援サブプロセス内の、扉閉止優先度評価の処理フローの一例を示すフローチャートである。この扉閉止優先度評価は、開放状態にある個別の水密扉に対して実行され、本評価手順を全ての開放状態にある水密扉に対し実行する。
【0048】
まず、評価対象の水密扉が浸水予測範囲内の扉に該当するか否かを判定する(ステップS400)。評価対象の水密扉が浸水予測範囲内の扉に該当する場合(ステップS400:Yes)、対象の水密扉がプラントの安全区分間に設けられた扉に該当するか否かを判定する(ステップS402)。安全区分間に設けられた扉とは、事故対応設備は、事故対応時において単一の設備が機能喪失した場合にも事故対応を行うことができるように、複数の区分に冗長化した設備が設置されているが、この区分間に存在する水密扉のことをいう。安全区分間に設けられた扉が閉止されていれば、浸水時において少なくとも1つの事故対応設備を用いて事故対応を行うことが可能となる。
【0049】
すなわち、この安全区分間の扉が津波到来時において開放状態であると、複数の安全区分の浸水被害により、事故対応設備の共通要因故障となる恐れがあるため、評価対象の水密扉が安全区分間に設けられた扉である場合(ステップS402:Yes)、閉止優先度は、最も高いものと判定し、「閉止優先度1」を割り付けられる(ステップS404)。
【0050】
評価対象の水密扉が安全区分間に設けられた扉では無い場合(ステップS402:No)、次に、評価対象となる扉を閉止した場合の浸水範囲と使用可能設備の評価を行う(ステップS406)。この評価において、演算処理部5は、図3のステップS200において得られた各水密扉の開閉状況の情報と、プラントレイアウト記憶部6aが格納するプラント内のレイアウト情報と、事故対応設備情報記憶部6bが格納する事故対応設備の配置情報とを照合することにより、新たな浸水予測範囲を評価し、その新たな浸水予測範囲に基づく使用可能な事故対応設備を特定する。
【0051】
次に、この特定された事故対応設備の情報に基づいて、事故対応手順上の有効性を判断し、評価対象の水密扉の閉止が事故対応手順上有効であるかどうかを判定する(ステップS408)。評価対象の水密扉の閉止が事故対応手順上有効であると判断された場合(ステップS408:Yes)、演算処理部5は、この評価対象の水密扉の閉止優先度を、「閉止優先度2」と割り付ける(ステップS410)。一方で、評価対象の水密扉の閉止が事故対応手順上有効ではないと判断された場合(ステップS408:No)、演算処理部5は、この評価対象の水密扉の閉止優先度を、「閉止優先度3」と割り付ける(ステップS412)。
【0052】
このステップS408の判断基準となる事故対応手順上の有効性は、様々な基準により決定できる。例えば、評価対象の水密扉の閉止により、使用可能となる設備の数、信頼性、機能上の重要性、又は、適用可能となる事故対応手順の容易さ等を基準として優先度を決定することができる。また、本実施形態においては、事故対応手順上の有効性に基づき、閉止優先度2及び閉止優先度3の2段階の優先度を割り付けているが、これに限られず、3段階以上の優先度を割り付けることも可能である。
【0053】
一方で、ステップS400において、評価対象の水密扉が浸水予測範囲内の扉では無いと判定された場合(ステップS400:No)、この評価対象の水密扉が津波の到来時において開放状態であってもこの水密扉近傍の事故対応設備が浸水によって機能を喪失する可能性は、低い。そのため、演算処理部5は、この評価対象の水密扉の閉止優先度が低いものであると判定し、「閉止優先度4」を割り付けられる(ステップS414)。
【0054】
以上のように、各水密扉の閉止優先度を、この扉閉止優先度評価処理において評価する。上述した例では、安全区分間の扉であること、事故対応上の有効性が高い扉であることを評価基準としたが、これは一例であり、異なる評価基準により扉閉止優先度評価を行うことも可能である。また、閉止優先度の値が低いほど、閉止優先度が高いものであるとしたが、これには限られず、値が高いほど閉止優先度が高いものであると判定してもよいし、アルファベットを用いて優先度を示してもよい。また、図5の用に処理のフローによるものであってもよいし、データベース上にテーブルを設定しておき、そのテーブルによって閉止優先度を決める物としてもよい。
【0055】
図6は、閉止優先度を決定するためのテーブルの一例である。この図6のようなテーブルに従い、各開放状態にある水密扉の閉止優先度を決定してもよい。図6の例においては、閉止優先度は、図5に示す閉止優先度と同じ閉止優先度が各開放状態にある水密扉に割り付けられる。例えば、安全区分間の扉に対しては、「閉止優先度1」が割り付けられるし、浸水予測範囲外の扉には、「閉止優先度4」が割り付けられる。
【0056】
次に、津波到来によりプラントが浸水した後において、原子力発電プラント監視システム1により実行される浸水検知時プロセスについて説明する。これは、図2に示すフローチャートにおける浸水検知ステップにおいて、浸水が検知された場合(ステップS106:Yes)の処理に該当する。
【0057】
図7は、浸水検知時プロセスの処理フローを示すフローチャートである。まず、扉開閉情報取得を行う(ステップS500)。なお、浸水未検知時プロセスから浸水検知時プロセスへと遷移する場合には、この扉開閉情報取得ステップはすでに行われている状態であるため、省略することができる。
【0058】
次に建屋内浸水範囲の評価の処理をする(ステップS502)。プラント内の浸水範囲は、エリア浸水検知部4において取得したプラント内各エリアの浸水状況に関する情報と、プラントレイアウト記憶部6aが格納するプラント内のレイアウト情報とに基づいて特定される。演算処理部5は、各エリアの浸水情報と、建築情報とを照合等することにより、プラント内の浸水範囲を特定する。
【0059】
次に、この特定された浸水範囲に基づいて、使用可能な事故対応設備の抽出を行う(ステップS504)。これは、ステップS502において特定されたプラント内の浸水範囲の情報と、事故対応設備情報記憶部6bが格納する複数の事故対応設備の位置情報と、同じく事故対応設備情報記憶部6bが格納する各設備が有する事故対応上の機能情報と、を演算処理部5が照合することにより、浸水範囲に含まれない範囲に位置する事故対応設備を抽出することにより処理される。
【0060】
次に、上記の2つのステップである、ステップS502とステップS504において得られた処理結果に基づいて、建屋内の浸水マップを更新する(ステップS506)。これと並行して、使用可能な事故対応設備による事故対応手順を更新する(ステップS508)。この事故対応手順においては、ステップS506において抽出された浸水範囲に含まれないエリアに位置する事故対応設備の情報と、事故対応手順記憶部6cが格納する事故対応手順情報とを演算処理部5が照合することにより、浸水範囲に含まれない場所に位置する事故対応設備の事故対応手順が監視操作部7aへ出力される。浸水範囲に含まれない場所に位置する事故対応設備は、正常に機能するとの予測から、プラント内に人員がいる場合に、その人員がこの出力結果を参照することにより当該事故対応設備を用いて事故対応手順に従い事故対応することが可能となる。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、津波発生時において津波が到達するまでの時間において、プラント運転員等の人員に、プラント内に開放状態の水密扉があった場合に、当該水密扉を介して浸水することが予測されるプラント内の範囲、及び、浸水時に使用可能な事故対応設備について、津波の到来前に把握させることが可能となる。この結果、開放状態にある水密扉に赴き閉止をするための情報を出力し、かつ、使用可能な事故対応設備を用いた事故対応手順を出力し、プラント内の人員が迅速かつ適切に事故対応の準備を行うことができるような情報を出力することが可能となる。さらに、浸水が予測される各プラント内のエリアにおいて警報を発報することにより、プラント内の人員の退避等の処理を迅速かつ適切に行うことが可能となる。
【0062】
また、津波到来によりプラント内が浸水した場合において、プラント運転員等の人員に、実計測に基づく浸水範囲を把握させることが可能であり、使用可能な事故対応設備を用いた事故対応手順を参照することにより、迅速かつ適切な事故対応手順を人員に提示することが可能となる。
【0063】
(変形例1)
上述した実施形態においては、浸水検知のステップを経てから浸水未検知時プロセスを実行する処理となっているが、本変形例においては、津波到来時により迅速に対応ができるように、浸水検知と浸水未検知時プロセスを並行に実行させようとするものである。以下、上述した実施形態と異なる部分について詳しく説明する。
【0064】
図8は、本変形例に係る待機監視プロセスの処理フローを示すフローチャートである。ステップS106までは、図2に示す、上述の実施形態と同様である。
【0065】
浸水検知ステップにおいて、浸水が検知されなかった、すなわち、未だ津波が到達していないと判断された場合(ステップS106:No)、本変形例に係る待機監視プロセスは、まず、浸水未検知時プロセスが実行中であるかどうかを判断する(ステップS112)。浸水未検知時プロセスが実行中である場合(ステップS112:Yes)には、再び建屋内浸水情報取得ステップ(ステップS104)へと戻る。
【0066】
一方で、浸水が検知されず、かつ、浸水未検知時プロセスが実行中では無い場合(ステップS112:No)、待機監視プロセスは、浸水未検知時プロセスを子プロセスとして実行する(ステップS114)。このような処理フローとすることにより、浸水未検知時プロセスが実行中である場合においても、津波が到達したかどうかの判断を常時監視することが可能となる。
【0067】
次に、浸水が検知され、津波が到達したと判断された場合(ステップS106:Yes)、子プロセスにおいて浸水未検知時プロセスが実行中であるかどうかを判定する(ステップS116)。もし、浸水未検知時プロセスが実行中であれば(ステップS116:Yes)、待機監視プロセスは、浸水未検知時プロセスを停止させ、子プロセスを終了させる(ステップS118)。浸水未検知時プロセスを停止させた上で、次の浸水検知時プロセス(ステップS120)へと移行する。一方で、浸水未検知時プロセスが実行中でなければ(ステップS116:No)、子プロセスは、動作していない状態であるので、そのまま浸水検知時プロセスへと移行する(ステップS120)。
【0068】
以上のように、本変形例によっても、津波発生時において津波到達までの時間において、プラント運転員等の人員に、迅速かつ適切な事故対応の準備又は退避等の処理を迅速かつ適切に行うことが可能である。また、津波到来によりプラント内が浸水した場合において、プラント運転員等の人員に、迅速かつ適切な事故対応手順を人員に提示することが可能となる。
【0069】
さらに、本変形例によれば、プラント内に浸水しているか否かの検知プロセスが、浸水未検知時プロセス実行中においても常時起動している状態となるため、浸水未検知時プロセス実行中にプラントに津波が到来した場合においても、適切に津波到来後のプロセスへと原子力発電プラント監視システム1を移行することが可能となる。
【0070】
(変形例2)
上述した変形例においては、津波が到達したか否かの判断を浸水未検知時プロセス実行中に監視することを可能としたが、本変形例においては、津波の情報に加え、建屋内浸水情報の検知と、扉開閉状態の検知も、常時監視することにより、より適切な行動を人員へと提示することを可能とするものである。以下、上述した実施形態及び変形例と異なる部分について詳しく説明する。
【0071】
図9は、本変形例に係る待機監視プロセスの処理フローを示すフローチャートである。この図9に示すように、本変形例に係る待機監視プロセスは、津波情報取得処理と、建屋内浸水情報取得処理と、扉開閉状態取得処理とを常時起動しておくことにより、これらの情報に変化があった場合に、これらの情報を更新することを特徴とする。
【0072】
待機監視プロセスが起動されると、まず、3つの反復処理が並列に起動される。1つ目の処理は、津波情報取得である。待機監視プロセスが起動されると、津波情報取得の反復処理に移行する(ステップS122)。このループの内部では、津波検知部2により、図2のステップS100と同様の処理が行われる(ステップS124)。この処理により、津波の発生が検知されたり、津波の規模情報が更新されたりすると、津波検知部2は、その情報を演算処理部5へと出力する。そして、この津波情報取得処理は、待機監視プロセスが終了するタイミングにおいて終了する(ステップS126)。
【0073】
この津波情報取得が常時反復動作していることにより、津波が発生した場合に、待機監視プロセスが起動されると実行される津波発生検知判定において、津波が発生した場合の処理へと移行することが可能となる(ステップS102)。さらに、浸水未検知時プロセス実行中においても、津波の規模が更新されたり、第2波の津波が発生したりした場合に、更新された津波情報に基づいて、プラント内の人員に対して、より正確な情報を示すことが可能となる。
【0074】
2つめの処理は、扉開閉状態取得処理である。前述した津波情報取得処理と同様に、待機監視プロセスが起動されると、扉開閉状態取得の反復処理へと移行する(ステップS128)。このループの内部では、水密扉開閉検知部3により、図3のステップS200と同様の処理が行われる(ステップS130)。この処理により、各水密扉の開閉状態が変化すると、水密扉開閉検知部3は、その情報を演算処理部5へと出力する。そして、この扉開閉状態取得処理は、待機監視プロセスが終了するタイミングにおいて終了する(ステップS132)。
【0075】
この扉開閉状態取得処理が常時反復動作していることにより、各水密扉の開閉状態が変化した場合においても、その開閉状態が更新されることとなる。このため、浸水未検知時プロセスにおいては、更新された水密扉の開閉状態を示すことが可能となり、より迅速な事故対応手順等を示すことが可能となる。さらに、浸水検知時プロセスにおいても同様に、更新された水密扉の開閉状態を参照することにより、より適切な事故対応手順や退避経路を示すことが可能となる。
【0076】
3つ目の処理は、建屋内浸水情報取得処理である。前述した2つの処理と同様に、待機監視プロセスが起動されると、建屋内浸水情報取得の反復処理へと移行する(ステップS134)。このループの内部では、エリア浸水検知部4により、図2のステップS104と同様の処理が行われる(ステップS136)。この処理により、各エリアに浸水が検知されると、エリア浸水検知部4は、その情報を演算処理部5へと出力する。そして、この建屋内浸水情報取得処理は、待機監視プロセスが終了するタイミングにおいて終了する(ステップS138)。
【0077】
この建屋内浸水情報取得処理が常時反復動作していることにより、津波が発生し、浸水検知時プロセス(ステップS110)を実行中において、各エリアの浸水情報が最新の情報へと更新されるため、建屋内の浸水範囲や、その際に使用可能の事故対応設備等の情報がその更新情報に基づいて更新される。このため、プラント内の人員に対して、より正確な事故対応手順や退避経路を示すことが可能となる。
【0078】
図10は、本変形例に係る浸水未検知時プロセスの処理フローを示すフローチャートである。この浸水未検知時プロセスは、図3に示す浸水未検知時プロセスと分岐及びループの方法が異なる。図10に示すように、浸水未検知時プロセスが起動されると、まず、ループ処理に入る(ステップS212)。このループは、開放状態の水密扉が存在するかどうか及び建屋内に浸水しているエリアがあるかどうか、に応じて反復処理を継続するか終了するかが決定される。開放状態の水密扉が存在しない場合、又は、建屋内に浸水が検知された場合には(ステップS214)、反復処理が終了し、津波前到来プロセスは、終了する。
【0079】
開放状態の水密扉が存在し、建屋内に浸水が検知されていない場合には、上述した実施形態と同様の処理を行う。前述した実施形態と異なる点は、扉開閉情報取得処理を、浸水未検知時プロセス内部で行うか否かというところにある。本変形例においては、先に示した図9のように、扉開閉情報取得処理及び建屋内浸水情報取得処理は、待機監視プロセスにおいて反復実行されているので、そこからの更新情報により、浸水未検知時プロセスの反復実行が制御される点にある。
【0080】
なお、建屋内浸水情報取得処理により建屋内に浸水が検知されたことが更新された場合には、割り込み処理として浸水未検知時プロセスを終了するようにしてもよい。このようにすることにより、津波の到来が検知された場合に、原子力発電プラント監視システム1は、より迅速に次のプロセスへと移行することが可能となる。
【0081】
図11は、本変形例に係る浸水検知時プロセスの処理フローを示すフローチャートである。上述した実施形態と異なる点は、待機監視プロセスにおいて建屋内浸水情報取得処理が反復実行されているため、建屋内の浸水範囲に応じて浸水検知時プロセスの各ステップにおいて更新された浸水範囲を用いて処理を行うことが可能である点である。
【0082】
浸水検知時プロセスの一連の処理が終了した後(ステップS500乃至ステップS508)、再度浸水検知時プロセスを実行するか否かが判定される(ステップS510)。この判定条件としては、例えば、全ての事故対応設備により適切に事故対応がされた、としてもよいし、プラント内の人員全員の退避が終了した、などとしてもよい。浸水検知時プロセスを終了する判定がされた場合には(ステップS510:Yes)、浸水検知時プロセスは終了する。
【0083】
一方で、浸水検知時プロセスを終了しない判定がされた場合には(ステップS510:No)、再度ステップS500から浸水検知時プロセスが実行される。なお、この場合、扉開閉状態取得処理(ステップS500)は、並行して実行状態であるため、省略することができる。
【0084】
再度実行される際、待機監視プロセスにおいて反復実行されている建屋内浸水情報取得処理により、建屋内の浸水状況が変化した場合には、浸水範囲の情報が変化した状態に更新される。また、扉開閉状態についても、変化があれば変化された状態に更新されるので、より適切な建屋内浸水マップや、使用可能な事故対応設備等をプラント内の人員に示すことが可能となる。
【0085】
以上のように、本変形例によっても、津波発生時において津波が到達するまでの時間において、プラント運転員等の人員に、迅速かつ適切な事故対応の準備又は退避等の処理を迅速かつ適切に行うことが可能である。また、津波到来によりプラント内が浸水した場合において、プラント運転員等の人員に、迅速かつ適切な事故対応手順を人員に提示することが可能となる。
【0086】
さらに、本変形例によれば、時々刻々と変化するプラント内外の情報をそれらの変化に合わせて更新することが可能となるので、プラント内の人員に対してより適切な情報を示すことが可能となる。このため、津波が発生した場合の事故対応や人員の避難などをより適切かつ迅速に促すことが可能となる。
【0087】
なお、上述した実施形態及び変形例の動作は、演算処理部5を含む電子計算機内及びハードウェアの記録媒体に記録されたプログラムによって行われてもよい。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として呈示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内で、これらの実施の形態を部分的に適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0089】
1:原子力発電プラントの監視システム、2:津波検知部、3:水密扉開閉検知部、4:エリア浸水検知部、5:演算処理部、6:プラントデータベース、7:監視操作装置部、8:エリア警報発生部、9:信号伝送路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11