(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バックアップ部材は、基端部を枢支された1対のアームを有し、該1対のアームは、前記ゼンマイばねの内周面を支えて、該ゼンマイばねを拡径する方向に付勢されてなる、
請求項1記載のテンショナ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す油圧式テンショナは、荷重の吸収能力が高く、自動車用エンジンに多く用いられているが、荷重吸収のためにオイルを必要とし、オイルをシリンダ内に吸入する際に負圧を発生することで、プランジャの突出が遅れてチェーン荷重の変動に同期できず、過剰なチェーン振れや荷重増加を発生させる場合がある。さらに、エンジン始動時などの給油圧の小さいときには、油量不足により内圧が確保出来ず、プランジャが過剰に押し込まれることによりチェーンに過剰な緩みが発生し、チェーンバタつきによる打音や歯飛びが発生する問題がある。この問題を防ぐ為に、係止機構を設けた油圧テンショナは、エンジン始動時などの給油圧の小さいときには係止機構によりプランジャの押し込みを抑制するが、係止機構は荷重を瞬時に受ける為、衝撃荷重としてチェーンに高い張力を発生させたり、テンショナが叩かれることで打音を発生させたりする問題がある。
【0007】
メカニカル式テンショナは、オートバイ等の自動二輪車用エンジンに多く使われており、特許文献2に示す歯及び逆転防止ツメ以外にも、回転シャフトと推進シャフト(プランジャ)とをネジ結合して後退を阻止するものもあるが、いずれの場合でも、荷重の吸収性は低い。このため、衝撃荷重としてチェーンに高い張力を発生させたり、テンショナが叩かれることで打音を発生させたりする問題があり、高い荷重を発生するエンジンに使用することは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、ゼンマイばねを巻締める及び巻解く際の板間摩擦力の差を利用することにより、上述した課題を解決したテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、巻掛け伝動体(13)からの荷重を受ける張り部材(16)に対抗するように付勢するゼンマイばね(21)を備え、
前記ゼンマイばね(21)は、前記張り部材(16)から該ゼンマイばねに作用する荷重に対して該ゼンマイばねから前記張り部材に作用する付勢力が大きい場合、該ゼンマイばねの板間摩擦力が小さい状態で巻解かれ、前記張り部材から該ゼンマイばねに作用する荷重に対して該ゼンマイばねから前記張り部材に作用する付勢力が小さい場合、該ゼンマイばねの板間摩擦力が大きい状態で巻締められる、
ことを特徴とするテンショナにある。
【0010】
例えば
図1〜
図3,
図6〜
図13を参照して、前記ゼンマイばね(21)に当接して、該ゼンマイばねが巻締まる方向の該ゼンマイばねの径変化に対向する方向の付勢力を作用して該ゼンマイばねを支えるバックアップ部材(25)(25
2)を備えてなる。
【0011】
例えば
図2〜
図10,
図12,
図13を参照して、前記バックアップ部材(25)は、前記ゼンマイばね(21)の内周面を支えて、該ゼンマイばねを拡径する方向に付勢する板ばねを有する。
【0012】
例えば
図11を参照して、前記バックアップ部材(25
2)は、基端部を枢支(50)された1対のアーム(51,52)を有し、該1対のアームは、前記ゼンマイばね(21)の内周面を支えて、該ゼンマイばねを拡径する方向に付勢されてなる。
【0013】
例えば
図5を参照して、前記ゼンマイばね(21’)の板間に、高い摩擦係数、耐摩耗性
及び発熱抑制
の少なくとも1つの機能を有する材料(21’b)を介在してなる。
【0014】
例えば
図2,
図3を参照して、プランジャ(20)をスライド自在に支持したボディ(19)を備え、
前記ゼンマイばね(21)は、その一端を前記プランジャ(20)に固定(22)し、他端を前記ボディに固定(23)して、該ボディ(19)に収納され、
前記プランジャの一端(20a)が、前記張り部材(16)と固定部材との間に前記ゼンマイばね(21)の付勢力を作用してなる。
【0015】
例えば
図6A,
図6B,
図7,
図8A,
図8B,
図13を参照して、固定部(19d)と、該固定部に回転自在に支持される可動部(19e)とを有するボディ(19
2,19
3,19
8)を備え、
前記ゼンマイばね(21)は、その一端を前記固定部(19d)に固定(22又は23)し、他端を前記可動部(19e)に固定(23又は22)して前記ボディ(19
2)に配置され、
前記可動部(19e)が、前記張り部材(16)と固定部材との間に前記ゼンマイばね(21)の付勢力を作用してなる。
【0016】
例えば
図9A,
図9Bを参照して、固定部(19g)と、該固定部の一側部に配置された枢支部(37)により回動自在に支持される可動部(19h)とを有するボディ(19
4)を備え、
前記固定部(19g)及び前記可動部(19h)は、互いに対向するように半円弧状の収納面(39)(40)をそれぞれ有し、これら対向する収納面に前記ゼンマイばね(21)を装着し、
前記可動部(19h)が、前記張り部材(16)と固定部材との間に前記ゼンマイばね(21)の付勢力を作用してなる。
【0017】
例えば
図10を参照して、前記ボディ(19
5)に揺動自在に支持されたレバー(46)を備え、
前記ゼンマイばね(21)からの付勢力を第1の突出部(20a)を介して前記レバー(46)に作用し、該レバーに作用する付勢力を、該レバーに設けた第2の突出部(47)を介して前記張り部材(16)に作用してなる。
【0018】
例えば
図1を参照して、クランクスプロケット(11a)とカムスプロケット(12a)との間に巻掛けられたタイミングチェーン(13)の弛み側に、前記張り部材(16)を摺接してなる。
【0019】
なお、上記符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るテンショナは、チェーン、ベルト等の巻掛け伝動体から張り部材に作用する荷重に対抗してゼンマイばねの付勢力を作用し、チェーン等の振動はゼンマイばねの巻解き、巻締めにより緩衝し、かつゼンマイばねの巻解き方向と巻締め方向での板間摩擦力に差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができ、共振域等であっても打音の発生を防止してチェーン等の振動を滑らかに吸収することができる。
【0021】
チェーン等が経年変化により伸びた場合、又はエンジン始動時等でチェーン等が緩んだ際、ゼンマイばねは巻解き方向に変位し、この時板間摩擦力は小さい為素早く張り部材を移動して、チェーン等を適正な張力に調整することができる。チェーン等から張り部材に大きな荷重が作用しても、ゼンマイばねは、巻締め方向となって大きな板間摩擦力が作用し、荷重を吸収する。チェーン等から張り部材に作用する大きな荷重が続く場合、チェーン等の振動に伴ってゼンマイばねも徐々に巻締められチェーン等の過緊張が継続することを防止できる。
【0022】
ゼンマイばねは、巻解き方向及び巻締め方向の本来の変形方向に変位するので、集中荷重を少なくする設計が容易となり、高い耐応力及び耐久性を備え、かつ高荷重への設計も容易となり、広い領域に適用可能である。
【0023】
また、ゼンマイばねを支えるバックアップ部材を備えると、ゼンマイばねは、巻締め方向に際してはその径方向変位がバックアップ部材の支え力により制限され、より大きな板間摩擦力が作用して、張り部材に作用する荷重を吸収することができる。
【0024】
バックアップ部材に板ばねを用いると、構成が簡単となる。また、バックアップ部材を基端部を枢支された1対のアームとすると、堅牢な構造となって、耐久性を向上することが可能となる。
【0025】
また、ゼンマイばねの板間に機能を有する材料を介在すると、より大きな摩擦力、耐摩耗性又は発熱抑制等の各種の機能を付与することができる。
【0026】
また、ゼンマイばねの付勢力をレバーを介して巻掛け伝動体に作用すると、レバーのレバー比により荷重を変更することができ、ゼンマイばねによる付勢力と巻掛け伝動体の張力との関係を容易に調節することができる。例えば、巻掛け伝動体に対するゼンマイばねの付勢力が小さくなるように設定して、ゼンマイばねの板間摩擦力を小さくしてテンショナの耐久性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態について説明する。エンジン内に配置されるタイミングチェーン伝動装置10は、
図1に示すように、クランクシャフト11に固定されたスプロケット11aと、2個のカムシャフト12,12に固定されたスプロケット12a,12aと、前記クランクスプロケット11aとカムスプロケット12a,12aとの間に巻掛けられているタイミングチェーン13と、を有する。巻掛け伝動体である上記タイミングチェーン13には、その張り側2箇所にチェーンガイド14,15が摺接されており、その弛み側に張り部材であるテンショナアーム16が摺接されている。チェーンガイド14,15は、エンジンブロックに固定されており、テンショナアーム16は、一端が支軸16bにより揺動自在に支持され、他端側にチェーンテンショナ17のプランジャが当接している。なお、タイミングチェーン13は、サイレントチェーン、ローラチェーン、ブシュチェーンのいずれにも適用可能であり、またテンショナアーム16の支軸16bは、チェーンの走行方向上流側でも下流側でもよい。
【0029】
チェーンテンショナ(以下テンショナと呼ぶ)17は、
図2に示すように、ボディ19を有しており、ボディ19はエンジンブロック等の固定部材に取付け孔19a,19a及びボルトにより固定されている。該ボディ19は、一側に貫通孔19bを有し、他側にケース部19cを有する。貫通孔19bにはプランジャ20がスライド自在に嵌挿しており、ケース部19cにはゼンマイばね21が収納されている。ゼンマイばね21は、その外端がプランジャ20の側面20bに併設された外端アンカー22により固定されており、その内端がボディ19に固設された内端アンカー23に固定されている。
【0030】
ケース部19cには、円弧状の板ばねからなるバックアップスプリング(部材)25がゼンマイばね21の内周面を支えるように配置されており、更に該バックアップスプリング25の一端(基端)側の内周面を支えるようにガイドピース26が固設されている。前記ゼンマイばね21の内端及びバックアップスプリング25の基端は、上記ケース部19cに固定されているガイドピース26に共締されており、ゼンマイばね21及びバックアップスプリング25の基端側内周面は共にガイドピース26に支えられている。従って、上記ガイドピース26の基端部が上記内端アンカー23となる。ゼンマイばね21は、プランジャ20とボディ19との間に所定量の巻数で巻締められて配置されており、プランジャ20の一端は、該ゼンマイばね21の付勢力により上記貫通孔19bから一部突出して、上記テンショナアーム(張り部材)16の当接部16aに当接する突出部(荷重受け部)20aとなる。
【0031】
ついで、上記テンショナ17の作用について説明する。ゼンマイばね21は、その内端が内端アンカー23によりボディ19に固定され、巻解かれて拡がろうとする付勢力がプランジャ20に作用して、テンショナ17は、テンショナアーム16を介してタイミングチェーン13に所定の緊張力を付与する。タイミングチェーン13は、エンジン回転に伴うカムの負荷変動によりその張力が変化し、テンショナアーム16に作用する荷重もエンジン回転数に応じて常に振動するように変化する。該荷重が上記ゼンマイばね21に基づく荷重(付勢力)より小さくなると、即ちプランジャを介し上記ゼンマイばねの拡径を抑える力が小さくなると、
図3Aに示すように、プランジャ20は突出し(矢印a)、従って外端アンカー22が矢印b方向に移動して、ゼンマイばね21は矢印cに示すように径が拡がるように巻解かれる。この際、ゼンマイばね21は、拡径するので、そのばね板間摩擦力は小さく、抵抗荷重の低い状態でプランジャ20を突出する。
【0032】
上記テンショナアーム16からの荷重がゼンマイばね21の付勢力より大きくなると、
図3Bに示すように、プランジャ20は押込まれ(矢印d)、従って外端アンカー22が矢印e方向に移動して、ゼンマイばね21は矢印fに示すように径が小さくなるように巻締められる。この際、ゼンマイばね21は、縮径するのでそのばね板間の摩擦力は大きく、プランジャ20には該摩擦力による大きな抵抗荷重が作用する。
【0033】
図4に示すように、テンショナ17は、プランジャの突出時(矢印a)と押込み時(矢印d)では荷重が相違し、ヒステリシス特性を有する。これにより、エンジン回転に伴うタイミングチェーン13の負荷振動に伴うテンショナアーム16の荷重変動は、テンショナ17のゼンマイばねにより緩衝され、更に上記突出時及び押込み時の摩擦力の相違によるヒステリシス特性により減衰されて、滑らかに吸収される。
【0034】
上記ゼンマイばね21による摩擦力相違では減衰効果が充分でない場合、本実施の形態のようにバックアップスプリング(バックアップ部材)25が配置される。該バックアップスプリング25は、その基端部をガイドピース26で支持されて、1巻きされた、または複数回巻かれた先端側が自由端からなる板ばねからなり、ゼンマイばね21の内周面に接触して該ゼンマイばね21を矢印gに示すように外径方向の付勢力を作用して支えている。これにより、
図3Aに示すように、プランジャ20の突出時には、ゼンマイばね21は、バックアップスプリング25により矢印gに示すように支えられた状態で、同方向である矢印cに示すように拡径するので、その板間摩擦力は小さい。
図3Bに示すように、プランジャ20の押込み時には、ゼンマイばね21は、バックアップスプリング25による矢印g方向の支え力と、縮径する方向fのゼンマイばね21の変形力とに挟まれて大きな板間摩擦力が作用する。これにより、突出時と押込み時での大きな板間摩擦力の差を得て、必要とする減衰効果を得ることができる。
【0035】
タイミングチェーン13が経年変化により伸びた場合及びエンジン始動時等でタイミングチェーン13が弛んでいる場合、テンショナアーム16からの荷重が減少して、ゼンマイばね21の付勢力によりプランジャ20は突出する。この際、上述したように、ゼンマイばね21は、拡径方向(矢印c)の変形により板間摩擦力は小さく、上記タイミングチェーン13の弛みに素早く対応してプランジャ20を突出し、タイミングチェーン13の適正な張力を確保し得る。該プランジャ20が突出した状態で、上述したようにタイミングチェーン13の負荷振動を滑らかに緩衝して減衰する。
【0036】
また、テンショナ17は、プランジャ20の押込み時には大きな板間摩擦抵抗力があるため、タイミングチェーン13の緊張力を保持するが、テンショナアーム16から過大な荷重が連続して作用する場合、上記大きな摩擦抵抗力に抗してプランジャ20は押込まれ、タイミングチェーン13が過緊張状態のまま継続することは防止される。
【0037】
なお、上記実施の形態では、ゼンマイばね21の外端をプランジャ20に固定(22)し、内端をボディ19に固定(23)したが、内端アンカー23をプランジャ20に固定し、外端をボディ19に固定してもよい。
【0038】
上記ゼンマイばね21は、長方形断面の帯状の鋼製板ばねを互いに接するようにうず巻き状に巻いて構成される。
図5は、一部変更したゼンマイばね21’を示す。該ゼンマイばね21’は、ばね帯鋼(板ばね)21’aの間に、高い摩擦係数を有する摩擦材(高μ材)21’bを挟むことにより形成される。該ゼンマイばね21’は、上記摩擦材21’bにより上記板間摩擦力を増加する等摩擦係数μを変更することができる。なお、板ばね21’aの間に介在するものは、摩擦材(高μ材)に限らず、耐摩耗性を向上するもの、発熱を抑制するもの等の他の機能性異素材(材料)でもよい。
【0039】
ついで、本発明の他の実施の形態について説明する。テンショナ17
2は、
図6A,
図6Bに示すように、ボディ19
2を有しており、ボディ19
2は、取付け孔19a,19aによりエンジンブロック等の固定部材に取付けられる固定部19d及び可動部であるケース部19eを有する。固定部19dには回転軸30によりケース部(可動部)19eのボスが回転自在に支持されてボルト31により固定されており、ケース部19eにはゼンマイばね21が収納されていると共に、ガイドピース26が固設されている。ガイドピース26の一端部は、バックアップスプリング(部材)25の基端部及びゼンマイばね21の基端部が固定され、内端アンカー23を構成している。円弧状の板ばねからなるバックアップスプリング25は、ゼンマイばね21の内周面に当接して該ゼンマイばね21を支持しており、ゼンマイばね21の外端は固定部19dに外端アンカー22により固定されている。
【0040】
ケース部19eには外周面から突出して前記プランジャに相当する突出部(荷重受け部)32が一体に形成されており、該突出部32は、前記テンショナアーム(張り部材)16に当接する。ゼンマイばね21は、所定量巻締めて上記内端及び外端アンカー22,23の間に装着され、従って突出部32に当接するテンショナアーム(張り部材)16に対して所定の付勢力を作用する。
【0041】
本回転巻タイプのテンショナ17
2は、固定部19dに外端アンカー22が固定されているゼンマイばね21の巻戻し付勢力がケース部19eを反時計方向に回転するように作用し、突出部32からテンショナアーム16に作用する。該ゼンマイばね21による突出部32に作用する荷重がタイミングチェーンによるテンショナアームからの荷重より大きい場合、ゼンマイばね21は巻解かれるように変形し、この方向の変形(突出時)は、ゼンマイばね21が拡径して板間摩擦力が小さく、小さな抵抗でスムーズに素早く荷重受け部32を突出する。
【0042】
タイミングチェーンによるテンショナアームから突出部(荷重受け部)32に作用する荷重kが、上記ゼンマイばね21による付勢力より大きい場合、
図7に示すように、ケース部19eは、回転巻方向mに回転し、ゼンマイばね21は、巻締まる方向に変位する。ゼンマイばね21は、上記巻締めることによる縮径方向fの力と、バックアップスプリング25により内周面を支える方向gの力により挟まれて板間摩擦力が大きくなり、該摩擦力により大きな抵抗力を受ける。これにより、上述と同様に、タイミングチェーンの負荷変動に伴う振動は、本テンショナ17
2に緩衝され、かつ上記摩擦力の相違に基づく特性により減衰されて滑らかに吸収される。
【0043】
また、経年変化によるタイミングチェーンの伸び又はエンジン始動時等によるタイミングチェーンの弛みは、板間摩擦力の小さい上記突出方向の変位と同様に、テンショナアーム(張り部材)は、素早く変位してタイミングチェーンに適正な張力を付与する。上記反対方向の動き(押込み方向)に対しては、ゼンマイばね21に大きな板間摩擦力が作用するので、大きな抵抗が作用する。
【0044】
ついで、上記回転巻タイプのテンショナ17
2を一部変更した実施の形態について説明する。テンショナ17
3は、
図8A,
図8Bに示すように、ボディ19
3を有しており、ボディ19
3は、円形状の固定部(ボス)19dと可動部19eを有しており、該固定部19dは、その中心部をボルト31によりエンジンブロック等の固定部材34に固定されている。可動部19eは、固定部19dにベアリング35により回動自在に支持されており、該可動部19eにケース部19e’が一体に固定されている。
【0045】
上記固定部19dの表面側にはガイドピースを兼用する内端アンカー23が一体に固定されており、該内端アンカー23に所定巻数のゼンマイばね21の内端及び円弧状の板ばねからなるバックアップスプリング25が固定されている。ゼンマイばね21は、その内周面をバックアップスプリング25で支えられ、上記可動部19eに一体のケース部19e’に収納され、その外端が外端アンカー22により可動部19eに固定される。可動部19eの一側隅部には外方に突出して突出部(荷重受け部)32が一体に形成されており、該突出部32は、前記テンショナアーム(張り部材)16に当接する。
【0046】
即ち、
図6,
図7に示すテンショナ17
2は、固定部19dに固定される一端がゼンマイばね21の外端(22)であり、可動部19eに固定される他端がゼンマイばね21の内端(23)であるのに対し、本テンショナ17
3は、固定部19dに固定される一端がゼンマイばね21の内端(23)であり、可動部19eに固定される他端がゼンマイばね21の外端(22)である点で相違する。従って、本テンショナ17
3は、固定部19dに内端アンカー23により固定されているゼンマイばね21の巻戻し付勢力が可動部19eを反時計方向に回転するように作用し、先の実施の形態と同様に作用する。
【0047】
ついで、
図9A,
図9Bに沿って、本発明による更に異なる実施の形態について説明する。本テンショナ17
4は、円弧状の内周面が対向するように配置されるボディ19
4を有する。該ボディ19
4は、エンジンブロック等の固定部材に固定される取付け孔19a,19aを有する固定部19gと、該固定部19gの一側部にピン(枢支部)37より回動可能に支持される可動部19hとを有する。固定部19g及び可動部19hは、それぞれ対向するように略半円状の収納面39,40を有しており、上記ピン37と反対側の側面は、可動部19hに突部41が、固定部19gに溝部42になっており、これら突部41及び溝部42は互いに係合し得る。なお、突部41及び溝部42の位置は、固定部と可動部とで反対であってもよい。
【0048】
上記対向する両収納面39,40にはゼンマイばね21が装着される。更に、ゼンマイばね21の内周面には円環状の板ばねからなるバックアップスプリング25が装着される。固定部19gの前後方向の両側面には外れ止め板43が取付けられており、上記ゼンマイばね21及びバックアップスプリング25が収納面39,40から抜け落ちることを防止している。また、可動部19hのピン37と反対側面の上部には突出部(荷重受け部)32となるボルトが螺着されている。
【0049】
上記ゼンマイばね21の外端21u,内端21vは、固定されていない自由端状態となっているが、ゼンマイばね21の可動部19hの収納面40に接する外周面接触部Sは、突出部
32にテンショナアーム16からの荷重が作用している状態にあっては摩擦力により固定状態となる。バックアップスプリング25は、ゼンマイばね21の内周面に接触するように外径方向の付勢力が作用し、固定されていない。なお、ゼンマイばね21の外端21uを可動部19hに固定してもよい。
【0050】
本実施の形態は以上のような構成からなるので、突出部32にテンショナアーム16が当接して、該テンショナアーム(張り部材)16からの荷重に相当するように、ゼンマイばね21は両収納面39,40内に縮径して所定量巻締めるように装着されている。
【0051】
タイミングチェーン13に基づくテンショナアーム16からの荷重が、ゼンマイばね21に基づく突出部32に作用する荷重に対して小さい状態では、
図9Aに示すように、ゼンマイばね21は拡径して、可動部19hはピン37を中心に時計方向に回動し、テンショナアーム16に所定張力が作用するように突出部32が突出方向に変位する。
【0052】
テンショナアーム16からの荷重がゼンマイばね21による荷重よりも大きい場合、
図9Bに示すように、可動部19hがピン37を中心に矢印p方向に回動する(押込み時)。可動部19hの収納面40が固定部19gの収納面39に近づき円弧面が小さくなることにより、ゼンマイばね21は、バックアップスプリング25の支え力に抗して縮径して巻締められる。この際、バックアップスプリング25は、その両端が近づくように変形すると共に、ゼンマイばね21の内端21vも巻締め方向に移動する。ゼンマイばね21の外端21u側は、可動部19hの収納面40に摩擦接触しているため、接触部Sが可動部19hの移動に伴って巻き込まれる。
【0053】
従って、
図9Aに示すゼンマイばねの拡径時、
図9Bに示すゼンマイばねの縮径時では、ゼンマイばねの板間摩擦力が相違し、縮径時には大きな摩擦抵抗力が作用する。これにより、上述と同様に、本テンショナ17
4にあっても、タイミングチェーンの負荷変動に伴う振動は、該テンショナ17
3により緩衝され、かつ減衰されて滑らかに吸収される。タイミングチェーン13の経年変化による伸び並びにエンジン始動時のタイミングチェーンの弛みに応じて、摩擦抵抗の小さい状態でゼンマイばね21が解かれることにより素早く緊張力を調整する。また、タイミングチェーンの過緊張が続くことも防止される。
【0054】
ついで、更に変更した本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態にあっては、
図10に示すように、テンショナの基本部分は、
図2,
図3に示したテンショナ17と同様なので、同一符号を付して説明を省略する。本テンショナ17
5のボディ19
5は、プランジャ20の反対側に、該プランジャの突出方向と同方向で外方に延びるアーム19jが一体に形成されている。該アーム19jの先端にはピン(枢支部)45によりレバー46が揺動自在に支持されている。該レバー46は、先端部がプランジャ20の先端突出部(第1の突出部)20aに当接しており、またその中間部に、上方に突出してテンショナアーム(張り部材)16に当接するボルト(第2の突出部)47が螺着されている。従って、ゼンマイばね21の付勢力に基づく突出力は、プランジャ先端の第1の突出部20aからレバー46に作用し、更にレバー46の第2の突出部47からテンショナアーム16に作用する。
【0055】
上記第1の突出部20aに作用する荷重と上記第2の突出部47に作用する荷重は、レバー46のレバー比(b/a)により変更する。本実施の形態の場合、ゼンマイばね21による第1の突出部20aによる荷重は、レバー46により第2の突出部47にa/b(約2倍)に変更されてテンショナアーム16に作用する。従って、チェーンからの張力に基づきテンショナアーム16の荷重に対して、ゼンマイばね21の付勢力はb/a(約1/2)で対抗し、その分板間の摩擦力も小さくなる。これにより、レバーのないものに比して小さな板間摩擦力によりチェーン張力に対抗して、ゼンマイばねの板間摩擦による摩耗の発生を減少してテンショナ17
5の耐久性を向上し得る。
【0056】
該レバーによるレバー比での荷重受け部の荷重変更は、
図10に示す実施の形態(17,17
5)に限らず、他のテンショナ17
2,17
3,17
4等の他のものにも同様に適用可能である。また、
図9A,
図9Bに示すテンショナ17
4にあっては、ピン37の反対側の可動部19hの先端部に突出部32を配置したが、突出部32を可動部19hの中間部等の枢支部37からの距離の異なる任意の位置に配置し、上述したレバー46を用いなくとも、同様に突出部に作用する荷重を変更し得る。なお、他のテンショナ17
2,17
3にも同様に適用可能である。
【0057】
ついで、
図11に沿って本発明による他の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態は、バックアップスプリング(部材)の変更であり、どのテンショナにも適用可能であるが、
図2,
図3に示すテンショナに適用した実施の形態で説明するので、同様な部材は同一符号を付して説明を省略する。先の実施の形態のバックアップスプリング(25)は、ゼンマイばね21の内周面を支えて拡径方向に付勢力を有する板ばねからなり、スプリングの表記でよいが、本実施の形態にあっては、スプリング以外の適用も可能であるので、バックアップ部材25
2と表記する。
【0058】
バックアップ部材25
2は、ボディ19
6の固定部であるケース部19cにピン(枢支部)50で回転自在に支持された2個のアーム51,52と、これらアーム51,52の先端側を互いに離れる方向に付勢するトーションスプリング53とを有する。上記ピン50は、プランジャ20と反対側に配置され、トーションスプリング53は、ケース部19cの中心部であるボス19vの周囲にそのコイル部53aを巻くように配置され、その両先端部53b、53cがそれぞれアーム51、52の先端係合部に係合している。一方のアーム52の先端部は、ゼンマイばね21の内端が固定され、内端アンカー23となっており、該ゼンマイばね21の外端は、プランジャ20に外端アンカー22により固定されている。1対のアーム51、52は、それぞれ半円弧状からなり、その外周面でゼンマイばね21の内周面を支えると共に、トーションスプリング53によりゼンマイばね21を拡径するように付勢している。
【0059】
従って、本バックアップ部材は、先述した板ばねからなるバックアップスプリング(部材)と同様に、ゼンマイばね21の巻締める方向に対向してゼンマイばね21を挟んで板間摩擦力を増大する。なお、1対のアーム51,52を拡径方向に付勢する部材は、上記トーションスプリング53に限らず、両アーム51,52の間に縮設されたコイルスプリング、両アームが離れるように作用する油圧装置等の他のものでもよく、要は、両アームが拡径方向の付勢が作用すればよい。また、両アーム51,52は、非弾性部材からなり、それを付勢部材(53)で付勢しているが、アーム51,52自体が板ばね、トーションスプリング等の弾性部材からなり、アーム自体で付勢力を有するものでもよい。
【0060】
図12に沿って、更に変更した実施の形態について説明する。本実施の形態は、
図10に示したレバー比により荷重を変更するものであるが、本実施の形態は、テンショナアーム(張り部材)自体を上記レバーに変更するものである。前述したどの実施の形態によるテンショナに適用可能であるか、
図2,
図3に示すテンショナに適用した実施の形態に基づき説明するので、同様な部材は同一符号を付して説明を省略する。本テンショナ17
7は、
図12に示すように、固定部材に固定されたボディ19
7を有しており、該ボディ19
7にはプランジャ20と反対側に、該プランジャの突出方向で外方に延びるアーム19kが一体に形成されている。該アーム19kの先端にはピン(枢支部)55により前記テンショナアーム(張り部材)16が揺動自在に支持されている。即ち、該ボディ19
7は、
図10に示したテンショナ17
5のボディ19
5と同じ構成からなり、アーム19k(19j)に揺動自在に支持されるレバー(46)がテンショナアーム16である点が相違する。
【0061】
本実施の形態では、テンショナアーム16は、ボディ19
7のアーム19kの先端にピン55により揺動自在に取付けられる。テンショナ17
7のゼンマイばね21の付勢力は、プランジャ20の先端突出部20aからテンショナアーム16に作用し、テンショナアーム16のチェーンからの荷重に対して、ゼンマイばね21の付勢力が上記プランジャ突出部20aから、上記ピン55と突出部20aの距離cに基づくリンク比によりテンショナアーム16に作用する。これにより、上記距離を任意に設定することにより、チェーンからのテンショナアーム16に作用する荷重に対する抗力としてのゼンマイばね21の付勢力を上記距離cにより変更し得る。
【0062】
図13は、更に変更した実施の形態を示す。本実施の形態は、テンショナ17
8の可動部がテンショナアーム16に配置されている。本テンショナ17
8のボディ19
8は、
図6A,
図6Bと同様に、可動部19eと固定部19dを有しており、固定部19dは、取付け孔19a,19aにより固定部材に取付けられている。可動部19eは、テンショナアーム16に一体に形成されている。即ち、テンショナアーム16は、その一端側に上記可動部19eを構成するケース部60及びボス部61が一体に形成され、ボス部61が上記固定部19dに設けられた軸に遊嵌して回動自在に支持されていると共にボルト31により固定部19dに取付けられている(
図6A,
図6B参照)。上記ケース部60にはゼンマイばね21が収納されており、該ゼンマイばね21の内端がガイドピース26により固定されている。ガイドピース26には上記ゼンマイばね21の内端とバックアップスプリング(部材)25とが共に固定され、内端アンカー23を構成している。ゼンマイばね21の外端は、固定部19dに設けられた外端アンカー22により固定されている。
【0063】
従って、ゼンマイばね21は、可動部19eを構成するテンショナアーム16のケース部60と固定部19dとの間に所定の巻締め力により装着されており、テンショナアーム16に時計方向の回転力を付勢する。タイミングチェーンによりテンショナアーム16に作用する荷重がゼンマイばね21による付勢力より小さい場合、テンショナアーム16は反時計方向に回動して、ゼンマイばね21は巻解かれるように変形する。この方向の変形は、ゼンマイばね21が拡径して板間摩擦力が小さく、小さい抵抗でスムーズに素早く回転する。チェーンによりテンショナアーム16に作用する荷重がゼンマイばね21の付勢力より大きい場合、テンショナアーム16は時計方向に回動し、ゼンマイばねは巻締まる方向に変形する。この方向の変形はゼンマイばね21が縮径してバックアップスプリング25との間に挟まれて板間摩擦力が大きくなり、上記テンショナアーム16の時計方向回転に大きな抵抗を作用する。
【0064】
本実施の形態は、テンショナ17
8の可動部19eがテンショナアーム16に一体に形成されるので、テンショナ17
8をコンパクトにすることができる。また、テンショナ17
8のゼンマイばね21の付勢力が直接テンショナアーム(張り部材)16に作用するので、作用が直接的となって素早い応答が可能となる。
【0065】
なお、テンショナをテンショナアーム側に配置することは、
図6A,
図6B,
図7に基づくテンショナ17
2を
図13に示すように変更したものに限らず、他の実施の形態にも適用可能である。即ち、
図2,
図3A,
図3Bに示すテンショナ17にあって、そのボディ19をテンショナアーム(張り部材)16に配置し、そのプランジャ20の先端突出部20aを固定部材に当接してもよい。また、
図8A,
図8Bに示すテンショナ17
3にあって、ボディ19
3をテンショナアーム(張り部材)16に配置し、その可動部19eの突出部32を固定部材に当接してもよい。同様に、
図9A,
図9Bに示すテンショナ17
4にあって、そのボディ19
4をテンショナアーム(張り部材)16に配置し、可動部19hの突出部32を固定部材に当接してもよい。
【0066】
なお、上述実施の形態は、タイミングチェーンのテンショナに適用したが、これに限らず、バランサ、油圧ポンプ等のエンジンで駆動される他のチェーンに適用してもよく、また補機駆動用のベルト等のベルトにも適用可能である。ベルト張力用としては、本テンショナは張り用プーリに適用可能であり、あらゆる巻掛け伝動体の張力を調整するテンショナに適用可能である。即ち、上記実施の形態では、テンショナアーム16は、上述したチェーン13に摺り面を有する弓形状のものに限らず、テンションプーリを先端に備えたテンショナアームでよく、要は、巻掛け伝動体を張るどのような張り部材でもよい。