(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6599765
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
B62D25/20 E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-257398(P2015-257398)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119489(P2017-119489A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【弁理士】
【氏名又は名称】重泉 達志
(74)【代理人】
【識別番号】100147599
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 匡孝
(72)【発明者】
【氏名】蜂須 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 誠二
(72)【発明者】
【氏名】桑原 光政
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−225766(JP,A)
【文献】
特開2008−230460(JP,A)
【文献】
特開2005−206108(JP,A)
【文献】
特開2008−001147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前側にて室内外を仕切るトーボードと、
前記車室の床面をなすフロアパネルと、
前記トーボードに設けられ左右方向へ延び、前記トーボードとともに閉断面を形成するクロスメンバと、を備えた車体構造において、
前端側が前記トーボードにおける前記閉断面をなす部分に接続され、後端側が前記フロアパネルに接続される平面視X状の補剛部材を設け、
前記フロアパネルは、左右中央に、前後へ延び上方へ突出したトンネル部を有し、
前記補剛部材は、前記トンネル部の上側に配置され、
前記トンネル部は、左右一対の側面と、当該各側面の上端を接続する上面と、を有し、
前記補剛部材は、後端側が前記トンネル部の前記側面の下端側に接続される車体構造。
【請求項2】
前記補剛部材は、後端側が前記トンネル部の前記上面と前記側面により形成される角部又はその近傍に接続される請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記トンネル部の前記角部は、前記トーボードと前記トンネル部の接続部分から後方へ向かって連続した角Rで構成される請求項2に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の前側にて室内外を仕切るトーボードと、車室の床面をなすフロアパネルと、トーボードに設けられ左右方向へ延びるクロスメンバと、を備えた車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車体構造として、左右方向外側前方から左右方向内側後方へ傾斜した屈曲部と、屈曲部の後端部からフロアトンネル部に沿って車体後方へ延設された延設部とを有する左右一対のサイドメンバを備え、各サイドメンバにおける屈曲部の後端部を互いに連結する連結部材を平面視X形状としたものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、この構成により、一方のフロントサイドメンバに入力した荷重を他方のフロントサイドメンバへ伝達する際の伝達効率を向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−206108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の車体構造は、車体の前部の左右一方側から後方への負荷が加わるオフセット衝突時及びオブリーク衝突時には有効であると思われる。しかしながら、車体の前部の左右方向にわたって後方へ負荷が加わるフルラップ衝突時には、連結部材によりエネルギー吸収が阻害されるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オフセット衝突時及びオブリーク衝突時の車室の強度を確保しつつ、フルラップ衝突時に的確にエネルギー吸収を図ることのできる車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明によれば、車室の前側にて室内外を仕切るトーボードと、前記車室の床面をなすフロアパネルと、前記トーボードに設けられ左右方向へ延び、前記トーボードとともに閉断面を形成するクロスメンバと、を備えた車体構造において、前端側が前記トーボードにおける前記閉断面をなす部分に接続され、後端側が前記フロアパネルに接続される平面視X状の補剛部材を設けた車体構造が提供される。
【0007】
この車体構造によれば、平面視X状の補剛部材は、後方へ向かって左右一方から他方へ斜めに延びる第1延在部と、左右他方から一方へ斜めに延びる第2延在部とが交叉している。
オフセット衝突時及びオブリーク衝突時には、車体の前部の左右一方側から後方への負荷が加わり、クロスメンバの左右一方側に後方への荷重が加わることになる。このとき、クロスメンバの左右一方側に作用している荷重を、補剛部材における第1延在部を介して、フロアパネルの左右他方側へ伝達することができる。これにより、オフセット衝突時及びオブリーク衝突時における車室の強度を向上させることができる。
一方、フルラップ衝突時には、車体の前部に左右方向にわたって後方への負荷が加わり、クロスメンバの左右方向にわたってクロスメンバに後方への荷重が加わることになる。このとき、補剛部材は、第1延在部及び第2延在部の交叉部を中心として前後方向に圧潰する。これにより、フルラップ衝突時におけるエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0008】
上記車体構造において、前記フロアパネルは、左右中央に、前後へ延び上方へ突出したトンネル部を有し、前記補剛部材は、前記トンネル部の上側に配置されてもよい。
【0009】
この車体構造によれば、クロスメンバから補剛部材を介してフロアパネルへ伝達される荷重を、比較的強度の高いトンネル部へ伝達することができる。
【0010】
上記車体構造において、前記トンネル部は、左右一対の側面と、当該各側面の上端を接続する上面と、を有し、前記補剛部材は、後端側が前記トンネル部の前記側面の下端側に接続されてもよい。
【0011】
この車体構造によれば、クロスメンバから補剛部材を介してフロアパネルへ伝達される荷重を、トンネル部の下端側にまで伝達することができる。
【0012】
上記車体構造において、前記トンネル部は、左右一対の側面と、当該各側面の上端を接続する上面と、を有し、前記補剛部材は、後端側が前記トンネル部の前記上面と前記側面により形成される角部又はその近傍に接続されてもよい。
【0013】
この車体構造によれば、クロスメンバから補剛部材を介してフロアパネルへ伝達される荷重を、トンネル部の角部へ伝達することができる。
【0014】
上記車体構造において、前記トンネル部の前記角部は、前記トーボードと前記トンネル部の接続部分から後方へ向かって連続した角Rで構成されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オフセット衝突時及びオブリーク衝突時の車室の強度を確保しつつ、フルラップ衝突時に的確にエネルギー吸収を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態を示す車体構造の前方から見た概略斜視図である。
【
図3】オフセット衝突時及びオブリーク衝突時の荷重の伝達状態を示す平面説明図である。
【
図4】フルラップ衝突時の荷重の伝達状態を示す平面説明図である。
【
図5】変形例を示す車体構造の前方から見た概略斜視図である。
【
図6】変形例を示す車体構造の後方から見た概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から
図4は本発明の一実施形態を示すものであり、
図1は車体構造の前方から見た概略斜視図、
図2は車体構造の後方から見た概略斜視図、
図3はオフセット衝突時及びオブリーク衝突時の荷重の伝達状態を示す平面説明図、
図4はフルラップ衝突時の荷重の伝達状態を示す平面説明図である。
【0018】
図1に示すように、車体1は、例えば鋼板をプレス成型したパネル状の部材を集成し、スポット溶接等で接合して構成されている。車体1は、車室Rの前側にて室内外を仕切るトーボード10と、車室Rの床面をなすフロアパネル20と、トーボード10に設けられ左右方向へ延びるクロスメンバ30と、を備えている。クロスメンバ30は、トーボード10とともに側面視の断面にて閉断面をなす。さらに、車体1は車両前側にて前後方向へ延びる左右一対のサイドフレーム40を備え、クロスメンバ30は左右両端側にてこのサイドフレーム40に接続されている。各サイドフレーム40は、正面視の断面にて閉断面をなす。また、フロアパネル20は、左右中央に、前後へ延び上方へ突出したトンネル部21を有している。
【0019】
トンネル部21には、車室前方に配置される原動機の駆動力を後輪側へ伝達するための駆動軸が配置される。トンネル部21は、左右一対の側面22と、各側面22の上端を接続する上面23と、各側面22と上面23により形成される左右一対の角部24と、を有する。トンネル部21の角部24は、トーボード10とトンネル部21の接続部分から後方へ向かって連続した角Rで構成される。各側面22は、フロアパネル20の本体部分から上方へ向かって形成され、パネル本体部分とともに角部25を形成する。本実施形態においては、各側面22は、上方へ向かって左右中央側に傾斜している。
【0020】
図2に示すように、車体1は、前端側がトーボード10におけるクロスメンバ30とともに閉断面をなす部分に接続され、後端側がフロアパネル20に接続される平面視X状の補剛部材50を有する。具体的に、補剛部材50は、後方へ向かって左右一方から他方へ斜めに延びる第1延在部51と、左右他方から一方へ斜めに延びる第2延在部52とを有し、各延在部51,52が中央側で交叉して構成される。補剛部材50は、フロアパネル20とともに閉断面をなす。
【0021】
本実施形態においては、補剛部材50は、トンネル部21の上側に配置され、トンネル部21の上面23とともに閉断面をなす。また、補剛部材50の各延在部51,52は、後端側がトンネル部21の側面22の下端側に接続される。
【0022】
以上のように構成された車体構造によれば、補剛部材50により、トーボード10におけるクロスメンバ30と対向する部分と、フロアパネル20のトンネル部21とが接続されるので、車体1における車室前部の剛性が向上する。フロアパネル20においては、トンネル部21における側面22と上面23により形成される角部24付近と、トンネル部21の側面22とパネル本体部分により形成される角部25付近が比較的強度が高い。本実施形態においては、補剛部材50の各延在部51,52が側面22と上面23の角部24を経由して、トンネル部21の側面22とパネル本体部分の角部25まで延びている。すなわち、補剛部材50により、トーボード10のクロスメンバ30が、フロアパネル20における比較的強度の高い部分と接続されるので、車体1の剛性を効果的に向上させることができる。
【0023】
また、
図3に示すように、オフセット衝突時及びオブリーク衝突時には、車体1の前部の左右一方側から後方への負荷が加わり、クロスメンバ30の左右一方側に後方への荷重が加わることになる。このとき、クロスメンバ30の左右一方側に作用している荷重を、補剛部材50における第1延在部51を介して、フロアパネル20の左右他方側へ伝達することができる。これにより、オフセット衝突時及びオブリーク衝突時における車室の強度を向上させることができる。
【0024】
さらに、
図4に示すように、フルラップ衝突時には、車体の前部に全体的に後方への負荷が加わり、クロスメンバ30の左右方向にわたってクロスメンバ30に後方への荷重が加わることになる。このとき、補剛部材50は、第1延在部51及び第2延在部52の交叉部を中心として前後方向に圧潰する。これにより、フルラップ衝突時におけるエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0025】
尚、前記実施形態においては、補剛部材50の後端側を、トンネル部21の下端側まで延長して接続したものを示したが、トンネル部21に接続されていれば下端側まで延長しなくともよい。ただし、トンネル部21に接続するのならば、例えば
図5及び
図6に示すように、後端側が少なくとも、トンネル部21における側面22と上面23の角部24又はその近傍の周辺板部に対する高剛性部に接続されていることが好ましい。
【0026】
また、前記実施形態においては、フロアパネル20にトンネル部21が形成されている車体1に本発明を適用したものを示したが、トンネル部21を有さないフロアパネル20であっても本発明を適用することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0028】
1 車体
10 トーボード
20 フロアパネル
21 トンネル部
22 側面
23 上面
24 角部
25 角部
30 クロスメンバ
40 サイドフレーム
50 補剛部材
51 第1延在部
52 第2延在部