特許第6600106号(P6600106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6600106-アルミナ基板およびこれを用いた抵抗器 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600106
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】アルミナ基板およびこれを用いた抵抗器
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/111 20060101AFI20191021BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20191021BHJP
   H01C 17/065 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C04B35/111
   H05K1/03 610D
   H01C17/065
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-566325(P2018-566325)
(86)(22)【出願日】2018年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2018023861
(87)【国際公開番号】WO2019004091
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2017-127607(P2017-127607)
(32)【優先日】2017年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩司
(72)【発明者】
【氏名】冨田 優樹
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−89358(JP,A)
【文献】 特開2000−195703(JP,A)
【文献】 特開2015−125896(JP,A)
【文献】 特開平11−150001(JP,A)
【文献】 特開2000−311805(JP,A)
【文献】 特開平7−192901(JP,A)
【文献】 特開2004−276604(JP,A)
【文献】 特開2017−79328(JP,A)
【文献】 特開2005−239463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/111
H01C 17/065
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に気孔を有し、構成される全成分100質量%のうち、AlをAl23に換算した値で96質量%以上含有するアルミナ質セラミックスからなり、
前記気孔の面積占有率は、1.5%以上6.0%以下であり、前記気孔の円相当径の平均値Dは、0.9μm以上2.0μm以下であり、前記気孔の円相当径の標準偏差Dσは、1.0μm以下であるアルミナ基板。
【請求項2】
前記気孔の円相当径の平均値Dと、前記気孔の円相当径の標準偏差Dσとの比Dσ/Dが0.6未満である請求項1に記載のアルミナ基板。
【請求項3】
前記気孔の重心間距離の平均値Lが、5.5μm以上14μm以下である請求項1または請求項2に記載のアルミナ基板。
【請求項4】
前記気孔の円相当径の分布曲線における歪度が、0より大きい請求項1乃至請求項3に記載のいずれかにアルミナ基板。
【請求項5】
前記気孔の円形度の平均値は、0.5以上である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のアルミナ基板。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のアルミナ基板と、該アルミナ基板上に位置する抵抗体とを備える抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミナ基板およびこれを用いた抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の高精度制御には抵抗器が用いられている。このような抵抗器は、基板と基板上に位置する抵抗体とを備えている。ここで、抵抗器の基板には、優れた絶縁性を有するとともに、安価であるアルミナ基板が広く用いられている。
【0003】
ここで、抵抗器は、量産性の観点から、所望サイズの個片となるように分割溝が形成された一枚のアルミナ基板上にスパッタ等で抵抗体を形成した後に分割することで、多数個取りする製造方法で製造されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−192901号
【発明の概要】
【0005】
本開示のアルミナ基板は、表面に気孔を有し、構成される全成分100質量%のうち、AlをAl23に換算した値で96質量%以上含有するアルミナ質セラミックスからなる。また、前記気孔の面積占有率は、1.5%以上6.0%以下である。また、前記気孔の円相当径の平均値Dは、0.9μm以上2.0μm以下である。そして、前記気孔の円相当径の標準偏差Dσは、1.0μm以下である。
【0006】
また、本開示の抵抗器は、上記構成のアルミナ基板と、該アルミナ基板上に位置する抵抗体とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の抵抗器の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
アルミナ基板の表面に大きな気孔が存在すると、スパッタ等で抵抗体を形成する際に、この気孔の内部が抵抗体で埋まりきらず、大きな気孔が存在する個片と大きな気孔が存在しない個片とにおいて抵抗器となった場合の抵抗率がばらつくおそれがある。
【0009】
一方、アルミナ基板の表面に気孔が存在しなければ、上述した問題は発生しないが、アルミナ基版は分割しにくいものとなる。この場合、アルミナ基板を分割するのに時間が掛かるために生産効率が低下する。
【0010】
そこで、抵抗器の抵抗率のばらつきが小さく、かつ、分割しやすいアルミナ基板が求められている。
【0011】
本開示のアルミナ基板は、抵抗器の抵抗率のばらつきが小さく、かつ、分割しやすい。また、本開示の抵抗器は、上記アルミナ基板を備えるものであることから、高い信頼性を有する。以下に、本開示のアルミナ基板およびこれを用いた抵抗器について説明する。
【0012】
本開示の抵抗器10は、図1に示すように、アルミナ基板1と、アルミナ基板1上に位置する抵抗体2とを備える。
【0013】
ここで、本開示のアルミナ基板1は、表面に気孔を有し、構成される全成分100質量%のうち、AlをAl23に換算した値で96質量%以上含有するアルミナ質セラミックスからなる。このように、本開示のアルミナ基板1は、アルミナ質セラミックスからなることから、優れた絶縁性を有する。
【0014】
ここで、本開示のアルミナ基板1における、AlをAl23に換算した値の含有量は、ICP発光分光分析装置(ICP)または蛍光X線分析装置(XRF)を用いてAlの含有量を測定した後、これをAl23に換算することで算出すればよい。なお、Al以外の含有成分の含有量については、XRFを用いて定性分析を行なった後、検出された元素についてICPまたはXRFでその含有量を求めればよい。
【0015】
そして、本開示のアルミナ基板1において、気孔の面積占有率は1.5%以上6.0%以下であり、気孔の円相当径の平均値Dは0.9μm以上2.0μm以下であり、気孔の円相当径の標準偏差Dσは1.0μm以下である。このような構成を満足していることにより、本開示のアルミナ基板1は、抵抗器10の抵抗率のばらつきが小さく、かつ、分割しやすい。
【0016】
これに対し、気孔の面積占有率が1.5%未満では、気孔が少ないために、分割しにくくなる。また、気孔の面積占有率が6.0%を超えると、気孔が多いために、アルミナ基板10を分割して個片とし、この個片を用いて抵抗器10を製造した際に、個片毎の抵抗器10の抵抗率がばらつきやすくなる。
【0017】
また、気孔の円相当径の平均値Dが0.9μm未満では、気孔が小さいために、分割しにくくなる。また、気孔の円相当径の平均値Dが2.0μmを超えると、気孔が大きいために、アルミナ基板10を分割して個片とし、この個片を用いて抵抗器10を製造した際に、個片毎の抵抗器10の抵抗率がばらつきやすくなる。
【0018】
また、気孔の円相当径の標準偏差Dσが1.0μmを超えると、大きな気孔が存在することで、アルミナ基板10を分割して個片とし、この個片を用いて抵抗器10を製造した際に、個片毎の抵抗器10の抵抗率がばらつきやすくなる。
【0019】
また、本開示のアルミナ基板1において、気孔の円相当径の平均値Dと、気孔の円相当径の標準偏差Dσとの比Dσ/Dが0.6未満であってもよい。このような構成を満足するならば、気孔の大きさのばらつきがより小さいものとなる。そのため、本開示のアルミナ基板1は、抵抗器10の抵抗率のばらつきがさらに小さいものとなる。
【0020】
また、本開示のアルミナ基板1において、気孔の重心間距離の平均値Lが、5.5μm以上14μm以下であってもよい。このような構成を満足しているときには、気孔が適度に分散したものとなる。そのため、本開示のアルミナ基板1は、抵抗器10の抵抗率のばらつきが小さく、かつ、より分割しやすいものとなる。
【0021】
また、本開示のアルミナ基板1において、気孔の重心間距離の標準偏差Lσは、4.0μm以下であってもよい。このような構成を満たしているときには、気孔が密集している箇所が少なくなり、より均一に気孔が存在しているものとなる。そのため、本開示のアルミナ基板1は、抵抗器10の抵抗率のばらつきが小さく、かつ、より分割しやすいものとなる。
【0022】
また、本開示のアルミナ基板1において、気孔の円相当径の分布曲線における歪度が、0より大きくてもよい。ここで、気孔の円相当径の分布曲線とは、2次元のグラフにおける横軸を気孔の円相当径、縦軸を気孔の個数とした、気孔の円相当径の分布を示す曲線をいい、気孔の円相当径の分布範囲を示すものである。
【0023】
また、歪度とは、分布の非対称性を示す指標であり、Excel(登録商標、Microsoft Corporation)に備えられている関数SKEWを用いて求めることができる。
【0024】
なお、歪度が0より大きければ、気孔の円相当径の分布曲線において、気孔の円相当径の平均値Dよりも小さい円相当径を有する気孔の個数が、気孔の円相当径の平均値Dよりも大きい円相当径を有する気孔の個数よりも多いことを意味する。
【0025】
よって、このような構成を満足するならば、個数が少ないものの、気孔の円相当径の平均値Dよりも大きい円相当径を有する気孔があることで、分割できるとともに、気孔の円相当径の平均値Dよりも小さい円相当径を有する気孔が全体の半分以上であることで、抵抗器10の抵抗率のばらつきがさらに小さくなる。
【0026】
また、本開示のアルミナ基板1において、気孔の円形度の平均値は0.5以上であってもよい。ここで、円形度とは、真円であれば1であり、円の形状が崩れる程小さな値を示す。そして、このような構成を満足するならば、アルミナ基板10を分割して個片とする際に、歪な形状の気孔から分割する方向ではない方向に亀裂が発生することが少なく、より分割性しやすいものとなる。
【0027】
ここで、本開示のアルミナ基板1における、気孔の面積占有率、気孔の円相当径の平均値D、気孔の円相当径の標準偏差Dσ、気孔の重心間距離の平均値L、気孔の重心間距離の標準偏差Lσ、気孔の円相当径の分布曲線における歪度および気孔の円形度の平均値は、以下の方法で測定すればよい。
【0028】
まず、本開示のアルミナ基板1の表面を、例えば、10μm程度の深さまで鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍の倍率で撮影する。そして、撮影した写真における、例えば、面積が約10μm2となる範囲に対して、画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、なお、以降に画像解析ソフト「A像くん」と記した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示すものとする。)の粒子解析という手法を適用して画像解析を行なうことにより、気孔の面積占有率、気孔の円相当径の平均値D、気孔の円相当径の標準偏差Dσおよび気孔の円形度の平均値を、分散解析という手法を適用して画像解析を行なうことにより、気孔の重心間距離の平均値Lおよび気孔の重心間距離の標準偏差Lσを求めることができる。また、得られた気孔の円相当径のデータから気孔の円相当径の分布曲線における歪度を算出することができる。ここで、画像解析ソフト「A像くん」の解析条件としては、結晶粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「手動」、小図形除去面積を0.4μm、画像の明暗を示す指標であるしきい値を80以上120以下とすればよい。
【0029】
また、抵抗体2は、目的とする抵抗率となるならば、どのような材料で構成されていてもよい。例えば、抵抗体2は、ニッケル−クロム系合金または酸化ルテニウムからなればよい。
【0030】
また、本開示の抵抗器10は、アルミナ基板1および抵抗体2の他に、図1に示すように、抵抗体2に繋がる内部電極3、内部電極3に繋がる端面電極4を備えていてもよい。ここで、内部電極3および端面電極4は、導電性を有するならば、どのような材料で構成されていてもよい。例えば、内部電極3は、銀−パラジウム系合金、銀−白金系合金、金からなればよい。また、端面電極4は、ニッケル−クロム系合金、ニッケル−銅−錫系合金、銀、クロムからなればよい。
【0031】
次に、本開示のアルミナ基板の製造方法の一例について説明する。
【0032】
まず、主原料となるアルミナ(Al23)粉末と、焼結助剤である炭酸カルシウム(CaCO3)粉末、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)粉末および酸化珪素(SiO2)粉末とを準備する。
【0033】
ここで、アルミナ粉末としては、アルミナ粉末の円相当径の累積分布曲線における、累積50%のときの円相当径が、0.6μmおよび2.1μmである2種類のアルミナ粉末を準備する。そして、この2種類のアルミナ粉末を混合することによって、1次原料粉末を得る。ここで、この2種類の酸化アルミニウム粉末を、それぞれ適宜秤量して混合することによって、気孔の円相当径の平均値Dを任意の値に調整することができる。具体的には、円相当径が2.1μmであるアルミナ粉末の配合比率が大きいと、粗大な気孔が多くなり、気孔の円相当径の平均値Dが大きくなる。また、円相当径が0.6μmであるアルミナ粉末の配合比率が大きいと、微小な気孔が多くなり、気孔の円相当径の平均値Dが小さくなる。
【0034】
次に、アルミナ基板を構成する全成分100質量%のうち、アルミニウムをAl23に換算した値が96質量%以上となるように、1次原料粉末および焼結助剤である各粉末(炭酸カルシウム粉末、水酸化マグネシウム粉末および酸化珪素粉末)を秤量する。ここで、アルミナ基板を構成する全成分100質量%のうち、珪素、カルシウムおよびマグネシウムを、それぞれSiO2、CaOおよびMgOに換算した値の合計が0.5質量%以上4.0質量%以下となるように、1次原料粉末および焼結助剤である各粉末を秤量するのがよい。また、上記SiO2、CaOおよびMgOの比率は、SiO2:CaO:MgO=47:30:23となるのがよい。
【0035】
そして、一次原料粉末と、焼結助剤である各粉末と、一次原料粉末および焼結助剤である各粉末の合計100質量部に対し、3質量部以上10質量部以下の水溶性アクリル樹脂等のバインダと、20質量部以上40質量部以下の溶媒とを攪拌機内に入れて混合・攪拌することで、スラリーを得る。ここで、溶媒の添加量を調整することで、気孔の円相当径の標準偏差Dσを任意の値に調整することができる。具体的には、溶媒の添加量が少なくなる程、溶媒中において一次原料粉末の偏りが生じ、気孔の円相当径の標準偏差Dσが大きくなる。一方、溶媒の添加量が多くなる程、溶媒中において一次原料粉末の偏りが生じにくくなり、気孔の円相当径の標準偏差Dσが小さくなる。
【0036】
なお、混合・撹拌の際に、一次原料粉末および焼結助剤である各粉末の合計100質量部に対し、0.05質量部以上0.50質量部以下のポリカルボン酸アンモニウム塩からなる分散剤を入れることで、気孔の重心間距離の平均値Lを5.5μm以上14μm以下にすることができる。
【0037】
また、混合・撹拌を行なう時間を適宜調整することで、気孔の円相当径の分布曲線における歪度を任意の値にすることができる。具体的には、混合・撹拌を12時間以上行なえば、気孔の円相当径の分布曲線における歪度が0より大きくなる。
【0038】
また、混合・撹拌して得られたスラリーを様々な開口径の異なるメッシュ等に通すことで、スラリー中のアルミナにおいて、アルミナの円相当径の累積分布曲線における、累積10%のときの円相当径の値と、累積90%のときの円相当径の値とを近くなるよう調整すれば、気孔の円形度の平均値を1に近づけることができ、気孔の円形度の平均値を0.5以上とすることができる。
【0039】
次に、このスラリーを用いてドクターブレード法でシートを形成する。なお、シートの厚みは、焼成後の厚みが0.1mm以上1.0mm以下になるように調整してもよい。
【0040】
次に、金型プレスまたはレーザー加工によって、上記シートを加工することにより、所定の製品形状の成形体を得る。
【0041】
そして、大気(酸化)雰囲気の焼成炉(例えば、ローラー式トンネル炉、バッチ式雰囲気炉およびプッシャー式トンネル炉)に得られた成形体を入れて、最高温度1500℃以上1600℃以下の温度で3時間以上10時間以下保持して焼成することで、焼結体を得る。このように、上記最高温度および保持時間で焼成することで、気孔の面積占有率を1.5%以上6.0%以下とすることができる。
【0042】
そして、この焼結体の表面を研磨することで、本開示のアルミナ基板を得る。なお、この研磨により、表面の算術平均粗さRaを0.3μm以下にしてもよい。
【0043】
また、本開示のアルミナ基板に対して、所望サイズの個片となるように分割溝を形成する。次に、銀−パラジウム系合金、銀−白金系合金、金等を主成分とした金属ペーストを印刷および焼成することで内部電極を形成する。次に、ニッケル−クロム系合金や酸化ルテニウム等のスパッタによって抵抗体を形成する。次に、アルミナ基板を分割溝に沿って短冊状に分割し、ニッケル−クロム系合金、ニッケル−銅−錫系合金、銀、クロム等のスパッタによって端面電極を形成する。そして、そして、個片に分割することで、本開示の抵抗器を得る。なお、必要に応じて、抵抗体を樹脂からなる保護層で覆ったり、内部電極および端面電極の露出部にメッキを施しても構わない。
【0044】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
気孔の円相当径の平均値Dおよび気孔の円相当径の標準偏差Dσを異ならせた試料を作製し、抵抗器の抵抗率ばらつきおよび分割性を評価した。
【0046】
まず、主原料となるアルミナ粉末と、焼結助剤である炭酸カルシウム粉末、水酸化マグネシウム粉末および酸化珪素粉末とを準備した。ここで、アルミナ粉末としては、アルミナ粉末の円相当径の累積分布曲線における、累積50%のときの円相当径が、0.6μmおよび2.1μmである2種類のアルミナ粉末を準備した。そして、この2種類のアルミナ粉末を混合することによって、1次原料粉末を得た。次に、アルミナ基板を構成する全成分100質量%のうち、珪素、カルシウムおよびマグネシウムを、それぞれSiO2、CaOおよびMgOに換算した値の合計が1質量%、残部の99質量%がアルミニウムをAl23に換算した値となるように、1次原料粉末および焼結助剤である各粉末(炭酸カルシウム粉末、水酸化マグネシウム粉末および酸化珪素粉末)を秤量した。なお、上記SiO2、CaOおよびMgOの比率は、SiO2:CaO:MgO=47:30:23となるようにした。
【0047】
そして、一次原料粉末と、焼結助剤である各粉末と、一次原料粉末および焼結助剤である各粉末の合計100質量部に対し、7質量部の水溶性アクリル樹脂等のバインダと、水とを攪拌機内に入れて混合・攪拌することで、スラリーを得た。
【0048】
ここで、上述した2種類の酸化アルミニウム粉末の配合比率と水の添加量とを調整することで、表1に示す気孔の円相当径の平均値Dおよび気孔の円相当径の標準偏差Dσとなるようにした。
【0049】
次に、このスラリーを用いてドクターブレード法でシートを形成した。なお、シートの厚みは、焼成後の厚みが0.2mmになるように調整した。
【0050】
次に、金型プレスまたはレーザー加工によって、上記シートを加工することにより、焼成後のサイズ(縦×横)が110mm×110mmとなる成形体を得た。
【0051】
次に、大気雰囲気の焼成炉(ローラー式トンネル炉)に得られた成形体を入れて、最高温度1550℃以下の温度で5時間保持して焼成することで、焼結体を得た。
【0052】
次に、この焼結体の表面を研磨することで、表面の算術平均粗さRaを0.3μmにし、各試料を得た。
【0053】
次に、各試料の表面から10μmの深さまで鏡面研磨し、SEMを用いて1000倍の倍率で撮影した。そして、撮影した写真における、面積が約10μm2となる範囲に対して、画像解析ソフト「A像くん」の粒子解析という手法を適用して画像解析を行なうことにより、各試料における、気孔の面積占有率、気孔の円相当径の平均値Dおよび気孔の円相当径の標準偏差Dσを求めた。なお、各試料の気孔の面積占有率は全て4%であった。
【0054】
ここで、画像解析ソフト「A像くん」の解析条件としては、結晶粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「手動」、小図形除去面積を0.4μm、画像の明暗を示す指標であるしきい値を100とした。
【0055】
次に、各試料において、抵抗器の抵抗率ばらつきを評価した。まず、各試料に、所望サイズの個片となるように分割溝を形成した。次に、各試料上に、銀−パラジウムからなる内部電極を印刷で形成した後、ニッケル−クロム系合金を厚みが100nmとなるようにスパッタした後、フォトリソグラフィおよびエッチングによって抵抗体のパターンを形成した。次に、抵抗体が5個ずつ載るように、分割溝に沿って、4個の短冊状に分割した。その後、ニッケル−銅−錫系合金からなる端面電極をスパッタで形成した。そして、これをさらに5個に分割することで、各試料毎に、縦×横が1.0mm×0.5mmである20個のサンプルを準備した。そして、20個のサンプルうち、抵抗体に2kVの電圧を印加した際に、抵抗体の抵抗率が0.1%以上変動した個数をカウントした。そして、抵抗体の抵抗率が0.1%以上変動した個数が少なかった試料から順に各試料に順位を付けた。ここで、最も上記個数が少なかった試料を1位とし、最も上記個数が多かった試料を最下位とした。ここで、上記個数が少ない程、抵抗器の抵抗率のばらつきが小さいことを示している。
【0056】
また、各試料において、分割性を評価した。まず、表面に粒径1μmのダイヤモンド砥粒を敷設した回転円盤を用いて、回転数2000rpmで各試料の切断を行なった。この時、回転円盤の回転軸の負荷電流を測定した。そして、この負荷電流が小さかった試料から順に各試料に順位を付けた。ここで、最も負荷電流が小さかった試料を1位とし、最も負荷電流が大きかった試料を最下位とした。ここで、負荷電流が小さい程、分割しやすいことを示している。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、試料No.1、2、9、10に比べて、試料No.3〜8は、抵抗率ばらつきの順位が8位以上であるとともに、分割性の順位が8位以上であった。この結果から、気孔の円相当径の平均値Dが、0.9μm以上2.0μm以下であり、気孔の円相当径の標準偏差Dσが、1.0μm以下であるアルミナ基板であれば、抵抗器の抵抗率のばらつきが小さく、かつ、分割しやすいものとなることがわかった。
【0059】
また、試料No.7に比べて、試料No.3〜6、8の抵抗率ばらつきの順位が高いことから、気孔の円相当径の平均値Dと、気孔の円相当径の標準偏差Dσとの比Dσ/Dが0.6未満であるアルミナ基板であれば、抵抗器の抵抗率のばらつきがさらに小さいものとなることがわかった。
【実施例2】
【0060】
次に、気孔の重心間距離の平均値Lを異ならせた試料を作製し、抵抗器の抵抗率ばらつきおよび分割性を評価した。
【0061】
なお、各試料の作製方法としては、気孔の重心間距離の平均値Lが表2の値になるように、混合・撹拌の際に、一次原料粉末および焼結助剤である各粉末の合計100質量部に対し、表2の量のポリカルボン酸アンモニウム塩からなる分散剤を入れたこと以外は実施例1の試料Nо.5の作製方法と同様とした。なお、試料No.11は、実施例1の試料No.5と同じである。
【0062】
次に、各試料の気孔の重心間距離の平均値Lを、実施例1の気孔の面積占有率、気孔の円相当径の平均値Dおよび気孔の円相当径の標準偏差Dσを求めた方法と同じ方法で、分散解析という手法を適用して画像解析を行うことで測定した。
【0063】
次に、各試料の抵抗器の抵抗率ばらつきおよび分割性を、実施例1と同じ方法で評価した。
【0064】
結果を表2に示す。なお、表2における順位付けは、表2に示す試料のみを比較して付けている。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、試料No.11、17に比べて、試料No.12〜16は、抵抗率ばらつきの順位が6位以上であるとともに、分割性の順位が6位以上であった。このことから、気孔の重心間距離の平均値Lが、5.5μm以上14μm以下であるアルミナ基板であれば、抵抗器の抵抗率のばらつきがより小さく、かつ、より分割しやすいものとなることがわかった。
【実施例3】
【0067】
次に、気孔の円相当径の分布曲線における歪度を異ならせた試料を作製し、抵抗器の抵抗率ばらつきを評価した。
【0068】
なお、各試料の作製方法としては、気孔の円相当径の分布曲線における歪度が表3の値になるように、混合・撹拌を行なう時間を適宜調整したこと以外は実施例2の試料Nо.14の作製方法と同様とした。なお、試料No.21は、実施例2の試料No.14と同じである。
【0069】
次に、各試料の気孔の円相当径の分布曲線における歪度を、実施例1の気孔の面積占有率、気孔の円相当径の平均値Dおよび気孔の円相当径の標準偏差Dσを求めた方法と同じ方法で画像解析を行うことで測定し、得られたデータから求めた。
【0070】
次に、各試料の抵抗器の抵抗率ばらつきを、実施例1と同じ方法で評価した。
【0071】
結果を表3に示す。なお、表3における順位付けは、表3に示す試料のみを比較して付けている。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示すように、試料No.21に比べて、試料No.18〜20は、抵抗率ばらつきの順位が高かった。このことから、気孔の円相当径の分布曲線における歪度が、0より大きいアルミナ基板であれば、抵抗器の抵抗率のばらつきがさらに小さくなることがわかった。
【実施例4】
【0074】
次に、気孔の円形度の平均値を異ならせた試料を作製し、分割性を評価した。
【0075】
なお、各試料の作製方法としては、気孔の円形度の平均値が表4の値になるように、混合・撹拌して得られたスラリーを様々な開口径の異なるメッシュ等に通すことで、スラリー中のアルミナにおいて、アルミナの円相当径の累積分布曲線における、累積10%のときの円相当径の値と、累積90%のときの円相当径の値と適宜調整したこと以外は実施例4の試料Nо.18の作製方法と同様とした。なお、試料No.24は、実施例4の試料No.18と同じである。
【0076】
次に、各試料の気孔の円形度の平均値を、実施例1の気孔の面積占有率、気孔の円相当径の平均値Dおよび気孔の円相当径の標準偏差Dσを求めた方法と同じ方法で画像解析を行うことで測定して求めた。
【0077】
次に、各試料の分割性を、実施例1と同じ方法で評価した。
【0078】
結果を表4に示す。なお、表4における順位付けは、表4に示す試料のみを比較して付けている。
【0079】
【表4】
【0080】
表4に示すように、試料No.24に比べて、試料No.22、23は、分割性の順位が高かった。このことから、気孔の円形度の平均値が、0.5以上であるアルミナ基板であれば、より分割しやすいものとなることがわかった。
【符号の説明】
【0081】
1 :アルミナ基板
2 :抵抗体
3 :内部電極
4 :端面電極
10:抵抗器
図1